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第四章 ゼロ・イストワール

もう一度

【Otherworldly Story】
第四章 ゼロ・イストワール
もう一度

出会いから11年

トビー「…ギュスターヴ あの 前に僕に会いに行ってくれた時…会えました?」

集会所で 深刻そうな顔で話しかけてきたので何事かと思ったが 以前は秘密にしておいてほしいと言っていたことを5年経ち 気になってきたのだろうか

しかしあの時の結果は店もなければ会えもしなかった 少し落ち込んで帰ることになり 逆に言わずにすむ状態で助かったぐらいだった

ダステ「…いや 会えなかった 店のあった場所も別の建物を作っている最中だった」
トビー「あぁやっぱり…聞いてよかった」

悲しむというより 安堵している
自分の将来を知ったというのに なぜだろうかと思っていると トビーがギュスターヴに手紙を見せた

トビー「あなたに会ったら この手紙を渡そうと思っているんです…書いてある質問の答えを 将来書いて…知ろうと…でも…書いていて返事があの日に返ってきていないと思って」
ダステ「…今君が会えないことを知ったから 会えなかったかもしれない…な」

難しい時間の話に頭が少し混乱する
今会えなかったことを知るということは 将来 会わないようにするのが正解になる だからあの日会えないのは確定事項だったことになる

トビー「ゼロがあなたに聞くように言ったんです 多分 今聞かないといけなかったんですね」
ダステ「だが店がなかったのは…」
トビー「…どうなんでしょう 会えない未来を作ることもできない状態である可能性は…ありますね」
ダステ「建物自体はあるが 中は見えない状態 あれは何が建てられている最中だったのか…」

トビーは手紙をしまう 少し悩んだ後 ギュスターヴに強い眼差しで頼む

トビー「もう一度行ってくれませんか 1932年…生きていれば絶対に会います お金も時間もかかる話で申し訳ないですけれど 僕は…知りたい…」

話をする2人の隣にゼロが現れる
扉から来たわけではないようで 音もなく 気づいたらそこにいた
いつも突然現れるので 静かに驚くことばかりだが 改善するつもりはないらしい

ゼロ「しばらく長期休暇取ってないし 行ってみなよ 私の予想が合っていれば 多分…会えるよ ほら リゼットと旅行とか どう?」
ダステ「…聞いてみる 君がそういうなら どちらにせよ 行ってみよう」

その日 ギュスターヴはリゼットの仕事終わりに話しかけてみることにした

夜 片付けをする彼女の元に向かう
リゼットは彼が来てくれたことに気づき 先に声をかけた

リゼット「どうしたの?」

恋人とはいっても 長い間話しかけることもできなかったくらい 憧れていた相手なので ギュスターヴはまだ会話するのも緊張していた 必要以上に身振り手振りを増やし 会話していた

ダステ「君が良ければ…一緒にロンドンへ行ってくれないか?近々…時間をとって友人に会いに行くんだが 君と観光も…したいな と」
リゼット「行きたいわ!あなたとどこか旅行にいけたらと思っていたの 誘ってくれて嬉しいわ」

彼女が喜んできてくれるようで安心し 話を進めることにした

例えゼロでも 物語後の世界はわざわざ見なければわからない 彼女は見に行ってはいないようだったが それでも この世界を作った本人が 予想では大丈夫だという
今度こそ 彼に会えるだろうか 彼が その時まで 生きる希望を失わず そして 命を落とすことなく…

リゼット「ロンドンにお友達がいるのね」
ダステ「あぁ…何年か前にも一度会いに行ったんだが…会えなかった もう一度だけ彼に会えるか…試したい」

ギュスターヴは 誰かに壁の向こうの話をしたことはもちろん無かった
海外に住む友人にそう簡単に会えないのは 何も違和感はない 話すぎると 口を滑らしそうなので それ以上は説明しなかった


数日後 休日なのでマキシミリアンと外で散歩しようと考えながら下に降り カフェへ向かうと
花屋で仲の良さそうな年配の夫婦がリゼットの店で花を見ていた
彼女がお客と楽しそうに話をしている様子を眺めていると リゼットがギュスターヴに気づき 手招きをした

接客中なのにいいのだろうかと思いながら マキシミリアンとリゼットの元へ向かうと その夫婦は呼ばれてやってきたギュスターヴの方を見る

何かトラブルか この夫婦の方に困りごとがあって呼ばれたか 待ってみると 夫婦はギュスターヴを見て 顔が明るく 満面の笑みを浮かべながらリゼットにまた話しかけた

「この方?素敵じゃないの」
リゼット「そうでしょう?」

そう言ったあと夫婦はギュスターヴに笑いかける

ダステ「彼らは誰なんだ…?」

よくわからず リゼットの方に近づき 小さな声で聞く

リゼット「私の両親よ」
ダステ「君の?」
リゼット「昨晩急にあなたに会いに来るって…今日朝一の列車で来たみたい」

小声で会話している間 2人の様子を夫婦は黙って見ていた その目線に気づき 顔を近づけて話し合う姿を見られていることがなんだか恥ずかしくなり サッと離れる

ダステ「初めましてラヴァンシーさん ギュスターヴ・ダステです」

姿勢を整え 2人に挨拶をする

ポーラ「初めまして リゼットの母のポーラです」
マラン「父のマランです」
リゼット「今日お店が休みで あなたも休みだって伝えたらすぐ来てしまって…ごめんなさいね」
ダステ「大丈夫だ どこかでお会いしたかったから…」

朝食がまだだった彼らは そのまま隣のエミーユ夫人のカフェで食事を取って話をすることにした
注文が終わると リゼットの母ポーラが少し申し訳さなそうな声で話し始めた

ポーラ「リゼットから あなたがアンドレと同じ隊だったと聞きましたわ…あなたが良ければ あの子の話を 聞かせていただきたいの あなたの時間のある時に リゼットとうちへいらしてください 話せる分だけでも…」

娘の恋人がどんな人物か知りたいのと同時に 戦死した息子の話が聞きたかった それを頼むためというのも 今日来た理由なのだという

マキシミリアンは 側で行儀よく座り 主人との散歩待ちをしている

マラン「最近リゼットはずっとあなたの話ばかりでして 聞くたびに妻は早くあなたに会いたいと言うようになりまして…」
リゼット「お…お父さん…」

そんなに印象良く思われるほど 会いたいと思われるほど リゼットは彼への思いを両親に伝えていたのだと知り ギュスターヴは嬉しくなった
彼女はそれを父親によってバラされてしまい恥ずかしそうにする

ギュスターヴも同じような惚気話のようなものを壁の中の友人たちにしているので 今度トビー会いに行ったら数十年越しの思い出話でそれを言われるかもしれないのか…?と他人事ではなくなり心配になった

朝食も食べ終え しばらく彼女の両親はリゼットやアンドレの思い出話をしていた
微笑ましい話ばかりで 話す両親も楽しそうで 彼女たちはとても愛されて育ったようだ

今こうして アンドレの思い出も笑顔で話せる 彼女の両親も 彼女のように アンドレのために悲しむことはやめているのだろう

愛する人の子供時代の話を聞き 楽しそうなギュスターヴと 何でも全部話してしまう両親を止めようとするリゼット…散歩待ちのマキシミリアン

マキシミリアンが痺れを切らしたのか 小さく吠えてギュスターヴに約束の散歩はまだかと催促する

ダステ「あぁマキシミリアン すまないお前の散歩がまだだったな…」
マラン「おやすまないね ついつい話しすぎてしまった」
リゼット「お父さんたちも ずっと駅にいないでせっかくなら出かけてきたら?」
ポーラ「そうねぇパリまできたんだし」

リゼットの両親はリゼットとギュスターヴ ようやく散歩に行けるマキシミリアンに別れの挨拶をして 町へ出かけて行った

リゼット「…今からどこまで行くの?」
ダステ「特に決めてないが…近くを歩いてくる」
リゼット「私も一緒に行っていい?今日は何も予定がなかったから…」

…そうして自然と 2人と1匹でデートへ出かけることが決定した

駅を出て 特にどこへ行こうとも決めずに歩いて行く

リゼット「そういえば 今度の旅行で会いに行くお友達ってどんな人か聞いてもいい?」
ダステ「あぁ 彼は…」

どこかで話すか 決めずに答えそうになった
そもそも現在彼が生きていれば60歳は超えている それに対して今話せるトビーに関する話は まだ19歳の彼についてのみ

年上に会いに行くのに年下の話をするようだと違和感だ
ロンドンに住んでいるのにかなりの頻度で会っている感じを出すのも まず会えていないということにしているのにおかしい
彼のことは彼が9歳の頃から知っているが それもまた時間の歪みを生む
必要以上の情報を削らないといけない

ダステ「…10年ほど前に知り合って…それ以来手紙でのやり取りをしていたんだ 別の…友人のところにいて…」

とりあえず 極力情報を削ぎ落としたトビーに関する話をした

ロンドンに住む理髪師で10年来の友人 元々別の友人(故人)と知り合いでそこから知り合って…彼は色々と忙しい日々を送っているので 予定を合わせても急にダメになることがある…という情報をリゼットに伝える

リゼット「今回で会えるといいわね」
ダステ「そうだな…」



2月

ダステ「トビー 明日ロンドンに出発するからな」
トビー「明日ですね えぇっと…分かりました覚えておきます」

ギュスターヴ トビー タイム ゼロで夜の集まりをしていたのだが トビーがもう戻るというので それだけ伝えた

トビーが去った後 今度はテナルディエが集会所に来た

ダステ「ティナ 久しぶりだな」
ティナ「あぁなんだ…今日は揃ってんな…」

かなり長い間 こうして話す時間はなかった
今日はすぐ帰るつもりで寄ったわけではないようで ゆっくり座っていた

テンプス「主!報告が…」

慌てて扉からテンプスがやってきたが タイムを見ると 不思議そうな顔をした

テンプス「ん?タイムがここに…?」
タイム「私がなんだ」
テンプス「いや…気のせいだったかもしれない…時間がおかしくなったような気がしたんだが…お前がいるなら違うか…」

今日はやけに扉が開く日だ
また扉が開き トビーが現れる

トビー「みなさん!聞いて欲しい話があるんです!」
ゼロ「……トビー?」
ダステ「どうしたんだ」

こうしていつの間にか全員が集まり 話し合いが始まる
その日は かなり遅い時間まで集まりが続いた



2月18日 ロンドン

リゼットと共にイギリスへやってきたギュスターヴは 地図を頼りにまた店があるはずの場所へ向かっていた

ダステ「…この先を曲がれば 店がある場所なんだが…」

別の建物があれば 彼との再会は絶望的だ
そうなれば もう2度とこの辺りに来ることはないだろう
尻込みする彼だが リゼットもいる 説明は難しい 行くしかない

角を曲がる
数件の建物の並び その中に一件理髪店がある

ダステ「コリンズ理髪店…」

掲げられた看板や形はそのままに 綺麗になっている だが同じ場所に 同じ看板…間違いない この店だ
店に入るのに 恐る恐る扉を引く

中には若い男性が1人 掃除をしているので 客ではないらしい ギュスターヴとリゼットが入ってきたことで すぐに箒をしまう

「どうぞ 今日は…」
ダステ「すまない 人を探しにきたんだ」

英語で尋ねると うまく通じたらしく会話が続いた

「誰をです?」
ダステ「トビアス・ラッグという名前で…ここにいるはずなんだが…」
「トビアス…ラッグ?うーん…」

一回聞いてわからないとなると この店はすでに彼のものではないのかもしれない
青年は少し考えて 裏の方を見る その後今度はまたギュスターヴたちの方を見る

「祖父が奥にいるので 一応聞いてみます…」

青年は待っててください…と後ろの扉を開ける 以前はなかったものだな…と思いながら見ていると 先に扉が開き 青年は驚いていた

「じいちゃん ちょうどよかった 今呼ぼうと…」

奥から 彼の祖父が出てくる
彼はギュスターヴたちを見て パッと顔が明るくなり 駆け寄って抱きしめる

「お久しぶりです…!」
ダステ「トビーなのか?」
「そうです!必ず会うと約束した あのトビーですよ!」

彼はギュスターヴに笑いかける
約束した日から数十年経ちすっかり歳をとって見た目が変わっているが 一目見てギュスターヴとわかるのは 彼である証拠だろう
面影がある 彼の目だ
本当に再会できた 数十年の時を超え 壁を抜けることなく 今の彼と会えた

トビー「リゼットも来てくれたんですね どうぞ奥へ…リド しばらく僕たちだけで話したいから 頼むよ」
リド「いいけど…」

年の差があるうえにここにいるか確認しないとわからなかった彼らと祖父は一体どういう知り合いなのだろうかと 彼の孫は不思議そうにまた箒をとって掃除を続けた

トビー「綺麗になったでしょう?コリンズさんが店を開く前からある建物で色々限界がきて建て直したんです ちょうどその時に 工事していた理由がわかりましたよ」
ダステ「そうか…ところでトビー リゼットもいるからな…」
トビー「あぁそうでした」

彼の友人の方だけ彼に敬語で喋る そういう性格なのか 特別そうする理由があるのかリゼットにはわからなかったが 再会を喜ぶ彼らに それをわざわざ聞く時間を取らせるべきではないと考えた

トビー「ずっと待ち望んでいました ようやく叶いました 本当に嬉しいんです」

トビーはダイニングルームにある席に彼らを案内する

トビー「片付いているのがここくらいで リビングの席の方がいいんですけれど…息子が色々広げていまして…」
ダステ「大丈夫だ」
トビー「……あ」

何かに気づいたトビーはリゼットの方を向き 笑顔で話しかける

トビー「初めまして トビアスです ギュスターヴがあなたと来ると聞いて お会いできるのを楽しみにしていました」

リゼットの名前を呼んだことに気づいたトビーは 理由を言い訳するように話す リゼットはあまり気にしてはいないようだったが…
トビーはコーヒーを淹れ リゼットに出す

トビー「ギュスターヴに渡したいものがあるんです ただ2人の秘密にしないといけないので その間 待っていただいてもいいですか?」
リゼット「もちろん せっかく会えたんですから 2人で」
トビー「ありがとうございます」

一度トビーとギュスターヴはダイニングルームを出て 2階へ向かう
ピレリやトビーの部屋がある階だが 今はどうなっているのだろうか

トビー「今ここに住んでいるのは僕だけで 家族は近所に住んでいるんです ピレリさんの部屋は物置になっちゃってますけど 壁自体は繋がってるんです」

物置だという部屋は明かりをつけると 壁のある場所だけ避けてものが置かれている
他にピレリの使っていた机がそのままの場所に置かれている それ以外は使われていない椅子や机 理髪道具など…

トビー「…話しすぎるのもよくはありませんね 僕の部屋へ 同じ場所です」

隣のトビーの部屋 机の上にあった手紙をギュスターヴに手渡す ここへ来る前 トビーが未来で会えたら渡したいと言っていたあの手紙だろうか

トビー「約束の手紙です」
ダステ「忘れていなかったんだな…」
トビー「もちろん あなたに会ってこれを渡すために 頑張って生きましたよ 長かったなぁ」

トビーは椅子に座る ギュスターヴも部屋にあった椅子に座り 彼の隣に来る
長い年月 この先の集会所 今 彼しか知らない未来の全て…

トビー「どこまで話せるんですかね…えっと僕の名字って変わりました?」
ダステ「…いや ラッグのままだ」
トビー「あぁじゃあその前か…あ そのうち名字変わります 詳しくは過去の僕に聞いてくださいね」

その前に 結婚 子供どころか孫までいたことの方が気になる そっちの方が 盛大なネタバレといった感じだ 帰っても彼に話せはしないほどの…

トビー「まだ…そうか…そうですね あなたの物語が終わった頃ですもんね 懐かしいな…」
ダステ「君の方は…家族…」
トビー「まぁそのあたりは…僕には内緒ですけれど そのうち」
ダステ「それだけの時間が経ったんだな…」
トビー「すっかりお爺さんですよ」

トビーは本棚の中からアルバムを出してくる
そこには今より若いトビーと家族の写真や今のトビーたち家族の写真もあった

トビー「妻は息子たちと暮らしてます 僕だけこの店から離れられなくて…でもあなたと会えましたし…そろそろ壁からも離れようかな…」
ダステ「ゼロたちに まだ会っているのか?」
トビー「…どうでしょう」
ダステ「……いや そうだな 聞くべきではないことは 君も知っているか」

トビーはアルバムをしまう
何を話そうか 少し迷っているようで ギュスターヴの方を向いたまま 長く考える

トビー「過去の事件忘れ去られていますが 僕の中には残り続けている でも幸せな人生です みなさんや家族のおかげで…」
ダステ「それはよかった…」
トビー「…今も昔も あなたとリゼットの幸福を 祈っています 今日は会えてよかった」

トビーはもう一度 ギュスターヴを抱きしめた
なんとなく これが最後のような気がする
ギュスターヴも 同じように抱きしめる

下でリゼットが彼らを待っている 2人だけの再会はこれで終わりにし 彼女の元へ向かう


色々と話しているうちに時間は過ぎ 昼頃 名残惜しいが これ以上一緒にいてはせっかくイギリスまで来た2人に悪いと トビーは2人を店前まで連れていく

トビー「久しぶりにあなたと話せて嬉しかったです」
ダステ「私もだよ それじゃあトビー…これからも元気で 家族と幸せにな」
トビー「あなたもお元気で…さようなら…手紙 お願いします…」

別れを告げ 店を去る2人の姿が角を曲がり見えなくなるまでトビーは手を振っていた
2人を見送り 手を下ろす

トビー「全て上手くいきますように…」

そう願い 店へ戻る



旅行から帰ったギュスターヴは トビーに預かった手紙を渡した

トビー「じゃあ僕に…会えたんですか?」
ダステ「手紙が証拠だ」
トビー「ありがとうございます…」



トビーは手紙を読んだ
そこにはトビーの欲しかった答えがあった




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