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第三章 ギュスターヴ・ダステ

終幕

ギュスターヴの過去を聞いた彼らは まだ集会所にいた

トビー「…僕は少しでも あの人の力になれていたんですね」
ゼロ「うん 良かった…本当に…」

それはゼロの願いだった
この場所が ここで生まれた友情が 少しでも彼らが変わるきっかけになるならと…

ギュスターヴの病は 完治は難しいかもしれない
しかしもう 大丈夫なのだろう 彼は気づいた…周りの人たちに支えられ 生きていることに


数日後

鉄道公安官室

昼間 見回りから帰ると 見覚えのある…というか覚えしかない少年がいた
腕に抱いた 布に包まれたものはなんだろうか…

ダステ「…どうした」
ヒューゴ「これを渡しに…あなたの補装具です」

そういえば 以前彼が直すと言って渡していた
ほぼ直らないだろうと思っていたので すでに忘れかけていた

ダステ「ありがとう 机の上に置いてくれて構わないから もう帰りなさい 誰かと一緒か?」
ヒューゴ「パパ・ジョルジュが…下に あの はめて欲しいんです 具合を見たくて」
ダステ「…別にそこまでしてもらわなくても 大丈夫だぞ」

そう言っても 引き下がらない
ついでに休憩にするか…と椅子に座り 装具を外す その間にヒューゴは装具を包んだ布を取っていた

ダステ「なんだそれは」

ヒューゴが取り出したのは ギュスターヴの使っていた装具ではなかった
輝くパーツ 構造も全く違うものだった

ヒューゴ「前の装具は直せたんです ほんの少し曲がっていただけだったので でも…」

いくつもの歯車がついている 関節部分は歯車が回転することで動く

ヒューゴ「これなら キィキィいわない…から」

渡された装具をつける ピッタリだ
試しに立つ 歩いてみると 問題なく動く上に 以前よりスムーズに感じる
しかも音はかなり軽減され 気にならないほどになっている

ヒューゴ「元の装具を測って 時計の歯車を参考に…パパ・ジョルジュと考えたんです あなたがあの音を気にしていたから…助けてくれたお礼です 何も言わずにスケッチしていて ごめんなさい」

ギュスターヴは驚いていた お礼を言われ 謝罪を受け こんなにも…

ダステ「…ありがとう こんなにも素晴らしい贈り物を…」

あの恐ろしかった公安官から笑顔でお礼を言われたことにヒューゴは驚いていた
けれど 嫌な気持ちにはならなかった

ヒューゴ「列車に轢かれそうになった僕を助けてくれたんです これくらいしか…できないですけど…喜んでくれて嬉しいです」

機械人形を助けるため 列車が向かってきている線路に飛び込んだ彼を ギュスターヴは救った

しかしギュスターヴには 苦い思い出が蘇る

ダステ「…以前 孤児が線路に落ちた時に 私は助けられなかった 君の時は 運が良かっただけだ あんな危険なこと 2度とするんじゃないぞ」
ヒューゴ「…はい もちろん 2度と」
ダステ「よし なら…もう行ってよし 私は仕事中だ」
ヒューゴ「はい!ありがとうございました 本当に!」

ヒューゴは笑顔で公安官室を後にする
元気そうでよかった と安心し 彼のくれた補装具を見る
マキシミリアンは 嬉しそうな主人の側に寄った

ダステ「なぁマキシミリアン…トビーの言う通り もう少し思いやりを持って接することにするか?」

理解したのかしてないのか マキシミリアンは一声鳴き その後歩いて寝床で丸まった 彼も休憩時間らしい


彼らも 失い 傷ついている 誰もが役目を持っているから…生きている…彼らも価値ある存在


昔 目の前で事故が起きた
昨日追いつけなかった孤児が衰弱して線路に落ち 慌てる人々を押し除け助けるために線路に降りようとしたところを周りの人数名が引き留めた
そのわずか数秒後 ブレーキが間に合わなかった列車が止まる頃には 膝をつき 呆然とするしかなかった
引き留められなければ ギュスターヴも巻き込まれていた 誰もが助けようとしていた彼を責めなかった

昨日捕まえられていればと後悔した彼は 側から見て酷いと思われようと 力ずくで 何としてでも捕まえなければと 決意した

その決意は揺らがない 同じことを繰り返さないためにも

ただ 寄り添う心…思いやり…それを持って彼らと接することも 大切なのかもしれないと思い始めた

結局 孤児たちは孤児院にいくしかない
その心を せめてもの間 理解していてあげられたなら

同じ孤児だったのだから…


…美しい花と 彼女の姿
恋人の姿を見つけた彼女は 仕事中の彼に遠慮して 小さく手を振って 微笑んだ

ダステ「…こんなにも幸せになっていいんだろうか」

そう話した時 彼女はギュスターヴに対し怒っていた

リゼット「そんなことを言わないで…大切な人を亡くしても その人より幸せになっていけないはずないわ 兄も 他の誰もが それを望んでいないはずよ」

アンドレが望んでいた 家族の幸せ
ちゃんと守れたんだと 彼に届いているだろうか

リゼット「私の家族にも会ってほしいわ 兄が私たちをどう話していたか 聞かせて」
ダステ「もちろん 君の家族が良ければ…」
リゼット「それに 兄に伝えに行かないと…あなたも 私たち家族も 今 幸せに暮らせていると…きっと喜んでくれるわ」

リゼットは 生きていてもいい 幸せであってもいいと伝えてくれた 何より幸福は 彼女から

彼女たちの言葉を否定するなんて もうできない
暗い顔をして生きることは もうないだろう


小さく手を振る彼女の姿を見て 彼女からの言葉を思い出しながら ギュスターヴも微笑み返す 同じように小さく手を振り またマキシミリアンと歩き出す



数日後


家に帰る前に フュベールの家へ寄ってみる
12年前に退職した彼には 非常に多くを教わった

たくさんの愛とたくさんの大切な言葉をくれた彼には 感謝してもしきれない

扉を開けると 彼は一目見ただけでギュスターヴの変化に気づいた

穏やかになったと思っていたが 今はそれ以上に 以前の彼を感じ フュベールは溢れる喜びを抑えきれないでいた

部屋の中へ招いた

ダステ「思い出しました あなたが私にくれた いろんな言葉を」
フュベール「以前のように 私に笑いかけてくれるんだなギュスターヴ…」

フュベールは彼の足の装具が変わっているのに気づいた

フュベール「その装具は…?新しいものができたのか?」
ダステ「以前助けた少年が お礼にとデザインして作ってくれたものです 私が…あの音を気にしていたことを知って こんなにいいものを」
フュベール「そうか…それはよかったな」

ソファに腰かけ リゼットや友人たちの話をする
ファリエールの思いを知り 過去を思い出したことも

ダステ「この手袋の下を 長い間見れないでいました ただ 久しぶりによく見てみたら…思っていたより小さな傷だったんです 私は誰にも見せられないような酷い傷だと思っていた ずっと そんな幻を…そうでなければいけないと 思い続けてしまっていた」

手袋はファリエールやフュベールたちからの大切な贈り物なので 傷がギュスターヴにとってもう大したことではなくなったとしても 手放すことはない

ただまたひとつ 悩みは無くなった

フュベール「君は素敵な男だ 人を思う心がある それは素晴らしいことだ」

自分の存在に 価値がないと思うことは無い
思い悩むことはなかった 素直に周りの言葉を受け入れているべきだった
信じればよかった それだけで こんなにも…

ダステ「…両親に誇れるような人間に 私はなれたでしょうか」
フュベール「心配しなくとも大丈夫だ だが確かめたければ 何度でも聞いてくれ 私に君を褒めさせておくれ」

フュベールはギュスターヴを抱きしめる いつまでも 彼の中では愛しい我が子のようだった
そしてギュスターヴにとっても 父のようだった

しばらくフュベールと話をしていた時
昨日ヒューゴとメリエスから渡されたものについてを思い出し 彼に話し始めた

ダステ「…ジョルジュ・メリエスという映画監督をご存知ですか?」
フュベール「あぁ 知っているよ 月世界旅行の…」
ダステ「その少年の養親になった人で 駅でおもちゃ屋をやっていたので 知っている方ではあったんですが…」
フュベール「私が辞めたあとできた場所か…」
ダステ「彼の祝賀会に招待されたんです ヒューゴから…招待状を」


マダム・エミーユも リゼットも招待を受けたという ムッシュ・ラビスと ムッシュ・フリックも…

ダステ「思っていたより 奥にしまい込んでましたよ…軍服」

以前までのギュスターヴなら 探すことすらしなかったかもしれない 戦後 2度と袖を通すことはないと 処分しそうになったのを 思いとどまったのは いい判断だった

ダステ「…また この服を着る気になるなんて」
フュベール「しかし君には十分な権利がある そうだろう?」


祝賀会の日

待ち合わせし 一緒に劇場へ向かうことにした2人
軍服を着て外へ出るのは数年ぶりのことで周りが気になるが それではいけないのだと 自分に言い聞かせる

リゼット「ギュスターヴ!」

少し離れたところから リゼットが声をかける
淡いグリーンのドレス姿で ギュスターヴに駆け寄る

ダステ「素敵なドレスだ」
リゼット「あなたこそ 制服姿以外 みたことがなかったから…なんだか緊張するわ」


劇場ではメリエスの代表作である“月世界旅行”の上映が行われた
再び表舞台に立つこととなったメリエスは 幸せそうに そして生き生きとしていた


ギュスターヴは リゼットと共に席についていた
軍服には 大戦に参加した兵士に贈られた勲章をつけていた 大切な…証


その後のパーティーでは メリエスの家に 招待客たちが集まっていた
エミーユとフリックはラビスと並んで座り 愛犬たちや犬について話し メリエスたちは映画の話をしていた


ギュスターヴは椅子に腰かけており 側にはマキシミリアンが大人しく座っていた

ダステ「彼がこの補装具をデザインしたんだ もうあの音は鳴らなくなったよ」

そう言ってギュスターヴは立ち上がり リゼットは彼と腕を組み歩く

リゼット「笑顔を忘れないでね ダーリン」
ダステ「もちろんだ どの笑顔がいい?3つマスターしたんだ」

幸せな恋人たちは 笑顔でキスをした
音楽に合わせ みんな踊っていた




ヒューゴの物語の中で 彼に関わった人々は 幸せを得ていた
大切な贈り物…そして愛を


…昔 ギュスターヴは 多くを失った
両親を 戦友を そして心を

けれど彼の周りには 大切な友人たちと 愛する恋人がいた
失ったものも多いけれど 同時に多くを得ていた
それに気づき 受け入れた




ヒューゴの物語はここで終幕となる


けれどこの先もまだ 彼らの人生は続く



この物語は 続く


それが どんな運命なのか まだ 彼らは知らない


END
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