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第三章 ギュスターヴ・ダステ

再会

「なんとか息があります」
フュベール「また浮浪児か…いかんな どうも件数が増えている」
「戦争で親を失った子供も多い 追いきれないにせよ 今週で2人目ともなるとね…」
フュベール「…ダステ公安官と話をして見回り回数を増やすことにした 情報のある孤児院からの脱走者や行方不明の孤児は確実だが やはり浮浪児になると…こちらでは追いきれない…」


駅の中 もしくは外 孤児となった浮浪児たちを捕まえた件数が増えている
さらには冬の時期になると寒さに耐えられずに死んでしまった子供がいたことすらあった

孤児院を恐れ逃げる子供たちの中には 駅の店で売っている品物や 利用客たちの忘れ物 捨てたものをあさる
そういった行為を 駅側としては許してはおけない
治安維持のためにも こうした浮浪児は捕まえて 孤児院へと送らなければいけない



ベンチに忘れられた鞄の中をあさる子供がギュスターヴの目に映る

ダステ「それは君の鞄か?」
「あっ……」

少年は慌てて逃げようとするが 行く手をマキシミリアンが塞ぎ 腕を掴まれる

「離して!助けて!!」
ダステ「親は?保護者はいないのか?」
「いない!いないよ…」
ダステ「いない?そうかじゃあ来るんだ…」

暴れる少年をなんとか抑えながら 上へ運ぼうとする なんとか公安官室に入る

フュベール「また浮浪児?これで今月3人目…なんてことだ…」

檻に押し込み 鍵をかける

フュベール「すまないがギュスターヴ 今日は君が連絡しておいてくれ クロードに話をしにいかなければいかん…」

そう言ってフュベールは帽子を被り 公安官室を出た
今まではフュベールが警察に連絡をし 引き渡しを行なっていた ただ連絡するだけなので 何も難しいことはない

「出して!出してったら…孤児院なんか行かないよ!」
ダステ「静かにしていてくれ」
「出してよ!」

無視して電話をかける

ダステ「パリ7区本部?」
「シャルパンティエさん?」
ダステ「いえ…ダステです 今年からの…」
「あぁ新しく来た…なるほど」

後ろでまだ子供が騒いでいる 檻を叩き大きな音をたてる
音が鳴るたび体が強張る 嫌なことに気づいた
振り向くが子供はギュスターヴを恐れてはいないようで 強気な表情のまま 檻を掴んでいる

ダステ「お願いします では」

電話を切る 到着までこの子供を大人しくさせなければいけない

ダステ「騒いでも無駄だ 静かにしているんだ」
「うぅ…出してよ…助けてよ…!」

いくら嘆かれても そこから出られることはなかった 死ぬか 犯罪に手を染め続けるほか道のないままの生活を送ることは決して正しくない
直してやらないと 1人で生きる正しい道を 孤児院で学ばないと 彼らを助ける者がいなくなる

フュベール「戻ったよ…さて もう少しすれば来るかな?」
ダステ「そうだと思います」

フュベールに頼まれ 駅の前まで子供を連れて行く
到着した警察が車を降りてくる

「さてさて…君が新人の公安官かな」
ダステ「ダステ鉄道公安官です」
「…ダステ?」

後の扉を開け 鉄格子の鍵を開け 引き渡された子供を逃げないように乗せる
手際よくすませ 警部は改めてギュスターヴの方を向く

「そうか 君だったのか」
ダステ「…なにがでしょうか」
「ん?私を忘れたのか?格好が違うからか?」

帽子を取り 顔をよく見せる
ギュスターヴはほとんどない記憶を探り なんとか思い出そうとする
すると蘇ったのは 塹壕の中 戦時中の記憶

ダステ「…フーツ軍曹?」
フーツ「そうだフーツだよ 今は警部だ」
ダステ「お久しぶりです…」
フーツ「あの時以来か…まさか管轄内の駅で公安官とは いやぁ夢が叶ってよかった!」
ダステ「フーツさんこそ 無事でよかったです」

フーツは扉を閉めながら ため息をついた
彼もまた あの頃の戦友を思い出しているのだろうか 扉に手をついて 下を見る
ギュスターヴの足の装具が 目に入る

フーツ「無事か…確かに 私はな…あの分隊の中だと 君とファリエールだけが…そうだ 今連絡はとってるのか?」
ダステ「いえ 連絡先は知っていますが…」
フーツ「…君が良ければだが 今度ファリエールと会うんだ」
ダステ「ファリエールと…」

フーツは休めるならぜひ来て欲しいと 日時を伝え 車に乗り込み走っていった
その日は 偶然…休みだった

仕事を終え 公安官室に戻ってきたギュスターヴの顔を見て フュベールが心配そうに声をかける

フュベール「孤児の相手は やはり私がやるべきだったろうか…嫌なことを思い出させたらすまない」
ダステ「いえ それは心配には及びません これも役目ですからちゃんとやれますよ ただ 担当の警部が…知り合いで」
フュベール「フーツが?」
ダステ「私がいた分隊で指揮を…」

その時 ファリエールの叫び声が聞こえた気がして 思わず耳を塞いだ
気づいた時には フュベールの驚いた顔が目に入る 治っていないと思われるわけにはいかない

ダステ「…大丈夫ですから」
フュベール「辛いなら そう言ってくれギュスターヴ 君が言ってくれなければ私にはわからない 君に無理は…させたくない」
ダステ「大丈夫です…いくぞマキシミリアン」

ほとんど思い出せないが 奥底の記憶にはあるようで フラッシュバックであったり 幻聴だけが聞こえることがあった それでも公安官になってから 緩やかに落ち着いていた

それがフーツと再会して また

これはいいことだったのか 悪いことだったのか
もう一度 ファリエールと会えば 何か変わるだろうか

ダステ「フュベールさん…会ってみるべきなんでしょうか」

ファリエールのことを嫌っているわけではない
同じ戦場で戦い 生き延びた仲間だ
忘れかけた記憶を呼び起こすかもしれない それでもやらなければいけないのだろうか

フュベール「同じように 見てきた仲間なんだろう?会って話すことで少しは楽になるかもしれない…だが無理をして行くことはない」


フーツもファリエールも 今でも元気にしているようだった いつまでも あの日のことを引きずり 治らない自分とは違った

最初に見つけた時 彼らの顔が明るくなった
久しぶりの再会 ファリエールとは病院以来だった

右腕を失った彼 左足が不自由になった…自分

ファリ「よかった 元気そうではあるな」
ダステ「久しぶりだなファリエール…」
ファリ「軍病院以来か まったく 今まで連絡がなかったから 寂しかったぞ お前の連絡先聞いとくべきだった」

久々の再会はレストランでの食事会となった

互いに今何をしているか あれ以来何をしていたかを話していた
フーツは戦後 無事に帰って来れたので そのまま復職し 現在パリ7区警察本部に
ファリエールは家族や恋人に支えられながら生活しているが 以前の仕事には戻れず 今はまだ探している最中だという

ダステもリハビリを終えた後 フュベールの協力もあって鉄道公安官になれた経緯を話していた

ファリ「…ダステ たまにでいいからさ 連絡してくれよ」

そろそろ解散しようか という時間になった時 ファリエールはそう頼んだ
今もそう言ってくれるのは嬉しかった 避けているようで申し訳なかったので ギュスターヴは頷いた

ダステ「そうだな…わかった 私の連絡先も渡しておく」
フーツ「私の方も これからよろしく頼むぞダステ まぁ できるなら勤務中に会う回数は少ない方がいいがな!」


かつての仲間との時間は 有意義なものだった
同じ体験をした同士 分かり合えるものがある
互いを励まし合い 慰め合う

別れ際 ファリエールに聞かれたことが 引っかかる

ファリ「…なぁ やっぱり覚えてないよな…ヴェルダンでのこと」
ダステ「ラヴァンシーのことなら 忘れない」
ファリ「それは…そうだが…俺が撃たれた後のことだよ」
ダステ「ラヴァンシーに言われて下がったろう」
ファリ「…ん まぁ…いいか あの日の話は 悪い こんな話で呼び止めて じゃあまた どっかで連絡する…」

ファリエールは複雑そうな顔をして 去っていった その後ろ姿を見送ったギュスターヴは 真意がわからないでいたが もう気にせず 帰っていった

その話の意味を 今のファリエールは言い淀んだ


…そして現在 リゼットとの話を彼にしてからまたしばらく後 偶然早朝の道端で会い リゼットにアンドレの話をしたと伝えると ファリエールはギュスターヴを側のベンチに座らせた

何か話したいのだろうが 連れてきた割に決心はついていないのか ずっと項垂れたまま 時間が過ぎた

ファリ「お前の病も だいぶ良くなったみたいだし そろそろ話しても もう忘れたり…しないよな」

ようやく口を開き 気合を入れるように息を吐き 体を横に向け ギュスターヴを見る
忘れる とはどういうことなのかわからないが 今 ようやく理解できるのだろう

ファリ「病院で2回同じ話をしたら 2回とも混乱して そして忘れた 俺はお前に 恩がある その手袋も お礼のつもりで渡した」
ダステ「あぁ これか 助かっている…けど確かに何のお礼か 知らないな」

病院でこれをはめてもらった時 忘れなくなったら話すと言われていたのを思い出す
今までずっと 彼に聞かされた話を忘れていたのだとしたら 申し訳ないことをした

ファリエールは 深い緑の目に 深い懺悔を宿していた
苦しそうな 辛そうな そんな様子に 心配になる

ファリ「砲兵分隊全員で前進してた時 俺が撃たれたろ 今でも思い出す…あの日…」


ヴェルダンでの ギュスターヴたちにとって最後の突撃

ファリエールの叫び声

ファリ「…あの場所は戦場だ 次の瞬間に隣にいたやつが死ぬ 一緒に戦ってきた仲間が 将来を語った戦友が…みんな同じなんだ 誰だって死ぬ 助ける暇があれば 前に進んで 生きて 戦果を…」

衝撃で倒れたファリエールが 撃たれた腕を押さえながら立ち上がる
後ろで声が聞こえたのに ギュスターヴはその光景を思い出せた

ファリ「振り向いたのは アンドレとお前だ…なんであんなこと…したんだ」

ファリエールが話し始めたことで ようやく思い出した撃たれた時の記憶

ギュスターヴはファリエールを助けようと 振り返り 彼の元へ走った 彼に対して壁になるように 敵に背を向けて立つ状態になった
その時の光景が 蘇る

ダステ「ファリエール!」
ファリ「ダステ…よせ…!」

次の瞬間には ギュスターヴが倒れていた
弾は左足に直撃 左手を掠めた その時 アンドレがその場にたどり着いた

アンドレ「ファリエール!立てるか?戻るぞ!」

急いでギュスターヴを担ぎ 元の塹壕へ戻ろうとする そこには先に負傷し戻ることとなったフーツもいる

だがあと少しというところで アンドレとギュスターヴは弾を受けた


ファリエールは もう腕の痛みを感じていなかった 目の前で 自分を助けようとした仲間が 自分より重症になり倒れている

アンドレは その場で息を引き取った ギュスターヴはなんとかなりそうだと
ずっと 彼らから目を離さず 歯を食いしばり その光景を見ていた


今 ファリエールも その時のことを思い出したのだろう 悔しそうな顔で 膝の上で強く拳を握る

ファリ「お前が怪我をしたのも アンドレが死んだのも 俺のせいだ 俺なんか助けようとして…今でも 治りきってないお前を見ると 辛かった いっそ死んでたら お前らは諦めて俺のとこに来やしなかったのに…!」
ダステ「そんなことを言わないでくれ!」

ダステは立ち上がり ファリエールの正面に来て 彼の肩を掴み しゃがんで目線を合わせた

ダステ「ようやく思い出した 私は君を助けたかったことを…戦地で私たちがどれだけ君に助けられてきたと思う?君の明るい声と ポジティブな話は 私もアンドレも救われた 毎日味方も敵も死ぬあの場所で 正気を失わず戦えたのは 生きようと思えていたのは 君のおかげなんだぞレナルド!」

真剣な表情のギュスターヴだったが ファリエールは首を振る 泣き出しそうな悲しい表情は まだ変わらなかった

ファリ「…お前はずっと 生き残ったことを まるで罪を犯したかのように 悔やんでた 俺だって同じだったんだよ!お前たちをそうしてしまったから…」
ダステ「それは…間違いだった」

ファリエールは ギュスターヴに笑いかける 悲しみは拭えない それでもファリエールは立ち上がった

ファリ「なぁそうじゃないなら もうそんなふうに思うなよ 笑って過ごしたっていいだろ?生きてたっていい お前が生きていることを責めるのは アンドレがしたことが間違いだったみたいじゃないか!だから俺は 無理やりでも明るく振る舞ってたんだよ わかってくれるよな 今の…ギュスターヴなら」
ダステ「あぁ…そうだ…私の 今までの思いは アンドレを 否定してしまっていた…それでも生きていて欲しかった だが今を 受け入れないといけない…リゼットは そうしていた」

ギュスターヴは心からの自分の思いを伝えることが できるようになっていたのだと気づいた
トビー リゼット そしてファリエール…彼らのおかげで…

ファリ「ようやく 昔のお前が戻った感じだ」

彼らは笑顔だった 昔のように 笑えていた
心にあった自責の念は間違いだったと気づき 過去と向き合い ようやく別れを告げられた
完璧に悲しみを拭えなくても 彼らが2度と帰らなくても 今 前を向いて歩くしかない
それは辛いことだけれど 周りには こんなにも支えてくれる人たちがいる
同じように歩む 友人がいる

ダステ「そうだ君たちは…私にとって最初の友人だった…」
ファリ「もちろん今でも 最高の友人だ…ギュスターヴ」

フュベールが側で 優しくかけてくれた言葉とマダム・エミーユの 思いやりの言葉…
友情と リゼットの愛情で 優しく包まれ ヒューゴがきっかけを与え 彼を元のように戻した




戦後 ようやく戻った彼を フュベールは優しく抱きしめた

フュベール「ギュスターヴ 生きていることが間違いであることはない…笑っておくれ…もう一度…あの頃のように」


そうだ…彼に…



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