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第三章 ギュスターヴ・ダステ

旧友

出会いから10年

トビー「そういえば レ・ミゼラブルの話 ギュスターヴも知っているんですよね」

今日は休日で 旧友に会いに行くギュスターヴと これからレ・ミゼラブルの世界へ向かう予定のゼロは 集会所で朝食をとっていた

そのレ・ミゼラブル…発行年を考えるとトビーの世界にも存在はしているはずだが トビーは全く知らないでいた

ダステ「施設にいた頃 図書室で読んだのと…ティナに会ってからも一回読んだな」
トビー「そうなんですか…最近会ってないですけど 今のテナルディエ…大丈夫なんですかね」
ゼロ「今は1828年だから…物語的にはまだ何もないけど 大丈夫ではないよなぁ…なんとかやってるみたいだけど」

普段どうやってお金を稼いでいるのか どこに住んでいるのか など話を聞く機会もなく 全員がほとんど会えていなかった

トビー「…ところで ギュスターヴ もしかして あなたも孤児院にいたんですか?」

施設にいた頃読んだ…など孤児院のことをよく知っているような発言をしていたので 前から気になってはいたが 聞いていいものかわからないでいた
ただやっぱり 気になるので 今この機会に聞いてみることにした

ダステ「あぁ 物心つく前から ずっと」
トビー「そうだったんですか…」
ダステ「…君の思うような孤児院ではないぞ」
トビー「それは…そうなんですね」
ゼロ「あ ギュスターヴ そろそろ仕事の時間だから来るんじゃないの?」
ダステ「あぁ まずい じゃあ今夜また」

ギュスターヴが帰った後 まだゼロは食事を続けていた

トビー「…あの人も 孤児…だったんですね でも仕事となると違うんですかね」
ゼロ「…両親との記憶が全く無いのもあるだろうけど…彼の場合は…戦争で心が壊れてしまったから…」
トビー「そういうのは 話してくれなくても僕はいいんですよ 彼から聞ける限りでも…」
ゼロ「…私が全て話すことはないさ いつかは 彼が君に話すかもしれない」


一方 リュクサンブール公園近くのカフェに来たギュスターヴは 中でこっちだと手を振る旧友の元へ行く

ダステ「もう着いてたのか」
ファリ「言ったろ?暇なんだよ」

ファリエールは戦時中に右腕を失っていた
利き手を失った彼は戦後 職を探すのに苦労し やっと雇ってもらえてもすぐに辞めさせられることばかりで 今回は何年か続いていたのだが…またダメだったようだ

ファリ「そんな顔するなよ 俺は大丈夫なんだから 金は貯めてるから次の場所を見つけるまでもつさ」
ダステ「そうか…」
ファリ「明るくいこうぜ フーツさんの話でも聞かせてくれよ あの人 奥さんに家出されたんだろ?」
ダステ「あぁその話か いつも通り孤児を引き取ってもらうために電話をかけた時なんだが…」

久しぶりの会話は 元同じ分隊の上官であり 現在警察でパリ7区本部にいる…つまりはあの警部の話
とりあえず注文を済ませ やりとりの話をする

ダステ「数日前に帰ってきたらしい それで 子供の名付け親を頼まれた」
ファリ「なるほど そんなことがあったんだな…まぁこのまま何事もないといいな…それにしてもお前が名付け親か」
ダステ「私が相応しいのかがわからないがな…」
ファリ「信頼されてるんだろ フーツさんはお前がどんなやつが ちゃんとわかってるんだよ」

そうだろうかと笑うと ファリエールに驚かれた

ダステ「なんだ」
ファリ「…本当に明るくなったな…と思って 最近何かあったのか?」
ダステ「昔を思い出しただけだ」
ファリ「そうか…ラヴァンシーのことも みんな…」
ダステ「少し 心が楽になった 壊れたものが治った気がする」
ファリ「良かった 本当に…戦争が終わって 1年経って…お前は変わってしまったから」
ダステ「そんなに心配していたのか?」
ファリ「心配もするだろ…俺たち3人だけなんだ あそこで生き残ったのは…」

しばらくして 2人はカフェを出る
その後リュクサンブール公園で歩きながら色々とここ数年の話をしていた

ファリ「それじゃあその子と…リゼットって人の影響が大きいな 感謝しないと」
ダステ「君は…恋人とは今どうなったんだ?」
ファリ「あぁ…去年 一度は別れたんだ 俺がこんなんじゃ 一緒にいてもな…だから俺から…ただなぁ…この前泣きつかれて今また一緒に暮すことにしようかと…」
ダステ「そうなのか 良かったじゃないか」
ファリ「まぁ おかげで死なずに頑張れてる」

ベンチに座り 平和な公園内を眺める
幸せな空間だった 子供たちの笑い声も聞こえてくる

ファリ「ラヴァンシーのこと 聞いた理由 何か聞いていいか」
ダステ「…リゼットの兄がヴェルダンで戦死していて 彼女の苗字がラヴァンシーだと知ったからだ」
ファリ「あいつの妹の名前はリゼットだったな…だとしても 罪悪感なんて持つな…誰が死んでもおかしく無い場所なんだよ あそこは…」
ダステ「…わかっている それでも彼が死んだのは…私のせいだ」
ファリ「勇敢で仲間思いだった 誇るべき兄だったと言うつもりで確認したんじゃ無いのか?」
ダステ「確認したかっただけだ」

ファリエールは思わず熱くなる ギュスターヴにとって 同じ分隊だった自分にとって アンドレの最期は 非常に立派な姿だった

きっと彼の家族はそれを知らない
伝えに行けるような余裕のある仲間はいなかった

同じ分隊の中で彼がどんな存在だったか どれほど素晴らしい男だったか

ファリ「聞かれたら伝えるべきだ ダステ…辛いのは同じだ それでも どれだけ立派だったか知るだけで…少し救われる心があるかもしれない」
ダステ「…そうかもしれないな」
ファリ「わかった なんなら俺も話す 彼女がそれを望むなら 俺はちゃんと覚えてる 仲間のことは忘れたく無いからな」

全て忘れたかったギュスターヴと違い 彼はその記憶から誰かのために必死に戦い 命を散らせた仲間のことを消し去ることはできなかった
ギュスターヴはそれを理解していたからこそ 彼に聞いた 自分が忘れたラヴァンシーの名前を…

ファリ「そうだ シャルパンティエさん あの人にも相談すればいいじゃないか」
ダステ「そうだな…」

ファリエールとは また連絡すると約束し合い 昼前には別れた

自宅のあるアパートの同じ階に彼は住んでいる

フュベール「ギュスターヴか ほら早く中へ」

フュベール・シャルパンティエ
昔から世話になっている人物で 非常に恩のある人だった

そんな恩人フュベールは 彼と話すのが楽しみで すぐに飲み物を用意して彼を椅子に座らせる

フュベール「今日はどうしたんだ?」
ダステ「実は…」

一通りを話す その間フュベールは真剣に彼の話を聞いていた
彼はギュスターヴの変化に気づいていたが 途中それに触れることもなかった

フュベール「なるほど…罪悪感はあるかもしれない だが彼もそれは望んではいないだろう きっと彼の家族も わかっているはずだろう…それでも話すのを恐れる気持ちはわかるよ」

ファリエールもフュベールも ダステが後ろめたく思うことはないと 言ってくれている
リゼットがどう思うかはわからないが もし彼女が知りたいのなら 正直に話すべきなのだろう 2人の言葉のおかげで ようやく決心はできた
彼女は彼に会っていたかを気にしていたのだから…

フュベール「…良い出会いがあったようだねギュスターヴ ずいぶん表情が柔らかくなった…以前のように…」
ダステ「それは…そうなのかもしれないです けれど過去の夢を見るようになって…」
フュベール「夢を…」
ダステ「施設と戦争の夢を」
フュベール「…私は名付け親として せめてものことしかできなかった 孤児院のことも 戦争が終わった時のことも…私は力不足だった その悪夢を終わらせることが 私にできるかわからない だができる限りを…」
ダステ「ならもう一度 両親の話をしてくれませんか…私は全てを思い出したいんです 過去と向き合うために…」

リゼットに話をすべきか それだけを相談しにきたわけではなかった
忘れてしまった過去の話を思い出し その上で乗り越えるために 彼に聞きにきていた


その夜 集会所

トビー ゼロ タイムが集まっている中 ギュスターヴがやってきた
椅子に座ると 神妙な面持ちで話し始める

ダステ「頼みがある」
トビー「何ですか?」
ダステ「…私の話を聞いてくれないか?昔の話だ 話しているうちに思い出せることもあるかと思ってな…」
トビー「あなたが良ければ いくらでも あなたは僕の話を聞いてくれましたから」
ゼロ「もちろん 大丈夫だよ」
タイム「構わない」



リゼットにはこの時もう聞いていた 兄の名前はなんだったかと

リゼット「…アンドレ=ギュスターヴです」
ダステ「なら 私は彼を知っている 同じ分隊だった 最期まで一緒だったんです」
リゼット「…兄と…!ごめんなさい 知りたいのに…怖いんです 兄の最期がどうだったかを…知らなくて…」
ダステ「私は 聞かれたら答える ただ…あなたの兄は仲間思いの素晴らしい人だった…これだけは伝えておきたい」

リゼットは兄が戦死したと知った日からずっと 知りたいことがあった
同じ隊だった人物から ようやく聞けるのかもしれないと思うと…怖かった


ファリエールは アンドレのことを思い出していた あの夜の会話 ヴェルダンでの出来事 失った仲間たちを思い 泣いていた

フュベールは 戦後のギュスターヴのことを思い出していた 辛く悲しい日々だったが 彼はようやく立ち直ろうとしていた あの日のように 無理やりではなく
心は治ったようだった また穏やかな笑顔を見ることができた

トビーとゼロ タイムはギュスターヴの過去の話を聞いた
過去の…未来の 戦争の話も 全て



リゼットは今 どんな内容であっても 最後まで聞こうと覚悟を決めた


話すことで ギュスターヴは彼らを思い出し 敬意を抱いていた 何よりアンドレに


ギュスターヴは過去を話す


フュベールが話し始めたのは ギュスターヴが産まれる少し前の話から




END
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