第三章 ギュスターヴ・ダステ
過去の夢
出会いから10年
朝 ギュスターヴはゼロに会うために集会所に来ていた
そこに 朝食なのかパンを食べているトビーもいた
ダステ「やぁゼロ トビー」
ゼロ「やぁギュスターヴ!」
トビー「こんにちはギュスターヴ…」
この前の発言を気にしていたトビーは 気まずそうに挨拶をした
もう気にしていないギュスターヴは ゼロとトビーに笑顔で挨拶をしていた
ゼロ「…ヒューゴに会ったみたいだね」
ダステ「やっぱり知っているのか」
ゼロ「君がリゼットと歩いていくところまでは」
ダステ「…まさかその後の会話までは」
ゼロ「え?会話?知らない 何話したの?」
ダステ「知らないならいい」
ゼロ「待ってよ思いを伝え合うに至るまでを知らないんだよ!」
ダステ「それは知ってて昨日の会話は知らないのか!」
ゼロ「やっぱりリゼットと何か話したの!?」
彼女にも知っている場面というのがあるようだが 泣いたことだけバレていないならいいかと まだ色々聞こうとしているゼロから顔を逸らして拒否し続ける
ゼロ「…ま…まぁでも物語は終わったけど ただの一区切りって話だよ 君らの人生はこれからも続くんだから」
ダステ「言われなくてもわかっている」
ゼロ「…君も少しずつ 変わるさ」
ダステ「少しは変われたと思わないか?」
ゼロ「もちろん でも無理に 受け入れようとしていない…?…そうじゃないなら いいんだ」
微笑むゼロの姿が 目の前から消える
その後朝食を食べ終えたトビーが立ち上がる
トビー「…この前はすみません ぼく 酷いことを…」
ダステ「この前?あぁ 大丈夫だ むしろあの言葉も 気づけるきっかけになった 私はもう大丈夫だ」
トビーはそっとギュスターヴを抱きしめる 確かに彼は笑顔を見せている だが まだ完全のように見えなかった 彼は変わった だがまだ何か…
不安になる 変化が 彼を弱らせたように思える
物語が終わっても 人生は続く それが終わりではない
きっと彼の物語はまだこれからだろう 再生は始まったばかりのように思えた
トビー「今度は僕が あなたの力になりたいです だからいつでも 僕を頼ってください 辛い時にはこの場所で 話をしましょう あなたがしてくれたように…」
ギュスターヴは彼の言葉が嬉しかった そっと左腕で抱き返し 右手で頭を撫でた
夕方ごろ…一杯のコーヒーを前に ギュスターヴは座っていた 目の前にはもう一杯のコーヒー
そして リゼットの姿
仕事中 2人で休憩しようと誘われて 今ここに座っている
昨夜 自身に起きた変化
…思いを伝えた 彼女も同じ思いだったと 知ることができた
リゼット「…公安官さんの名前をちゃんと聞いたことがなかったと思ったんです」
ダステ「あぁ確かに…名乗っていなかったですね ギュスターヴです ギュスターヴ・ダステ…」
リゼット「ギュスターヴ…そう…」
ダステ「リゼット 私もあなたの苗字は知らないんだ」
リゼット「ラヴァンシーです リゼット・ラヴァンシー…」
ダステ「……ラヴァンシー?」
同じ名前を知っている こんな偶然…
どこまでが 思い通りかわからない 偶然というのはあるのだろうか この世界で 偶然に思えることも全て 運命
ギュスターヴの顔色が悪くなったのをリゼットは気づいた
リゼット「大丈夫ですか?」
ダステ「ヴェルダンで 同じ名前の男と…」
リゼット「…もしかして 兄と…?」
ダステ「わからない 良く覚えていないが彼とは話をした覚えが…」
リゼット「名前は…?」
ダステ「……同じ小隊だった男なら覚えているかもしれない もしそうだとしたら……」
リゼットは戦場での兄を知っているかもしれない彼を 悲しそうな顔で見ていた
ダステ「私は…すみません その…もう仕事に戻ります…」
リゼット「あぁごめんなさい ただもし…もしあなたが良ければ その…兄かどうかを…」
戦地での出来事を思い出すことを リゼットは無理強いしたくなかった もしそのラヴァンシーが兄なら…死んだ仲間の姿を思い出すことになるのかもしれない
彼の顔色から 過去の話をするのが辛いというのは伝わった 誰しもがそうだろう ヴェルダンの戦地の悲惨さは リゼットも知ってはいた
ゼロの言う通りなのかもしれない 確かに少し心に変化はあった だが同時に過去の記憶が蘇る
辛いことの方が多かった人生だが それでも過去を受け入れ 自分を認めたい
昔の夢をいまだに見る 酷い悪夢だ
誰かに話せば 楽になるのだろうか
これを自分の過去だと認め その上で人に話せるだろうか それを話して 相手に何を言って欲しいのだろうか ただ聞いて欲しいだけなのだろうか
リゼットは過去の夢を見た
まだ家族を失っていなかった 幸福な日々の夢を
家族はみんな笑顔だった 心は喜びで満ち溢れていた 花を愛する妹と同じように 彼も花が好きだった
幸せな記憶 忘れたくない 兄の記憶
兄のために 笑顔で過ごそうと決めた 兄は家族の幸せを願い 戦ったのだから
ギュスターヴは 過去の夢を見た
まだ足を失っていない頃の…しかし何も持ってはいなかった頃の…
幸せな日のことを思い出すと 今が辛くなる だから全て忘れたかった
自分は幸せになってはいけないのだと思い続けたら 笑うこともできなくなった 帰ってきても何もない自分より 生きていて欲しかった人たちが あの場所にはいた
目を覚ます 嫌な夢を見た気がするが 今日は不思議とすぐに忘れてしまった
その方がずっといい
マキシミリアンといつも通り駅の様子を立ち止まって見ていると 側に小さなスケッチブックと鉛筆を持っている少年がくる
なぜかジッとギュスターヴの足を見て ずっと鉛筆を動かしている
どうやら左足をスケッチしているようだ 一切の許可なく 声掛けもないままに
ダステ「ヒューゴ せめて一言声をかけろ 君は礼儀を知らないのか?」
ヒューゴ「ごめんなさい でもどうして僕の名前を…」
ダステ「前に君と一緒にいた子が教えてくれたが?従兄弟とかなんとか」
ヒューゴ「あれはあなたにバレないように…でも名前は確かにヒューゴだよ ヒューゴ・カブレ」
ダステ「…やっぱりクロードの甥か」
ヒューゴ「…うん」
喋りながら まだ何か書いている
足をジッと見られるのは不快だったが やめる気がないらしい
ダステ「許可もなく人の足をジロジロ見るな」
ヒューゴ「…ごめんなさい」
ダステ「…何がしたいのかわからないが それより裏の荷物をどうにかする手伝いでもしてくれ クロードの荷物は全部こっちで処分していいのか?」
ヒューゴ「おじさんの荷物はほとんどないよ 僕のも…」
ダステ「少ししかないからすぐにでも片付けたいんだ 後任が来る前に」
ヒューゴは頷きスケッチブックと鉛筆をポケットにしまう
ギュスターヴが駅の裏側へ向かうヒューゴについていく
少しの間だが 彼が過ごした場所に
ヒューゴの言う通り 物はほとんどなかった
綺麗にまとめてしまうと ヒューゴは持ち帰るわけにもいかないからと 処分を頼んだ
ダステ「…全く君には苦労させられた おかげで装具が悪くなってしまった」
ヒューゴ「あの 僕 修理は得意なんです お詫びに 僕が直しても…いいですか」
ダステ「君が?」
まとめた荷物を抱え ギュスターヴとヒューゴは駅の中に戻る ヒューゴも運ぶのを手伝い 一緒に公安官室へ戻る
ダステ「まぁ 直せるなら…」
ヒューゴ「もちろん!パパ・ジョルジュにも見てもらいながら やりますから」
ダステは適当な布に包み 悪くなった補装具をヒューゴに持たせた 彼はすぐにおもちゃ屋の方へ駆けて行った
ダステ「…機械が好きで私の足を見ていたのか…?」
機械…ではないよな と足の装具を見る
まぁやりたいならさせればいいかと思っていた どのみち処分しようかとも考えていたのだから 治るなら都合がいい
ゼロ「彼は主人公だから 気を許してるのかいギュスターヴ」
いつの間にか隣に変装したゼロがいた
いつもの目立つ見た目を うまく隠しているが 声と目でわかる
ダステ「なんでここにいるんだ」
ゼロ「様子見に来た ずいぶん彼のしたいようにさせてるみたいだね」
ダステ「…そうだな」
ゼロ「優しさ?」
ダステ「片付けを手伝ったかわりに 好きにさせようと思っていただけだ スケッチじゃなく修理になったが…」
ゼロ「優しさだねぇ」
ゼロは笑いながらギュスターヴと別れる
そのまま下の花屋へ向かう
リゼットは到着した花を売り場に並べていた
ゼロ「こんにちは」
リゼット「こんにちは」
ゼロ「綺麗な花ですね…実は贈り物をしたいんだけれど 選ぶのが苦手で…代わりに選んでいただきたいんです」
リゼット「もちろん どなたへの贈り物ですか?」
ゼロ「友人に 出会って10年経つので 記念にいつも集まる場所に飾れる花をと思って…」
リゼットは話を聞いて 花を選ぶ
ゼロはその様子を嬉しそうに眺めながら 待っていた
すると駅を一周してきたギュスターヴが 花屋でリゼットと会話しているゼロの姿を見つけた
ダステ「ゼロ もう帰ったのかと…」
ゼロ「ほんとは花買いに来たんだよ」
リゼット「お知り合い?」
ダステ「あぁ10年くらいの付き合いの友人で…」
ゼロ「さっき言った友人の1人です 10年記念で花を飾ろうと思ってさ」
ダステ「もうすぐ11年になるんだが…」
ゼロ「急に思いついたの!」
仲良さげな2人の横で リゼットは花を選び終える ゼロは花束を見て 嬉しそうに満面の笑みを浮かべる
ゼロ「どう?これなら何にもないあの場所も少しは華やかになると思わない?」
自分でも出せるだろうにわざわざ買いに来たのは この物語の世界が好きで現実化させたからなのだろうか わからないが 楽しそうではあるし 綺麗なのは否定できないので 頷いた
代金を払うと ゼロはそのまま駅の外へ出て行った
ダステ「…あっちから帰るのか」
上に戻るのはおかしいといえばおかしいが その辺りはきっちりしているのだなと 小さな声で呟いた
花はというとトビーとタイムから非常に好評で ゼロも満足していた
…久しぶりに連絡を取る 今もこの番号が 彼に通じればいいが…と思いながら 受話器を取る
ダステ「ファリエール?」
ファリ「ダステか?久しぶりだな」
ダステ「あぁ久しぶり…実は聞きたいことがあるんだ」
ファリ「…なんだ?」
ダステ「ラヴァンシー伍長 覚えているか?」
ファリ「もちろん 同じ分隊だったから」
ダステ「…あぁ同じだったか?そこまで思い出せなくて…」
電話の相手はレナルド・ファリエール
生き残った同じ分隊の仲間の1人で 時々連絡を取り合っていた
ファリ「そういえばフーツさんのことも覚えてなかったくらいだもんな みんな同じ分隊だったぞ」
ダステ「…あぁそういえばそうだった」
ファリ「そのラヴァンシーがどうかしたのか?」
ダステ「いや 彼の名前 なんだったかと思ってな」
ファリ「名前…?アンドレ=ギュスターヴ…じゃなかったか?ほら 同じギュスターヴって名前だから…仲良くしてた 俺は覚えてる」
いつかの夜 彼は同じギュスターヴという名前だと知ってから よく気にかけるようになっていた いつの間にか 人を避けていたギュスターヴも 彼とはよく話すようになっていた
初めての友人になるかもしれなかったほど 仲が良かった
彼はいつも みんなに家族の話をしていた
妹の影響で 花に詳しいと 知識を披露していた
まだそんな話をする余裕が あった頃…
アンドレ「僕は家族が笑って暮らせるように 戦ってる 絶対に無事に帰って 安心させたい」
ファリ「ラヴァンシーは本当に家族が好きだな」
アンドレ「みんなだって 大切な人のためなんだろ?」
ファリ「恋人のためかな 俺だって帰って抱きしめてやりたい きっと心配してる」
きっとすぐに終わると 帰れると 思っていた頃
記憶が 蘇る
ファリ「…ダステ?どうした?」
ダステ「あぁいや ありがとう これでわかった」
ファリ「…なぁ 次の休み いつだ?会って話をしよう 急にラヴァンシーの話をされたんじゃ 心配になる」
ダステ「なぜ心配するんだ たまたま思い出しただけで…」
ファリ「最近全然会ってなかったろ?いいじゃないか」
ダステ「……君こそ いつ休みなんだ」
ファリ「仕事はまたクビになった 暇なんだよ フーツさんも呼ぼう」
ダステ「彼なら家出した奥さんが帰ってきたばかりでバタバタしてる」
ファリ「家出?なんだよその話気になるな…よし絶対に会おう」
ダステは予定を確認する
空いている日を伝え 場所と時間をファリエールから伝えられ 電話を切る
END
出会いから10年
朝 ギュスターヴはゼロに会うために集会所に来ていた
そこに 朝食なのかパンを食べているトビーもいた
ダステ「やぁゼロ トビー」
ゼロ「やぁギュスターヴ!」
トビー「こんにちはギュスターヴ…」
この前の発言を気にしていたトビーは 気まずそうに挨拶をした
もう気にしていないギュスターヴは ゼロとトビーに笑顔で挨拶をしていた
ゼロ「…ヒューゴに会ったみたいだね」
ダステ「やっぱり知っているのか」
ゼロ「君がリゼットと歩いていくところまでは」
ダステ「…まさかその後の会話までは」
ゼロ「え?会話?知らない 何話したの?」
ダステ「知らないならいい」
ゼロ「待ってよ思いを伝え合うに至るまでを知らないんだよ!」
ダステ「それは知ってて昨日の会話は知らないのか!」
ゼロ「やっぱりリゼットと何か話したの!?」
彼女にも知っている場面というのがあるようだが 泣いたことだけバレていないならいいかと まだ色々聞こうとしているゼロから顔を逸らして拒否し続ける
ゼロ「…ま…まぁでも物語は終わったけど ただの一区切りって話だよ 君らの人生はこれからも続くんだから」
ダステ「言われなくてもわかっている」
ゼロ「…君も少しずつ 変わるさ」
ダステ「少しは変われたと思わないか?」
ゼロ「もちろん でも無理に 受け入れようとしていない…?…そうじゃないなら いいんだ」
微笑むゼロの姿が 目の前から消える
その後朝食を食べ終えたトビーが立ち上がる
トビー「…この前はすみません ぼく 酷いことを…」
ダステ「この前?あぁ 大丈夫だ むしろあの言葉も 気づけるきっかけになった 私はもう大丈夫だ」
トビーはそっとギュスターヴを抱きしめる 確かに彼は笑顔を見せている だが まだ完全のように見えなかった 彼は変わった だがまだ何か…
不安になる 変化が 彼を弱らせたように思える
物語が終わっても 人生は続く それが終わりではない
きっと彼の物語はまだこれからだろう 再生は始まったばかりのように思えた
トビー「今度は僕が あなたの力になりたいです だからいつでも 僕を頼ってください 辛い時にはこの場所で 話をしましょう あなたがしてくれたように…」
ギュスターヴは彼の言葉が嬉しかった そっと左腕で抱き返し 右手で頭を撫でた
夕方ごろ…一杯のコーヒーを前に ギュスターヴは座っていた 目の前にはもう一杯のコーヒー
そして リゼットの姿
仕事中 2人で休憩しようと誘われて 今ここに座っている
昨夜 自身に起きた変化
…思いを伝えた 彼女も同じ思いだったと 知ることができた
リゼット「…公安官さんの名前をちゃんと聞いたことがなかったと思ったんです」
ダステ「あぁ確かに…名乗っていなかったですね ギュスターヴです ギュスターヴ・ダステ…」
リゼット「ギュスターヴ…そう…」
ダステ「リゼット 私もあなたの苗字は知らないんだ」
リゼット「ラヴァンシーです リゼット・ラヴァンシー…」
ダステ「……ラヴァンシー?」
同じ名前を知っている こんな偶然…
どこまでが 思い通りかわからない 偶然というのはあるのだろうか この世界で 偶然に思えることも全て 運命
ギュスターヴの顔色が悪くなったのをリゼットは気づいた
リゼット「大丈夫ですか?」
ダステ「ヴェルダンで 同じ名前の男と…」
リゼット「…もしかして 兄と…?」
ダステ「わからない 良く覚えていないが彼とは話をした覚えが…」
リゼット「名前は…?」
ダステ「……同じ小隊だった男なら覚えているかもしれない もしそうだとしたら……」
リゼットは戦場での兄を知っているかもしれない彼を 悲しそうな顔で見ていた
ダステ「私は…すみません その…もう仕事に戻ります…」
リゼット「あぁごめんなさい ただもし…もしあなたが良ければ その…兄かどうかを…」
戦地での出来事を思い出すことを リゼットは無理強いしたくなかった もしそのラヴァンシーが兄なら…死んだ仲間の姿を思い出すことになるのかもしれない
彼の顔色から 過去の話をするのが辛いというのは伝わった 誰しもがそうだろう ヴェルダンの戦地の悲惨さは リゼットも知ってはいた
ゼロの言う通りなのかもしれない 確かに少し心に変化はあった だが同時に過去の記憶が蘇る
辛いことの方が多かった人生だが それでも過去を受け入れ 自分を認めたい
昔の夢をいまだに見る 酷い悪夢だ
誰かに話せば 楽になるのだろうか
これを自分の過去だと認め その上で人に話せるだろうか それを話して 相手に何を言って欲しいのだろうか ただ聞いて欲しいだけなのだろうか
リゼットは過去の夢を見た
まだ家族を失っていなかった 幸福な日々の夢を
家族はみんな笑顔だった 心は喜びで満ち溢れていた 花を愛する妹と同じように 彼も花が好きだった
幸せな記憶 忘れたくない 兄の記憶
兄のために 笑顔で過ごそうと決めた 兄は家族の幸せを願い 戦ったのだから
ギュスターヴは 過去の夢を見た
まだ足を失っていない頃の…しかし何も持ってはいなかった頃の…
幸せな日のことを思い出すと 今が辛くなる だから全て忘れたかった
自分は幸せになってはいけないのだと思い続けたら 笑うこともできなくなった 帰ってきても何もない自分より 生きていて欲しかった人たちが あの場所にはいた
目を覚ます 嫌な夢を見た気がするが 今日は不思議とすぐに忘れてしまった
その方がずっといい
マキシミリアンといつも通り駅の様子を立ち止まって見ていると 側に小さなスケッチブックと鉛筆を持っている少年がくる
なぜかジッとギュスターヴの足を見て ずっと鉛筆を動かしている
どうやら左足をスケッチしているようだ 一切の許可なく 声掛けもないままに
ダステ「ヒューゴ せめて一言声をかけろ 君は礼儀を知らないのか?」
ヒューゴ「ごめんなさい でもどうして僕の名前を…」
ダステ「前に君と一緒にいた子が教えてくれたが?従兄弟とかなんとか」
ヒューゴ「あれはあなたにバレないように…でも名前は確かにヒューゴだよ ヒューゴ・カブレ」
ダステ「…やっぱりクロードの甥か」
ヒューゴ「…うん」
喋りながら まだ何か書いている
足をジッと見られるのは不快だったが やめる気がないらしい
ダステ「許可もなく人の足をジロジロ見るな」
ヒューゴ「…ごめんなさい」
ダステ「…何がしたいのかわからないが それより裏の荷物をどうにかする手伝いでもしてくれ クロードの荷物は全部こっちで処分していいのか?」
ヒューゴ「おじさんの荷物はほとんどないよ 僕のも…」
ダステ「少ししかないからすぐにでも片付けたいんだ 後任が来る前に」
ヒューゴは頷きスケッチブックと鉛筆をポケットにしまう
ギュスターヴが駅の裏側へ向かうヒューゴについていく
少しの間だが 彼が過ごした場所に
ヒューゴの言う通り 物はほとんどなかった
綺麗にまとめてしまうと ヒューゴは持ち帰るわけにもいかないからと 処分を頼んだ
ダステ「…全く君には苦労させられた おかげで装具が悪くなってしまった」
ヒューゴ「あの 僕 修理は得意なんです お詫びに 僕が直しても…いいですか」
ダステ「君が?」
まとめた荷物を抱え ギュスターヴとヒューゴは駅の中に戻る ヒューゴも運ぶのを手伝い 一緒に公安官室へ戻る
ダステ「まぁ 直せるなら…」
ヒューゴ「もちろん!パパ・ジョルジュにも見てもらいながら やりますから」
ダステは適当な布に包み 悪くなった補装具をヒューゴに持たせた 彼はすぐにおもちゃ屋の方へ駆けて行った
ダステ「…機械が好きで私の足を見ていたのか…?」
機械…ではないよな と足の装具を見る
まぁやりたいならさせればいいかと思っていた どのみち処分しようかとも考えていたのだから 治るなら都合がいい
ゼロ「彼は主人公だから 気を許してるのかいギュスターヴ」
いつの間にか隣に変装したゼロがいた
いつもの目立つ見た目を うまく隠しているが 声と目でわかる
ダステ「なんでここにいるんだ」
ゼロ「様子見に来た ずいぶん彼のしたいようにさせてるみたいだね」
ダステ「…そうだな」
ゼロ「優しさ?」
ダステ「片付けを手伝ったかわりに 好きにさせようと思っていただけだ スケッチじゃなく修理になったが…」
ゼロ「優しさだねぇ」
ゼロは笑いながらギュスターヴと別れる
そのまま下の花屋へ向かう
リゼットは到着した花を売り場に並べていた
ゼロ「こんにちは」
リゼット「こんにちは」
ゼロ「綺麗な花ですね…実は贈り物をしたいんだけれど 選ぶのが苦手で…代わりに選んでいただきたいんです」
リゼット「もちろん どなたへの贈り物ですか?」
ゼロ「友人に 出会って10年経つので 記念にいつも集まる場所に飾れる花をと思って…」
リゼットは話を聞いて 花を選ぶ
ゼロはその様子を嬉しそうに眺めながら 待っていた
すると駅を一周してきたギュスターヴが 花屋でリゼットと会話しているゼロの姿を見つけた
ダステ「ゼロ もう帰ったのかと…」
ゼロ「ほんとは花買いに来たんだよ」
リゼット「お知り合い?」
ダステ「あぁ10年くらいの付き合いの友人で…」
ゼロ「さっき言った友人の1人です 10年記念で花を飾ろうと思ってさ」
ダステ「もうすぐ11年になるんだが…」
ゼロ「急に思いついたの!」
仲良さげな2人の横で リゼットは花を選び終える ゼロは花束を見て 嬉しそうに満面の笑みを浮かべる
ゼロ「どう?これなら何にもないあの場所も少しは華やかになると思わない?」
自分でも出せるだろうにわざわざ買いに来たのは この物語の世界が好きで現実化させたからなのだろうか わからないが 楽しそうではあるし 綺麗なのは否定できないので 頷いた
代金を払うと ゼロはそのまま駅の外へ出て行った
ダステ「…あっちから帰るのか」
上に戻るのはおかしいといえばおかしいが その辺りはきっちりしているのだなと 小さな声で呟いた
花はというとトビーとタイムから非常に好評で ゼロも満足していた
…久しぶりに連絡を取る 今もこの番号が 彼に通じればいいが…と思いながら 受話器を取る
ダステ「ファリエール?」
ファリ「ダステか?久しぶりだな」
ダステ「あぁ久しぶり…実は聞きたいことがあるんだ」
ファリ「…なんだ?」
ダステ「ラヴァンシー伍長 覚えているか?」
ファリ「もちろん 同じ分隊だったから」
ダステ「…あぁ同じだったか?そこまで思い出せなくて…」
電話の相手はレナルド・ファリエール
生き残った同じ分隊の仲間の1人で 時々連絡を取り合っていた
ファリ「そういえばフーツさんのことも覚えてなかったくらいだもんな みんな同じ分隊だったぞ」
ダステ「…あぁそういえばそうだった」
ファリ「そのラヴァンシーがどうかしたのか?」
ダステ「いや 彼の名前 なんだったかと思ってな」
ファリ「名前…?アンドレ=ギュスターヴ…じゃなかったか?ほら 同じギュスターヴって名前だから…仲良くしてた 俺は覚えてる」
いつかの夜 彼は同じギュスターヴという名前だと知ってから よく気にかけるようになっていた いつの間にか 人を避けていたギュスターヴも 彼とはよく話すようになっていた
初めての友人になるかもしれなかったほど 仲が良かった
彼はいつも みんなに家族の話をしていた
妹の影響で 花に詳しいと 知識を披露していた
まだそんな話をする余裕が あった頃…
アンドレ「僕は家族が笑って暮らせるように 戦ってる 絶対に無事に帰って 安心させたい」
ファリ「ラヴァンシーは本当に家族が好きだな」
アンドレ「みんなだって 大切な人のためなんだろ?」
ファリ「恋人のためかな 俺だって帰って抱きしめてやりたい きっと心配してる」
きっとすぐに終わると 帰れると 思っていた頃
記憶が 蘇る
ファリ「…ダステ?どうした?」
ダステ「あぁいや ありがとう これでわかった」
ファリ「…なぁ 次の休み いつだ?会って話をしよう 急にラヴァンシーの話をされたんじゃ 心配になる」
ダステ「なぜ心配するんだ たまたま思い出しただけで…」
ファリ「最近全然会ってなかったろ?いいじゃないか」
ダステ「……君こそ いつ休みなんだ」
ファリ「仕事はまたクビになった 暇なんだよ フーツさんも呼ぼう」
ダステ「彼なら家出した奥さんが帰ってきたばかりでバタバタしてる」
ファリ「家出?なんだよその話気になるな…よし絶対に会おう」
ダステは予定を確認する
空いている日を伝え 場所と時間をファリエールから伝えられ 電話を切る
END