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第一章 出会い そして

何を知るのだろう

1月に出会った彼らが 時々集会所へ来ては 自分たちの世界での 近況を話したり ゼロが自らのことや想造に関して話したり…仮の友人であった彼らも 無理矢理にでも付き合っているうちに少しずつだが 壁がなくなってきたように見えた

ある時“Les Misérables”のプレートの下 その年月日が赤く光った日があった
1818年 気づけば春になっていた


ピレリ「それで預かったのか?」
ティナ「あいつがうまくやったのさ お陰で金ができた」
公安官「あぁ…奥さんが…」
ティナ「危ねぇとこだった うまく運がめぐってくる時ってのはあるもんだな」

その日が赤く光る日だったことは 日中のことだったので誰も知らないでいた

…それにしても 慣れは親しみを生むのか?ぱっと見では彼らは友人には見えた

テナルディエがどれだけ極悪人だという感想しか出てこないようなことを言おうと…してようと ピレリもギュスターヴも何も言わなかった 普通に話を聞いていた

彼らは互いに直接的な手助けができない
困窮する彼に手を差し伸べられないのに 彼のすることに文句は言えない
そういう考えだった


ティナ「ほら コレット…だったけか やつが」
公安官「……コゼット」
ティナ「そうだコゼット」

1818年
テナルディエがコゼットを預かった年
母親のファンティーヌから この先長く金を巻き上げるのだろう 話の通りなら

ギュスターヴはあれから モンパルナス駅の本屋 ラビスに頼み レ・ミゼラブルを順に借りて読んでいた
仕事の休憩中や 仕事終わりの眠る前
とにかく時間を見つけてあの長い話を読んでいた

間にスウィーニー・トッドや鏡の国のアリスについても調べていて まだ途中までしか読んでいなかったが それでもテナルディエのこの先についてはある程度わかっていた

それでもここで会う彼は 受ける印象が違う
“演じた人物”の影響なのか 本と違い (自分と同じ)背の高い人物で 赤毛の髪も声も明るい

暮らしは本と変わらないようだが 彼自身は違うように感じる
もちろん…その内側に潜む 彼がここでは出す必要がないと思っている暗い悪人の部分はどこかで感じ取ってはいた

鏡の国のアリスには タイムはいなかった
不思議の国のアリスにすら 彼はいない
ますます彼という存在がわからない

ギュスターヴが知ることができたのは テナルディエだけだった
それ以上はどうしても 知ることができない


ゼロがやってきて 何を飲むかの質問をする
恒例にもなってきたこのやりとりに ギュスターヴがついに折れてテナルディエとピレリの酒に付き合った


仕事で飲みなれたというテナルディエと睡眠薬代わりだと容易く飲み干すピレリ
いつも朝早く起きる彼は基本酒も飲まず 食事だけしてさっさと寝てしまう
影響が出ることのないようにしていたかった

ゼロ「アルコール抜けるよ?何でもできるから 酔いも疲労もなんでもー」


その言葉があって 断りづらくなった
気づけば彼らともそれなりに仲良くなり 100%気遣いなどなし 友情なんて感じたこともないが それでも酒を飲み交わすのがそんなに喜ばしいのかと思うと 応えてやろうという気にはなった


そんな4人に 時折混ざるタイム

この数ヶ月で ようやく…ある程度理解はできたが 彼は時間自身で 時間の化身とやらで…アンダーランド…おそらくは不思議の国のアリスで迷い込んだ世界…そこの時間らしい
時間自身が目の前にいる というのがなんとも不思議だが……まぁ不思議の国の…だ

彼はいつも アンダーランドにとって大切なものを守り またその生命を管理…死んだら墓に入れてやる ということをしているらしい

ゼロがいつも入るなと念を押すので 余計に気になる彼の扉の先
フランスでもイギリスでもないアンダーランドの…彼の城

多少親しくなってくると もっと知りたいと思うようになってくる
100年前のフランスに 少し興味がわく 決して見ることのできない過去の世界

逆もまた然りで テナルディエは 1900年代のフランスには興味があった
こちらもまた どうしたって見ることのできない世界だ

異世界のアンダーランド 100年違いのフランス

自分の仕事に関することしか趣味も興味もない彼らだが この状況は 無視できなかった

ゼロは言った タイムの世界にだけは入るなと

ということは 他は別に構わないということだ
誰かが口にすることはなかったが いつかどこかでタイミングさえ合えば 行ってみたかった
そんな経験 不可能すぎて出来やしない


この思いすら ゼロの作り上げた物だとしても 悪い気はしない



ところでそんな中 テナルディエがずっと気になっていることがあった
他の世界のことも気になるが まずとある彼個人に関してだ
彼はタイムやゼロに対してはもちろん ピレリに対しても その話を興味深く…新鮮な反応で聞いているが なぜか自分の話を聞くとき 全部が全部ではないが…一度聞いた話を聞くようだ


テナルディエは 頭は良くないが勘は冴え観察力がある


ゼロは言った 自分の物語は読めないと


じゃあなんだ 他人のは読めるのか?
もし仮に 本を手に入れたなら 読めるということか?


最初から まるで自分を知っているような
なぜ知ってると言わないのか

テナルディエはギュスターヴを見る

彼は最初の頃 自分たちと話すのを嫌がった 必要以上に他人と関わり合いたくない割に 宿の仕事はいいのかと 自分に聞いてきた

彼は自分を知っているから 最初から少しだけ興味があった 自分の知っている人物が目の前にいたから


なんて感じに考えると 彼はテナルディエの物語を知っていることになるが

もし仮に 自分が受けた印象通りやつが思って話していたなら


あれこれ聞かれるのを嫌がって 最初から隠した?


ティナ「(勘が当たっていても 内容を教えることはまずないか?)」

ゼロから聞き出すより こっちの方が簡単そうに思える
もし知っているなら ゼロに強く言われている可能性もあるが

しかし 仲をより深めれば…?



ゼロは利用するだとかを考えずに済む友人になれるだろうと言っていたが テナルディエはそうはならないようで
ゼロとタイム ギュスターヴと親しくなろうとしているのは未来を知り 不都合を避けるためだった

可能かは別だが 抗わないのは勿体無いと思っていた


彼はテナルディエのことをどれくらい知っているのだろう そもそも本当に知っているのかは完全に別だが


ピレリは例外だったが…
テナルディエより時代は後だが本の存在を知らない
それこそなんの気兼ねもなく ピレリも彼をどう使うかなんて考えていないから より…より…


それで テナルディエはいつ 自分を知っているかどうかを…ギュスターヴに問おうか悩んでいた
もう少し彼の心が開いたように感じてからがいいだろうか それとも いっそ早いうちに聞いてしまうか

否定されたら信用する他ない 彼の世界に行って 本棚を漁って…なんてことは彼に対してはしたくない

そこまでするなら ゼロに聞く

それにそこまでして問い詰めて聞いたところで 本の内容でわかることの少ないような…出番のない 脇役中の脇役な人物だったら…それはそれでがっかりする

ゼロがたった1ページしか出ないものの何かしら印象に残る言葉をいうような…重要だがその程度な人物ですら この世界へ招くような奴なら…あり得ない話じゃない

嫌っているわけじゃない ピレリも ギュスターヴも タイムも むしろこの場で楽しくやるのは全然構わない 未来を知りたいという思いと共に 確かに少しぐらいなら本音で喋ってやってもいいような奴らだ

自分にとっては悪い連中じゃない

ティナ「(…公安官 お前は何を知っている 少しも話せないような 未来か?聞けばあっさり答えるほどのことしか…起こらないか どっちだって聞き損には…ならないはずだ 答えないという結果もあるだろうが…しかし)」


単純に それのせいで彼との距離があくのは…ここへ来づらくなる


さてどうしたものか…




そこから数日 ギュスターヴに会ってもテナルディエは聞かなかった
そして少し空いて…夏の頃


公安官「テナルディエ 私に対しあれこれ質問しないと言えるなら 真実を告白しよう」


突然ギュスターヴがそう言った

ピレリと3人で話をしている時…普段は夜中に集まる彼らが珍しく昼にいた

ピレリは市場の小屋に行く日のため店を閉めているらしく テナルディエは暇でしょうがない日で ギュスターヴは昼休みを取っている時間だった

その前置きをされた時 テナルディエは春の間 頭の片隅に置いていた例の問題なのではないかと思った

ティナ「わかった ごちゃごちゃは聞かない」
公安官「…そうか」

ギュスターヴは最後まで 言おうか悩んでいた
どのみち詳細を話すことは出来ないが 最初の頃に嘘をついたことがどこかで引っかかっていた

公安官「実を言うと 最初に会った時に…君の名を聞いて気づいて その次会う時には嘘をついたことがある 君のことはゼロから聞いたと話したが あれは嘘だ あの時咄嗟に嘘を言ったことが引っかかっていて…すまない 自己満足でしかないんだが…謝らせてほしい」
ティナ「あぁあの日か 既に懐かしい あの頃のお前は…無口なやつだった」

真面目な奴だとテナルディエは思った
そんなことをいちいち謝るよりも その先が早く聞きたかった

公安官「それでその…つまりはだな 私は君を知っている ゼロの言う通りなら 発行年より後の話だから 本があるんだと思う…全部読み終えたのは施設にいた頃だ 君の名前はなんとなく覚えている程度だったが題名を聞いて思い出したよ」


公安官はもう嘘をついている様子はなかった

ティナ「それで?改めて全部を読み直したとか」
公安官「長い話だ 読んでいない」
ティナ「そうか まぁこれ以上は聞かないさ 聞くなという約束だ」
公安官「あぁどうも 助かるよ」
ティナ「隠し事はなくなったわけだしな 気にするな 変えられないという未来は 知るだけ残酷だろ?」

ギュスターヴはいつもの真面目な表情で首を振った 残酷かどうかはわからない…と

ピレリ「私は知らないのか?」

話題に参加できないでいるピレリがそう聞くと ギュスターヴはまた首を振る
ピレリは残念がり ギュスターヴは説明を始めた

公安官「それがさっぱりわからなくてな スウィーニー・トッドという題名の話を知っているかと本屋の主人に聞いたが かなり詳しい彼でもわからないと答えた 君のは相当後にできるみたいだな」
ピレリ「そうか…少し興味があったんだけどな」

公安官が振り返ると 扉の時刻を示す数字が 昼食をとる時間になっていた

公安官「そろそろ昼食の時間なんだ みんな今夜は来るのか?」
ティナ「来るさ」
ピレリ「みんな来るなら 私も来よう……さて 私もそろそろ市場に行く時間だ」
ティナ「タイムもゼロもいないし 俺も戻るかな」


そうしてギュスターヴとピレリはそれぞれの扉に戻り テナルディエだけは後少し休憩してから戻ろうかとまだ座っていた

するとしばらくした後 普段は何もない壁に扉が現れた
タイムの扉の左隣 ゼロだ

ティナ「ようゼロ」
ゼロ「あれ テナルディエ 今日暇なの?」
ティナ「残念ながら客がいない」
ゼロ「ずっと1人?ダステとかピレリあたりは来てたりしなかった?」
ティナ「さっき帰ったところだ そういえばダステが”Les Misérables“を知ってるって言ってたぞ」
ゼロ「あーーそっか1921年ならあるか」


そう言いながら 彼女はいつもの動きをして 手を振った

ティナ「想造力使って何してるんだ?」
ゼロ「掃除ー こんな世界でも埃はあるからね 集めてるの」
ティナ「はぁ なるほど……ところで 俺たちの世界は完全に別世界ってやつなのか?あいつの時代に本があるし」
ゼロ「えーっとね 君とタイムが同じで ピレリとダステが同じ 私は完全別」
ティナ「じゃあダステが今イギリスに行ったら 歳とったピレリがいるってことか」
ゼロ「そうかもね…長生きしてれば……でも繋げたのはさ舞台も時代も違うから 一緒にして世界を作った方が楽だったんだよ スウィーニー・トッドの物語のせいでフランスがどうかなるわけじゃないし」
ティナ「全部一瞬なのに 世界一個分の手前を省くのか」
ゼロ「いやぁ……世界作るのは大変なんだよ…過去があって今があるから 人類史ちゃんと再現してから物語に繋げないといけないし…」

掃除が終わったのか ゼロは椅子に座り 机の上でいつもの動作をした後手を振った

ゼロ「ただレ・ミゼラブルとヒューゴをつなげられないし スウィーニー・トッドと鏡の国のアリスを繋げられない 時代は違うけど 国内の歴史がおかしくなるから 影響が出やすい なので ここは別にしたわけさ」
ティナ「色々頭を使うんだな 便利な能力でも」
ゼロ「想像の力だから…頭で理解してないと全部上手くいかないんだよ 難しいよー?」
ティナ「俺には無理だな そりゃ」
ゼロ「……あ ごめん 掃除しに来ただけなんだ この後タイムのとこ行かないと…」
ティナ「俺も戻るとこだ 話をしてくれてありがとうゼロ」
ゼロ「えっ あ こっちも ただ語りたいだけなのに付き合ってくれてありがとう」
ティナ「今夜3人で集まるが お前も来るか?」
ゼロ「もっもちろんいくよ」

そのままテナルディエは自分の扉へ戻っていった
ゼロはまさかテナルディエが自分に対して 仕方なくでもない様子で”ありがとう“なんて言われるとは思わず 驚いてしまった

ゼロ「テナルディエって…お礼言うんだ…いや驚いちゃ彼に失礼か……」

反省して 椅子とテーブルの位置だけ綺麗に調節した後 すぐにタイムの元へ向かうために扉を開いた

ゼロ「…名前覚えられてるけど それでもまぁいいのかなぁ」

そのまま 歯車の回る城の中を奥へと進んでいった




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