第二章 アドルフォ・ピレリ
トビアス・ラッグ
数日狭い場所に入れられていたトビーだが なんの解放感もなかった
ずっと 心が空っぽになったように ぼうっとしていた 確かにこれでは 犯罪に加担できるような子供には見えなかっただろう 事実してはいなかったので 間違いではない
喪失感 それは心の中にあるから何もなかった
一夜にして 感情がごちゃごちゃになった
優しかったラベットが 殺人鬼のトッドと共犯で しかも人肉のパイを作り 客に出していて 自分も食べた
人の肉のパイ 店の客のパイ 指
ピレリは死んでいた 殺されていた あの日 パイにされてしまった そのパイを 自分は食べたのか?
おぼつかない足取りで それでもなんとか歩く
帰らないと でも どこに?
ラベットの店には戻れない あそこは全て片された後 取り壊すらしい 人々が事件そのものを忘れ去るために そのパイを食べたことを忘れるために
じゃあどこに
気づけば 聖ダンスタン市場を抜け よく知る道に来ていた 自然と足は この場所に向かっていた
トビー「…開いてる」
家主のいなくなったコリンズ理髪店
休業の札はかかったまま あれ以来誰も戻っていない
店の中は時が止まったように 何もかもが家を出たあの時のまま
あんなに嫌な思い出ばかりの場所なのに 妙に安心した
2階の元自分の部屋を開けてみる
数ヶ月間のことだが 懐かしい部屋に感じる
ピレリの部屋を覗く 机の上には あの剃刀ケースが置いてある 横にはペンとインクと封蝋が置いてあるが 書いていたであろう手紙はない 片付けずに出かけたのだろうか
ふと 壁を見る この数ヶ月間 幸せな日々の中 何度か壁の向こうの友人たちのことを思い出した
壁の向こうでは まだ彼らが このことを知らないまま 過ごしているのだろう
扉の向こうから 階段を上がる足音がする
まさか 誰だ ピレリは死んでいるはず まさか泥棒?強盗? 机の下 すぐにバレる どこに隠れよう
考えているうちに 扉が開く
リドルフォ「トビー!ここにいたのか…もう釈放されたと聞いて…探したぞ」
腕に箱を抱えて リドルフォが来ていた
驚いているトビーに笑いかけ 一旦荷物をベッドの上に置いた
リドルフォ「戻っていたんだな」
トビー「……行く場所がないから でも ここだって もう僕の居場所じゃない 少し休憩してただけなんです すみません すぐ出ます」
リドルフォ「どこへ?」
トビー「どこかへ…探します」
リドルフォ「見つかるまで ここでもうちにでもいればいい 私はそのつもりだよ だがその前に あの店から君の荷物を取ってこよう 地下は片付けられていたが…もし難しいなら 私が代わりに」
リドルフォは努めて笑顔で語りかける
暗闇の中に沈む子供を見るのは これで2度目だった そして今度こそ救いたかった
トビー「…どうして 僕にそうしてくれるんです ピレリさんの従兄弟だから?」
リドルフォ「私の罪滅ぼしだからだ 嫌かも知れないが やらずにはいれない」
トビー「罪滅ぼし?あなたは罪を犯してない 僕とは違う 潔白の人でしょう」
リドルフォ「まさか 私なんぞが潔白とは」
そう言ったリドルフォの乾いた笑いを ずっと暗い 睨むような目で見ている
リドルフォ「私もアドルフォも 同じようなものだ だからせめて 助けになりたい こんな老人だがね」
トビー「…僕は人殺しの人食いなのに」
リドルフォ「あのパイを食べたから?ならあと何十人の人食いがロンドンに野放しだろうか それに あの時の殺していなければ 君の命が危なかった 助かるための判断だ 時にそうした殺人は起こる 凶悪な殺人鬼相手なら 尚更」
リドルフォはしゃがみ トビーの手を取り 優しく頭を撫でる
絶望の中にいる 暗く沈んだ瞳 こんな言葉を言ったところで 響くことはないとわかっている だが言わずにいられない
トッドたちがそんな殺人を行っているとまでは知らなかった だがあの時 友を裏切ってでも バラすべきだった 復讐劇の果てを見て リドルフォはようやく目を覚ました
復讐に身を捧げるあまり 冷静さを失っていた
ジョアンナを助け出す方法を ターピンを殺す以外で考えれば良かった 本当にルーシーは死んだのか 調べ上げればよかった
そういう時だけ まるで復讐の理由を失いたくないかのように それ以上考えなくなってしまった
リドルフォ「…本当にすまない」
トッドはもう かつての友人ではなかった それを受け入れられなかった
アドルフォはもう かつてのデイビーではなかった それを受け入れられなかった
リドルフォはずっと目を逸らし続けていた 自分にとって不都合な事実全てから
その結果がこれなのだと 考えていた
後日トビーはリドルフォと共に ミセス・ラベットのパイ屋に来ていた 本当は来たくなかったが リドルフォだけに任せるのが あまりに申し訳がなく ちゃんと自分でやりたかった
別に そんなに大事なものなんてない 絶対に取りに戻りたいものなど
しかし トビーのものでない物のうち リドルフォはもしかしたら 取り戻したいかもしれないものを探しにきた
証拠だから 回収されたかもしれない
恐る恐る中へ入る
一階では何事もなかったので 綺麗な状態だった しかしピレリの店とは違い ずっと心がゾワゾワして落ち着かない
いろんな記憶が蘇る 気分が悪い
リドルフォ「…トビー やはり私が行こう 部屋はどこだ?」
トビー「そこを右に」
暖炉のある部屋 隣にはピアノ
あの辺りだ ラベットがピレリの財布を持っていることに気づいたのは
リドルフォ「…ここか?」
トビー「……あった」
指を指す先 床の上 赤い財布 ミセス・ラベットが投げ捨てた財布
トビー「ピレリさんの 財布です 多分 あの人のもので残ってるのはこれだけ あなたに どうしても…」
トビーはピレリの家族であるリドルフォに 唯一残ったものを渡したかった リドルフォだけは今も昔も 信頼できると思っていたかった
リドルフォ「あの子の…」
トビー「これだけどうしても 場所がわかるのは僕だから あなたのために 後のものも 僕が取ってきます だから 今は…」
リドルフォ「…あぁありがとうトビー ありがとう…」
中には まだあの金貨がある
リドルフォ「デイビー…使わないでいたんだな そうか…そうだったんだな…」
トビーは使えそうなものだけ持ち出して 箱に詰めた 今持ち出さなければ 次にこの場所にくる時には もうこの店はないだろう
いい思い出の方が多い場所ではあった
でも名残惜しくもなんともない 無くなるなら 早く無くなってしまえばいい
自分の罪も 燃やし消されてしまうものなら いいのにと 思う
トビー「リドルフォ もう帰りましょう」
リドルフォ「あぁ もういいか?」
トビー「はい」
そうして トビーはその店と 別れを告げた
フリート街の悪魔の店は もう無い
コリンズ理髪店に戻ったトビーとリドルフォ 片付けも全て済ませ 下のキッチンの机に向かい合って座り 話し合う
リドルフォ「…それで 今後はどうする…ここにいるのか?」
トビー「いても いいとあなたが言うなら でも…それ以上は」
リドルフォ「…私に教えられるのは 私にできることだけだ 理髪の仕事のことだけ」
トビー「いいんです ただ 1つ 僕はやらないといけないことがあります このことを伝えないといけない人たちがいます それが終われば僕は…」
壁の向こうの友人 なんて話 できなかった
あの壁のことは 秘密だった
トビーも どう説明しようか そもそも話していいのかわからず にごしながら説明した
トビー「まだ知らないんです でもちゃんと伝えます」
リドルフォ「…そうか…トビー またすぐにここに来る この財布は君に渡しておく 中の2ポンドは使いなさい」
トビー「ありがとうございます」
リドルフォ「それと…アドルフォのことなんだが もし君が知りたいと思うなら…あの子がしようとしていた話を…」
トビー「なぜそれを…?」
リドルフォ「私宛の手紙に書いてあった…」
トビー「…あなたも知っているんですか?」
リドルフォ「そうだ そしてそれより多くのことを」
後日リドルフォはトビーに全てを話す
伝えなければと トビーは壁の中に入る
その日までずっと彼は泣いてはいなかった それなのに 何故かピレリと同じ彼らの声を聞くと 涙が込み上げた
集会所の楽しかった日のことを思い出した 彼らが 自分に優しかったのを思い出した
あの日以来何があったのか話し ピレリの死を伝える
手にあの財布を持っていったのは それが唯一の遺品だったからだが ゼロはそれで気づいたようだった
そしてまた家に戻る すると 壁を抜けた後から ゼロがついてきた
トビー「ゼロ?」
ゼロ「実はピレリはダステとテナルディエに 話すと言っていたらしいんだ 君を引き取った理由も 彼の…隠し事全て…もし話せるなら いつでも 私たちはあの場所にいるよ」
それだけ伝えると ゼロは壁の中に戻った
全て終わった今 あの日果たされなかった約束を…
トビー「ピレリさんの過去と 僕らに何があったのか これが全てです」
誰もが 黙っていた
その全ての話を聞き終わって わかった
ピレリは自分自身に関して 最初に名乗った時に偽の名前の方を言ってしまった
結果トビーが来ることになったので それはそれで その時の彼からすれば正解だった
彼は偽名を名乗ったことを 話そうとしていたのだ 本当の名前で 彼らの前に立とうとしていた
そしてトビーとのことも
ピレリからリドルフォへ当てた手紙には トビーに全て話したあと リドルフォの元で預かってほしいという内容とトッドの理髪店に関することが書かれていた
彼はずっと トビーを一度でも殺そうとして そのために引き取ったことに対し 罪悪感があった だから理由を伝えられず 隠し続けてきた
それを明かそうとした矢先に殺された
その全てを知った
話を聞き終わったあと テナルディエは立ち上がり 何も言わずに扉の中へ戻っていった
けれど誰も止めなかった
何も かける言葉は見つからない
ミートパイを食べたことと 殺人鬼とはいえトッドを殺したこと トビーは罪だと思っていた
彼らに何があったかを知ってしまった
誰もが哀しい過去を抱えながら 刃を向けた
復讐が また新たな復讐を生んだ
トビーは自分も同じだと思っていた
彼もまた 仇をうつために殺した
抑えきれない復讐心が どれだけ心を支配し 人を動かすか 知ってしまった
トビー「…僕の役目はこれで終わりですもう終わり…ありがとうございました」
そう言って立ち上がる トビーが帰ろうとすると ゼロが部屋から消えた
ゆっくりと歩くトビーよりも先に 2人が部屋を出たので 残ったのはギュスターヴとトビーだけだった
トビー「…ダステさんも 長い話を聞いてくれてありがとうございます」
公安官「待つんだトビー 君はこれからどうするんだ?リドルフォのところに行くのか?」
トビー「行かないです もう僕は何もしたくないので」
公安官「だが 君が行くか彼が来るかして 一緒にいるべきだ 信頼できる大人なんだろう 子供には 保護者が必要だ」
トビー「僕はもう14です それに僕はもうリドルフォに迷惑をかけたくない ダステさん 僕にはもう 生きる理由なんてないんです こんな人生…」
公安官「そんなことはない…」
扉に手をかけるトビーを止めようと ギュスターヴは立ち上がる すぐに彼のそばに…しかし歩き始めた途端 補装具の関節部分が固まり 甲高い キィッという音が響く
公安官「……ちょっと待ってくれ」
ギュスターヴは気まずい空気に耐えながら 補装具をグッと押し込み 直す
こういう大事な時に限って こんなことになるなんてと思いながらいると トビーの方がギュスターヴの元に駆け寄ってきた
トビー「…大丈夫ですか?」
公安官「あぁ いつものことだ」
トビー「そうですか…それじゃあ 僕はこれで…」
振り向くトビーの肩を掴んで ぐるっと回して自身の方を向かせる
公安官「トビー またここに来てくれないか?今までのように ここで一緒に過ごそう」
トビー「僕は もう何も」
公安官「約束してほしい」
トビー「なにを…」
公安官「私は今度君に会いに行く 私の時代の君に」
トビー「…え?」
ギュスターヴは自分とトビーの扉を指差す 扉の上ではいつものように年月日と現在時刻が浮かび 秒数が揺れ動く
公安官「今生きていれば60近くだ 壁を抜けずに 私は会える 同じ世界だから」
トビー「同じ世界?どういうことです」
公安官「私と君は同じ世界の別の時代だ ゼロがそう作った だから君の世界ではそのうち私が産まれて 私の世界では君が60歳になっている」
トビー「…そんなことが?」
公安官「ピレリと約束していたんだ 実はそのために もうイギリスへ行く日も決めてあるしチケットも取ってある ピレリにはもう会えないが 君になら会えるかもしれない 私は 君に会いたい…ゼロは難しいことだと言っていたが…」
この話をピレリとしている時 たまたまゼロが集会所に来ていた
2人が同じ世界でその差は45年 ピレリが長生きすれば 今のギュスターヴと会える 壁を抜けずに 未来の自分が過去の…現在ではあるが過去でもあるギュスターヴと会う 同じ世界の 違う時代の交流があるからこそできる 普通じゃありえないことを やってみようとしていた その話を聞いて ゼロは確かにおかしくて不思議な体験になりそうだと最初は言った
ゼロ「ならまず長生きしなきゃ 平均寿命よりも長く それに健康でなくっちゃ トビーでも難しいかも…20世紀に入ってからを 乗り越えないといけないし…それに…」
ゼロはピレリがそんな時代まで生きていられないのを知っていた その上で それらしい理由の方を言い あきらめさせようとしていた
それでもギュスターヴは行くことにした
長期休暇を取り 海を渡ってロンドンへ
仕事以外のやりたいことを話すギュスターヴの姿を見て 上司や同僚はなぜか感動していたが とにかくもう準備はできていた
その矢先 ピレリは集会所に来なくなり 死んだことを告げられた
公安官「だからそれまで ここに来ていてくれ いつか私がいなくなった後でも 覚えておくんだ 1927年……嫌か?」
トビー「そんなこと 起こるんですか…それに 僕はここに来ていいんですか?僕は 悪人だとしても この手でスウィーニー・トッドを」
公安官「…正当化したくないのは わかる どんなにそれは正しかったと言われようと 残る感覚があるのはわかる」
トビー「どうして 共感なんて きっとあなたたちには」
公安官「戦地では それが正しいことだった」
左足の補装具を ほんの少しだけ見る
その一瞬だけ 嫌な光景が甦りそうになり 振り払うように頭を振る
トビー「それは状況があまりに…」
公安官「確かに 状況は全く違う 共感できると言ってほしくはないだろうが 昔の自分を見るような気分に 少しなった 状況は 違うとしても どこか…」
ギュスターヴはトビーに寄り添おうとしている こんな自分が ここにいる人たちのような人に 優しくされていいのだろうか
トビー「でも…でも!僕は…自分が…恐ろしいんです…」
自分の家でもないのに 安心できる集会所の中 心地のいい空気 静かで 余計な音のしない場所
居心地のいいようにと 想造された場所で ピレリと同じ顔のギュスターヴに 優しく手を握られている 生きている人の暖かさ
未だに あの暗く冷たい地下の焼き場で 消えない悲鳴と 揺れるオーブンと炎をただ見つめる自分がいる
この白く明るい部屋は 不似合いのように思えてくる
心の中と同じ 暗闇の中で 憎しみの心だけが燃える
トビー「剃刀を取った時 僕の頭の中には 目の前にいるあいつの首を切り裂くことしかなかった 殺してやると それだけ…ピレリさんやリドルフォの気持ちがよくわかるんです」
冷静さを失って むしろ冷静に見える動きになる 静かに 悟られないように
人殺しを恨んで人殺しをする そうなった時の自身の思考が 後になって恐ろしい
それこそ 辛い感情の逃げ場を失い トビーに向けたピレリのように 家族もろとも殺すこともできたかもしれないと言えてしまうリドルフォのように
復讐心の恐ろしさ 心を支配される 大きな感情
泣きながら訴えかける
トビー「僕は できてしまった 躊躇なく 行動できた そうすればこの感情が落ち着くことを知ってしまった この先僕は トッドのようにならないと そういえるんでしょうか いつかまた誰かを恨んだら 殺してしまえる人間になっていくんでしょうか それがわからない だってそうなった時にはもう 僕は支配されているんだ」
公安官「…そうなったら ここへ来ればいい ここで 話をすればいい ここはそういう場所でもあるからな」
トビーは 思っていたこと全てを口に出し その度ギュスターヴが答え 気づけば 少しだけ心が落ち着いているような気がした
公安官「頼ってくれていい 子供を守るのは 大人の役目だ 何より 私がそうしたい」
トビー「…じゃあ約束 してもいいですか」
公安官「あぁもちろん」
トビー「約束のために 僕 頑張ってみます 優しくしてくれた人のために…」
握手をして トビーはギュスターヴに笑いかける 彼の方はいつもより 優しい顔つきに見えた
ゼロ「……えっと いいかな?」
トビー「うわぁ!!」
公安官「ゼロ!いつからいたんだ!」
ゼロ「えっとーー…補装具が固まったあたり…」
トビー「か…帰ったんじゃ…」
ゼロが慌てて早口で 身振り手振りしながら騒ぎ出す
ゼロ「帰るって言ってはない…ね うん あの なんか邪魔できなくって 入り込む隙なくて あのごめんそのまま帰ればよかったんだけどあのその私もまだ君と会いたいよって入ろうとしちゃった私が愚かでしたごめんなさい声かけずに帰ればよかったごめんほんと雰囲気クラッシャーでごめん タイムがね トビーが過去の話してる途中の時にその扉を開けたら話してるのに気づいて入れなくてね 想造力かけて聞こえるようにしてあげててね それを解除しに行った上でタイム呼ぼうとしたらなんかその あ タイムもいます」
指を指すと ようやく扉を開けたタイムが その少し開けた隙間から顔を覗かせて 非常に気まずそうな顔をして その後ゼロを睨んだ
タイム「すまない邪魔をした こういう時のゼロはうるさくて敵わないな 黙らせる」
ゼロ「トビーがまたここに来てくれるとわかって嬉しくて ピレリのこと話してくれてありがとう 君の進む先に幸多からんことを願っているよ 私の友達…それじゃ 旅行の感想聞かせてね ダステ」
タイム「邪魔したな」
そう言って 2人は扉の向こうに消える
誰もが非常に真剣だった
ただ今は2人だけだと思って 素直に思いをぶつけていたので 側で入るに入れないゼロとタイムがいた上でやっていたと知ると いたたまれない気持ちになる
トビー「…ゼロさん もう以前のように戻ってますね」
公安官「いつものように 明るい場所にしたいのかもしれないな 最近は暗い話も多かったから…」
以前のようになってもいいのかもしれない
いつまでも引きずっていてはいけないことは 彼らの過去が教えてくれた
「彼らと別れ 君のことを思ってくれる人たちと共に 今日を 生きていこう 私とともに…ギュスターヴ…」
生きているのだから 前を向いて歩くしかない
いつかまた 暗い闇に沈む時 同じ場所を歩いて支えてくれる人がいる 引きずりあげて 抱きしめてくれる人もいる
公安官「…私も そうしていくかな」
トビー「その方がきっと いいんですよね」
生きていれば 良かったと思える日が 来るかもしれない
復讐の心だけあの日に忘れていって
トビーの人生は まだこれから 始まったばかりだった
END
数日狭い場所に入れられていたトビーだが なんの解放感もなかった
ずっと 心が空っぽになったように ぼうっとしていた 確かにこれでは 犯罪に加担できるような子供には見えなかっただろう 事実してはいなかったので 間違いではない
喪失感 それは心の中にあるから何もなかった
一夜にして 感情がごちゃごちゃになった
優しかったラベットが 殺人鬼のトッドと共犯で しかも人肉のパイを作り 客に出していて 自分も食べた
人の肉のパイ 店の客のパイ 指
ピレリは死んでいた 殺されていた あの日 パイにされてしまった そのパイを 自分は食べたのか?
おぼつかない足取りで それでもなんとか歩く
帰らないと でも どこに?
ラベットの店には戻れない あそこは全て片された後 取り壊すらしい 人々が事件そのものを忘れ去るために そのパイを食べたことを忘れるために
じゃあどこに
気づけば 聖ダンスタン市場を抜け よく知る道に来ていた 自然と足は この場所に向かっていた
トビー「…開いてる」
家主のいなくなったコリンズ理髪店
休業の札はかかったまま あれ以来誰も戻っていない
店の中は時が止まったように 何もかもが家を出たあの時のまま
あんなに嫌な思い出ばかりの場所なのに 妙に安心した
2階の元自分の部屋を開けてみる
数ヶ月間のことだが 懐かしい部屋に感じる
ピレリの部屋を覗く 机の上には あの剃刀ケースが置いてある 横にはペンとインクと封蝋が置いてあるが 書いていたであろう手紙はない 片付けずに出かけたのだろうか
ふと 壁を見る この数ヶ月間 幸せな日々の中 何度か壁の向こうの友人たちのことを思い出した
壁の向こうでは まだ彼らが このことを知らないまま 過ごしているのだろう
扉の向こうから 階段を上がる足音がする
まさか 誰だ ピレリは死んでいるはず まさか泥棒?強盗? 机の下 すぐにバレる どこに隠れよう
考えているうちに 扉が開く
リドルフォ「トビー!ここにいたのか…もう釈放されたと聞いて…探したぞ」
腕に箱を抱えて リドルフォが来ていた
驚いているトビーに笑いかけ 一旦荷物をベッドの上に置いた
リドルフォ「戻っていたんだな」
トビー「……行く場所がないから でも ここだって もう僕の居場所じゃない 少し休憩してただけなんです すみません すぐ出ます」
リドルフォ「どこへ?」
トビー「どこかへ…探します」
リドルフォ「見つかるまで ここでもうちにでもいればいい 私はそのつもりだよ だがその前に あの店から君の荷物を取ってこよう 地下は片付けられていたが…もし難しいなら 私が代わりに」
リドルフォは努めて笑顔で語りかける
暗闇の中に沈む子供を見るのは これで2度目だった そして今度こそ救いたかった
トビー「…どうして 僕にそうしてくれるんです ピレリさんの従兄弟だから?」
リドルフォ「私の罪滅ぼしだからだ 嫌かも知れないが やらずにはいれない」
トビー「罪滅ぼし?あなたは罪を犯してない 僕とは違う 潔白の人でしょう」
リドルフォ「まさか 私なんぞが潔白とは」
そう言ったリドルフォの乾いた笑いを ずっと暗い 睨むような目で見ている
リドルフォ「私もアドルフォも 同じようなものだ だからせめて 助けになりたい こんな老人だがね」
トビー「…僕は人殺しの人食いなのに」
リドルフォ「あのパイを食べたから?ならあと何十人の人食いがロンドンに野放しだろうか それに あの時の殺していなければ 君の命が危なかった 助かるための判断だ 時にそうした殺人は起こる 凶悪な殺人鬼相手なら 尚更」
リドルフォはしゃがみ トビーの手を取り 優しく頭を撫でる
絶望の中にいる 暗く沈んだ瞳 こんな言葉を言ったところで 響くことはないとわかっている だが言わずにいられない
トッドたちがそんな殺人を行っているとまでは知らなかった だがあの時 友を裏切ってでも バラすべきだった 復讐劇の果てを見て リドルフォはようやく目を覚ました
復讐に身を捧げるあまり 冷静さを失っていた
ジョアンナを助け出す方法を ターピンを殺す以外で考えれば良かった 本当にルーシーは死んだのか 調べ上げればよかった
そういう時だけ まるで復讐の理由を失いたくないかのように それ以上考えなくなってしまった
リドルフォ「…本当にすまない」
トッドはもう かつての友人ではなかった それを受け入れられなかった
アドルフォはもう かつてのデイビーではなかった それを受け入れられなかった
リドルフォはずっと目を逸らし続けていた 自分にとって不都合な事実全てから
その結果がこれなのだと 考えていた
後日トビーはリドルフォと共に ミセス・ラベットのパイ屋に来ていた 本当は来たくなかったが リドルフォだけに任せるのが あまりに申し訳がなく ちゃんと自分でやりたかった
別に そんなに大事なものなんてない 絶対に取りに戻りたいものなど
しかし トビーのものでない物のうち リドルフォはもしかしたら 取り戻したいかもしれないものを探しにきた
証拠だから 回収されたかもしれない
恐る恐る中へ入る
一階では何事もなかったので 綺麗な状態だった しかしピレリの店とは違い ずっと心がゾワゾワして落ち着かない
いろんな記憶が蘇る 気分が悪い
リドルフォ「…トビー やはり私が行こう 部屋はどこだ?」
トビー「そこを右に」
暖炉のある部屋 隣にはピアノ
あの辺りだ ラベットがピレリの財布を持っていることに気づいたのは
リドルフォ「…ここか?」
トビー「……あった」
指を指す先 床の上 赤い財布 ミセス・ラベットが投げ捨てた財布
トビー「ピレリさんの 財布です 多分 あの人のもので残ってるのはこれだけ あなたに どうしても…」
トビーはピレリの家族であるリドルフォに 唯一残ったものを渡したかった リドルフォだけは今も昔も 信頼できると思っていたかった
リドルフォ「あの子の…」
トビー「これだけどうしても 場所がわかるのは僕だから あなたのために 後のものも 僕が取ってきます だから 今は…」
リドルフォ「…あぁありがとうトビー ありがとう…」
中には まだあの金貨がある
リドルフォ「デイビー…使わないでいたんだな そうか…そうだったんだな…」
トビーは使えそうなものだけ持ち出して 箱に詰めた 今持ち出さなければ 次にこの場所にくる時には もうこの店はないだろう
いい思い出の方が多い場所ではあった
でも名残惜しくもなんともない 無くなるなら 早く無くなってしまえばいい
自分の罪も 燃やし消されてしまうものなら いいのにと 思う
トビー「リドルフォ もう帰りましょう」
リドルフォ「あぁ もういいか?」
トビー「はい」
そうして トビーはその店と 別れを告げた
フリート街の悪魔の店は もう無い
コリンズ理髪店に戻ったトビーとリドルフォ 片付けも全て済ませ 下のキッチンの机に向かい合って座り 話し合う
リドルフォ「…それで 今後はどうする…ここにいるのか?」
トビー「いても いいとあなたが言うなら でも…それ以上は」
リドルフォ「…私に教えられるのは 私にできることだけだ 理髪の仕事のことだけ」
トビー「いいんです ただ 1つ 僕はやらないといけないことがあります このことを伝えないといけない人たちがいます それが終われば僕は…」
壁の向こうの友人 なんて話 できなかった
あの壁のことは 秘密だった
トビーも どう説明しようか そもそも話していいのかわからず にごしながら説明した
トビー「まだ知らないんです でもちゃんと伝えます」
リドルフォ「…そうか…トビー またすぐにここに来る この財布は君に渡しておく 中の2ポンドは使いなさい」
トビー「ありがとうございます」
リドルフォ「それと…アドルフォのことなんだが もし君が知りたいと思うなら…あの子がしようとしていた話を…」
トビー「なぜそれを…?」
リドルフォ「私宛の手紙に書いてあった…」
トビー「…あなたも知っているんですか?」
リドルフォ「そうだ そしてそれより多くのことを」
後日リドルフォはトビーに全てを話す
伝えなければと トビーは壁の中に入る
その日までずっと彼は泣いてはいなかった それなのに 何故かピレリと同じ彼らの声を聞くと 涙が込み上げた
集会所の楽しかった日のことを思い出した 彼らが 自分に優しかったのを思い出した
あの日以来何があったのか話し ピレリの死を伝える
手にあの財布を持っていったのは それが唯一の遺品だったからだが ゼロはそれで気づいたようだった
そしてまた家に戻る すると 壁を抜けた後から ゼロがついてきた
トビー「ゼロ?」
ゼロ「実はピレリはダステとテナルディエに 話すと言っていたらしいんだ 君を引き取った理由も 彼の…隠し事全て…もし話せるなら いつでも 私たちはあの場所にいるよ」
それだけ伝えると ゼロは壁の中に戻った
全て終わった今 あの日果たされなかった約束を…
トビー「ピレリさんの過去と 僕らに何があったのか これが全てです」
誰もが 黙っていた
その全ての話を聞き終わって わかった
ピレリは自分自身に関して 最初に名乗った時に偽の名前の方を言ってしまった
結果トビーが来ることになったので それはそれで その時の彼からすれば正解だった
彼は偽名を名乗ったことを 話そうとしていたのだ 本当の名前で 彼らの前に立とうとしていた
そしてトビーとのことも
ピレリからリドルフォへ当てた手紙には トビーに全て話したあと リドルフォの元で預かってほしいという内容とトッドの理髪店に関することが書かれていた
彼はずっと トビーを一度でも殺そうとして そのために引き取ったことに対し 罪悪感があった だから理由を伝えられず 隠し続けてきた
それを明かそうとした矢先に殺された
その全てを知った
話を聞き終わったあと テナルディエは立ち上がり 何も言わずに扉の中へ戻っていった
けれど誰も止めなかった
何も かける言葉は見つからない
ミートパイを食べたことと 殺人鬼とはいえトッドを殺したこと トビーは罪だと思っていた
彼らに何があったかを知ってしまった
誰もが哀しい過去を抱えながら 刃を向けた
復讐が また新たな復讐を生んだ
トビーは自分も同じだと思っていた
彼もまた 仇をうつために殺した
抑えきれない復讐心が どれだけ心を支配し 人を動かすか 知ってしまった
トビー「…僕の役目はこれで終わりですもう終わり…ありがとうございました」
そう言って立ち上がる トビーが帰ろうとすると ゼロが部屋から消えた
ゆっくりと歩くトビーよりも先に 2人が部屋を出たので 残ったのはギュスターヴとトビーだけだった
トビー「…ダステさんも 長い話を聞いてくれてありがとうございます」
公安官「待つんだトビー 君はこれからどうするんだ?リドルフォのところに行くのか?」
トビー「行かないです もう僕は何もしたくないので」
公安官「だが 君が行くか彼が来るかして 一緒にいるべきだ 信頼できる大人なんだろう 子供には 保護者が必要だ」
トビー「僕はもう14です それに僕はもうリドルフォに迷惑をかけたくない ダステさん 僕にはもう 生きる理由なんてないんです こんな人生…」
公安官「そんなことはない…」
扉に手をかけるトビーを止めようと ギュスターヴは立ち上がる すぐに彼のそばに…しかし歩き始めた途端 補装具の関節部分が固まり 甲高い キィッという音が響く
公安官「……ちょっと待ってくれ」
ギュスターヴは気まずい空気に耐えながら 補装具をグッと押し込み 直す
こういう大事な時に限って こんなことになるなんてと思いながらいると トビーの方がギュスターヴの元に駆け寄ってきた
トビー「…大丈夫ですか?」
公安官「あぁ いつものことだ」
トビー「そうですか…それじゃあ 僕はこれで…」
振り向くトビーの肩を掴んで ぐるっと回して自身の方を向かせる
公安官「トビー またここに来てくれないか?今までのように ここで一緒に過ごそう」
トビー「僕は もう何も」
公安官「約束してほしい」
トビー「なにを…」
公安官「私は今度君に会いに行く 私の時代の君に」
トビー「…え?」
ギュスターヴは自分とトビーの扉を指差す 扉の上ではいつものように年月日と現在時刻が浮かび 秒数が揺れ動く
公安官「今生きていれば60近くだ 壁を抜けずに 私は会える 同じ世界だから」
トビー「同じ世界?どういうことです」
公安官「私と君は同じ世界の別の時代だ ゼロがそう作った だから君の世界ではそのうち私が産まれて 私の世界では君が60歳になっている」
トビー「…そんなことが?」
公安官「ピレリと約束していたんだ 実はそのために もうイギリスへ行く日も決めてあるしチケットも取ってある ピレリにはもう会えないが 君になら会えるかもしれない 私は 君に会いたい…ゼロは難しいことだと言っていたが…」
この話をピレリとしている時 たまたまゼロが集会所に来ていた
2人が同じ世界でその差は45年 ピレリが長生きすれば 今のギュスターヴと会える 壁を抜けずに 未来の自分が過去の…現在ではあるが過去でもあるギュスターヴと会う 同じ世界の 違う時代の交流があるからこそできる 普通じゃありえないことを やってみようとしていた その話を聞いて ゼロは確かにおかしくて不思議な体験になりそうだと最初は言った
ゼロ「ならまず長生きしなきゃ 平均寿命よりも長く それに健康でなくっちゃ トビーでも難しいかも…20世紀に入ってからを 乗り越えないといけないし…それに…」
ゼロはピレリがそんな時代まで生きていられないのを知っていた その上で それらしい理由の方を言い あきらめさせようとしていた
それでもギュスターヴは行くことにした
長期休暇を取り 海を渡ってロンドンへ
仕事以外のやりたいことを話すギュスターヴの姿を見て 上司や同僚はなぜか感動していたが とにかくもう準備はできていた
その矢先 ピレリは集会所に来なくなり 死んだことを告げられた
公安官「だからそれまで ここに来ていてくれ いつか私がいなくなった後でも 覚えておくんだ 1927年……嫌か?」
トビー「そんなこと 起こるんですか…それに 僕はここに来ていいんですか?僕は 悪人だとしても この手でスウィーニー・トッドを」
公安官「…正当化したくないのは わかる どんなにそれは正しかったと言われようと 残る感覚があるのはわかる」
トビー「どうして 共感なんて きっとあなたたちには」
公安官「戦地では それが正しいことだった」
左足の補装具を ほんの少しだけ見る
その一瞬だけ 嫌な光景が甦りそうになり 振り払うように頭を振る
トビー「それは状況があまりに…」
公安官「確かに 状況は全く違う 共感できると言ってほしくはないだろうが 昔の自分を見るような気分に 少しなった 状況は 違うとしても どこか…」
ギュスターヴはトビーに寄り添おうとしている こんな自分が ここにいる人たちのような人に 優しくされていいのだろうか
トビー「でも…でも!僕は…自分が…恐ろしいんです…」
自分の家でもないのに 安心できる集会所の中 心地のいい空気 静かで 余計な音のしない場所
居心地のいいようにと 想造された場所で ピレリと同じ顔のギュスターヴに 優しく手を握られている 生きている人の暖かさ
未だに あの暗く冷たい地下の焼き場で 消えない悲鳴と 揺れるオーブンと炎をただ見つめる自分がいる
この白く明るい部屋は 不似合いのように思えてくる
心の中と同じ 暗闇の中で 憎しみの心だけが燃える
トビー「剃刀を取った時 僕の頭の中には 目の前にいるあいつの首を切り裂くことしかなかった 殺してやると それだけ…ピレリさんやリドルフォの気持ちがよくわかるんです」
冷静さを失って むしろ冷静に見える動きになる 静かに 悟られないように
人殺しを恨んで人殺しをする そうなった時の自身の思考が 後になって恐ろしい
それこそ 辛い感情の逃げ場を失い トビーに向けたピレリのように 家族もろとも殺すこともできたかもしれないと言えてしまうリドルフォのように
復讐心の恐ろしさ 心を支配される 大きな感情
泣きながら訴えかける
トビー「僕は できてしまった 躊躇なく 行動できた そうすればこの感情が落ち着くことを知ってしまった この先僕は トッドのようにならないと そういえるんでしょうか いつかまた誰かを恨んだら 殺してしまえる人間になっていくんでしょうか それがわからない だってそうなった時にはもう 僕は支配されているんだ」
公安官「…そうなったら ここへ来ればいい ここで 話をすればいい ここはそういう場所でもあるからな」
トビーは 思っていたこと全てを口に出し その度ギュスターヴが答え 気づけば 少しだけ心が落ち着いているような気がした
公安官「頼ってくれていい 子供を守るのは 大人の役目だ 何より 私がそうしたい」
トビー「…じゃあ約束 してもいいですか」
公安官「あぁもちろん」
トビー「約束のために 僕 頑張ってみます 優しくしてくれた人のために…」
握手をして トビーはギュスターヴに笑いかける 彼の方はいつもより 優しい顔つきに見えた
ゼロ「……えっと いいかな?」
トビー「うわぁ!!」
公安官「ゼロ!いつからいたんだ!」
ゼロ「えっとーー…補装具が固まったあたり…」
トビー「か…帰ったんじゃ…」
ゼロが慌てて早口で 身振り手振りしながら騒ぎ出す
ゼロ「帰るって言ってはない…ね うん あの なんか邪魔できなくって 入り込む隙なくて あのごめんそのまま帰ればよかったんだけどあのその私もまだ君と会いたいよって入ろうとしちゃった私が愚かでしたごめんなさい声かけずに帰ればよかったごめんほんと雰囲気クラッシャーでごめん タイムがね トビーが過去の話してる途中の時にその扉を開けたら話してるのに気づいて入れなくてね 想造力かけて聞こえるようにしてあげててね それを解除しに行った上でタイム呼ぼうとしたらなんかその あ タイムもいます」
指を指すと ようやく扉を開けたタイムが その少し開けた隙間から顔を覗かせて 非常に気まずそうな顔をして その後ゼロを睨んだ
タイム「すまない邪魔をした こういう時のゼロはうるさくて敵わないな 黙らせる」
ゼロ「トビーがまたここに来てくれるとわかって嬉しくて ピレリのこと話してくれてありがとう 君の進む先に幸多からんことを願っているよ 私の友達…それじゃ 旅行の感想聞かせてね ダステ」
タイム「邪魔したな」
そう言って 2人は扉の向こうに消える
誰もが非常に真剣だった
ただ今は2人だけだと思って 素直に思いをぶつけていたので 側で入るに入れないゼロとタイムがいた上でやっていたと知ると いたたまれない気持ちになる
トビー「…ゼロさん もう以前のように戻ってますね」
公安官「いつものように 明るい場所にしたいのかもしれないな 最近は暗い話も多かったから…」
以前のようになってもいいのかもしれない
いつまでも引きずっていてはいけないことは 彼らの過去が教えてくれた
「彼らと別れ 君のことを思ってくれる人たちと共に 今日を 生きていこう 私とともに…ギュスターヴ…」
生きているのだから 前を向いて歩くしかない
いつかまた 暗い闇に沈む時 同じ場所を歩いて支えてくれる人がいる 引きずりあげて 抱きしめてくれる人もいる
公安官「…私も そうしていくかな」
トビー「その方がきっと いいんですよね」
生きていれば 良かったと思える日が 来るかもしれない
復讐の心だけあの日に忘れていって
トビーの人生は まだこれから 始まったばかりだった
END