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第二章 アドルフォ・ピレリ

スウィーニー・トッド

出会いから5年経つまでの間
ピレリとトビーの関係は全く改善しなかった
トビーも壁の中に入るようになって数年 ゼロやギュスターヴのおかげで 彼の心は変わろうとしていた

自らの行いと向き合い 全て話し リドルフォに彼を預け デイビー・コリンズと再び名乗り トビーが許すならば また一緒に そうでないなら せめて彼が自立するまで リドルフォに助けてもらいながら

ターピン判事殺しは結局できないであろう というほど時は経ち リドルフォは半ば諦めていた 彼もようやく 終わらない復讐から離れ 生きようとしていた


トビー「この先が…物語の中 なんですよね?」
ゼロ「そうだね…ここからは 私も話すよ あの日 ピレリに何があったか 話せるのは私だけだから…」





1882年2月

この日行われた壁の中の友人たちの宴会の後
ピレリはトビーに意を決して言った

ピレリ「トビー 今度の木曜日 市場に行った後…話がある お前も知りたがっていたことを 全部…話す ちゃんと私の口から 説明させてくれ その後のことは また…話し合おう」
トビー「…分かりました」

トビーはようやく 自分がなぜ引き取られ なぜこんな扱いを受けているのか 理由を知れるのだと 安心していた
その後のこと とは何かわからないが もしかしたら この人から離れられるかもしれないと 希望を持っていた




2月23日

トビーは 今日 まだ機嫌のいいピレリと 市場へ向かう準備を進めていた

彼らと出会ってから トビーもピレリと過ごす苦痛が ほんの少し和らいだ気がしていた
壁の向こうの世界へ行くのが楽しみで ピレリも 会った頃より明るい人になっていた

ピレリは彼らと出会った頃ぐらいから生活費に困りだし 仕方なく店の営業以外に 市場に見世物小屋を置き 宣伝を行っていた

そうしていると こういったものを売らないかと 話を持ちかけられた

強い匂いを付けただけの水を 魔法のような育毛剤だと言って 売りつけようというもので 金の配分も悪くなかった
理髪師であるピレリが売るなら よりいいだろうと…

ピレリの奇跡の秘薬と名付けられた それを試しに売ってみると 案外買う人間がいた
どんどん 宣伝を上手くしようと トビーも使い さらに腕前を披露する日もあり 店の宣伝にもなった

数年経つと その話を持ちかけた人物は より稼げる別の上手い話を 他に売りに行ったのか ピレリの元には来なくなった

ピレリたちの口がうまかったのか ただの水は本当に魔法でもかかって秘薬になったのか 物はそれなりに売れ 稼ぎになったので 残りも売り切ってしまって それからさっさと元の見世物小屋に戻そうとしていた

今日も そんな在庫一掃のため いつも通り聖ダンスタン市場へやってきていた


トビーは素早く準備をし 商品を運び 呼び込み始める
謳い文句はピレリの考えたものだが トビーは言い方が上手かった
続々と人が集まる いつも通りやれば いいはずだった

しかし 群衆の中から 批判の声
トビーは思わず声を大きく 掻き消すように 必死に 上手くやらなければ ピレリの機嫌を損ねる
あそこの2人 男性と女性が ずっと商品に関して 文句をつける
ばれている ただの匂い付きの色水だと 焦って 早口になる ピレリにも聞こえているはずだった

だが最後に一言強く言った後 ピレリが小屋から出てきた 勢いよく出てきて 名乗りあげる こういう時は 全く顔が笑っていない

ピレリがその客に近づく 頼むから これ以上この人を怒らせないで欲しいと心の中でトビーは願う

すると男は彼に勝負を挑んだ どちらが早く髭を剃れるか 技術の対決


「フリート街のスウィーニー・トッドだ」

この辺りの理髪店の主人なら 大体知っているトビーだったが 40か50歳近い年齢っぽい かなりベテランのように見える男を知らなかった 気づかないうちに どこかから移転してきた遠方の理髪師だろうか

大衆を目の前に勝負を断るわけにはいかなかっただろう

ピレリはジッと 男の持つ剃刀を見た後 トッドを睨みつけながら 勝負を受けると返事した

トビーは慌てて準備にかかり トッドも壇上へ上がる


ピレリの技術は 確かに他より優れて素晴らしく 何より彼の理想とする人たちに 非常に近づけていると 信じていた

過去一度 派手な装いで物売りをするピレリのどこかが苛立ったのか勝負を挑んだ男がいたが 圧勝した
普段の仕事の手つき以上に 本来は速く剃れるはずだった


だが負けた 今度は圧勝された
気づけば勝者の名前が呼ばれ 拍手が起きていた


その鮮やかな手捌きに トビーも驚いた
ピレリよりも腕のいいリドルフォでも あそこまで速く それでいて綺麗にはできないだろう

ぼうっとしていると ピレリに蹴飛ばされ 裏に戻される

トビー「ご…ごめんなさい旦那さま…」

これ以上の暴力を防ごうと謝るが その時点でピレリはもうトビーの方を見ていなかった
小屋の中にある道具たち その中に 彼がいつも大切にしている剃刀のケースが置いてある
見世物小屋に行く時だけ 外に持ち出していた
その中の剃刀は手入れはするが使ったことはなく 毎日眺めているだけだった

その蓋を開け 中の剃刀の柄を見る
彼がいつも休む前にする行動だったので 気持ちを落ち着けるためにやっているのだと トビーは思った

だがその行動で 余計彼の機嫌が悪くなった

トビーを怒鳴り声で呼び 帰る準備をし始める
今日はもう仕事にはならないだろう

店に戻ると トビーは今日はもう仕事はなしだと告げられ ピレリはそのまま壁の中へ行ってしまう
荷物だけ代わりに片付け トビーは部屋で休むことにした


そしてしばらくした後 ピレリは壁の中から戻ってきた

トビーは部屋で眠ってしまっていた
下へ戻ると 荷物は全部片付いていて ピレリの剃刀ケースだけ 暖炉の上にあった

ピレリ「暖炉の上だけは やめろと言ってあるのに…」

一度置いてそのまま忘れたのか 彼にそれをやられると また怒りが湧いてきそうになり なんとか自分を落ち着ける
友人たちにまで当たってしまった これではゼロから叱られる

ピレリ「確かフリート街と言ってたな…リドルフォに伝えるか…いや 待てよ…うまくいけば 秘薬を売る必要も…」



2月28日


ピレリ「トビー 支度はできたか」
トビー「はい 大丈夫です」

仕立て屋にいく用事があったので ついでにその方面にあるフリート街へ目的を果たすため行くことにした
…ついでとトビーに言ったが ピレリにしてみれば たまたま店を閉める今日が 目的のためにはちょうどいいタイミングで 最大の目的は 再びトッドと会い 話をつけることだった

トビーはただ大人しく ピレリの後をついていくだけ 何をしにトッドの店へ行くかなど 全く知らなかった


トッドの理髪店の場所を ピレリは正確にわかっていた
フリート街としか聞いていないのに 迷うことなくその場所へ辿り着いた

看板を見ると 一階はパイ屋のようだった

2階から あの時トッドと一緒にいた女性が降りてくる

ピレリ「トッド氏はご在宅で?」
「えぇ 上で仕事中よ…あら この子お腹が空いてそうな顔」

そう言って 女性はトビーを見る

「パイを食べさせてあげてもいい?」
ピレリ「お好きなように」

トビーは笑顔になり 彼女に連れられて 店に入る その姿には目もくれず 階段を上がっていく


トビー「…その後 2階で何があったか なぜそうなったのかは 知りません ただ それが僕がピレリさんを見た 最後の時でした」


トビーが下でパイを食べながら ピレリを待っていると 上から大きな音がした
音がしたであろう方向を見ていると 女性が同じような大きな音を立てながら 忙しそうな様子で呟きだした

その後仕立て屋に行く時間が迫っていると気付いたトビーは慌てて2階へ行く 遅れたとなれば 呑気に食べてるせいだとトビーが怒られる


勝負に負けてからというもの ピレリは話をしてくれなかったどころか 前のように荒れてしまった

慌てて部屋に入ると そこにはトッドしかいない
お湯の沸いたやかんで飲み物を入れていた

もう出ていってしまったと聞き もう絶望的な状況だったが 戻るまで待つしかない 部屋の中にあったチェストに腰をかけながら トッドと話をする

パイを食べて 心も満たされるようだった 優しい人たちといるのは 心地いい

トッド「君にジンを」
トビー「ありがとうございます!」

大喜びで部屋を去る
ミセス・ラベットからジンをもらい 一気に飲む 昨日はそれができなかった 先にピレリが完全に酔ってしまい 話しをちゃんと聞かないといけなかった 普段こうはならないのに 酔うと たまに 憧れの人に関して話す時間がある

ピレリ「俺が憧れてる理髪師は3人だ まずパトリック・コリンズ 丁寧な仕事 勉強家 誰よりも客に寄り添い 提案力があり 総合的なファッションセンスもあった 素晴らしい人…一番手前の剃刀だ」

トビーはピレリの言葉を思い出す 過去何度か聞いたことのあるものだったが 剃刀ケースを目の前に放されたのは初めてだ

ピレリ「次にリドルフォ・ピレリ 美しい手捌き 完成形 綺麗に髭の形を整える それもかなりのスピードで 見た目も言葉も美しく丁寧 さすが貴族の理髪師 私の師匠だ 尊敬する人だ…二番目の剃刀 みたことあるだろ?」

ひとつずつ剃刀を取り出す
過去数回 見せてもらったことがある ずっと大切にしているが 大切にするあまり使ったことのない 新品同然の剃刀

ピレリ「…最後がベンジャミン・バーカー…速さと正確さを兼ね備えた 一番の腕前 この人は天才だ 元々自分の手だったかのように 剃刀を扱える 憧れの人…何より 私はこの人を超えたい …三番目の剃刀だ」


そして 残りの一本は ピレリのもの
彼がなぜ その憧れている理髪師の新品の剃刀を 一本ずつ 持っているのか トビーは知らなかったし 聞けなかった
自分から話す分にはいいのだが トビーが聞くと何も答えない


ピレリ「……会いたい」

ケースの蓋を閉める
いつもならその後 理髪師としての心構えやら リドルフォに教わったということを話しだして長くなるのだが 飲みすぎたのか 目を閉じて 腕を枕にして座ったまま机に突っ伏す

ピレリ「…叱られることになってもいいから」


ピレリが会いたいと言った相手が どうなったか知っている今 彼がその言葉を呟いた時 悲しそうで 泣き出しそうな顔だったわけがわかった

この人も そんな感情を抱くのかと 驚いた


けれどそんなことは覚えていないピレリは今 最高の気分だった

トビーがラベットとパイ屋に入った後 ピレリは理髪店の扉をノックした

トッド「どうぞ」

彼を目の前にして ピレリはほんの少しの緊張と 大きな喜びを噛み締めていた

ピレリ「…どうも」
トッド「ピレリさん」

そう言われ わかるはずもないかと落胆する

ピレリ「デイビーと……デイビー・コリンズが本名だ」
トッド「…」

普段 人前ではイタリア語訛りで話すピレリだったが 今は素のアイルランド訛りになる
だが 反応はない 名前を聞いても 驚きもしない

それはそうだろうと 彼も納得はしていた
トッドに背を向け 脱いで持ったままだった帽子を部屋のチェストに軽く投げて置き マントを脱ぎ 杖と共に置く

置きながら 話を続けた

ピレリ「5ポンド返せ」
トッド「なぜだ?」
ピレリ「正体を偽って賭けを申し出たからだ」

そう言いながら 手袋を取る

ピレリ「今後は正直でいられるように…儲けの半分をもらおうか」

振り返り トッドの方を見る 先ほどと表情は全く変わらない

ピレリ「…ベンジャミン・バーカーさん」

その名を呼んでようやく 彼は目線を下に向け ピレリを見ないようにした 何の反応もなかったのに 名前を呼ばれた時だけそうした 返事はない もう認めたも同然だ

ベンジャミン・バーカー…かつてこの場所で理髪店を営み 妻のルーシーと娘のジョアンナとともに 幸せに暮らしていた しかしそれをターピン判事によって全て奪われ島流しにあい 本来なら今もオーストラリアの大地にいるはずの…脱獄犯

だがこちらに気づいている様子はない
いつものイタリア訛りではなく アイルランド訛りの口調になっても デイビー・コリンズに対し 驚くことはない 父のことを忘れているのだろうか

少しでも こちらに気づいたなら もうこの話はしないつもりだった もうリドルフォに送る手紙は用意していた

ピレリ「…俺を忘れたか?」

トッドからの返事はない 三面鏡の置いてある作業台の方へ歩く彼と 顔を合わさないようにトッドは部屋にある大きな窓の方をじっと見ていた

ピレリ「無理もないな ガキの頃 2週間ほど床を掃いただけ それだけだ」

トッドの仕事道具を見る そこには彼の剃刀が置いてあった

ピレリ「だが俺はこの剃刀を覚えていた…あんたのことも」

最初に顔を見た時には 誰なのかわからなかった 何年も経ち 年をとったのもあるだろうが それ以上の理由で人相が変わり 全くの別人にしか見えない

しかし彼が勝負の前にピレリに見せつけた剃刀 それに見覚えがあった
忘れるはずがない 毎晩見ている 父と友人たちの剃刀
何年も見続けたデザイン 見間違うことはない
その剃刀を持っているというのが 彼がベンジャミン・バーカーである何よりの証だった

ピレリ「いつか…あんたのようになりたいと思いながら ここで見ていた」

子供の頃 ベンジャミンの仕事を見ていた場所に座る するとトッドは窓から離れ 作業台の横を通りながら やかんで湯を沸かしていた暖炉の方へ向かった

正体を偽り 人前に立っているのは 自分も同じだった
復讐のために戻ってきたであろうトッドの気持ちを 自分ならわかると思っていた

しかし それ以上に 今でも彼に勝てないのだと思うと プライドが傷ついた
隠し通すのは もちろんだ だが 敗北者のままでいられなかった

叱ってくれたっていい リドルフォがしたように
パトリックの息子が そんなことをするなと
恨みを持ち生きていたリドルフォとデイビーを 知っているはずだ

だがトッドはずっと 何の言葉もピレリにかけない

だんだんその態度に怒りが湧いてきた

ピレリ「条件をのむか?」

トッドの後を追い 背後に立つ

ピレリ「それとも役人にお前の正体を言ってやろうか」

言い方も 強くなっていく

スウィーニー・トッドと名前を変えても 剃刀ひとつで見抜いてやった
正体がバレるとまずいのはトッドだ ピレリの方が 優位な状態だった
目的はターピン判事だろう わかっている

ピレリ「どうするんだ…スウィーニー・トッドさん?」

この案を思いついた時 行くか行かないかで悩んだ だがやめておけばよかった
本当は 素直にまた再会できたことを 喜ぶことができたなら リドルフォとくれば こんな発想も心の奥にしまっておけただろう

なぜいつも 悪い選択しかできないのか

だがもう 取り返しはつかない



やかんのお湯が沸いた音が 甲高く部屋に響く
その後すぐ 鈍い音が聞こえた


そして一階では トビーが天井の方を見上げた


トッドは沸騰したお湯の入った高温のやかんを掴み そのまま背後にいるピレリの顔へ 振り向く動きのまま 力強く当てた
よろめいたところに 振りかぶり 頭上から強く殴る

床に倒れたピレリの顔面目掛け 何度も振り下ろす 倒れたピレリは 抵抗もできない状態のままだった

7、8回ほど殴り続けたトッドは ピレリが動かなくなったことに気づき 乱れた息を整えながら 理髪のための椅子に向かって歩き座る

ピレリは血を流しながら横たわっていた


息を整え 一度死体をチェストの中に隠そうと持ち上げ 彼の身につけていたものと一緒に放り込んだ

床の血をすぐに拭き取り 証拠を隠した後 やかんの血も拭き取り 再び火にかける

すると外から 階段を駆け上がる音がする
何事もなかったかのように コップにまだぬるいお湯を注ぐ

入ってきたのはトビーだった

トッドは彼をさっさと追い出してしまいたかった

部屋に入ってきたトビーがそこに座ったので気づいたのだが
チェストに雑に入れたせいで ピレリの左手が蓋に挟まれたまま 見えている状態だった これを彼に見られると 彼まで始末しなくてはいけなくなり 後々が面倒だった

さらに ピレリの小指が 動いた
まだ生きている そう思ったトッドはトビーをうまく立たせ そのまま外へ出そうとする

トッド「君にジンを」
トビー「ありがとうございます!」

そのまま駆け出したトビーを外へ出し すぐさま扉を閉める

チェストを見る

指が動いた

見間違いではなかった

まだ生きている あれだけやったのに

トッド「…」

蓋を開ける

中からゆっくり ピレリが出てこようとする 逃げようとしているのか 何が起こったのか理解できないまま行動しているのか

トッドは 先ほどピレリに気づかれないように取り出しておいた剃刀を開く


ピレリは朦朧とした意識の中 それでもうめきながら動いていた ただそれ以上の力は もうなかった


トッドはピレリの背後に周り 後ろから左手で彼の頭を上げて抑え 右手に持った剃刀を後ろから腕を回して首に当てる


何の迷いもなかった


髭を剃る時のように 滑らかな動きで ピレリの首を左から右へと切り裂く そこから大量の血が吹き出し 痙攣する彼を抑え込む


やがて 動かなくなるとゆっくりチェストの中へ 今度は丁寧に戻した そして 蓋を閉め 剃刀についた血を拭き取る





トッドの復讐劇 最初の犠牲者 ピレリの末路
正体を知っていた しかもそれで脅しかけたために ピレリは殺されてしまった


ティナ「まさか見たのか?その…瞬間」
ゼロ「…トビーから話を聞いた後にね 正直 映画は何度も見てた 君らと知り合う前に…ただ 本当にその通りだったのか 想造者なら その目で物語を見るべきだと思って…見て 理解しておきたかった この物語の中では受け入れなくちゃいけない 過去は 過去だと 死んだ彼とは もう会えない 過去のピレリでしかないと」

過去に遡り その時に来た彼女は トッドとピレリの会話を 部屋の隅で聞いていた
トッドがやかんに手をかけた瞬間 目をつむりそうになった

この物語を再現すると決めたのは 過去の自分 そうなると知りながら変えなかった
見届けないといけない 目を逸らしてはいけない
手を前に伸ばして 早くピレリを 出してやりたいなんて 触れて 別の場所に移動させて 彼の過去を 変えたいなんて

あともう少し手を伸ばし 触れれば 過去を変えることはできる しかしそれは物語の崩壊 想造者の乱入は バランスを崩す要因でしかない

こうすると 想造したのは 自分

けれど 分かりきっていたはずなのに 目の前で殺される友を 救おうとしている自分がいた


ゼロ「…共に過ごしたピレリは どんな想造でも取り戻せない 誰もが救われる物語を想造しなかった でもこれが 紛れもなく 彼の物語だ」



そして スウィーニー・トッドの物語…




トビー「その後 ピレリさんが戻ってこなかったので 僕はそのままラベットさんのところへ それは嬉しかったです その時は…ですけど」


最初にピレリの死が知らされた時に聞いた話
その中で 耳を疑う話があった


殺されたピレリの死体をどうするか 話し合いになった トッドは隠すつもりでいたが ラベットは妙案を思いついた

彼女の店はパイ屋 しかし繁盛はしていない
具のないパイ ロンドンで一番まずいと 彼女自身が言う

彼女は 他の繁盛している店のそばで 猫が消えていることを知っている
その店は評判がいい ただし肉は その猫
肉が買えないなら 自分で調達するしかない


ラベットは思いつく 猫肉よりもよりいいものが

より多くの肉 死体の処理

つまり 人肉のパイを作って売り捌く
ラベットにとってもトッドにとっても利益がある
せっかくあるなら 使ってしまおう


猫肉も相当な話だが 人肉のパイ
それが売られていた時期があったのだ わずかな間だとしても…そんな 恐ろしい 悍ましい話 聞くだけでも気分が悪くなりそうだった

話をするほど辛そうなのはトビーだった
話を聞くだけでも嫌になるのに 彼はその出来事を経験している しかもまだ日が浅い

トビー「…最初に作った試作品のミートパイを 食べたんです とてもいい香りがしてきて あの人は優しかったから 最初はまだ試作だからともらえなかったんです」


しかし その優しさに甘えたいトビーは 何度もねだる

ラベット「でも…」
トッド「食わせてやればいい…」
ラベット「……仕方ない子ね…好きなのを選びなさい」
トビー「やった!」


1つ手に取り かぶりつく


トビー「…最初の犠牲者がピレリさんなら 最初の……あれは……」

トビーが俯き 手で顔を覆う
思い出し 考えるその度に 吐き気がした あの日感じた恐怖が蘇る

その様子を心配したゼロが 優しく声をかける

ゼロ「トビー 無理しなくていい 私も話せるから…」
トビー「誰かに話さないと 余計に気が狂いそうなんだ!!」

トビーは辛くても 自身の経験を全て誰かに話してしまいたかった リドルフォ以外に この話をできる相手はいない

トビー「それに 話しておかないと…ピレリさんのことだけ 言っても…僕は もう罪のない子供じゃない もう みんなにも 顔を合わせられない せめて全て話してから…」


その後のトッドは判事殺しに失敗した衝動のままに人を殺し ラベットはその死体の肉でパイを作り 美味い肉の入ったパイはたちまち話題になり 店は繁盛した
トビーはその手伝いをし 優しいラベットと少し怖く どこか怪しいトッドと暮らしていた

殺していたのは 身寄りの無いものや旅行者ばかりだったので 気づかれることなく商売は続いた


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