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第二章 アドルフォ・ピレリ

復讐の日


1866年

デイビー「…リドルフォ 俺はこのままアドルフォの名前を借りる 彼が最後に そうしても良いと言ったから」
リドルフォ「しかし…デイビー いつまでもそうでは 君はデイビーとして 生きなければ」
デイビー「それはわかってる だけど やっぱり犯人が見つかるまでは それか 店を出すまで」

何度か説得しようとしたが デイビーはアドルフォ・ピレリであろうとするのをやめなかった
元々 一度も名乗ったことはなかったが 近所の住人以外 彼が何者かを知らなかった
町でピレリと名乗っても そもそもアドルフォ・ピレリを知る人物は多いわけではなかったので 何も 問題にもなることなく 過ごせていた

リドルフォはデイビーの方が死んでしまったのではないかと思うほど アドルフォのようになっていく彼を見ていて心配になっていた
確かにアドルフォのようであることは 彼が前に進むために必要かもしれない だが 彼そのものになる必要はない

大切な友人だったのはわかっていた リドルフォ自身にとっても 大切な家族だった

また 彼は死者に囚われるようになってしまった
失うたび 彼は本来の自分を失っていくような…リドルフォは引き留める術を持っていなかった

良くなると同時に悪くなっている 奇妙な状態だった


前より明るい 前より笑顔で 確かに理想としていたデイビーの姿
なのに 不安ばかりが大きくなる

リドルフォ「デイビー そろそろ 君として生きても良いんじゃないのか?」
デイビー「俺は彼の名を借りていると 自信が持てるんだ それに 俺はずっとデイビーとして生きてるよ リドルフォは心配しすぎだな…大丈夫だよ」

止めきれないまま 時間は過ぎていった



1867年

リドルフォ「どういうことだ!?」

デイビーの問題をポジティブに捉えて 今は見守ることにした頃 新たな話題が入ってきた

親友のベンジャミン 去年会った時には ルーシーの腕には赤ん坊がいた 幸せな彼らの姿を見て いつもホッとしていた 当たり前のような この光景を見るたび 日常を思い出した


そんな彼らに 悲劇が起きた

突然ベンジャミンが逮捕されてしまったのだ 妻子の目の前で なすすべなく
そして…法廷に立たされることとなる


リドルフォ「コリンズ夫妻の事件で犯人に協力しただと!?馬鹿馬鹿しい どういうつもりなんだ連中は!」

リドルフォは新聞を投げ捨てたくなる衝動にかられながらも 続きを読んだ

もう人々が忘れかけていた夫妻の事件
ベンジャミン・バーカーはコリンズ夫妻を恨むあまり 連続強盗殺人犯たちが店を狙うよう情報を流し 彼らを店へ引き込み 夫妻を殺させた
子供は彼らから離し その間に実行させ 子供といた自分は事件には関わってないと 証明しようとした 悪質極まりない とんでもない悪党であると

犯人ではない 直接手はかけてない
だが市民を震撼させた 恐ろしい事件の犯人と関わったとなれば 当然許されない

絞首刑とまで言われたが ターピン判事は彼をオーストラリアへの流刑を言い渡した 期間は 永久

イギリスからの永久追放 もう2度と ベンジャミンがこの地を踏むことはないであろう

これを リドルフォは紙面でようやく知った
彼の知らないうちに ベンジャミンはこの国からいなくなってしまっていた

残された妻子は?
ターピン判事はなぜ彼に罪を それも突然 何年も経った今になって 冤罪で彼を逮捕し 裁いてしまったのか!

リドルフォはなんとか時間を作り デイビーを連れて彼の理髪店を訪ねる ルーシーと彼らの娘に 何かできないかと思い…しかし そこに妻子の姿はない
出かけているのかと思い 店の外へ出て階段を降りると 下の階の飲食店から 若い女性が出てくる

「バーカーさんなら もう戻らないわよ」
リドルフォ「いや 私はルーシーに用があってきたんだ 出かけているのか?」
「…あぁ 彼女も戻らないわよ」
リドルフォ「…なぜだ?」

女性は悲しそうな顔で リドルフォたちに教える

「だって ヒ素を飲んだの だからもう 戻らない」
リドルフォ「ヒ素!?」
「静かにしてよ あんまり…大声で話すことでもないのよ…ほら 中に入っていいから」

連れられるまま 店の中に入り 席に座る

「それで 話をしてもいいけど…彼女の知り合い?」
リドルフォ「彼らの友人だ」
「あぁそう…少し遅かったわね ほんと 少し前のことだから…」

リドルフォは彼女から話を聞いた
哀れなルーシー…夫がいなくなったあとすぐのこと
店の外にはターピン判事 彼は毎日彼女に花を持ってくる
判決を下した張本人 許しを願う花ではない それは愛を伝える花だった

ターピンは初めからルーシーを手に入れるために ベンジャミンに罪を被せ さっさと追い出したかった
残された彼女に寄り添えば 愛を得られると思ったのかはわからない 愚かな話だった

その罪に 例の事件はちょうどよかった
コリンズ夫妻の死とその事件は この悪党に利用されてしまったのだ

しかしそれがわかったところで 判事には敵わない もう どうしようもない

そして判事は強行手段に出ようとした
今までの謝罪をしたいと彼女をパーティに誘った ただ謝罪を聞くために訪れた彼女に 判事がしたことを聞くと 吐き気がする思いだった

彼女は絶望し 愛娘を遺しヒ素を飲んで死んでしまったという

リドルフォ「…そんな ルーシー…」

まさかそんな事態が起きていると知らず ここへ来ることのできなかった時間を悔いた

デイビー「…ルーシー」

デイビーも あの優しかったルーシーを思い出した
ベンジャミンとルーシーがどのような人であったか もちろんデイビーもわかっていた
その幸せを壊すような 悪人がこの世にいた

きっと今頃 ベンジャミンはターピンに対し燃えるような復讐心を抱いているのだろう

自分や…リドルフォのように

なぜいつも 善良な人たちばかりが悲しまなければならないのか 思いは募る



娘は ターピンが引き取り 育てている
なんと 恐ろしいことなのだろうか
それは決して 罪悪感からではないだろう 彼はせめて彼女の娘だけでも手に入れたくて そうしてしまったのだ
そういうやつに 違いないだろう




1872年 10月3日

この日 リドルフォはデイビーを店に連れていくために コリンズ理髪店付近に来ていた

昔住んでいた場所だが 現在の店がある場所より遠く 夜遅くまでその辺りにいる時は 一泊してから帰ることにしていた

この日は理髪店から少し歩いたところに 宿屋を見つけ 入ってみることにした

看板には ただ“ラッグの宿屋”とだけ書かれていた


中に入ると 数人が店内のテーブルで食事をしているところだった

「いらっしゃい 食事かお泊まりか どちらで?」

おかみさんが扉の開いた音で気づいて 彼らに声をかけた


リドルフォ「どちらも」
「こんばんは ここの主人のラッグです」

看板の名前は やはり主人の名前だったか
オヤジという呼び名が良く似合うような いわゆるその典型のような見た目の男が奥から出てきた
笑顔だけやけに爽やかに感じられるのは 気のせいだろう

ラッグ「どうぞ お好きな席へ」

派手な身なりが気になったのか 一瞬顔をしかめたように感じたが それも気のせいということにしておこう

暖炉の側に座り まずは食事をすることにした
下が酒場で 上が宿屋のようだ

デイビーに好きなものを頼ませ そこから分けることになった

暖炉の周りはほどよく温かく 料理を待つ間 思わず揺れる火を眺めてしまう

デイビーはそんなリドルフォのことを見ていた
暇なので 人でも観察しようという気分だった
しかし リドルフォはハッとした表情になった後 デイビーの顔を見た

照れて目を逸らすと 今度はリドルフォの方がじっとデイビーの方を見るので 不思議に思い ちゃんと顔を合わせると リドルフォは怒ってしまったのか 眉間にシワを寄せ 不機嫌な顔になってしまった

しかし宿屋の奥さんが料理を運んでくると いつもの彼の顔に戻る


食事をする間 リドルフォは何度か暖炉の方を見た
特別珍しいわけでもなく 上に少し物が置いてあるだけで それもまた 別におかしい要素もない ただ火を眺めてるだけなのかもしれない けれどなんとなく その様子が気になった

デイビー「リドルフォ 何か面白いものでもあった?」
リドルフォ「ん?何がだ?」
デイビー「…暖炉」
リドルフォ「あぁ…見てみろデイビー」

リドルフォが小さな声で話しかける 指を指す先には 暖炉の上にある物の中で 特に綺麗な装飾の小さい長方形の箱だった

リドルフォ「なんだか高価そうな見た目だが 中身がなんなのか 少し考えてたんだ ほんのちょっとした 興味だよ」

質素な宿屋に置かれた 綺麗な箱は どちらの趣味か 料理を待つ間 暇をつぶすついでに 考えていた とだけ説明し リドルフォはまた食事に戻った

そう言われて 少し気になったデイビーは 先に食事を終えると じっと箱を見ていた
すると 宿屋の主人が気づき こちらのテーブルにやってきた

ラッグ「あの箱が気になりますか?」
デイビー「あ…はい ちょっとだけ」
ラッグ「大したものは入ってはいませんが お見せしましょうか」

そう言って 主人は暖炉から箱を持ってきた
デイビーのそばに来ると 箱を開けて見せた

中身は光を反射し輝く 銀の剃刀だった
中に入っている4本の剃刀はそれぞれデザインが違っていた

デイビー「剃刀…なぜ暖炉の上に?」
ラッグ「たまたま今日 あそこに置きわすれてしまいましてね」
リドルフォ「良い剃刀だ 私も普段扱っているが…どこで買われたんです?」
ラッグ「父のものでして…詳しくは知らないんですが 良いものなんですか?」
リドルフォ「こうしてのぞいてみただけでわかるほどには」

そう言われて ラッグは改めて剃刀を見てみる
やはりわからなかったのか 首を傾げる

リドルフォ「しかし 6本入るケースに4本…あとの2本は?」
ラッグ「もらった時点で4本でした 大方ダメにしたのでしょう ガサツな人でしたから」

そう言って ケースの蓋を閉めて また暖炉の上に置き戻す
そこでいいのか?と思いながら 暖炉のケースを見る

ラッグ「ところで 剃刀を扱うとなると 理髪師ですか?」
リドルフォ「えぇ」
ラッグ「…息子さん?」
リドルフォ「弟子です 今日は仕事で遠出を」
ラッグ「…出身はこちらで?」
リドルフォ「……いえ 私はイタリアです」
ラッグ「あぁ イタリアですか」

おそらくは言葉の訛りから ここではないだろうと判断しての質問だろう

ふと周りを見ると もう他に客がいない 時間を考えると 2人が最後の客だった
食事が終われば 次は部屋に案内しなければならないからか 主人は彼らの席の側にいた

「ドミニク ちょっと来ておくれよ」
ラッグ「あぁセリーヌか……食事が終わったら 声をかけてください すぐにご案内しますから」

奥からおかみさんの声が聞こえたので ドミニク と呼ばれた主人は すぐにそちらへ向かう

リドルフォ「……ちゃんと研いでないな」
デイビー「他人の剃刀をそんなに気にしなくていいじゃないか それとも俺に言ったように革砥の使い方を教えるか?」
リドルフォ「はは…流石にしないな」


食事を終えた2人は 戻ってきたドミニクに案内され ゆっくりと眠りについた



10月26日

その日の夜 客が全く来ないラッグの宿屋ではドミニクが客は来ないかと窓の外を眺めていた
机の上には売れそうなものを探すため引っ張り出して来たさまざまなものが並べられている

すると 見覚えのある金髪の派手な装いの男が外を歩くのが見えた

ドミニク「この前のイタリア人…」
セリーヌ「なんだい?誰か来たのかい?」

その彼が 確実に宿屋の方へ向かっていて 窓から覗くドミニクが見えたのか 帽子をとって会釈した
ドミニクは客が来たので慌てて机の上を片付け 奥の部屋へ押し込んだ
扉は開かれ リドルフォが入ってくる

リドルフォ「ラッグさん こんばんは」
ドミニク「あぁこの前のお客さん 今夜もお泊まりで?」
リドルフォ「えぇ」

そう言ってリドルフォは暖炉に近い席を選び座る
暖炉の上には 以前と同じように剃刀の箱があった リドルフォはそれを見つめる

ドミニク「…何か用意しましょうか」
リドルフォ「では何か酒を 他にはいりません」

ドミニクはセリーヌに指示し セリーヌは奥に酒を取りに行った
今日 リドルフォ以外の客はいない 手持ち無沙汰だった彼は リドルフォの側に寄った

ドミニク「あの箱 やはり気になりますか?」
リドルフォ「…中は剃刀だったな」
ドミニク「そういえば あなたは理髪師でしたね 安く売りましょうか?」
リドルフォ「父親のものでは?」
ドミニク「えぇ 良いものです」

ドミニクは暖炉の上から剃刀の箱を持ってきて リドルフォの机の上に置く
リドルフォは箱に触れ そっと開く

ドミニク「私は理髪師ではないですから よくわかりませんが このシルバーの剃刀 持ち手の装飾がそれぞれ違って…良いものなんでしょうが なかなか使えないでいたんですよ でも本職の方なら」

セリーヌが酒とグラスを持ってきて 机に置いた
そのまま隣の机に座り休憩していた
リドルフォがビンを持とうとすると 先にドミニクが取り 蓋を開けて注いだ
どうぞ と渡し 反対の手で箱をリドルフォに近づけた

リドルフォ「…良いものか 確かにそのようだな」

扉が開き 3人の男が入ってくる
客が来たのでセリーヌは立ち上がり いらっしゃい と言うが 男たちは特に何も言わないまま 2人が店の奥の席に 1人は扉近くの席に座る

セリーヌが泊まりか料理か聞いているのを横目に ドミニクはまだリドルフォの机にいた

ドミニク「どうです?言い値で…」
リドルフォ「…さて どうするか」

リドルフォが一本の剃刀を持つ
彼は持ち手を眺めていた

ドミニク「国に帰る前にいかがです?」
リドルフォ「私はここに住んでいるんだ」
ドミニク「おっと そうでしたか」
リドルフォ「…店はここからは遠いが…近くに友人の店があって そこの管理のために たまにここへ」

剃刀を開いて また閉じる そして箱にしまう

ドミニク「管理…ですか」
リドルフォ「ご存知ではないですか?そこの通りのコリンズ理髪店ですよ 店をやっていた夫婦が亡くなった後 その店を買い取ったんです」
ドミニク「あぁ…あの…」

リドルフォは注がれた酒をあおる 箱の中は見たままだ
ドミニクがセリーヌの方を見る セリーヌは先程の客に酒を出していた

リドルフォ「…あの 強盗に殺された夫婦です それからフリート街の理髪師が強盗を手引きしたとかで島流しになって…いやぁ 理髪師が関わった事件なので その後の店が気になって」
ドミニク「はぁ いやしかし わざわざそんな 恐ろしい事件のあった場所を…」
リドルフォ「恐ろしい…か」

リドルフォは箱の中から別の剃刀を取り出した
ドミニクはまたセリーヌの方を見る セリーヌも リドルフォの話を聞くためか 立ったまま2人を見ていた なのでドミニクがそちらを見ると 目が合った

リドルフォ「だが 親友の店だパトリック クレアー ベンジャミン あの日 語り合い 飲み明かし…」
ドミニク「…これは一度しまいますか?」
リドルフォ「これは私たちのものだ」
ドミニク「…はい?」

リドルフォは立ち上がり 腰のカミソリホルダーから一本取り出して 机の上の 既に取り出された剃刀の隣に叩きつけるように置く

ドミニク「なっなにを…?!」
リドルフォ「我々が特別に作らせた 我々だけの剃刀だ 私の!ベンジャミン・バーカーの!パトリック・コリンズの剃刀!」

そう言って もう一本 別の剃刀も取り出す
パトリックの剃刀だった
それも箱の中の剃刀と同じ柄だった

リドルフォ「パトリックの息子に贈るはずだった剃刀と…この箱 盗まれた あの日に」
ドミニク「まさか…いやこれは…」
リドルフォ「昔から 父親が持っていたもの?」

店の中の男の1人がセリーヌの腕を掴む 続いてドミニクに2人の男が近づく

ドミニク「なんだ!?」
リドルフォ「警察は一連の事件の犯人を 早急に捕まえたいと思っているらしいな すぐ協力してくれた よかったよ まだこの箱を持っておいてくれて」
ドミニク「お…俺は違う!さっさと離せ!」
リドルフォ「しかしお前はこの箱は親の代からあると とんだ嘘吐きだな」
ドミニク「あぁくそっ!!」

暴れるドミニクだが抑えられ セリーヌとともに連れて行かれる しかし途中で振り解き リドルフォの方へ走り出す
机の上の瓶を手に取り 振りかぶる

しかしその手をリドルフォに抑えられ そのまま床に押し倒される
リドルフォの右手には 彼の剃刀があった それを首に当てる

ひやりとした 剃刀の温度
動きを止めるドミニクと 追いついた警察 笑みを浮かべたリドルフォ

リドルフォ「本当なら いっそ この手で彼らのようにして殺してやりたい…しかし 私の腕は 殺しの道具じゃない」


それだけいうと その身柄を警察に渡す

リドルフォはそれを見送り 宿屋に残った
箱を手に取り 中に剃刀を戻す
あれから10年以上経ったが それでも銀の剃刀は輝いていた

パトリックと ベンジャミン そして自分の あの日の会話が蘇る
デイビーに渡そう そう決めて蓋を閉じる

すると 奥の部屋から音がした
驚き その方向を見た後 恐る恐る奥へ入る
客がいたのか 一連の出来事を…状況を説明しなければいけないかもしれない…と 覗く
しかしそこは客室ではなかった おそらくは夫妻の寝室

そのベッドの上に 子供がいた

リドルフォ「君…」
「…だぁれ?パパとママは?」

幼い子 奴らの息子

リドルフォ「…子供がいたのか」

この子も 幼くして親を失くした しかしそれは彼らの罪のせいだ
それでも…

リドルフォ「名前は?」
「……トビアス」
リドルフォ「そうかトビアス 残念だが君の両親は…とにかくおいで 君を連れて行ってほしい場所があると君の親に頼まれた」

トビアスはベッドから降り リドルフォへ近づく

リドルフォ「さぁおいで トビアス」
トビアス「…ママはこないの?」
リドルフォ「あぁ 来られない だから後から行くと言っていた 君は今いくつだ?」
トビアス「4さい」
リドルフォ「そうか 1人で待っていられそうか?」
トビアス「まつの?」

トビアスと会話するリドルフォの元に 警察が1人戻ってきた

「ピレリさん……あぁ 彼らの子供ですか こちらで施設に…」
リドルフォ「…そうですね さぁトビアス 彼についていって 警官だ 安心して その前に着替えた方がよさそうだ」

そうして トビアスは施設に行く準備をした
彼の両親はもう戻ることはないだろう

リドルフォ「親を待つ子供の家だ 安心して行くんだ」
トビアス「……うん」

よくわからないまま 幼いトビアスは警察に連れられ 次の日には施設に預けられたという
リドルフォは あの両親の家に産まれたトビアスという子を哀れに思いながらも 罪悪感はなかった
彼の復讐はついに果たされた

ラッグ夫妻はその後の裁判で 死刑となり
この何年もの間に起きた 数件の強盗殺人の犯人は 彼らということが明らかになった



10月29日

リドルフォはラッグ夫妻から取り戻した剃刀と箱を デイビーの25歳の誕生日についに渡すことができた

彼らに裁きを与え この箱を贈ることで あの日の復讐は終わり ようやく心穏やかに過ごせる日々を取り戻した気持ちだった

パトリックも ベンジャミンもいなくなってしまったが 彼にはまだ デイビーがいた


デイビー「…あの日盗まれたはずじゃ」
リドルフォ「だが取り戻した 奴らは逮捕された じきに処刑される デイビー お前の両親の仇はとった」
デイビー「逮捕?処刑って…リドルフォ 一体いつ 父さんと母さんを殺したやつがわかったんだ!?」

だがリドルフォの思いとは裏腹に この箱がここにあることは デイビーにとっては最悪だった

リドルフォは犯人を見つけ デイビーに何も知らせないまま 自分で 自分の復讐として全てを終わらせた

デイビー「なぜ俺に教えてくれなかったんだ!俺の復讐は…なぜ知らない間に全て終わらせらせてしまったんだ!?俺の この 恨みをどう晴らせと…やつらがいたのに この手で仇を…」

デイビーはリドルフォと同じタイミングで彼らに会っている
それでも直接 その恨みを果たせたのはリドルフォだけだった

リドルフォは デイビーを安心させるために 仇をすぐに取りたかった デイビーにあの日の出来事を忘れさせたかった しかしデイビーは 自身の手で復讐したかった

リドルフォ「デイビー…!」

この日から デイビーはしばらくリドルフォを避けた
リドルフォは何も悪くはなかった むしろ仇を取るべく行動した これ以上の被害者も出ない
それでもデイビーは恨みを果たす場を失ってしまった それが辛く どうしようもなく 嘆いては 贈り物に込められた父と友人たちの思いを考え あの頃を思い出しては 泣いていた

その後彼はラッグ夫妻逮捕に関しての情報を 宿屋の近所の人たちに聞き 彼らに息子がいて 近くの施設に預けられたことを知った

その施設を見つけたデイビーの顔は すでに 今までの彼とは違うように思えた



1874年


デイビー「リドルフォ 父さんの店を再開させたいんだ」

久しぶりにデイビーから話しかけた内容は それだった

リドルフォ「あぁ…もちろん」
デイビー「でも アドルフォの名前は借りたままでいいか? あなたのいとこのままで」
リドルフォ「な…なぜだ?もう奴らもいない 隠れる必要は…」

デイビーは首を振る
決意は堅かった

デイビー「別人になったと思うと なんだか 暗い過去も忘れられるような気になったんだ 彼には助けられたから それに 周りからしても もう俺はアドルフォです」
リドルフォ「しかしデイビー…君の名前は…君自身は…パトリックとクレアーの息子だ ずっと名乗らせていたが これじゃまるで君を死なせたみたいだ そんなことはしたくない」
デイビー「あなたの前ではデイビーです リドルフォ…俺は自分を演出するだけだ 有名な理髪師になるために 髪型もあなたを真似ようかと イタリアの理髪王だった師匠のように なりたい」
リドルフォ「私は…理髪王などでは…しかし…そうか…」

デイビーの声は ここ数日のことを思えば明るい
店をやる気になり 未来を語る
この笑顔と決意に溢れた顔は 引き取って以来初めて見る 仇を自身の手でうてなかったことは悲しかっただろうが それでも 彼は前を向いた

リドルフォの望み通りだった デイビーも立ち直った
あの日の遺恨が何もかも無くなった
全て終わった 解決した
そう思えて リドルフォは嬉しかった

恨むことは 辛いことだった 常に悲しみの中にいた彼らに 明るい未来が訪れるようだった

リドルフォ「わかったよデイビー 理髪師としての君は アドルフォ・ピレリなのだな 心得ておく 開業のことなら任せてくれ それに今後も 何かあればいつでも頼ってくれ 愛しい子」
デイビー「ありがとうリドルフォ あなたならそう言ってくれると思っていた!ここを出るのは寂しいけれど 思い出の家で あなたに教わったことを忘れず 立派な理髪師になってみせる」

リドルフォはデイビーを抱きしめ デイビーも抱きしめ返す
ここまで長かった しかし 喜ばしい日々はようやく始まる

だが再出発するデイビーの胸の内には 別の 燃えるような強い思いがあった


6月25日

デイビー27歳の時
コリンズ理髪店は再びオープンした

しばらくしてコリンズ理髪店に行った客から聞いたのだが
この時 彼の店には 1人の助手がいた
子供を孤児院から引き取っていて 店の手伝いをさせているのだという

リドルフォは 話に聞いただけで 直接会ったことはなかった

どうやらオープンした時からいるらしい
なぜ孤児を手伝いに…?そう思ったが 聞けないまま 時は過ぎた



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