第一章 出会い そして
ある冬の日
出会いから5年
朝 ピレリが集会所に来ると すでにテナルディエとゼロがいた
ピレリ「テナルディエ 珍しいな 朝から」
基本仕事終わりの夜にしか来ないテナルディエだったが どうやらゼロと話し合いをしていたらしく それもひと段落ついたようだった
ティナ「呼び出されたんだ 早く戻らないとロザリーが呼びに来ちまうし そろそろ戻る」
今日はクリスマス
テナルディエが住むモンフェルメイユは非常に盛り上がっている
彼の時代 まだ小さな村であるその場所に 仮小屋や露店ができて 宿屋のある小路にまで延びているらしく
普段静かなテナルディエの店も 活気付いているというので いい話である
ゼロ「君のとこも やっぱりクリスマスはお祭り…っていうか それなりに盛り上がるもの?」
ピレリ「まぁ…」
テナルディエと入れ違いになる形となったピレリは そのまま椅子に座り ゼロは今度はピレリと話し始めた
ゼロ「いやぁここ何十年もクリスマスのあの雰囲気味わってないなぁ」
ピレリ「それ毎年言ってないか?」
ゼロ「言ってるっけ…そうだっけ…もう人間っぽい生活なんかしてないしなぁ…」
ピレリ「それは去年も聞いた」
ゼロ「やばい私このままだと毎年同じこと言う人になっちゃう……」
クリスマスの夜
彼らの仲がより深くなった年から
一緒に過ごす予定のある人のいないギュスターヴ ゼロ タイム 家族は早々に寝てしまうテナルディエ…そしてピレリでクリスマスの夜に一緒に過ごすようになっていた
暇だから そしてクリスマスという理由をつけて飲むために
今年 ピレリはトビーも連れてきていた
最近あまり食事を出すことがないゼロも
この日はフランスとイギリスのクリスマス風を演出し 料理もそれぞれに合うものを出してみたりしていた
定番チキンに魚介 最後にはこういう日か 出会った日の記念にしか出さない ゼロの時代のスイーツを出す
記念の日のスイーツには 他にタイムがレシピを知っているベリーのタルトなどもある
しかしそんなクリスマスの集まりでも やってきていたテナルディエだったが 今日は姿を見ていない
公安官「来ないな テナルディエ」
ゼロ「そうだね もうすぐ1時か…これはもう 来ないパターンかなぁ」
テナルディエは料理店の主人でもあるので 客と一緒になって酒を飲み 議論に混じることも多く なにより話が上手なので こうして集まり 飲んでいる時にも 一番盛り上げてくれるのはテナルディエだった
仕事柄話は得意なはずのピレリは 普段口数が少ないし 同じく人と接する機会は多いと思われるギュスターヴも 口数が少ないし 笑わないため常に気難しい顔をしているし 盛り上げ役はやっていなかった
タイムはそもそもこの場にいて話をするだけで 料理にも飲み物にも手をつけないし
ゼロはどちらかと言えば聞き役だった
なので テナルディエがいる時といない時では 場の盛り上がりに差があった
初参加のトビーはテナルディエが来ないので 途中でゼロの隣の席からテナルディエの席に移動させられ 酒の席なのに酔っぱらいは1人もいない空間に ピレリの隣 という状況もあって 非常に気まずい顔でジュースを飲んでいた
会話に入れないのが大きい
時代と国と職業が違う彼らだが それらのジャンルの話で盛り上がれる
5年も付き合いがあるが この手の話はジェネレーションギャップとかカルチャーショックなどがあり
それなりに興味がわき 数十年差だが既知の事は割と無く
トビーはそれがよくわからず とりあえず時々相槌をうって 後は食べて飲んでいた
それに気づいたゼロが彼を中心にし始め その場合の対応ができないピレリが静かになり出したところで 扉の上の揺らぐ数字は2時を超えた
そろそろ解散しようかと ゼロが両手を上げ 想造力発動のための動作である 手を開いて 握る…をしようとしていた時
テナルディエがゆっくりと扉を開け やってきた
いつもの貼り付けてた笑顔はなく 神妙な面持ちで歩き もうやってこないと思っていた他の4人からの視線を集めた
公安官「どうした?」
ティナ「いや…今日 変わった客がきて…さっきまでずっと様子を見てたんだが…」
ピレリ「お前がそんな顔になるなんて どんなやつだ?」
ティナ「貧乏人みたいな金持ち…金持ちではあるんだよな…たぶん」
うーん…と言いながら 椅子に座ったので ゼロは机の上の片付けだけすませ 話を聞くことにした
彼が初対面の母親から頼まれ 養育費を受け取り預かっているコゼットという少女がいる
その子は現在 下女のように扱われ 店の雑用を手伝わされているのだが
彼女が夫人に言われ 森に水を汲みにいった時のこと 行きは1人だったのだが 帰りにはその客を連れて帰ってきた
貧相な格好で質素なものしか頼まず 貧乏人かと思っていたが コゼットが靴下を編む仕事をしていると その靴下を5フランで買い コゼットを遊ばせるように言ってきたり
彼女が小さな剣のおもちゃを人形に見立てて遊んでいると 突然店の外へ出て しばらくすると 少なくみても三十フランはする 60cmほどの大きさの人形を買ってきて それを子供に与えた
何者かわからない コゼットは客だと連れてきた 彼も彼女も互いを知らない様子で
何か食事を頼ませようと声をかけると パンとチーズのみを注文する
貧乏人の見た目の 金持ち
なぜかコゼットを気にかけている様子 どこを気に入ったのやらわからない
ただ 金はあるようなので 特別それなりの対応はしたが
それにしても妙な老人がやってきた
…という 一連の話を聞き終わり
ゼロとギュスターヴがテナルディエの扉の上の数字を見る
扉の上には 作品名のプレートと 文字が浮かび上がる年月日と 少し揺れながら時を刻む数字だけの時計
ティナ「あぁ もう遅い時間だよな…俺もさっさと寝てやつに支払わせる代金を勘定しねぇとな…」
公安官「…そうだな 流石に 私ももう戻ろう」
テナルディエは一通り誰かに話せて満足したのか さっさと帰ってしまう
ギュスターヴもそれに続いて帰る
ピレリ「…知らない娘にそこまでしてやるって どんな善人だ?」
ゼロ「さぁ…金持ちの考える事はわかんないや…」
ピレリ「そうだな…さて 私たちも帰るか トビー」
トビー「あ…えっと…もう少し話しててもいいですか?」
ピレリ「…寝る時間なくなるぞ」
トビー「そ それは大丈夫ですから…」
ピレリ「まぁ…好きにしろ」
そう言って ピレリが先に帰ったのを確認すると トビーはチラッとテナルディエの扉を見る
トビー「…コゼットっていう子にとっては とてもいい日だったでしょうね…」
ゼロ「…ま そうだろうね これが 彼女にとっては転機だし」
トビー「知っている事だったんですか?」
ゼロ「よく見てなかったから…多分字は赤くなってたんだろうね」
扉の上の文字が赤くなる時 それは今が物語の最中であり 誰も出入りができなくなる時
1823年のクリスマス
レ・ミゼラブルにとってのその日は まさに物語の中の出来事が起きている日だった
ゼロもギュスターヴも 話を聞いていて その客が誰なのかを察した
そして今日 起こる出来事も
テナルディエはまた集会所に来るだろう
今日のように その客のことを話しに
タイム「…また1つ 物語が進んだのか」
ゼロ「そうだね…出会った時以来か…」
トビー「…僕の世界の物語って どんなものなんです?」
ゼロはトビーの顔を見て しばらくなにも言えないでいた
彼を見て 物語の内容を思い出し そして他の物語と比べ
なぜ全部 共通して可哀想な子供がいるのだろうかと 別のことを考えていた
目の前にいるトビーも レ・ミゼラブルのコゼットも 他の世界も タイムの世界の過去も 未来も…
それを選んだのは 他でもないゼロではあるのだが 嫌な共通点を見つけてしまったと思っていた
そして トビーの質問には
ゼロ「それは言えないよ ただ 君が君の物語の名前を知らない理由は いつかわかるだろうさ」
トビー「え?」
振り返る 題名は書かれている
ただ いつも帰ると 思い出そうともしなくなる
その理由?
トビー「僕も 何か関わるんですか?」
ゼロ「ピレリが関わる以上 少しは関わるんじゃないかな」
トビー「知っているんでしょう?」
ゼロ「でも全部は言わないよ 言えないし 言いたくない ピレリに関しては 尚更」
それだけいうと ゼロの姿がそこから消えてしまう
突然のことだったので トビーはそれに気づくまでラグがあった
タイムと2人残されてしまったので なんとなく気まずい空気になったまま 解散となった
そして案の定 名状しがたい感情を抱えたテナルディエが その日の夜に集会所へやってきていた
“俺は馬鹿であった”という言葉に始まったその話はまず要約すると 例の少女 コゼットは 客の男によって1500フラン払われた上で連れて行かれたと
そしてその男は 彼女の母親であるファンティーヌという女性の署名が書かれた紙を持っていた 彼にその子を渡すように…と書かれた その紙を
1500フランで男にコゼットを売った…この言い方ではあれなので 渡したというか…譲った…というか…
とにかく 今コゼットはその男と共にあり どこに行ったのかももうテナルディエの知るところではないらしい
それで その金持ちの男に 1500フラン要求したのはテナルディエなのだが 彼と話し合ううち 考え込むうち 彼に言わせると 判断を誤った
咄嗟に出た金額が 彼の今抱える借金と同額だった
おそらくはそれ以上1万5000フランでも出したであろう男に
しかし 過ちに気づいてすぐさま後を追うが そこでもまた間違った
銃を持たずに出て行った と話す彼に 何をする気だったんだと思ったが そういう一面が時折出てくるのがテナルディエという男だった
ただテナルディエにとっては最悪の日であったが
ゼロやギュスターヴにしてみれば うまくいって良かったと思ったし トビーは救われた少女の話を聞いて喜んでいた
時代の差はあれど やはりテナルディエ一家の所業は許せない 母親も我が子がそんな目に遭っているとしればどれだけ悲しみ怒っただろうかと思うと トビーは本当に良かったと思っていた
ところで その 母親はどうしたのだろうか
トビーはその謎めいた男が本当にちゃんと 少女を親元に返すのか 少し心配になった 実はそちらも 何か悪い企みを持つやつだったらと思うと 恐ろしかった
トビー自身 救い出されたと思った先がピレリの元だったから テナルディエの話を聞いて不安だった
聞くほどに おそらくは善良で正しい人だとは思うのだが わからない テナルディエに対し演じているだけなのかもしれない
貧乏人のような金持ちという妙なところがある
ピレリがテナルディエの怒りを 過ぎたことで後悔しても仕方ない などと宥め 帰した後 トビーはギュスターヴやゼロに質問していた
テナルディエには言わないからと
ゼロ「あぁ そこは大丈夫 コゼットにとって幸せな人生の始まりだから 多少波乱はあるけど 彼は確実に彼女を幸せにするよ そのために来たんだし…母親の代わりにね」
公安官「その男というのはお金もあるからな 十分な暮らしをさせてやれるし 彼女はあの物語の中で ちゃんと幸せになれる子だからな」
トビー「そうなんですね…」
ゼロ「会ったことない子のことをそんなふうに心配できるなんて トビーは優しいなぁ」
トビーは照れて笑うが すぐに表情が曇る
その子はようやく幸せになれるのだという
…では自分はどうなのだろうか
ピレリは確かに変わってきてはいる
確実に 会った時と 数年前と 今とでは違う
トビー「言えないんでしょうけど 僕はどうなっていくのか 不安です みんながハッピーエンドじゃないかもしれないのなら 僕なんて きっと…」
ゼロ「…時はいずれくるよ 君らは気づかないうちに 物語は始まって終わる テナルディエだってそうだ そうでなきゃいけない」
ゼロはそう言った後 何か小さく呟いた
誰にも聞こえない小さな声で…
トビー「あ でもテナルディエさんにとっての物語はここで終わり?コゼットとその男の人の物語なら…」
公安官「…むしろここからだな」
ゼロ「この物語はコゼットとその人だけの物語じゃないからね…テナルディエは結構重要というか…何かと関わっている人物だし…とはいえ しばらくは何もないかな」
全てを知るゼロとギュスターヴは テナルディエのこれからについて詳しく話す事はしなかった
公安官「私は何も言いはしないコゼットのこの出会いのために 今までテナルディエの行いを何も正そうとしなかったからな」
ゼロ「テナルディエがいい奴になったら 物語崩壊するしね…仕方ないよ それがテナルディエなんだから」
トビー「そうですか…」
こうして5年目の冬
物語の日は 一旦終わった
END
出会いから5年
朝 ピレリが集会所に来ると すでにテナルディエとゼロがいた
ピレリ「テナルディエ 珍しいな 朝から」
基本仕事終わりの夜にしか来ないテナルディエだったが どうやらゼロと話し合いをしていたらしく それもひと段落ついたようだった
ティナ「呼び出されたんだ 早く戻らないとロザリーが呼びに来ちまうし そろそろ戻る」
今日はクリスマス
テナルディエが住むモンフェルメイユは非常に盛り上がっている
彼の時代 まだ小さな村であるその場所に 仮小屋や露店ができて 宿屋のある小路にまで延びているらしく
普段静かなテナルディエの店も 活気付いているというので いい話である
ゼロ「君のとこも やっぱりクリスマスはお祭り…っていうか それなりに盛り上がるもの?」
ピレリ「まぁ…」
テナルディエと入れ違いになる形となったピレリは そのまま椅子に座り ゼロは今度はピレリと話し始めた
ゼロ「いやぁここ何十年もクリスマスのあの雰囲気味わってないなぁ」
ピレリ「それ毎年言ってないか?」
ゼロ「言ってるっけ…そうだっけ…もう人間っぽい生活なんかしてないしなぁ…」
ピレリ「それは去年も聞いた」
ゼロ「やばい私このままだと毎年同じこと言う人になっちゃう……」
クリスマスの夜
彼らの仲がより深くなった年から
一緒に過ごす予定のある人のいないギュスターヴ ゼロ タイム 家族は早々に寝てしまうテナルディエ…そしてピレリでクリスマスの夜に一緒に過ごすようになっていた
暇だから そしてクリスマスという理由をつけて飲むために
今年 ピレリはトビーも連れてきていた
最近あまり食事を出すことがないゼロも
この日はフランスとイギリスのクリスマス風を演出し 料理もそれぞれに合うものを出してみたりしていた
定番チキンに魚介 最後にはこういう日か 出会った日の記念にしか出さない ゼロの時代のスイーツを出す
記念の日のスイーツには 他にタイムがレシピを知っているベリーのタルトなどもある
しかしそんなクリスマスの集まりでも やってきていたテナルディエだったが 今日は姿を見ていない
公安官「来ないな テナルディエ」
ゼロ「そうだね もうすぐ1時か…これはもう 来ないパターンかなぁ」
テナルディエは料理店の主人でもあるので 客と一緒になって酒を飲み 議論に混じることも多く なにより話が上手なので こうして集まり 飲んでいる時にも 一番盛り上げてくれるのはテナルディエだった
仕事柄話は得意なはずのピレリは 普段口数が少ないし 同じく人と接する機会は多いと思われるギュスターヴも 口数が少ないし 笑わないため常に気難しい顔をしているし 盛り上げ役はやっていなかった
タイムはそもそもこの場にいて話をするだけで 料理にも飲み物にも手をつけないし
ゼロはどちらかと言えば聞き役だった
なので テナルディエがいる時といない時では 場の盛り上がりに差があった
初参加のトビーはテナルディエが来ないので 途中でゼロの隣の席からテナルディエの席に移動させられ 酒の席なのに酔っぱらいは1人もいない空間に ピレリの隣 という状況もあって 非常に気まずい顔でジュースを飲んでいた
会話に入れないのが大きい
時代と国と職業が違う彼らだが それらのジャンルの話で盛り上がれる
5年も付き合いがあるが この手の話はジェネレーションギャップとかカルチャーショックなどがあり
それなりに興味がわき 数十年差だが既知の事は割と無く
トビーはそれがよくわからず とりあえず時々相槌をうって 後は食べて飲んでいた
それに気づいたゼロが彼を中心にし始め その場合の対応ができないピレリが静かになり出したところで 扉の上の揺らぐ数字は2時を超えた
そろそろ解散しようかと ゼロが両手を上げ 想造力発動のための動作である 手を開いて 握る…をしようとしていた時
テナルディエがゆっくりと扉を開け やってきた
いつもの貼り付けてた笑顔はなく 神妙な面持ちで歩き もうやってこないと思っていた他の4人からの視線を集めた
公安官「どうした?」
ティナ「いや…今日 変わった客がきて…さっきまでずっと様子を見てたんだが…」
ピレリ「お前がそんな顔になるなんて どんなやつだ?」
ティナ「貧乏人みたいな金持ち…金持ちではあるんだよな…たぶん」
うーん…と言いながら 椅子に座ったので ゼロは机の上の片付けだけすませ 話を聞くことにした
彼が初対面の母親から頼まれ 養育費を受け取り預かっているコゼットという少女がいる
その子は現在 下女のように扱われ 店の雑用を手伝わされているのだが
彼女が夫人に言われ 森に水を汲みにいった時のこと 行きは1人だったのだが 帰りにはその客を連れて帰ってきた
貧相な格好で質素なものしか頼まず 貧乏人かと思っていたが コゼットが靴下を編む仕事をしていると その靴下を5フランで買い コゼットを遊ばせるように言ってきたり
彼女が小さな剣のおもちゃを人形に見立てて遊んでいると 突然店の外へ出て しばらくすると 少なくみても三十フランはする 60cmほどの大きさの人形を買ってきて それを子供に与えた
何者かわからない コゼットは客だと連れてきた 彼も彼女も互いを知らない様子で
何か食事を頼ませようと声をかけると パンとチーズのみを注文する
貧乏人の見た目の 金持ち
なぜかコゼットを気にかけている様子 どこを気に入ったのやらわからない
ただ 金はあるようなので 特別それなりの対応はしたが
それにしても妙な老人がやってきた
…という 一連の話を聞き終わり
ゼロとギュスターヴがテナルディエの扉の上の数字を見る
扉の上には 作品名のプレートと 文字が浮かび上がる年月日と 少し揺れながら時を刻む数字だけの時計
ティナ「あぁ もう遅い時間だよな…俺もさっさと寝てやつに支払わせる代金を勘定しねぇとな…」
公安官「…そうだな 流石に 私ももう戻ろう」
テナルディエは一通り誰かに話せて満足したのか さっさと帰ってしまう
ギュスターヴもそれに続いて帰る
ピレリ「…知らない娘にそこまでしてやるって どんな善人だ?」
ゼロ「さぁ…金持ちの考える事はわかんないや…」
ピレリ「そうだな…さて 私たちも帰るか トビー」
トビー「あ…えっと…もう少し話しててもいいですか?」
ピレリ「…寝る時間なくなるぞ」
トビー「そ それは大丈夫ですから…」
ピレリ「まぁ…好きにしろ」
そう言って ピレリが先に帰ったのを確認すると トビーはチラッとテナルディエの扉を見る
トビー「…コゼットっていう子にとっては とてもいい日だったでしょうね…」
ゼロ「…ま そうだろうね これが 彼女にとっては転機だし」
トビー「知っている事だったんですか?」
ゼロ「よく見てなかったから…多分字は赤くなってたんだろうね」
扉の上の文字が赤くなる時 それは今が物語の最中であり 誰も出入りができなくなる時
1823年のクリスマス
レ・ミゼラブルにとってのその日は まさに物語の中の出来事が起きている日だった
ゼロもギュスターヴも 話を聞いていて その客が誰なのかを察した
そして今日 起こる出来事も
テナルディエはまた集会所に来るだろう
今日のように その客のことを話しに
タイム「…また1つ 物語が進んだのか」
ゼロ「そうだね…出会った時以来か…」
トビー「…僕の世界の物語って どんなものなんです?」
ゼロはトビーの顔を見て しばらくなにも言えないでいた
彼を見て 物語の内容を思い出し そして他の物語と比べ
なぜ全部 共通して可哀想な子供がいるのだろうかと 別のことを考えていた
目の前にいるトビーも レ・ミゼラブルのコゼットも 他の世界も タイムの世界の過去も 未来も…
それを選んだのは 他でもないゼロではあるのだが 嫌な共通点を見つけてしまったと思っていた
そして トビーの質問には
ゼロ「それは言えないよ ただ 君が君の物語の名前を知らない理由は いつかわかるだろうさ」
トビー「え?」
振り返る 題名は書かれている
ただ いつも帰ると 思い出そうともしなくなる
その理由?
トビー「僕も 何か関わるんですか?」
ゼロ「ピレリが関わる以上 少しは関わるんじゃないかな」
トビー「知っているんでしょう?」
ゼロ「でも全部は言わないよ 言えないし 言いたくない ピレリに関しては 尚更」
それだけいうと ゼロの姿がそこから消えてしまう
突然のことだったので トビーはそれに気づくまでラグがあった
タイムと2人残されてしまったので なんとなく気まずい空気になったまま 解散となった
そして案の定 名状しがたい感情を抱えたテナルディエが その日の夜に集会所へやってきていた
“俺は馬鹿であった”という言葉に始まったその話はまず要約すると 例の少女 コゼットは 客の男によって1500フラン払われた上で連れて行かれたと
そしてその男は 彼女の母親であるファンティーヌという女性の署名が書かれた紙を持っていた 彼にその子を渡すように…と書かれた その紙を
1500フランで男にコゼットを売った…この言い方ではあれなので 渡したというか…譲った…というか…
とにかく 今コゼットはその男と共にあり どこに行ったのかももうテナルディエの知るところではないらしい
それで その金持ちの男に 1500フラン要求したのはテナルディエなのだが 彼と話し合ううち 考え込むうち 彼に言わせると 判断を誤った
咄嗟に出た金額が 彼の今抱える借金と同額だった
おそらくはそれ以上1万5000フランでも出したであろう男に
しかし 過ちに気づいてすぐさま後を追うが そこでもまた間違った
銃を持たずに出て行った と話す彼に 何をする気だったんだと思ったが そういう一面が時折出てくるのがテナルディエという男だった
ただテナルディエにとっては最悪の日であったが
ゼロやギュスターヴにしてみれば うまくいって良かったと思ったし トビーは救われた少女の話を聞いて喜んでいた
時代の差はあれど やはりテナルディエ一家の所業は許せない 母親も我が子がそんな目に遭っているとしればどれだけ悲しみ怒っただろうかと思うと トビーは本当に良かったと思っていた
ところで その 母親はどうしたのだろうか
トビーはその謎めいた男が本当にちゃんと 少女を親元に返すのか 少し心配になった 実はそちらも 何か悪い企みを持つやつだったらと思うと 恐ろしかった
トビー自身 救い出されたと思った先がピレリの元だったから テナルディエの話を聞いて不安だった
聞くほどに おそらくは善良で正しい人だとは思うのだが わからない テナルディエに対し演じているだけなのかもしれない
貧乏人のような金持ちという妙なところがある
ピレリがテナルディエの怒りを 過ぎたことで後悔しても仕方ない などと宥め 帰した後 トビーはギュスターヴやゼロに質問していた
テナルディエには言わないからと
ゼロ「あぁ そこは大丈夫 コゼットにとって幸せな人生の始まりだから 多少波乱はあるけど 彼は確実に彼女を幸せにするよ そのために来たんだし…母親の代わりにね」
公安官「その男というのはお金もあるからな 十分な暮らしをさせてやれるし 彼女はあの物語の中で ちゃんと幸せになれる子だからな」
トビー「そうなんですね…」
ゼロ「会ったことない子のことをそんなふうに心配できるなんて トビーは優しいなぁ」
トビーは照れて笑うが すぐに表情が曇る
その子はようやく幸せになれるのだという
…では自分はどうなのだろうか
ピレリは確かに変わってきてはいる
確実に 会った時と 数年前と 今とでは違う
トビー「言えないんでしょうけど 僕はどうなっていくのか 不安です みんながハッピーエンドじゃないかもしれないのなら 僕なんて きっと…」
ゼロ「…時はいずれくるよ 君らは気づかないうちに 物語は始まって終わる テナルディエだってそうだ そうでなきゃいけない」
ゼロはそう言った後 何か小さく呟いた
誰にも聞こえない小さな声で…
トビー「あ でもテナルディエさんにとっての物語はここで終わり?コゼットとその男の人の物語なら…」
公安官「…むしろここからだな」
ゼロ「この物語はコゼットとその人だけの物語じゃないからね…テナルディエは結構重要というか…何かと関わっている人物だし…とはいえ しばらくは何もないかな」
全てを知るゼロとギュスターヴは テナルディエのこれからについて詳しく話す事はしなかった
公安官「私は何も言いはしないコゼットのこの出会いのために 今までテナルディエの行いを何も正そうとしなかったからな」
ゼロ「テナルディエがいい奴になったら 物語崩壊するしね…仕方ないよ それがテナルディエなんだから」
トビー「そうですか…」
こうして5年目の冬
物語の日は 一旦終わった
END