第一章 出会い そして
出会い
全ての始まりは ある冬の日
年が明けた後 1月18日の出来事だった
彼らは何かに導かれるように ある場所へと向かっていた
1876年 イギリス ロンドン
理髪店の2階
自室の中 扉から入り 左奥の椅子の右側の壁にもたれかかり 座る
なぜかはわからないが 今日はここでゆっくりと目を閉じた
眠るわけではなく 一時的な休憩のつもりだった
夜遅い時間 一日の疲れかなのだろうか 椅子に座ればいいものを なぜ
その答えはわからなかったが 彼は確かに自らの意志でそこにいた
そして 壁から伸びた真っ白な腕に肩を掴まれ 壁の中に飲み込まれていった
1818年 フランス モンフェルメイユ
宿屋では既に全てのお客は部屋に入り 薄暗い部屋の中で1人 飲む気もないワインの瓶を眺めるという 意味もないことをしていた
ぼーっとしている自分に気づき さっさと自室に戻ることにした
部屋に戻ると 先に眠った妻の姿があった
もう一つのベッドの上に乗り 壁にもたれて座る
蝋燭の火を消した後 月明かりだけが差し込む窓を横目に またぼーっとしていた
半分寝ているような彼の肩を 白い手が掴み 声を上げる間もなく 彼は壁に飲み込まれた
1921年 フランス パリ
鉄道公安官は 今日の仕事を終え 愛犬のマキシミリアンと共に事務所に戻ってきていた
彼は今日の午後 机の上に様々な資料を広げていた時 叫び声を聞いて飛び出していた
散らかしたままだった机の上を整頓していた時 彼の側でのんびり寝転んでいたマキシミリアンが突然立ち上がり 公安官室の奥へと歩いていった
疑問に思った彼は 愛犬の後を追った
何か潜んでないか少し警戒し 帽子を被る
マキシミリアンは部屋の奥の壁の前で立ち止まった
吠えるわけでもなく ただ壁を見つめている 壁に手を触れるが なんともない
ベッドのサイドテーブルと扉の間 特に何も異常はないので 片付けの続きをしようと振り返った
すると 壁から伸びた腕に掴まれ引きずり込まれた
マキシミリアンは主人があっという間に壁に飲み込まれる姿を見て 何度も吠えたが 公安官は戻ることなく しばらく壁の前をうろうろしていた
こうして様々な時代の同じ日に3人の男が壁に飲み込まれた
1859年1月18日 イギリス…ではなく
その頃のアンダーランド
ここでもまた 動きがあった
彼は腕に掴まれることもなく そこへ向かっていた
ある物語の始まりの日だった
【Otherworldly Story】
プロローグ 出会い
壁の向こうには白い少し幅の広い廊下が続き 数メートル先に黒い扉が見える
壁の中に飲み込まれた彼らは それぞれが訳もわからないまま 好奇心だけで扉へ向かった
そもそもなぜ壁に飲み込まれるなんておかしなことが起きているのか
これは夢なのか それとも現実なのか
何もわからないまま 謎が解けると信じて歩いた
扉を目の前にする 黒い扉には細かい装飾が施されており そこだけ異様
一瞬 その丸いドアノブを回すかどうかで悩む
開けた先に何があるのだろう
謎めいた壁の向こう側の世界 ドアの上をチラッと見ると 金属のプレートに何か書かれている
“Otherworldly story”(Histoire d'un autre monde)
…別世界の……物語?
上に気を取られていると ドアノブが勝手に回りドアが手前に開く
その先に見える景色に困惑しながらも 彼らはその部屋に入った
廊下と同じ 真っ白な部屋の中 入ってすぐ飛び込んだのは青い布 正面と左右にカーテンがある
その先に 人の気配を感じる
ドアが閉まる音が奥から順に…3回
3つは部屋に扉が存在している
閉まったなら 他に2人誰かがいるのか?
ハッキリとした意識の中 段々と夢ではないのかもしれないと思うようになった
部屋には機械音と 時計の秒針の音がしていた
反響しているわけではなく ただ目の前の布の先から聞こえてきた
誰かの部屋の中?
すると突然 布が外れて下に落ち 煙となって消えてしまった
それを目で追った後前を見ると 2人の姿があった
それを見て 息を呑むと横にも人がいることに気づく
部屋は多角形なのか壁に角がいくつかあり 目の前には黒い椅子と机 細かな彫刻が彫られ 青い宝石で飾られている
そして自分の後ろ以外に 3枚の扉
壁一面ごとに 1つの扉 扉のない壁は2つだけ
扉もまた 黒い
それ以外は全てが白く どこにも灯りが無いのに なぜだか部屋は明るい
そして 3人が並ぶ対面に 3人と同じ顔の男性と ただ1人違う 女性がいた
「まず1つ 受け入れる流れにはしたよ」
「わかったから 説明をしてやれ」
女性が話すと 男性は気怠いような様子で彼らを見た
「やぁ 色々言いたいことはあるだろうけど まずは…さぁ どうぞ」
そう言って 彼らに前の椅子に座るよう指差して伝えた
誰も何も言わないまま 大人しく椅子に座った
なぜかそうしないと いけない気がして…
「いやぁほんと…えーっと?まずは…うん 自己紹介…いやここがどこか教えるべき?」
あれこれ1人で話し続ける女性に 隣の男はイライラした表情を向ける
「おい 早くしろ お前たちも 聞きたいことがあったら聞け」
なぜかそのイライラをこちらにまで向けられた
まず真っ先に真ん中の赤毛の宿屋が口を開いた
「お前らが俺たちをここに連れてきたのか?」
「そうだよ 私が連れてきた こっちは関係ない」
そう言って男を指差す 不機嫌な顔は変わらない
「…誰が仲間だ?」
黒い巻き髪の理髪師はその場全員を警戒する目で質問した
「あっと 私と…彼は知り合いだけど 他はみんな 会うのは今日が初めてだよ 初めまして」
青の制服に身を包んだ鉄道公安官が ようやく口を開いた
「ここはどこだ」
「えーーっと 集会所って言えばいいのかな 君達の扉の集まるところ 世界の中間地点?集合地点?とにかく 話をする場所 で 私はこの場所を作った人」
最初こそ詰まるが 他はテキパキと説明をする女性
真っ白な肌と真っ白な髪 そして紫の大きな目 彼らを見るその目は 息を呑むほど美しい
息を呑むほど美しい目 といえば 隣にいる男の目はもっと不思議な輝きを放っている 人間の目とは思えないほど 鮮やかで明るい青の瞳 ふと目が合った時 その色がチカチカと揺れるように見えた
隣の女性が話す姿を見ている時 横に顔を傾けた その後頭部が見えた時 その目を見た時以上の衝撃があった
彼の頭の後ろでは 歯車が回っている
体の中からぼんやりと水色の光が見えて それが瞳の色によく似ている
彼は機械なのか? やはりこれは夢なのか?
「夢じゃ ないからね?」
鉄道公安官はそう言われて彼女を見た 考えていることが 顔に出ていたのだろうか
「…色々と 理解しづらい話が続くけれど ここは君たちの住む世界とは隔離された別の世界 そして君たちの物以外の扉は 君たちの住む時代や国とは違う場所につながっている 特に 私の後ろの扉なんかはね ここは別世界にある別の世界へ繋がる部屋なんだ」
別の世界?
こんな話が夢ではない?
馬鹿げた話だ 別世界というのもよく理解が出来なかった
「私はゼロ…ゼロ・イストワール 全ての想像を創造する 想造の力を持つ…想造者 物語を作り 現実とし それを見守る存在 私はただ 君たちと 話がしたかった ただ見るだけでもよかったけれど 永遠を生きる私にとっては…時に必要な事だと思って…私の勝手で君たちはここへ集められた 申し訳ないけれど…付き合って欲しい」
ゼロはそう言って 両手を前に出し 手を握り開き また握り…そして開いた
すると机の上に4つのカップといくつかの皿の上に乗ったスコーンやタルト クッキーが現れた
ゼロ「想造で作った紅茶とお菓子だけれど 味は悪くないから あれさ 魔法みたいなやつさ」
誰も手をつけないので ゼロはそうだよなぁと一口飲んだ
ゼロ「私は 君たちが誰なのかを知ってる 君たちが今までどう生きてきたのかを 何故だって?だって君たちは ある物語の登場人物だしね 私が作ったわけじゃないけど こうして会えるようにはした」
「誰がそんなことを言われて すぐ理解するんだ」
ゼロ「タイム…言わないわけにはいかないよ…だって“Otherworldly Story”としては 必ず言うことになることだ」
タイム そう呼ばれた男はため息をつき 1人カップの置かれていないテーブルに被っていた帽子を置いた
ゼロ「…ダステ テナルディエ…そしてピレリ」
1人1人の目を見て 彼女は名を呼んだ
間違いはないのだろう みな驚いた様子だった
ゼロ「君らの後ろの扉の上 あれこそ 物語の名前だよ」
見れば 入ってきた時のプレートと書いてある内容が違う
それも 全員違う
ゼロ「“Sweeney Todd”“Les Misérables”“Hugo”…そして私たちの後ろに“Alice through the looking glass”……どうしたのさ ギュスターヴ・ダステ」
青い制服の ギュスターヴ・ダステ
“Hugo”の彼だけが 並べられた題名を聞いて 動揺を隠せないでいた
ゼロ「…何か聞き覚えでも?」
彼女の言う通りだった
覚えのある題名と隣の赤毛の男の名…
横を見ると 自分と同じ顔の…それでいて全く別のものを持つ男は 何か探るようにこちらを見ていた
ティナ「なんだ」
公安官「……何も」
確実に 隣の男のことだけは知っていた
レ・ミゼラブルの テナルディエ
本当に 物語のキャラクターがここに?
本の内容はあまり覚えてはいないが 少なくとも挿絵の彼はこんな姿ではなかった
なにより自分と同じ顔
どうなっている 登場人物ならなぜ同じ顔をしている 自分たちが同じ…何かしらの物語の登場人物だとしても 同じ顔の理由が…わからない
スウィーニー・トッドのピレリという男
……鏡の国のアリスの…タイムという男
そしてヒューゴの…自分
ヒューゴとは誰だ 一体 自分は…
ゼロ「…君たちは君たちがキャラクターであることに関して何か…考えることはないよ それはあくまでも他の物語の私たちが考えるだけで…君らにとって世界は現実で その前後も現実で これからもこの先も世界は世界 物語かどうかなんて…実際関係なく続くから」
もう 何も わからない 理解が追いつかない
一体何が起きているんだ
本の中の人間だと言われて どうして 何も思わなくていい?
ゼロ「私はただ ここで君たちと話がしたいだけ 君たちと友達になりたいだけ この世界の名は“Otherworldly Story” 今日のことで もう来なくても構わない でももし 他の世界に興味があるなら いつでも来てくれて構わないよ ここは休息地だ 音が鳴り 青く文字が光る時は君たちが外で呼ばれた時 赤く文字が光る時は物語の最中 他の世界に入れないし こっちの世界に入れない それと 後ろの世界には入らないこと それ以外ならここは好きに居てくれて構わない ただ 話をする場所だ さぁ 今日はもう遅いから…“君たちはもう帰る”……じゃあ また会えることを願っているよ」
ゼロがそう言った時 急に彼らは ここから離れてもいいような…そんな気がした
ここで大人しく話を聞いていたのは 彼女の…魔法…そのせいなのか?
自分たちの扉を見る
題名と その下に日付と時間
年代も 月日も …おそらくは時間も
全て正しい 本当に この世界も 自分も…?
ギュスターヴは一度だけゼロとタイムの方を向き 直ぐに扉の中へ入った
他の2人も すぐに戻ったようだった
ゼロ「……私はいつも やり方がダメなんだろうね」
タイム「急に連れて来られて話がしたいだの友人になりたいだの言われて 自らが物語の登場人物だと言われて…全く彼らには同情する」
ゼロ「仕方がないよ 急がないといけない 世界を守るためだよ」
タイム「…仕事に戻る」
ゼロ「大時計だけ 見させてよ…そしたら大人しく帰るよ」
壁から戻ると いつもの景色
壁に触れると すり抜ける
あぁこれは夢ではなかった
本当に……
ギュスターヴは突然消えて突然戻った主人を見つめるマキシミリアンを抱き寄せて撫でた
そしてその目は真っ直ぐ前を見た
ゼロの言った言葉 機械の…タイム テナルディエ ピレリ
私は キャラクター?
誰かが作り上げた 架空の人間?
だがゼロがそれを現実にした
私は…何も…考えなくていい…
全ての始まりは ある冬の日
年が明けた後 1月18日の出来事だった
END
全ての始まりは ある冬の日
年が明けた後 1月18日の出来事だった
彼らは何かに導かれるように ある場所へと向かっていた
1876年 イギリス ロンドン
理髪店の2階
自室の中 扉から入り 左奥の椅子の右側の壁にもたれかかり 座る
なぜかはわからないが 今日はここでゆっくりと目を閉じた
眠るわけではなく 一時的な休憩のつもりだった
夜遅い時間 一日の疲れかなのだろうか 椅子に座ればいいものを なぜ
その答えはわからなかったが 彼は確かに自らの意志でそこにいた
そして 壁から伸びた真っ白な腕に肩を掴まれ 壁の中に飲み込まれていった
1818年 フランス モンフェルメイユ
宿屋では既に全てのお客は部屋に入り 薄暗い部屋の中で1人 飲む気もないワインの瓶を眺めるという 意味もないことをしていた
ぼーっとしている自分に気づき さっさと自室に戻ることにした
部屋に戻ると 先に眠った妻の姿があった
もう一つのベッドの上に乗り 壁にもたれて座る
蝋燭の火を消した後 月明かりだけが差し込む窓を横目に またぼーっとしていた
半分寝ているような彼の肩を 白い手が掴み 声を上げる間もなく 彼は壁に飲み込まれた
1921年 フランス パリ
鉄道公安官は 今日の仕事を終え 愛犬のマキシミリアンと共に事務所に戻ってきていた
彼は今日の午後 机の上に様々な資料を広げていた時 叫び声を聞いて飛び出していた
散らかしたままだった机の上を整頓していた時 彼の側でのんびり寝転んでいたマキシミリアンが突然立ち上がり 公安官室の奥へと歩いていった
疑問に思った彼は 愛犬の後を追った
何か潜んでないか少し警戒し 帽子を被る
マキシミリアンは部屋の奥の壁の前で立ち止まった
吠えるわけでもなく ただ壁を見つめている 壁に手を触れるが なんともない
ベッドのサイドテーブルと扉の間 特に何も異常はないので 片付けの続きをしようと振り返った
すると 壁から伸びた腕に掴まれ引きずり込まれた
マキシミリアンは主人があっという間に壁に飲み込まれる姿を見て 何度も吠えたが 公安官は戻ることなく しばらく壁の前をうろうろしていた
こうして様々な時代の同じ日に3人の男が壁に飲み込まれた
1859年1月18日 イギリス…ではなく
その頃のアンダーランド
ここでもまた 動きがあった
彼は腕に掴まれることもなく そこへ向かっていた
ある物語の始まりの日だった
【Otherworldly Story】
プロローグ 出会い
壁の向こうには白い少し幅の広い廊下が続き 数メートル先に黒い扉が見える
壁の中に飲み込まれた彼らは それぞれが訳もわからないまま 好奇心だけで扉へ向かった
そもそもなぜ壁に飲み込まれるなんておかしなことが起きているのか
これは夢なのか それとも現実なのか
何もわからないまま 謎が解けると信じて歩いた
扉を目の前にする 黒い扉には細かい装飾が施されており そこだけ異様
一瞬 その丸いドアノブを回すかどうかで悩む
開けた先に何があるのだろう
謎めいた壁の向こう側の世界 ドアの上をチラッと見ると 金属のプレートに何か書かれている
“Otherworldly story”(Histoire d'un autre monde)
…別世界の……物語?
上に気を取られていると ドアノブが勝手に回りドアが手前に開く
その先に見える景色に困惑しながらも 彼らはその部屋に入った
廊下と同じ 真っ白な部屋の中 入ってすぐ飛び込んだのは青い布 正面と左右にカーテンがある
その先に 人の気配を感じる
ドアが閉まる音が奥から順に…3回
3つは部屋に扉が存在している
閉まったなら 他に2人誰かがいるのか?
ハッキリとした意識の中 段々と夢ではないのかもしれないと思うようになった
部屋には機械音と 時計の秒針の音がしていた
反響しているわけではなく ただ目の前の布の先から聞こえてきた
誰かの部屋の中?
すると突然 布が外れて下に落ち 煙となって消えてしまった
それを目で追った後前を見ると 2人の姿があった
それを見て 息を呑むと横にも人がいることに気づく
部屋は多角形なのか壁に角がいくつかあり 目の前には黒い椅子と机 細かな彫刻が彫られ 青い宝石で飾られている
そして自分の後ろ以外に 3枚の扉
壁一面ごとに 1つの扉 扉のない壁は2つだけ
扉もまた 黒い
それ以外は全てが白く どこにも灯りが無いのに なぜだか部屋は明るい
そして 3人が並ぶ対面に 3人と同じ顔の男性と ただ1人違う 女性がいた
「まず1つ 受け入れる流れにはしたよ」
「わかったから 説明をしてやれ」
女性が話すと 男性は気怠いような様子で彼らを見た
「やぁ 色々言いたいことはあるだろうけど まずは…さぁ どうぞ」
そう言って 彼らに前の椅子に座るよう指差して伝えた
誰も何も言わないまま 大人しく椅子に座った
なぜかそうしないと いけない気がして…
「いやぁほんと…えーっと?まずは…うん 自己紹介…いやここがどこか教えるべき?」
あれこれ1人で話し続ける女性に 隣の男はイライラした表情を向ける
「おい 早くしろ お前たちも 聞きたいことがあったら聞け」
なぜかそのイライラをこちらにまで向けられた
まず真っ先に真ん中の赤毛の宿屋が口を開いた
「お前らが俺たちをここに連れてきたのか?」
「そうだよ 私が連れてきた こっちは関係ない」
そう言って男を指差す 不機嫌な顔は変わらない
「…誰が仲間だ?」
黒い巻き髪の理髪師はその場全員を警戒する目で質問した
「あっと 私と…彼は知り合いだけど 他はみんな 会うのは今日が初めてだよ 初めまして」
青の制服に身を包んだ鉄道公安官が ようやく口を開いた
「ここはどこだ」
「えーーっと 集会所って言えばいいのかな 君達の扉の集まるところ 世界の中間地点?集合地点?とにかく 話をする場所 で 私はこの場所を作った人」
最初こそ詰まるが 他はテキパキと説明をする女性
真っ白な肌と真っ白な髪 そして紫の大きな目 彼らを見るその目は 息を呑むほど美しい
息を呑むほど美しい目 といえば 隣にいる男の目はもっと不思議な輝きを放っている 人間の目とは思えないほど 鮮やかで明るい青の瞳 ふと目が合った時 その色がチカチカと揺れるように見えた
隣の女性が話す姿を見ている時 横に顔を傾けた その後頭部が見えた時 その目を見た時以上の衝撃があった
彼の頭の後ろでは 歯車が回っている
体の中からぼんやりと水色の光が見えて それが瞳の色によく似ている
彼は機械なのか? やはりこれは夢なのか?
「夢じゃ ないからね?」
鉄道公安官はそう言われて彼女を見た 考えていることが 顔に出ていたのだろうか
「…色々と 理解しづらい話が続くけれど ここは君たちの住む世界とは隔離された別の世界 そして君たちの物以外の扉は 君たちの住む時代や国とは違う場所につながっている 特に 私の後ろの扉なんかはね ここは別世界にある別の世界へ繋がる部屋なんだ」
別の世界?
こんな話が夢ではない?
馬鹿げた話だ 別世界というのもよく理解が出来なかった
「私はゼロ…ゼロ・イストワール 全ての想像を創造する 想造の力を持つ…想造者 物語を作り 現実とし それを見守る存在 私はただ 君たちと 話がしたかった ただ見るだけでもよかったけれど 永遠を生きる私にとっては…時に必要な事だと思って…私の勝手で君たちはここへ集められた 申し訳ないけれど…付き合って欲しい」
ゼロはそう言って 両手を前に出し 手を握り開き また握り…そして開いた
すると机の上に4つのカップといくつかの皿の上に乗ったスコーンやタルト クッキーが現れた
ゼロ「想造で作った紅茶とお菓子だけれど 味は悪くないから あれさ 魔法みたいなやつさ」
誰も手をつけないので ゼロはそうだよなぁと一口飲んだ
ゼロ「私は 君たちが誰なのかを知ってる 君たちが今までどう生きてきたのかを 何故だって?だって君たちは ある物語の登場人物だしね 私が作ったわけじゃないけど こうして会えるようにはした」
「誰がそんなことを言われて すぐ理解するんだ」
ゼロ「タイム…言わないわけにはいかないよ…だって“Otherworldly Story”としては 必ず言うことになることだ」
タイム そう呼ばれた男はため息をつき 1人カップの置かれていないテーブルに被っていた帽子を置いた
ゼロ「…ダステ テナルディエ…そしてピレリ」
1人1人の目を見て 彼女は名を呼んだ
間違いはないのだろう みな驚いた様子だった
ゼロ「君らの後ろの扉の上 あれこそ 物語の名前だよ」
見れば 入ってきた時のプレートと書いてある内容が違う
それも 全員違う
ゼロ「“Sweeney Todd”“Les Misérables”“Hugo”…そして私たちの後ろに“Alice through the looking glass”……どうしたのさ ギュスターヴ・ダステ」
青い制服の ギュスターヴ・ダステ
“Hugo”の彼だけが 並べられた題名を聞いて 動揺を隠せないでいた
ゼロ「…何か聞き覚えでも?」
彼女の言う通りだった
覚えのある題名と隣の赤毛の男の名…
横を見ると 自分と同じ顔の…それでいて全く別のものを持つ男は 何か探るようにこちらを見ていた
ティナ「なんだ」
公安官「……何も」
確実に 隣の男のことだけは知っていた
レ・ミゼラブルの テナルディエ
本当に 物語のキャラクターがここに?
本の内容はあまり覚えてはいないが 少なくとも挿絵の彼はこんな姿ではなかった
なにより自分と同じ顔
どうなっている 登場人物ならなぜ同じ顔をしている 自分たちが同じ…何かしらの物語の登場人物だとしても 同じ顔の理由が…わからない
スウィーニー・トッドのピレリという男
……鏡の国のアリスの…タイムという男
そしてヒューゴの…自分
ヒューゴとは誰だ 一体 自分は…
ゼロ「…君たちは君たちがキャラクターであることに関して何か…考えることはないよ それはあくまでも他の物語の私たちが考えるだけで…君らにとって世界は現実で その前後も現実で これからもこの先も世界は世界 物語かどうかなんて…実際関係なく続くから」
もう 何も わからない 理解が追いつかない
一体何が起きているんだ
本の中の人間だと言われて どうして 何も思わなくていい?
ゼロ「私はただ ここで君たちと話がしたいだけ 君たちと友達になりたいだけ この世界の名は“Otherworldly Story” 今日のことで もう来なくても構わない でももし 他の世界に興味があるなら いつでも来てくれて構わないよ ここは休息地だ 音が鳴り 青く文字が光る時は君たちが外で呼ばれた時 赤く文字が光る時は物語の最中 他の世界に入れないし こっちの世界に入れない それと 後ろの世界には入らないこと それ以外ならここは好きに居てくれて構わない ただ 話をする場所だ さぁ 今日はもう遅いから…“君たちはもう帰る”……じゃあ また会えることを願っているよ」
ゼロがそう言った時 急に彼らは ここから離れてもいいような…そんな気がした
ここで大人しく話を聞いていたのは 彼女の…魔法…そのせいなのか?
自分たちの扉を見る
題名と その下に日付と時間
年代も 月日も …おそらくは時間も
全て正しい 本当に この世界も 自分も…?
ギュスターヴは一度だけゼロとタイムの方を向き 直ぐに扉の中へ入った
他の2人も すぐに戻ったようだった
ゼロ「……私はいつも やり方がダメなんだろうね」
タイム「急に連れて来られて話がしたいだの友人になりたいだの言われて 自らが物語の登場人物だと言われて…全く彼らには同情する」
ゼロ「仕方がないよ 急がないといけない 世界を守るためだよ」
タイム「…仕事に戻る」
ゼロ「大時計だけ 見させてよ…そしたら大人しく帰るよ」
壁から戻ると いつもの景色
壁に触れると すり抜ける
あぁこれは夢ではなかった
本当に……
ギュスターヴは突然消えて突然戻った主人を見つめるマキシミリアンを抱き寄せて撫でた
そしてその目は真っ直ぐ前を見た
ゼロの言った言葉 機械の…タイム テナルディエ ピレリ
私は キャラクター?
誰かが作り上げた 架空の人間?
だがゼロがそれを現実にした
私は…何も…考えなくていい…
全ての始まりは ある冬の日
年が明けた後 1月18日の出来事だった
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