プロローグ

アレから二ヶ月の月日が流れ、三人はまだオスカーの隠れ家に居た。
丁度迷宮への出入り口の所に20人の平成主役ライダーの石像が立ち並ぶ様になったのはハジメが休憩を兼ねて仮面ライダーシリーズを見る度に作った結果だ。

そんな中で京矢は日課である素振りを続けて居た。ハジメが工房に篭ってる間は剣の修行、ハジメが外に出た時にはライダーシステムの熟練訓練と生身での戦闘訓練。
そして、ゆっくりと手持ちの仮面ライダーシリーズのDVDを視聴。

そんな形で二ヶ月を過ごして居た。

なお、プログライズキーを使ってバルカンへの初変身の時にはハジメも力技でこじ開けて居たのには、それで良いのかとも思ったが。

「あぁ~、最高だな~」

存分に剣を振った後に広々とした風呂で汗を流す。手持ちの装備の使用訓練も忘れて居ない。……危険な魔剣や妖剣、邪剣以外の。

そして、今日は朝からハジメは工房に篭ってるので適当な所でDVDでも餌に釣り出そうと考えながらお湯に浸かりながら天井を見上げる。

「京矢様、タオルとお着替えの用意は出来ております」

「ああ、助かる」

浴室の外からそんな声が聞こえて来た。
ガチャを通じて呼び出したベルファストが現在京矢達の世話をしてくれている。
広々としたベッドと浴室にメイドさんとかどこの貴族かと思わせる生活だ。

時折食事を忘れて工房に篭りきりになるハジメに対して実力行使で連れ出そうとする前に京矢があの手この手で引っ張り出して居たりする。
主に仮面ライダーシリーズのDVDやら魔法のテーブルクロスやらで。

此方の味方としてベルファストとエンタープライズは呼び出したものの、流石にドルイドンの幹部は呼び出して居ないが、ハジメと共同である研究を行って居た。













爆発音と共に煙が消えて後に残るのは京矢がガチャで手に入れた瓶に入ったポーション。

「成功だ」

「ああ、うまく行ったな」

ポーションを手にとって瓶に破損が無いことを確認する。
二人が研究して居たのはガチャで手に入れたものを遠隔で出現させることの出来るカプセルを開ける装置(爆発音と煙付き)。
その実験に無事に成功したハジメと京矢は悪役の様な笑みを浮かべて居た。
セットした時間にカプセルを開けると同時に爆発音で敵を引きつけて出現したドルイドン幹部を敵の囮にする。通称ドルイドン爆弾の製造に成功したのだった。

呼び出したらガチの殺し合いになりそうなヴィラン達なのだから、ハジメがせいぜい自分達にとって有意義に活用しようと判断した結果だったりする。

先ずは薬草で遠隔操作でカプセルを開けられるかのテストを行い、ポーションで爆発音が鳴って敵を引きつけられる事を確認した。
これでドルイドン幹部のカプセルを敵の真っ只中に仕掛けて使えば、敵のど真ん中にガチの特撮ヒーローのヴィランが現れて混乱が起こる事だろう。
相手が魔人族だろうが教会だろうが十分に通用する陽動用の武器になる。

それの出来に笑みを浮かべる二人。側から見れば完全に悪役のそれである。



















ハジメの失った左腕はオスカー製の義手にハジメのオリジナル要素を付け加えた擬似的な神経が繋がった物で補うことができた。生成魔法で作られた鉱石を山ほど使って作られたそれは、世に出れば間違い無く国宝として厳重に保管されかねない代物だ。

そして、元の世界に戻ってもその義手は間違い無く時空管理局に見つかったらロストロギアに認定されかねない品物だ。
ハジメの生成魔法の事を考えると元の世界でもハジメはロストロギアを量産出来ることになる。
なので、元の世界に戻る事を目標としているハジメには時空管理局には十分に注意するように伝えておいた。
世界や魔法大系が違うとは言え天才的な魔法の才に恵まれたユエとロストロギアを量産できるハジメ。二人は時空管理局にとって正に喉から手が出るほどに欲する人材になる。

今のハジメと時空管理局がエンカウントしたら激突は規模の大小程度の差で間違い無く起こる。
地球に帰還した後の時空管理局とのトラブルは未然に防ぎたいが、その為にもバカ事をまた言い出しかねない|バカ勇者《天之河光輝》とその腰巾着と、序でに小悪党共の存在は帰還の際には最も排除しておきたい。
バカ勇者の存在は時空管理局の存在を考えると問題しか無い。

(まっ、時空管理局に関わった後も、自分勝手なバカな主張を押し付けかねないからな。絶対この世界に捨てていこう)

あれは周りを巻き込んで自爆するタイプだと判断して、そう強く決意を固める京矢。ああ言うタイプは派手な自爆に巻き込まれる前に始末するに限るのだ。

そんな考えに至った二ヶ月間の間にハジメ達の装備とステータスは以前とは比べものにならない程充実して居た。

京矢の場合は周りには事情を話したハジメ達しか居ない為、魔剣目録の中身を遠慮なく使える様になり、ライダーシステムも使えるので、力を貸す気のなかった城にいた頃よりも十全な力を発揮できる。


だが、状況の変化はそれだけではない。


全ては二ヶ月前まで遡る。

















『………い…………ん……』

エンタープライズとベルファストを呼び出そうとして居た時、四次元ポケットの中にある通信機に反応があった。

ベースは時空管理局の次元世界間での通信用に使われている物の同規格の物だ。
偶然手に入れたそれを直葉やマリアと言った仲間内での通信用に使って居たそれに反応が有った。

「っ!? スグ?」

京矢が一番最初にガチャで呼び出した少女『桐ヶ谷 直葉』。
今は京矢の家に引き取られた形で彼の義妹となって鳳凰寺直葉だが、彼女からの声が通信機から聞こえて来た。

「おい、これって!?」

「地球との通信だ!」

通信機から聞こえるその声に反応するハジメと京矢。慌ててそれを手に取ると、

「スグか!?」

『お兄ちゃん……良かった…………』

通信機から聞こえてくる安堵した声に不安にするような現状を伝えるべきか迷うが、彼女も彼女で戦うだけの力は有るのだ。最悪、向こうにいるマリアとセレナにも伝えて欲しい。

「悪いけど、こっちは大丈夫とは言えない状況だな」

悪霊擬きの神様にお遊びで異世界に呼ばれて(これについてはセフィーロの件が有るので驚かれなかったが)、魔人族と言う異種族との戦争の為に徴兵されて、それに真っ先に光輝が賛成して結果的にクラス全員が戦争に参加させられた事。
その訓練中に、檜山達小悪党一味が罠に掛かり強力なモンスターに挟まれた事。
そのモンスター『ベヒーモス』からクラスメイトを守る為に自分の手札の一枚を使いガイソーグに変身して、ハジメが足止めした所を京矢がトドメを刺して倒したが、その最中に檜山に自分とハジメが殺されかけた事。
反射的に反撃してしまった為に檜山を道連れにして三人揃って谷底に落とされた結果、檜山が死んだ事を伝えた。

「……所で、なんか騒がしいけど、どうしたんだ?」

『えっと……今……』

どうやら、他の生徒の家族が学校の会議室に集まって、何か手がかりはないかの話し合いの最中に通信が繋がってしまったらしい。

「な、なあ、なんでお前がそんな集まりに?」

『マリアさんに頼まれて。私達なら何か分かるかもって』

「まあ、確かに」

まだ転移の際の空間の歪み程度や残滓程度は残っている筈だ。それを考えると自分達なら何か分かる可能性は高い。
警察が立ち入り禁止にしている為に、立場上、直葉が教室に近づくにはその集まりに参加するしかなかったそうだ。

『それで、他の人達は大丈夫なの?』

「天之河のバカが原因で心底心配だ。特にバカの暴走が」

元々チャンスを待って自身を死んだ事にしてクラスから離れて一人で帰還方法を探す予定では有ったが、態々光輝の手綱を握ってやる必要はない。

「まあ、天之河が邪魔で、こうでもしないと帰還方法は探せない。絶対邪魔するだろう、あの見たい事しか見てない御都合主義者は」

その事を想像してしまったのか、吐き捨てる様に苛立ちまぎれに呟く京矢に通信機の向こうから啜り泣く声と誰かを責める声が聞こえてくる。

「ったく、しかも戦闘向けじゃ無い能力の持ち主や、全く戦えないやつにまで前に出る事を強要した時点で神経疑うぜ、あのバカ!」

主に前者は後方支援特化の当時のハジメ。後者は笑えない事に服を着るとハジメ以下のステータスになる檜山達小悪党一味だ。一応、情けで全ステータス1は残る様だが、最強の鎧を着た所で檜山達のステータスは上がらない。
一般人どころか子供でさえ勝てるスライム以下のステータスだ。

結果、檜山は光輝の犠牲になった様なものだ。全裸でダンジョンアタックとかどんな罰ゲームなのか問いたくなる。
……実はこれが光輝のカリスマが落ちた最初の一歩である。実際光輝と龍太郎以外の全員が思ったのだ。『コイツらは置いていってやれよ』と。

……なお、小悪党一味は服を着て居たら当時のハジメにさえ一方的に負けて居たりする。そりゃ、自分の十倍のステータスに戦いを挑めばそうなるのも必然だが。

「あれ? 天之河の両親ってそっちに……」

『うん、いる。あと、檜山って人の家族も』

戦争への参加に真っ先に賛成した子供の親と、その結果死んでしまった子供の親がいるそうだ。

『えーと、南雲さんの両親もこっちにいるけど……』

「なるほどな。おーい、南雲、家族と連絡できるみたいだけど、何か話す事は有るか?」

「……ハジメの両親!?」

「あー、長くなりそうだしな。オレは無事だって伝えてくれ」

ハジメの両親と言う所にキュピーンと擬音が付きそうなレベルで反応するユエ。
ハジメも色々と話したい事は有るが、自分が話すと長くなりそうなのでそれだけ伝える事を京矢に頼む。

「分かった。そう言うわけで南雲とオレは無事だ。出来る限りクラスの連中を連れ帰るって言っとく」

『……うん、分かった。絶対に帰ってきてね、お兄ちゃ……ッ』

そこで通信が切れてもう繋がる事は無かった。
偶然か、それとも転移が行われた場所と解放者の隠れ家と言う場所が関係しているのか、不思議なことか起こったのかは疑問だが。








そして、時は流れ、三人の出立の時に至る。









なお、京矢達は知らない事だがエヒト教から指名手配された真っ赤な瞳に緑と黒の人型の魔物が遺跡の外で目撃される様になったのは京矢達が準備を始めた時期だった。

複製RX、見事にリポップして独自にエヒトと戦い始めたらしい。




















さて、工房に篭っていたハジメをベルファストが強硬手段に出る前に京矢が引っ張り出した食後。食後のお茶を楽しんでいた京矢にハジメが問いかけた。

「そう言えば、メルドさんがお前のステータスプレートが可笑しいとか言ってなかったか?」

「そう言えば有ったな、そんな事……」

そう言って無くさない様にと四次元ポケットの中に無造作に突っ込んでいたステータスプレートをハジメに投げ渡す。

京矢も京矢で魔物の肉を摂取して大幅に能力を増強させていたのでステータスは良い。
剣聖と|希少《レア》な天職も良い。
ライダーの力と剣術と魔剣目録の中身があれば十分なので技能も全部興味無いと切り捨てているので今更見る気も無いのだろう。

だが、京矢のステータスプレートには一箇所だけ明らかにおかしい所があった。



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鳳凰寺京矢 17歳 男 レベル:???
天職:剣聖
第二天職:蓬莱寺京一
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何故か彼のステータスプレートに刻まれている第二天職と言う物と、何故か職業ではなく人の名前らしきもの。

「何だよ、その第二天職って? しかも、これ、人の名前だよな?」

「……第二天職? ……ハジメ、そんなの書いてない」

京矢のステータスプレートに疑問の声を上げるハジメの言葉に続くのはユエだ。
彼女の言葉に思わず見つめてしまうハジメだが、その不思議そうな表情には嘘を言っている様子はない。

「何を……」

「いや、これではっきりした。その第二天職ってのは地球出身者しか見えない可能性が高い」

ハジメの言葉を遮って京矢が第二天職と書かれた部分を指差して、

「ここは地球出身者以外には不自然な空白に見えるんじゃ無いのか?」

京矢の言葉にうなずく事でユエは肯定する。
何処かの世界には織田信長が職業になってる世界もあるのだから、こういう事になるだろうとも思う。

京矢とハジメとの共通点としては他にはガチャアイテムの使用程度しか思い付かないが、それは関係ないだろう。

「どういう事だ?」

「さあな、オレにも分からねえ。まあ、オレ達をここに呼んだ悪霊擬きの想定外の力、って認識しとけば良いんじゃ無いのか?」

手持ちの剣の中にも当たることさえできれば十分封印することの出来る代物はあるが、対抗できる手札は多い方がいい。

「それに南雲、一つ大事なことを忘れてるぜ」

「大事な事?」

「オレのステータスプレートを見た時、メルドさんはなんて言ったか覚えてるか?」

京矢の言葉にハジメは首を横に振る。当事者では無いハジメは奈落での生活に必死すぎてそんな事を気にしている余裕はなかったのだ。

「オレのステータスプレートに不自然な空白がある。じゃなくて、オレのステータスプレートにも不自然な空白があるって言ってた筈だ」

京矢は比較的後の方にステータスプレートを見せていたが、同じようにメルドが不自然な空白と認識する何かを持った者が少なくとも一人はいた事になる。

「それがオレと同じ第二天職かは知らねえが、城に残った連中の中に悪霊擬きの認知外の何かを持った奴が居るのかもな」

それが味方ならばいいが、それが敵ならば厄介な事になる。
だが、一つだけ確かな事がある。

「「檜山達じゃ無いことだけは確かだな」」

露出狂と|勇者(笑)王《ぜんらおう》と言う訳の分からない技能を見て驚きのあまり悪意なく叫んでしまっていたので間違いはない。
しかも、この技能は服を着るたびにデバフを受ける単なるデメリットしかない技能。この技能が原因で檜山達は着衣してるとスライム以下なので、全裸でダンジョンアタックする羽目になった事だけは同情する。
異世界から呼ばれた神の使徒と呼ばれた後に、檜山達だけは周りから微妙に汚物を見る目で見られていたのだから。誰だって露出狂の変態にはそんな目を向けるだろう。本人達にしてみれば誤解だが。
……まあ、助けてやる気は一切無いが。
死んだ檜山を弔ってやる意思も何一つないが。

全裸でダンジョンアタック。確かにそれを決行する者は別の意味での勇者だろう。そんな勇気は無謀ですら無いが。
何を考えてそんな技能を与えたかは知らないが、檜山一味はエヒトの壁画の方に全身が向いていた気がする。

なお、その檜山は現在進行系で死を懇願する苦痛を味わってる事は二人は知らない。

「しかし、タイタンソードを練習で作るか?」

「まずは単純なものからって思ったんだよ」

魔力を込めると形状がライジングに変化したり切れ味が増したりとシンプルなアーティファクトの剣だが、充分に宝物庫に保管される品だ。記念に貰った時に魔剣目録に収めておいた。
ハジメも自分の初めて作ったアーティファクトが京矢の魔剣目録の中に並ぶのはちょっと誇らしげだった。

はっきり言って京矢の魔剣目録の中の剣はどの剣も錬成魔法を会得したハジメにとっても遥か高みにある代物だった。

その次に作ったG3のケルベロスやらG4のギガントは京矢の四次元ポケットの中だ。

「しかし、お前のその魔剣目録の中の剣はどれもとんでもない品物だよな」

「……ん」

ハジメの基準からも、ユエの基準から言っても、魔剣目録の中身はそう言うしかない。

「そうか? 斬鉄剣なら似たような物は作れるだろ?」

確かに切れ味ならばそれに特化したアーティファクトを刀状にすれば近づけるだろうが、斬鉄剣は純粋に技術だけで作られた代物だ。
京矢と二人で悪ノリして(二人して食事の時間を忘れていたのでベルファストに強制的に一度中断された)作った日本刀もあるがそれもやっと同等に至れた代物だ。超えられてはいない。

まあ、その悪ノリと深夜テンションの末に生み出した刀は、ガチャ産の王者の剣の原材料のオリハルコンの像で作った刀身だったりする。当人達は斬鉄剣の物と誤解しているが、何気にこの世界で京矢の魔剣を除けば最強の武器が生まれてしまった。

但し、ハジメの技術がまだ未熟なのか、京矢の魔剣目録の中身の力には及んでいない。
魔剣目録に収められたガチャを通じて異世界からも集まった魔剣、聖剣、妖剣、邪剣は伊達ではないのだろう。
















ブレイラウザーの一閃をギャレンラウザーで受け止める。
ブレイドとギャレンに変身して出発前に軽く模擬戦をしている京矢とハジメだが、『オンドゥルギッタンディスカ』とかネタを混ぜたブレイドごっこをやってる二人。

ガチの特撮ヒーローに変身して戦えると言うのは流石に嬉しいのだろう、かなりノリノリでギャレンの真似をやっている。
まあ、この時点での実力ではブレイドの方が上なのでそこまでは遊んで居ないが。

暫く打ち合った結果、ブレイラウザーがギャレンラウザーを弾き切っ先を突きつける事でブレイドの勝利となった。

「またオレの負けかよ」

「へっ、オレの方が経験値は上だぜ、簡単に負けるかよ」

ステータスではハジメの方が上だが、変身後も生身でも一度も勝てたことがない。
京矢曰く、過去四度も死線をくぐった経験は伊達では無いそうだ。

「とは言っても、さっきのは結構マズかったな。及第点くらいは行ってても良いんじゃないのか?」

「あれで及第点かよ……」

「そりゃそうだ。ギャレンが倒した相手の中にはトップクラスの強敵も多いだろう」

主に、ピーコックとかギラファとか。それを怯まずに命がけで打ち倒したのだ。

「ホント、天之河がお前に勝てない理由がよく分かるな」

「当たり前だろ、悪いがあいつと本気で試合したらただのイジメだぜ。経験も上、技術も上、おまけに人格も上ってとこだからな」

最後の一つはどうかと思うが、確実に経験も技術も京矢の方が上だろうとハジメは思う。
まあ、日本に居た頃から四度も命懸けの戦いを経験をした京矢に喧嘩売って返り討ちに会った光輝に対しては本物のバカだと評価を改めていた。

ハジメの中で光輝=性質の悪い疫病神というのが確定した瞬間である。
少なくとも、小悪党の生き残りと龍太郎はその疫病神に取り憑かれてしまったのだから、後は破滅しか残ってない気がする。

(しかも、あいつのせいで全員が戦争に駆り出されて、この世界に呼ばれる原因でも有りそうなんだよな)

光輝がガチの疫病神とハジメの中で確定した瞬間だった。

「それにしても、そのアーティファクトも便利そうだな」

「ああ」

ハジメの手に入れた便利道具、それが『宝物庫』と言うアーティファクトだ。
これはオスカーが保管して居た指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の赤い宝石の中に創られた空間に物を保存して置けると言うものだ。
京矢の四次元ポケットと同じような物だ。あらゆる装備や道具、素材を片っ端から詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだから、四次元ほどではないが倉庫一つ分程度の大きさではないだろう。
この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能で、半径1メートル以内なら任意の場所に出せるのは、いちいち手を突っ込まなければならない四次元ポケットにはない利点だろう。

「まっ、最悪は四次元ポケットの予備を貸してやろうかと思ったけどな」

どこからか取り出したカウボーイハットとランプを見せながらそう言う京矢に対して、カウボーイハットを被った自分をちょっと想像してハジメは良いかとも思ってしまってもいる。

そんな物凄く便利なアーティファクトなのだが、ハジメにとっては特に、武装の一つとして非常に役に立っている。
と言うのも、任意の場所に任意の物を転送してくれると言う点から、ハジメはリロードに使えないかと思案したのだ。
ライダーの武装は無制限に撃てるが変身しなければ使えず、一々変身しなくても良い場面や、変身できない状況では自分の作った武器を使うしかない。
その思案の結果、半分成功と言った所だ。流石に、直接弾丸を弾倉に転送する程の精密な操作はできなかった。
弾丸を揃えて一定範囲に規則的に転送するので限界だった。
もっと転送の扱いに習熟すれば、あるいは出来るようになるかもしれないが。

なので、ハジメは空中に転送した弾丸を己の技術によって弾倉に装填できるように鍛練することにした。
要は空中リロードを行おうとしたのだ。
ドンナーはスイングアウト式(シリンダーが左に外れるタイプ)のリボルバーである。当然、中折れ式のシリンダーに比べてシリンダーの露出は少なくなるので、空中リロードは神業的な技術が必要だ。まして、大道芸ではなく実戦で使えなければならないので、更に困難を極める。
最初は中折式に改造しようかとも思ったハジメだが、試しに改造したところ大幅に強度が下がってしまった為に断念した。

結論から言うと一ヶ月間の猛特訓で見事にハジメは空中リロードを会得した。
僅か一ヶ月の特訓で何故神業を会得出来たのか、その秘密は『瞬光』である。瞬光は使用者の知覚能力を引き上げる固有魔法だ。これにより、遅くなった世界で空中リロードが可能になったのである。
瞬光は体への負担が大きいので長時間使用はできないが、リロードに瞬間的に使用する分には問題なかった。

次に、ハジメは『魔力駆動二輪と四輪』を製造した。
京矢から貸してもらって見ていた仮面ライダーシリーズの影響が無いわけではない。変身した後にライダーと名乗るのにバイクが無いのはと考えたから、だけでは無い。

なお、京矢も仮面ライダー用のマシンはガチャで手に入れたものをいくつか持っているが、二人乗りが限界なのでベルファストとエンタープライズとの三人乗りが出来るようにサイドカータイプのバイクを作って貰った。
ライダーマシンの中で唯一のサイドカータイプのサイドバッシャーは持っていないのだ。

さて、魔力駆動二輪と四輪、これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。
二輪の方はアメリカンタイプ、四輪は軍用車両のハマータイプを意識してデザインした。車輪には弾力性抜群のタールザメの革を用い、各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていたアザンチウム鉱石というオスカーの書物曰く、この世界最高硬度の鉱石で表面をコーティングしてある。
おそらくドンナーの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、ハジメ自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動する。速度は魔力量に比例する。

一度は仮面ライダーのマシンのように変形機能を加えようとしたが、それは京矢から全力で止められた。
ギャレンとブレイドの専用マシンがあるので、ギャレンのを渡す事で満足したと言うのもある。
更に、この2つの魔力駆動車は車底に仕掛けがしてあり、魔力を注いで魔法を起動する地面を錬成し整地することで、ほとんどの悪路を走破することもできる。また、どこぞのスパイのように武装が満載されている。
ハジメも男の子。ミリタリーにはつい熱が入ってしまうのだ。夢中になり過ぎてユエが拗ねてしまい、機嫌を直すのに色々と搾り取られることになったが……。

だが、戦闘力では総合的に京矢からもらったマシンに負けてるのが、ハジメにとっては残念な点であるのは不満な点らしい。

なお、失った片目の代わりになる『魔眼石』と言う物も開発した。
ヒュドラとの戦いで右目を失ったハジメ。極光の熱で眼球の水分が蒸発してしまい、神水を使う前に欠損してしまっていたので治癒しなかったのだ。
それを気にしたユエが考案し、創られたのが魔眼石だ。
京矢の案では目からビームとか打ち出す小型ビーム兵器とか考案されたが即座に却下したハジメだった。
アイディアに心を動かされたが、顔面で、眼球の位置にそんな物は埋め込みたくなかった。

さて、いくら生成魔法でも流石に通常の眼球を創る事はできなかった。
しかし、生成魔法を使い、神結晶に、『魔力感知』『先読』を付与することで通常とは異なる特殊な視界を得る事ができる魔眼を創ることに成功した。
 
これに義手にも使われている擬似神経の仕組みを取り込むことで、魔眼が捉えた映像を脳に送ることができるようになったのだ。
魔眼では、通常の視界を得ることはできない。その代わりに、魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになった上、発動した魔法の核が見えるようにもなった。

魔法の核とは、魔法の発動を維持・操作するための物……のようだ。
発動した後の魔法の操作は魔法陣の式によるということは知っていたが、ではその式は遠隔の魔法とどうやってリンクしているのかは考えたこともなかった。
実際、ハジメが利用した書物や教官の教えに、その辺りの話しは一切出てきていない。おそらく、新発見なのではないだろうか。
魔法のエキスパートたるユエも知らなかったことから、その可能性が高い。

なお、それを知った京矢が魔法の核を切れないかと何度か試したが、出来たものの最初から魔法を消す事の出来る剣で切った方が楽だと結論付けた。


通常の〝魔力感知〟では、〝気配感知〟などと同じく、漠然とどれくらいの位置に何体いるかという事しかわからなかった。気配を隠せる魔物に有効といった程度のものだ。しかし、この魔眼により、相手がどんな魔法を、どれくらいの威力で放つかを事前に知ることができる上、発動されても核を撃ち抜くことで魔法を破壊することができるようになった。ただし、核を狙い撃つのは針の穴を通すような精密射撃が必要ではあるが。

神結晶を使用したのは、複数付与が神結晶以外の鉱物では出来なかったからだ。
莫大な魔力を内包できるという性質が原因だとハジメは推測している。
未だ、生成魔法の扱いには未熟の域を出ないので、三つ以上の同時付与は出来なかったが、習熟すれば神結晶のポテンシャルならもっと多くの同時付与が可能となるかもしれない、とハジメは期待している。

なお、この魔眼、神結晶を使用しているだけあって常に薄ぼんやりとではあるが青白い光を放っている。
ハジメの右目は常に光るのである。
こればっかりはどうしようもなかったので仕方なくハジメは薄い黒布を使った眼帯を着けている。

白髪、義手、眼帯、ハジメは完全に厨二キャラとなった。その内、鎮まれ俺の左腕! とか言いそうな姿だ。
鏡で自分の姿を見たハジメが絶望して膝から崩れ落ち四つん這い状態になった挙句、丸一日寝込むことになり、ユエにあの手この手で慰められ……京矢達から呆れた目で見られたのだった。

新兵器について、ヒュドラの極光で破壊された対物ライフル:シュラーゲンも復活した。
アザンチム鉱石を使い強度を増し、バレルの長さも持ち運びの心配がなくなったので三メートルに改良した。
『遠見』の固有魔法を付加させた鉱石を生成し創作したスコープも取り付けられ、最大射程は十キロメートルとなっている。

また、ラプトルの大群に追われた際、手数の足りなさに苦戦したことを思い出し、電磁加速式機関砲:メツェライを開発した。
口径三十ミリ、回転式六砲身で毎分一万二千発という化物だ。
銃身の素材には生成魔法で創作した冷却効果のある鉱石を使っているが、それでも連続で五分しか使用できない。再度使うには十分の冷却期間が必要になる。

さらに、面制圧とハジメの純粋な趣味からロケット&ミサイルランチャー:オルカンも開発した。
長方形の砲身を持ち、後方に十二連式回転弾倉が付いており連射可能。
ロケット弾にも様々な種類がある。

あと、ドンナーの対となるリボルバー式電磁加速銃:シュラークも開発された。
ハジメに義手ができたことで両手が使えるようになったからである。
ハジメの基本戦術はドンナー・シュラークの二丁の電磁加速銃によるガン=カタ(銃による近接格闘術のようなもの)に落ち着いた。
典型的な後衛であるユエとの連携を考慮して接近戦が効率的と考えたからだ。突出した戦力の京矢は遊撃に回るので、連携は完全にユエとの物に限定したのだ。
ハジメは武装すればオールラウンドで動けるのだが。

それから京矢からのライダーシリーズの武装をアーティファクトとして再現した物が幾つも有る。
素材と技術と再現が可能な限り作ったのは半ば暴走気味であったともハジメは自覚している。
時折工房から『ブドウ龍砲』とか聞こえてきたのだからどこまで再現したのかは大体想像できる。

他にも様々な装備・道具を開発した。しかし、装備の充実に反して、神水だけは遂に神結晶が蓄えた魔力を枯渇させたため、試験管型保管容器十二本分でラストになってしまった。京矢がペットボトルに保管した物もあるが其方は別口になる。
枯渇した神結晶に再び魔力を込めてみたのだが、神水は抽出できなかった。
やはり長い年月をかけて濃縮でもしないといけないのかもしれない。

しかし、神結晶を捨てるには勿体無い。
ハジメの命の恩人……ならぬ恩石なのだ。幸運に幸運が重なって、この結晶にたどり着かなければ確実に死んでいた。その為、ハジメには並々ならぬ愛着があった。
それはもう、遭難者が孤独に耐え兼ねて持ち物に顔をペインティングし、名前とか付けちゃって愛でてしまうのと同じくらいに。
 
そこで、ハジメは、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工した。
そして、それをユエに贈ったのだ。
ユエは強力な魔法を行使できるが、最上級魔法等は魔力消費が激しく、1発で魔力枯渇に追い込まれる。しかし、電池のように外部に魔力をストックしておけば、最上級魔法でも連発出来るし、魔力枯渇で動けなくなるということもなくなる。
元々魔力を使わずに遠距離攻撃にも気を扱う剣士である京矢には縁の無い悩みである。

そう思って、ユエに『魔晶石シリーズ』と名付けたアクセサリー一式を贈ったのだが、そのときのユエの反応は……

「……プロポーズ?」

「なんでやねん」

ユエのぶっ飛んだ第一声に思わず関西弁で突っ込むハジメ。

「おっ、式は地球に帰ってからか?」

「ハジメ様、ご結婚おめでとうございます」

「ああ、結婚おめでとう」

「いや、違えから」

京矢、ベルファスト、エンタープライズと三人揃ってからかわれる始末である。

「それで魔力枯渇を防げるだろ?
今度はきっとユエを守ってくれるだろうと思ってな」

「……やっぱりプロポーズ」

「いや、違ぇから。ただの新装備だから」

「……ハジメ、照れ屋」

「……最近、お前人の話聞かないよな?」

「……ベッドの上でも照れ屋」

「止めてくれます!? そういうのマジで!」

「ハジメ……」

「はぁ~、何だよ?」

「ありがとう……大好き」

「……おう」

本当にもう爆発しちまえよ!と言われそうな雰囲気を醸し出す二人。いろんな意味で準備は万端だった。
そんな二人の様子を呆れと微笑ましさのこもった目で見ている京矢とエンタープライズとベルファスト。

ふと思い出すのは、ハジメに神獣鏡のデバイスを渡した時の事、







そこで京矢はポケットの中から取り出したそれをハジメへと投げ渡す。

「なんだよ?」

受け取ったのはペンダントの様な物。何故そんな物を自分に渡したのかと言う疑問が湧いてくる。

「オレが昔助けたプレシアって人に改造して貰った神獣鏡のファウストローブをベースにして完成したデバイス仕様のファウストローブだ」

「デバイスって、確か次元世界の魔法の杖みたいなモンだよな?」

「おう、娘さんを生き返らせる代わりに研究と改造を頼んだんだ」

サラリと死者蘇生ができる事を言ってくれた、この友人にリアクションに困るハジメだった。

「条件付きだけど魔剣目録の中には死を切れる刀もあるんだよ。で、このタイム風呂敷で条件の一年以内の状態に戻した後にな」

そう言ってポケットの中から風呂敷を取り出す京矢。ガチャの中には某猫型ロボットの道具もいくつかある。今回のタイムふろしき自体は使い捨てな上に生き返らせることは出来なかったが、その刀の一年以内と言う制限まで戻す事には成功した。

ガイソーグの姿で生き返らせたアリシアを連れて行って手に入れていたファウストローブをデバイスに改造する様に頼んだわけだ。
なお、リインフォースとの別れの時にプレシアとアリシアも二人の希望でフェイトの前に連れて行ってもいる。
これでファウストローブのデータが管理局に渡ったと言う不安はあるが司法取引の材料にでもなれば家族で暮らす事の助けになれば良いと軽く考えているのが問題だが。

「それで、なんでオレにこれを渡したんだ?」

「いや、お前が誰に使わせるか任せた。マリアさんやセレナは自分用の改造前のを持ってるしな」

ならば、戦力の底上げと言う点からハジメに渡しておいた。
一応、使い手がいれば対神武器にもなりそうなのだし、魔剣目録の中身を考えるとハジメにも対神武器があった方が良いだろうと言う考えからだ。
そんな京矢の言葉に怪訝な表情を浮かべながらもそれを受け取るハジメだった。

なお、ハジメからのプレゼントに喜んだユエが適性がなくて落ち込んだのはまた別の話。













そんな感じでプロポーズの下りから十日後、遂に五人は地上へ出る。

三階の魔法陣を起動させながら、京矢達はそこにいた。

京矢達三人はオスカーの衣服や魔物の素材で仕立てた服に着替えている。

黒いコートの内側に四次元ポケットをセットして、黒のジーパンとベルトには斬鉄剣、背中には新たに用意したテンコマンドメンツを背中に背負っている。
この世界では其方の方が剣だと分かりやすいだろうと言う判断からだ。
なお、気分によって鎧の魔剣と時折入れ替えようと思っている。

そんなことを思い出しながら、京矢はハジメ達に静かな声で告げる。

「お前ら……オレ達の武器や力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ああ」

「ん……」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「はい」

「分かっている」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしねえ」

「ん……」

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「何を今更」

「今更……」

「失礼ですが、京矢様は既にその程度の事は経験しているのではないでしょうか?」

ハジメ達の言葉に思わず苦笑いする京矢。確かに愚問だったと思う。

「悪とは言わねえ、敵・即・斬だ。敵を相手するときは切る。そして、互いが互いを守り、それでオレ達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えようぜ」

「忠義を尽くそう司令官」

「畏まりました、京矢様」

「ああ!」

「……ん」

四人の返事を聴き、

「よっしゃ! 行くぜ!」

高らかにそう宣言する。
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