プロローグ

「本当に良いんだな?」

「ああ、やれるもんならやってみな」

互いに同系列のバックルを持って対峙する京矢とハジメ。互いの目は真剣そのものだ。二人が腰にバックルを持って行くとベルトが伸びて二人の腰に装着される。
そして、互いにバックルに触れ、


「「変身!」」


『turn up』



京矢がスペードとカブトムシを模した紋章を、ハジメがクワガタとダイアを模した紋章を潜り抜けると二人は姿を変える。
『仮面ライダーブレイド』と『仮面ライダーギャレン』へと。

互いに仮面ライダーの姿に変身するとギャレンに変身したハジメは、何度も自分の姿を見ながら、


「うおおおおおおああ! スゲー! マジで変身出来た!」

京矢が出した姿見の鏡の前でポーズを決めるギャレン(ハジメ)。|この世界《トータス》にも|元の世界《地球》にも仮面ライダーは無いのだが、ガチの変身ヒーローになれたと言うのはハジメのテンションを大いに上げていた。

「おい、本当にこれ貰っていいのかよ!?」

「メインウエポンが銃なんだぜ、オレよりお前のが使えるだろうから遠慮するなよ」

嬉しそうに京矢からギャレンバックルを受け取るハジメ。
奈落の洗礼を受けても本当の変身ヒーローになれるのは嬉しいのだ。
なお、そんな仲良く話している二人に不満そうな顔をしているユエさんが居たとか。






さて、バールクスに変身していた京矢との再会やハジメに渡されたギャレンバックルの初変身を試していて時間は取られたが次の階層へと(やっと)向かった京矢を仲間に加えた一同。

「なんか、シュールな絵だな……頭に花の生えた恐竜って」

次の階層に向かうための階段を探している最中、ティラノサウルスを思わせる巨大な爬虫類の魔物が三人の目の前を闊歩して居た。だが、その頭に一輪の可憐な花を挿しているのだから迫力も台無しだ。

鋭い牙と溢れる殺気がその強大さを物語っているが、頭の上ではフリフリと一輪の花が揺れている。



『RX!』



京矢が無言のままにRXのライドウォッチを押すとそこから漏れ出した何かに怯えて即座に逃げ出して行ったが……。

「……そりゃ、普通は逃げ出したくなるぞ、それ」

「……ん、怖い」

「流石、|超世紀王《仮面ライダーBLACK RX》」

少なくともRXより強い魔物などこの迷宮には居ないのではないだろうかと内心思ってしまう京矢だった。
当然の事だが。

最初から平成最後の仮面ライダーの劇場版のラスボスの力で一方的に奈落の魔物を一方的に蹂躙できる京矢に、全属性の魔法をノータイムで操るユエに、この世界には無い銃を使い熟練度が増してきたハジメ。
最悪の場合は本能だけで動いてる魔物はRXライドウォッチを起動させる事によって漏れ出した力に怯えて逃げ出していく。

「で、最初から変身したままで良いのか?」

「安全対策はしとくべきだろ? これでも絡め手には弱いんだしな、オレ達」

ユエが回復や結界の魔法が得意では無い為、一行の回復手段が神水に限定されると言う自分達の弱点を自覚した上でそう発言する京矢。
仮面ライダーブレイドに変身したままなのはその為だ。なお、使い慣れてない強力な力は軽々しく使わない方が良いと考えてハジメはギャレンのバックルを京矢に預けている。

なお、一度はハジメつながりでカリスを渡そうかと悩んだのは京矢だけの秘密だ。まあ、リムが刃になっている弓と言う特殊な武器は使い辛いだろうから辞めておいたのは正解だったかもしれないが。

手元にゾルダが有れば一番良かったが、残念ながら龍騎系ライダーの力は手元には無いのだ。
今後のガチャで手に入れたらハジメに渡したいところだが、契約モンスターの食事が問題になる可能性もある。(トータスでは魔物をマグナギガの餌にすれば問題ないだろうが)

「まっ、命を大事にして、適度にガンガン行こうぜ」

木々が鬱蒼としている森林を先頭に立って京矢が歩いて行く。ライダーシステムの防御力と接近戦特化の天職である為に前衛として自然と行動して居た。

数で不利になるのならばRXのライドウォッチで敵を恐慌状態にすれば良い。先程も200体近い頭に花を挿したラプトル擬きの群れに遭遇した時もそうして対応した。
強大なドラゴンも葬る強大な魔法を使えても、簡単な魔法で一撃で始末できるゴブリンの群れには意味は為さない事もある。如何なる時も数の暴力は厄介なのだから、用心するに越した事はない。

そんな訳で、RXライドウォッチの力で、それは恐怖に襲われて逃げ出す群れを後ろから撃つ簡単な作業で終わった。

「なんか、オレさっきから何もしてない気がする……」

「……ハジメ、ファイト……」

大抵はユエの魔法で葬れ、それを避けた場合も京矢によって真っ二つにされて出番がない。
だが、落ち込む前にリアル特撮ヒーローの活躍を見れて最初は興奮して居たのはハジメだけの秘密だ。
……此処から脱出したら、京矢から貰ったギャレンバックルの使い方を絶対練習しようと誓うハジメだった。

「そういや、知ってるか? 恐竜ってのは鳥の先祖って説もあるらしいぜ」

「これは、どう見ても完璧に爬虫類だけどな……」

京矢の豆知識を聞きつつ少し落ち込み気味なハジメであった。

ふとそんな事を話していると先程倒したラプトル擬きの頭から落ちた花を手に取る。

(そう言う系列の魔物って事か? その割には異質すぎるだろ魔物と花が。……そうじゃ無かったら、この花は)

手の中で花を弄んでいると、冬虫夏草と言う高級食材のキノコを思い出す。妙にそのキノコとこの花と重なってしまうのだ。

(寄生植物)

もしかしたらと、そう推測する。ブレイドのライダーシステムが何処まで防げるかは分からないが厄介な物に変わりはない。そう考えれば頭に花を挿しているのも納得出来る。そんな推測を考えて手の中にある花を握り潰す。

新たなラプトル擬きの群れに遭遇すると今度は正面から迎え撃つ構えを取る。

先制としてハジメのドンナーの弾丸が先頭の数体の頭を撃ち抜くが群の勢いは変わらない。

「ちっ」

仲間の死を意に介さずに動くラプトルの群れに舌打ちして三人は左右に分かれて回避する。

「旋!」

『thunder』

ブレイラウザーにサンダーディアーのカードを読み込ませて得意の剣掌・旋と複合させた即席の雷撃の竜巻にラプトル擬き達を飲み込ませる。
流石にこれには驚異と思ったのだろう、一瞬だが動きは止まる。

「それにしても、流行ってるのか?」

「……可愛い……」

「シュールなだけだろ」

花をゆらゆらさせながら殺気を向けてくる態度と、頭の花の落差が激しすぎる。

「そんな流行が出るほど知能が高けりゃ有難いんだけどな」

赤い複眼の仮面から視線をハジメへと向け一瞬のアイコンタクト。
木々を足場に飛び回りながらラプトル擬きの花を切り落とす。京矢の考えを理解したハジメも気になっていたのだろう、何体かのラプトル擬きの花だけを撃ち抜いていく。

京矢とハジメに花を落とされたラプトル擬き達は一瞬痙攣したかと思うと地面を転がり木にぶつかり地面に倒れた。

「ラスト!」

ブレイラウザーの一閃が最後のラプトル擬きを斬り倒し、地面に転がった者以外の処理を終える。
ユエもトコトコとハジメの側によっているので京矢も安全に観察できる場所までラプトル擬きから離れる。

ユエは花とラプトル擬きを交互に見ながら、

「……死んだ?」

「いや、生きてるぽいけど……」

「花を落とされて気絶したって感じだったな」

暫く観察していると再度の痙攣と共に起き上がったラプトル擬き達は起き上がり周囲を見回すして、花を見つけると親の仇と言わんばかりに一斉に踏みにじった。

「え~、何その反応、どう言う事だ?」

「……イタズラされた?」

「いや、そんな背中に張り紙貼り付けて騒ぐ小学生じゃないんだから」

「いや、あの花って……何かから着けられたアンテナみたいな物じゃないのか?」

京矢が己の推測を告げる。

「寄生植物の一種かと思ったけど、花が落ちた瞬間ああなった以上はそれは無さそうだしな」

頭に根を張っているのならばまだ寄生された状態は続いている筈だ。それが無いのならばそう考えるのが自然だ。

ラプトル擬き達は一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。そして、ふと気がついたように京矢達の方へ顔を向けビクッとする。

哀れラプトル擬き達は用が済んだとばかりにハジメに頭を撃ち抜かれるのだった。

「今気付いたのかよ、どんだけ夢中だったんだよ」

「……やっぱり、イジメ?」

「でなきゃ、相当な恨みを持ってたって事だな。っ!?」

そんな会話をしているが、ハジメもユエも京矢の推測は当たってるのではと思ってしまう。
そんな中、何かの気配を感じる。明らかに此方へと近づいている気配の数々。

「おい、二人とも、早くここから離れた方がいい」

京矢の言葉に『気配察知』を発動して確認すると馬鹿みたいな数が走ってきている。

「なんでお前はオレより先に気付けるんだよ?」

「潜った修羅場の数って奴だ」

「そう言われると納得するしか無いな。ユエ、急いで逃げるぞ!」

「どうしたの?」

「かなりの数の敵が迫ってきてる! チッ、包囲されてるだろうし、上に逃げるぞ」

「分かった!」

京矢の声に答えて、しゃがみ込むとユエはその背中に抱き着く。既に京矢は上に逃げて安全の確認をしてくれていた。

「急げ、時間はねえ!」

「ああ!」

上から見た光景に焦った京矢の言葉に従って急いで『空力』を使って木の上に逃げる。

「なんでどいつも頭に花つけてんだよ!?」

「……ん、お花畑」

「嫌な花畑だな、あれは」

目の前の光景に嫌な顔をしながら爆弾でも無いかと四次元ポケットの中身を漁ろうと思った時、

「なあ、南雲」

「どうした?」

「ご都合主義正義馬鹿の頭の中と、今の光景って同じだな」

「……」

突然何を言ってるのかと思いつつ無言で続きを促すが、

「どっちも頭が、嫌なお花畑」

「…………っ!?」

次に飛び出してきた京矢の言葉に爆笑しそうになってしまったハジメだった。

「って、南雲、悪い!」

笑いを堪えたせいで枝の上から落ちそうになるハジメの腕を掴んで落ちるのを防ぐ京矢。

またも笑いのネタにされた光輝は王宮でクシャミをするのだった。

さて、京矢の光輝をネタにした冗談でハジメが笑いそうになって枝から落ちそうになったと言うトラブルは有ったものの、無事に避難は成功した。

「で、あの天之河ラプトルとかの天之河モンスター達は元々の種からの変異種か何かに寄生されてるって見て良さそうだな」

「……っ!?」

京也の命名した天之河モンスターと言う所で再び爆笑しそうになったハジメだったがなんとか耐えた。

「アイツらは、どっちも頭に花が咲いてるって事で」

「っ!?」

京矢の言葉にハジメはその光景を想像したのだろう、それが追撃となり更に爆笑しそうになる。

「ってか、寄生されてるって見て良さそうだぜ、アイツら」

彼らの眼下では頭に花が生えたラプトル擬き改め天之河ラプトルとラプトル擬きが殺し合いを始めていたのだが、明らかに数で勝る天之河ラプトル達がラプトル擬き達に一方的に虐殺されていた。

「あの花が咲いた天之河モンスター達の方がスペックが低過ぎる。アルビノとかの通常よりも劣化した個体にしてはそいつらが数で勝るのは変な話だしな」

異世界での経験者兼過去4回の死闘の経験(うち2回は地球の危機(ガチ))は伊達では無い。二種のラプトル擬きの動きや能力の違いから京矢はそう推測を述べていた。
また、花が咲いていない方がスペックの高い変異種という可能性は低いと言うのが推測だ。

「さっき頭の花を落とした時の反応や、花が無い方が能力が上がることとから考えて間違いは無いと思うぜ、南雲」

「……同感だ」

「多分、あの花の親玉が何処かにいる筈だ。そいつが他のモンスターを操るアンテナがあの花なんだろうな」

そう推測すると京矢は気配を殺したまま何処からかナイフ(城での訓練の際にコッソリと四次元ポケットに入れて投擲用として頂いたもの)を取り出し、後方にいるトリケラトプス擬きに見える天之河モンスターの花を狙って投げつける。

ブレイドの腕力と京矢の技術で投げられたナイフは正確に天之河トリケラトプスの頭の花を切り飛ばした。
すると一瞬意識を失った天之河トリケラトプスはトリケラトプス擬にもどった様子で辺りをキョロキョロとすると怒りに染まった憤怒の形相で後ろから他の天之河モンスターを襲い始める。

「これで証明できたか?」

「異常個体が特殊環境での繁殖って線は薄いかもな」

「…かも。ハジメ、気付かれた」

「ちっ」

「二人とも、なるべく頭の花を狙え、そいつがオレ達の|殿《しんがり》になってくれる」

「ああ」

「……ん」

京矢のアドバイスに従い、天之河ティラノや天之河トリケラの花を落として正気に戻すと上手く周りの天之河モンスターを襲ってくれていた。

「勝手にヘイト集めてんだ。利用しない手はないだろう?」

まるで此方の位置が分かっているように動く的な動きに辟易しながらも、上手く同士討ちにして逃げる時間を稼いでいる為に余裕がある。

此方の進路を潰すように現れる敵はユエの広範囲殲滅魔法『凍獄』で一気に氷結させ、水晶の花が咲いた様な綺麗な光景を作り出していく。

「広範囲殲滅は出来ない訳じゃねえが、連発できないんだよな」

「それはお互い様だ」

ハジメと同様に、京矢の手持ちの魔剣の中には広範囲殲滅用の攻撃が出来るものはそう多くない上に、有っても威力とチャージ時間と範囲が大きすぎるのだ。

「序でにブレイドもギャレンも強敵と一対一前提だからな。強力な技も基本単体攻撃用だぜ、覚えておいた方が良い」

「ああ、覚えとく」

使うと返って不利になる場合もあると言う京矢からの忠告を、ハジメは今後のことを考えて心に留めておく。



















暫く恐竜擬き達と天之河モンスター達から逃げ回っていると途中で見つけた縦割りの洞窟に敵を撒くために逃げ込んだ一同。
大人が二人並べば窮屈と感じる洞窟。当然ながら大型のティラノ擬き系は入って来れず、ラプトルタイプも一体ずつしか入ってこれない狭さだ。

「剣掌!」

殿を務めた京矢がブレイラウザーを振るい放つ衝撃波によって、入り込んだラプトルタイプが後ろに吹き飛ばされ、後方の仲間を巻き込んで派手に倒れて行く。倒れたラプトルタイプが立ち上がろうとするたびにハジメが頭を吹き飛ばす。

そして、頭を吹き飛ばされた個体とそれの転倒に巻き込まれて動けない個体によって動きが止まってる間にハジメが錬成して洞窟を塞ぐ。

「「ふぅ」」

これで一応は安心できる。念の為に京矢は変身したまま、ハジメはユエを胸に抱きしめていつでも攻撃できる体制で休憩する。

「流石にオレ達は飯食って一休みって訳には行かねえな、この状況だと」

「そうだな」

「♪」

嬉しそうにハジメを見上げながら彼の首筋にカプッと噛み付いてチューと嬉しそうに血を吸っているユエを眺めながら二人はそんな会話を交わす。

「鳳凰寺、お前の方は余裕そうだな」

「仮にも戦闘用の強化スーツだぜ、これは」

ユエを抱えて全力で走ったハジメが疲れているのに対してブレイドに変身している京矢は息一つ上がっていない。

「ふぅ……ユエ、鳳凰寺、気付いてるか?」

「ん。逃げる方向によって敵の密度が違う」

「つまり、天之河モンスターにとって、近づいてほしくない場所が此処って事だな」

「そうだ」

この洞窟の方向に向かう度に百を超える群れが現れて妨害して来る。この洞窟のある方向に敵にとって近づいて欲しくない場所があると言う事だろう。

「で、南雲、お前の見立てだと此処に花の親玉がいるんだろ?」

「そう言う事だ。此処に花のあるモンスターの親玉がいるはずだ」

「そいつを倒せば楽になる」

「多分な。……油断だけはするなよ」

「ん」

「精々気合を入れるとするか。天之河モンスターの親玉のキング天之河(仮名)だからな」

「っ!?」

京矢のキング天之河と言う言葉に、何処ぞの龍の探索のスライムが集まる様に合体する複数の光輝が集まる姿を想像してしまい、その言葉にまた笑いそうになってしまうハジメだった。

休憩を終え、今度は先頭を京矢が行く。錬成で入り口を閉じた為薄暗い洞窟内ではライダーシステムの補助を受けた京矢の方が良いと判断してのことだ。
それでも三人は慎重に洞窟内を進む。奈落の一フロアの支配者が相手なのだから、油断していては一瞬で殺される。



















暫く道なりに進むとやがて大きな広間に出た。大型の魔物が潜むのにはちょうど良い広さだ。広間の奥には縦穴が続いている事から、そこが目的の下の階層への階段である可能性が高い。

敵の気配はないが気配察知のスキルをすり抜ける敵はこの洞窟には当たり前の様にいる。

広間の奥には大きな物が生まれた様子の花があるが敵の姿はない。だが、油断はできない。

(ん? 花?)

ふと京矢はそんな考えが浮かび足を止める。このフロアに来てから花には妙に縁があるのだ。
そんなフロアにある花など碌なものであるはずがない。

丁度三人がフロアの中央に来た時と京矢の思考がそこに至ったのはほぼ同時だった。
警戒する暇もなく全方向から無数の緑色のピンポン玉の様なものが全方向から飛んで来た。

「旋っ!」

剣を地面に突き刺し自分たちの周辺に剣掌・旋の竜巻を起こす事で緑色のピンポン球を弾く。序でにハジメとユエの二人と背中合わせになりピンポン球を迎撃する。


『FIRE』


ギャレンのカードを使い炎を纏ったブレイラウザーの斬撃でピンポン球を焼き尽くす京矢。その炎は刃の軌道に有ったピンポン球を掠っただけで燃やして行く。
京矢と同様に二人も迎撃して行くが数の多さにハジメが地面に手をついて壁を錬成して防ぐ。
大した力のないそれは壁にぶつかって潰れて行く。

(これで上から来る奴だけを注意すれば良い)

ユエも手数と速さに優れた風系の魔法で迎撃していて、京矢も火力による広範囲の殲滅を優先しているので大丈夫だろう。

「ユエ、鳳凰寺、恐らく本体からの攻撃だ。何処にいるか分かるか?」

「悪い、オレの方は推測程度しか出来てない。相手は植物だろうから多分地面の下だ」

先ずは京矢からの声が飛んで来た。推測程度とはいえ当たってるだろうと思う。
だが、ユエからの返事は返って来ない。

「ユエ?」

ユエからの返事が返って来ないことを訝しみユエの名を呼ぶが返事は返って来ない。

「……にげて……ハジメ!」

「危ねぇ!」

京矢はユエの警告を聞くと、直ぐにハジメの肩を掴んで急いでその場から跳び退く。

ハジメが京矢の行動に疑問を持つ間も無く、いつの間にか向けられていたユエの手に収束していた風が刃となって先ほどまでハジメが場所を通過して後ろにあった壁を両断していた。

「ユエ!?」

まさかの攻撃に戸惑うがユエの頭の上にある物を見て納得した。彼女の頭の上にも花が咲いていたからだ。それも、彼女のためにあつらえた様な真っ赤な薔薇が。

「くそっ、さっきの緑玉か!?」

「それしか考えられそうもないな」

安全策で炎を纏った剣で燃やす事で対処していた京矢とは違い、ハジメとユエは弾丸や風の魔法で対処していたのだ。その結果、緑玉の中に有ったであろう花粉の様な物に寄生される隙が出来てしまったのだろう。

ハジメは己の迂闊さに自分を殴りたくなる衝動を抑えながらユエの風の刃を回避し続ける。

「やってくれるな、キング天之河」

風の刃を回避しながら憎々しげに呟く京矢の言葉に同意するが、ハジメは内心で思う。
この状況で仮名のキング天之河は止めろ、と。
緊迫した状況なのにその名前が出るたびに爆笑しそうになる。
気を取り直して、どうにかしてユエの頭の花を取らなければならないが、操っている者もハジメが飛び道具を持っていることを知っているのだろう、照準をつけさせない様に操っているユエに上下の運動を多用させていた。
ならば、京矢が近づいて切り落とせば良いのだが、突然ユエが自分の片手を首に突きつけると言う行動に出た。

「近づくなって事かよ」

手持ちのカードでの遠距離攻撃、花の魔物に効果的な広範囲の火炎攻撃が可能な炎の魔剣の類は魔剣目録の中にはそれなりに有るが、残念ながらどれもピンポイントで頭の上の花を狙うには強力すぎる。

マッハのカードを使った上での全力での接近からの斬撃による花の排除とユエの風の魔法による自身の首の切断の早打ち勝負など持ち込む気は京矢には無い。

「……ハジメ……うぅ……」

ユエが無表情を崩して悲痛な表情を浮かべる。天之河ラプトルの花を排除した時、ラプトル擬きは花を憎々しげに踏みつけて、他の天之河モンスターに攻撃も仕掛けていた。つまり、花をつけられて操られていても意識はあるという事だろう。体の自由だけを奪うというのは最悪な能力だ。

「……やってくれるじゃねえか……」

(調子に乗って出て来てくれれば隙を見て大技叩き込んでやれるんだけどな)

忌々しげに呟くハジメに対して、京矢は口に出さずそう考えているが、相手にそれだけ高い知性があるのかは分からない。

そんな二人の逡巡を察したのかキング天之河と仮名を付けられていた親玉が奥の暗闇から現れる。

「ブスなドリアードかアルラウネ? いや、マンドラゴラの化け物か?」

その姿を見て京矢がそう呟く。奥から現れたのは人間と植物が融合した様な魔物だった。
内面の醜悪さが表面に現れた様な醜い顔の人と植物のキメラの様な化け物。ウネウネと無数の蔓が触手の様にうねり、何が面白いのかその表情にはニタニタと笑いを浮かべている。

「南雲、上手くあのキングドブス天之河の注意を引いてくれねえか、隙を見つけて体の中から灰にしてやるから」

態々ギャレンのダイアスートのラウズカードを取り出して聞こえるように告げる京矢の言葉にビクっとした姿を見せるブスアルラウネ。慌ててユエを盾にするように自分の前に立たせてその後ろに隠れる。

「……ハジメ……ごめんなさい……」

自分が足手纏いになっている状況が悔しいのだろう、ユエは悔しそうな表情で歯を食いしばっている。

ユエを盾にしながらブスアルラウネは緑の球を放ってくる。ハジメがドンナーで撃ち落とす事で弾けた球の中から視認不可能の大きさの胞子が詰まっているのだろう。

だが、京矢にもハジメにも一向に花が咲く様子は無い。自分が優位に立っていることから浮かべていたニタニタ笑いを止めて怪訝な表情を浮かべる。

「……流石、アンデッドに対抗する為のライダーシステムだな。あいつ程度の胞子は通さないか」

「オレも使っときゃ良かったか、それ」

「暗い所も良く見えて便利だぜ、これ」

態々ブスアルラウネに対して挑発する様に敵の優位が消えている事を教えてやる京矢。
そんなに便利なら自分も変身ヒーローになっておけば良かったかと思うハジメであった。貸すのではなく貰ったのだし。

同時にハジメの持つ耐性から注意を晒せればラッキーとばかりに思いながら再度ファイアのカードを使いブレイラウザーに纏わせた炎を周囲に巻く様に剣を振る。

相手に胞子が効かないと知ったブスアルラウネは不機嫌そうに京矢を狙ってユエに魔法を発動させる。


『metal』


京矢が回避しようとするとこれ見よがしにユエが自分の首に手を向けるのでメタルのカードで動きを止めて風の刃を受ける。

(鳳凰寺)

京矢が先程からブスアルラウネに自分を狙う様に仕向けていた狙いを理解する。ハジメの耐性のことを悟らせない為に、自分へと注意を引きつける為に行動していたと。

固有魔法『金剛』をハジメは使えるが、それでも生身のハジメよりもライダーシステムに守られた上に近接戦闘に特化した自分の方が攻撃を受けるのは良いと判断したのだろう。

(やっぱり、お前だけは信用して良かったよ)

ハジメは京矢の期待に応える方法を模索するが、それでも答えは出ない。

「ハジメ! 私はいいから……撃って!!!」

そんな二人の行動に触発されてか、覚悟を決めた様子でユエが自分に構わず撃てと叫ぶ。
足手纏いどころか攻撃してしまうくらいなら自分ごと撃って欲しい、そんな決意をしたのだろう。

「え? いいのか? 助かるわー」

これで後顧の憂いは無くなった、ラッキーとばかりに躊躇なく引き金を引くハジメくん。

パァーンと乾いた音が鳴ると同時に音が消えた気がした。京矢もユエもブスアルラウネも唖然とした様子でハジメを見ていた。

京矢とブスアルラウネの視線がユエの頭へと向かい、今度はユエの視線も加わった視線が足元の散った薔薇の花弁へと向かう。

その瞬間、ハジメ以外の全員の意思が統一されてしまっていた。



『何やってんだよ、少しくらいは躊躇しろ』と




ポトっとユエの頭から花が落ちた音が響いた気がした。それほど深い沈黙だった。当のハジメは何故だとばかりに首を傾げている。

ユエはそっと頭の上を両手で触れてみるが花は無く、代わりに縮れたり焼けたりした自分の髪の毛が有った。
ブスアルラウネも非難するような目でハジメを見ている。



『ドロップ』『ファイア』『ジェミニ』
『バーニングディバインド』



そんな中、急にそんな電子音が響く。

「いや、気持ちはわかるけど……お前が抗議するんじゃねえよ!」

そんなツッコミが響いたのはブスアルラウネの真上で分身している京矢からだった。
正気に戻った京矢が即座に突っ込みと共に元はギャレンの必殺技のバーニングディバインドを発動させていたのだ。

元々ラウズカードを使って他のライダーの技を使えるのはカリスとレンゲルの例を見ても明らかだ。今回はそれを利用してブレイドのままギャレンの必殺技を発動させた。

真上で炎を纏って分身して回転しながら放たれたドロップキックがブスアルラウネの頭に叩きつけられる。
所詮は植物の体に炎を纏った必殺キックの火力と破壊力を耐える力など無く、敢え無く断末魔の悲鳴を上げながら、砕かれながら焼かれると言う最後を遂げたのだった。

「今のがお前にやったギャレンの必殺技のバーニングディバインドだぜ」

「マジかよ、オレも今の技を使えるのか!?」

「バーニングディバイドのディバインドのタイミングで恋人の名前とか叫べば完璧だぜ」

リアル特撮ヒーローの必殺技を間近で見て、それを自分も使えると知って興奮気味のハジメだった。

「で、ユエ、無事か? 違和感とか無いか?」

気軽な感じで無事を確認するハジメをユエはジトーッとした目で頭をさすりながら睨んでいた。

「ちゃんとフォローしとけよ、はーちゃん」

「いや、なんだよ、はーちゃんって」

そう言い残して奥の探索に向かう京矢にツッコミを入れつつ、

「……撃った……」

「あ? そりゃあ……撃っていいって言うから……」

「…………ためらわなかった…………」

一瞬の躊躇いもなく撃ったことが不満そうなユエに(二人の身長差からお腹の辺りを)不満そうな顔でポカポカと叩かれているハジメをブレイドの仮面の奥でヤレヤレと言う顔で眺めながら先の道の探索を終えた京矢は空気を読んでユエの機嫌が直るまで黙っている事にした京矢だった。

自分達よりも長命種で年上であろうが、ユエとても女の子なのだ(光の巨人の若き最強戦士は光の国の基準では高校生くらいの年齢だそうなのでこの場合の年上と言うのも判断基準としては考えない方がいいかもしれない)。足手纏いになる位なら撃たれた方が愛と覚悟していても、乙女心としては少しくらいの躊躇はして欲しかったのだろう。

(まっ、今回は乙女心が分からないはーちゃんが悪いって事で、な)

そもそも、その後の言動も乙女心が分かって入ればもっと良いリアクションもあるだろう。
今後、ハジメの周りに集まる女が増えそう予感がするので少しは女心を理解した方が良い、とボス討伐と入口の閉鎖で安全が確保されたので休憩している間存分にユエのご機嫌取りをして貰おうと思う。

だが、ハジメの反応にユエはますますヘソを曲げてしまった様子で、ついにプイッとそっぽを向いてしまった。
ハジメは内心溜息を吐きながらどうやってユエの機嫌を直すか考え始める。
それはブスアルラウネの討伐よりも遥かに難しそうだ。

(まっ、人の恋路に首突っ込んで馬には切られたく無いからな)

そんな二人に全面的に無関係を貫く事にした京矢だった。
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