クラスメイト達との再会

「これから宜しくね、ハジメくん」

さて、決闘後、(うっかりやり過ぎた京矢に慌てて蘇生してもらった後)フラフラと立ち上がり京矢のアバンストラッシュによって折られた聖剣を手に、敗北に打ちのめされている光輝を他所に香織がそう言っているが、京矢としては『何を言っているんだ、この取り巻きその4は?』と言ったところだ。

一応、香織の好意が向いてるのがハジメなので、一応そこは当事者同士の問題、と言う事でハジメの判断に委ねる。

「……どうする、鳳凰寺?」

「いや、ダメ以外に選択肢は無いだろう」

当のハジメから香織の同行は乗り気では無いし、京矢の判断に委ねた時点でハジメも『回復役は便利だが、鳳凰寺が嫌がるならイラねぇな』と言う程度なのだろう。
なので、バッサリと切り捨てる京矢だった。そもそも、この女を連れてくメリットが便利な回復アイテム程度しかないのだ。……序でに光輝への嫌がらせ。

ぶっちゃけ、攻撃と回避盾、更には剣劇特化の京矢としては攻撃は避ければ良いし、いざと言う時のためにエリクサーなどの回復アイテムがあれば良し、な京矢の自己ステータスビルドの為に使わない能力系のガチャアイテムも幾つかある。
……合計4回も大きな戦いを潜り抜けた際に得たガチャアイテムの数々は割と豊富だ。探せば回復系もあるだろう、回数無制限の回復アイテムも、だ。
故に香織の回復と言う価値も消える訳だ。

「え? え? それって、どう言う……」

「どう言うも何も、其処の学習能力のない阿保に続いて戦争参加に真っ先に手を上げたのはお前達幼馴染三人だろ。元々この戦争に参加したのはお前らが始めた物語だ、其処の取り巻き1号の脳筋ゴリラは兎も角、取り巻きその2〜5までは一応元の世界に帰れる目処がついたら連れててってやるがな」

一応他の取り巻きは相手は女、女には甘い京矢としては、その程度の情けはある。残りたいや、光輝も連れて行ってと言ったら、普通に置いていくが。

なお、幼馴染+鈴と恵里の京矢からの総称は取り巻き、ナンバリングが
一号=龍太郎
その2=雫
その3=香織
その4=恵里
その5=鈴
だったりする。

雫と恵里が取り巻きとして纏められている事に軽く(恵里の場合はガッツリと)ショックを受けているが、それはそれ。

「で、でも……」

何とか説得して連れて行ってもらおうとする香織だったが、

「ああ、南雲、神水、俺の手持ちをお前に渡しとくな」

「ん? 悪いな」

いくつか手持ちの回復手段も分けておこうと思いつつ、香織の自身の回復役としてのプレゼンを潰していく。本気で連れていく気がない京矢である。

「お前達が戦争に巻き込んで命を落とした奴もいる。今更抜けるなんて身勝手、誰が許すかよ」

まあ、それでも元の世界に連れて帰ってやる程度の情だけは残している。……辛うじて。

「……待ってくれ……それじゃあ、さっきの決闘の意味は……」

「無駄な戦いでメインウェポン折れて、無駄に怪我して、大損しただけだな、阿保」

無駄な争い、そう言われて折れた聖剣を見つめる光輝。しかも、口には出してないが実際(光輝個人にとって)貴重な蘇生手段を一度使ってしまった。……今後命を落とした場合、天生牙での蘇生はできないので、死なないで貰いたい。
変な時に死なれて、また新しい勇者を召喚されて、被害者が増えても困るから、自分がトータスにいる間は残しておきたかったが、次に死んだら天生牙でも蘇生は出来ない。

とあるドラクエのコミカライズの一つでは|完全蘇生魔法《ザオリク》がマダンテと遂になる最高位の魔法とされている事もあるのだ、死者蘇生という奇跡が許されるのは天生牙と言う刀の力では一度だけ、という事なのだろう。

まあ、そんな理由がなければそのまま冥界で己の罪と向き合えと言いたい気分なのだ。

加えて真っ二つに折れた聖剣自体が、それを直せるのは現場ではハジメ位しか居ない代物だ。アーティファクトを自在に作れる神代魔法を持たない王都の錬成師では修復など完全な不可能だろう。

これで大人しくなるとは思わないが、少なくともご大層な聖剣とやらが治るまでは王国側から止められるだろう。
……こう言うのもアレだが、ゲームではないのだ、強力な力にはそれに耐えられる相応の武器がいる。普通の剣では下手したら光輝の力には耐えられず、生半可な修復程度では聖剣と言えども光輝の全力には耐えられないだろう。

「まあ、せいぜい頑張れよ、勇者らしく、最初にオレ達が召喚された時、オレや先生が反対したのに真っ先に戦争に参加すると宣言した阿保と取り巻き一号。頑張って魔人族を皆殺しにしてくれ」

「ち、違う! 俺達は……俺は、知らなかったんだ! 人殺しなんてするつもりはなかったんだ! 魔人族も“人”だと分かっていれば!」

まだ反論出来ずに黙っていれば良いものを、と思わないでもない。勇者の戦いを一目見ようと町の住人達が集まっている状況なのだ。
そんな中で光輝は叫んでしまったのだ。

「殺さなくても解決する方法は幾らでもある筈だ! そうだ! あの時の魔人族の女性だって! 彼女は既に戦意を喪失していたんだ! 殺す必要は無かった! 鳳凰寺がした事は許される事じゃない!」

「……」

叫んでいるうちに自己弁護等等が完成したのか、周囲から向けられる冷たい視線にも気付かずに、そんな事を叫び始めた。最早呆れても物が言えない。
そんな心境で京矢が沈黙していると、自分の正論に論破されて反論出来ないと思っているのか、更にヒートアップしていく。

「お前がやったのは人殺しだ! 決して許される……げふっ!」

良い加減これ以上叫ばせるのはメルド辺りに迷惑かと思い、一瞬で距離を詰めて喉笛に拳を打ち込む。

「おお!」

身体強化を得意とするシアが思わずそう叫ぶほどに見事な身体強化だった。気と魔力の違いはあるが、京矢のそれは自然かつ滑らかな力の流れ方だ。

「……メルドさん」

「……すまない」

まだ己の過ちを理解していない光輝をメルドの方に蹴り飛ばす。

「と言うわけで、お前らはちゃーんと、果たせよ。神の使徒とやらの使命を。メルドさん、その阿保で良ければ帰る方法見つかっても、取り巻き一号と一緒に置いていくんで、その二人に関しては、好きに使ってくれ」

「……ああ、本当にすまない」

連れて帰る気無いから、さっさと人を殺す覚悟を決めさせて再教育でもして、人族の救世主として使えるようにしてくれ、と言う意味だと理解したのだろう。
内心、物凄く是非とも京矢とハジメに残って欲しいのだが、それは無理だと理解しているのだろう。

そして、冷たく香織達に言い放つとエンタープライズとベルファストを伴ってハジメ達と合流する。

ハジメから「悪いな」と謝られる。結局の所、ハジメが何か言ったとしても変な方向に曲解されて、勝手についてこられる可能性もある。
『神の使徒を誘拐した』とハイリヒ王国の王子やら教会やらから難癖をつけられるのについては今更なのでどうでも良いが。

見向きもせずに立ち去ろうとするハジメ達になおも追い縋ろうとする香織を止める雫。流石に香織一人では無理だと思ったのだろう。

「ああ、昔の縁もあるから一つ忠告してやるよ。この先長生きしたいなら、阿保と蜥蜴野郎とは縁切った方が良いぞ」

「え?」

冷たい言葉で告げられる京矢は更に続ける。

「後期に悪気はないの、何て言って尻拭いしてたからそうなったんだろうが。早々に見限ってりゃ多少はマトモになったかも知らないがな」

一番近くにいる者から見捨てられる。道場から、幼馴染から、切り捨てられていれば過ちに気付いたかもしれない。

「幼馴染に心の何処かで依存してるから離れられない。そいつらの腰巾着を辞めない限りはお前の死場所も此処になるぞ」

そう言って背を向ける京矢に手を伸ばす雫。

(……行かないでよ……)

『こう言うのも嫌いじゃないだろ?』そう言ってぬいぐるみをくれたのは京矢だけだった。無理するなよと言ってくれたのも、着物よりも可愛い洋服が似合うと言ってくれたのも、女の子として見てくれたのは、京矢だけだった。

(……私が間違ってたの……)

ほんの少しの関わりだけだったのに、して欲しい事をしてくれたのも。
『光輝にも悪気はなかった』そう言ってしまったのが、京矢が離れて行くきっかけだったのかも知れない。選んでしまったのは、ずっと昔だった。捨てられたのではない、自分が手放してしまったのだ。




















その日の夜、


巨大怪獣と巨大ロボ二体の大決戦の後、京矢への恋心を自覚した言うか、光輝への恋が勘違いだったと自覚したと言うべきかは定かではないが、彼女……中村恵里は頭を抱えていた。

「どうしよう……」

思い返すのは、自分が京矢からどう思われているのかと言う一点。

「僕って、京矢くんの言う通り、完全にアレの取り巻きじゃないか!?」

そう、京矢からの恵里への認識は光輝の取り巻きの一人である。それが今更、勘違いに気が付いたと言っても旅に連れて行って貰えるだろうか?
そんな奴、自分じゃ絶対に連れて行かないと言う結論に行き着いてしまった。断言できる間違いなく罠とかを疑う。
しかも、京矢は微妙に自分のこう言う所を見破っている可能性もあるから、余計にだ。

「……本当にどうしよう……」

正に、ヤンデレであっても、病む事も出来ぬ絶望。
勘違いしていて京矢に出会ってからも、今の今まで気付かなかった過去の自分を殴りたくなる。もう自分じゃなかったら惨たらしく殺したくなるレベルだ。

好感度ゼロ、最悪はマイナス。そんな状況でどうしろと言う状況なのだ。

「……京矢くん……」

もっと早く気が付いていれば、勘違いして光輝を追いかけていなければ、彼の側にいることが出来たのは自分になれてたかもしれないのに。そんな後悔が心の中に浮かぶが、時間は過去には戻らない。その挙げ句が、最早その相手からは嫌われているかもしれないと言う事実。

自分を助けてくれたのも、特別だからじゃ無い。助けられたから、見捨てたら夢見が悪いから。その程度の理由だ。
……手が届かなかったら見捨てる。悪く言えば、今の自分は彼からはその程度の価値しかない。

「……京矢くん……」

本当に想うべきだった相手の自分の評価を思うと泣きたくなってくる。
どうすれば良いのか分からなくて、涙は自然に溢れてくる。


「あはは〜、恋する乙女の悩み、相談にのりますよ」


「っ!?」

突然聞こえてきた声に反応してそちらの方を見ると、そこにはロープを地球の制服と思われる服の上から纏った少女がいた。
間違いなく魔人族の味方の地球人の一人だろう。恵里が次の行動に迷う前に、彼女は次の言葉を続ける。

「バールクスの味方が増えるのは喜ぶべきことですからね〜」

「え? 京矢くんが……バールクス?」

初めて風魔達に襲われた時、何度も風魔の口から出てきた名前だからよく覚えている。このタイミングでバールクスの名前が出てくるのなら、間違い無くそれは京矢の事だろう。

「そうですよ〜」

目の前の少女は躊躇する事なく恵里のその言葉を肯定する。

「バールクスって言うのは、私達の組織の王の座に着く資格の名前。ソウセイの王にして、|闇の戦士《ダークライダー》の王」

更に笑顔を浮かべながら、

「彼は地球を2回、異世界を2回も救った大英雄であり、闇の王の資格を持つ者と言った所ですね」

サユリから語られる事実に、驚愕する恵里に彼女はブランクのライドウォッチを差し出す。

「彼の側に居たいなら力を得る事。彼の側に立てる力を得る事ですよ」

以前の自分なら迷わずに取っていたであろう、差し出されたそれを手に取る事に躊躇を覚える。
いっそ、覚えて貰っていない方が幸せだった。マイナスからのスタートなんて勝ち目なんてある訳が無い。これ以上、何もしないで嫌われない方が幸せでは無いだろうか?
そんな考えによって行動を戸惑わせていた。

「大丈夫ですよ。対価はありません。サユリは恋する女の子の味方ですから」

笑顔で渡されたそれを受け取ると、自然とそのスイッチらしき部分に指が伸びる。


『     !』


何かの名前が響くと空白だった絵柄に絵が浮かんだ。

「祝福しますよ、ソウセイの王の側に立つソウセイの姫の候補の誕生を。う〜ん、サユリはウォズさんじゃないから、祝福の口上は浮かびませんけどね」

そう言って恵里の手に握らせたライドウォッチから手を離し、芝居かかった態度で一礼する。

「では、王妃候補様。またお会いしましょうね」

その言葉と共に足元に現れた魔法陣の中にサユリは消えて行った。
夢だったのかと思う恵里だったが、それを否定するように彼女の手の中のライドウォッチは存在感をしめしていた。


















「……ちくしょう……」

光輝は夜の月に照らされながら1人項垂れていた。
クラスの中心だった筈の自分が周りから白い目で見られている。龍太郎以外の生徒達が自然と離れていく。
勇者のパーティーにはもう龍太郎しか居なくなってしまった。永山達も恵里や鈴も、もう付き合えきれないと距離を置かれている。

自分は幼馴染を守る為に、無理矢理従わされている人達を助ける為に戦った。

『そっちの馬鹿も含めて何人でも連れて来い、好きな武器でも何でも勝手に用意しろ』

面倒だから早くやれと言う態度で龍太郎達も纏めて相手をすると言った京矢。
その事に怒りを覚えたが、それ以上に京矢の態度に怒ったのは彼の親友の龍太郎だった。
親友が肩を並べてくれているのは心強かった。龍太郎達と共に全力で剣を振るった。今出せる全力を出し切った。今までの光輝ならそこまでやって乗り越えられないことは何一つ存在しなかった。

いや、絶対に乗り越えられない壁として常に京矢がいた事を忘れていた訳では無い。だが、隣には親友が、後ろには仲間達が居るのだ。越えられない訳がない。

だが、龍太郎達は容易く倒され、全力で放った筈の神威を京矢の一撃(アバンストラッシュ)で簡単に引き裂かれ撃ち倒された。
限界突破を使って向かって行っても、魔剣目録とか言うものから取り出した剣を翳した瞬間、効果が消えるどころか体を動かすのも辛い程の負荷が掛かった。(限界突破の副作用)

『限界なんざ越えないために有るんだよ。だから、そんな風になるんだ、阿呆』

そこから先は覚えていないが、激痛と共に意識を失い目を覚ましたら宿で寝かされていた。

そして、宿を飛び出し悔しさに打ち震えていると言う現状だ。そんな彼を目撃して追いかけてきたのが龍太郎というのが、更に哀れな光景だが、それはそれ。

彼に対してどう言葉をかけるか迷っていた龍太郎だが。


『己の無価値さを理解したか?』


そんな二人の目の前に現れたのは風魔だ。何度も殺されかけた相手の出現に慌てる二人だが、

「己の価値を理解してそのまま勇者ごっこで遊んでいろ。彼の邪魔にならない様にな」

何もするな、反抗するな、お前程度の相手をすること自体が無駄だからと言っている風魔の言葉に怒りが湧く。

「寒村の学舎の有名人程度が、既に異世界を2回も救った大英雄に勝てる訳が無いのだからな」

告げられる言葉の意味は分からない。だが、それが本当ならば、あんなに強い力を持っている癖にトータスの人達を救おうともしない。2回も他の世界を救っている癖にトータスの人たちには手を差し伸べもしない身勝手さ。そんな物を許すわけには行かない。

2回も世界を救ったと言っているが、京矢じゃなくて自分ならもっと良い形でその世界を救えてた筈だ。
魔剣目録なんて物も勇者で有る自分が管理すべきだ。あんなに強い武器が他にもたくさん有るなら分け与えていればトータスだって平和になる筈だ。

「価値が示したいのなら使ってみるか?」

そう言って風魔が投げ渡したのは二つのブランクのライドウォッチ。

「それはオレ達の力の源を生み出すための道具だ。資格があるなら力が分け与えられる筈だ」

当て馬でも新しく用意するかと思って目をつけた二人だが、どう転んでも自分に損はないと思いそれを渡したのだが。


『ゾンジス!』


「ほう!」

龍太郎の発言した力は風魔の予想外の物だった。
アナザーではなくオリジナルの力。それも、正史ではバールクスの忠臣の一人となっていたゾンジスの力だ。最高の当て馬が用意出来たと風魔は笑みを浮かべる。
上手く京矢の元に力が渡れば中々に良い結果が出る筈だ。

だが、もう一つ何度も聴こえるスイッチ音に気がついた。

必死な顔をして起動しているのに何時迄も起動しないライドウォッチの姿に呆れてしまう。

ザモナス辺りの力が発動してくれるかと思ったが、そのウォッチの反応に確信した。
オリジナル処かアナザーライダーでさえなる資格が無いと言い放たれている様な物だ。

「うわっ!」

光輝の手の中で爆発して砕け散るウォッチの光景に深くため息を吐く。予想以上の成果の後の予想以下の結果にもはや何も言うことはないとその場を後にする風魔。

英雄処か怪人にさえ否定された光輝の姿を一瞥もせずに。
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