クラスメイト達との再会
街の外の広い場所に移動する一同。街の住人達とクラスメイト達にハジメ一行がギャラリーとして周囲を囲む中、距離を空けて対峙する京矢と光輝、龍太郎の二人。
光輝も勇者が決闘すると言う事でせめてもの見栄えと言う事で破壊された聖なる鎧の代わりに騎士団の予備の鎧を身に付けている。
念の為に京矢が他のクラスメイト達に相手して欲しければ纏めてかかって来いと言ったが全員が首を横に振った。
醜態晒したとはいえ勇者の決闘という事もあり、娯楽の少ない街の住人達にとって丁度いい娯楽なのだろう、無責任な立場の彼らは割と楽しんでいる様子だ。
「さてと」
京矢が決闘の準備とばかりに動き出すと龍太郎が警戒する様な反応を見せる。
「安心しな、特撮ヒーローの力も使わないでいてやるよ」
ヘラヘラとした馬鹿にするような態度に怒りを覚える光輝に対して龍太郎は安堵した様子を浮かべる。
圧倒的な力を持たゼロダークネスに叩き潰された事が龍太郎の心にはトラウマとなっているのだろう。死を自覚した今となっては、下手をしたら今此処に立っていなかったかもしれないと思うと尚更だ。
「開け、魔剣目録……!」
京矢はポケットの中から魔剣目録を取り出してそれを開く。
「聖剣魔剣、妖剣邪険、相応の剣で相手してやるよ」
空中に広がる多種多様な無数の文字。その文字の一つ一つを一瞥しながら今回の決闘に使う剣を決める。
先ずは既に持ってるテンコマンドメンツと鎧の魔剣の愛用品二つ。そして、新たに文字に触れて取り出した天生牙と聖剣エグザシオン。
「お前達に相応しい剣はこの辺か?」
勇者と呼ぶべき者が使ったテンコマンドメンツと、勇者と敵として仲間として戦った男の鎧の魔剣に加えて、光輝と同じ聖剣であるエグザシオン。相応の剣と言えばこの辺かと判断する。
腰に帯刀している斬鉄剣をエンタープライズに渡すと鎧の魔剣を手に取ると鞘に納刀したままのエグザシオンと天生牙を地面に突き刺す。
「んじゃ、先手は譲るぜ。それが決闘の合図だ」
武器も持たずに、そっちが先に向かって来いと言う京矢の態度に、遂に怒りが爆発したのは龍太郎だ。
「この野郎おおおおお!!!」
殴り掛かる彼に対して剣も持たず、素手で受け様とする京矢。
拳士である己の拳を剣聖とは言え剣士である京矢が素手で受けると言う姿に何処までバカにするんだと言う思いを浮かべながら、その代償を支払わせんと全力で拳を叩きつけようとする龍太郎。
ハジメとユエとシアはフェアルベンでもあった光景だと懐かしく思う。熊人族の長の拳を簡単に受け止めた京矢の姿を見ているのだ、心配などする筈もない。
そして、彼らの予想通り簡単に受け止めると、そのまま受け止めた腕を中心に背中から地面に投げ落とす。
立ち上がるまで待っている京矢にさらに殴り掛かる。空手部で培った技とトータスでの訓練や実戦で身に付けた技。天職である拳士と合わせて持っていた自信はゼロダークネスに完膚無きまでに打ち砕かれたが、今度は京矢によって丁寧に砕かれていく思いだ。
「くそおおおおお!!!」
剣士であるにも関わらず、剣も使わずに素手で龍太郎の猛攻を捌いて行く京矢。時には避けて、時には受け流し、時にはその勢いを利用して投げる。龍太郎の攻撃がどれだけ激しさを増そうと京矢は涼しい顔で受け流していく。
「剣も拳も基礎は同じ」
大振りの一撃を受け流し龍太郎の懐に潜り込み掌を触れて、そのまま勁を放つ。腹部を襲う衝撃に体をとの字の様にして吹き飛ばされ、そのまま意識を失う龍太郎。
「龍太郎!」
「お前程度なら、素手で十分って事だ」
ヒラヒラと手を振る京矢に光輝は聖剣を握り直す。
「よくも、龍太郎を……いくぞぉぉぉぉ!!」
光輝が“縮地”により高速で踏み込むと、豪風を伴って京矢に向かって唐竹に聖剣を振り下ろす。
それを一瞥しながら鎧の魔剣を引き抜き、
「|鎧化《アムド》」
全身に鎧の魔剣の鎧を纏って片手で聖剣を受け止める。鎧を纏った腕で光輝の連撃を捌いて行くが、光輝は避ける事も出来ないと勘違いして、“縮地”を併用して袈裟斬り、突き、斬り上げと連撃を放つが、
「ふっ!」
「ガハッ!」
最後に放った突きに合わせたカウンターのストレートが光輝の腹部に突き刺さる。
鎧の魔剣の強度、光輝の“縮地”を使った速度が加算した一撃は、熱した鉛を飲んだ様な痛みを光輝に与える。そして、痛みで動きを止めると言う致命的な隙を京矢を目の前に晒してしまったのだ。
「隙だらけだぜ!」
「ブッ!」
無防備な顔面を京矢の拳が撃ち込まれる。一度、顔面を殴ってやりたかったと思っていたので良い機会だと思ったが、これまでのストレスを考えると思いの外スッキリするものだと思う。
地球だとある程度加減する必要があるので、これだけはトータスで良かったと思う。
いい具合に金属の鎧を纏った京矢のパンチが鼻と口に入ったので光輝の鼻から血が流れている。
「おいおい、いつ迄蹲ってる気だよ? こっちも暇じゃねえんだから、立たないならさっさと降参しろよ、阿保」
「ふざ、けるな! 誰が、降参なんか!」
立ち上がり聖剣を構えて京矢を睨み付ける光輝だが、外面だけは良い顔も怒りの形相と鼻血で台無しだ。
「そりゃ良かった。今度はこっちの番だからな」
兜に触れると兜の飾りが剣の形となり兜より分離する。それが、鎧の魔剣の本体である剣だ。
何気に普段は他の剣との併用で防具として使っている為に、武器として使うのは初めてだと思いながら、
「防げよ」
「何……」
京矢の言葉に疑問を思うよりも早く、熱を感じる。京矢の一太刀が鉄製の鎧を切り裂き光輝の体を切り裂いたのだ。
内臓に届く程深くは無いが、決して浅くは無い。
「アバン流刀殺法、大地斬。……って、少しは避けろよ、練習にもなりゃしねえ」
鮮血が飛び散る中、京矢からの距離をとる中、“縮地”を使い再度の反撃に出る。
(アイツは“縮地”のスピードにはついて来れなかった。あんな鎧を着ていたら、スピードは俺の方が上だ!)
そう考えて“縮地”を利用してのスピードを活かして反撃の隙を与えずに攻め様と考えた様だが、
「なっ!?」
京矢の体が振れ、振り下ろした聖剣が虚しく空を切り、地面を叩く。それでも動きを止めてはダメだと“縮地”の速さでそこから離れようとするが、
「遅えよ」
だが、全身に鎧を纏っているとは思えない速さで、“縮地”を使った光輝に肉薄する京矢。否、
「海波斬!」
光輝を超える速さで動く。
そして、放つ技は速さを持って形なき物を斬る技、海波斬。京矢の姿を光輝が見失うと全身に刻まれた斬撃の痕から鮮血が噴き出す。
「相も変わらず、空っぽな奴だな、お前は」
息が上がっている光輝を見下ろしながら呟く京矢の言葉に睨みつける事で返すことしかできない。
「勇者ごっこに酔って俺が守るからみんな一緒に戦おうとか吐かしながら、何の覚悟もない上に、無駄にカリスマだけはある。本当に、迷惑な奴だな、お前は?」
自覚はしないとは思っても、コイツには己の罪を突きつけなればならない。……と言うよりも、気が済まないのだ。
「口先だけ、見た目だけの張りぼて。敵を同じ知的生命体と思ってないのは、他の連中の責任でも有るだろうが。そんな気持ちも無いのに守るだなんて馬鹿な事を言って戦争に誘った罪は重いぞ」
其処で一度言葉を切って、
「檜山を始め、この戦争で死んだクラスメイトを殺したのは、お前だよ、天之河光輝」
「巫山戯るな! オレは……」
「皆んなを守る気が有るなら、あの時はこう言うべきだったんじゃないのか? 『オレがみんなの分まで戦うから、みんなは戦うな』ってな」
「っ!?」
京矢の言葉に何も言い返せなくなる光輝。
「本当に守るつもりなら、最初から命懸けの場所で隣に立たせる様な真似もしねえよ、阿保」
京矢の言葉に何も言い返せなくなる。守ると言うのならば最初から危険から遠ざけるモノ。両親や祖父が幼い頃の子供だった光輝にしてくれた様に、妹にしてくれた様に。
「…………さい……」
だが、光輝は理性の部分が浮かべた納得を、感情の部分から否定する。
「うるさい! うるさい! うるさい! 屁理屈を言うな!」
「はあ。口先だけの守るって言うスカスカな言葉で、みんなで仲良く人を殺しましょうなんて誘っておいて、その様子だとその覚悟も無さそうだな」
自覚もなければ経験もない。経験がないのは羨ましい限りだ。日本に生きる以上、いろんな意味でしない方が良いが、ここでは違う上に、コイツは人殺しが日常になる場所に無自覚に誘ったのだ。
……そう、長年の訓練と訓練と国と国民を守る覚悟を持った兵士でさえ、場合によっては精神を病む様な場所に。
「そう言えば、オレが魔人族の女を殺した事に何か言ってたな?」
「そうだ! 彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。お前がしたことは許されることじゃない!」
京矢の言葉にここぞとばかりに言葉を続けていく。
「あのまま降伏させて捕虜に……」
「で、その本人はお前を罵って、俺には感謝していたぞ?」
京矢の指摘に再び言葉を失う光輝。
命だけは救おうとする光輝を罵り、逆に苦しまず遺体も闇に消して魔物の餌にも、晒し者にもされない様にすると約束して首を刎ねた京矢に感謝して死んだ魔人族の女。
京矢としても敵として敬意を持って死後の辱めも、苦痛も与えずにトドメを刺した。
「少なくとも、聖教教会じゃ魔人族も人間扱いされていないんだ。捕虜にされた方が死んだ方がマシって事を少しは理解しろ」
寧ろ、痛みもなく一瞬で死なせた京矢の方が相手にしてみれば情け深いと言う事になる上に、屍も辱められない様にすると約束もした。
そこで、「それに」と言って一度言葉を切ると、
「残念ながら、魔人族を殺した事は褒められても、罰せられる事はない。トータスの人間からしたら助けられたくせに手柄を取られたと喚いてる情けない姿にしか見えねえだろうな、阿保勇者」
呆れた様にヤレヤレと首を振る京矢に対して激昂する光輝。
「何なら、この後あのジーサンやら王様やらの前で叫んでみるか? オレが魔人族を殺したから裁きを受けるべきだって? 多分、お前の頭の方を心配されるか、手柄を取られた事を妬んでるって思われるから止めとけ」
既に京矢がベヒーモスを倒した手柄を奪ったと噂になっているのだ。此処に来てそんな事をしたら最早光輝推しのイシュタル教皇でも庇えないだろう。
一応、此処については京矢も純粋な善意での忠告だ。
「さっきから屁理屈ばかり!」
周囲の、特に街の人間達からの視線が冷たさを増す中で、いや、「あんなのが勇者?」と光輝に対して勇者なのかと言う疑惑さえ浮かんでいる者もいる。
振るう剣の鋭さは増したが、京矢は鎧の魔剣でそれを受け止める。
「いい加減自覚しろ! お前がクラスの連中を立たせたのはそう言う場所だ!」
受け止めた聖剣を弾き、お返しとばかりに乱撃を浴びせながら言葉を続ける。
「お前は人を殺す覚悟ができていないのに、お前だけじゃない、全員を殺し合い前提の戦場に立たせたんだよ!」
割と手加減した不完全版のアバンストラッシュを打ち込み光輝を弾き飛ばす。
「目の前で人が死ぬ。そんな、お前の世界にとってあり得ないことが起きるのが見たくなかったってか? ふざけんじゃねえよ」
顔を上げた光輝を蹴り飛ばし、「まあ」と前置きして、
「運が悪かっただけかもしれないけど、そう言う覚悟の方は教導する側の責任もあるからな」
そう言って光輝が立ち上がるのを待ちながらメルドの方に視線を向けると、目があったメルドはバツが悪そうな顔をしていた。
メルドは召喚者に対して神の使徒という目線ではなく対等に付き合ってくれる貴重な人だが、どうやらそれが今回は裏目に出たらしい。
「まあ、最初に教えるべきだったとは思うけど、オレ達の事情を考えてくれたんだろうな」
本来ならば死刑囚でも利用して最初に命を奪う訓練をさせたかもしれない。もしかしたら、亜人の奴隷や魔人族の捕虜だったかもしれない。
直ぐにそんな訓練をさせないでいてくれたのは感謝するが。
敵側との交渉もあっただろうが、それについては触れないでおこうと思った。あの、マギアやダークネスを用意した敵の仮面ライダー達の思惑が分からないからだ。
京矢は知らない事だが、光輝が死ぬのが前提の交渉なのだから、光輝が突っ走るのも無理はない。まあ、それを除いたとしても。
「本当に、迷惑なやつだな、お前は」
「黙れ!! 次はこうはいかない。今度こそうまくやって見せる!!」
「悪いが、次こそは、なんて言ってる奴が、次に上手くいくなんて思えねえな」
光輝の言葉を鼻で笑い、
「失敗を活かせる奴が、次こそは、なんて言う訳がねぇだろうが! 何が勇者だ、お前はいい加減な判断で仲間を危険に晒して、中途半端な力で剣を振るう唯の阿保だよ」
その阿保の面倒を比較的扱い方を知っているからちゃんと管理しておけと雫に対して思う京矢だった。
「いい加減に黙れ!! ここからは本気で行く。今までのようにいくと思うな。”限界突破”!!」
「いや、最初から本気で来いよ。ってか、そう言うのは使うタイミングでも無いだろうが」
魔剣の本体を兜に戻し、聖剣イグザシオンを抜く。ふと、後ろに変な女の悪霊っぽいのが現れたから、鬱陶しいので手裏剣状の霊剣を四本ほど顔面に突き刺したら消えたので、光輝との戦闘に意識を向ける。
ステータスが三倍になったとは言え、冷静さを失った光輝の動きは読み易い。
「大体、幼馴染が一緒にいるのが当然って、お前の頭の中は何年前のラブコメのラノベだよ? 最近じゃドラマやアニメでも、長年続いてなきゃあり得ないだろうが」
「黙れ! お前に何がわかる!? 俺は誰よりも二人の傍にいたし、いつだって守ってきた。これからもずっと二人を守るんだ!!」
「お前、本当に将来DVで警察のお世話になりそうな奴だな。いや、一人で遊んでる人生ゲームに他人を巻き込むなよ」
迷惑をかけて来たの間違いだろうと内心で思いながら、限界突破した光輝の攻撃を時には避け、時にはイグザシオンで受け止めながら捌いていく。此処まで単調になれば目を閉じていても対処できる。
「おっと」
大振りの一撃を後ろに飛ぶ様な動きで避けると、そろそろ反撃でもするかと思いながらイグザシオンを地面に刺した瞬間、
「っ!?」
「今だ、光輝!」
京矢の一撃から意識を取り戻した龍太郎が後ろから京矢を羽交い締めにする。
(力加減を間違えたか)
気絶させる程度に抑えておいたが、多少手加減しすぎた様だと思う。なるべく怪我をさせずに負けさせておこうと思った仏心だったのだが、骨の一本でも折っておけばよかったと思う。
「すまない、龍太郎!」
龍太郎に感謝の言葉を告げると叫び声をあげて身動き出来ない京矢に向かっていくが。
「教えてやるよ、限界ってのは、常に超えない為に有るんだぜ」
京矢の握るイグザシオンの七色の輝きが水面の波紋の様に広がり、その輝きを浴びた光輝の体が、
「ぐっ!」
突然の倦怠感と共に崩れ落ちた。
「鳳凰寺、今度は何をした!?」
「何って、限界突破の強制解除だ。倦怠感は限界を超えた代償だな」
笑いながらそう告げる京矢の背後の龍太郎の体がくの字に折れて再度吹き飛ばされる。
「無理に限界を越えるスキルだから、その反動で負担が出る。多分、制限時間は限界突破の反動が短時間で回復できる範囲って所だろ」
フラフラの体で立ち上がる光輝を見据えながら京矢はため息を吐き、
「誰も殺したく無いなんて甘い考えは捨てろ。結局、他のクラスメイトはお前に巻き込まれたんだよ。その上で戦争に誘った時点でお前は人を殺す義務からは逃げられない」
「オ、オレは……誰も殺したりなんかはしない!」
「残念ながら、勇者になったからは、お前は必ず殺さなきゃならない。……魔王をな」
まあ、エヒトの考えがどうなのか分からないので、その後に新しく大魔王やら超魔王が出て来ても不思議じゃ無いが。
勇者の剣が魔王を倒す為に必要なのならば、その程度の覚悟、和解すると言う考え等捨てて貰わなければ、面倒なのだ。
結局のところ勇者など称賛されたとしても本質は、魔王と言う存在に対する刺客なのだ。
「大体、南雲を非難するのも、お前は好きな女を取られて嫉妬してるだけだろ? いや、そもそも、お前」
京矢の言葉の刃は光輝に確実に突き刺さる。
「白崎の事も、雫の事も、どうでも良いんだろ?」
「なっ!」
その言葉に反応する光輝。そこで堰を切ったように吐き出す。
「ふざけるなッ、そんなわけないだろ。俺にとって二人は……」
「理想の自分に必要なアクセサリー、デコレーションだろ? 特別人目を引くから自分の傍にいるべきだって思ってるだけだろ?」
「黙れッ。俺は、そんなことを……勝手なことを言うなっ!!」
「じゃあ、何で直葉に付き纏ったんだ?」
「あ、あれは……」
「要するに、特別なオレには最高の女が傍に居なきゃならない。だから、二人にも負けて居ない直葉も自分の傍に居るべきだと思った」
ユエ達に視線を向けると、
「だから、ハジメの傍にユエ達が居るのが気に食わない。自分に劣るアイツの傍にいるのは許せない」
更にエンタープライズとベルファストにも視線を向ける。
「直葉がオレの義妹だって知ったのが後か先か知らねえからそれは良いとして。自分の邪魔をするオレの傍にエンタープライズやベルファストが居るのも気に入らない」
「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇぇ──ッ!」
絶叫する光輝から悠々と距離を取り、
「喚いてないで最強の技でも使ってこい。望み通り黙ってやるからよ。最初からお前には言っても無駄だとは思ってたからな」
そう宣言すると京矢はイグザシオンを逆手に構える。神威の詠唱に入る光輝を一瞥し、妨害する事なく己の一撃を高める為に時間を使う。
「力にて地を、技にて海を、心にて空を」
その一閃はその世界に於いて勇者が編み出し、勇者へと受け継がれた秘奥義。真逆、それを一応勇者に対して向けられるとは技を生み出した勇者も思わなかっただろう。
「神威!!!」
光輝の放つ光の本流。京矢は構えを取ったまま一瞥するだけだ。
「鳳凰寺ィィィィィィイ!!!」
「全てを束ね、全てを断つ! アバン、ストラッシュ!!!」
京矢の放つ光の斬撃が光輝の放つ光の本流と衝突する。一瞬の拮抗、その瞬間、誰もが光輝の勝ちと錯覚する。
刃が津波を切り裂けないと考えるのも当然だ。だが、
拮抗が解けた瞬間、光の本流を光の刃が切り裂いていく。
「う、うぁ……!!!」
とっさにそれを聖剣で受け止めるが、真っ二つに折れた聖剣が破壊力を弱めたからか、
「その剣に感謝しとけ。お前の命程度は守ってくれたみたいだな」
速射性に優れたアローとは言え主人を守ったのだから、と。光の斬撃を受けた光輝を一瞥しそう呟く。
「……あれ?」
其処でふと、気がつく。
「ヤベ、やり過ぎたかも」
地面に落ちて倒れた光輝の様子から本当に死んだかも、と思ってしまう。ふと天生牙に触れてみるが、どうも本当にやり過ぎたらしい。
光輝に死の使いが見えた。
流石に此処で死なせるのも、後々面倒なのでさり気無く天生牙で蘇生しておくのだった。
光輝も勇者が決闘すると言う事でせめてもの見栄えと言う事で破壊された聖なる鎧の代わりに騎士団の予備の鎧を身に付けている。
念の為に京矢が他のクラスメイト達に相手して欲しければ纏めてかかって来いと言ったが全員が首を横に振った。
醜態晒したとはいえ勇者の決闘という事もあり、娯楽の少ない街の住人達にとって丁度いい娯楽なのだろう、無責任な立場の彼らは割と楽しんでいる様子だ。
「さてと」
京矢が決闘の準備とばかりに動き出すと龍太郎が警戒する様な反応を見せる。
「安心しな、特撮ヒーローの力も使わないでいてやるよ」
ヘラヘラとした馬鹿にするような態度に怒りを覚える光輝に対して龍太郎は安堵した様子を浮かべる。
圧倒的な力を持たゼロダークネスに叩き潰された事が龍太郎の心にはトラウマとなっているのだろう。死を自覚した今となっては、下手をしたら今此処に立っていなかったかもしれないと思うと尚更だ。
「開け、魔剣目録……!」
京矢はポケットの中から魔剣目録を取り出してそれを開く。
「聖剣魔剣、妖剣邪険、相応の剣で相手してやるよ」
空中に広がる多種多様な無数の文字。その文字の一つ一つを一瞥しながら今回の決闘に使う剣を決める。
先ずは既に持ってるテンコマンドメンツと鎧の魔剣の愛用品二つ。そして、新たに文字に触れて取り出した天生牙と聖剣エグザシオン。
「お前達に相応しい剣はこの辺か?」
勇者と呼ぶべき者が使ったテンコマンドメンツと、勇者と敵として仲間として戦った男の鎧の魔剣に加えて、光輝と同じ聖剣であるエグザシオン。相応の剣と言えばこの辺かと判断する。
腰に帯刀している斬鉄剣をエンタープライズに渡すと鎧の魔剣を手に取ると鞘に納刀したままのエグザシオンと天生牙を地面に突き刺す。
「んじゃ、先手は譲るぜ。それが決闘の合図だ」
武器も持たずに、そっちが先に向かって来いと言う京矢の態度に、遂に怒りが爆発したのは龍太郎だ。
「この野郎おおおおお!!!」
殴り掛かる彼に対して剣も持たず、素手で受け様とする京矢。
拳士である己の拳を剣聖とは言え剣士である京矢が素手で受けると言う姿に何処までバカにするんだと言う思いを浮かべながら、その代償を支払わせんと全力で拳を叩きつけようとする龍太郎。
ハジメとユエとシアはフェアルベンでもあった光景だと懐かしく思う。熊人族の長の拳を簡単に受け止めた京矢の姿を見ているのだ、心配などする筈もない。
そして、彼らの予想通り簡単に受け止めると、そのまま受け止めた腕を中心に背中から地面に投げ落とす。
立ち上がるまで待っている京矢にさらに殴り掛かる。空手部で培った技とトータスでの訓練や実戦で身に付けた技。天職である拳士と合わせて持っていた自信はゼロダークネスに完膚無きまでに打ち砕かれたが、今度は京矢によって丁寧に砕かれていく思いだ。
「くそおおおおお!!!」
剣士であるにも関わらず、剣も使わずに素手で龍太郎の猛攻を捌いて行く京矢。時には避けて、時には受け流し、時にはその勢いを利用して投げる。龍太郎の攻撃がどれだけ激しさを増そうと京矢は涼しい顔で受け流していく。
「剣も拳も基礎は同じ」
大振りの一撃を受け流し龍太郎の懐に潜り込み掌を触れて、そのまま勁を放つ。腹部を襲う衝撃に体をとの字の様にして吹き飛ばされ、そのまま意識を失う龍太郎。
「龍太郎!」
「お前程度なら、素手で十分って事だ」
ヒラヒラと手を振る京矢に光輝は聖剣を握り直す。
「よくも、龍太郎を……いくぞぉぉぉぉ!!」
光輝が“縮地”により高速で踏み込むと、豪風を伴って京矢に向かって唐竹に聖剣を振り下ろす。
それを一瞥しながら鎧の魔剣を引き抜き、
「|鎧化《アムド》」
全身に鎧の魔剣の鎧を纏って片手で聖剣を受け止める。鎧を纏った腕で光輝の連撃を捌いて行くが、光輝は避ける事も出来ないと勘違いして、“縮地”を併用して袈裟斬り、突き、斬り上げと連撃を放つが、
「ふっ!」
「ガハッ!」
最後に放った突きに合わせたカウンターのストレートが光輝の腹部に突き刺さる。
鎧の魔剣の強度、光輝の“縮地”を使った速度が加算した一撃は、熱した鉛を飲んだ様な痛みを光輝に与える。そして、痛みで動きを止めると言う致命的な隙を京矢を目の前に晒してしまったのだ。
「隙だらけだぜ!」
「ブッ!」
無防備な顔面を京矢の拳が撃ち込まれる。一度、顔面を殴ってやりたかったと思っていたので良い機会だと思ったが、これまでのストレスを考えると思いの外スッキリするものだと思う。
地球だとある程度加減する必要があるので、これだけはトータスで良かったと思う。
いい具合に金属の鎧を纏った京矢のパンチが鼻と口に入ったので光輝の鼻から血が流れている。
「おいおい、いつ迄蹲ってる気だよ? こっちも暇じゃねえんだから、立たないならさっさと降参しろよ、阿保」
「ふざ、けるな! 誰が、降参なんか!」
立ち上がり聖剣を構えて京矢を睨み付ける光輝だが、外面だけは良い顔も怒りの形相と鼻血で台無しだ。
「そりゃ良かった。今度はこっちの番だからな」
兜に触れると兜の飾りが剣の形となり兜より分離する。それが、鎧の魔剣の本体である剣だ。
何気に普段は他の剣との併用で防具として使っている為に、武器として使うのは初めてだと思いながら、
「防げよ」
「何……」
京矢の言葉に疑問を思うよりも早く、熱を感じる。京矢の一太刀が鉄製の鎧を切り裂き光輝の体を切り裂いたのだ。
内臓に届く程深くは無いが、決して浅くは無い。
「アバン流刀殺法、大地斬。……って、少しは避けろよ、練習にもなりゃしねえ」
鮮血が飛び散る中、京矢からの距離をとる中、“縮地”を使い再度の反撃に出る。
(アイツは“縮地”のスピードにはついて来れなかった。あんな鎧を着ていたら、スピードは俺の方が上だ!)
そう考えて“縮地”を利用してのスピードを活かして反撃の隙を与えずに攻め様と考えた様だが、
「なっ!?」
京矢の体が振れ、振り下ろした聖剣が虚しく空を切り、地面を叩く。それでも動きを止めてはダメだと“縮地”の速さでそこから離れようとするが、
「遅えよ」
だが、全身に鎧を纏っているとは思えない速さで、“縮地”を使った光輝に肉薄する京矢。否、
「海波斬!」
光輝を超える速さで動く。
そして、放つ技は速さを持って形なき物を斬る技、海波斬。京矢の姿を光輝が見失うと全身に刻まれた斬撃の痕から鮮血が噴き出す。
「相も変わらず、空っぽな奴だな、お前は」
息が上がっている光輝を見下ろしながら呟く京矢の言葉に睨みつける事で返すことしかできない。
「勇者ごっこに酔って俺が守るからみんな一緒に戦おうとか吐かしながら、何の覚悟もない上に、無駄にカリスマだけはある。本当に、迷惑な奴だな、お前は?」
自覚はしないとは思っても、コイツには己の罪を突きつけなればならない。……と言うよりも、気が済まないのだ。
「口先だけ、見た目だけの張りぼて。敵を同じ知的生命体と思ってないのは、他の連中の責任でも有るだろうが。そんな気持ちも無いのに守るだなんて馬鹿な事を言って戦争に誘った罪は重いぞ」
其処で一度言葉を切って、
「檜山を始め、この戦争で死んだクラスメイトを殺したのは、お前だよ、天之河光輝」
「巫山戯るな! オレは……」
「皆んなを守る気が有るなら、あの時はこう言うべきだったんじゃないのか? 『オレがみんなの分まで戦うから、みんなは戦うな』ってな」
「っ!?」
京矢の言葉に何も言い返せなくなる光輝。
「本当に守るつもりなら、最初から命懸けの場所で隣に立たせる様な真似もしねえよ、阿保」
京矢の言葉に何も言い返せなくなる。守ると言うのならば最初から危険から遠ざけるモノ。両親や祖父が幼い頃の子供だった光輝にしてくれた様に、妹にしてくれた様に。
「…………さい……」
だが、光輝は理性の部分が浮かべた納得を、感情の部分から否定する。
「うるさい! うるさい! うるさい! 屁理屈を言うな!」
「はあ。口先だけの守るって言うスカスカな言葉で、みんなで仲良く人を殺しましょうなんて誘っておいて、その様子だとその覚悟も無さそうだな」
自覚もなければ経験もない。経験がないのは羨ましい限りだ。日本に生きる以上、いろんな意味でしない方が良いが、ここでは違う上に、コイツは人殺しが日常になる場所に無自覚に誘ったのだ。
……そう、長年の訓練と訓練と国と国民を守る覚悟を持った兵士でさえ、場合によっては精神を病む様な場所に。
「そう言えば、オレが魔人族の女を殺した事に何か言ってたな?」
「そうだ! 彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。お前がしたことは許されることじゃない!」
京矢の言葉にここぞとばかりに言葉を続けていく。
「あのまま降伏させて捕虜に……」
「で、その本人はお前を罵って、俺には感謝していたぞ?」
京矢の指摘に再び言葉を失う光輝。
命だけは救おうとする光輝を罵り、逆に苦しまず遺体も闇に消して魔物の餌にも、晒し者にもされない様にすると約束して首を刎ねた京矢に感謝して死んだ魔人族の女。
京矢としても敵として敬意を持って死後の辱めも、苦痛も与えずにトドメを刺した。
「少なくとも、聖教教会じゃ魔人族も人間扱いされていないんだ。捕虜にされた方が死んだ方がマシって事を少しは理解しろ」
寧ろ、痛みもなく一瞬で死なせた京矢の方が相手にしてみれば情け深いと言う事になる上に、屍も辱められない様にすると約束もした。
そこで、「それに」と言って一度言葉を切ると、
「残念ながら、魔人族を殺した事は褒められても、罰せられる事はない。トータスの人間からしたら助けられたくせに手柄を取られたと喚いてる情けない姿にしか見えねえだろうな、阿保勇者」
呆れた様にヤレヤレと首を振る京矢に対して激昂する光輝。
「何なら、この後あのジーサンやら王様やらの前で叫んでみるか? オレが魔人族を殺したから裁きを受けるべきだって? 多分、お前の頭の方を心配されるか、手柄を取られた事を妬んでるって思われるから止めとけ」
既に京矢がベヒーモスを倒した手柄を奪ったと噂になっているのだ。此処に来てそんな事をしたら最早光輝推しのイシュタル教皇でも庇えないだろう。
一応、此処については京矢も純粋な善意での忠告だ。
「さっきから屁理屈ばかり!」
周囲の、特に街の人間達からの視線が冷たさを増す中で、いや、「あんなのが勇者?」と光輝に対して勇者なのかと言う疑惑さえ浮かんでいる者もいる。
振るう剣の鋭さは増したが、京矢は鎧の魔剣でそれを受け止める。
「いい加減自覚しろ! お前がクラスの連中を立たせたのはそう言う場所だ!」
受け止めた聖剣を弾き、お返しとばかりに乱撃を浴びせながら言葉を続ける。
「お前は人を殺す覚悟ができていないのに、お前だけじゃない、全員を殺し合い前提の戦場に立たせたんだよ!」
割と手加減した不完全版のアバンストラッシュを打ち込み光輝を弾き飛ばす。
「目の前で人が死ぬ。そんな、お前の世界にとってあり得ないことが起きるのが見たくなかったってか? ふざけんじゃねえよ」
顔を上げた光輝を蹴り飛ばし、「まあ」と前置きして、
「運が悪かっただけかもしれないけど、そう言う覚悟の方は教導する側の責任もあるからな」
そう言って光輝が立ち上がるのを待ちながらメルドの方に視線を向けると、目があったメルドはバツが悪そうな顔をしていた。
メルドは召喚者に対して神の使徒という目線ではなく対等に付き合ってくれる貴重な人だが、どうやらそれが今回は裏目に出たらしい。
「まあ、最初に教えるべきだったとは思うけど、オレ達の事情を考えてくれたんだろうな」
本来ならば死刑囚でも利用して最初に命を奪う訓練をさせたかもしれない。もしかしたら、亜人の奴隷や魔人族の捕虜だったかもしれない。
直ぐにそんな訓練をさせないでいてくれたのは感謝するが。
敵側との交渉もあっただろうが、それについては触れないでおこうと思った。あの、マギアやダークネスを用意した敵の仮面ライダー達の思惑が分からないからだ。
京矢は知らない事だが、光輝が死ぬのが前提の交渉なのだから、光輝が突っ走るのも無理はない。まあ、それを除いたとしても。
「本当に、迷惑なやつだな、お前は」
「黙れ!! 次はこうはいかない。今度こそうまくやって見せる!!」
「悪いが、次こそは、なんて言ってる奴が、次に上手くいくなんて思えねえな」
光輝の言葉を鼻で笑い、
「失敗を活かせる奴が、次こそは、なんて言う訳がねぇだろうが! 何が勇者だ、お前はいい加減な判断で仲間を危険に晒して、中途半端な力で剣を振るう唯の阿保だよ」
その阿保の面倒を比較的扱い方を知っているからちゃんと管理しておけと雫に対して思う京矢だった。
「いい加減に黙れ!! ここからは本気で行く。今までのようにいくと思うな。”限界突破”!!」
「いや、最初から本気で来いよ。ってか、そう言うのは使うタイミングでも無いだろうが」
魔剣の本体を兜に戻し、聖剣イグザシオンを抜く。ふと、後ろに変な女の悪霊っぽいのが現れたから、鬱陶しいので手裏剣状の霊剣を四本ほど顔面に突き刺したら消えたので、光輝との戦闘に意識を向ける。
ステータスが三倍になったとは言え、冷静さを失った光輝の動きは読み易い。
「大体、幼馴染が一緒にいるのが当然って、お前の頭の中は何年前のラブコメのラノベだよ? 最近じゃドラマやアニメでも、長年続いてなきゃあり得ないだろうが」
「黙れ! お前に何がわかる!? 俺は誰よりも二人の傍にいたし、いつだって守ってきた。これからもずっと二人を守るんだ!!」
「お前、本当に将来DVで警察のお世話になりそうな奴だな。いや、一人で遊んでる人生ゲームに他人を巻き込むなよ」
迷惑をかけて来たの間違いだろうと内心で思いながら、限界突破した光輝の攻撃を時には避け、時にはイグザシオンで受け止めながら捌いていく。此処まで単調になれば目を閉じていても対処できる。
「おっと」
大振りの一撃を後ろに飛ぶ様な動きで避けると、そろそろ反撃でもするかと思いながらイグザシオンを地面に刺した瞬間、
「っ!?」
「今だ、光輝!」
京矢の一撃から意識を取り戻した龍太郎が後ろから京矢を羽交い締めにする。
(力加減を間違えたか)
気絶させる程度に抑えておいたが、多少手加減しすぎた様だと思う。なるべく怪我をさせずに負けさせておこうと思った仏心だったのだが、骨の一本でも折っておけばよかったと思う。
「すまない、龍太郎!」
龍太郎に感謝の言葉を告げると叫び声をあげて身動き出来ない京矢に向かっていくが。
「教えてやるよ、限界ってのは、常に超えない為に有るんだぜ」
京矢の握るイグザシオンの七色の輝きが水面の波紋の様に広がり、その輝きを浴びた光輝の体が、
「ぐっ!」
突然の倦怠感と共に崩れ落ちた。
「鳳凰寺、今度は何をした!?」
「何って、限界突破の強制解除だ。倦怠感は限界を超えた代償だな」
笑いながらそう告げる京矢の背後の龍太郎の体がくの字に折れて再度吹き飛ばされる。
「無理に限界を越えるスキルだから、その反動で負担が出る。多分、制限時間は限界突破の反動が短時間で回復できる範囲って所だろ」
フラフラの体で立ち上がる光輝を見据えながら京矢はため息を吐き、
「誰も殺したく無いなんて甘い考えは捨てろ。結局、他のクラスメイトはお前に巻き込まれたんだよ。その上で戦争に誘った時点でお前は人を殺す義務からは逃げられない」
「オ、オレは……誰も殺したりなんかはしない!」
「残念ながら、勇者になったからは、お前は必ず殺さなきゃならない。……魔王をな」
まあ、エヒトの考えがどうなのか分からないので、その後に新しく大魔王やら超魔王が出て来ても不思議じゃ無いが。
勇者の剣が魔王を倒す為に必要なのならば、その程度の覚悟、和解すると言う考え等捨てて貰わなければ、面倒なのだ。
結局のところ勇者など称賛されたとしても本質は、魔王と言う存在に対する刺客なのだ。
「大体、南雲を非難するのも、お前は好きな女を取られて嫉妬してるだけだろ? いや、そもそも、お前」
京矢の言葉の刃は光輝に確実に突き刺さる。
「白崎の事も、雫の事も、どうでも良いんだろ?」
「なっ!」
その言葉に反応する光輝。そこで堰を切ったように吐き出す。
「ふざけるなッ、そんなわけないだろ。俺にとって二人は……」
「理想の自分に必要なアクセサリー、デコレーションだろ? 特別人目を引くから自分の傍にいるべきだって思ってるだけだろ?」
「黙れッ。俺は、そんなことを……勝手なことを言うなっ!!」
「じゃあ、何で直葉に付き纏ったんだ?」
「あ、あれは……」
「要するに、特別なオレには最高の女が傍に居なきゃならない。だから、二人にも負けて居ない直葉も自分の傍に居るべきだと思った」
ユエ達に視線を向けると、
「だから、ハジメの傍にユエ達が居るのが気に食わない。自分に劣るアイツの傍にいるのは許せない」
更にエンタープライズとベルファストにも視線を向ける。
「直葉がオレの義妹だって知ったのが後か先か知らねえからそれは良いとして。自分の邪魔をするオレの傍にエンタープライズやベルファストが居るのも気に入らない」
「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇぇ──ッ!」
絶叫する光輝から悠々と距離を取り、
「喚いてないで最強の技でも使ってこい。望み通り黙ってやるからよ。最初からお前には言っても無駄だとは思ってたからな」
そう宣言すると京矢はイグザシオンを逆手に構える。神威の詠唱に入る光輝を一瞥し、妨害する事なく己の一撃を高める為に時間を使う。
「力にて地を、技にて海を、心にて空を」
その一閃はその世界に於いて勇者が編み出し、勇者へと受け継がれた秘奥義。真逆、それを一応勇者に対して向けられるとは技を生み出した勇者も思わなかっただろう。
「神威!!!」
光輝の放つ光の本流。京矢は構えを取ったまま一瞥するだけだ。
「鳳凰寺ィィィィィィイ!!!」
「全てを束ね、全てを断つ! アバン、ストラッシュ!!!」
京矢の放つ光の斬撃が光輝の放つ光の本流と衝突する。一瞬の拮抗、その瞬間、誰もが光輝の勝ちと錯覚する。
刃が津波を切り裂けないと考えるのも当然だ。だが、
拮抗が解けた瞬間、光の本流を光の刃が切り裂いていく。
「う、うぁ……!!!」
とっさにそれを聖剣で受け止めるが、真っ二つに折れた聖剣が破壊力を弱めたからか、
「その剣に感謝しとけ。お前の命程度は守ってくれたみたいだな」
速射性に優れたアローとは言え主人を守ったのだから、と。光の斬撃を受けた光輝を一瞥しそう呟く。
「……あれ?」
其処でふと、気がつく。
「ヤベ、やり過ぎたかも」
地面に落ちて倒れた光輝の様子から本当に死んだかも、と思ってしまう。ふと天生牙に触れてみるが、どうも本当にやり過ぎたらしい。
光輝に死の使いが見えた。
流石に此処で死なせるのも、後々面倒なのでさり気無く天生牙で蘇生しておくのだった。