クラスメイト達との再会

並び立つは二体の鋼の巨人。相対するのは全身が骨のゾンビの様な巨大怪獣。
剣と魔法の世界とは似合わない、寧ろ大都会の高層ビルの間に立つ方が似合いそうな、二体の巨大ロボと巨大怪獣の姿に唖然とするしか無い地球からの召喚されたクラスメイト達。

彼らの目の前に存在しているのは、剣と魔法のファンタジー世界の存在などではない。
二体の巨大ロボが巨大怪獣と戦うなど、何処からどう見ても特撮ヒーローの世界だ。

「……オレ達、いつから特撮番組の世界に来ちゃったんだろうな?」

「……さあ……」

もう巨大怪獣対巨大ロボなんて光景に唖然とするしか無いクラスメイト一同。

「……錬成師って、勇者よりチートじゃん」

「そうだよな……。なんであんな物作れる職業がありふれてるんだ?」

「銃とかでも十分凄いのに、特撮ヒーローの変身アイテムに巨大ロボだぜ」

「魔人族の方にも特撮ヒーローが居たんだから、こっちも南雲が居ればオレ達も特撮ヒーローになれてたかも、しれないよな?」

少なくとも銃の増産程度は出来てたと思うと、クラスメイト達の責める様な視線が自然と頭から樽に突っ込んだ光輝と、それを助けようとしている龍太郎に突き刺さる。

頭から樽に突っ込んだ光輝が結構キツく樽にハマっているのか、中々抜けずに『誰か手を貸してくれ』とか叫んでいる龍太郎は全無視だ。

「見ろ、怪獣が動いたぞ!」

冷ややかな目を2人に向けている間に、デスボーンが動いたのを見たクラスメイトの男子達が声を上げる。













『グワアアアアァァァァァーーーーーーッ!!』
 
デスボーンが咆哮を挙げたかと思うと、その身体から紫掛かった光の玉が次々に出現する。

『グワアアアアァァァァァーーーーーーッ!!』

咆哮と共に、その怪しい光の玉が四方八方へと飛び散る。

「チッ!」

両肩のキャノン砲、ボルケーノキャノンから撃ち出した砲撃が光の玉を撃ち落としていく。

「おい、どうした?」

デスボーンの攻撃を撃ち落とし始めた京矢の行動にハジメは疑問の声を上げる。

「っ!? ハジメさん、見てください!」

「っ!? 何、だと?」

そんなハジメにシアが声を上げる。彼女が見たヨクリュウオーのコックピットの映像には、

岩場が溶け、腐った様にドロドロの沼の様な物に変わっていた、デスボーンの光の玉の跡があった。

「マジかよ……」

「ん、ハジメ、あれは私でも危ない」

再生能力を持つユエでさえ、アレに当たるのは命の危険があると直感的に気が付いた。だからこそ、京矢は撃ち落とし始めたのだと気がつくと、ハジメも。

「ユエ、頼む!」

「ん!」

ヨクリュウオーの力で氷の弾丸を作り、キシリュウジンディメボルケーノの砲弾と共に光の玉を撃ち落としていく。

「行くぜ、キシリュウジン!」

このままでは埒が明かないと判断した京矢がボルケーノキャノンを撃ちながらデスボーンとの距離を詰める。

「ナイトメラメラソード」

右手に持つ剣、ナイトメラメラソードに炎が宿り、炎の斬撃がデスボーンを切り裂く。
それにより、デスボーンの放つ光の玉が途絶え、自由に動ける様になったヨクリュウオーが翼を広げ上空に舞い上がると、そのままキシリュウジンディメボルケーノと交代でヒエヒエクローによる斬撃を放つ。

キシリュウジンディメボルケーノとヨクリュウオーの斬撃を受けたデスボーンの体が崩れ落ちる。

その姿に町で見ていた者達は歓声を上げるが、当の京矢達は疑問を持つ。

「妙だ、手応えがなさ過ぎる」

余りにも簡単に倒せた事に疑問に思っていると、京矢は前世の記憶にあるEXタイラントの事を思い出した。
デスボーンの最大の武器は……

「不味い、南雲、油断するな!」

京矢の警告よりも早くデスボーンの体が紫色に光り、立ち上がる。

『グワアアアアァァァァァーーーーーーッ!!』

「せいっ!」

そう、文字通り怨念ゆえの不死性だ。
再度、ナイトメラメラソードによる斬撃を放ち町から吹き飛ばす。先程の光の玉も危険だが、他にも危険な攻撃を持っていないとは限らない。

(確か、こいつの弱点は……)

太陽の光によって再生能力は失われる。だが、デスボーンは先程から太陽光を浴びていると言うのに再生していた。
考えられるのは、
この世界の太陽には浄化の力が無いと言うこと。
この世界の怨念、またはエヒトの力が太陽による浄化の力を弱めていると言うこと。
或いはその両方の理由でデスボーンの再生能力が未だ健在だと言うことだ。

ならば、選択肢は一つ。相手は怨念の集合体の合体怪獣。ならば、その怨念を浄化すること。破邪等の属性を持った技や武器による攻撃だ。

(……シャインラプラーが居ればな)

残念ながら、シャインラプラーとその兄弟騎士竜シャドーラプターも合体形態のコスモラプターも手持ちには居ない。

「くそっ、鳳凰寺! 何か手は無いのか!?」

「ああ、何か不死身のゾンビ相手に特攻がある武器や技が有れば良いんだけどな」

残念ながら、ハジメの手持ちの神代魔法にもアーティファクトにもその系列のものは無いのが現状だ。下手をしたらこのまま無限に再生する不死身の怪物と永遠に戦い続ける羽目になる。

ヨクリュウオーで格闘戦を演じながら何か無いかと尋ねる。

「その手の手段は有るか?」

京矢ならば何かあるはずだと言う確信のある問い。

「問答無用で地獄に送れそうな冥道残月破。此奴は天生牙の固有の技だけどまだ使えねえ」

「天生牙で生き返らせるってのは無理か?」

「あいつが死にたてのゾンビに見えるか?」

「見えねえな」

「だろ?」

あるいは天生牙の力ならばデスボーンを形作る怪獣達の怨念も斬ることも出来るかもしれないが、重ねて言おう、残念ながら今の京矢では其処まで広く天生牙を使いこなせない。

「後は霊剣かアバン流の空の技か」

「何だよ、まだ二つもあるじゃねえか」

そう話しながら繰り出されたヨクリュウオーとキシリュウジンディメボルケーノの同時攻撃により倒れるが、デスボーンは再度復活する。

「霊剣は無理だ。生身で相手するには、相手がデカ過ぎる。流石にキシリュウジンを通して使えないからな」

「って事は、アバン流の空の技って奴だな」

既に迷宮で地と海の技を見ているハジメは『勿体ぶりやがって』と考えながら、切り札の存在に笑みを浮かべる。

「悪いが、オレじゃあ使えない技だ」

「おい、鳳凰寺、お前は他の技を使ってたし、奥義って技も使えるんじゃねえか、何でその技だけ使えないんだよ!?」

「ああ、あの時のは不完全版。完全な物にするには、最後の一つの空の技の会得が必須なんだ」

地と海の二つだけでも、アバンが目指した一撃には到達出来たとあるが、当時のハドラー自体もより強靭になっていたそうだ。技の形としては地と海の技を会得できれば使えると言うのはその事からもわかる。だが、

「空の技の空裂斬は正義の剣士とやらにしか使えない必殺技だ。オレが正義の剣士って柄かよ?」

正義の剣士などと名乗る気は無い。無頼漢、アウトローの方が性に合うと言う京矢の言葉に納得するハジメ。

「じゃあ、どうする?」

「再生不能のレベルで跡形も無く消しとばしても、此奴は怨念の集合体、復活するのが先送りになるだけだ」

デスボーンの振り回すハンマーに吹き飛ばされるキシリュウジンディメボルケーノ。
流石にこの怪物が何れ復活すると言う状況は避けたい。

吹き飛ばされながらもボルケーノキャノンによる砲撃を浴びせ距離を置いたところでヨクリュウオーが全身を凍り付かせることで時間を稼ぐ事に成功する。

オリジナルのタイラントはタロウ以前のウルトラ兄弟との激戦のダメージと同時に、他のウルトラマンに復讐を果たす事による怨念の浄化も有ったのだろうが、今の京矢達に出来ることと言えば一時的な問題の先送りだけだ。

「技自体は成功させる自信は有るけど、オレには肝心の物が使えねえ」

空の技に必須の気のコントロールは元々京矢の得意分野であり、敵の本体を探る心眼に付いてもやろうと思えば出来るとは思う。だが、

「正義の味方特有の光の闘気は、流石にオレにはな」

「いや、指揮官なら大丈夫じゃ無いか?」

エンタープライズの言葉に京矢が否定の言葉を言う前に、全身の氷を砕いたデスボーンが腹部から紫色に輝くガス、『怨念ガス』を吹き出す。

「「うわぁ!」」

そのガスに巻き込まれた瞬間、キシリュウジンディメボルケーノとヨクリュウオーの全身に爆発が起こり、地面に倒れてしまう。その巨体が倒れる衝撃は小規模の地震に思える程だ。

「こう言う相手はオレ達には苦手分野か……」

残念ながら、現状ではハジメパーティーのメンバーには怨念の類を浄化する事が出来る者は居ない。

「いや、あれは大量の怨念の集合体が、更に怨念吸収した結果誕生した化け物だぞ。神代魔法の魂魄魔法とか言うやつでも、あれはこっちが危ないだろう?」

実際に恵里が怨念の渦に自我と言うよりも魂レベルで飲み込まれそうになった事を知っている京矢の言葉に、ハジメ達も軽く想像してしまったのだろう、顔が青くなる。ユエの再生能力でも自我とか魂レベルで消滅させられかねないのは無理だろう。
一歩間違えればエヒトでさえ飲み込まれ、消滅しかねない怪物である。

怨念を物理レベルの攻撃に進化させた化け物相手の対処方法が見つからない以上、選択出来るのは。

「ふむ、では、その空の技とやらを試すしか無いのでは無いか?」

巨大ロボのコックピットと言う状況に驚きのあまりフリーズしていたティオが再起動してそう呟く。
ハジメもユエもシアもそれしか無いかと言う顔だ。

「まあ、悪人じゃ無いし、行けるんじゃねえか、正義の剣士専門の技」

「正義とか光とかって柄じゃ無いだろう、オレは?」

ハジメの言葉を京矢は否定する。カリバーやらバールクスやらガイソーグやらとガチャの結果とは言え闇属性とかがよく似合う力を愛用しているのだし、寧ろ闇の闘気の方が相性が良いと思っている。

「いや、どちらかと言えば善人寄りだろう、指揮官は」

「間違いなく善人側だと思いますよ、京矢様」

エンタープライズとベルファストからも試す事を勧められてしまった。

「兎に角、何でも良いから試せるだけ試してくれ、どうせオレ達にはお前に任せるしか手はねえんだ!」

そう言われると無理だとは言ってられない。空の技とまでは行かなくても、可能性のある手段が使えるのは京矢一人なのだ。そして、使えさえすれば現状では一番空の技が倒せる確率が高い。

「分かった。時間稼ぎ頼めるか?」

「ああ!」

京矢の言葉に簡潔に返してヨクリュウオーを操りデスボーンへと向かう。
強敵への恐怖心など無い。心を満たしているのは巨大ロボを操る高揚感だ。……それもどうかと思うが。

そんなヨクリュウオーの背中を一瞥し、京矢は両手でガイソーケンを構える。

気配を読むのは出来ないことはない。いくつもの邪悪な怨念の集合体の気配が読めない訳はないが、逆に無数の怨念の集合体と言うべきデスボーンは大き過ぎて、技を撃ち込むべき点が見えにくくなっている。

(何処だ?)

技さえ成功すれば何処に当ててもダメージは与えられるが、それで与えられるのは一部へのダメージのみ。穿つべきなのは敵を構成する怨念を繋いでいる一点のみ。
ガイソーケンを構え、デスボーンの気配の中、怨念の中心点の位置を探る。無数の怨念の集合体。怨念が形を持った存在をその姿を維持させている中心点。



















「この骸骨野郎!」

京矢が技の準備に入っている間、ヨクリュウオーを操るハジメ達がデスボーンを引きつけるべく向かっていく。

デスボーンの振り回すハンマー状の腕と鎌状の腕を避けているが、一撃でも受けてしまうのは危険と言う判断からだ。

デスボーンが咆哮をあげながら振り回すハンマーを避けるヨクリュウオー。
スピードではヨクリュウオーが上だが、パワーではデスボーンに負ける。距離を取りたい所だが、そのパワー以上に厄介なのは、デスボーンの使う紫の炎だ。怨念の力の炎はヨクリュウオーの冷気でも消せない。

「相性最悪」

ユエの呟きが全てを物語っている。如何なる力も侵食していく怨念の前には物理的な力は無力とでも言われている感覚だ。

「この野郎」

隙をついてヒエヒエクローの一撃を見舞うが、それによって倒れたかと言うと再び起き上がる。

「凍って!」

透かさずその隙にユエが己の魔力とヨクリュウオーの力でデスボーンの全身を氷漬けにする。
ミレディの迷宮でも同じ事をしたが、デスボーンに使ったそれは魔力がうまく使えない領域では無い為、あの時よりも分厚い氷がデスボーンを包み込む。

「凍っちまえば、関係ないだろ?」

これで時間が稼げるかと安堵するハジメ達を他所に、デスボーンの全身を飲み込んだ氷が内側から紫色に腐り始めている。

「嘘だろ?」

「嘘?」

怨念の炎によって全身を包む氷を砕き、咆哮を上げて再度デスボーンが動き出す姿にハジメ達は驚かずには居られない。

怨念によって生まれ、怨念によって強化されたタイラントの強化体たるデスボーン。怨念がある限りその動きは止まらない。

「だったら、コイツで!」

ハジメも借りることもあるだろうからとヨクリュウオーの事は京矢から教えて貰っていた。その中の必殺技についての知識は真っ先に教えてもらった。

「ヨクリュウオー、ブリザードストーム!」

開かれた胸のプテラードンの嘴から放たれた冷気の嵐がデスボーンを飲み込む。それに対抗する様に怨念を弾丸の様に撃ち出すが、

「させない」

ユエの声が響き、ヨクリュウオーの周囲に発生した氷の鏃が怨念の炎を撃ち落としていく。

やがて冷気の嵐に包まれたデスボーンの全身が凍結する。だが、そのままでは、またすぐに動き出すだろう。故にハジメ達はすぐに次の行動に入る。

ヒエヒエクローに集うエネルギー。エネルギーを纏い輝くヒエヒエクローを翳し、空高く舞い上がるヨクリュウオー。

「食いやがれ、ですぅ!」

「ヨクリュウオー、ブリザード、クローストライク!」

シアの叫びとハジメの宣言が響くと同時に急降下しながらヒエヒエクローをデスボーンに叩き込むヨクリュウオー。
その一撃を受けたデスボーンは吹き飛ばされながら爆散する。

その光景を見て、クラスメイト達も、街の住人達も今度こそはと勝利を確信する。





だが、





ゆっくりとデスボーンの破片が浮かび上がり、周囲に漂う怨念を吸収して行く。流石に必殺技はダメージが大きいのか、吸収する怨念も多い。
「またか」と予想はしていてもこうもキリが無いと流石に嫌になって来る。

だが、今のデスボーンはそんなハジメ達の予想を大きく上回っていた。

「「「「え?」」」」

現れた巨大な影に呆然とするハジメ達。ヨクリュウオーの全長程もある巨大な足が四本。
ゾンビの様な姿は肉体を取り戻し、前後で別の生物の継ぎ合わせたかの様なケンタウロスの様な姿には頭から生えた羽毛が王冠の様に見える。

EXタイラントと呼ばれるデスボーンの一つ前の形態。本来のデスボーンの在り方を考えれば、この姿こそが最も強い姿かもしれない。

EXタイラントが足踏みする度に大地震の様な振動が起こる。
屈強な冒険者達が唖然として座り込む。最早、人が太刀打ちなどできない生きた災害を目の前に、既に生き延びる事を諦めていた。どれだけ急いで逃げてもあの怪物の一歩は簡単に追いついて来る。王都の城壁の奥に逃げ込んでも、あの怪物は意にも介さない。

生物としての次元が違う。虫が人に勝てない様に。人間の身ではどんな優れた騎士も、魔法使いも勝てない存在が目の前にいるのだ。対峙した瞬間、抵抗する事も逃げる事も、そうしようと考えることすら出来なくなった。

「嘘だろ? 巨大化ってのはお約束なんだろうけど、これはいくら何でも、反則じゃねえか?」

EXタイラントをヨクリュウオーの中で見上げながらハジメは唖然としながら呟く。
ハジメが巨大ロボのコックピットの中でさえ見上げるしかない、その巨大を前に、次の行動を迷う内に京矢の操るキシリュウジンが動く。














個体そのものが高密度な怨念の集合体。そんな物の撃つべき一点など簡単には見つからない。そんな時だった。

ハジメの一撃によってデスボーンの巨体が砕け散るのは。当然ながら、その破片は怨念を吸収し再生しようとしていた。

(南雲、ナイスだ!)

砕けた破片が再生する一点、その一点こそが撃つべき点だと確信出来る。唯一の計算外はデスボーンの姿では無く、EXタイラントの姿での再生と言う所だ。

「それだけデカくなってくれたら、逆に狙いやすいぜ!」

怨念の密度はデスボーンよりもEXタイラントになった事で下がっている。戦闘力を増しているが、それでも、撃つべき一点を捉えられることは有り難い。

狙うべき点を捉えたならば、この技を試すのみ。そう考えてキシリュウジンディメボルケーノを走らせる。

EXタイラントの真上へと飛び京矢はガイソーケンを構え、目を閉じる。

「我が心、明鏡止水。されど、我が刃は烈火の如く!」

キシリュウジンディメボルケーノのナイトメラメラソードを通じて、その技を放つ。

「空裂斬!」

キシリュウジンディメボルケーノの放った一撃を受けたEXタイラントは全身から紫の煙を放ち苦しみ始める。

狙った一撃は正確にEXタイラントの狙うべき一点を捉えていたのだろう。敵の不死性が消えている筈だ。
















「こ、これは、エヒト様の起こした奇蹟か?」

二体の鋼の巨人を見上げながら、町の住人の誰かがそう呟いた。

異世界トータス。その世界の住人にとって、神話の中の出来事が目の前で広がっていた。

地球。異世界から召喚された地球人にとって、空想の中での特撮の光景が目の前で広がっていた。

存在其の物が災害であったデスボーンを超え、その行動全てが災害となる怪物EXタイラント。それに立ち向かうのは二体の鋼の巨人、キシリュウジンとヨクリュウオー。

トータスと地球。その二つの世界において、想像の中にしか存在していない光景であることは間違いなく共通点だろう。

巨大ロボが巨大怪獣と戦う光景など、何処から驚いて良いのか理解出来ていない。ただ言えるのは、その二体を操るのはかつて最強であった京矢と最弱であったハジメの二人だったと言う事だ。

何人かは顔を真っ青にしてしまっているが。主にこれ迄のハジメへの諸行を思い出して、だ。
巨大ロボ使ってお礼参りされる光景をリアルに想像してしまったと言う訳だ。

そんな彼らを他所に二体の鋼の巨人は怨念の暴君へと向かって行く。















全く別の生き物の足を新たに繋いだ様な異形のケンタウロスの姿で、空中を舞い翻弄するヨクリュウオーを撃ち落とさんと鉄球状の腕を振り回すが、飛行能力を持つヨクリュウオーを捉える事はできない。そんな状況にEXタイラントはイカルス星人の耳から針状の光線アロー光線を放つ。

「そんなモンが当たるかよ!」

針状の光線は射程、範囲ともにハンマーを振り回すよりも攻撃範囲は広い。だが、自在に天空を舞うヨクリュウオーは余裕さえも感じさせる動きでアロー光線を回避していく。

「こっちも忘れるな!」

同時に足元から攻めるのは京矢の乗るキシリュウジンディメボルケーノだ。そんなキシリュウジンディメボルケーノをその巨体と四本の足を使って踏み潰さんとしている事が、ヨクリュウオーへの射撃の精度を下げている。

空中を飛ぶヨクリュウオーへと頭の羽を手裏剣の様に飛ばした事で出来た隙にキシリュウジンディメボルケーノはEXタイラントの背中へと飛び乗る。

これだけの巨大だが、背中に飛び乗って仕舞えば反撃の手段は乏しいと判断した結果だが、その判断は失敗だった。

背中の棘に電流が走り、背中から放たれた電撃がキシリュウジンディメボルケーノを襲う。

「ぐあぁ!!!」

ハンザギランと言う超獣のパーツで有る背中に配された棘から放たれた電流に焼かれたキシリュウジンディメボルケーノはそのままEXタイラントから振り落とされる。

「指揮官!?」

「ああ!」

キシリュウジンのコックピットの中にも電撃のダメージが現れる中、地面に落ちる前に体制を立て直し、後ろ足となっているゴモラの脚によるスタンピングを回避する。

最早、単なるスタンピングが小規模な地震となっている事に言葉を失っている街のトータスの住人に対して、光輝(樽に頭から突っ込んで気絶中)と龍太郎を除いた地球出身の男子達は二体の巨大ロボの戦いに歓声を上げている。恐怖よりも勝っているのだろう。

目の前で巨大怪獣と戦う二体の巨大ロボ。最早危険を忘れて目を奪われていた。

「ユエ!」

「ん!」

ユエの操作によってヨクリュウオーが氷の矢を放ち、しつこく追跡してきた羽手裏剣を撃ち落とす。

「喰らいやがれですぅ!」

「こっちも持ってけ!」

シアと京矢の叫び声と共に、上から急降下するヨクリュウオーのヒエヒエクローが、下からはキシリュウジンディメボルケーノのナイトメラメラソードがEXタイラントの頭に叩きつけられる。

「少しは効いたか!?」

「いえ、まだの様です」

京矢の言葉にベルファストが答える。彼女の言葉通り、EXタイラントは咆哮を上げて健在をアピールしている。

「やっぱり、タフな奴だな」

流石は、ウルトラ兄弟五人抜きをしたタイラントの強化体だけの事はあるのだろう、頭部への同時攻撃にも眩暈一つしていない姿に逆に感心してしまう。

「アイツの武器を逆利用したいところだけど、それも無理そうだな」

あの巨大では武器を切り落とすのさえ、必殺技を使う必要も考えられるので却下だ。

「不死身の能力消えたら、今度は巨大化って有りかよ、ホント」

最早、存在其の物が暴君の名に相応しい暴力の様なEXタイラントに対してボヤくしか無いハジメだった。

単なるスタンピングさえ、巨大ロボットにさえ必殺の破壊力を持つ怪物なのに、様々な能力まで持っていると言う反則仕様なのだから仕方ないだろう。

「複数の怪獣の融合体だからな。能力の多様さに関しては仕方ないと割り切っといた方が良いぜ」

京矢の言葉に内心で「マジかよ」としか思うしか無いハジメであった。

動くだけで災害である巨大怪獣を倒す手段がないのは同じだが。

「で、お前の事だから倒した奴のことや、倒し方も知ってんだろ?」

「こうなる前なら、|巨大ヒーロー《ウルトラ兄弟》六連戦で最後の一人に武器を利用されて、とか。|宇宙最強と名高い光の戦士《ウルトラマンゼロ》に一騎討ちで、とか?」

「良し、コイツに効きそうな大技は無いか?」

取り敢えず、|光の巨人《ウルトラマン》達のとった手段は無理だと判断したハジメは京矢へとそう問いかける。

(キシリュウジンやヨクリュウオーの単独の必殺技は効かねえだろうし、ディメボルケーノも無理そうだな。ジェットも……)

現状、可能な合体形態及び単独形態でEXタイラントに効きそうな必殺技は思い付かない。

ハジメからの問いにEXタイラントの攻撃を避けながら、街から遠ざけながら思考する。
流石に思考に意識を取られているので、キシリュウジン本体の動きはエンタープライズが、隙をついてのディメボルケーノのパーツ部分での攻撃はベルファストが担当してくれている。

(後は、キシリュウジンを通じてのアバンストラッシュ。流石に完全版の初挑戦を巨大ロボでってのはな)

寧ろ、気を扱う空の技は得意分野の為に簡単にキシリュウジンで行えたが、完全版は初めて使うので確実とは言えない。

(手段が一か八かしか……待て、アバンストラッシュ? いや、ディメボルケーノとヨクリュウオーの力なら)

考えを纏めると笑みを浮かべ京矢は、

「南雲! 一か八かの策だけど、良い考えが有るぜ!」

「よく分からないが、考えがあるなら乗った!」

京矢の言葉に同意するハジメ。この二体の事は元々京矢の持ち物なのだ、ならば京矢の策に乗るだけだ。

「なら、全力で必殺技叩き込め! 仕上げはその後だ!」

「おう!」

ヨクリュウオーは上空を舞い、キシリュウジンディメボルケーノは地上を走る。

「キシリュウジン、ボルケーノスラッシュ!」

上空に舞い上がりながら、炎を纏ったナイトメラメラソードの連続切りを叩き込む。

「ヨクリュウオー! ブリザードクロー、ストライク!」

キシリュウジンとは逆に急降下しながらブリザードクローストライクを叩き込むヨクリュウオー。

二体の必殺技の同時攻撃によってEXタイラントが僅かに怯む。流石にその巨体でも、必殺技の同時攻撃にはダメージが有ったのだろう。

「今だ!」

一瞬の隙だが、必要な時間は十分に稼げた。後は最後の賭けに成功するだけだ。

「おう!」

「「騎士竜合体!!!」」

青と赤の光となった二体の巨人が一体化し、巨大な砲塔を持った一体の巨人となる。

「完成」

「「キシリュウジン、ジェットボルケーノ!」」

両腕のパキガルーの代わりに両肩にディメボルケーノのキャノン砲を装備したジェットのスピードと違い砲撃特化の形態らしく、翼は盾の様に前方に畳まれている。

赤と青に光るキャノン砲の中央に集まる白い光。

「南雲、バランスを間違えんなよ」

「分かってる。ユエ、制御は任せたぞ」

「ん」

熱と冷気の力で発生したエネルギーの制御を天才的な魔法の差異を持つユエが担当しているが、流石にユエでも難しいのだろう、表情に余裕はない。

「食いやがれ! 極大消滅砲撃! ゼロバースト!」

キシリュウジンの撃ち出した消滅のエネルギーはEXタイラントを飲み込み、抵抗を許さず消滅させ、上空へと消えていった。

京矢のとった策は騎士竜の力を使ってメドローアの擬似的な再現だ。物理では倒し難い相手に対して、腹のベムスターの口から吸収するのも難しいと判断した結果だが、うまく言った様子だ。

天空へと消えていく擬似再現した極大消滅魔法を見上げながら、あのままエヒトがいると言う神域にも直撃してくれないかと思いながら、EXタイラントに勝利したと確信する。

怪物の消滅に唖然としていた町にいる者達の声が消え、次の瞬間、街を揺らさんばかりの歓声が上がる。
トータスの者達は神の起こした奇跡に。
地球の者達は二体の巨大ロボットの勝利に。
全員に共通するのは絶望が完全に消え去った事だった。
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