クラスメイト達との再会

その後、ユエと香織のやり取りがあり、クラスメイト達は地上への帰還までの間、京矢達に同行する事となった。
取り敢えず、一番傷が酷かったメルドは、本人は神水で回復したとの事で遠慮していたものの、引き続きディノミーゴに乗っていてもらうことになったが。

他のクラスメイト達からの光輝を見る目が微妙な雰囲気になっているのを尻目に、そんな事には興味はないとばかりに動く京矢達に、クラスメイト達は置いてかれたら終わりだと考え、慌てて追随し始める。

地上へ向かう道中、邪魔くさそうに魔物の尽くを軽く瞬殺していく姿は京矢は兎も角、ハジメには改めて、その呆れるほどの強さを実感して、これが、かつて〝無能〟と呼ばれていた奴なのかと様々な表情をするクラスメイト達。

道中、いい加減面倒になったので京矢がRXライドウォッチの力で魔物除けを行なった際には最早面白いと言うレベルで此方に怯えている魔物達が見えていたりする。

後ろから様々な視線を向けて来る光輝達を無視して談笑混じりで話しながら進む京矢達。
途中、岩に擬態した魔物が逃げ遅れたのか、直立に立って『私は石柱、永遠にここに立ち続ける』と自分に言い聞かせながら災害が通り過ぎるのを待っていたり、全員が積み重なって岩に擬態していたりと、昭和ライダー最強の創生王の力に怯えていたりと、行きとは違いこれ以上無いほど楽な道だった。

途中、鈴の中のおっさんが騒ぎ出しユエにあれこれ話しかけたり、京矢とハジメに何があったのか質問攻めにしたり、三人が余り相手にしてくれないと悟るとシアの巨乳とウサミミを狙いだしたりして、雫に物理的に止められたり、近藤達が何故全裸なのかとユエとシアが疑問に思ったり――――色々ありつつ、遂に、一行は地上へとたどり着いた。

香織は、未だ、俯いて思い悩んでいる。雫は、そんな香織を心配そうに寄り添いながら見つめていた。だが、そんな香織の悩みなど吹き飛ぶ衝撃の事態が発生する。ハジメに心を寄せていた一人の女としては、絶対に看過できない事態。

それは、【オルクス大迷宮】の入場ゲートを出た瞬間にやって来た。

「あっ! パパぁー!!」

「むっ! ミュウか」

ハジメをパパと呼ぶ幼女の登場である。

「パパぁー!! おかえりなのー!!」

【オルクス大迷宮】の入場ゲートがある広場に、そんな幼女の元気な声が響き渡る。

各種の屋台が所狭しと並び立ち、迷宮に潜る冒険者や傭兵相手に商魂を唸らせて呼び込みをする商人達の喧騒。
そんな彼等にも負けない声を張り上げるミュウに、周囲にいる戦闘のプロ達も、微笑ましいものを見るように目元を和らげていた。

ステテテテー! と可愛らしい足音を立てながら、ハジメへと一直線に駆け寄ってきたミュウは、そのままの勢いでハジメへと飛びつく。ハジメが受け損なうなど夢にも思っていないようだ。

テンプレだと、ロケットのように突っ込んで来た幼女の頭突きを腹部に受けて身悶えするところだが、生憎、ハジメの肉体はそこまで弱くない。むしろ、ミュウが怪我をしないように衝撃を完全に受け流しつつ、しっかり受け止めた。

「京矢様、お帰りなさいませ」

「無事帰還できた事何よりだ、指揮官」

「エンタープライズにベルファストも、ミュウちゃんの護衛ありがとな」

そして、続いて現れた白銀の髪の二人の美女……エンタープライズとベルファストに男子組+鈴の目が奪われる。この時点で最早、近藤達三人はどうやって京矢に取り入るかを考え始めている始末だ。

そんなクラスメイト達を他所に、約一名足りないことに気がつくと、

「……そう言えば、ティオはどうした?」

「ティオ様が、そろそろ京矢様達が帰ってくるかもと仰っておりましたので、迎えに参りました。ティオ様は……」

ベルファストの視線を追っているといつの間にかティオはハジメと合流していた。ベルファストと話している内に合流したのだろうが……

「で、何かあったのか?」

「ああ、ちょっと不埒な輩がいた。凄惨な光景はあの子には見せられないからな」

「なるほど。そう言う訳か。で? その自殺志願者は何処だ?」

「私とティオが処理しておいた。生きているから、そっちも安心して良い」

「南雲相手じゃないだけ運が良かったな、そいつ等。……しっかし、あいつ、ミュウちゃんの本当の親のところに行った後、子離れ出来るのか?」

「まあ、アークロイヤルよりはマシと思った方が良いだろう」

どうやら、ミュウを誘拐でもしようとした阿呆がいるらしい。
ミュウは、海人族の子なので、目立たないようにこういう公の場所では念のためフードをかぶっている。そのため、王国に保護されている海人族の子とわからないので、不埒な事を考える者もいるのだ。
フードから覗く顔は幼くとも整っており、非常に可愛らしい顔立ちであることも原因の一つだろう。目的が身代金かミュウ自体かはわからないが。

ハジメがその連中にトドメを刺しに行かないかは心配だが、そこは友人を信じることにした京矢だった。流石に未遂で防がれたのなら、京矢としてはそこで懲りたのなら見逃してやる程度の情はあるのだし。

そんな二組の会話を呆然と聞いていた光輝達。
ハジメが、この四ヶ月の間に色々な経験を経て自分達では及びもつかないほど強くなったことは理解したが、「まさか父親になっているなんて!」と誰もが唖然とする。特に男子などは、「一体、どんな経験積んできたんだ!」と、視線が自然とユエやシア、そして突然現れた黒髪巨乳美女に向き、明らかに邪推をしていた。
更には何かメイドさんと女軍人と言った風体の銀髪巨乳美女を二人も連れている様子の京矢には、もうどうやって知り合ったと心からの疑問を抱いてしまっている。
二人が迷宮で無双した時よりも、特撮ヒーローに変身した時よりも驚きの度合いは強いかもしれない。

まあ、冷静に考えれば、行方不明中の四ヶ月で四歳くらいの子供が出来るなんて有り得ないのだが、いろいろと衝撃の事実が重なり、度重なる戦闘と死地から生還したばかりの光輝達には、その冷静さが失われていたので見事に勘違いが発生した。

そして、唖然とする光輝達の中からゆらりと一人進みでる。顔には笑みが浮かんでいるのに目が全く笑っていない……香織だ。香織は、ゆらりゆらりと歩みを進めると、突如、クワッと目を見開き、ハジメに掴みかかった。

「ハジメくん! どういうことなの!? 本当にハジメくんの子なの!? 誰に産ませたの!? ユエさん!? シアさん!? それとも、そっちの黒髪の人!? まさか、他にもいるの!? 一体、何人孕ませたの!? 答えて! ハジメくん!」
 
そんな訳で、暴走する香織を宥めることを始めるべく、彼女の友人の雫と共にハジメを助けに参戦した。










さて、正気に返った香織が、顔を真っ赤にして雫の胸に顔を埋めている姿は、まさに穴があったら入りたいというものだった。
どうやら冷静さを取り戻して、自分がありえない事を本気で叫んでいた事に気がついたらしい。雫がよしよしと慰めている。
京矢もそんな姿は流石に笑えないので、2人へと呆れた目を向けたままリアクションに困っているが、何ともタイミングの悪い時に余計な連中も現れる物である。

「おいおい、どこ行こうってんだ? 俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないって……!」



『愚かな人間どもよ!!!』



だが、因縁をつけようとしたチンピラの声を遮り、町全体に響く声が響き渡った。

町中の視線が其方へと向くと、其処にはローブで顔を隠した四人の人影があった。

「……あの声は……」

「こ、此処まで追って来たのか?」

震える声で呟くクラスメイト達には聞き覚えがあった。その声は風魔の声だ。


『我らが魔人族の同胞を殺したその罪、この薄汚い町の下等な人間共、その全ての命を持って億分の一でも償って貰おうではないか?』


『あはは〜。たっぷり後悔しちゃって下さいね〜』


京矢は新たに聞こえて来た声は、その特徴的な話し方から、ウルの町で会った仮面ライダーソーサラー。サユリと名乗った少女のものであることに気づく。

勇者達以外の者達が、町の人間を皆殺しにすると宣言した四人に対して、たった四人で何ができると言う様子だ。
返り討ちにでもしてやろうとでも考えているのだろう、腕に覚えのある冒険者達が武器を持って今にも襲い掛からん様子だ。

だが、次の風魔の行動でそれは覆る。



『現れよ、我らが魔物を超えし究極の生物兵器……怪獣よ!』



「「へ?」」

『は?』

地球出身者の呆けた声が溢れる中、街から離れた場所の上空に視認出来るほど巨大な魔法陣が現れ、その中から巨大な白骨が現れ、ゆっくりと動き出す。
全身の組織が骨化し、黒く腐りきった組織が隙間を埋めていると言う、ゾンビの様な巨大怪獣。


『その異様を示せ、汝、死骨の暴君! EXタイラント、デスボーン!!!』


グワアアアアァァァァァーーーーーーッ


左右を『此処、何処?』と言った様子で周囲を見回すと咆哮を上げるEXタイラント デスボーン。

その醜悪な姿には最早吐き気と恐怖しか覚えない。

「ははは……特撮ヒーローの次は、怪獣って……?」

「ははは……オレ達夢でも見てるのか?」

クラスメイト達からそんな声が漏れる。最早、一日で起きた事がインパクトが強過ぎて、現実感が無くなってしまっていた。
最早、特撮作品の中に迷い込んでしまったとしか思えないのだろう。
異世界転移して得たチートが普通の能力としか思えない。常識的な大きさの魔物の相手に無双できても、あんな巨大な怪獣を相手にどう戦えと言うのだ?

冒険者達もその異様に武器を落とし吐き気を覚え、余りの巨大さに抗う術を失った様に膝を突く。


『村を、町を、国を、人間の領域を滅ぼし尽くす、我らが究極兵器の最初の生贄となるが良い、愚かな人間どもよ!!!』



だが、誰もが絶望する中、それを否定するヒーローもいるのである。

「南雲、流石にアレを放置って訳には」

「行かねえな」

仕方ないとばかりに、ガイソーケンを取り出し、ディノミーゴからメルドを下ろして永山達に預けると、

「ヨクリュウオーを使え、オレはキシリュウジンで行く」

「任せとけ」

こんな時だが、巨大ロボでの大暴れという状況にはワクワクを抑えきれないと言う姿のハジメに苦笑を浮かべる京矢。

「行くぜ、ディノミーゴ、プテラードン!」

京矢のポケットから飛び出すピーたん。バタバタと手足をバタつかせながらディノミーゴの頭に降りる。

この世界にとっては神の領域の戦いが。光輝達にとっては空想が現実に変わった戦いの火蓋が落とされようとしていた。


***

京矢達がディノミーゴとピーたんを連れてEXタイラント デスボーンを倒しに向かおうとした時、

「狼狽えるな!」

光輝の声が響く。
行動の出だしを潰されてしまった京矢とハジメの二人が白けた目で其方を見てみると、光輝が町の冒険者達やクラスメイト達に向けて演説をしていた。

「あんな物は虚仮威しだ! 唯の大きいだけの死体だ! 勇者であるオレの敵じゃない!」

虚仮威し等と言っているが、あの大きさはそれだけで十分すぎるほどの兵器だ。
まあ、その後の演説は予想通り、オレがデスボーンを倒すから、その為の力を貸してくれ、との事だ。

「確かに恐ろしい敵かもしれない、だけど、俺がみんな事は守る! だから、皆んなの力を俺に貸してくれ!」

既に少しずつ逃げようとしている意外と機を見る目がある小悪党達と、最早懐疑的な目で見ているクラスメイト達(龍太郎除く)以外の冒険者達から雄叫びが上がる。それだけ勇者の名は大きいと言う事だろうか?
まあ、ウルトラマンタロウの世界の住人達ならば、怪獣に生身で立ち向かえる上に勝てる様な人間の域を超えた連中もいるにはいるが、デスボーン相手には流石に無理としか言えないレベルだ。

光輝の作戦は限界突破を使った自分が全力の攻撃を放つから、その間みんなで時間を稼いでくれとの事らしい。

クラスメイト達からは巨大な怪獣相手に立ち向かえるかよ、と言う視線を向けられているが、一応は勇者と言う肩書とカリスマで、冒険者達はやる気になっている。

まあ、問題のデスボーンは何故か戸惑った様子で、何時迄も動き出す様子がないのが気になるが。







「なあ、南雲」

「どうした?」

「もしかして、あの連中……如何にも自分達が、あの怪獣を操ってますって態度で演説してたけど……」

「けど?」

ハジメだけでなくユエ達にエンタープライズ達、周囲にいた雫と香織をはじめとしたクラスメイト達も京矢の言葉に耳を傾けている。
そんな中で今最も危険な推測を京矢は口に出す。

「アイツら、もしかしたら、あの怪獣、最初から何一つ制御なんてしてないんじゃ無いか?」

『え?』

京矢の言葉に我が耳を疑う一同。
デスボーンが最初から制御していないのなら、最初から奴らの狙いは一つだ。何らかの方法で誘導して行けば良い。そうすれば誘導されたデスボーンが勝手に歩き回って村や町を踏み潰してくれる。
そして、それをやるのに最も簡単な方法は一つ存在している。
適当に攻撃をして怒らせれば良い。そうすればデスボーンは怒って追いかけていく。しかも、攻撃まですれば側から見れば操っている様に見えるだろう。
しかも、通行先にいる者達も黙って潰されるわけがなく、当然迎撃に動くだろう。そうすればデスボーンは勝手に反撃する。

京矢の言葉にそのことに考えがいたり、急いで光輝を止めようとした雫だが、すでにそこに光輝の姿は無かった。

「|まだだ《限界突破》!!!」

町の外にいるデスボーンに対して、一番高い櫓の上に立ち、限界突破で力を上乗せし、神威の詠唱に入っている光輝の姿にこの先の未来が想像できた。

「神威!!!」

光輝の放った光の奔流が、何かを探す様にキョロキョロとしていたデスボーンの巨体に当たる。
多分、何処かのマルチバースの中で光の巨人と戦っていた所を急に呼び出されたのだろう。
このデスボーンと戦っていたウルトラマンも驚いているはずだ。
そんな中、光輝の放った神威がデスボーンの体に無防備に直撃する。

「良し、入った!」

あの巨大だ、効きはしても一撃では無理だろう。だが、完全に倒し切るまで何度でも放つと言う決意を見せる光輝だが、

「……(ポリポリ)」

当たった所が痒かったのか器用に鎌のような腕で掻いている。








「……せめて急所狙う程度はしろよな……」

そんなデスボーンの様子に京矢は呆れたように呟く。一応属性的には効いたのだろうが、巨大な象を相手に針を武器に戦いを挑む様なものだ。

「指揮官から見てどうなんだ?」

「アバン流の技を扱ってみてよく分かる。ありゃ、半ば魔力を垂れ流しにしている様なモンだな」

エンタープライズからの問いに先程の光輝の技について問われると京矢はそう返す。
無策にあの巨体に打ち込む上に、撃ち込む場所は急所ですら無い。
ってか、大きさが違いすぎて当のデスボーンには攻撃されたと認識されてもいない様子だ。
同じ勇者の技でもアバン流の技に比べたら雲泥の差である。

「それはそれで運が良かったのかしら……」

安堵が籠った声で呟く雫。確かに、デスボーンは光輝を無視してくれていて、暴れないのは助かっている。










だが、光輝のその一撃は予想外の効果をもたらしてしまった。

「……(ポリポリ……グサッ)グワァァァァァォア!!!」

力加減を間違えて、掻いていた自分の鎌で体を傷つけてしまった。
その事に怒り狂い元凶であった|光輝《蚊》を見つけ足早に襲いかかってくるデスボーン。

巨大なモンスターのゾンビが襲い掛かる姿に、勇者からの激で己を奮い立たせていた冒険者達に恐怖が走る。
心の支えであった光輝の、勇者の一撃が痒み程度で終わったのだ。

光輝の立った櫓を、ハンマーの様になった腕で粉砕したデスボーンと、吹き飛ばされながらも一応は高いスペックで、急いで櫓から飛び降りることで、逃げる事には成功してハンマーの直撃は免れて気絶程度で済んだ光輝。
そんな勇者の姿を見て逃げ出そうとする冒険者達を掻き分け、京矢とハジメが前に出る。

流石にこの怪獣を放置して街が壊滅してしまっては色々と面倒な上に、デスボーン自体が放置しておく事事態拙い事この上無い怪物だ。

「ディノミーゴ! コブラーゴ! ディメボルケーノ! プテラードン!」

京矢の宣言によって現れた五体の騎士竜達の巨体の体当たりによって町から引き離されるデスボーン。

新たに現れた本来の大きさに戻った5体の騎士竜の姿に町の冒険者達が呆然とする中、二人の元に仲間達が合流する。

「行くぜ、南雲!」

「ああ」

「騎士竜合体!」
「騎士竜変形!」

二人の宣言と共に、翼竜から人型に姿を変えるプテラードンと、人型へと姿を変えながらディメボルケーノを含めた四体で合体するディノミーゴ達。

「嘘だろ……」

目の前で変形する巨大な姿に光輝を助けようとしていた龍太郎が唖然と呟き、地球組が空いた口が塞がらないという様子で見上げていた。

ディノミーゴ側に京矢達が、プテラードン側にハジメ達が乗り込むと、頭部に変形したリュウソウルが装着され、変形と合体を終える。

「「完成!」」

「キシリュウジン、ディメボルケーノ!」

「ヨクリュウオー!」

両肩にキャノン砲を備え、両手に焔を宿した武器のナイトメラメラソードとナイトファンを装備したキシリュウジンディメボルケーノと青い翼を持つヨクリュウオーの二体が並び立つ。
現れた二体の巨大ロボを前にしてもデスボーンは僅かに大きいが、それでも不利な差では無い。











ヨクリュウオーのコックピットの中で初めて巨大ロボに遭遇したミュウは驚きで言葉を失っている。
トータスの巨大ロボ初エンカウント組としてはこんな感じであった。








「きょ、巨人だぁ!!!」

「あ、あれって、帝国が探してるていう巨人に似てないか?」

「羽が生えた青い巨人もいるぞ……」

「巨翼人?」

町の人々は突如現れた超巨大な魔物と二体の巨人の姿に既に大混乱に陥っている。










そして、

「巨大ロボォオオオオオオオオ!?」

「うおおおおおおおおおお! マジか!? 凄え!!! 本物の巨大ロボだぞ、あれ!?」

最早叫ぶのが精一杯という様子の地球組であった。
特撮ヒーローの次は巨大怪獣、トドメとばかりに巨大ロボを呼び出したクラスメイト二人。内心、驚き半分オレ達も乗ってみたいという気持ち半分の男子と驚き100%の女子達だが、最早自分達は本当に現実の中に居るのか疑問に思ってるレベルだ。
立て続けに起こった異世界召喚など問題にもならない超常現象の最たる物が目の前に3体も存在しているのだから当然だろう。

「……変身ヒーローのアイテムとか、巨大ロボとかって、南雲が作ったとか?」

「錬成師だし、できるんじゃ無いのか? ……多分」

「チートだしな」

「錬成師って一番ヤバくねえか?」

そして、クラスメイト達から明後日の方向に向かって誤解されているハジメだった。

なお、櫓から飛び降りた時にデスボーンの攻撃の余波に吹き飛ばされた光輝は頭から樽に突っ込んで気絶していたが、龍太郎以外誰も気にしていなかった。
勇者よりも2体の巨人の方がインパクトが強かったのだろう。

各々の武器を構えてEXタイラント デスボーンに向かっていくキシリュウジンディメボルケーノとヨクリュウオーの動きで、トータスを揺るがす不死の巨獣と鋼の巨人の戦いの火蓋が切って落とされた。

……あんな巨大な化け物を操っていると言う魔人族への物凄い誤解という名の恐怖と共に。
まあ、これに比べたら今後生身の相手には、必死に怪獣を呼び出される前に特攻する者も多々出るだろう。
















???side

彼女、『中村恵里』は目の前に現れたEXタイラント デスボーンを前に恐怖は感じていなかった。……その時までは、

降霊術師の自分ならば、巨大とは言え、動いているとは言え、死体であるデスボーンを操る事も出来るはずだと考えていた。魔人族が兵器と呼んでいる巨大な怪獣を操れれば、と思っている。
そう思って見上げた彼女はデスボーンと目が合った。

「っ!?」

目が合った瞬間、恐怖に縛られる。巨大な大渦の様な怨念の嵐。怨念と言う嵐の憎悪と怒りの大海。
一つではない。数え切れないほどの怨念の集合体の様な物を見た瞬間、恵里の意識が消えてしまいそうになるのを必死に抑える。此処で意識を失ってしまったら、この嵐の中に呑まれて消えてしまう。

「何が……何でこんな化け物が……」

巨大な怪物達の怨念が咆哮を上げて一つに混ざり合っている様な化け物を一瞬でも操ろうと思った事を後悔する。

自分の中にあった降霊術師としての力に心から後悔する。なんでこんな力を持ってしまったのだ、と己の不運を呪う。

こんな思いをするくらいならチートなんて要らなかった。才能なんて要らなかった。無能だった方がマシだった!

目の前に立つのは人々の希望を背負った様な光の巨人。その巨人の放つ光線に全身を焼かれる痛みを覚える。時には切り裂かれ、粉砕され、打ち砕かれる。
理解した。理解してしまった。……それはこの怨念達の憎悪の象徴なのだと。
少しだけの救いが有るとすれば、四体の怪人達と光の巨人に似た黒い奴との記憶だけだ。

「……助けて、光輝くん……」

光は救ってはくれない。ただ敵として怪獣達の記憶と共に自分を傷つける。

其処でふと疑問に思う。

(……何で、僕、光輝くんの事すきになったんだろう?)

剣道をしている姿が似ていたと思ったからだ。幼い日に助けてくれた青年と。
……違う。改めて思い出すと全然似ていない。この記憶の荒波の中でやっとそれを理解できた。間違っていたのだ、光輝と自分を助けてくれた青年が似ていたと言うのは、自分の勘違いだと。

車に轢かれそうになった自分を助けてくれた青年。今の自分達と同年代くらいの木刀を持った赤い髪の青年だった。
弟なのか自分と同じ歳くらいの少年に剣道を教えている姿を声を掛けれずに見ていることしか出来なかった。そして、お礼を言う前に彼は姿を消した。

彼女、恵里にとっての初恋の相手は間違いなくその青年だった。

(……そうだ)

今の京矢に彼の姿は被る。……似ているのだ、彼女が出会った『蓬莱寺京一』と京矢は。

それは間違いなく正しい。彼女を助けたのは京矢が一時的に呼び出した蓬莱寺京一なのだから。

だから、幼い日の思い出故の間違いか、怨念の嵐の中に力尽き、憎悪の海に溶けそうになる意識の中で、諦めそうになる。

己の間違いに気付いてしまった。何であんなものを欲しがったのだろうか? 本来は欲すべき相手は別にいたと言うのに。
もっと早く間違いに気づいていればもっと違う結果になると思ったのに。

「……たすけて……おかあさん……おとうさん……」

手を伸ばすが余りにも周りの憎悪と怨念は強すぎる。無限にも等しい怨念が、愚かにも自分を操ろうとした少女の意識を飲み込もうとする。

「たすけて……きょうやくん……」

間違わなければ欲していたであろう相手の名を呼ぶ。助けてくれるわけがない。迷宮で自分を助けてくれたのはただの序でだ。
彼にとって自分はその程度の価値しかないとは分かっている。長い勘違いは取り返しのつかない失敗となった。

間違わなければ自分の人生は変わっていただろうと思う。だけど、もう遅い。後悔を抱えながら、こんな所で意識は、自我は消えていくしかない。

自分を噛み砕こうと迫る巨大な怨念が、





彼女の前で砕け散ると、その意識は現実に戻る。









「大丈夫じゃなさそうだな、中村」

倒れそうになる恵理の体を支えながら駆け寄ってきた鈴に彼女を預ける。
全身から真夏の様に汗を流しているのに、体はガタガタと真冬に薄着で立っている様に震えている。立っている力もない。支えを失えば倒れてしまうだけだろう。

降霊術師の力で操れると思ってしまった結果、デスボーンの怨念の欠片を引き寄せてしまったと推測し、とっさに霊剣の応用で彼女を飲み込もうとしていた怨念を砕いたが、間に合った様だ。

そうして京矢はデスボーンへと向かって行く。

(あは……あははは……そうだったんだ、僕の王子様は……本当に好きな人は……本当は)

手を伸ばしたくても力が入らないが、初めて自覚した。

(京矢くんだったんだ……)

彼女はそう確信を持って心の中でそう呟いた。
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