クラスメイト達との再会

京矢の変身したカリバーを強敵と認識したのか、四人のダークネスは素早くカリバーを取り囲む。

カリバーは自然体で暗黒剣月闇を構えながら、己の周囲を囲むダークネス達を一瞥する。

(ウルトラマンのダークネスか。こんな物まで用意しているなんてな)

横目で見れば、残りの雑兵のトリロバイトマギアと魔物はバルカンに変身したハジメが圧倒している。
今のところ、強化形態のアサルトウルフやランページバルカン、ローンウルフには変身できないが、魔物や雑兵程度を相手にするのなら十分な相手だろう。

いつの間にかガンブレードの龍弾破刃も取り出して2丁拳銃で戦っているのだから、結構気に入ったのだろう。
京矢もガンブレードは一種のロマン武器、好きな部類に入る。

ハジメの方は問題なさそうなのでダークネス達の方へと意識を戻すと、
ゼロスラッガーを両手で構えるゼロダークネス、
ダークネスカリバーを構えるオーブダークネス、
ジードクローを構えるジードダークネス、
ダークゴモラアーマーを装着しているエックスダークネス、
その4体の姿が目に入る。

既に臨戦体制でコチラの様子を伺っているダークネス達に仮面の奥で笑みを浮かべ、

「おいおい、どうした、来ないのか?」

そんなダークネス達を挑発する様に告げる京矢の言葉に反応した訳では無いだろうが、先ずはオーブダークネスが先陣を切る。

己に向かって奮われたダークネスカリバーをカリバーは暗黒剣月闇で弾き、常に動きながらオーブダークネスと剣戟を交わし合う。
数の上では四対一と不利な状況では、剣を受け止めるのも立ち止まるのも他の三体からの攻撃を無防備に受けることに繋がるのだ。

残りの三体のダークネスに対して無防備な姿を晒す事、一瞬でも足を止めるのは、危険と判断し、動き回りながらの戦闘を続ける事を決める。

「っ!? 旋!」

ジードダークネスとエックスダークネスの動きに気付き、暗黒剣月闇を地面に突き刺し、月闇から放った剣掌・旋により自身の周囲に、闇の斬撃波を混ぜた竜巻を放つ。

闇の竜巻に包まれた事で、オーブダークネスと同様に襲い掛かろうとしていたジードダークネスとエックスダークネスがオーブダークネスと共にカリバーから離れ、一瞬動きを止める。

だが、そんな僅かな隙も与えずに動いたのはゼロダークネスだ。両手に構えたスラッガーをカリバーに向けて投げ付け自身もカリバーへと襲いかかる。

とっさに時間差で襲い掛かる2本のスラッガーを後ろに飛んで避ける。次の瞬間には、先程までカリバーの立っていた場所に土煙が舞う。
そこに出来たクレーターの中に佇むゼロダークネスは両手にスラッガーを構えて、弾丸よりも早くカリバーへと襲いかかる。

オリジナルのウルトラマンゼロを彷彿とさせる宇宙拳法の拳撃と蹴撃の嵐がカリバーを襲う。

「ふっ!」

カリバーが弾き、交わした乱撃の嵐がダンジョンに破壊の跡を刻んで行く。流石はあのウルトラマンゼロのダークネスと言った所か、防いで仕舞えば逆に暗黒剣月闇を弾かれ、カリバーの装甲さえも貫いて即死しかねない。





「嘘だろ……?」

「あいつ、今まで全然本気じゃなかったのかよ?」

時に防ぎ、時に大きく避ける事で対処した一撃はカリバーを外れて、ゼロダークネスの拳撃が、蹴撃が、大迷宮に破壊の痕を刻んでいく中、一瞬でも判断を誤れば命は無いであろう破壊の嵐を正確に捌いていく。
最初の飛び蹴りの破壊力もそうだが、その一撃一撃が鋼鉄の鎧など紙屑同然処ろか、無いにも等しいであろう破壊の嵐。永山も龍太郎も己が相手をしていた者の真の恐ろしさを嫌でも理解してしまう。

自分の技能と防御力を過信して真正面から先程の飛び蹴りを受けて粉々になる姿を、連撃に対抗して破壊の嵐に飲み込まれる己の姿を、永山も龍太郎も幻視してしまう。
異世界から召喚された勇者だと言われても、この世界に来て手に入れたチートな力も、たった一人の敵を相手に成す術もなく蹂躙される未来しか想像出来ない。
召喚された自分達よりも遥かに恐ろしい敵が目の前に存在していて、それが特撮ヒーローの姿をしているのはどう言う冗談だと言う疑問さえ湧く。
そして、それと互角に渡り合っている京矢も、魔物も兵士もたった一人で蹂躙しているハジメも、特撮ヒーローに変身しているのは、今の自分達が見ているのは、本当に現実なのだろうかとも思ってしまう。

ゼロダークネスの蹴りを暗黒剣月闇で弾き距離を取ると、ゼロダークネスは額のランプから光線を放つ。
それを避けると今度は自分の番だとでも言う様にカリバーはゼロダークネスとの距離を詰める。

「剣掌!」

斬撃波を乗せた剣掌・発勁を放つカリバーだが、ゼロダークネスの前にダークネスゼットンアーマーを纏ったエックスダークネスが立ち塞がり、発生させたバリアで発勁を防ぎ、そのエックスダークネスの肩を踏み台として飛び越える様に現れたジードダークネスがジードクローで斬りつける。

不意打ちの形となったジードダークネスの一撃。
カリバーがジードダークネスの攻撃を防ぐと直ぐにジードダークネスはカリバーから離れ、それに合わせる様にオーブダークネスの放った火の輪がカリバーへと襲いかかる。

「ふっ!」

カリバーが闇の力を纏わせて火の輪を切り捨てると、今度はジードダークネスとゼロダークネスが左右から同時に襲いかかってくる。

(エックスダークネスは防御、他の三体が連携して来るのが二体、残りの一体がこっちの反撃の好機を殺しに来る、か)

相手の動きから京矢はそう推測する。常にニ対一で襲い掛かり数の上で常に優位に立ち、その上で恭弥が無理矢理にでも反撃のチャンスを作ろうとした瞬間、残りの一体がそれを潰し、エックスダークネスがダークネスゼットンアーマーの防御力で最悪の場合の防御に努めるという訳だ。

攻撃と防御に完全に割り振られた連携。しかも、三体の役割を常に交代する事で連携に変化をつけて、京矢に動きを見切る事を許さない。

(……だったら、先ずはその連携を崩させて貰うか)

どうやってダークネスを作り出したのかは分からないが、それでも分かることは一つだけある。
エックスダークネスのアーマーに対して、京矢には付け入る隙があるという事だ。

そう考えながらゼロダークネスとジードダークネスから離れると、カリバーはロボライダーのライドウォッチを取り出し、



《b》『《color:#ffa500》ロボライダー!《/color》』《/b》



そのライドウォッチを起動させる。
ロボライダーのウォッチの力、いや、ロボライダーの力は何も単純な攻撃だけではない。

カリバーがロボライダーウォッチを起動させると、エックスダークネスが何かに操られるようにオーブダークネスへと襲いかかる。

ロボライダーのウォッチの力は、その戦闘力を宿したアーマーの召喚と装着、必殺技の使用、そして、機械文明のないトータスでは意味のない能力だった機械の操作だ。
ハジメのアーティファクトは魔法技術での再現である上に、味方である為に今までは使う機会は訪れなかった。

だが、今回は違う。エックスダークネス本体は兎も角、その身に纏うサイバーアーマーを操ることは十分に可能だと推測したのだ。
京矢の推測は正しく、エックスダークネスの纏うダークネスゼットンアーマーのコントロールを奪うことに成功した。それでも、本体の意識があるためにそう長くは使えないだろう。

だが、その一瞬が有れば十分だ。

その僅かな隙を逃さず、カリバーは襲い掛かるジードダークネスの肩を蹴って飛び越え、エックスダークネスに押さえ込ませたオーブダークネスへと向かう。

その際にジャアクドラゴンのワンダーライドブックを、素早く暗黒剣月闇に読み込ませる。



必殺リード! ジャアクドラゴン!
月闇必殺撃!
習得一閃!



暗黒剣月闇が紫色の光に包まれ、闇の魔剣を用いて、その技を使う。

「ブラッディ、スクライドォ!!!」

カリバーの放つ紫色の光の竜巻きがオーブダークネスとゼットンアーマーを解除してカリバーのコントロールから逃れたエックスダークネスを飲み込んでいく。

血払いをするように月闇を振るい二体のダークネスに背中を向けると、そのまま二体は爆散し、オーブダークネスのダークネスカリバーが墓標の様に突き刺さる。

その光景に言葉を失うクラスメイト達と魔人族の女。あのダークネス達の強さは彼女の連れていた魔物達の比ではない。それがわかって居るからこそ、一人で二体を倒してしまった京矢の姿に言葉さえも失ってしまう。

爆散した二体から、何かが飛んで来たのに気付きそれを受け止める。カリバーが手に取ったのはオーブダークネスの描かれたアルターライドブックとエックスダークネスと書かれた黒いプラグライズキー。

カリバーが手にとった瞬間、虹色の光と共にアルターライドブックはウルトラマンオーブのワンダーライドブックに変わり、プラグライズキーはウルトラマンエックスと書かれた銀色のプラグライズキーへと変わる。

「こいつがダークネス達の核だったって事か? こいつは良いな。んじゃ、早速、使わせて貰うか」

ゼロダークネスとジードダークネスへと意識を向けると、オーブワンダーライドブックを3回読み込ませる。



必殺リード! ジャアクオーブ!
月闇必殺撃!
習得三閃!



炎、水、風、土のエレメントが暗黒剣月闇に宿り、円を書くように振るうと、彼を中心にオーブカリバーの幻影が現れる。

「オーブ! エレメントカリバー!」

カリバーが暗黒剣月闇を上段から振り下ろすと同時に幻影のオーブカリバーから四つのエレメントが闇の斬撃破と共に放たれる。

咄嗟にそれを相殺すべく光線技を放つゼロダークネスとジードダークネスだが、相殺したものの、爆発に吹き飛ばされる。

そして、ハジメの方へと視線を向ける。既にトリロバイトマギア達は全滅させていた様子だ。

「おーい、南雲、コイツらへの、トドメ一緒にどうだ?」

「お前が倒すんじゃなかったのか?」

「歯応えある奴等を譲ってもらったんだ。最後くらいは、と思ったけどオレが倒していいのか?」

「有り難くやらせて貰うよ。こっちは歯応えが無くて退屈してた所だ」

既に魔物とトリロバイトマギアを片付けたバルカンを一瞥すると、そう言葉を交わし、先程手に入れたエックスプラグライズキーを投げ渡す。

再びライドブックを読み込ませるカリバーと、ショットライザーのプラグライズキーを入れ替えキー側のスイッチを押すバルカン。



必殺リード! ジャアクオーブ!
月闇必殺撃!
習得三閃!



「《b》オーブ! スプリーム……ストラッシュ!《/b》」



《b》ザ《/b》
《b》ナ《/b》
《b》デ《/b》
《b》ィ《/b》
《b》ウ《/b》
《b》ム《/b》
《b》エックスブラスト《/b》





カリバーの放つ極光の斬撃と、バルカンの放つ光の砲撃がゼロダークネスとジードダークネスを飲み込み、その姿を爆散させる。ゆっくりとそれに背を向ける二人の仮面ライダーの手には虹色の輝きを放ちジードワンダーライドブックとゼロプラグライズキーが収まるのだった。













たった4体で、自分が敬愛する上司より与えられた千の魔物達の軍勢よりも遥かに強かった四体のダークネス達が倒される様を信じられないと言う顔で見ていた魔人族の女は、我に還るとそのままと逃走のために温存しておいた魔法をカリバーとバルカンに向かって放ち、全力で四つある出口の一つに向かって走った。

たった四体で己の生み出した千の魔物の軍勢を蹂躙する様に言葉を失う上司だったが、その言葉さえ出てこない強さとその雄々しささえ感じる様には、魔人族の勝利を確信させていた。
そんな、ダークネス達が倒される姿は魔人族の女がその場から逃げると言う選択をさせるのに十分過ぎるほどの現実だった。

二人のいる場所に放たれたのは〝落牢〟だ。それが、彼等の直ぐ傍で破裂し、石化の煙が二人を包み込んだ。

が、それは直ぐに霧散する事となる。カリバーが振ったのは何時の間にか取り出していたテン・コマンドメンツの封印の剣、ルーンセイヴ。魔力を無力化する剣から放つ竜巻は封印の力さえ宿し、飲み込んだ煙を無力な物へと変換していた。

そして、片手に握る暗黒剣月闇を前方の空間へと振るうとカリバーの姿が消える。

「はは……既に詰みだったわけだ」

「そう言う事だな」

魔人族の女の目の前、彼女へと暗黒剣月闇を突き付けるカリバーの姿があった。乾いた笑いと共に、ずっと前、きっと京矢の警告を聞かずに攻撃を仕掛けてしまった時から既にチェックメイトをかけられていたことに今更ながらに気がつき、思わず乾いた笑い声を上げる魔人族の女。
なんて事はない、己が助かる最後のチャンスは、自分で投げ捨ててしまっていたのだ。

魔人族の女が、今度こそ瞳に諦めを宿して自身へと暗黒剣月闇を突き付けるカリバーを眺めて居ると歩み寄ってくるバルカンの姿が見えた。

「……ったく、この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた達、本当に人間?」

「一応、人間のカテゴリーだぜ。まっ、地球人とトータス人って分けたら、異世界人の方が正しいか?」

「俺は、自分でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」

各々の返しを魔人族の女に返す二人。バルカンはショットライザーの銃口をスっと魔人族の女に照準する。剣と銃、眼前に突きつけられた二つの死に対して、魔人族の女は死期を悟ったような澄んだ眼差しを向けた。

「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは? と聞くんだろうが……生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか……それと、あの魔物を何処で手に入れたのか……吐いてもらおうか?」

「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」

嘲笑するように鼻を鳴らした魔人族の女に、ハジメはバルカンの仮面の奥で冷めた眼差しを返した。
そして、何の躊躇いもなくショットライザーを発砲しようとするが、カリバーが手を翳してそれを止める。

「聞くまでもないだろ? 魔物は魔人族の勢力下の神代魔法。ここに来た目的も此処に有る神代魔法、それだろ?」

「序でに此処にそれを目的に来たなら無駄足だったな。正規のルートじゃ、此処は最後に攻略を推奨される場所だ。入る事も出来ないだろうし、裏道つかって無理に入っても食糧不足で餓死するのがオチだ」

「は?」

カリバーから話されるネタバレに思わず唖然とする魔人族の女。

「この先……後戻りできない百階層がもう一つだぜ。その装備だと、途中で食糧不足で餓死って言うのがオチだろ」

そんな事を告げて居るカリバーの足元に上半身だけのトリロバイトマギアが二体、ゆっくりと這いずってくる。
その姿に気が付いたバルカンがその二体の頭を撃ち抜く。

「悪い、二体ほどまだ生きて……っ!?」

「ああ、サンキュ……っ!?」

バルカンの銃撃が頭を撃ち抜いた際に、頭部の装甲も吹き飛び、その中にある顔も露わになり、その顔に思わず二人は言葉を失う。

「……檜山?」

「……どうなってんだ?」

ゾンビの様な檜山の顔は直ぐに消えて人形の様な物に戻るが、先程のアレは間違いなく、檜山のものだった。

「あの兵士達の様な人型と違って、魔物達は、神代魔法の産物……図星みたいだな。なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか……とすると、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか……」

「どうして……まさか……」

バルカンが口にした推測の尽くが図星だったようで、悔しそうに表情を歪める魔人族の女は、どうしてそこまで分かるのかと疑問を抱き、そして一つの可能性に思い至る。その表情を見て、バルカンは、魔人族の女が、彼等もまた大迷宮の攻略者であると推測した事に気がつき、無言で返す事で「正解」と伝えてやった。

「なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……」

「……もう一つ聞く、あの兵士達を待ってきた奴らは何だ? 何時からお前達の所にいる?」

「あいつらの事かい? ……そう言えば、何時からアイツらは……わからない? 何で……?」

奴等の連れてきていた無限に量産できる兵士と、強力だが数は限られるダークネスの説明をされた時のことは覚えている。だが、奴等が何時から魔人族の側に居たのか、思い出せない。
頭痛を堪える様に頭を抱えるが、突然頭が真っ白になる様な、浮かんでいた疑問が消え、頭が空っぽになる様な感覚を覚える。

「もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」

頭が軽くなってからは、捕虜にされるくらいならば、どんな手を使っても自殺してやると魔人族の女の表情が物語っていた。そして、だからこそ、出来ることなら戦いの果てに死にたいとも。
ハジメとしては神代魔法と攻略者が別にいるという情報を聞けたが、敵側の仮面ライダー達の情報は聞けないだろうと判断する。

ウルの町での巨大ロボに、アナザーライダー、トリロバイトマギア、そしてダークネス。この分ならマギアや他の怪人達が居ても不思議ではない。それは、どれ一つとってもトータスの人間族を滅ぼすには十分過ぎる戦力だ。

カリバーはそう考えると暗黒剣月闇を振り上げる。俺がやると言う意志を感じたのか、バルカンはショットライザーを下ろす。

「最後の情けだ。痛みを感じる間も与えない」

「……感謝するよ」

魔人族の女は、カリバーの言葉に楽に逝けそうだと思いながらも、道半ばで逝くことの腹いせに、負け惜しみと分かりながら二人に言葉をぶつけた。

「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

その言葉に、二人は仮面の奥で口元を歪めて不敵な笑みを浮かべる。

「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺達には届かない」

「そいつがデボネアレベルの怪物なら、俺達も危ないだろうが、それ以下の奴に負ける気はねえよ」

互いにもう話すことはないと口を閉じ、カリバーは、暗黒剣月闇を魔人族の女の首筋と垂直に振り上げる。

しかし、いざ剣を振り下ろすという瞬間、大声で制止がかかる。

「待て! 待つんだ、南雲! 鳳凰寺! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」

「……」

「……」

「……」

京矢は、暗黒剣月闇を振り上げたまま、「何言ってんだ、アイツ?」と訝しそうな表情をして肩越しに振り返った。見ればバルカンも魔人族の女も同じ表情をして振り返った。敵味方の意識が妙な所で一致してしまい、思わず目を合わせてしまう。
光輝は、そんな事を思われてるとも知らず、フラフラしながらも少し回復したようで何とか立ち上がると、更に声を張り上げた。

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も、鳳凰寺も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

こいつマジで何言ってるんだと言う表情で魔人族の女を見てみると同じ顔をして居るのが分かる。……っと言うより、仲間などと言われている事に本気で殴りたくなる。

「で、あの阿保勇者はあんな寝言言ってるけどどうする? 王国か聖教会送りだろうけど?」

『仲間扱いするんじゃねえよ』と思いながら、そう問いかける。

聖教教会では魔人族は神敵とされ、魔物と同様、基本人間扱いされていない。
それは敵対しているわけでもない亜人族であるシアへの騎士達の態度から想像がつく。良くて処刑、まだマシで拷問。最悪はどうなるかは、想像するだけでも哀れだ。
はっきり言って、光輝は自分が魔人族の女にとって、どれだけ残酷なことを言っているのか理解できていない。

捕虜とした場合の彼女の身に起こることが容易く想像できたが、一応相手の希望を聞いてみる。

「この悪魔め……あたしをそんなに辱めたいのかい。そんなことになるならここで死んだほうがましだよ」

「だろうな。首も晒されない様にしてやるから安心しな」

「重ね重ね、その情けに感謝するよ」

「止めっ……っ!?」

何故殺そうとするカリバーに感謝して、助けようとする自分を侮蔑するのか分かっていない光輝を他所に、カリバーの振り下ろした闇の聖剣の一太刀が首を切り裂く。

首を切り裂かれた女はカリバーの情けに感謝する様な表情を浮かべ、鮮血が舞いながら、首と胴が分かれるよりも先にその体は消えて行った。
暗黒剣月闇の力で闇の世界に、その屍を送ったのだ。死後も辱めを受ける事がない様に、と。

後は、魔人族の領域に向かう途中で、故郷の地に埋めてやるなりすれば良いだろう。簡単だが墓は作っておこうと思う。

「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか……」

そう呟く光輝に呆れではなく、侮蔑の視線を向ける。
己の罪を、己が他のクラスメイト達を巻き込んでしまった事を、何も理解していない事に心底怒りを覚える。

偽装とは言え目の前で死を見せつけたと言うのに、コイツは何も理解していない、と。
怒りの感情が最早スッカリ冷めてしまった。嫌悪の感情すらも、もう湧かない。

光輝に対する感情が完全に失せた京矢は、変身を解除するとハジメと共にディノミーゴ達に守られて居る、クラスメイト達の元へと向かった。

***

「シア、メルドの容態はどうだ?」

「危なかったです。あと少し遅ければ助かりませんでした。……指示通り〝神水〟を使っておきましたけど……良かったのですか?」

「ああ、この人には、それなりに世話になったんだ。それに、メルドが抜ける穴は、色んな意味で大きすぎる」

「ああ、勇者パーティーの教育係に変なのがついても困るからな。まっ、あの様子じゃ、メルドさんもきちんと教育しきれていない所も有るようだけど……人格者であることに間違いはねえしな。死なせるにはいろんな意味で惜しい人だ」

変身を解除した京矢とハジメは、龍太郎に支えられつつクラスメイト達と共に歩み寄ってくる光輝が、2人を睨みつけているのをチラリと見ながら、シアに、メルドへの神水の使用許可を出した理由を話した。
ちなみに、〝変なの〟とは、例えば、聖教教会のイシュタルのような人物のことである。

(まあ、善人なのが仇になって、大事な事を教えられないか……。自分達の戦争に部外者を巻き込んだっていう自覚がある分、な)

京矢はそうメルドの内心を推測していた。死刑囚なり、盗賊なりの相手に対人の訓練や、その先にある人を殺す訓練をさせていた様子がない為に、だ。
それでも、それは昨日まで平和に暮らしていた者達を、無関係な自分達の戦争に巻き込んだ事に対する負い目も有るのだろう。
まあ、そうなると京矢の怒りが向くのは主にのうのうと安全な所にいる王族と貴族になる。
問答無用で一発国王の顔面を全力で殴り飛ばしたくなる思いだ。……バールクスのロボライダーアーマーで。並の怪人でも辞めてくれと懇願してくるだろうが、キシリュウジンで殴らないだけ情けがあると思えと言いたい心境なのだ。

そんな危険思想を切り辞めて、機会があれば王城の物理的な転覆でも実行に移すかと思いつつ、いつも通り2人の世界を作ってるハジメとユエに呆れ、此方を睨んでいる光輝に『誰だよ、あの面倒なの回復させたのは?』と思いたくなる。死んで無いなら、あのまま気絶でもさせておけば静かだったと言うのに。

「おい、鳳凰寺。なぜ、彼女を……」

「ハジメくん……いろいろ聞きたい事はあるんだけど、取り敢えずメルドさんはどうなったの? 見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに……」

京矢をを問い詰めようとした光輝の言葉を遮って、香織が、真剣な表情でメルドの傍に膝を突き、詳しく容態を確かめながらハジメに尋ねた。

ハジメは、一瞬、自分に向けられた香織の視線に肝が冷えるような感覚を味わったが、気のせいだと思うことにして、香織の疑問に答えることにした。

「ああ、それな……ちょっと特別な薬を使ったんだよ。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒するって代物だ」

「そ、そんな薬、聞いたことないよ?」

「そりゃ、伝説になってるくらいだしな……普通は手に入らない」

「取り巻きの女、回復魔法じゃ間に合わないって奴がいたら教えろ、数人分位なら融通できる」

「え、ええ……ありがとう」

そんな薬を数人分も簡単に渡せる京矢の表情に、最低限の義理は果たしたと言う意思を感じた雫は背筋が寒くなるのを感じる。

「おい、南雲、鳳凰寺、メルドさんの事は礼を言うが、なぜ、かの……」

「ハジメくん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達のことも……助けてくれてありがとう」

また二人に話しかけようとする光輝を香織が遮る。香織は完全に光輝を意識していない。

ハジメに歩みよる香織はグッと込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた。
嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように片時も目を離さない。ハジメは、そんな香織を静かに見返している。

「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

目の前で顔をくしゃくしゃにして泣く香織に対して、ハジメは何とも言えない表情をしている。
愛子から聞いた通り、どうやら相当張りつめていたらしい。

ハジメが泣いている香織をなだめようとあたふたしているが、その対応に益々感極まってしまい、とうとうハジメの胸に飛び込んでしまう。京矢は後ろでじっと香織とハジメを見つめるユエに気付くが見なかったことにした。

「……ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲も鳳凰寺も無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、二人から離れた方がいい」

クラスメイトの一部から「お前、空気読めよ!」という非難の眼差しが光輝に飛んだ。
この期に及んで、この男は、まだ香織の気持ちに気がつかないらしい。
何処かハジメを責めるように睨みながら、ハジメに寄り添う香織を引き離そうとしている。単に、香織と触れ合っている事が気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか……あるいはその両方かもしれない。

「空気読めよ、阿保」

そして、そんな中で誰も口に出さない事を光輝に告げる京矢の姿も何時も通りだが、何時もならばそれに噛み付くであろう龍太郎が何も言えなくなる冷たさが含んだ言葉だ。
なお、檜山の取り巻きだった小悪党達はそんな京矢と光輝を交互に見てどちらに着こうか考えて居る様子だ。

「まったく、この阿保はこの期に及んで何も分かってないんだな」

「…………ごめんなさい」

「……」

謝罪する雫に対して、京矢はお前の謝罪なんて価値はないと言う冷たい視線を向ける。

「ちょっと、光輝! 二人は、私達を助けてくれたのよ? そんな言い方はないでしょう?」

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。彼等がしたことは許されることじゃない」

「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」

「……寝言言ってんじゃねえよ、阿保」

誰にも口を挟ませない様な冷たい言葉が京矢から告げられた。
ハジメ位は口を挟めそうだが、流石に今の友人に口を出すのは止めて居る様子だ。

「これが、お前が全員を巻き込んだ事なんだよ。本来なら、お前がやらなきゃならねえ事なんだよ!」

「巫山戯る「巫山戯てるのは、テメェだ!」……」

そんな京矢に対しての反論も許さず、京矢はさらに言葉を続ける。

「魔人族との戦争は異世界からの侵略じゃ無い、宇宙からの侵略者でもない。勧善懲悪じゃない! 国と国の、この世界の戦争だ。オレ達は戦争の為に呼び出されたんだよ。お前はそれにクラスメイトを巻き込んでんだよ! 『俺が守る』なんて、寝言でな! それをお前は、何がオレが守るだ? お前は何も守る気が無いくせに何言ってんだ?」

「オ、オレは皆んなを守ろうと「じゃあ、何で一緒に戦おうなんて、他の連中を誘ったんだ?」……そ、それは……」

「守る気が有るなら、あの場で自分だけが戦う。お前達は戦うな。そう言えばそれで良かった筈だ、違うのか?」

「は、話をすり替えるな、オレはお前が彼女を……」

「一応は人間族側のオレが、戦争の相手の魔人族を殺して何が悪い? 魔物を殺すのと何が違う? まあ、確かに、戦争が終わって敗戦国になったら罪人だろうが、戦争中なんざ、大量に殺せば、『英雄』だ」

龍太郎はそんな京矢に掴みかかろうとするが、殺意のこもった視線だけで怯んでしまう。
ハジメもそんな京矢の姿に『流石、異世界2回の上に世界を4回も救った奴の言うことは違うな』と内心で感心して居る。

「そ、それでも、捕虜にすれば……」

「そうなった時の末路もあの女は理解していたんだろう? だから、オレはそうなる前に楽にしてやった。当人もオレに感謝していて、お前は罵られた。そんな事も理解できないのか?」

「オ、オレからイシュタルさんに進言すれば……」

「お前には、ちゃんと丁重に扱ってると言って、裏じゃオレや当人の想像通りの末路だろうな? 毎日毎日直接確認する訳でもないんだろ? 死んだら、その時は自害したとでも言えば良いだろうしな」

「うっ……」

「何だったら地上に帰って、オレが魔人族を殺した人殺しだとでも糾弾でもするか? 良いぜ、好きにしろ。頭のおかしい狂人に見られるのは、お前だ、阿保」

そう言い放った後、ゆっくりとメルドを指さすと、

「メルドさんだって、魔人族を殺して居る筈だし、何より認める気もないが、お前は勇者……確実に一人は殺さなきゃならないだろ?」

「そんな事、ある訳ないだろう! オレは……」

「魔王を殺さない勇者が何処にいる? 綺麗な言葉で飾ろうが勇者の役目は魔王を殺す事だ。魔王を殺す為の暗殺者、それが勇者だ」

その言葉に『考えてもいなかった』と言う顔で押し黙る光輝にため息を吐き、

「結局のところ、勝手にお前は全員を巻き込んで、やるべき事も出来ず、変わりにそれをやってやったオレ達を、お前の世界にあり得ない事を起こしたから責めてるだけだ」

そして、再度大きくため息を吐くと心底呆れたと言う様子で、

「何よりタチが悪いのは、お前自身にゃ、その自覚がないことだ。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」

これ以上反論されるのも面倒と思ったのか、首を掴み上げ、静かに……だが、全員に聞こえるようにはっきりとした声で、

「要するに、人を殺す覚悟ができていないのに、殺し合い前提の戦場に立つんじゃねえよ」

非殺傷設定がある魔導師の戦闘でも、シグナム達が殺す気が有れば死人は出ていただろう。
セフィーロの時も、京矢の介入で助けられた者も居たが、最終的には1組の恋人達は犠牲にするしか無かった。二度目の戦いでも犠牲者は出てしまった。……何より、それをしてしまった事で、生み出された少女と、自分自身を強く嫌った少女を知って居る。

だからこそ、そんな最悪の体験に、そんな事も考えすらせずに、全員を巻き込んだ挙句、それを成すべき状況で寝言を言っている光輝に対して、既に怒りさえ湧かない。

言うだけ言うと無言で光輝を投げ捨て、クラスメイト達を一瞥する。

「で、くだらない事でこれ以上時間を無駄にする気は無い。他にも敵は居るんだろ?」

そう言われて、他にも六人も特撮ヒーローがいた事を思い出すクラスメイト達。後から追いかけてくるかもしれないと思うと顔が青くなる。

「まあ、仲間として認められないとか、この阿保が言いそうだけどな。この阿保の仲間なんて、こっちから願い下げだ。寧ろ、認めないなら、その事だけは感謝してやるよ」

そう言うとクラスメイト達を一瞥し、『さっさと行くぞ』と目で訴えかける。慌てて動き出そうとする一行を他所に、まだ動かないであろうメルドに肩を貸してディノミーゴの背に乗せると、

「ああ、そう言えば、取り巻きの女。武器が無かったな」

「え、ええ」

「なら、これをやるから、予備の武器に使え、最低限自分の身は守れ」

そう言って差し出すのは、ハジメと共に徹夜での仮面ライダーアギト視聴マラソン明けのテンションで作った京矢監修の一本の刀。

深夜テンションで回したガチャ産の金属を使った記憶があるが、その刀に使った金属の事は、完成直後にベルファストによって強制的に眠らされたので覚えてないが、作ったことだけは覚えている。その後は試し斬りもせずに京矢が普通の刀と思ってしまっていた。

なお、深夜テンションの直後の制作からの強制睡眠で使ったアイテムは覚えていないが、ここでそれを語っておこう。

重ねて言おう。二人は普通の金属と思っているし、精々ミスリルか斬鉄剣と同じ金属とも思っているが、そうではない。




オリハルコン(ドラゴンクエスト)




で、ある。何気にⅢやロトの紋章の王者の剣と同じ材料であったりする。
まあ、刀身だけで握りや鞘は普通のものだし、一応特殊な能力など持ってないので、精々が物凄く切れる程度の刀だが、刀身だけならばフルパワーの勇者ダイの力も受け止められるだけの強度はある。

敢えてこう言おう。深夜テンションで錬成師の本領を発揮しすぎで有るし、ハジメから貰った京矢も気付いていないから死蔵していたが、何気に光輝の聖剣がゴミになりかねない超高性能な剣で有る。

……流石に、そんなゲームお馴染みの伝説の金属など、ハジメも深夜テンションでも無ければ簡単には使えない。どっちにしても金属の塊よりは武具に仕上げた方が良いのだろうが、とんでもない物を使ったことには変わりない。

何も知らずにそんな物を渡してしまった事も問題だが。
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