クラスメイト達との再会
香織に対して義理を果たしに行くと言うことで、ハジメ達は動く事になった。
正直、京矢としては勇者が死ぬ事には別に何とも思わないが、敵側には地球人と思われる仮面ライダー達がいる以上、光輝達は単なる狩の獲物だろう。流石に此処で簡単に死なれて、第二回目の勇者召喚などを行われて、犠牲者を増やす事は避けたいので、助ける事を決めた。
余計な犠牲を増やさない為の生贄として、もう少し光輝達には踊っていて貰いたいのだ。
国の上の連中から無条件で助けるなどと思われない為の伏線として、ロア支部長からの依頼と言う形で纏められたそれを受け、浩介を引き連れて一行は迷宮へと再度足を踏み入れる事となった。
「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」
「向こうも動いてるだろうが、急ぐぞ。……えーと、お前、遠藤? で、良かったか?」
「うわっ、ケツを蹴るなよ! っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ! ってか、鳳凰寺、クラスメイトの名前くらい覚えとけ!」
「やかましい。さくっと行って、一日……いや半日で終わらせるぞ。仕方ないとは言え、ミュウを置いていくんだからな。早く帰らねぇと。ベルファストさん達がいるのは兎も角、変態が一緒にいるというのも心配だし」
「いや、あの二人がいるし、ティオはティオで中身はああでも、そうなってない時は頼りになるんじゃねえか?」
「まあ、変態の監視に二人には残って貰ったから大丈夫だろうな。特にベルファストさんなら」
「ああ、ベルファストなら」
二人からの信頼の厚い完璧メイドのベルファストである。
「……お前、本当に父親やってんのな……しかも、二人ともハーレムまで作ってるし……鳳凰寺なら分かるけど、一体、何がどうなったら、あの南雲がこんなのになるんだよ……」
「お前らがアホかバカなだけだろ?」
「馬鹿言うなよ!?」
迷宮深層に向かって疾走しながら、ハジメの態度や環境についてブツブツと納得いかなさそうに呟く浩介。
強力な助っ人がいるという状況に、少し心の余裕を取り戻したようだ。しゃべる暇があるならもっと速く走れと遅いぞと後ろからつつかれ、敏捷値の高さに関して持っていた自信を粉微塵に砕かれつつ、浩介は親友達の無事を祈った。
「少しペースを上げてくぞ」
「ああ」
「ん」
「はいです」
そして、一番余裕のある京矢が更に加速を早めると浩介の自信が砕ける所か消えていくレベルだった。他のメンバーは普通について行けている。京矢も浩介以外が余力を残して進めるペースを見切って走っているのだろう。最初から道案内程度の役目と切り捨てているので、浩介は目的地についたのなら、倒れても問題はない。
迷宮内も現れる魔物を先頭を走る京矢がすれ違い様に、一瞬でバラバラに切り裂きながらノンストップで進んでいく。
……勇者達にとって幸運だったのは魔人族の女が目を覚ました事だろう。
風魔達がそれを受けて、勇者の始末を彼女に任せ、戦力としてダークネス四体と量産型檜山ギアを彼女に預け、新たに呼び出した量産型檜山ギア達を連れて迷宮の攻略に戻った事で光輝達にも逃げる隙が出来た。
それが光輝達にとって幸運だったと言えるだろう。
だが、それでも数体の魔物と量産型檜山ギアに加えて、四体のダークネスの追撃は彼らにとっての悪夢でしか無かった。
四肢の砕けたメルドを持ったジードダークネス、両手で龍太郎と永山の首を締め上げながら持ち上げているゼロダークネス。そして、光輝の顔を足蹴にしながら手に持つ大剣を首に突きつけているオーブダークネス。
光輝達の敗北を告げる光景が広がっていた。
光輝を挑発する為に瀕死のメルドを使ったが、オーブダークネスは真正面から光輝を倒していた。
今までの戦いが遊びだったと言う様に龍太郎達はゼロダークネスに簡単にねじ伏せられた。
「……それで? 私達に何を望んでいるの? わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」
「ああ、やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃない。もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。ほら、前回は、勇者君が勝手に全部決めていただろう? 中々、あんたらの中にも優秀な者はいるようだし、だから改めてもう一度ね」
クラスメイトの一人にトドメを刺しているエックスダークネスの肩を叩きながら魔人族の女は雫はと対してそう告げる。
「……私達をどうするつもり?」
「ふふ、聡いね……悪いが、勇者君は生かしておけない。こちら側に来るとは思えないし、説得も無理だろう? 彼は、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない。こいつらの主人も、鬱陶しいから、勇者君は絶対に始末してくれって頼まれていてね」
「……それは、私以外のみんなも一緒でしょう?」
鬱陶しいから始末しろと言っていた事を聞かなかったことにして、言葉を続ける。
「もちろん。後顧の憂いになるってわかっているのに生かしておくわけないだろう?」
「今だけ迎合して、後で裏切るとは思わないのかしら?」
「それも、もちろん思っている。だから、全員に首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」
「私達は自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」
「そうそう。理解が早くて助かるね。そして、勇者君と違って会話が成立するのがいい」
そんな会話を黙って聞いていたクラスメイト達が、不安と恐怖に揺れる瞳で互いに顔を見合わせる。
魔人族の提案に乗らなければ、光輝すら歯が立たなかったダークネス達に襲われ十中八九殺されることになるだろうし、だからといって、魔人族側につけば首輪をつけられ二度と魔人族とは戦えなくなる。
それは、つまり、実質的に〝神の使徒〟ではなくなるということだ。そうなった時、果たして聖教教会は、何とかして帰ってきたものの役に立たなくなった自分達を保護してくるのか……そして、元の世界に帰ることは出来るのか……
だが、同時に希望も残る。
風魔達は最初に出会った時に、地球への移動方法を持っていると教えてくれた。それに、風魔達は自分達と同じ地球人だ、風魔達の下ならそう変な事にはならないだろう。上手くいけば、魔人族の本拠地についてすぐに帰して貰えるかもしれない。
だが、光輝と同じく抹殺対象にされている龍太郎と小悪党一味は後で始末されるか、全線で使い潰されて殺されるかもしれない。
それでも、誘いに乗るべきだという雰囲気になる。死にたくなければ提案を呑むしかないのだ。
しかし、それでも素直にそれを選べないのは、光輝達を見殺しにて、自分達だけ生き残っていいのか? という罪悪感が原因だ。まるで、自分達が光輝達を差し出して生き残るようで踏み切れないのである。
地球に帰る方法があると言う餌を前にしても、だ。
魔人族の女としては光輝にもより強力な首輪を付けて生かしておきたかったが、それでも風魔達の事だから、連れて行っても問答無用に始末する事は目に見えている。だから、見せしめとして利用しようとトドメを刺さずにいた。
他にも始末すると言っていた連中が居るが、其方は特に触れて居なかったので使い潰して始末するなら文句は無いだろうと思っている。
そうで無かったとしても、手駒が少し減るだけだし、何より全裸の連中は見ていて見苦しい。
(……それにしても、何で迷宮の中を裸で潜ってるんだい?)
魔人の女には、そこが心底疑問だった。何故か全裸でダンジョンアタックという異様な光景には流石に、どうリアクションして良いのか分からなかった。
「み、みんな……ダメだ……従うな……」
「光輝!」
「光輝くん!」
「天之河!」
声の主は、オーブダークネスに足蹴にされている光輝だった。仲間達の目が一斉に、光輝の方を向く。
「……騙されてる……アランさん達を……オレ達のクラスメイトを……殺したんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……奴隷にされるぞ……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」
その瞬間何かを踏み砕く様な衝撃音が響く。オーブダークネスが踏み躙っていた足を振り上げ、黙れとでも言う様に光輝の顔を踏みつけたのだ。
そのステータス故に生きてはいるが、それが普通の人間ならば既に頭はトマトの様につぶれていた事だろう。
更に永山と龍太郎の首を締め上げているゼロダークネスの手に力が加わることで二人が苦悶の声をあげる。
***
と、その時、また一つ苦しげな、しかし力強い声が部屋に響き渡る。
小さな声なのに、何故かよく響く低めの声音。戦場にあって、一体何度その声に励まされて支えられてきたか。どんな状況でも的確に判断し、力強く迷いなく発せられる言葉、大きな背中を見せて手本となる姿のなんと頼りになることか。みなが、兄のように、あるいは父のように慕った男。メルドの声が響き渡る。
「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ! ……信じた通りに進め! ……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」
メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなかった。唯の一人の男、メルド・ロギンスの言葉、立場を捨てたメルドの本心。それを晒したのは、これが最後と悟ったからだ。
光輝達が、メルドの名を呟きながらその言葉に目を見開くのと、メルドが全身から光を放ちながらジードダークネスを振り払い、一気に踏み込んで魔人族の女に組み付いたのは同時だった。
「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」
「……それは……へぇ、自爆かい? 潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」
「抜かせ!」
メルドを包む光、一見、光輝の〝限界突破〟のように体から魔力が噴き出しているようにも見えるが、正確には体からではなく、首から下げた宝石のようなものから噴き出しているようだった。
それを見た魔人族の女が、知識にあったのか一瞬で正体を看破し、メルドの行動をいっそ小気味よいと称賛する。
その宝石は、名を〝最後の忠誠〟といい、魔人族の女が言った通り自爆用の魔道具だ。
国や聖教教会の上層の地位にいるものは、当然、それだけ重要な情報も持っている。闇系魔法の中には、ある程度の記憶を読み取るものがあるので、特に、そのような高い地位にあるものが前線に出る場合は、強制的に持たされるのだ。いざという時は、記憶を読み取られないように、敵を巻き込んで自爆しろという意図で。
メルドの、まさに身命を賭した最後の攻撃に、光輝達は悲鳴じみた声音でメルドの名を呼ぶ。
しかし、光輝達に反して、自爆に巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、魔人族の女は一切余裕を失っていなかった。
そして、メルドの持つ〝最後の忠誠〟が一層輝きを増し、まさに発動するという直前に、一言呟いた。
「喰らい尽くせ、アブソド」
と、魔人族の女の声が響いた直後、臨界状態だった〝最後の忠誠〟から溢れ出していた光が猛烈な勢いでその輝きを失っていく。
「なっ!? 何が!」
よく見れば、溢れ出す光はとある方向に次々と流れ込んでいるようだった。メルドが、必死に魔人族の女に組み付きながら視線だけをその方向にやると、そこには六本足の亀型の魔物がいて、大口を開けながらメルドを包む光を片っ端から吸い込んでいた。
六足亀の魔物、名をアブソド。その固有魔法は〝魔力貯蔵〟。任意の魔力を取り込み、体内でストックする能力だ。同時に複数属性の魔力を取り込んだり、違う魔法に再利用することは出来ない。精々、圧縮して再び口から吐き出すだけの能力だ。だが、その貯蔵量は、上級魔法ですら余さず呑み込めるほど。魔法を主戦力とする者には天敵である。
メルドを包む〝最後の忠誠〟の輝きが急速に失われ、遂に、ただの宝石となり果てた。
最後のあがきを予想外の方法で阻止され呆然とするメルドに、突如、後に引き寄せられる衝撃が襲う。それほど強くない衝撃だ。
ジードダークネスが無理矢理メルドを引き剥がし、そのまま床に投げ捨てたのだ。
「まさか、あの傷で立ち上がって組み付かれるとは思わなかった。流石は、王国の騎士団長。称賛に値するね。だが、今度こそ終わり……これが一つの末路だよ。あんたらはどうする?」
魔人族の女が、メルドにトドメを刺さんと黒い光の光輪を出現させたジードダークネスを一瞥しながら光輝達を睥睨する。
再び、目の前で近しい人が死ぬ光景を見て、一部の者を除いて、皆が身を震わせた。魔人族の女の提案に乗らなければ、次は自分がああなるのだと嫌でも理解させられる。
だが、その時、
「……るな」
未だ、オーブダークネスに頭を踏みつけられながら力なく脱力する光輝が、小さな声で何かを呟く。
満身創痍で何の驚異にもならないはずなのに、何故か無視できない圧力を感じる。
「は? 何だって? 死にぞこない」
魔人族の女も、光輝の呟きに気がついたようで、どうせまた喚くだけだろうと鼻で笑いながら問い返した。
光輝は、力を振り絞って足蹴にされている顔をむけ、真っ直ぐに魔人族の女をその眼光で射抜く。
魔人族の女は、光輝の眼光を見て思わず息を呑んだ。なぜなら、その瞳が白銀色に変わって輝いていたからだ。得体の知れないプレッシャーに思わず後退りながら、本能が鳴らす警鐘に従って、命令権を借りているオーブダークネスに命令を下す。
「殺れ!」
オーブダークネスは、魔人族の女の命令を忠実に実行し、ダークネスカリバーを振り上げ、光輝の首を切り落とそうとした。
が、その瞬間、
カッ!!
光輝から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。
それを危険視したのか、オーブダークネスは咄嗟に光輝から距離を取る。
光輝は、ゆらりと立ち上がり、取り落としていた聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光で魔人族の女を睨みつけた。同時に、竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流が光輝の体へと収束し始める。
〝限界突破〟終の派生技能[+覇潰]。通常の〝限界突破〟が基本ステータスの三倍の力を制限時間内だけ発揮するものとすれば、〝覇潰〟はその上位の技能で、基本ステータスの五倍の力を得ることが出来る。ただし、唯でさえ限界突破しているのに、更に無理やり力を引きずり出すのだ。今の光輝では発動は三十秒が限界。効果が切れたあとの副作用も甚大。
だが、そんな事を意識することもなく、光輝は怒りのままに魔人族の女に向かって突進する。今、光輝の頭にあるのはメルドの仇を討つことだけ。復讐の念だけだ。
怒声を上げながら一瞬も立ち止まらず、魔人族の女のもとへ踏み込んだ。
「お前ぇー! よくもメルドさんをぉー!!」
「チィ!」
だが、その一撃も二人を投げ捨てたゼロダークネスのスラッガーによって受け止められた。
同時にオーブダークネスが炎を纏ったダークネスカリバーで光輝の体を聖なる鎧毎斬り裂く。
幸いにも強化されたステータスのおかげで致命傷にはならなかったが、咄嗟に後ろに下がらなければどうなっていたかは分からない。
そんな光輝から魔人族の女を守る様にダークネス達が集まってくる。
纏めて吹き飛ばさんと神威の詠唱に入るが、ダークネス達はそれを黙って見逃していた。
そして、ダークネス達は光輝の神威と合わせる様に各々の光線技を放つ。
オーブダークネスのダークネススプリームカリバー。エックスダークネスのザナディウムダークネス光線。ジードダークネスのレッキングダークネスバースト。ゼロダークネスのダークゼロツインシュート。四つの闇色の光が一つとなったそれは容易く神威の光を飲み込み、光輝の体を飲み込んでいった。
全身を光線に焼かれ体を包んでいた聖なる鎧は跡形も無く消え去り、光輝が辛うじて生き残ることのできたのは鎧と覇潰の力によるもの、僅かながらその破壊力を神威によって相殺出来たからだろう。
焼け焦げた聖剣ももはや限界かもしれないが、それよりも先に覇潰のタイムリミットが来た。辛うじて立てていた体から力が抜け、膝から崩れるとそのまま地面へと倒れ伏す。
そんな光輝の体を掴み上げ、ゼロダークネスはクラスメイト達の所へと蹴り飛ばす。意識は無いが骨が内臓にもダメージを負ったのだろう、血を吐きながら吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
香織から、ゼロダークネスとの戦いのダメージを、動ける程度まで回復して貰った龍太郎が投げ捨てられた光輝を受け止めるが、思わず苦痛が漏れる。
鈴の結界も意味を持たないであろう破壊力の攻撃までしてくるダークネス達に心から恐怖を覚える中、ゼロダークネスの黄色い瞳が彼等を捉える。
抹殺対象もろとも始末しようと言う事なのだろうか? 再度必殺技の体制に入るダークネス達。
最早、光輝諸共殺される可能性しか無い。光輝を抱えた龍太郎に対して思わずか悪党一味が来るな、巻き込むなと叫ぶ中、諦めにも近い感覚で最後を覚悟する者も現れるクラスメイト達。
だが、その瞬間だった。
ドォゴオオン!!
天井が崩落し何かの影が乱入してきたと思うとそれはダークネス達を薙ぎ払わんと尻尾を振るう。
そして、それと同時に、乱入して来た何かの上に乗った人影が剣を振るう。
「エンシェント、ブレイクエッジ!」
それから距離を取るダークネス達の中の一体、オーブダークネスへと放たれる一撃がオーブダークネスを捉え、吹き飛ばす。
その技の主はティラノサウルスの様な影に騎乗しながら、剣を振るい風を巻き起こし土煙を払うと、その姿が露わになる。
彼に続いて降りてきた影が肩越しに振り返ると、
「セーフって所だな、南雲」
「そうみたいだな、鳳凰寺」
ガイソーグの鎧を纏いディノミーゴに騎乗した京矢とハジメは会話を交わし、二人はダークネス達と対峙した。
雫も一人の女の子としてこんな時に助けてくれる白馬の王子様、若しくは騎士と言う物に憧れていた。
乗っているのは白馬では無くメカメカしい所のある紫色のティラノザウルスだが。
「あー、生きてるのか……面倒だな」
気絶している光輝を一瞥して京矢はそう呟く。死んでいるなら地上まで運んでから蘇生する手段が有るので、そっちの方が楽だったと思ったのだが。
「おい、其処の取り巻きの女の方、邪魔だから其の阿保と一緒に引っ込んでろ」
京矢は雫を一瞥してそう言い切る。龍太郎とワンセットの様な扱いに軽くショックを受ける雫。
二大女神と言われていても、京矢の周りには美人が多い。同レベルな美少女なら普段から義妹の直葉も居るし、マリアやセレナの存在もある。
従姉妹の風と光と海と言ったセフィーロの魔法騎士三人もいるし、今はエンタープライズとベルファストもいるのだ。
京矢が八重樫道場に出稽古に赴いた際には同じ歳と言うこともあり、親しくしていた筈なのに、光輝の取り巻きとしてしか見られていない事に軽くショックを受ける。
***
京矢からの対応にショックを受ける雫を他所に、京矢の身を包むガイソーグの鎧が外れ、ガイソーケンともう一振りの剣『暗黒剣月闇』を持って京矢はディノミーゴから飛び降りると、ハジメと肩を並べる。
(……それにしても、ウルトラマンのダークネスが四体かよ……)
明らかに|自分《バールクス》対策としか思えない四体のダークネスを一瞥すると、今回初披露となる邪剣カリバードライバーを装着する。
ここに来るまでに浩介から聞いた仮面ライダー達は居ないようだが、魔人族の女が率いている魔物にダークネス達以外に混ざっているのは仮面ライダーゼロワンのトリロバイトマギア達だ。
魔法こそあれ、この世界の科学技術には似つかわしくない科学で生み出された敵の存在に、あの時あった二人の仮面ライダーの仲間の影を感じずにはいられない。
ふと、横を見てみると、ハジメが、落下してきたユエをお姫様抱っこで受け止めると恭しく脇に降ろし、ついで飛び降りてきたウサミミ少女シアも同じように抱きとめて脇に降ろす。
「な、南雲ぉ! おまっ! 余波でぶっ飛ばされただろ! 鳳凰寺もそんな便利なの有るなら、オレも乗せてくれよ! ていうか今の何だよ! いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか……」
文句を言いながら周囲を見渡した遠藤は、そこに親友達と魔物の群れがいて、硬直しながら自分達を見ていることに気がつき「ぬおっ!」などと奇怪な悲鳴を上げた。
そんな遠藤に、再会の喜びとなぜ戻ってきたのかという憤りを半分ずつ含めた声がかかる。
「「浩介!」」
「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」
〝助けを呼んできた〟その言葉に反応して、光輝達も魔人族の女もようやく我を取り戻した。
そして、改めてハジメと京矢と二人の少女とディノミーゴを凝視する。だが、そんな周囲の者達の視線などはお構いなしといった様子で、ハジメは少し面倒臭そうな表情をしながら、ユエとシアに手早く指示を出した。
「ユエ、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ」
「ディノミーゴ、お前は護衛を頼む」
「ん……任せて」
「了解ですぅ!」
「任せろディノ!」
「南雲、悪いが、あの黒い特撮ヒーローモドキはオレが貰うぜ」
「ったく、オレもそっちと戦ってみたかったんだけどな。仕方ねえ、他の相手はやってやるよ」
暗黒剣月闇を構える京矢の言葉に答えて、ハジメもまたエイムズショットライザーを装着する。
「ってか、そっちが逃げるなら見逃してやるがどうする、魔人族のお姉さん?」
京矢はまだ変身もせずに軽口で魔人族の女にそう問いかける。彼ら以外にしてみれば傲慢な、本人達にしてみれば当然で有り最大限の慈悲の困った提案だ。
「……何だって?」
もっとも、魔物に囲まれた状態で、普通の人間のする発言ではない。なので、思わずそう聞き返す魔人族の女。それに対して京矢は、呆れた表情で繰り返した。
「いや、さっさとコイツらを地上に連れてって依頼を終わらせたいから、そっちがさっさと帰ってくれるならお互いにお得って言う提案だぜ?」
『何言ってんだ、こいつ?』とでも言う様な態度に、改めて、聞き間違いではないとわかり、魔人族の女はスっと表情を消すと「殺れ」と京矢を指差し魔物に命令を下した。
この時、あまりに突然の事態に、冷静さを欠いていた魔人族の女は、致命的な間違いを犯してしまった。
「なるほど。……〝敵〟って事でいいんだな?」
「やれやれ、一度は助け舟は出したぜ」
そんな魔人族の女に冷酷に告げながらプロクライズキーを取り出すハジメと、残念だと呆れた様子ながらもワンダーライドブックを取り出す京矢。
『ジャアクドラゴン!』
『BULLET!』
響き渡るのは二つの電子音。
【かつて世界を包み込んだ暗闇を生んだのはたった1体の神獣だった…。】
《AUTHORIZE……KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER》
ライドブックから読み上げられる物語と、変身前の待機音を心地よさげに聞きながら京矢とハジメは笑みを浮かべる。
それに、ヒーローに憧れていた者のサガと言う奴ではあるが、それが本来の変身者達への無礼である事を理解して心から詫びるものの、どんな時も、この瞬間の高揚感は抑えきれないのだ。
此処より下の階層で、特撮ヒーローを相手に死にそうな目に会ったクラスメイト達にとってはデジャヴな光景だが、同時にそれは決定的にそれとは逆の光景。
敵として正面から見据えるのではなく、味方としてその背中を見ると言う事だ。
…………この二人が今後も味方であるとは限らない上に、飽くまで依頼の為に味方してくれているだけなのだが。
「「変身!」」
この一言を叫ぶ瞬間、この高揚感は二人の中に強く刻まれる。
ショットライザーの引き金を引くハジメと、闇黒剣月闇にジャアクドラゴンを読み込ませる京矢。
【ジャアクリード!】
《SHOT RIZE!》
荘厳な待機音が流れ出す中、京矢はジャアクドラゴンを腰のベルト、邪剣カリバードライバーに装填し、ハジメの放った弾丸は魔物達を牽制するように飛び交う。
そして、闇黒剣月闇を自身の目の前に構え、グリップで邪剣カリバードライバーのボタンを押す京矢と、真後ろに飛んできた弾丸を一瞥をせずに義手の裏拳を叩き付けるハジメ。
【闇黒剣月闇!】
天高く振り上げた闇黒剣月闇を上空で円を描くように振るい斬撃波を飛ばすと、京矢の体を紫色のオーラが包み込み、斬撃波が京矢に帰って来る。
ハジメの側も裏拳を叩きつけた弾丸が展開、バルカンのスーツを展開する。
【Get go under conquer than get keen.(月光! 暗黒! 斬撃!) ジャアクドラゴン!】
【月闇翻訳! 光を奪いし、漆黒の剣が冷酷無情に暗黒竜を支配する!】
『The elevation increases as the bullet is fired.』
並び立つのは雄々しく剣を構えた紫のドラゴンを象った鎧を纏った仮面の剣士と、白い装甲の狼を思わせる仮面の銃士。
敵として現れた特撮ヒーローが今度は味方として現れてくれた事に、最早驚き過ぎて言葉も出ないクラスメイト達を他所に、紫の剣士は闇の剣を振るい剣舞を見せると、
「闇の剣士、仮面ライダーカリバー」
「……いや、何だよ、それ?」
「こう言う場面だからな。何となくやって見たかった」
京矢の返しにハジメが内心で、『しまった! オレもやっておけば良かった!』と思ったのは秘密だ。次の機会の為にどんな決め台詞を叫ぶのか、よく考えておこうと思うハジメだった。
そして、そんな気の抜けるやり取りをして居る横で銃声が響き鮮血が舞う。
横凪に暗黒剣月闇を振るうカリバーとショットライザーを撃ったバルカン。
そんな横に鮮血が舞い、出来た血溜まりに落ちるキメラの屍。姿を消して無防備な二人を襲おうとしていたのだろう。
「おいおい、何だ? この半端な固有魔法は。大道芸か?」
「大道芸でももう少し見応えあるだろ? 精々素人の宴会芸だぜ。もっと悪けりゃ子供のお遊戯だ」
血溜まりに倒れるキメラに侮蔑の声を向ける二人。キメラが使ったのは気配や姿を消す固有魔法だろうに、動いたら空間が揺らめいてしまうなど意味がないにも程があると、思わずツッコミを入れる。しかも、バルカンのライダーシステムは正確にその魔物の存在と動きを感知していたのだから、哀れ過ぎる。京矢に至ってはそこだけ気配に空白があるから分かり易いと酷評する始末だ。
……この二人を相手にしたキメラには心から同情したくなる。
だが、それもその筈だ。奈落の魔物にも、気配や姿を消せる魔物はいたが、どいつもこいつも厄介極まりない隠蔽能力だったのだ。
それらに比べれば、動くだけで崩れる隠蔽など、この二人からすれば余りに稚拙だった。
瞬殺した魔物には目もくれず、カリバーとバルカンが戦場へと、いや、処刑場へと一歩を踏み出す。
少なくともマトモな戦いになるのは、ダークネス四体を相手にするカリバーの側だけ。
バルカンの側でこれより始まるのは、殺し合いですらない。敵に回してはいけない仮面ライダーによる、一方的な処刑だ。
あまりにあっさり殺られた魔物を見て唖然とする魔人族の女や、特撮ヒーローの姿に度肝を抜かれて立ち尽くしているクラスメイト達。
そんな硬直する者達をおいて、魔物達は、魔人族の女の命令を忠実に実行するべく次々に二人の仮面ライダーへと襲いかかった。
黒猫が背後より忍び寄り触手を伸ばそうとするが、バルカンは、振り向きもせずダランと下げた手に持つショットライザーを手首の返しだけで後ろに向けて発砲。音速を優に超えた弾丸は、あっさり黒猫の頭蓋を食い破った。
トリロバイトマギア達が3体同時に槍を構えて襲いかかってくるが、カリバーは暗黒剣月闇を振るい、正面の一体を一瞬で両断する。
「大地斬。……って、必要もなかったか、技を使うのは?」
アバン流刀殺法の練習と初めて実戦に使う仮面ライダーの力を試す為に使って見たが、苦もなく両断した結果にやり過ぎたかと思うカリバーに残りの二体が襲い掛かる。
その瞬間、カリバーの姿が消え、次の瞬間二体のトリロバイトマギア達の後ろに背を向けて立つ。
それに気が付いてトリロバイトマギア達が振り返った瞬間、二体のトリロバイトマギアはバラバラになって崩れ落ちた。
「海破斬。こっちの方が使い勝手が良いな」
そして、自身の前に立つ残りのトリロバイトマギア達を一瞥し、
「さて、次は技を借りさせて貰おうか?」
突きの体制に構えた暗黒剣月闇を回転させながら突き出す。
「闇の魔剣で、この技って言うのも……悪くねえな」
魔剣戦士の代名詞とも言えるその技の名は、
「ブラッディースクライド!」
暗黒剣月闇による闇の斬撃破を加えて放たれた螺旋状の衝撃波がトリロバイトマギア達を飲み込んでいく。
その一撃も本来の使い手の技には及ばないであろうと自重しながら砕け落ちるトリロバイトマギア達の残骸を一瞥した。
「やっぱり、悪くねえな。さて、本番は此処からか?」
一瞥すると四体のダークネス達が油断なく立つ姿に、京矢はカリバーの仮面の奥で、久し振りに戦い甲斐がある相手だと笑みを浮かべる。
正直、京矢としては勇者が死ぬ事には別に何とも思わないが、敵側には地球人と思われる仮面ライダー達がいる以上、光輝達は単なる狩の獲物だろう。流石に此処で簡単に死なれて、第二回目の勇者召喚などを行われて、犠牲者を増やす事は避けたいので、助ける事を決めた。
余計な犠牲を増やさない為の生贄として、もう少し光輝達には踊っていて貰いたいのだ。
国の上の連中から無条件で助けるなどと思われない為の伏線として、ロア支部長からの依頼と言う形で纏められたそれを受け、浩介を引き連れて一行は迷宮へと再度足を踏み入れる事となった。
「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」
「向こうも動いてるだろうが、急ぐぞ。……えーと、お前、遠藤? で、良かったか?」
「うわっ、ケツを蹴るなよ! っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ! ってか、鳳凰寺、クラスメイトの名前くらい覚えとけ!」
「やかましい。さくっと行って、一日……いや半日で終わらせるぞ。仕方ないとは言え、ミュウを置いていくんだからな。早く帰らねぇと。ベルファストさん達がいるのは兎も角、変態が一緒にいるというのも心配だし」
「いや、あの二人がいるし、ティオはティオで中身はああでも、そうなってない時は頼りになるんじゃねえか?」
「まあ、変態の監視に二人には残って貰ったから大丈夫だろうな。特にベルファストさんなら」
「ああ、ベルファストなら」
二人からの信頼の厚い完璧メイドのベルファストである。
「……お前、本当に父親やってんのな……しかも、二人ともハーレムまで作ってるし……鳳凰寺なら分かるけど、一体、何がどうなったら、あの南雲がこんなのになるんだよ……」
「お前らがアホかバカなだけだろ?」
「馬鹿言うなよ!?」
迷宮深層に向かって疾走しながら、ハジメの態度や環境についてブツブツと納得いかなさそうに呟く浩介。
強力な助っ人がいるという状況に、少し心の余裕を取り戻したようだ。しゃべる暇があるならもっと速く走れと遅いぞと後ろからつつかれ、敏捷値の高さに関して持っていた自信を粉微塵に砕かれつつ、浩介は親友達の無事を祈った。
「少しペースを上げてくぞ」
「ああ」
「ん」
「はいです」
そして、一番余裕のある京矢が更に加速を早めると浩介の自信が砕ける所か消えていくレベルだった。他のメンバーは普通について行けている。京矢も浩介以外が余力を残して進めるペースを見切って走っているのだろう。最初から道案内程度の役目と切り捨てているので、浩介は目的地についたのなら、倒れても問題はない。
迷宮内も現れる魔物を先頭を走る京矢がすれ違い様に、一瞬でバラバラに切り裂きながらノンストップで進んでいく。
……勇者達にとって幸運だったのは魔人族の女が目を覚ました事だろう。
風魔達がそれを受けて、勇者の始末を彼女に任せ、戦力としてダークネス四体と量産型檜山ギアを彼女に預け、新たに呼び出した量産型檜山ギア達を連れて迷宮の攻略に戻った事で光輝達にも逃げる隙が出来た。
それが光輝達にとって幸運だったと言えるだろう。
だが、それでも数体の魔物と量産型檜山ギアに加えて、四体のダークネスの追撃は彼らにとっての悪夢でしか無かった。
四肢の砕けたメルドを持ったジードダークネス、両手で龍太郎と永山の首を締め上げながら持ち上げているゼロダークネス。そして、光輝の顔を足蹴にしながら手に持つ大剣を首に突きつけているオーブダークネス。
光輝達の敗北を告げる光景が広がっていた。
光輝を挑発する為に瀕死のメルドを使ったが、オーブダークネスは真正面から光輝を倒していた。
今までの戦いが遊びだったと言う様に龍太郎達はゼロダークネスに簡単にねじ伏せられた。
「……それで? 私達に何を望んでいるの? わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」
「ああ、やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃない。もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。ほら、前回は、勇者君が勝手に全部決めていただろう? 中々、あんたらの中にも優秀な者はいるようだし、だから改めてもう一度ね」
クラスメイトの一人にトドメを刺しているエックスダークネスの肩を叩きながら魔人族の女は雫はと対してそう告げる。
「……私達をどうするつもり?」
「ふふ、聡いね……悪いが、勇者君は生かしておけない。こちら側に来るとは思えないし、説得も無理だろう? 彼は、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない。こいつらの主人も、鬱陶しいから、勇者君は絶対に始末してくれって頼まれていてね」
「……それは、私以外のみんなも一緒でしょう?」
鬱陶しいから始末しろと言っていた事を聞かなかったことにして、言葉を続ける。
「もちろん。後顧の憂いになるってわかっているのに生かしておくわけないだろう?」
「今だけ迎合して、後で裏切るとは思わないのかしら?」
「それも、もちろん思っている。だから、全員に首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」
「私達は自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」
「そうそう。理解が早くて助かるね。そして、勇者君と違って会話が成立するのがいい」
そんな会話を黙って聞いていたクラスメイト達が、不安と恐怖に揺れる瞳で互いに顔を見合わせる。
魔人族の提案に乗らなければ、光輝すら歯が立たなかったダークネス達に襲われ十中八九殺されることになるだろうし、だからといって、魔人族側につけば首輪をつけられ二度と魔人族とは戦えなくなる。
それは、つまり、実質的に〝神の使徒〟ではなくなるということだ。そうなった時、果たして聖教教会は、何とかして帰ってきたものの役に立たなくなった自分達を保護してくるのか……そして、元の世界に帰ることは出来るのか……
だが、同時に希望も残る。
風魔達は最初に出会った時に、地球への移動方法を持っていると教えてくれた。それに、風魔達は自分達と同じ地球人だ、風魔達の下ならそう変な事にはならないだろう。上手くいけば、魔人族の本拠地についてすぐに帰して貰えるかもしれない。
だが、光輝と同じく抹殺対象にされている龍太郎と小悪党一味は後で始末されるか、全線で使い潰されて殺されるかもしれない。
それでも、誘いに乗るべきだという雰囲気になる。死にたくなければ提案を呑むしかないのだ。
しかし、それでも素直にそれを選べないのは、光輝達を見殺しにて、自分達だけ生き残っていいのか? という罪悪感が原因だ。まるで、自分達が光輝達を差し出して生き残るようで踏み切れないのである。
地球に帰る方法があると言う餌を前にしても、だ。
魔人族の女としては光輝にもより強力な首輪を付けて生かしておきたかったが、それでも風魔達の事だから、連れて行っても問答無用に始末する事は目に見えている。だから、見せしめとして利用しようとトドメを刺さずにいた。
他にも始末すると言っていた連中が居るが、其方は特に触れて居なかったので使い潰して始末するなら文句は無いだろうと思っている。
そうで無かったとしても、手駒が少し減るだけだし、何より全裸の連中は見ていて見苦しい。
(……それにしても、何で迷宮の中を裸で潜ってるんだい?)
魔人の女には、そこが心底疑問だった。何故か全裸でダンジョンアタックという異様な光景には流石に、どうリアクションして良いのか分からなかった。
「み、みんな……ダメだ……従うな……」
「光輝!」
「光輝くん!」
「天之河!」
声の主は、オーブダークネスに足蹴にされている光輝だった。仲間達の目が一斉に、光輝の方を向く。
「……騙されてる……アランさん達を……オレ達のクラスメイトを……殺したんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……奴隷にされるぞ……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」
その瞬間何かを踏み砕く様な衝撃音が響く。オーブダークネスが踏み躙っていた足を振り上げ、黙れとでも言う様に光輝の顔を踏みつけたのだ。
そのステータス故に生きてはいるが、それが普通の人間ならば既に頭はトマトの様につぶれていた事だろう。
更に永山と龍太郎の首を締め上げているゼロダークネスの手に力が加わることで二人が苦悶の声をあげる。
***
と、その時、また一つ苦しげな、しかし力強い声が部屋に響き渡る。
小さな声なのに、何故かよく響く低めの声音。戦場にあって、一体何度その声に励まされて支えられてきたか。どんな状況でも的確に判断し、力強く迷いなく発せられる言葉、大きな背中を見せて手本となる姿のなんと頼りになることか。みなが、兄のように、あるいは父のように慕った男。メルドの声が響き渡る。
「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ! ……信じた通りに進め! ……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」
メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなかった。唯の一人の男、メルド・ロギンスの言葉、立場を捨てたメルドの本心。それを晒したのは、これが最後と悟ったからだ。
光輝達が、メルドの名を呟きながらその言葉に目を見開くのと、メルドが全身から光を放ちながらジードダークネスを振り払い、一気に踏み込んで魔人族の女に組み付いたのは同時だった。
「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」
「……それは……へぇ、自爆かい? 潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」
「抜かせ!」
メルドを包む光、一見、光輝の〝限界突破〟のように体から魔力が噴き出しているようにも見えるが、正確には体からではなく、首から下げた宝石のようなものから噴き出しているようだった。
それを見た魔人族の女が、知識にあったのか一瞬で正体を看破し、メルドの行動をいっそ小気味よいと称賛する。
その宝石は、名を〝最後の忠誠〟といい、魔人族の女が言った通り自爆用の魔道具だ。
国や聖教教会の上層の地位にいるものは、当然、それだけ重要な情報も持っている。闇系魔法の中には、ある程度の記憶を読み取るものがあるので、特に、そのような高い地位にあるものが前線に出る場合は、強制的に持たされるのだ。いざという時は、記憶を読み取られないように、敵を巻き込んで自爆しろという意図で。
メルドの、まさに身命を賭した最後の攻撃に、光輝達は悲鳴じみた声音でメルドの名を呼ぶ。
しかし、光輝達に反して、自爆に巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、魔人族の女は一切余裕を失っていなかった。
そして、メルドの持つ〝最後の忠誠〟が一層輝きを増し、まさに発動するという直前に、一言呟いた。
「喰らい尽くせ、アブソド」
と、魔人族の女の声が響いた直後、臨界状態だった〝最後の忠誠〟から溢れ出していた光が猛烈な勢いでその輝きを失っていく。
「なっ!? 何が!」
よく見れば、溢れ出す光はとある方向に次々と流れ込んでいるようだった。メルドが、必死に魔人族の女に組み付きながら視線だけをその方向にやると、そこには六本足の亀型の魔物がいて、大口を開けながらメルドを包む光を片っ端から吸い込んでいた。
六足亀の魔物、名をアブソド。その固有魔法は〝魔力貯蔵〟。任意の魔力を取り込み、体内でストックする能力だ。同時に複数属性の魔力を取り込んだり、違う魔法に再利用することは出来ない。精々、圧縮して再び口から吐き出すだけの能力だ。だが、その貯蔵量は、上級魔法ですら余さず呑み込めるほど。魔法を主戦力とする者には天敵である。
メルドを包む〝最後の忠誠〟の輝きが急速に失われ、遂に、ただの宝石となり果てた。
最後のあがきを予想外の方法で阻止され呆然とするメルドに、突如、後に引き寄せられる衝撃が襲う。それほど強くない衝撃だ。
ジードダークネスが無理矢理メルドを引き剥がし、そのまま床に投げ捨てたのだ。
「まさか、あの傷で立ち上がって組み付かれるとは思わなかった。流石は、王国の騎士団長。称賛に値するね。だが、今度こそ終わり……これが一つの末路だよ。あんたらはどうする?」
魔人族の女が、メルドにトドメを刺さんと黒い光の光輪を出現させたジードダークネスを一瞥しながら光輝達を睥睨する。
再び、目の前で近しい人が死ぬ光景を見て、一部の者を除いて、皆が身を震わせた。魔人族の女の提案に乗らなければ、次は自分がああなるのだと嫌でも理解させられる。
だが、その時、
「……るな」
未だ、オーブダークネスに頭を踏みつけられながら力なく脱力する光輝が、小さな声で何かを呟く。
満身創痍で何の驚異にもならないはずなのに、何故か無視できない圧力を感じる。
「は? 何だって? 死にぞこない」
魔人族の女も、光輝の呟きに気がついたようで、どうせまた喚くだけだろうと鼻で笑いながら問い返した。
光輝は、力を振り絞って足蹴にされている顔をむけ、真っ直ぐに魔人族の女をその眼光で射抜く。
魔人族の女は、光輝の眼光を見て思わず息を呑んだ。なぜなら、その瞳が白銀色に変わって輝いていたからだ。得体の知れないプレッシャーに思わず後退りながら、本能が鳴らす警鐘に従って、命令権を借りているオーブダークネスに命令を下す。
「殺れ!」
オーブダークネスは、魔人族の女の命令を忠実に実行し、ダークネスカリバーを振り上げ、光輝の首を切り落とそうとした。
が、その瞬間、
カッ!!
光輝から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。
それを危険視したのか、オーブダークネスは咄嗟に光輝から距離を取る。
光輝は、ゆらりと立ち上がり、取り落としていた聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光で魔人族の女を睨みつけた。同時に、竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流が光輝の体へと収束し始める。
〝限界突破〟終の派生技能[+覇潰]。通常の〝限界突破〟が基本ステータスの三倍の力を制限時間内だけ発揮するものとすれば、〝覇潰〟はその上位の技能で、基本ステータスの五倍の力を得ることが出来る。ただし、唯でさえ限界突破しているのに、更に無理やり力を引きずり出すのだ。今の光輝では発動は三十秒が限界。効果が切れたあとの副作用も甚大。
だが、そんな事を意識することもなく、光輝は怒りのままに魔人族の女に向かって突進する。今、光輝の頭にあるのはメルドの仇を討つことだけ。復讐の念だけだ。
怒声を上げながら一瞬も立ち止まらず、魔人族の女のもとへ踏み込んだ。
「お前ぇー! よくもメルドさんをぉー!!」
「チィ!」
だが、その一撃も二人を投げ捨てたゼロダークネスのスラッガーによって受け止められた。
同時にオーブダークネスが炎を纏ったダークネスカリバーで光輝の体を聖なる鎧毎斬り裂く。
幸いにも強化されたステータスのおかげで致命傷にはならなかったが、咄嗟に後ろに下がらなければどうなっていたかは分からない。
そんな光輝から魔人族の女を守る様にダークネス達が集まってくる。
纏めて吹き飛ばさんと神威の詠唱に入るが、ダークネス達はそれを黙って見逃していた。
そして、ダークネス達は光輝の神威と合わせる様に各々の光線技を放つ。
オーブダークネスのダークネススプリームカリバー。エックスダークネスのザナディウムダークネス光線。ジードダークネスのレッキングダークネスバースト。ゼロダークネスのダークゼロツインシュート。四つの闇色の光が一つとなったそれは容易く神威の光を飲み込み、光輝の体を飲み込んでいった。
全身を光線に焼かれ体を包んでいた聖なる鎧は跡形も無く消え去り、光輝が辛うじて生き残ることのできたのは鎧と覇潰の力によるもの、僅かながらその破壊力を神威によって相殺出来たからだろう。
焼け焦げた聖剣ももはや限界かもしれないが、それよりも先に覇潰のタイムリミットが来た。辛うじて立てていた体から力が抜け、膝から崩れるとそのまま地面へと倒れ伏す。
そんな光輝の体を掴み上げ、ゼロダークネスはクラスメイト達の所へと蹴り飛ばす。意識は無いが骨が内臓にもダメージを負ったのだろう、血を吐きながら吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
香織から、ゼロダークネスとの戦いのダメージを、動ける程度まで回復して貰った龍太郎が投げ捨てられた光輝を受け止めるが、思わず苦痛が漏れる。
鈴の結界も意味を持たないであろう破壊力の攻撃までしてくるダークネス達に心から恐怖を覚える中、ゼロダークネスの黄色い瞳が彼等を捉える。
抹殺対象もろとも始末しようと言う事なのだろうか? 再度必殺技の体制に入るダークネス達。
最早、光輝諸共殺される可能性しか無い。光輝を抱えた龍太郎に対して思わずか悪党一味が来るな、巻き込むなと叫ぶ中、諦めにも近い感覚で最後を覚悟する者も現れるクラスメイト達。
だが、その瞬間だった。
ドォゴオオン!!
天井が崩落し何かの影が乱入してきたと思うとそれはダークネス達を薙ぎ払わんと尻尾を振るう。
そして、それと同時に、乱入して来た何かの上に乗った人影が剣を振るう。
「エンシェント、ブレイクエッジ!」
それから距離を取るダークネス達の中の一体、オーブダークネスへと放たれる一撃がオーブダークネスを捉え、吹き飛ばす。
その技の主はティラノサウルスの様な影に騎乗しながら、剣を振るい風を巻き起こし土煙を払うと、その姿が露わになる。
彼に続いて降りてきた影が肩越しに振り返ると、
「セーフって所だな、南雲」
「そうみたいだな、鳳凰寺」
ガイソーグの鎧を纏いディノミーゴに騎乗した京矢とハジメは会話を交わし、二人はダークネス達と対峙した。
雫も一人の女の子としてこんな時に助けてくれる白馬の王子様、若しくは騎士と言う物に憧れていた。
乗っているのは白馬では無くメカメカしい所のある紫色のティラノザウルスだが。
「あー、生きてるのか……面倒だな」
気絶している光輝を一瞥して京矢はそう呟く。死んでいるなら地上まで運んでから蘇生する手段が有るので、そっちの方が楽だったと思ったのだが。
「おい、其処の取り巻きの女の方、邪魔だから其の阿保と一緒に引っ込んでろ」
京矢は雫を一瞥してそう言い切る。龍太郎とワンセットの様な扱いに軽くショックを受ける雫。
二大女神と言われていても、京矢の周りには美人が多い。同レベルな美少女なら普段から義妹の直葉も居るし、マリアやセレナの存在もある。
従姉妹の風と光と海と言ったセフィーロの魔法騎士三人もいるし、今はエンタープライズとベルファストもいるのだ。
京矢が八重樫道場に出稽古に赴いた際には同じ歳と言うこともあり、親しくしていた筈なのに、光輝の取り巻きとしてしか見られていない事に軽くショックを受ける。
***
京矢からの対応にショックを受ける雫を他所に、京矢の身を包むガイソーグの鎧が外れ、ガイソーケンともう一振りの剣『暗黒剣月闇』を持って京矢はディノミーゴから飛び降りると、ハジメと肩を並べる。
(……それにしても、ウルトラマンのダークネスが四体かよ……)
明らかに|自分《バールクス》対策としか思えない四体のダークネスを一瞥すると、今回初披露となる邪剣カリバードライバーを装着する。
ここに来るまでに浩介から聞いた仮面ライダー達は居ないようだが、魔人族の女が率いている魔物にダークネス達以外に混ざっているのは仮面ライダーゼロワンのトリロバイトマギア達だ。
魔法こそあれ、この世界の科学技術には似つかわしくない科学で生み出された敵の存在に、あの時あった二人の仮面ライダーの仲間の影を感じずにはいられない。
ふと、横を見てみると、ハジメが、落下してきたユエをお姫様抱っこで受け止めると恭しく脇に降ろし、ついで飛び降りてきたウサミミ少女シアも同じように抱きとめて脇に降ろす。
「な、南雲ぉ! おまっ! 余波でぶっ飛ばされただろ! 鳳凰寺もそんな便利なの有るなら、オレも乗せてくれよ! ていうか今の何だよ! いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか……」
文句を言いながら周囲を見渡した遠藤は、そこに親友達と魔物の群れがいて、硬直しながら自分達を見ていることに気がつき「ぬおっ!」などと奇怪な悲鳴を上げた。
そんな遠藤に、再会の喜びとなぜ戻ってきたのかという憤りを半分ずつ含めた声がかかる。
「「浩介!」」
「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」
〝助けを呼んできた〟その言葉に反応して、光輝達も魔人族の女もようやく我を取り戻した。
そして、改めてハジメと京矢と二人の少女とディノミーゴを凝視する。だが、そんな周囲の者達の視線などはお構いなしといった様子で、ハジメは少し面倒臭そうな表情をしながら、ユエとシアに手早く指示を出した。
「ユエ、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ」
「ディノミーゴ、お前は護衛を頼む」
「ん……任せて」
「了解ですぅ!」
「任せろディノ!」
「南雲、悪いが、あの黒い特撮ヒーローモドキはオレが貰うぜ」
「ったく、オレもそっちと戦ってみたかったんだけどな。仕方ねえ、他の相手はやってやるよ」
暗黒剣月闇を構える京矢の言葉に答えて、ハジメもまたエイムズショットライザーを装着する。
「ってか、そっちが逃げるなら見逃してやるがどうする、魔人族のお姉さん?」
京矢はまだ変身もせずに軽口で魔人族の女にそう問いかける。彼ら以外にしてみれば傲慢な、本人達にしてみれば当然で有り最大限の慈悲の困った提案だ。
「……何だって?」
もっとも、魔物に囲まれた状態で、普通の人間のする発言ではない。なので、思わずそう聞き返す魔人族の女。それに対して京矢は、呆れた表情で繰り返した。
「いや、さっさとコイツらを地上に連れてって依頼を終わらせたいから、そっちがさっさと帰ってくれるならお互いにお得って言う提案だぜ?」
『何言ってんだ、こいつ?』とでも言う様な態度に、改めて、聞き間違いではないとわかり、魔人族の女はスっと表情を消すと「殺れ」と京矢を指差し魔物に命令を下した。
この時、あまりに突然の事態に、冷静さを欠いていた魔人族の女は、致命的な間違いを犯してしまった。
「なるほど。……〝敵〟って事でいいんだな?」
「やれやれ、一度は助け舟は出したぜ」
そんな魔人族の女に冷酷に告げながらプロクライズキーを取り出すハジメと、残念だと呆れた様子ながらもワンダーライドブックを取り出す京矢。
『ジャアクドラゴン!』
『BULLET!』
響き渡るのは二つの電子音。
【かつて世界を包み込んだ暗闇を生んだのはたった1体の神獣だった…。】
《AUTHORIZE……KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER》
ライドブックから読み上げられる物語と、変身前の待機音を心地よさげに聞きながら京矢とハジメは笑みを浮かべる。
それに、ヒーローに憧れていた者のサガと言う奴ではあるが、それが本来の変身者達への無礼である事を理解して心から詫びるものの、どんな時も、この瞬間の高揚感は抑えきれないのだ。
此処より下の階層で、特撮ヒーローを相手に死にそうな目に会ったクラスメイト達にとってはデジャヴな光景だが、同時にそれは決定的にそれとは逆の光景。
敵として正面から見据えるのではなく、味方としてその背中を見ると言う事だ。
…………この二人が今後も味方であるとは限らない上に、飽くまで依頼の為に味方してくれているだけなのだが。
「「変身!」」
この一言を叫ぶ瞬間、この高揚感は二人の中に強く刻まれる。
ショットライザーの引き金を引くハジメと、闇黒剣月闇にジャアクドラゴンを読み込ませる京矢。
【ジャアクリード!】
《SHOT RIZE!》
荘厳な待機音が流れ出す中、京矢はジャアクドラゴンを腰のベルト、邪剣カリバードライバーに装填し、ハジメの放った弾丸は魔物達を牽制するように飛び交う。
そして、闇黒剣月闇を自身の目の前に構え、グリップで邪剣カリバードライバーのボタンを押す京矢と、真後ろに飛んできた弾丸を一瞥をせずに義手の裏拳を叩き付けるハジメ。
【闇黒剣月闇!】
天高く振り上げた闇黒剣月闇を上空で円を描くように振るい斬撃波を飛ばすと、京矢の体を紫色のオーラが包み込み、斬撃波が京矢に帰って来る。
ハジメの側も裏拳を叩きつけた弾丸が展開、バルカンのスーツを展開する。
【Get go under conquer than get keen.(月光! 暗黒! 斬撃!) ジャアクドラゴン!】
【月闇翻訳! 光を奪いし、漆黒の剣が冷酷無情に暗黒竜を支配する!】
『The elevation increases as the bullet is fired.』
並び立つのは雄々しく剣を構えた紫のドラゴンを象った鎧を纏った仮面の剣士と、白い装甲の狼を思わせる仮面の銃士。
敵として現れた特撮ヒーローが今度は味方として現れてくれた事に、最早驚き過ぎて言葉も出ないクラスメイト達を他所に、紫の剣士は闇の剣を振るい剣舞を見せると、
「闇の剣士、仮面ライダーカリバー」
「……いや、何だよ、それ?」
「こう言う場面だからな。何となくやって見たかった」
京矢の返しにハジメが内心で、『しまった! オレもやっておけば良かった!』と思ったのは秘密だ。次の機会の為にどんな決め台詞を叫ぶのか、よく考えておこうと思うハジメだった。
そして、そんな気の抜けるやり取りをして居る横で銃声が響き鮮血が舞う。
横凪に暗黒剣月闇を振るうカリバーとショットライザーを撃ったバルカン。
そんな横に鮮血が舞い、出来た血溜まりに落ちるキメラの屍。姿を消して無防備な二人を襲おうとしていたのだろう。
「おいおい、何だ? この半端な固有魔法は。大道芸か?」
「大道芸でももう少し見応えあるだろ? 精々素人の宴会芸だぜ。もっと悪けりゃ子供のお遊戯だ」
血溜まりに倒れるキメラに侮蔑の声を向ける二人。キメラが使ったのは気配や姿を消す固有魔法だろうに、動いたら空間が揺らめいてしまうなど意味がないにも程があると、思わずツッコミを入れる。しかも、バルカンのライダーシステムは正確にその魔物の存在と動きを感知していたのだから、哀れ過ぎる。京矢に至ってはそこだけ気配に空白があるから分かり易いと酷評する始末だ。
……この二人を相手にしたキメラには心から同情したくなる。
だが、それもその筈だ。奈落の魔物にも、気配や姿を消せる魔物はいたが、どいつもこいつも厄介極まりない隠蔽能力だったのだ。
それらに比べれば、動くだけで崩れる隠蔽など、この二人からすれば余りに稚拙だった。
瞬殺した魔物には目もくれず、カリバーとバルカンが戦場へと、いや、処刑場へと一歩を踏み出す。
少なくともマトモな戦いになるのは、ダークネス四体を相手にするカリバーの側だけ。
バルカンの側でこれより始まるのは、殺し合いですらない。敵に回してはいけない仮面ライダーによる、一方的な処刑だ。
あまりにあっさり殺られた魔物を見て唖然とする魔人族の女や、特撮ヒーローの姿に度肝を抜かれて立ち尽くしているクラスメイト達。
そんな硬直する者達をおいて、魔物達は、魔人族の女の命令を忠実に実行するべく次々に二人の仮面ライダーへと襲いかかった。
黒猫が背後より忍び寄り触手を伸ばそうとするが、バルカンは、振り向きもせずダランと下げた手に持つショットライザーを手首の返しだけで後ろに向けて発砲。音速を優に超えた弾丸は、あっさり黒猫の頭蓋を食い破った。
トリロバイトマギア達が3体同時に槍を構えて襲いかかってくるが、カリバーは暗黒剣月闇を振るい、正面の一体を一瞬で両断する。
「大地斬。……って、必要もなかったか、技を使うのは?」
アバン流刀殺法の練習と初めて実戦に使う仮面ライダーの力を試す為に使って見たが、苦もなく両断した結果にやり過ぎたかと思うカリバーに残りの二体が襲い掛かる。
その瞬間、カリバーの姿が消え、次の瞬間二体のトリロバイトマギア達の後ろに背を向けて立つ。
それに気が付いてトリロバイトマギア達が振り返った瞬間、二体のトリロバイトマギアはバラバラになって崩れ落ちた。
「海破斬。こっちの方が使い勝手が良いな」
そして、自身の前に立つ残りのトリロバイトマギア達を一瞥し、
「さて、次は技を借りさせて貰おうか?」
突きの体制に構えた暗黒剣月闇を回転させながら突き出す。
「闇の魔剣で、この技って言うのも……悪くねえな」
魔剣戦士の代名詞とも言えるその技の名は、
「ブラッディースクライド!」
暗黒剣月闇による闇の斬撃破を加えて放たれた螺旋状の衝撃波がトリロバイトマギア達を飲み込んでいく。
その一撃も本来の使い手の技には及ばないであろうと自重しながら砕け落ちるトリロバイトマギア達の残骸を一瞥した。
「やっぱり、悪くねえな。さて、本番は此処からか?」
一瞥すると四体のダークネス達が油断なく立つ姿に、京矢はカリバーの仮面の奥で、久し振りに戦い甲斐がある相手だと笑みを浮かべる。