プロローグ

仮面ライダーバールクスの力でモンスターの一体を殴り倒し、サーベルで切り裂く。

ここに居るのは明らかに勇者である光輝やそれを上回るステータスを持つ京矢でも生身であったら即死するであろう力を持った危険なモンスターばかりだ。
だが、そんな相手でもグランドジオウならば簡単に切り抜けられるだろう。そのグランドジオウを純粋な実力で圧倒出来るバールクスのスペックを持ってすればモンスター達など倒せないモノではない。
基本フォームとはいえジオウの召喚した平成主役ライダー達を無傷で倒した実力は伊達ではないのだ。

「化け物揃いだな、此処は」

ハジメが残してくれたメッセージから魔物の肉を喰らい神水で毒素を癒して餓死と脱水症状を防ぎながらステータスを上げつつも、先行して居るであろうハジメの痕跡を追跡する。

バールクスのスペック頼りのゴリ押しで恐らくは最短ルートでの追跡ができて居るだろうが、その力押しもいつまで続くか分からない。
石化の魔眼を持つ魔物をロボライダーのウォッチの力で頭ごと吹き飛ばしてバールクスは溜息を吐く。

「ホント、死ぬんじゃねえぞ、南雲」

先行しているであろうハジメの痕跡を追いながらバールクスは魔物を警戒する事なく直進して行く。
此処の魔物が相手でもバールクスに変身しているならば警戒するのは石化の様な即死のダメージだけだ。
更にステータスが上がって行けばそのうちにバールクスの力に頼らなくても勝てる様にはなるだろう。

襲いかかってきたウサギの魔物の首を斬り落とすと血抜きがてら引きずりながら先を進んでいく。

基本的にバールクスの力での無双。
ライドウォッチという制限はあるもののその手の中には平成で活躍した最強と名高い昭和ライダーである『仮面ライダーBLACK RX』の力がある。
普通の人間やこの世界の兵士や騎士、将来的にはどうなるか分からないが召喚されたクラスメイト達でさえ現時点では脅威でしか無い奈落の魔物達でもバールクスになった京矢の敵では無い。
だが、現在の状況は彼の心に僅かながらの焦りを生む。

「いっそ、このウォッチを押したら奇跡でも起こってくれれば助かるんだけどな」

そんな焦りからか、何気なくRXのウォッチを、世紀王のウォッチを押した。


『RX!』


その瞬間、バールクスを狙っていたであろう魔物達の気配が消えた。
はっきり言おう、奈落の魔物達以上の化け物であるゴルゴムの支配者候補の進化した姿であるRXの力を宿したウォッチを起動させた瞬間、ウォッチから漏れたRXの力が魔物達に感じさせたのだ。
『自分達よりも恐ろしい怪物がいる』
と。

「力は感じるけど、オレには資格はない、ってか?」

そんな事に気付かずジクウドライバーに装填しても反応無しのRXウォッチに落胆して腕の定位置に戻す。























「ハジメ……どうかした?」

五十層で出会った彼の相棒の吸血姫『ユエ』がハジメに問い掛ける。

ハジメは次の階層に挑む前の装備の点検と補充をしていた。
先程から煩いほどに魔物達が必死に何かから逃げ回っているのが目に付いている。
熊の魔物など親らしい個体が子供らしい個体を守る様に抱きしめながらガタガタと隠れながら震えていた。最早憐れみさえ感じてしまうほどだ。

「いや……今、何か変な音が聞こえたと思ってな……」

魔物達が逃げ回る足音で小さな音など聞こえ無かったが、音が僅かに止んだ瞬間、一瞬だけ金属音が聞こえたのだ。

こんな所に金属の鎧を着込んだ者が居るとすれば、それは魔物では無い。
それが人間か魔人かは分からないがこんな所にいる様な相手だ、警戒するに越したことはない。



-ガシャン……-



「「っ!?」」

「……ハジメ」

「ああ……」

今度ははっきりと金属音が聞こえた。音の聞こえた方向に注意を向けて戦闘態勢を取る。そちらの方へここで作り出した相棒の銃『ドンナー』を向ける。

(ここの魔物達が逃げて居るのは、コイツからか?)

魔物達の本能に恐怖と逃走を叩きつけている化け物がこっちに向かってきて居る。
そう考えると自然と冷や汗が流れ、心臓の鼓動が早まる。

魔物の肉と神水で肉体の破壊と再生を繰り返して跳ね上がったハジメのステータスでも、そこまでの域には到達していない。そんな化け物が向こうから向かってきて居る。その事実に一瞬の油断も無く金属音の聞こえてくる先にドンナーを突き付けて注視していた。

二人の警戒を他所に、金属音が更に近づいてくる。

最初に手が見えた。そして体が見える、剣を持った二足歩行の人型。その姿や仕草から明らかに魔物では無さそうだ。
二足歩行のそれはゆっくりと全身を見せる。
その相手を睨みつけながら、此方へと振り向いた瞬間にドンナーをぶっ放してやろうと思うと自然と引き金に力が篭る。

最初に見えたのは黒いボディだ。
次に、横顔が見えた瞬間爛々と輝く真っ赤な複眼が見えた。
そして、目の前のそれが此方へと振り向き、赤い複眼と目があった瞬間、

「はぁ?」

気が抜けた。

「ラ、ライ、ダー?」

「ハジメ?」

呆けた様に妙な事を口走ってしまった相棒に困惑の声を上げるユエ。この世界の文字ではなくハジメ達の世界の文字なのだからユエには分からなくても無理はない。
はっきり言おう、警戒していた相手の顔面にデカデカと赤く光る自己主張の強い『ライダー』の文字が有ったのだから、呆けてしまうのも無理はないだろう。

「ん? おっ、なんか色々と変わってるけど、その声は南雲か?」

しかも、警戒していた相手から聞き覚えのある声でフレンドリーな言葉がおーいと言わんばかりに手を振りながら飛んできたのだから、思いっきりズッコケテしまいそうになる。

「お前の方が変わりすぎだろうが、鳳凰寺!?」

うん、人の面影が二足歩行の人型でしかない黒いボディに真っ赤なライダーな複眼の姿なのだから、そのリアクションも最もだろう。
ユエ以外どうでも良いと思っていた中でただ一人だけ再開できれば味方になれるかと思っていた相手がそんな姿になればそう言いたくなるだろう。

「おっ、悪いな、流石にこれじゃ分からないか?」

そう言ってジクウドライバーを外すとバールクスへの変身が解除される。
記憶の中と寸分違わぬ京矢の姿がそこには有った。

「もしかして……ハジメを助けようとして一緒に落ちた人?」

「おう、そっちの子は初対面だな。鳳凰寺京矢だ」

朗らかに相棒の吸血姫に自己紹介する京矢に色々と問い詰めようと思うハジメだった。

「まっ、話もあるだろうが、取り敢えず此処じゃロクな物食ってないだろう? 口直し程度ならマトモな食い物もあるぜ」

そう言って制服の内側の四次元ポケットの中からカップラーメンを取り出してハジメに投げ渡すと同様にカセットコンロとペットボトルの水とヤカンを取り出す。
テキパキとお湯を沸かしている姿を眺めながら、色々とその行動とか、どこからその一式を出したのかとか、ツッコミどころしか無いが、そんなツッコミを呑み込みまずは久し振りの元の世界の食事の味を堪能する事にしたハジメだった。

嗅覚を存分に刺激するその匂いだけで空腹を感じ唾を飲み込むと、最早我慢出来ずに一心不乱に目の前のラーメンを啜る。
今までの食事が神水が旨く感じるほど不味い魔物の肉だけだった為に久し振りのカップラーメンは極上の美味に感じてしまった。

「まっ、一人だけなら一週間食えるほどの量は有るんだ、遠慮しないで喰ってくれよ。チョコも有るぜ」

紙コップの水を飲みながらその言葉を聞いて奪い取る様に京矢から差し出された板チョコを受け取って食べている。チョコレートの甘味が舌を楽しませ、頭を蕩けさせる。見ればユエも初めて食べる異世界の甘味の味に目を輝かせていた。











数分後、

「まず最初に言っとくぜ。……オレ達をここに突き落とした犯人は檜山で、その檜山は結果的にオレが道連れにして…………最後は此処の魔物に食われて死んだ」

「……そうか」

カップラーメンと板チョコの味に満足していたところに聞かされた京矢の言葉には驚いたもののそんな返事がハジメからは帰って来た。

どうやって京矢が檜山を道連れにしたのかは気になるが、そんな事よりも今は優先的に聞くべき事がある。

「……そんな事より、お前の使ってたそのベルトは何だ? あの、変身ヒーローみたいなのは?」

「あー、あれはな。ガチの変身ヒーローのヴィランで、オレが使ったのはそのヒーローとヴィランの共通の変身アイテムって所だな」

「マジか!?」

「マジだ」

なんでお前がそんな物を持ってるんだ!?というツッコミを放置して驚愕してしまうハジメ。

「しかも、主人公が本編中での最強の力を発揮しても負けたほどの、劇場版のラスボスってとこだな」

だから、なんでお前がラスボスのダークヒーローの変身アイテムなんて物を持ってるんだ、オレも欲しいぞ、と言うツッコミと欲求を飲み込む。

「しかも、オレがこっちの世界に来た時に持ってたガイソーケンも前の世界から持ってたんだぜ」

最早、次々に聞かされるカミングアウトにツッコミが追いつかない。

「まっ、詳しい説明はもっと落ち着ける場所に行ってからするとして、過去四回、オレは似た様なことに巻き込まれた経験が有るんだな、これが」

「は、はぁ?」

「しかも、小学校の時の二回の事件なんて一歩間違えたら地球滅んでたな」

主にジュエルシードとか闇の書とか。
そう言って笑う京矢に対してハジメは思う。笑い事じゃねえ、と。
何気に既に地球の危機を二回も救う手助けをしていたと言う友人に対する疑問が次から次へと湧いてくる思いのハジメだった。

「序でに後の二回はセフィーロって世界の救世主にオレの従姉妹を含む三人が選ばれて、それに巻き込まれたオレが陰ながら正体隠して手助けしたんだけどな」

簡単に語られる異世界セフィーロでの冒険譚とそこで出会った者達の事。最後の戦いの際にガイソーグの鎧が破損して従姉妹とその仲間達に正体はバレたが、と付け加える。

「え? なに、お前、巨大ロボまで持ってんのかよ!? 後で見せてくれ!」

「おう、良いぞ、減るもんじゃないし」

「本当だぞ、約束だからな! 絶対だからな!」

帰還方法の確保の手段として魔人領への襲撃の手段に使おうとしたのだから、京矢的にはキシリュウジンを見せても問題はない。

既にこの時点でハジメの中から警戒心がかなり消えていたりする。

「まっ、この際だから白状すると。だから、オレはイシュタルとか言うジジイ共のことは最初から信用してなかった。隙を見て一人で帰還方法を探すつもりだったんだよ、バカ一行と変態どもを置いて全員を元の世界に連れ帰るためにな。」

何で変身ヒーローの変身アイテムの本物やら巨大ロボを持っているのかという説明はされてないが、この時点で目の前の友人の非常識さはよく分かった。

「……まだ肝心の、お前がどうしてそんな力を持っているのか? って質問には答えてないが、先に聞いとく。……鳳凰寺、お前はオレの味方か?」

「へへっ、一応お前が敵にならない限りはダチの味方だぜ」

これ以上聞いたらパンクしそうな事実に頭を抱えたくなったが、記憶の中と変わらない友人の姿に頭を更に頭を抱えたくなった。

ただ一つ分かることはある。目の前の相手は一番信用できる友人であり、その友人はこの非常識に巻き込まれる前から非常識であったという事だ。











*****





ふと、改めてこの世界へと召喚されてから奈落に落ちるまでのことを思い出してしまうハジメ。

ステータスプレートを渡された後、軽く戦闘職の者達が自分達を指導してくれる騎士団長メルド・ロンギヌスと手合わせをする事となった。
此処の実力を指導する側が把握する為だったのだが、早速其処で京矢の奴がやらかした。

目の前の友人は召喚早々に騎士団長と互角に戦った。ステータスで下回るだろうが豊富な戦闘経験を持つメルドと互角に渡り合った理由に、四度に渡る世界を救うと言う戦いの経験があったのだろう。

まあ、京矢が国の王族に不信感全開だったから光輝の方が持て囃されていたのは本人もどうでも良いと切り捨てていたが、光輝とパーティーを組まされそうになった時だけは全力で反発した。

曰く、
『何が悲しくて、あの阿保の背中なんぞ預かってやらなきゃならねえんだよ』
との事。殺意混じりの拒絶には王も教皇も何も言えなかったとか。
それで光輝とのパーティーメンバー入りを拒んだ当人はさっさとハジメとパーティーを組んだ。ハジメを選んだのは、王城から逃げて帰還方法の独自の探索の為の協力者として信頼できる相手を選んだ為でもある。

ハジメ自身、其処まで信頼されていたのは嬉しい限りだが、京矢の評価としてはあの時点でも錬成師と地球での知識という組み合わせの有用さは感じていた。
実際に銃が作れるかと言う案も京矢は出していたのだし。

「剣士としては思うところはあるが、剣よりも槍、槍よりも弓、弓よりも銃。遠距離からの攻撃ってのは常に強力なんだぜ」

と言って二人であの時点でも再現可能な武器の案を出していた。取り敢えず、クロスボウの設計図を書いた所で断片的な構造と幾つかの失敗作のパーツ以外は後々でも国に見つからない様にしていたが、オルクス大迷宮へ向かう時期がもう少し後だったら、王国の資材から完成品を作っていただろう。

矢も錬成師ならばある程度の現地調達も可能と言う事だったが、何れは銃も完成させたいと話していた。

……その影で檜山達がハジメに絡んで十倍差のステータスでボコボコにされていたのにはギャグでしかなく、自分達のスキルに気が付いて裸になろうとした時に、京矢とメルドと光輝の三人に見つかった時には、流石の光輝も檜山達を弁護できなかった。……と言うか、しなかった。その時は身の危険を感じたのだろう、絵面的に。

その結果、その他の趣味の兵士達の元に送るべきかと言う話し合いの後、オルクス大迷宮からの帰還後には(王国側の善意で)送られる事が決まり、オルクス大迷宮で罠に掛かった辺りで友人の最初の非常識振りを目の当たりにした。


一行が転移した場所とは、100mはありそうな巨大な石造りの橋の上。

見上げれば天井も高く、20mはあるのだろう。

石橋の下は全く何も見えない、深き闇の淵が奈落の如く広がっていた。

石橋の横幅は10m程度だし、手摺も縁石も無くて足を滑らせれば掴む所なんて無いから真っ逆さまに落ちるのみ。

今現在、京矢やメルド団長やクラスメイト達は、その巨大な石橋の中間に集められていた。

橋の前後に奥へと続く通路と階段が見える。状況的には最悪の立ち位置、前後から敵が襲ってきた場合、間違い無く挟み撃ちだ。

(ヤベェな、俺は兎も角、初動が遅れたら全滅だぞ)

最悪、正面の敵を速攻で撃破して逃げ道を確保すると言う選択もあるが、改めて中々に性格の悪い罠だと思う。
下位の階層へと転送後逃げ場の無い一本道。あとは簡単に想像出来る。

京矢が次の展開を想像すると橋の前後に赤黒い光を放つ魔法陣が現れた。

通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。
空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバイと京矢は感じていた。

十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……

「……ベヒモス」

メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。


「グルァァァァァアアアアア!!」

(こいつは丁度良いかもな)

少し早いが、目の前のベヒモスを相手に死亡偽装して自由の身になれそうだと思う。

「ッ!?」

その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ!」

メルドが矢継ぎ早に指示を出す中、ガイソーケンを持って京矢が前に出る。

「京矢! お前達は階段に向かえ!」

「メルドさん、それはこっちの台詞だ! 後ろの連中の指揮を取ってくれ!」

寧ろ、単独の方が戦い易いとばかりに京矢は反論する。光輝が僕たちも等と言っているが、

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 京矢、お前も下がれ! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

「なるほどね」

そう言って京矢は笑みを浮かべる。六十五層の魔物と言っていたが、

(弱いな)

デボネアや闇の書の闇に比べたら遥かに劣る。ザガートやプレシアの様な執念もない。ただ暴れる程度の獣相手など、

「負ける気がしねえな」

ガイソウルを取り出しガイソーケンに装填。
此処で死亡偽装する以上は出し惜しみする必要も無いだろうと判断する。

「鎧装!」

『ガイソーチェンジ』

その音声と共に現れる盾を持った紫の鎧。その鎧はバラバラになり、己の主人である京矢の体を紫の鎧が包み込む。

「不屈の騎士、ガイソーグ」

目の前で特撮ヒーローへの変身のような光景に言葉を失う一行を他所にガイソーグの鎧を纏った京矢はたった一人ベヒモスへと立ち向かって行く。







******






その後は京矢がベヒモスを圧倒しつつも決め手を打つタイミングを測っていた事に気づいたハジメがベヒモスの足元を錬成する事で動きを止め、京矢の放った必殺技が一撃でベヒモスを四つに切り裂いた。
だが、援護で放たれたはずの炎の魔法が京矢とハジメを吹き飛ばし橋から転落してしまった。それがハジメの知っている状況だが、京矢の言葉が正しければ、二人を吹き飛ばしたのは檜山で、その檜山も京矢がうっかり道連れにして現状唯一の犠牲者となったそうだ。

檜山の事は因果応報として、改めてハジメは思う。どれだけコイツは非常識なんだ、と。

自分が信頼してた友人は最初から自力での帰還を模索していた。
彼から聞いた言葉は、彼の計画していた手段の模索の前提。
彼が僅かな間でも京矢がイシュタルという老人の言葉に従ったのもクラスメイト達が一時的にでも守られているという状況を確認するためだった。
力を存分に発揮して、時に実戦経験豊かな騎士と互角に渡り合い、人類の希望の勇者さえ終始圧倒したのも、それは今回の迷宮の探索を利用して単独で自由に動くために死んだふりをする序でに、光輝の無駄なカリスマによって扇動されてしまったクラスメイト達に冷や水を浴びせて冷静さを与えるためだった。





最も強い京矢も死ぬ時は死ぬ。



その事実に、
現実として存在する死に、
戦う事に、
怯えて貰うために。



まあ、予想としては光輝とそれに追随する龍太郎の京矢が真っ先に見捨てる事を決めた二人を先頭に数名が戦う事を続ける可能性も予想していたが、それはそれ、そうなるであろう数人はトップの戦闘力の持ち主達なので問題ないだろうと考えていた。

「ってのが、オレが立ててた計画だった訳だ」

目的は同じ、ハジメはユエと二人だけで、京矢は元檜山一味と光輝一派を置いて残りのクラスメイト全員で、と言う違いはあるが自力での帰還の方法を探すと言う違いはあるが。

「まあ、目的は同じだから協力もいいけど、なんでそいつらだけ除外してんだ?」

「いや、だってあの、都合のいいことしか見てない自分勝手な正義バカと、その御都合主義のイエスマンだろ? あいつ、『イシュタルさんのことを信じられないのか!?』とか言って絶対邪魔するだろ」

なお、光輝を残して早々死なれたら夢見が悪い上に再召喚されても迷惑なので、弱いものイジメが好きな連中を残して存分に最大規模のケンカを楽しんでもらおうと檜山一味を残した訳だ。

帰還の邪魔をされては堪らないので最初から光輝と、真っ先に光輝に言うであろう|腰巾着《龍太郎》を除外した訳だが、強ち間違い無いだろうとハジメも思う。
準じてその二人の幼馴染の香織と雫。この二人は男二人よりもマシな部類だが、最悪は見捨てる側にいる。邪魔ができないタイミングで伝える程度の事はするが、邪魔をするなら置いて行くと言う選択だ。

「ぷっ」

京矢の光輝のモノマネに吹き出してしまうハジメ。そして、二人して光輝をネタにして大笑いを始める。

なお、二人は知らない事だが、『二人の死を無駄にしない為にも』と演説しているが、浴びせられた死の恐怖と言う絶対零度の冷水で大半のクラスメイト達の頭が冷えてしまったのも有り、誰も光輝に追随しようとしない。

序でに京矢の計算外は一つ有った。
このクラスにおける京矢の影響力だ。元々女子を中心に人気があった上にこの世界に来てから見せた実力。剣聖と言う前例の無い天職のスキルとして見せた技の数々、京矢が居ればイケると思わせるには十分な活躍を見せた。

だが、そんな京矢でさえ死んだ。しかも、誰かが檜山が撃った魔法が二人を落としたと証言した時、犯人として挙げられた檜山を全員が混乱の中で責める。死人に口なし、光輝が責める者たちをなだめようとするが、最終的には残りの檜山一味に恨みの矛先が向いたほどだった。
恐怖から引きこもろうにも無理矢理部屋から引きずり出された者もいた程だ。



|閑話休題《それはさておき》




光輝をネタに爆笑していた二人が落ち着くと、今後の目的を話し合う。

「まあ、オレ達の目的が僅かながらでもズレるのは、全部帰還方法を見つけてからの話だからな」

「そうだな、帰る方法を見つけてからでも遅くは無いか」

「まっ、最悪は先に帰ったお前が最悪スグや|姉さん《あねさん》にこの事を伝えてくれれば、風に連絡を取ってくれるだろうしな」

セフィーロ経験者の魔法騎士達になんとか出来るかは分からないが、向こうにいる仲間に連絡が伝われば向こうからも帰還方法を探ってくれるはずだ。

「……|姉さん《あねさん》って誰だよ?」

ふと、そんな疑問が湧いてくる。そもそも、義理の妹は居るはずだし会った事もあるのだが、ハジメの記憶では京矢に姉なんていなかった筈だ。

「ああ、オレがそう呼んでるだけで姉って訳じゃ無いぜ」

そう言えばハジメと会ったことは無かったと思いながら、ガチャから呼び出した二人目と三人目の人間の名前を挙げる。

「『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』とその妹の『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』。妹と同じくオレの力やらの事を知ってる知人なんだ」

主に、プレシア・テスタロッサが主犯となって行われたジュエルシードの一件の終盤に呼び出すことに成功したマリアで有り、それからセフィーロの戦いの後に召喚したセレナだ。
闇の書の事件の折にはアガートラームのシンフォギアも入手出来たのでガイソーグの仲間として正体を隠して参戦もしてもらった。

「はぁ!? いや、マリア・カデンツァヴナ・イヴってあの歌手の!?」

「ハジメ……知り合い?」

「ああ、オレ達の世界の有名なトップアーティストなんだよ」

思いもしなかったビッグネームが出てきた事に驚愕を露わにするハジメ。
まさか自分の友人とトップアーティストと知り合いが言う事に本当に驚いてしまった。

既にこの時点でハジメの頭の中から檜山の存在は吹っ飛んでいまっていた。

「あー、そう言えばお前には教えてなかったな」

「ああ、初耳だよ」

驚きすぎて疲れたと言う顔で京矢の言葉に返すハジメ。
友人が変身ヒーローで、巨大ロボも持ってて、地球が実は最近二度も滅びかけて、トップアーティストと知り合い。

これ以上は驚き過ぎで身が持たないと、もう本気で追求するのは辞めたハジメだった。

「最後に一つ聞いて良いか? どうやって、檜山の奴を道連れにしたんだ?」

「あー、それはな。……明らかにオレを狙った攻撃だったんで、反射的に攻撃された先にカウンターの鬼勁って技を打った」

「そうか」

京矢が剣士系の天職でありながら中距離のスキルを持って居る事は知っていたし、その中の技の一つに似た名前の物が有ると言っていた筈だ。その派生技なのだろうと思う。

その後はハジメ側のユエとの出会いを始まりとした事情説明となったのだが、その辺は割愛させて貰う。

「そっちは大変だったみたいだな。悪いな、せめてオレが同じ所に落ちてれば助けてやれてたってのに」

「そりゃ、お互い様だろ。お前だってオレを助けようとしなかったらこんな奈落の底に落ちなかったのに」

「さあな、檜山の奴からは恨まれてる自覚は有るからな。助けようとしなくても別の機会に命狙われただろうぜ」

そりゃ、露出狂の変態のレッテルを貼られれば誰だって恨むだろう。

「まっ、どっちにしても単独行動するために雲隠れする予定だったんだ、オレのことは狙い通りになった、その程度の事だぜ」

魔物の攻撃に巻き込まれて落ちる予定だったのがクラスメイトの攻撃によってになったのは問題だが、その程度の差でしかない。

「それはそうと、手持ちの変身アイテムはまだ有るから、安全な所に出たらお前も使えそうな奴やろうか?」

「マジかよ!? 約束だからな!?」

自分向けではないライダーシステムはあるので、それらを渡したところで問題はないだろうと考えながら、オッケーという返事を返す京矢。

迷宮制覇に向けて改めて意識を向けるのだった。
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