ウルの街防衛戦
その頃、クラスメイト達は……
場所は、【オルクス大迷宮】の八十九層。前衛を務める光輝、龍太郎、雫、永山、近藤に、後衛からタイミングを合わせた魔法による総攻撃の発動カウントが告げられる。
何とか後衛に襲いかかろうとする魔物達を、光輝達は鍛え上げた武技をもって打倒し、弾き返していく。
そして、彼らの探索が今までの人の限界を大幅に更新し、九十層に到達した頃、魔物を引き連れた魔人族の女に遭遇した。
その九十層で一度も魔物と遭遇しないことを誰もが疑問に思い始め、それを警戒して撤退するか進むかで意見が分かれた頃だった。
現れた魔人族の女からの勧誘の言葉を光輝が否定したことで、光輝達の魔人族との初めての戦闘が開始される。
敵の従える姿の見えない魔物や回復役の魔物の存在に苦しめられる中、京矢と比べられ続けた光輝の執念によるものか、限界突破の効果もあり魔人族を追い詰める。
だが……
「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」
トドメを刺される寸前の彼女のその一言で、光輝は剣を止めてしまう。
ここでようやく、敵は自分達と同じ知的生物だと言う事を、自分達が人を相手に戦争をしているという自覚を持ったのだ。いや、持ってしまった。
そのことを自覚してしまった光輝は、この期に及んで話し合いで解決しようなどという場違いな発言をしている。
少なくとも、その場に於いて優位に立っているのは光輝の筈なのに、追い詰められている顔をしているのは光輝だった。
そんな時だった。
『ハリケーン、クリティカルストライク!』
「うわぁ!!!」
そんな場違いな音と共に突如襲いかかって来た竜巻に、光輝は吹き飛ばされてしまう。
竜巻に巻き上げられ壁に叩きつけられる光輝を他所に二つの足音が近づいてくる。
「危ないところだったな」
「助けに来たよ~」
そして、それ以外にも複数の足音とそんな声が竜巻の向かって来た方向から聞こえる。其方へと視線を向けると、
「何だって……?」
「嘘だろ……?」
忍者を思わせる特撮ヒーローの様な姿の男とパーカーの少女。その後ろには槍で武装したロボットの様な鎧の兵士達と、スーツ姿の四人の男女。
そして、ゆっくりと忍者の様な男……風魔はベルトに触れ、ガシャットを抜き取ると変身が解除される。
光輝達が驚いているのは新たに現れた彼等の服装だった。バラバラだが共通点は一つある。……それは、彼等の身に纏っている衣服が全てトータスには存在しない地球のデザインの衣服である事だ。
目の前にある光景に信じられないと言う顔をする一行を代表するように光輝が口を開く。
「君達は……地球の人間なのか?」
「その通り。私は……そう、風魔だ」
「私はダークゴーストだよー。宜しくねー」
「彼らは、滅、亡、迅、雷だ」
光輝の問いかけに明らかに偽名と分かる様な名を名乗り一礼すると、ダークゴーストに指示を出し、風魔は改めて光輝達に向き直る。
風魔の意図を理解したダークゴーストが魔人族の女に手を翳すと、彼女の体が崩れ落ちる。穏やかな寝息を立てている事からダークゴーストが眠らせたのだろう。
「さて、此処で会えたのも幸いなのでこう言っておこう。此方には地球との移動手段がある」
『っ!?』
風魔と名乗った男の言葉に全員に動揺が走る。これ以上ないほど欲していた地球に帰る方法が目の前に現れたのだ。動揺しない訳が無い。
「条件次第では君達を地球に連れて行っても良い」
風魔の言葉に動揺しながらも、相手の提案に喜びの篭ったザワメキが起こる。
だから、誰も疑問に思えない。風魔は連れて行く、連れ帰るとは言っていないのだ。
「条件は、お前達がこちら側に来る事だ。どうだ、簡単だろ?」
「断る! 人間族を……仲間達を……王国の人達を……裏切れなんて、同じ人間なのに、よくもそんなことが言えたな! その魔人族と同じ様に、わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、お前達こそ投降しろ!」
「いや、お前は特に不要だ。何の価値もない、寧ろ居られるとマイナス。速やかに此処で死んでくれ」
風魔の言葉に流石の光輝もフリーズしてしまう。言葉は落ち着いているが、顔は明らかに嫌そうな上に、手を横に振っている。
光輝の言葉に対して滅多斬りというレベルで切り捨てた風魔は他に龍太郎と小悪党達を指差し、
「ああ、後、お前達も要らないからな。この場で始末する。見せしめの意味で、投降しようがするだけ無駄だ。どっちにしても始末するだけだ」
あんまりな言葉に思わず言葉を失う指名された彼等を他所に、残りの者達を一瞥し風魔は更に言葉を続ける。
「此方としてはバールクスへの人質に使える程度の人数の確保ができればそれで良い。断れば始末させてもらう」
風魔の言うバールクスと言う言葉の意味は分からないが、少なくとも大人しく降伏すれば殺されないのは分かる。
「それにお前達程度、戦力として求めてはいない。人質として囚われている。それだけの役割しか求めていない。それならば別に裏切りでは無いだろう? 勿論、降伏すれば、降伏した者は全員地球にも連れて行こう。……お前達以外はな」
犠牲は出るが地球に帰れる。そもそも、自分達は勇者である光輝に巻き込まれた被害者なのだ。そいつが犠牲になれば帰れる。何人かの心にそんな悪魔の様な誘惑が染み込む。
「答えは同じだ! 何を言われても、俺の仲間達が裏切る事なんて一切ない!」
「そうか。なら良い」
即答する光輝に何人かが巫山戯るなと叫びそうになる中、あっさりと交渉決裂とした風魔の合図で言葉に後ろにいる四人の男女と風魔とダークゴーストはそれぞれの変身アイテムを取り出す。
『ハリケーンニンジャ』
『アーイ!』『バッチリミナー!』
『POISON』
『WING』
『ドードー』
『ジャパニーズウルフ』
『変身』
その言葉と共に目の前に起こるあり得ざる光景に、彼等は思わず言葉を失ってしまう。
『マキマキ! 竜巻! ハリケーンニンジャ!』
『カイガン! ダークライダー! 闇の力! 悪い奴ら!』
『フォースライズ! スティングスコーピオン! Break down. 』
『フォースライズ! フライングファルコン! Break down... 』
『フォースライズ! ドードー! Break down. 』
『フォースライズ! ジャパニーズウルフ! Break down…… 』
風魔を筆頭にパーカーを纏い白い亡霊に姿を変える者、ダークゴースト。風を纏い変身する者、亡。雷を纏い変身する者、雷。ベルトから飛び出した隼に包まれる様に変身する者、迅。ベルトから飛び出した毒針に貫かれ変身する者、滅。
その光景をテレビの画面越しに見た記憶が無い者は、光輝位しか居ないだろう。
それは異世界転移と言う非現実以上に非現実な、特撮ヒーローの世界に迷い込んだ様に感じてしまう。
「特撮、ヒーロー……?」
男子生徒の誰かがそう呟くと、誰もが幼い日に夢中になって画面越しに見た光景を目の当たりにして、これからヒーローに蹂躙される悪役になってしまった様な気持ちにも襲われる。
目の前に並び立つのは六人のヒーロー。目の前に居るのがヒーローならば、自分達は悪役? 自分達は人間族の危機を救うために異世界から召喚された勇者じゃ無いのか? そんな疑問が男子生徒達の中に湧いてくる。
「ま、まだだ! 多勢に無勢なんだ!」
兵士達は大した事は無いと判断したのだろう。六人の仮面ライダー達だけが危険だと考えたのだろうか?
「そうか、ならばアレの実戦テストも行うとしよう」
そんな光輝の言葉を鼻で笑いながら、風魔が手をあげると四人の兵士が兵士達の中から人が一人入れるサイズのカプセルを四つ運んでくる。
地面に置かれたカプセルが開き、その中から新たに四人の人影が現れる。風魔達が回収した僅かなエネルギーを元に再生、制御させた闇の戦士。
『ゼロダークネス』
『エックスダークネス』
『オーブダークネス』
『ジードダークネス』
かつて、ウルトラマンが存在した宇宙で誕生した光の戦士達の複製体を元に生み出された複製体達。
滅亡迅雷netと合わせ平成無効を持つ対バールクス用の為に用意した複製体のダークネスだ。
敵として並び立つ仮面ライダーとウルトラマン。それは悪夢の様な光景だろう。
「人質は管理が楽な2〜3人程でいい。使えそうな奴以外は、殺せ」
冷酷な風魔の宣言と共にダークライダー達とダークネス達は光輝達|一党《パーティ》に各々の武器を構えて、向かって行く。
最初に動いたのはゼロダークネスだ。
地面を砕くほどの踏み込みでゼロダークネスの姿が光輝達の視界から消える。視認すら許さない動きを見せるゼロダークネスが狙ったのは、
「ぐっ!」
「がっ!」
響くのは二つの苦悶の声。
先ずは龍太郎と永山が苦悶の声を上げて吹き飛ばされる。彼等が立っていた筈の場所には、ゼロダークネスが拳を振り切った姿で佇んでいる。
永山は、〝重格闘家〟という天職を持っており、格闘系天職の中でも特に防御に適性がある。
〝身体強化〟の派生技能で〝身体硬化〟という技能と〝金剛〟を習得しており、両技能を重掛けした場合の耐久力は鋼鉄の盾よりも遥かに上だ。
自らの巨体も合わせれば、その人間要塞とも言うべき防御を突破するのは至難と言っていい。
だが、その永山でさえ、ゼロダークネスの攻撃は、防御する事さえ許されず、龍太郎と共に血反吐を吐きながら吹き飛び、たまたま後方にいた全裸の三人にぶつかって辛うじて地面への激突という追加ダメージを免れるという有様だった。
突然の襲撃に、反応しきれていないクラスメイト達を揺らめきが切り裂かんと迫った、その瞬間、
「光の恩寵と加護をここに! 〝回天〟〝天絶〟!」
香織が殆ど無詠唱かと思うほどの詠唱省略で同時に二つの光系魔法を発動した。
殴り飛ばされ、吹き飛び、地面に叩きつけられた龍太郎と永山を即座に癒す光系中級回復魔法〝回天〟。
複数の離れた場所にいる対象を同時に治癒する魔法だ。痛みに呻きながら何とか起き上がろうともがく二人に淡い白光が降り注ぎ、尋常でない速度で傷が塞がっていく。
そんな二人の回復を待つ様に、かかって来いとでも言うような態度でゼロダークネスは構えをとったまま、追撃もせずに手招きしている。
二つ目は光系の中級防御魔法〝天絶〟。〝光絶〟という光のシールドを発動する光系の初級防御魔法の上位版で、複数枚を一度に出す魔法だ。
〝結界師〟である鈴などは、この魔法を応用して、壊される端から高速でシールドを補充し続け、弱く直ぐに破壊されるが突破に時間がかかる多重障壁という使い方をしたりする。この点、香織は、光属性全般に高い適性を持つものの、結界専門の鈴には及ばないため、そのような使い方は出来ない。精々、設置するシールドの微調整が出来る程度だ。
光のシールドがその揺らめきの正体。鈴を狙った風魔の忍者刀を間一髪のところで逸らす。
それを鼻で笑いながら風魔が後ろに飛ぶと、慌てて鈴が張った強力な結界をオーブダークネスのダークネスカリバーによる一閃と、ジードダークネスの拳が簡単に砕き、その余波だけで小柄な鈴は吹き飛ばされる。
吹き飛ばされ鈴を受け止めていた恵里が片手を突き出し、鈴と同様、危機感から続けていた詠唱を完成させ、強力な炎系魔法を発動させた。〝海炎〟という名の炎系中級魔法は、文字通り、炎の津波を操る魔法で分類するなら範囲魔法だ。素早い敵でも、そう簡単には避けられはしない。
だが、敵にとって彼女の魔法程度は回避する必要すらない。
新たに現れたエックスダークネスがダークネスゴモラアーマーを纏い、炎の津波はエックスダークネスが放ったダークネスゴモラ振動波によって掻き消してしまう。
オーブ、ジード、エックスの三体のウルトラマンのダークネス。その中央に立つエックスダークネスが残った火の粉を鬱陶しげに振り払う。
鈴と恵理と香織の三人を標的に捉えたダークネス達に
「香織から離れろぉおお!!」
鈴と恵理はいいのか? とツッコミを入れてはいけない。
光輝は、怒りを多分に含ませた雄叫び上げながら〝縮地〟で一気に三人の近くにいたダークネス達に踏み込もうとする。
「させないよー」
そんな光輝の移動速度が焦点速度を超えて背後に残像を生み出し、振りかぶった聖剣をムサシ魂に変身していたダークゴーストが、二刀を持って受け止めて無防備な身体に無慈悲な一撃を打ち込む。
闇を前にした絶望は此処から始まるのだ。
***
「ゲフッ!」
「ガハァ!」
ゼロダークネスに再び殴り飛ばされる永山と龍太郎の二人。拳士と重格闘家と言う天職の二人の土俵で戦っていながら、ゼロダークネスには彼等の攻撃など擦り傷を付けるどころか、触れることすら許されていない圧倒的な力と技の差を見せ付けられている。
技能の重ねがけで最大の防御力を得た永山がゼロダークネスの攻撃を受け止め、その隙に龍太郎に攻撃させようと捨て身の行動に出るも、鋼鉄の盾を超える防御力を得た永山をゼロダークネスは一撃で龍太郎諸共吹き飛ばし、今までの戦いで得ていた筈の彼の自信を粉々に砕いていく。
離れようとすれば額から放たれる光線で狙われ、二人は技量も力も上のゼロダークネス相手に近接戦を強要されている。
「それそれそれー」
一方で、ムサシ魂に変身したダークゴーストと戦う光輝に至っては、京矢やメルドどころか、のんびりとした口調で喋る少女に剣で負けている現実に動揺が生まれ、振るう剣も荒くなり、そんな剣がタダでさえ剣技で上回るムサシ魂に通用する訳もない。
「ぶっ!」
そんな中、突然割り込んできた風魔の裏拳が光輝の顔面に叩きつけられる。
「何時まで遊んでいる」
「えへへー、ごめんねー」
「やれ」
オーブダークネスに風魔が指示を出すとオーブダークネスはダークネスカリバーを地面に突き刺し、両手を十字に組んで恵理と鈴へ向けて紫色の光線を放つ。
その様子を見た恵里が、表情に焦りを浮かべた。魔法を放ったばかりで対応する余裕がないからだ。だが、その焦りは、腕の中の親友がいつも通りの元気な声で吹き飛ばした。
「にゃめんな! 守護の光は重なりて 意志ある限り蘇る〝天絶〟!」
刹那、鈴達の前に十枚の光のシールドが重なるように出現した。
そのシールドは全て、斜め四十五度に設置されており、シールドの出現と同時に、オーブダークネスから放たれた紫の光線はシールドを粉砕しながらも辛うじて上方へと逸らされていった。
「おおー、お見事ー」
見事にオーブダークネスの光線を防いで見せた鈴に、ダークゴーストは拍手をしながら称賛する。
「ちくしょう! 何なんだってんだよ!」
「何なんだよ、こいつら!?」
叩き付けられる圧倒的な力の差に最早恐怖しか湧かない。
人間族の勇者として異世界に召喚された自分達が、特撮ヒーローに蹂躪されるなどと言う、特撮番組の悪役にでもなったかの様な、悪夢の様な現実に悪態しか出て来ない。
他の生徒達が錯乱する中、これ以上は好きにはさせないとばかりに雫が、残像すら見えない超高速の世界に入る。
風が破裂するようなヴォッ! という音を一瞬響かせて姿が消えたかと思えば、次の瞬間には混乱していた者達に向かおうとしていた仮面ライダー達の一人の亡の真後ろに現れて、これまたいつの間にか納刀していた剣を抜刀術の要領で抜き放った。
〝無拍子〟による予備動作のない移動と斬撃。姿すら見えないのは単純な移動速度というより、急激な緩急のついた動きに認識が追いつかないからだ。
さらに、剣術の派生技能により斬撃速度と抜刀速度が重ねて上昇する。鞘走りを利用した素の剣速と合わせれば、普通の生物には認識すら叶わない神速の一閃となる。だが、敵は普通の生物ではなく仮面ライダー。
好き勝手やってくれたお返しとばかりに放たれたそれは八重樫流奥義が一〝断空〟。
空間すら断つという名に相応しく、銀色の剣線のみが虚空に走ったかと思えば、次の瞬間には、一瞥もせずに四人の仮面ライダー達は彼女の攻撃範囲から逃れていた。
続け様に亡が両腕から爪を出現させて雫との近接戦に移行する。
(くっ!)
周囲の壁を簡単に切り裂き、同等のスピードで動く亡を相手に、相手の攻撃を必死に回避する。
心を折る為に、最悪死んでも構わないと言う態度で攻撃されているのだ。特に防御面では高くない雫にとって同等のスピードであり、攻撃力が上の亡は一瞬でも気を抜いたら死ぬ様な相手だ。
スピードファイターである雫が防御に秀でた永山が血反吐を吐いて吹き飛ばされる一撃を受けたら、それだけで無事では済まないだろう。
彼等の語るバールクスと言う名前には聞き覚えがない。だが、此処で降伏すれば最悪命だけは助かるかも知れないし、ただ人質とされていれば良い。
だが、バールクスと呼んだ相手に対して自分たちが人質にすらならなかったら、
最悪の事態を想像して降伏の選択肢を頭から消すと、更に残りの滅と迅、雷も参戦する。
呼吸が荒くなり疲労が増す、肺の苦しさが増す。だが一瞬でも止まれば死ぬかも知れない。唯一の救いは死んでも構わないが一応程度の人質としての価値で捕獲を前提に動いてくれた事だろう。
雫が一人で滅亡迅雷の四人のライダー達を引き付けている中、風魔は他の生徒達に再度降伏を促す。
「どうする? 今からでも、そこの阿呆の首でも切り落とせば、降伏を認めてやるが?」
「ふざけるな! 俺達は脅しには屈しない! 俺達は絶対に負けはしない! それを証明してやる! お前達こそ、降伏して罪を償え!」
「笑える冗談だな」
「行くぞ〝限界突破〟!」
まあ、降伏条件が自分の死なのだから自分から降伏したりなしないだろう。風魔自身もさっさと降伏してくれれば楽だと言うだけで提案したに過ぎない。
光輝は全身に神々しい光を纏う。
〝限界突破〟は、一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの三倍の力を得る技能である。
ただし、文字通り限界を突破しているので、長時間の使用も常時使用もできないし、使用したあとは、使用時間に比例して弱体化してしまう。酷い倦怠感と本来の力の半分程度しか発揮できなくなるのだ。なので、ここぞという時の切り札として使用する時と場合を考えなければならない。
光輝は、圧倒的な強さと、ヒーローの様な姿の敵と戦っている状況に士気が下がり押し切られると判断し、〝限界突破〟を使用して一気にリーダー格の風魔を倒そうと考えた。
「刃の如き意志よ 光に宿りて敵を切り……ブッ!」
光輝は聖剣に光の刃を付加させて下段より一気に切り裂こうとするも、顔面を風魔に蹴り飛ばされ、詠唱を無理矢理中断させられる。
「目の前で長々と詠唱させるバカがいるか」
「くそ!」
スピードファイターのくせにパワーも自分を上回る風魔から距離を取ろうとするが、振り払えない。〝限界突破〟を使った上で〝縮地〟を使っても、純粋な身体能力だけで風魔は光輝に肉薄しているのだ。
しかも、相手にはまだ余裕がある素振りさえ見せている。
「私もいるよー」
風魔だけではない。パーカーの色と形が変わっているダークゴーストが、今度はハンマーの様な武器で殴りかかってくる。風魔と戦っている隙にムサシ魂からベンケイ魂にフォームチェンジしたのだ。
完全に、ベンケイ魂のダークゴーストと風魔に遊ばれている光輝。
身に纏った聖なる鎧の力を信じないわけでは無いが、あんな物に当たったら無事では済まないと言う考えがあるのだろう。
「ガッ!」
ダークゴーストの動きに気を取られていた光輝の腹部に忍者刀が突き刺さる。ヒット&ウェイを守り、風魔が素早く忍者刀ごと後ろに下がる事で、突き刺さっていた刀が抜け、腹部から鮮血が舞う。
「運が良いな。内臓は避けたか?」
その姿を見てトドメでも刺そうと言うのかダークゴーストと同時に光輝に襲い掛かろうとする風魔。
「光の恩寵よ、癒しと戒めをここに〝焦天〟! 〝封縛〟!」
光輝のピンチを見た香織が、すかさず、光系の回復魔法を行使した。〝焦天〟一人用の中級回復魔法だ。
更に同時発動により、光系の中級捕縛魔法〝封縛〟を行使する。
〝封縛〟は、対象を中心に光の檻を作り出して閉じ込める魔法だ。香織は、その魔法を光輝にかけた。光輝を中心に光の檻が瞬時に展開し、風魔とダークゴーストから守る。
同時に、ダークネス達に近づくなと言わんばかりに必死に魔法を放っていた後衛組の何人かが、光輝と戦っている風魔達に向かって攻撃魔法を放った。
自身へと迫る魔法を一瞥しながら風魔は、忍者刀を持ったまま両手で印を組む。
「|影分身の術《出ろ、忍者プレイヤー》!」
風魔が印を組むと彼の背後に風魔に似た戦闘員『忍者プレイヤー』達が現れる。
現れた忍者プレイヤー達は、自ら本体である風魔を守る為に攻撃魔法に突っ込んでいき、次々と青い粒子となって消えていく中、生き残った忍者プレイヤー達が後衛の生徒達の中に飛び込み、彼等に襲い掛かる。
飛び込んできた忍者プレイヤー達によって後衛側で悲鳴が上がる中、風魔を睨みつける光輝が体勢を立て直す時間は稼げたようで、聖剣を構え直すと、治癒されながら唱えていた詠唱を完成させ反撃に出た。
「〝天翔剣四翼〟!」
振るわれた聖剣から曲線を描く光の斬撃が四つ風魔に飛翔する。狙われた風魔は、〝限界突破〟により強化された光輝の十八番を光の手裏剣で打ち落とし、最後の一発を忍者刀で切り払う。
「で?」
得意技を簡単に防がれ、嘲笑う様に告げられた事に唖然とする光輝。
「あぁああああ!!」
「鈴ちゃん!」
「鈴!」
忍者プレイヤー達の投げた光の手裏剣が鈴の腹と左腿、右腕に突き刺さり、苦悶の声を上げる。
その苦悶の声を聞いて香織と恵里が、思わず悲鳴じみた声で鈴の名を呼ぶ。
「ひぃ!?」
恐怖心から逃亡しようとした生徒の一人の魔法が逃げ道を塞いでいた兵士の頭に直撃し、兜の一部が砕けると、そこには苦悶の表情を浮かべる檜山の顔があった。
「ひ、檜山……?」
別の兵士が同じ様に兜の壊れた部分を剥がすとそこにも檜山の顔が現れる。それに合わせて次々と兜を外していく兵士達の顔は何れも檜山だった。
苦悶の表情を浮かべたゾンビの様な顔をした檜山の大群。最早、理解が追いつかない様子だ。
「ガフッ!」
目の前の状況に戸惑っていた生徒の一人の腹に、忍者プレイヤーの小太刀が刺さる。
それを機に次々と生徒の体に、群がる様に忍者プレイヤー達の忍者刀が突き立てられていく。忍者プレイヤー達が離れると全身から血を流しながら、口から吐血して生徒の体が力なく倒れる。
「光輝! 撤退するわよ! 退路を切り開いて!」
「なっ!? 此処までされて、逃げろっていうのか!」
しかし、仲間を傷つけられた事に激しい怒りを抱く光輝は、キッと雫を睨みつけて反論した。光輝から放たれるプレッシャーが雫にも降り注ぐが、雫は柳に風と受け流し、険しい表情のまま光輝を説得する。
限界突破もそろそろ限界と言う言葉や、雫が唇の端から血を流していることに気がつき、茹だった頭がスッと冷えるのを感じた。
雫も悔しいのだ。思わず、唇を噛み切ってしまう程に。大事な仲間をやられて、出来ることなら今すぐ敵をぶっ飛ばしてやりたいのだ。……だが、敵はマトモな攻撃さえしてこない。単純に追いかけっこをさせられていた。その事が何よりも許せないのだ。
そうはさせまいと兵士達が動き出そうとするが、先程の魔族の女が連れていた魔物達が起き上がり、兵士達に襲いかかってきた。
「ネクロマンシーか?」
「あなた達に光輝君の邪魔はさせない!」
そんなことを叫びながら、撤退の為の詠唱を始めた光輝の邪魔をさせまいと、手をタクトのように振るって死体の魔物達に包囲させたのは恵里だった。
「流石に此れは限界を超えているな? 惚れた男のために、と言うなら中々に妬けるな」
降霊術を苦手として実戦では使っていなかった恵里が、苦手なんて今、克服する! 限界なんて超えてやる! とでも言うように強い眼差しで小馬鹿にするように拍手をしている風魔達を睨むと、実戦で初めて使うとは思えないほど巧みにキメラ達を操り、倒すというより、時間を稼ぐように立ち回った。
光輝の聖剣に集まる輝きがなければ、限界になった者は自殺行為に走っていたかもしれない。
恵理の操るキメラ達が時間を稼ぐ中、メンバーが、今か今かと待っていたその時は……遂に訪れた。
「行くぞ! 〝天落流雨〟! 〝収束〟!」
まるでそれを待っていた様に、滅が、迅が、雷が、亡が、オーブダークネスが、エックスダークネスが、ジードダークネスが各々の必殺技を放ち魔物達の死体を、再利用出来ないように跡形も残さず消滅させる。
キメラ達が全滅させられた事で限界が来たのか、遂に恵理が倒れる中、
「〝天爪流雨〟!」
直後、突き出された聖剣から無数の流星が砲撃のごとく撃ち放たれる。
光輝の狙いは〝天爪流雨〟の副次効果、閃光による視覚へのダメージだ。
「今だ! 撤退するぞ!」
近くにいた鈴と香織が倒れた恵理に肩を貸し、光輝の声に従い全員が一斉にその場を逃げ出す。
「チッ」
忍者プレイヤー達の手裏剣が何人かの生徒に刺さり、動けなくなった者が倒れていく。
後に残されたのは忍者プレイヤーに襲撃され、自力で動く事の出来ない生徒達。全身に忍者刀を突き立てられて血塗れで虫の息の生徒が一人。
こんな状況でも光輝の取り巻きをやっていた女生徒を含み男女数人だ。
「追え!」
そんな彼らを放置して風魔達は忍者プレイヤー達と兵士達を先頭に光輝達の追撃に移る。
場所は、【オルクス大迷宮】の八十九層。前衛を務める光輝、龍太郎、雫、永山、近藤に、後衛からタイミングを合わせた魔法による総攻撃の発動カウントが告げられる。
何とか後衛に襲いかかろうとする魔物達を、光輝達は鍛え上げた武技をもって打倒し、弾き返していく。
そして、彼らの探索が今までの人の限界を大幅に更新し、九十層に到達した頃、魔物を引き連れた魔人族の女に遭遇した。
その九十層で一度も魔物と遭遇しないことを誰もが疑問に思い始め、それを警戒して撤退するか進むかで意見が分かれた頃だった。
現れた魔人族の女からの勧誘の言葉を光輝が否定したことで、光輝達の魔人族との初めての戦闘が開始される。
敵の従える姿の見えない魔物や回復役の魔物の存在に苦しめられる中、京矢と比べられ続けた光輝の執念によるものか、限界突破の効果もあり魔人族を追い詰める。
だが……
「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」
トドメを刺される寸前の彼女のその一言で、光輝は剣を止めてしまう。
ここでようやく、敵は自分達と同じ知的生物だと言う事を、自分達が人を相手に戦争をしているという自覚を持ったのだ。いや、持ってしまった。
そのことを自覚してしまった光輝は、この期に及んで話し合いで解決しようなどという場違いな発言をしている。
少なくとも、その場に於いて優位に立っているのは光輝の筈なのに、追い詰められている顔をしているのは光輝だった。
そんな時だった。
『ハリケーン、クリティカルストライク!』
「うわぁ!!!」
そんな場違いな音と共に突如襲いかかって来た竜巻に、光輝は吹き飛ばされてしまう。
竜巻に巻き上げられ壁に叩きつけられる光輝を他所に二つの足音が近づいてくる。
「危ないところだったな」
「助けに来たよ~」
そして、それ以外にも複数の足音とそんな声が竜巻の向かって来た方向から聞こえる。其方へと視線を向けると、
「何だって……?」
「嘘だろ……?」
忍者を思わせる特撮ヒーローの様な姿の男とパーカーの少女。その後ろには槍で武装したロボットの様な鎧の兵士達と、スーツ姿の四人の男女。
そして、ゆっくりと忍者の様な男……風魔はベルトに触れ、ガシャットを抜き取ると変身が解除される。
光輝達が驚いているのは新たに現れた彼等の服装だった。バラバラだが共通点は一つある。……それは、彼等の身に纏っている衣服が全てトータスには存在しない地球のデザインの衣服である事だ。
目の前にある光景に信じられないと言う顔をする一行を代表するように光輝が口を開く。
「君達は……地球の人間なのか?」
「その通り。私は……そう、風魔だ」
「私はダークゴーストだよー。宜しくねー」
「彼らは、滅、亡、迅、雷だ」
光輝の問いかけに明らかに偽名と分かる様な名を名乗り一礼すると、ダークゴーストに指示を出し、風魔は改めて光輝達に向き直る。
風魔の意図を理解したダークゴーストが魔人族の女に手を翳すと、彼女の体が崩れ落ちる。穏やかな寝息を立てている事からダークゴーストが眠らせたのだろう。
「さて、此処で会えたのも幸いなのでこう言っておこう。此方には地球との移動手段がある」
『っ!?』
風魔と名乗った男の言葉に全員に動揺が走る。これ以上ないほど欲していた地球に帰る方法が目の前に現れたのだ。動揺しない訳が無い。
「条件次第では君達を地球に連れて行っても良い」
風魔の言葉に動揺しながらも、相手の提案に喜びの篭ったザワメキが起こる。
だから、誰も疑問に思えない。風魔は連れて行く、連れ帰るとは言っていないのだ。
「条件は、お前達がこちら側に来る事だ。どうだ、簡単だろ?」
「断る! 人間族を……仲間達を……王国の人達を……裏切れなんて、同じ人間なのに、よくもそんなことが言えたな! その魔人族と同じ様に、わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、お前達こそ投降しろ!」
「いや、お前は特に不要だ。何の価値もない、寧ろ居られるとマイナス。速やかに此処で死んでくれ」
風魔の言葉に流石の光輝もフリーズしてしまう。言葉は落ち着いているが、顔は明らかに嫌そうな上に、手を横に振っている。
光輝の言葉に対して滅多斬りというレベルで切り捨てた風魔は他に龍太郎と小悪党達を指差し、
「ああ、後、お前達も要らないからな。この場で始末する。見せしめの意味で、投降しようがするだけ無駄だ。どっちにしても始末するだけだ」
あんまりな言葉に思わず言葉を失う指名された彼等を他所に、残りの者達を一瞥し風魔は更に言葉を続ける。
「此方としてはバールクスへの人質に使える程度の人数の確保ができればそれで良い。断れば始末させてもらう」
風魔の言うバールクスと言う言葉の意味は分からないが、少なくとも大人しく降伏すれば殺されないのは分かる。
「それにお前達程度、戦力として求めてはいない。人質として囚われている。それだけの役割しか求めていない。それならば別に裏切りでは無いだろう? 勿論、降伏すれば、降伏した者は全員地球にも連れて行こう。……お前達以外はな」
犠牲は出るが地球に帰れる。そもそも、自分達は勇者である光輝に巻き込まれた被害者なのだ。そいつが犠牲になれば帰れる。何人かの心にそんな悪魔の様な誘惑が染み込む。
「答えは同じだ! 何を言われても、俺の仲間達が裏切る事なんて一切ない!」
「そうか。なら良い」
即答する光輝に何人かが巫山戯るなと叫びそうになる中、あっさりと交渉決裂とした風魔の合図で言葉に後ろにいる四人の男女と風魔とダークゴーストはそれぞれの変身アイテムを取り出す。
『ハリケーンニンジャ』
『アーイ!』『バッチリミナー!』
『POISON』
『WING』
『ドードー』
『ジャパニーズウルフ』
『変身』
その言葉と共に目の前に起こるあり得ざる光景に、彼等は思わず言葉を失ってしまう。
『マキマキ! 竜巻! ハリケーンニンジャ!』
『カイガン! ダークライダー! 闇の力! 悪い奴ら!』
『フォースライズ! スティングスコーピオン! Break down. 』
『フォースライズ! フライングファルコン! Break down... 』
『フォースライズ! ドードー! Break down. 』
『フォースライズ! ジャパニーズウルフ! Break down…… 』
風魔を筆頭にパーカーを纏い白い亡霊に姿を変える者、ダークゴースト。風を纏い変身する者、亡。雷を纏い変身する者、雷。ベルトから飛び出した隼に包まれる様に変身する者、迅。ベルトから飛び出した毒針に貫かれ変身する者、滅。
その光景をテレビの画面越しに見た記憶が無い者は、光輝位しか居ないだろう。
それは異世界転移と言う非現実以上に非現実な、特撮ヒーローの世界に迷い込んだ様に感じてしまう。
「特撮、ヒーロー……?」
男子生徒の誰かがそう呟くと、誰もが幼い日に夢中になって画面越しに見た光景を目の当たりにして、これからヒーローに蹂躙される悪役になってしまった様な気持ちにも襲われる。
目の前に並び立つのは六人のヒーロー。目の前に居るのがヒーローならば、自分達は悪役? 自分達は人間族の危機を救うために異世界から召喚された勇者じゃ無いのか? そんな疑問が男子生徒達の中に湧いてくる。
「ま、まだだ! 多勢に無勢なんだ!」
兵士達は大した事は無いと判断したのだろう。六人の仮面ライダー達だけが危険だと考えたのだろうか?
「そうか、ならばアレの実戦テストも行うとしよう」
そんな光輝の言葉を鼻で笑いながら、風魔が手をあげると四人の兵士が兵士達の中から人が一人入れるサイズのカプセルを四つ運んでくる。
地面に置かれたカプセルが開き、その中から新たに四人の人影が現れる。風魔達が回収した僅かなエネルギーを元に再生、制御させた闇の戦士。
『ゼロダークネス』
『エックスダークネス』
『オーブダークネス』
『ジードダークネス』
かつて、ウルトラマンが存在した宇宙で誕生した光の戦士達の複製体を元に生み出された複製体達。
滅亡迅雷netと合わせ平成無効を持つ対バールクス用の為に用意した複製体のダークネスだ。
敵として並び立つ仮面ライダーとウルトラマン。それは悪夢の様な光景だろう。
「人質は管理が楽な2〜3人程でいい。使えそうな奴以外は、殺せ」
冷酷な風魔の宣言と共にダークライダー達とダークネス達は光輝達|一党《パーティ》に各々の武器を構えて、向かって行く。
最初に動いたのはゼロダークネスだ。
地面を砕くほどの踏み込みでゼロダークネスの姿が光輝達の視界から消える。視認すら許さない動きを見せるゼロダークネスが狙ったのは、
「ぐっ!」
「がっ!」
響くのは二つの苦悶の声。
先ずは龍太郎と永山が苦悶の声を上げて吹き飛ばされる。彼等が立っていた筈の場所には、ゼロダークネスが拳を振り切った姿で佇んでいる。
永山は、〝重格闘家〟という天職を持っており、格闘系天職の中でも特に防御に適性がある。
〝身体強化〟の派生技能で〝身体硬化〟という技能と〝金剛〟を習得しており、両技能を重掛けした場合の耐久力は鋼鉄の盾よりも遥かに上だ。
自らの巨体も合わせれば、その人間要塞とも言うべき防御を突破するのは至難と言っていい。
だが、その永山でさえ、ゼロダークネスの攻撃は、防御する事さえ許されず、龍太郎と共に血反吐を吐きながら吹き飛び、たまたま後方にいた全裸の三人にぶつかって辛うじて地面への激突という追加ダメージを免れるという有様だった。
突然の襲撃に、反応しきれていないクラスメイト達を揺らめきが切り裂かんと迫った、その瞬間、
「光の恩寵と加護をここに! 〝回天〟〝天絶〟!」
香織が殆ど無詠唱かと思うほどの詠唱省略で同時に二つの光系魔法を発動した。
殴り飛ばされ、吹き飛び、地面に叩きつけられた龍太郎と永山を即座に癒す光系中級回復魔法〝回天〟。
複数の離れた場所にいる対象を同時に治癒する魔法だ。痛みに呻きながら何とか起き上がろうともがく二人に淡い白光が降り注ぎ、尋常でない速度で傷が塞がっていく。
そんな二人の回復を待つ様に、かかって来いとでも言うような態度でゼロダークネスは構えをとったまま、追撃もせずに手招きしている。
二つ目は光系の中級防御魔法〝天絶〟。〝光絶〟という光のシールドを発動する光系の初級防御魔法の上位版で、複数枚を一度に出す魔法だ。
〝結界師〟である鈴などは、この魔法を応用して、壊される端から高速でシールドを補充し続け、弱く直ぐに破壊されるが突破に時間がかかる多重障壁という使い方をしたりする。この点、香織は、光属性全般に高い適性を持つものの、結界専門の鈴には及ばないため、そのような使い方は出来ない。精々、設置するシールドの微調整が出来る程度だ。
光のシールドがその揺らめきの正体。鈴を狙った風魔の忍者刀を間一髪のところで逸らす。
それを鼻で笑いながら風魔が後ろに飛ぶと、慌てて鈴が張った強力な結界をオーブダークネスのダークネスカリバーによる一閃と、ジードダークネスの拳が簡単に砕き、その余波だけで小柄な鈴は吹き飛ばされる。
吹き飛ばされ鈴を受け止めていた恵里が片手を突き出し、鈴と同様、危機感から続けていた詠唱を完成させ、強力な炎系魔法を発動させた。〝海炎〟という名の炎系中級魔法は、文字通り、炎の津波を操る魔法で分類するなら範囲魔法だ。素早い敵でも、そう簡単には避けられはしない。
だが、敵にとって彼女の魔法程度は回避する必要すらない。
新たに現れたエックスダークネスがダークネスゴモラアーマーを纏い、炎の津波はエックスダークネスが放ったダークネスゴモラ振動波によって掻き消してしまう。
オーブ、ジード、エックスの三体のウルトラマンのダークネス。その中央に立つエックスダークネスが残った火の粉を鬱陶しげに振り払う。
鈴と恵理と香織の三人を標的に捉えたダークネス達に
「香織から離れろぉおお!!」
鈴と恵理はいいのか? とツッコミを入れてはいけない。
光輝は、怒りを多分に含ませた雄叫び上げながら〝縮地〟で一気に三人の近くにいたダークネス達に踏み込もうとする。
「させないよー」
そんな光輝の移動速度が焦点速度を超えて背後に残像を生み出し、振りかぶった聖剣をムサシ魂に変身していたダークゴーストが、二刀を持って受け止めて無防備な身体に無慈悲な一撃を打ち込む。
闇を前にした絶望は此処から始まるのだ。
***
「ゲフッ!」
「ガハァ!」
ゼロダークネスに再び殴り飛ばされる永山と龍太郎の二人。拳士と重格闘家と言う天職の二人の土俵で戦っていながら、ゼロダークネスには彼等の攻撃など擦り傷を付けるどころか、触れることすら許されていない圧倒的な力と技の差を見せ付けられている。
技能の重ねがけで最大の防御力を得た永山がゼロダークネスの攻撃を受け止め、その隙に龍太郎に攻撃させようと捨て身の行動に出るも、鋼鉄の盾を超える防御力を得た永山をゼロダークネスは一撃で龍太郎諸共吹き飛ばし、今までの戦いで得ていた筈の彼の自信を粉々に砕いていく。
離れようとすれば額から放たれる光線で狙われ、二人は技量も力も上のゼロダークネス相手に近接戦を強要されている。
「それそれそれー」
一方で、ムサシ魂に変身したダークゴーストと戦う光輝に至っては、京矢やメルドどころか、のんびりとした口調で喋る少女に剣で負けている現実に動揺が生まれ、振るう剣も荒くなり、そんな剣がタダでさえ剣技で上回るムサシ魂に通用する訳もない。
「ぶっ!」
そんな中、突然割り込んできた風魔の裏拳が光輝の顔面に叩きつけられる。
「何時まで遊んでいる」
「えへへー、ごめんねー」
「やれ」
オーブダークネスに風魔が指示を出すとオーブダークネスはダークネスカリバーを地面に突き刺し、両手を十字に組んで恵理と鈴へ向けて紫色の光線を放つ。
その様子を見た恵里が、表情に焦りを浮かべた。魔法を放ったばかりで対応する余裕がないからだ。だが、その焦りは、腕の中の親友がいつも通りの元気な声で吹き飛ばした。
「にゃめんな! 守護の光は重なりて 意志ある限り蘇る〝天絶〟!」
刹那、鈴達の前に十枚の光のシールドが重なるように出現した。
そのシールドは全て、斜め四十五度に設置されており、シールドの出現と同時に、オーブダークネスから放たれた紫の光線はシールドを粉砕しながらも辛うじて上方へと逸らされていった。
「おおー、お見事ー」
見事にオーブダークネスの光線を防いで見せた鈴に、ダークゴーストは拍手をしながら称賛する。
「ちくしょう! 何なんだってんだよ!」
「何なんだよ、こいつら!?」
叩き付けられる圧倒的な力の差に最早恐怖しか湧かない。
人間族の勇者として異世界に召喚された自分達が、特撮ヒーローに蹂躪されるなどと言う、特撮番組の悪役にでもなったかの様な、悪夢の様な現実に悪態しか出て来ない。
他の生徒達が錯乱する中、これ以上は好きにはさせないとばかりに雫が、残像すら見えない超高速の世界に入る。
風が破裂するようなヴォッ! という音を一瞬響かせて姿が消えたかと思えば、次の瞬間には混乱していた者達に向かおうとしていた仮面ライダー達の一人の亡の真後ろに現れて、これまたいつの間にか納刀していた剣を抜刀術の要領で抜き放った。
〝無拍子〟による予備動作のない移動と斬撃。姿すら見えないのは単純な移動速度というより、急激な緩急のついた動きに認識が追いつかないからだ。
さらに、剣術の派生技能により斬撃速度と抜刀速度が重ねて上昇する。鞘走りを利用した素の剣速と合わせれば、普通の生物には認識すら叶わない神速の一閃となる。だが、敵は普通の生物ではなく仮面ライダー。
好き勝手やってくれたお返しとばかりに放たれたそれは八重樫流奥義が一〝断空〟。
空間すら断つという名に相応しく、銀色の剣線のみが虚空に走ったかと思えば、次の瞬間には、一瞥もせずに四人の仮面ライダー達は彼女の攻撃範囲から逃れていた。
続け様に亡が両腕から爪を出現させて雫との近接戦に移行する。
(くっ!)
周囲の壁を簡単に切り裂き、同等のスピードで動く亡を相手に、相手の攻撃を必死に回避する。
心を折る為に、最悪死んでも構わないと言う態度で攻撃されているのだ。特に防御面では高くない雫にとって同等のスピードであり、攻撃力が上の亡は一瞬でも気を抜いたら死ぬ様な相手だ。
スピードファイターである雫が防御に秀でた永山が血反吐を吐いて吹き飛ばされる一撃を受けたら、それだけで無事では済まないだろう。
彼等の語るバールクスと言う名前には聞き覚えがない。だが、此処で降伏すれば最悪命だけは助かるかも知れないし、ただ人質とされていれば良い。
だが、バールクスと呼んだ相手に対して自分たちが人質にすらならなかったら、
最悪の事態を想像して降伏の選択肢を頭から消すと、更に残りの滅と迅、雷も参戦する。
呼吸が荒くなり疲労が増す、肺の苦しさが増す。だが一瞬でも止まれば死ぬかも知れない。唯一の救いは死んでも構わないが一応程度の人質としての価値で捕獲を前提に動いてくれた事だろう。
雫が一人で滅亡迅雷の四人のライダー達を引き付けている中、風魔は他の生徒達に再度降伏を促す。
「どうする? 今からでも、そこの阿呆の首でも切り落とせば、降伏を認めてやるが?」
「ふざけるな! 俺達は脅しには屈しない! 俺達は絶対に負けはしない! それを証明してやる! お前達こそ、降伏して罪を償え!」
「笑える冗談だな」
「行くぞ〝限界突破〟!」
まあ、降伏条件が自分の死なのだから自分から降伏したりなしないだろう。風魔自身もさっさと降伏してくれれば楽だと言うだけで提案したに過ぎない。
光輝は全身に神々しい光を纏う。
〝限界突破〟は、一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの三倍の力を得る技能である。
ただし、文字通り限界を突破しているので、長時間の使用も常時使用もできないし、使用したあとは、使用時間に比例して弱体化してしまう。酷い倦怠感と本来の力の半分程度しか発揮できなくなるのだ。なので、ここぞという時の切り札として使用する時と場合を考えなければならない。
光輝は、圧倒的な強さと、ヒーローの様な姿の敵と戦っている状況に士気が下がり押し切られると判断し、〝限界突破〟を使用して一気にリーダー格の風魔を倒そうと考えた。
「刃の如き意志よ 光に宿りて敵を切り……ブッ!」
光輝は聖剣に光の刃を付加させて下段より一気に切り裂こうとするも、顔面を風魔に蹴り飛ばされ、詠唱を無理矢理中断させられる。
「目の前で長々と詠唱させるバカがいるか」
「くそ!」
スピードファイターのくせにパワーも自分を上回る風魔から距離を取ろうとするが、振り払えない。〝限界突破〟を使った上で〝縮地〟を使っても、純粋な身体能力だけで風魔は光輝に肉薄しているのだ。
しかも、相手にはまだ余裕がある素振りさえ見せている。
「私もいるよー」
風魔だけではない。パーカーの色と形が変わっているダークゴーストが、今度はハンマーの様な武器で殴りかかってくる。風魔と戦っている隙にムサシ魂からベンケイ魂にフォームチェンジしたのだ。
完全に、ベンケイ魂のダークゴーストと風魔に遊ばれている光輝。
身に纏った聖なる鎧の力を信じないわけでは無いが、あんな物に当たったら無事では済まないと言う考えがあるのだろう。
「ガッ!」
ダークゴーストの動きに気を取られていた光輝の腹部に忍者刀が突き刺さる。ヒット&ウェイを守り、風魔が素早く忍者刀ごと後ろに下がる事で、突き刺さっていた刀が抜け、腹部から鮮血が舞う。
「運が良いな。内臓は避けたか?」
その姿を見てトドメでも刺そうと言うのかダークゴーストと同時に光輝に襲い掛かろうとする風魔。
「光の恩寵よ、癒しと戒めをここに〝焦天〟! 〝封縛〟!」
光輝のピンチを見た香織が、すかさず、光系の回復魔法を行使した。〝焦天〟一人用の中級回復魔法だ。
更に同時発動により、光系の中級捕縛魔法〝封縛〟を行使する。
〝封縛〟は、対象を中心に光の檻を作り出して閉じ込める魔法だ。香織は、その魔法を光輝にかけた。光輝を中心に光の檻が瞬時に展開し、風魔とダークゴーストから守る。
同時に、ダークネス達に近づくなと言わんばかりに必死に魔法を放っていた後衛組の何人かが、光輝と戦っている風魔達に向かって攻撃魔法を放った。
自身へと迫る魔法を一瞥しながら風魔は、忍者刀を持ったまま両手で印を組む。
「|影分身の術《出ろ、忍者プレイヤー》!」
風魔が印を組むと彼の背後に風魔に似た戦闘員『忍者プレイヤー』達が現れる。
現れた忍者プレイヤー達は、自ら本体である風魔を守る為に攻撃魔法に突っ込んでいき、次々と青い粒子となって消えていく中、生き残った忍者プレイヤー達が後衛の生徒達の中に飛び込み、彼等に襲い掛かる。
飛び込んできた忍者プレイヤー達によって後衛側で悲鳴が上がる中、風魔を睨みつける光輝が体勢を立て直す時間は稼げたようで、聖剣を構え直すと、治癒されながら唱えていた詠唱を完成させ反撃に出た。
「〝天翔剣四翼〟!」
振るわれた聖剣から曲線を描く光の斬撃が四つ風魔に飛翔する。狙われた風魔は、〝限界突破〟により強化された光輝の十八番を光の手裏剣で打ち落とし、最後の一発を忍者刀で切り払う。
「で?」
得意技を簡単に防がれ、嘲笑う様に告げられた事に唖然とする光輝。
「あぁああああ!!」
「鈴ちゃん!」
「鈴!」
忍者プレイヤー達の投げた光の手裏剣が鈴の腹と左腿、右腕に突き刺さり、苦悶の声を上げる。
その苦悶の声を聞いて香織と恵里が、思わず悲鳴じみた声で鈴の名を呼ぶ。
「ひぃ!?」
恐怖心から逃亡しようとした生徒の一人の魔法が逃げ道を塞いでいた兵士の頭に直撃し、兜の一部が砕けると、そこには苦悶の表情を浮かべる檜山の顔があった。
「ひ、檜山……?」
別の兵士が同じ様に兜の壊れた部分を剥がすとそこにも檜山の顔が現れる。それに合わせて次々と兜を外していく兵士達の顔は何れも檜山だった。
苦悶の表情を浮かべたゾンビの様な顔をした檜山の大群。最早、理解が追いつかない様子だ。
「ガフッ!」
目の前の状況に戸惑っていた生徒の一人の腹に、忍者プレイヤーの小太刀が刺さる。
それを機に次々と生徒の体に、群がる様に忍者プレイヤー達の忍者刀が突き立てられていく。忍者プレイヤー達が離れると全身から血を流しながら、口から吐血して生徒の体が力なく倒れる。
「光輝! 撤退するわよ! 退路を切り開いて!」
「なっ!? 此処までされて、逃げろっていうのか!」
しかし、仲間を傷つけられた事に激しい怒りを抱く光輝は、キッと雫を睨みつけて反論した。光輝から放たれるプレッシャーが雫にも降り注ぐが、雫は柳に風と受け流し、険しい表情のまま光輝を説得する。
限界突破もそろそろ限界と言う言葉や、雫が唇の端から血を流していることに気がつき、茹だった頭がスッと冷えるのを感じた。
雫も悔しいのだ。思わず、唇を噛み切ってしまう程に。大事な仲間をやられて、出来ることなら今すぐ敵をぶっ飛ばしてやりたいのだ。……だが、敵はマトモな攻撃さえしてこない。単純に追いかけっこをさせられていた。その事が何よりも許せないのだ。
そうはさせまいと兵士達が動き出そうとするが、先程の魔族の女が連れていた魔物達が起き上がり、兵士達に襲いかかってきた。
「ネクロマンシーか?」
「あなた達に光輝君の邪魔はさせない!」
そんなことを叫びながら、撤退の為の詠唱を始めた光輝の邪魔をさせまいと、手をタクトのように振るって死体の魔物達に包囲させたのは恵里だった。
「流石に此れは限界を超えているな? 惚れた男のために、と言うなら中々に妬けるな」
降霊術を苦手として実戦では使っていなかった恵里が、苦手なんて今、克服する! 限界なんて超えてやる! とでも言うように強い眼差しで小馬鹿にするように拍手をしている風魔達を睨むと、実戦で初めて使うとは思えないほど巧みにキメラ達を操り、倒すというより、時間を稼ぐように立ち回った。
光輝の聖剣に集まる輝きがなければ、限界になった者は自殺行為に走っていたかもしれない。
恵理の操るキメラ達が時間を稼ぐ中、メンバーが、今か今かと待っていたその時は……遂に訪れた。
「行くぞ! 〝天落流雨〟! 〝収束〟!」
まるでそれを待っていた様に、滅が、迅が、雷が、亡が、オーブダークネスが、エックスダークネスが、ジードダークネスが各々の必殺技を放ち魔物達の死体を、再利用出来ないように跡形も残さず消滅させる。
キメラ達が全滅させられた事で限界が来たのか、遂に恵理が倒れる中、
「〝天爪流雨〟!」
直後、突き出された聖剣から無数の流星が砲撃のごとく撃ち放たれる。
光輝の狙いは〝天爪流雨〟の副次効果、閃光による視覚へのダメージだ。
「今だ! 撤退するぞ!」
近くにいた鈴と香織が倒れた恵理に肩を貸し、光輝の声に従い全員が一斉にその場を逃げ出す。
「チッ」
忍者プレイヤー達の手裏剣が何人かの生徒に刺さり、動けなくなった者が倒れていく。
後に残されたのは忍者プレイヤーに襲撃され、自力で動く事の出来ない生徒達。全身に忍者刀を突き立てられて血塗れで虫の息の生徒が一人。
こんな状況でも光輝の取り巻きをやっていた女生徒を含み男女数人だ。
「追え!」
そんな彼らを放置して風魔達は忍者プレイヤー達と兵士達を先頭に光輝達の追撃に移る。