プロローグ

「さて……これはこれで好都合って言えるんだろうけど、面倒が一つ増えちまったな」

光も届かぬ奈落の底で自分が落ちて来た高さを見上げて溜息を吐く。

「まあ、あのジジイどもの目と耳がないのは好都合か。さっさと南雲を探さねえと、命がいくつあっても足りないぞ、ここは」

目的を思い出す様に口にして行くと、改めて京矢は後ろにいる…………自分とハジメを地の底に突き落としてくれた犯人へと向き直る。

「で、何か言うことはあるか? 檜山?」

「た、たす、け……」

京矢の視線の先にいるのは全裸で血塗れの檜山。首筋からは血が噴き出し、両足は先ほど京矢が斬り殺した熊の魔物に食われ、片腕はここに突き落とされる直前に斬り落とされて居た。
何処をどう見ても致命傷だ。
元々殺されかけた相手を助けるほどお人好しではない京矢だが、お人好しだったとしても彼を助けるのは無理だろう。もうすぐ檜山は、死ぬ。

「殺そうとした相手に助けを求めるのかよ?」

こんな状況だからか分からないが、どっちにしても京矢の魔剣目録の中には檜山を助ける手立ては有るが、この小悪党の前で使う事はそれはそれで問題なのだ。

『|喪月之夜《もづきのよ》』
魔剣目録の中に標準装備されていた剣の一振りで、人を意のままに操る精神を支配する剣。解除法はあるが剣の持ち主の意のままに死ぬまで操られる。

それに代表される様に悪人の手に渡ったら危険な力を持った剣は魔剣目録の中には山の様にある。
仮に檜山を助ける為に魔剣目録を使ったとしても、その力に目を付けた嫉妬で人を殺す様な性根の腐った小悪党が京矢から魔剣目録を奪おうとしないとも限らない。いや、確実に狙ってくるだろう。特にこの剣をこいつが奪ったとしたら……

「リスクの方が大きいな」

助けた所で後ろから斬られかねない、足手纏いになっても助けてやるほど親しくない相手だ。着いて来られても迷惑なだけだ。

「悪いな、檜山。オレにはお前を助けてやれねえんだ」

魔剣目録を開きその中から|擬態の聖剣《エクスカリバー・ミミック》と忍刀『玄武』を取り出し、熊の足を紐状に変化させたエクスカリバー・ミミックで縛り上げ逆さ吊りにして玄武で足首と首筋を切り血抜きをしながら内臓を取り出し毛皮を剥ぎ、何を食べていたか分からない内臓は食べたくはないのでこの場に捨てて行く。

(この状況だ。どうにかして魔物の肉を食える様にしないとそのうち食料も底を着くな)

この世界に転移させられる際に服の内側に仕込んであったガチャの十連の特典で手に入れた四次元ポケットの中には幾つか非常用の食料品や水が有るが、精々それは一人分が一週間分程度、節約するに越した事はない。

「それは、お前の自業自得ってやつだ。来世じゃいい奴になれよ、檜山」

自分を恨みたければ恨めばいい。そう考えて、檜山に手を振りながらビニールに包んだ処理し終えた熊肉と毛皮を四次元ポケットの中に収納し、新たにベルトと時計の様なものを取り出す。

「出し惜しみ、してる余裕はねえな」

ベルトを取り出し、時計のような物を起動させ、

「変身!」

『ライダータイム! 仮面ライダー、バールクス!』

京矢はその姿を創生王の紛い物にして魔王と対となるもう一人の王、『仮面ライダーバールクス』へと姿を変えた。
京矢の手持ちの変身アイテムの中では最も強力な物の一つだ。バールクスの力ならばここのモンスター達も敵ではないだろう。

改めて四次元ポケットと魔剣目録を常日頃から持ち歩いていて良かったと思う。

「ホント、用心ってのは大事だよな」

バールクスに変身すると吐き捨てるようにそう悪態を吐くと、何故自分がここにいるのかを思い返す。



















全ての始まったあの瞬間まで遡る。

自分を包み込んだ光が消えると、京矢はゆっくりと目を開ける。
開いた視界の中に飛び込んでくるのは目の前にある壁画だ。
其処に描かれていたのは後光を背負った金色の髪の中性的な人物が薄ら笑いを浮かべている姿。その姿が描かれた巨大な壁画だ。

(なんて言うか……趣味が悪いな)

見る者によっては美術的に美しいと感じるであろうそれは京矢は本能的な部分で不気味さを感じていた。
誰に向けているかわからない絵画に映る人物のその薄笑いには寒気さえ感じてしまう。

恐らく、自分一人だったら手の中にあるガイソーケンで壁画を細切れに切り裂いていただろう。

だが、この場にいるのは京矢一人ではない。

騒然とする気配の元を辿ると自分の隣にはハジメが、全裸の小悪党一味とその傍らには彼らを注意しようとしていた光輝が、彼らから少し離れた場所にに白崎香織と八重樫 雫、その序でに坂上龍太郎。
他にも位置関係的にあの瞬間に教室にいた者達が全員この場所にいるのだろう。
幸か不幸か教師も一緒に此処に呼ばれた様だ。

(しかし、セフィーロでも時空管理局関連でも無さそうだな)

親戚の少女が呼ばれて自分もガイソーグとして活動していた世界と、関わった組織の事を思い出す。

だが、此処が時空管理局絡みではない事はすぐに判断出来た。
少なくともあそこ迄派手に行動する様な秘匿意識の薄い連中ではないと言うのが京矢が時空管理局に対して持っている美点の一つだ。

周囲を見回すと其処は聖堂を思わせる柱によって支えられたドームの様な場所。
周囲を見て見ると京矢達がいるのは台座の様になっていた。

ふと視線を下へ向けると台座を取り囲んでいる者達がいるのが見えた。
敵意は感じない。だが、

(嫌な感じがする)

周囲を囲むのは白地に金の刺繍が施された聖職者の様な格好をした者達。その中でも特に……京矢曰く悪趣味な迄に華美な装飾が施された豪華な法衣を着た老人が歩み出て来た。

「ようこそ我らがトータスへお出で下さいました……勇者様と同胞の皆様方」

自身へと注目を集める様に錫杖のような物を鳴らし、その年齢に似合った落ち着いた声で話しかけて来た。

「歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、皆様方には宜しくお願い致しますぞ」

『イシュタル・ランゴバルド』と名乗った老人は好々爺と言うような微笑みを彼らに見せた。

(勇者ね……つまり、何かを退治して欲しいって事か?)

邪悪なドラゴンか、魔王かは分からないが何かを退治するために異世界から自分たちは呼ばれたのだろう。
だが、京矢にはその老人の顔が気に入らなかった。

(……無関係な奴に頼ってるって言うのに申し訳なさも必死さも感じられねえ。チッ、自分達……いや、何かの為にオレ達が働くのが当然ってツラだな)

京矢はそんなイシュタルの表情からそんな物を感じ取ってしまう。
苛立ちを覚えるが、誤解の可能性もあるので口には出さないが。

「所で、貴方が持っておられる剣は」

台座から降ろされ、何処かへと案内される際にイシュタルは京矢の持つガイソーケンが目に止まる。

(流石に気付かれたか)

心の中でそう思うがそれを表情に出さないと言う器用な真似をしつつ、

「これか? なんか、目を覚ます前に誰かから渡されたような幻覚みたいなものが見えてな、気が付いたら持ってたんだ」

軽い笑いを浮かべながらそんな嘘を告げる。
だが、当のイシュタルやその部下の法衣を着た者達は良い具合にボカして伝えたのが効いたのか『エヒト様が』等と騒ついている。


なお、京矢によってボコられて全裸で転移させられた小悪党一味は奴隷階級と勘違いされたが、光輝の

「すみません、あれは……その、あいつらの趣味なんです」

「そ、それはなんとも……変わった趣味ですな」

と言う言葉で誤解は解けたが、なんとも言えない表情を向けられてしまっていた。

なお、それが原因なのかは定かではないが、


露出狂(服を一枚着る毎に全ステータス-100)
|勇者(笑)王《ぜんらおう》(服を着ると全ステータス-1000)


と言う妙な技能が檜山達一味には着く事となったのだった。








召喚された場所から場所を移され長いテーブルの置かれた大広間の様な場所に案内されていた。
光輝達四人と教師である愛子を先頭に適当に座っていたが……一番後ろの方に位置するハジメの隣に京矢が座り、彼らから大きく距離を取られるように檜山達一味が隔離されている。

まあ、誰だって全裸の変態など視界に入れたくない。

そんな彼ら全員が着席すると絶妙のタイミングでカートを押しながらメイド達が入ってくる。
一瞬、檜山達一味には怪訝な表情を浮かべるも、彼らに衣服を渡して香り立つ紅茶の様な飲み物を置いて行く。

流石に毒は入って無いだろうと思いつつ僅かに警戒して少量のお茶を口にする。

(あっ、美味い)

茶葉も良い物を使っているのだろうし、彼女達もこんな所で働いている以上は外見だけでなく技能も一流を求められているのだろう。

イシュタルと名乗った老人の真意は分からないが、少なくとも歓迎しているというのは分かった。
…………檜山達以外は。

「さて、貴殿方に於いてはさぞや混乱をしている事でしょうから、最初から説明をさせて頂きます。まずは私の話をお聞きくだされ」

胡散臭さ満載の聖職者(多分)から語られた内容は随分と身勝手な話だった。

要約すると、
魔人族って奴らと戦争してて、そいつらが魔物を操ってて数も質も負けて人間側負けそう。だから、エヒト様が異世界からお前ら呼び出したんだよね~。お前ら、こっち来た時凄い力与えられたから魔人族始末するの手伝えよ。
との事だ。

(要するに、オレ達は戦争の道具にする為に呼び出されたわけかよ)

何より京矢を苛立たせているのは、それを語る時のイシュタルの恍惚とした表情である。
無関係な別の世界の人間を呼び出しておきながら、それに対して何一つ申し訳なさを感じさせず、それどころかそれを誇るような言葉。何より、それに対して頭を下げて頼んでさえいない、自分達のために戦うのは当然だというような態度。

京矢に目の前の相手は信用できないと結論に至らせるには十分過ぎるものだった。

隣にいるハジメが現状の拙さに気が付いてるのは良い傾向だが、それでも現状は最悪だ。

(チッ! 最悪だな。オレ一人なら帰還方法聞き出してから、あのジジイを殴り飛ばす所だぜ)

一人物騒な思考に傾く京矢。一応は中学時代に異世界に呼ばれた従姉妹を陰ながら助けた身の上だが、それを踏まえてイシュタルの態度には苛立ちを覚える。

そんな中、いち早く行動を起こしたのは転移させられた者の中で唯一の教師の愛子だった。

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争をさせようって事でしょ! そんなの許せません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く返して下さい! きっと、ご家族も心配している筈です! あなた達のしている事はただの誘拐ですよ!」

ぷりぷりと怒る畑山愛子先生。
今年25歳になる社会科の教師だが、低身長に童顔の為、その姿には本人の目指す威厳のある教師とは反対の微笑ましさがある。
呼ばれたら本人は怒るが愛ちゃんと言う愛称で親しまれる彼女のそんな生徒達の為にあくせくする様子に生徒達の場は和むが、イシュタルから紡がれた言葉に場は凍り付いてしまう。

「気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能なのです」

シン……と言うような音が聞こえて来そうな程の沈黙。音が消えたかのような錯覚さえ覚える。

(やっぱりな)

その辺だけは予想していた京矢だ。
隣を見てみるとハジメもそんな事態を予想くらいはしていた様子だ。

『現状では』と言う言葉から召喚者がこの場に居ない。
その点は異世界召還経験者の京矢、召喚者が敵側に捕らえられている等のパターンを想像してみる。
召還者が敵側に捕らえられてるだけなのなら、さっさと一人で敵側に乗り込んで助け出し次第キシリュウジンを呼び出して大暴れすれば何とか解決出来そうな状況位は真っ先に想像して居た。

「先ほど言った様に、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉する様な魔法は使えませんのでな」

だが、イシュタルの言葉は京矢の想定の中の早急に解決可能な範囲の中には無かった。

(エヒトとか言う奴の力を借りてコイツらが、って訳じゃないのかよ。時空管理局の連中のとは違うって事か?)

イシュタルの言葉にそう考える。最悪、ガイソーケンを囮に時空管理局の連中でも呼び出そうかと考えたが、その可能性は潰れてしまった。

「あなた方が帰還できるかどうかも、エヒト様の御意志次第と言う事です」

(オレ一人だったら顔面整形レベルで殴ってたな、このジジイ)

その言葉で逆に言えばエヒトとか言う神様(仮)の気分次第では魔王を倒したところで元の世界に帰れない危険性まで出て来たのだ。
この時点で京矢の中で半殺しが確定したイシュタルであった。
流石にこの状況では……何人かどうなっても構わない連中もいるが、それでもクラスメイトのことを考えると迂闊な行動は出来ない。

「そ、そんな……」

その言葉に呆然となり椅子に腰を落とす愛子。それを合図に周囲の生徒達も黙って居られずに騒ぎ始める。

「おいおい、嘘だろ!? 帰れないって何だよ!」

「嫌よ! 何でも良いから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇぞ! ふざけんなよな!」

「どうして……何で……」

パニックに陥いる生徒達を尻目に冷静な目で観察している異世界転移経験のある京矢。

(下手したら、魔王を倒した後に新たな魔王とか大魔王とか出してこられそうだよな)

あの壁画から感じたエヒトと言う神様(仮)の印象はそれだった。
結局の所、召還した連中に大半の者達の生活を保障させて魔王討伐の旅に託けて自力で帰還方法を探すか、上手く抜け出して自力で帰還方法を探すしかない。

(オレが勇者って言うならそれも有りだけどな……)

この中には一人とおまけ一人ほどこれを実行する上で邪魔になる正義バカと取り巻きの脳無し筋肉がいる。

それを抜きにしてもこちらを観察するような視線を向けてくるイシュタルへと視線を向ける。
『エヒト様に選ばれておいて、何故喜ばないのか』と言うような侮蔑の意思を感じさせるその視線に余計に苛立ちを覚えるが、当面はその苛立ちは魔人族や魔物相手に向ける事にしようと苛立ちを飲み込む。

仕方ないとばかりに京矢が口を開こうとした時、誰かが何かを叩くような音が響く。

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ」

そして、光輝の言葉が響く。

「……オレは、オレは戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くことはオレにはできない」

(おいおい、呼び出されたばかりで状況も見えないのに何言ってんだ、こいつは)

肉食動物に襲われる草食動物が可哀想だと草食動物を守った結果、その時の植物が食い尽くされる危険もある。弱い者が善とは限らず、強者が悪とは限らないと言うのに、魔人族側が悪いと既に決めつけている。

(エヒトとか言う奴の思惑通り、都合のいい勇者様、だな)

京矢は心の中で皮肉を込めてそう呼ぶ。

「それに、人間を救うために召喚されたなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん、どうですか?」

「ふむ、確かにそうですな。……エヒト様も救世主様の願いを無碍にしますまい」

「オレ達には大きな力が有るんですよね? 此処に来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、その通りですな。ざっと、この世界の人間族と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えて良いでしょう」

「うん、それなら大丈夫。オレは戦う! 人々を救い、皆が家に帰れる様に。オレがこのトータスも皆も救ってみせるさ!」

根拠のない自信だ。自分達には力が有るから大丈夫だ、と根拠のない自信に溢れている。

(拙い流れだ。このバカに全員が流されたら拙いぞ)

勝手に全員分の傭兵契約の契約書にサインしかねない。しかも、本人は完全な善意で、だ。
しかも、最悪な事に光輝という人間には思考停止している取り巻きのバカが一匹存在している。

「へへっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……オレもやってやるぜ!」

「龍太郎……」

(お前が一番タチ悪いな、脳筋のクズが! 自分の意思を持ってないだけのイエスマンなんだろうが)

こうなったら、バカとバカに全面賛成のイエスマンの組み合わせは拙い。しかも、

「……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

(気に食わないなら断れ、追従するな)

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

(追従してんじゃねえよ! 何、感動的な雰囲気出してんだよ、馬鹿かあの女どもは!?)

そして、最後に香織が参加してしまった事でこの流れは完全に決まってしまった。
愛子が必死に『ダメですよ~』と宥めているが光輝が無駄に発揮したカリスマ性の前には無駄だった。

そこで京矢は先ほどの光輝と同じくテーブルに拳を叩きつけ衝撃音を響かせる事でその流れを止める。

「お前ら、そんなに殺し合いに参加したいのかよ?」

当面は従うしかないが、流石に一度冷静になって貰う必要がある。

「魔人族って言うのがどんな姿形してるのか知らないけどな……そんなに人殺しがしたいのかって聞いてるんだよ?」

「ひ、人殺しって……それは言い過ぎだろう!?」

そんな京矢の言葉に反論する光輝。

「そうだな。人の形をしてないかもしれないから、人と認識出来ないかもしれないけど、少なくとも殺し合いなのは間違いないな」

「こ、殺し合いって……」

敢えて生々しい言葉を突きつける事で、濁流の様な流れになっていた状況から一気に冷静さを叩きつける事に成功した。あとは、

「ひ、人を助けるのに理由なんて要らないだろう!?」

「お前は戦争中毒者か、それともサイコパスかよ? 殺し合いに参加するのに理由が要らないって」

光輝が押し黙る事で光輝のカリスマ性で出来た流れは完全に止める事が出来た。

「臆病風に吹かれてんじゃねえよ!」

そんな光輝に追従する様に声を上げたのは檜山だ。臆病者だと檜山が罵る前に、檜山の首筋にガイソーケンを突き付ける。突き付けられた刃の先端が首筋に微かに刺さり血を滲ませる。

「で、あと少しオレが力を込めればお前は死ぬけど……怖くないのか?」

「あっ、あ……」

突き付けられた刃、数秒後に迫る死の恐怖に言葉を失う檜山。
そんな檜山から剣を下ろし、退けとばかりに軽く突き飛ばすと……

「ギィャァー!!!」

絶叫と共に突き飛ばされた肩を抑えながら床をのたうちまわる檜山。明らかに肩の関節が外れて腕の骨は折れている。

『ええー』

その光景に唖然とする一同。

「大丈夫か!?」

慌てて駆け寄る光輝が檜山の肩に触れた瞬間、

「ギャァー!!!」

再度悲鳴をあげて肩の骨が外れて腕の骨が折れる。

思わず光輝と京矢の目が合う。「何かしたのか?」、「軽く触っただけ」と視線だけで意識の通じ合った瞬間だった。

二人の唖然とした視線が檜山に向いた時、その様子に慌てたメイド達に何処かに運ばれていく檜山。その際にも触れられただけで激痛が走る様子だ。

「この世界の一般女性より弱くねえか、あいつ」

この時は知らなかったが、それが檜山のマイナス技能が発現した証拠だったのだ。














現在、

「おーい、南雲!」

現在、京矢はバールクスの姿で迷宮の奥を探索している。本来ならば大声を出すのは愚行だろうが、襲ってきた魔物はリボルケインに似たサーベル状の剣で切り捨てていく。

「チッ!」

舌打ちしながら再び襲ってきた狼の魔物をパンチで仕留める。

モンスターを仕留めながら先に進むと自然に出来たには不自然な形に水が溜まった場所が見つかる。
そして、そこには間違いなく日本語が書かれていた。

「南雲の奴は此処に居たって事か」

そこに湧き出している水の事が書かれて居た。

「ゲームで言うならエリクサーが溢れてるって訳だな。最悪毒素のある魔物の肉もこの水を飲みながらなら食えるかもな」

そう考えると京矢は変身を解除して四次元ポケットの中にあった捨てる予定だった使用済みのペットボトルの中にその水……神水を詰め込んでいく。
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