プロローグ

彼、『鳳凰寺 京矢』は転生者である。
東京魔人学園シリーズの主人公の相棒たる蓬莱寺京一の力
そのシリーズの彼の最強の武器の一つである、妙に豚骨スープの匂いが染み込んだ木刀『阿修羅』
そしてThunderbolt Fantasy 東離劍遊紀の『魔剣目録(中身はほとんどなし)』と凡ゆるゲーム、漫画、アニメのアイテムや能力や選定事象となってしまった世界の登場人物を仲間として手に入るガチャが特典の転生者である。

まあ、完全にガチャ以外は剣戟特化の構成だが、転生前の彼が何故それを望んだのかと言う記憶は前世の記憶と共に無くしてしまったので知る術はない。

なお、鳳凰寺と言うのは蓬莱寺京一がゲーム中に名乗る必要があって名乗った偽名である。
そんな彼の異名は『神速の剣聖』。
これは主人公の相棒たる剣士の力を持った少年と仲間達の物語の一ページである。




















そんな彼が転生してから数年が過ぎた。
元から存在していた京矢と言う人間の記憶を辿りながら日々を過ごす中で此処が幾つか彼の残された前世の記憶の中にある物語が混ざり合った、或いはその登場人物と同一人物の存在している世界であると言うことを理解していた。

転生してから彼が経験した事件は主に、ガチャで手に入れたガイソーケンを使って親戚の少女が異世界セフィーロに召喚され、彼女達がその世界を二度ほど救うのをガイソーグとして手助けしたり、その前には海鳴市で起こった二度にわたる地球の危機にガチャで召喚した桐ヶ谷直葉、マリア・カデンツァヴナ・イヴと共に正体を隠してガイソーグを名乗って関わったり、と。(その結果、異世界では英雄として讃えられ、時空管理局と言う組織からは三人揃って犯罪者として指名手配されたりした)

「よっしゃ! 霊剣の能力ゲット!」

まあ、時空管理局から指名手配にされたのは飽くまでガイソーグなので素顔である京矢としては何の問題も無いとばかりに、闇の書の事件に関わった報酬のガチャ券で目当てであった霊剣の能力を入手した事に喜んで居た。
京矢自身は根本的に剣士だが、剣を失った場合の対策を考えた結果、『じゃあ、自力で剣を作れば良くね?』の判断で霊剣の能力を手に入れたわけだ。力の調整に慣れれば小刀や手裏剣と言う形にも変えられて便利なのもある。

その他にも、五歳の時にガチャで当てたアイテムで一時的に呼び出した蓬莱寺京一本人に鍛えて貰った際、車道に飛び出した女の子をその京一が車から助けたりと色々と有った。

まあ、京一の一件についてはちょっと問題だったかとも思ったが、それを考えたところで今更意味は無いと考え、大して悩まずに過ごしているのが京矢である。
少なくとも人一人の命を救ったのだから、大きな問題で有っても意味はあったと。


















そして、現在。

「おーい、南雲、飯行こうぜ」

「うん」

「おう、はっちゃんやスグも誘って行こうぜ」

昼休み、京矢が声を掛けたのは周りからやる気の無い無気力少年と思われている『南雲ハジメ』。
京矢が彼と別のクラスのはっちゃんなる人物と彼の義理の妹となった直葉も誘っている為、いつの間にか仲良しな三人組として見られている。

クラスの二大女神として絶大な人気を誇っている『白崎香織』が話しかけるのを遮って、京矢は彼を誘ってさっさと教室を出て行く。

何時も昼休みに彼女が自分に声を掛けているために針の筵になっているのだから、京矢の行動はハジメとしては本当に助かっている。



……そう、京矢と関わる様になってからハジメの周囲は大きく変わった。



周囲から汚物を見る様な目で見られている憔悴しきった顔で自主退学するのも時間の問題かもしれない『檜山大介』とその仲間たちだ。
彼らからイジメを受けていたハジメだが、檜山達は京矢が転校してきてからハジメと仲良くなった京矢に目をつけてしまった。そう、それが彼らにとっての運の尽きだった。……正に人生レベルの。
哀れ、京矢が原因で彼らは警察に逮捕されてしまったのだった。

裏路地に彼を連れ込んだものの、見事に全員が返り討ちにされて有り金と身包みを剥がされてカバンを残して気絶したところを全裸で放置されてしまった。
まあ、それなら捕まるのは京矢になりそうだが、剥がした制服は財布の中身だけ抜いて綺麗に畳んで鞄の中にしまってあった。
服を畳んで入れたカバンで前を隠しながら身ぐるみ剥がされた姿で夜の街を走る彼らが警察のお世話になった時、所持品のカバンの中から綺麗に畳んだ衣服が出てきたらどう誤解されるか。
慌てて人のせいにして言い訳する露出狂の変質者達と見られてしまったと言うオチに終わり、その様子を撮影した写真が張り出されてしまった為に、檜山達は学校中から露出狂の変態集団というレッテルまで貼られてしまった。
……よくその時点で退学にならなかったものである。もう、本人達にしてみれば早々に退学して街から去りたかったかもしれないが。

京矢としては檜山達は弱い者を虐げ、強い者には媚びへつらう典型的な小物なので、黙らせるために学園の最下層に落ちて貰ったと言う訳だが。
教師が張り出された写真を回収するたびに新しい物が学園に張り出されるのだから、すっかり檜山達は学園中に変態として名を轟かせてしまっている。
教室では白い目で見られ、教室の外を歩けば露出狂の檜山と全校生徒の誰からも噂されている。
不良としては警察にも名前を覚えられているのは自慢になるのかもしれないが、露出狂として世間に名前を轟かせたのだから、良い訳が無い。

更にトドメとばかりに卒業後には彼らによるイジメの全貌を纏めて大学や就職先の企業にでも送りつけてやろうかと思ったが、それは無駄に終わる事となった。

そんな京矢に檜山達も一度は報復しようとして仲間を集めた所、それを事前に察知した京矢に襲撃され、気がついたら全員が綺麗に畳んだ衣服を頭の上に固定して公園に埋まっていた。
彼らを捕らえた警察によれば近くの監視カメラや目撃証言から、音声はないものの楽しそうに全裸になって自分達で踊り狂いながら土に埋まる檜山一味と集めた仲間達が目撃されたとか。
……当然ながら、京矢によるガチャ産のアイテムによる処理だ。

そんな訳でもはやスクールカーストどころか、街の中で人として最底辺に落とされた檜山一味はもう京矢は愚かハジメにも関わりたく無いと言う顔をしている。
それでもグループ内で罪のなすり付け合いをして弱い者を作っているのだから救えない連中である。(その弱者に京矢に最初に目を付けた檜山が選ばれたのも哀れとは言え当然の結果に見えるが)




そして、もう一人、教室から出て行く京矢を忌々しげな目で睨んでいるのが『天之河光輝』と言う男だ。

「なんで、あんな奴が……」

京矢からは自分が敷いた正義(笑)以外はシャットアウトしている、常に自分に都合が良い解釈しか出来ない御都合解釈主義者と切り捨てられている、京矢と同じ剣道部に所属している生徒だ。
バイトと言って碌に部の練習にも出ない幽霊部員の京矢に苛立っているが、当の京矢は顧問に無理やり入れられた、自分が幽霊部員なのは顧問も認めてると彼の言葉を一切取り合っていない。

そんな彼の態度に我慢の限界が来た光輝は一度彼を剣道部の道場に呼び出して試合を挑んだ。
自分が勝ったらバイトを辞めて真面目に部活に出ろ、と。京矢を悪とみなして皆の前で断罪しようとした結果、部員全員の前で完全に叩きのめされた。

「何度も挑まれるのも面倒だから防具無しでやろうぜ」

防具も着けず笑みを浮かべて光輝を挑発するように告げる京矢。
お前に勝つのは当然だと告げられている屈辱感、お前との試合など面倒以外の何物でもないと言う京矢の態度に頭に血が上った光輝もそれを了承して防具無しの試合が始まってしまった。

最初はそんな巫山戯た態度の京矢を叩きのめしてやるつもりであった光輝だったが、京矢の殺気に気圧されて棒立ちのままで面を打たれ気絶した後、目を覚ましてもそのまま腰が抜けて暫く立てなかった。

終いにはもうこんな事はするなと光輝が顧問に注意されてたのは、元々部活を辞めたがっていた京矢が今回の事を理由に退部の相談をした為だった。

ロクに練習にも出ないくせに剣道の実力は部の中どころか、全国でも上位に位置していて個人戦では毎回好成績を上げている。中学までの過去の大会では毎回京矢に屈辱的な負け方を続けていた為に、光輝は世間からは美形と言える外見のせいか剣道界のお笑い芸人と呼ばれている。
しかも、後輩を指導した時は後輩で遊んでいるかと思いきや、練習試合では彼の指導した後輩達は全員が勝ち星を挙げるなど大きく実力を上げていた。自分が指導した後輩達は殆ど勝ち星をあげられなかったのにも関わらず。気が向いた時に僅かに出ただけで部活動には貢献している。


『鳳凰寺先輩に指導してもらいたかった』


京矢の指導した後輩達が実力を上げた中、自分が指導した後輩達からの何気ない言葉が余計に光輝の心に突き刺さる。

それだけじゃ無い。共に出場した全国高等学校春季剣道大会には他校の実力者達からは光輝は見向きもされず京矢ばかりが注目されていた。
その大会でも優勝を決めたのも京矢だ。三人ほど棄権やら不戦敗になった出場者がいたが、優勝は事実だ。
当の京矢は楽しみにしてた奴らと試合出来なかったと優勝した事も無価値と言う様な態度だった。

顧問としても光輝よりもそんな京矢の方が大事なのだろう。
彼が原因で京矢が剣道部を退部するのなら、光輝を退部させてでも京矢に残って欲しいと思われている。

だからこそ、光輝にとって京矢は気に入らない存在なのだ。
正しいのは自分のはずなのに何故自分が顧問から注意されなければならないのか。何故、自分が剣道部を退部させられなければならないのか。









そんな日常の終わる瞬間がもうすぐ訪れるとは誰も知らない。






その日の昼も京矢がハジメを昼食に誘って教室から出て行こうとした時だった。

朝から檜山一味が居ないと思っていたら外から悲鳴が聞こえ、『お前のせいだぞ、檜山』と言う叫び声が聞こえてくる。教室のドアが開くと全裸の檜山達小悪党改め露出狂一味が飛び込んでくる。
その際に檜山の机が倒れて中から彼らの制服が綺麗に畳まれたまま床に落ちる。

『ああ、またコイツらか』

約2名の実行犯とその友人以外から露出狂と思われている彼らを前にハジメと京矢を除く生徒全員の心が一つになった。

そんな彼らにサッサと服を着る様に注意しようとした光輝の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が顕れる。

明らかな異常事態にすぐに周りの生徒達も気がつく。

「っ!?」

それが異常事態だと真っ先に判断したのは京矢だった。

(何処かに召喚されるってトコかよ、これは)

全員が輝く魔法陣らしき物を注視する中、耐性のある京矢は素早く鞄の中の魔剣目録を取り出し、制服の内側に仕込んでおいた『それ』から魔剣目録と交換する形でガイソーケンを取り出す。

(オレだけなら逃げられそうだけど、この状況はヤバイな)

輝きを増しながら、教室全体を満たす程に大きくなる魔法陣に危機感を覚えながらも逃げると言う選択を排除する。

四時間目の社会科の授業の後も教室に残って女生徒と談笑していた教師の『畑山愛子』が咄嗟に教室から出る様に叫ぶが時すでに遅し。魔法陣の輝きが最大限になった時、教室の中を光により真っ白に染まった瞬間、異常から解放された。

食べかけの弁当や飲みかけのペットボトル。序でに綺麗に畳まれた檜山達四人の制服。教室の中には人が居た形跡を残しながら人だけが消えて居た。

異常を知った他のクラスの生徒達や教師が様子を見に来た時、その異常さに驚愕を浮かべた。
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