序章
大人気ユニット【ツヴァイウイング】のライブは、その最中に突如出現したノイズにより、多大な被害を及ぼした。
そして、その事件と被害により、世界に深刻な問題が生まれていた。
ライブでの生存者に対して、悪質なバッシングが発生したのだ。
マスコミと評論家が、何を思ったのか、あの事件での生存者を一方的に悪者に仕立て上げ、生存者の中には既に住所が割れるなどして周囲から迫害を受ける者が出ているのだ。
曰く、ノイズよりも生存者の方が悪い、生存者は人殺し、生存者に正義の鉄槌を、と。
無論、この発言に異を唱えるものも中にはいる。しかし、評論家やコメンテーターが口を揃えれば、少数派の意見と言うのは虚しくも握りつぶされてしまうのが世の常である。
そしてその歪んだ思想は、生きるのを諦めないという“呪い”を持つ一人の少女を願いを巡る戦いに踏み込ませてしまうのだった。
「はぁ……はぁ……」
誰もが寝静まった深夜、あちこちにゴミが錯乱している路地裏に、一人の少女がいた。
彼女の服はあちこち焦げていて、肌にも汚れや火傷の後がある。靴も履いておらず、裸足で全力疾走をしていたのか、足は擦り傷だらけだ。
「なんで……なんで……?」
襟足が広がったボブカットの少女──【立花響】は、黄色の瞳からボロボロと涙を溢す。
彼女は、ツヴァイウイングのライブ事件の生存者だった。
親友から進められたライブでノイズの驚異から生き延び、搬送された病院を退院した彼女に待っていたのは、まだ幼い少女には過酷すぎる日々だった。
学校では『人殺し』と罵倒され、暴力や苛めに身も心も傷付けられる日々。
家で過ごしていても、扉には罵詈雑言が書かれた紙が貼り付けられ、石を投げられて窓ガラスを破られる日々。
ツヴァイウイングのライブを進めてくれた親友は、自分になにも言わず、別れの言葉を告げることもなく、顔を会わせることもなく引っ越していった。
響が生存者であると判明し、仕事を失った父親は日に日に自分や母に暴力を振るうようになった挙げ句、家を出ていってしまった。
そして今日──彼女の家は、燃やされた。
トイレに行くために夜中に目が覚めたときの事だった。赤い光が見えた彼女は、そこで自身の家が炎に焼かれているのを目にした。
響は直ぐに母と祖母の部屋に向かった。一緒に避難するためにも。だが向かった先にあったのは──炎に包まれる、母親と祖母の姿だった。
絶望を突きつけられながらも、響は何とか家を飛び出すことで、危機を脱する事が出来た。
その時、聞いてしまったのだ。
──おーおー、燃えてる燃えてるぅ。これで死んだんじゃねーの?
──ザマァねぇよなぁ~。まっ、人殺しに人権なんかないんだし、当然の報いだろ?寧ろ、正義の鉄槌ってやつ?
──ホントそうだよね~!アイツ、何食わぬ顔で私達の学校来ててマジウザかったし、清々したわぁ~ww
──ギャハハハハハハハッ!!!
──アッハハハハハハハッ!!!
その声を聞いた時、響は全てを理解すると同時に、その場から逃げ出した。
「なんで……私がこんな目に合わなくちゃならないの……なんで……二人が殺されるの……私は、何もしてないのに……!!」
考える度に、響の心にどす黒い感情が渦巻いていく。本来は心優しい純粋な心を持つ彼女を、人間の悪意が蝕み、その心を染めていく、その時だった。
彼女の前に黒い指輪が現れたのは。光を飲み込むような黒い指輪は彼女のどす黒い感情を肯定するように闇色に輝き、近くにあった金色の指輪を黒く染める。
ークロスレンジャーー
そんな声を残し、金色の指輪を黒く染め上げた指輪は消え、何かに導かれるように響はその指輪を手にする。現れた銀色のテガソードが黒く染まり、黒く染められた意思が笑みを浮かべる。
分かる。その指輪の力とその使い方が。
そして、
(……そうだ。滅ぼさなくちゃ、怪人達は)
クロスレンジャーの指輪に込められていた、レッドの持つ怪人達への憎悪が響の心に憎悪と重なっていく。
そんな時だった、警報が響き渡ったのは。ノイズの発生を伝える為の警報だ。
建物の明かりが次々と着き、雪崩のように【怪人】が飛び出してくる。
同時に、この世のものとは思えないような多種多様な形をした異形──ノイズが現れる。
ノイズは、逃げ惑う【怪人】達を嘲笑うように人々に触れていくと、触れられた【怪人】はたちまち炭素の塊となって消滅していく。
響は笑みを浮かべて、【怪人】が滅ぼされるその光景を見つめていた。逃げる気も起きず歓喜の感情を感じていると、手の中にある黒く染まった指輪に気がついた。
「そうだ……【怪人】は滅ぼさないと」
〈エンゲージ……〉
〈……ゲキレンジャー……〉
黒い瘴気と共に黒く染まってしまった赤い虎が響を飲み込むと彼女の姿を赤き戦士の者へと変える。
黒く染まったバックルと漆黒のテガソードを持ったその戦士の名は
【ユニバース戦士 ゲキレッド】
「あ……ああああああっ!」
方時も忘れる事は無いであろう、祖母と母の命を笑いながら奪った【怪人】達への憎悪、そして、己の人生を狂わせたノイズへの憎悪を持って迫る【怪人】達とノイズへと立ち向かう。
そんなゲキレッドを見て【怪人】達は動きを止める。【怪人】達の前に現れたノイズからだと拳を振る。
分かる。拳法も、格闘技もやった事のない少女が、拳の振り方も知らなかった筈なのに、理解できていた。
そして、テガソードを持ったまま放った拳はノイズへと突き刺さり、炭素となって崩れ落ちる。
普通ならば人が触れたら炭化するノイズに触れるだけで無く、逆に倒してみせたゲキレッドの姿に【怪人】達は咆哮を上げる。
(次はお前達だ!)
次に狙うのは目の前にいる、【怪人】達の中でも特に醜悪な一匹だ。顔面に打ち込んだ拳が【怪人】を吹き飛ばし、後方にいた【怪人】数匹を巻き込んでノイズに突っ込み炭化させる。
(……【怪人】ってノイズの仲間じゃ無かったんだ)
黒く染まる意識の中で、妙に冷静な部分でそう呟くと気を取り直す。
(まだ、【怪人】も、ノイズも、沢山いるんだっ! コイツらは全部っ! 滅ぼしてやる!)
敵は数百を超えるノイズと【怪人】達。だが、それでも、ゲキレッドになった響の心に宿る憎しみは引く事を選択させない。
憎むべき敵が目の前にいるのならば、拳を振るうのに何の躊躇もない!
……夜が明けた頃には其処には大量の炭素の山と一人の少女だけが残っていた。指には黒い指輪を嵌め、光の無い瞳で炭素を見下ろす。
(【怪人】とノイズは、必ず滅ぼすんだ……)
その誓いを胸に。
そして、その事件と被害により、世界に深刻な問題が生まれていた。
ライブでの生存者に対して、悪質なバッシングが発生したのだ。
マスコミと評論家が、何を思ったのか、あの事件での生存者を一方的に悪者に仕立て上げ、生存者の中には既に住所が割れるなどして周囲から迫害を受ける者が出ているのだ。
曰く、ノイズよりも生存者の方が悪い、生存者は人殺し、生存者に正義の鉄槌を、と。
無論、この発言に異を唱えるものも中にはいる。しかし、評論家やコメンテーターが口を揃えれば、少数派の意見と言うのは虚しくも握りつぶされてしまうのが世の常である。
そしてその歪んだ思想は、生きるのを諦めないという“呪い”を持つ一人の少女を願いを巡る戦いに踏み込ませてしまうのだった。
「はぁ……はぁ……」
誰もが寝静まった深夜、あちこちにゴミが錯乱している路地裏に、一人の少女がいた。
彼女の服はあちこち焦げていて、肌にも汚れや火傷の後がある。靴も履いておらず、裸足で全力疾走をしていたのか、足は擦り傷だらけだ。
「なんで……なんで……?」
襟足が広がったボブカットの少女──【立花響】は、黄色の瞳からボロボロと涙を溢す。
彼女は、ツヴァイウイングのライブ事件の生存者だった。
親友から進められたライブでノイズの驚異から生き延び、搬送された病院を退院した彼女に待っていたのは、まだ幼い少女には過酷すぎる日々だった。
学校では『人殺し』と罵倒され、暴力や苛めに身も心も傷付けられる日々。
家で過ごしていても、扉には罵詈雑言が書かれた紙が貼り付けられ、石を投げられて窓ガラスを破られる日々。
ツヴァイウイングのライブを進めてくれた親友は、自分になにも言わず、別れの言葉を告げることもなく、顔を会わせることもなく引っ越していった。
響が生存者であると判明し、仕事を失った父親は日に日に自分や母に暴力を振るうようになった挙げ句、家を出ていってしまった。
そして今日──彼女の家は、燃やされた。
トイレに行くために夜中に目が覚めたときの事だった。赤い光が見えた彼女は、そこで自身の家が炎に焼かれているのを目にした。
響は直ぐに母と祖母の部屋に向かった。一緒に避難するためにも。だが向かった先にあったのは──炎に包まれる、母親と祖母の姿だった。
絶望を突きつけられながらも、響は何とか家を飛び出すことで、危機を脱する事が出来た。
その時、聞いてしまったのだ。
──おーおー、燃えてる燃えてるぅ。これで死んだんじゃねーの?
──ザマァねぇよなぁ~。まっ、人殺しに人権なんかないんだし、当然の報いだろ?寧ろ、正義の鉄槌ってやつ?
──ホントそうだよね~!アイツ、何食わぬ顔で私達の学校来ててマジウザかったし、清々したわぁ~ww
──ギャハハハハハハハッ!!!
──アッハハハハハハハッ!!!
その声を聞いた時、響は全てを理解すると同時に、その場から逃げ出した。
「なんで……私がこんな目に合わなくちゃならないの……なんで……二人が殺されるの……私は、何もしてないのに……!!」
考える度に、響の心にどす黒い感情が渦巻いていく。本来は心優しい純粋な心を持つ彼女を、人間の悪意が蝕み、その心を染めていく、その時だった。
彼女の前に黒い指輪が現れたのは。光を飲み込むような黒い指輪は彼女のどす黒い感情を肯定するように闇色に輝き、近くにあった金色の指輪を黒く染める。
ークロスレンジャーー
そんな声を残し、金色の指輪を黒く染め上げた指輪は消え、何かに導かれるように響はその指輪を手にする。現れた銀色のテガソードが黒く染まり、黒く染められた意思が笑みを浮かべる。
分かる。その指輪の力とその使い方が。
そして、
(……そうだ。滅ぼさなくちゃ、怪人達は)
クロスレンジャーの指輪に込められていた、レッドの持つ怪人達への憎悪が響の心に憎悪と重なっていく。
そんな時だった、警報が響き渡ったのは。ノイズの発生を伝える為の警報だ。
建物の明かりが次々と着き、雪崩のように【怪人】が飛び出してくる。
同時に、この世のものとは思えないような多種多様な形をした異形──ノイズが現れる。
ノイズは、逃げ惑う【怪人】達を嘲笑うように人々に触れていくと、触れられた【怪人】はたちまち炭素の塊となって消滅していく。
響は笑みを浮かべて、【怪人】が滅ぼされるその光景を見つめていた。逃げる気も起きず歓喜の感情を感じていると、手の中にある黒く染まった指輪に気がついた。
「そうだ……【怪人】は滅ぼさないと」
〈エンゲージ……〉
〈……ゲキレンジャー……〉
黒い瘴気と共に黒く染まってしまった赤い虎が響を飲み込むと彼女の姿を赤き戦士の者へと変える。
黒く染まったバックルと漆黒のテガソードを持ったその戦士の名は
【ユニバース戦士 ゲキレッド】
「あ……ああああああっ!」
方時も忘れる事は無いであろう、祖母と母の命を笑いながら奪った【怪人】達への憎悪、そして、己の人生を狂わせたノイズへの憎悪を持って迫る【怪人】達とノイズへと立ち向かう。
そんなゲキレッドを見て【怪人】達は動きを止める。【怪人】達の前に現れたノイズからだと拳を振る。
分かる。拳法も、格闘技もやった事のない少女が、拳の振り方も知らなかった筈なのに、理解できていた。
そして、テガソードを持ったまま放った拳はノイズへと突き刺さり、炭素となって崩れ落ちる。
普通ならば人が触れたら炭化するノイズに触れるだけで無く、逆に倒してみせたゲキレッドの姿に【怪人】達は咆哮を上げる。
(次はお前達だ!)
次に狙うのは目の前にいる、【怪人】達の中でも特に醜悪な一匹だ。顔面に打ち込んだ拳が【怪人】を吹き飛ばし、後方にいた【怪人】数匹を巻き込んでノイズに突っ込み炭化させる。
(……【怪人】ってノイズの仲間じゃ無かったんだ)
黒く染まる意識の中で、妙に冷静な部分でそう呟くと気を取り直す。
(まだ、【怪人】も、ノイズも、沢山いるんだっ! コイツらは全部っ! 滅ぼしてやる!)
敵は数百を超えるノイズと【怪人】達。だが、それでも、ゲキレッドになった響の心に宿る憎しみは引く事を選択させない。
憎むべき敵が目の前にいるのならば、拳を振るうのに何の躊躇もない!
……夜が明けた頃には其処には大量の炭素の山と一人の少女だけが残っていた。指には黒い指輪を嵌め、光の無い瞳で炭素を見下ろす。
(【怪人】とノイズは、必ず滅ぼすんだ……)
その誓いを胸に。