一章
さて、その日、俺と友希那、リサが絶賛お泊まり会実施中の我が家に二人の後輩であり、リサのバイト仲間でもある青葉モカが遊びに来た。モカはいつも通りのマイペースさで家に上がるとキョロキョロと見回した後、俺と目が合うなりいきなりこんな事を言い出した。
「あ〜龍斗先輩だ〜」
そう言いながら抱きついてきた彼女を受け止めつつ頭を撫でると気持ち良さそうに目を細める様子はまるで猫みたいでとても可愛らしかった。そんな彼女を愛でていると横から不機嫌そうな声が聞こえてきたのでそちらを見るとそこには頬を膨らませた友希那の姿があった。どうやら嫉妬しているらしい……まあ、可愛いだけなんだけどな!そしてそんな俺達の様子を見たモカが不思議そうに首を傾げていたが、すぐにいつもの表情に戻ると今度は俺に抱きつき始めた。それを見た友希那はと言うと慌てて止めに入ったのだ。
「ちょっと待ちなさい!龍斗は私のものなんだから勝手に触らないで頂戴!」
そう言って俺から引き剥がそうとするのだが……逆にモカの方が強く抱きついてきたせいで中々離れようとしないようだった。その結果、バランスを崩した俺達はその場に倒れ込んでしまったのだった……幸いにも怪我は無かったものの、それでもかなり危なかったと思う。
その後、俺は二人を宥めつつ起き上がると二人に怪我がないかどうか確認した後で苦笑いしたリサが出してくれたお茶を飲んで一息ついていた。
「青葉、それで何しに来たんだ?」
別に用がなければ来るな、とは言わないがそれでも一応聞いてみる事にした。するとモカはいつも通りのマイペースな口調で答えたのだった……それは俺にとって予想外の答えだった。
「特に用事は無いですけど〜ただ龍斗先輩に会いに来ただけですよ〜」
そう言って微笑む彼女に思わずドキッとしてしまったが何とか平静を装っていると今度は友希那が口を開いたのだ。
「貴方、私達というものがありながら他の女に目移りするなんてどういうつもりかしら?これはお仕置きが必要みたいね」
そう言いながら迫ってくる彼女を宥めていると今度はリサまでもが参加してきたので、
「い、いや、別に俺は目移りなんてしてません」
と言うと友希那は疑わしそうな目を向けてきたものの一応納得してくれたようで引き下がってくれたのでホッと胸を撫で下ろしたのだった。
うん、別に後輩が遊びに来ることくらい普通のはずだ。偶々俺は親しい相手が異性が殆どなだけで。「そ、それより何か食べるか?」
そう言いながら台所へ向かうと後ろから三人がついてきた。どうやら手伝ってくれるらしいのでお言葉に甘えることにしたのだった。
そして三人で作った料理をテーブルの上に並べると俺達は席に着いたのだがそこでモカがこんな事を言い出したのだ。それはとんでもない爆弾発言だったのだ……彼女は言ったんだ「龍斗先輩〜あたしの事好きですか〜?」ってな……。
いやいやいやいや、待て待て待て待て!!確かに後輩として好きだけどもそういう感情は持ち合わせてないぞ!?というかリサの前で何言ってんだ!?向こうで友希那も驚いてるじゃねぇか!
「あ、ああ……好きだよ」
とりあえず無難にそう返すことにしたんだがそれでもモカは納得していないようだった。それどころか更に詰め寄ってきたので思わず仰け反ってしまう程だった。そしてそんな様子を見ていた友希那とリサが呆れた様子で止めに入ったおかげで何とか事なきを得たのだった……助かったぜ……。
そう思っていると友希那とリサが左右から逃さんとばかりに俺の肩を掴んできた。そして耳元で囁いてきたのだ。
「貴方は私のものなんだから他の女に目移りなんてしちゃダメよ?」
「そうよ〜ちゃんとあたしの事も構ってね〜」
そんな事を言いながら彼女達は妖艶な笑みを浮かべていたのだった……どうやらまだまだ俺の受難は続きそうだぜ……。
***モカとの修羅場(?)から数時間後、俺は自室にいた。というのも急にバイトが入ったとかで慌てて帰ってしまったからだ……まあ別に急ぎという訳では無いみたいだがそれでも待たせるわけにはいかないという事らしい。なので俺とリサは彼女を玄関まで見送った後リビングへと戻ったのだがそこで友希那に声をかけられたのだ。「ねぇ、龍斗」「ん?どうした?」
聞き返すと彼女は少し恥ずかしそうにしながらこう言ってきたんだ……それは衝撃的な言葉だった。
「私は貴方の事が好きよ」
そもそも、恋人同士なのだから当然だろう。だが、何故今それを言うのだろうか?そう思って首を傾げていると友希那はさらに言葉を続けた。それは衝撃的な言葉だった……
「私は貴方の事が好きよ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず固まってしまった……何故なら彼女があまりにも真剣な表情をしていたからだ……だから冗談とかではなく本気で言っているという事がよく分かったんだ……だからこそ俺も真剣に答えなければならないと思ったんだ。なので深呼吸をした後で改めて彼女に向き直ると口を開いたんだ。そして自分の思いを正直に伝えることにしたんだ。
すると彼女は嬉しそうな表情を浮かべると同時に抱きついてきたかと思うと、
「改めて告白させてもらったわ」
と言って微笑んだのだった……そんな彼女を見た俺は改めて思うことが出来たんだ。やっぱり彼女も一人の女性であり、そして一人の女性として俺の事を想ってくれているのだと。そう思うと胸の奥が熱くなるような感覚を覚えたんだ……それはとても心地良いものだった。だから俺も彼女を抱き締め返すことにしたんだ……するとそれに応えるように強く抱きしめ返されたことで余計に幸せな気分になったんだ……それからしばらくの間俺達はお互いの存在を確かめ合うかのように抱き合っていたんだけど、不意に友希那が声をかけてきたのでそちらを見ると彼女は顔を真っ赤に染め上げていた……どうやら恥ずかしがっているらしい……そんな姿もまた可愛らしく思えたんだ。
「龍斗、好きよ」
そう言って微笑む彼女に俺も同じ言葉を返すと今度は彼女の方からキスをしてきたんだ……それも触れるだけの軽いものではなく濃厚なディープキスだった為、驚いてしまったもののそれ以上に嬉しかったという気持ちの方が大きかったんだ……そしてそのまましばらくの間お互いの舌を求め合うような激しい口づけを交わしていたんだが、やがてどちらからともなく唇を離すと銀色の橋がかかったのを見て思わずドキッとしたな……だがそれでも満足できなかったのか再び顔を近づけようとすると、リサが間に割って入ってきたんだ。
「ちょっと友希那〜抜け駆け禁止だよ〜」そう言いながら頬を膨らませる彼女に苦笑しながら謝ると許してくれたようでホッとしたよ……ただ、その代わりにと言わんばかりに今度はキスをされてしまったんだ……それも触れるだけの軽いものではなく濃厚なものだったので驚いたもののそれ以上に嬉しかったという気持ちの方が大きかったんだ……それからしばらくの間お互いの舌を求め合うような激しい口づけを交わしていたんだが、やがてどちらからともなく唇を離すと銀色の橋がかかったのを見て思わずドキッとしたな……だがそれでも満足できなかったのか再び顔を寄せようとする。
当然ながら友希那もそれを阻止しようとしてきたが、その際にバランスを崩してしまったらしくそのまま倒れ込んでしまったのだ。その結果、俺が下敷きになる形になってしまったんだ……その拍子に胸が押し当てられたせいで変な気分になってしまいそうになったので慌てて起き上がると、リサに注意されてしまったのだった……
「もう、二人とも危ないじゃないか〜」そう言って頬を膨らませる彼女に謝りつつ改めて席に着くことになったんだがそこでふと思い出したことがあったのでそれを聞いてみることにしたんだ。それは先ほどモカに言われた事についてだ……というのも最近やたらと絡んでくるようになったからな……一体どういうつもりなんだろうか?正直言って迷惑この上ないんだが……そんな事を考えていると不意に声をかけられたのでそちらを見ると友希那が不思議そうな顔をしてこちらを見ていたんだ。
「どうしたの、龍斗?」
そう問いかけてきた彼女に何でもないと答えると再び食事を再開したのだった……それからしばらく経った頃だろうか、急にモカからメッセージが届いたんだ。その内容を確認するとどうやら話があるので二人で会えないかという内容だった為、了承する旨の返信を送った後待ち合わせ場所に向かう事にした。そして指定された場所に着くと既にモカの姿があった為、声をかけると彼女は嬉しそうな表情を浮かべながらこちらに駆け寄ってきたかと思うといきなり抱き着いてきたのだった。突然の事に驚いていると彼女は耳元で囁いてきたのだ……
「好きです、先輩」その瞬間、全身に電流が流れたかのような衝撃を受けた気がしたんだ……それと同時に顔が熱くなるのを感じたよ……まさか後輩から告白されるとは思ってもいなかったからな……だがそれでもすぐに返事をする事は出来なかったんだ。既に友希那とリサの二人と付き合ってる身の上だし。……もう、両者認めてるとは言え二股してる時点で今更かもしれないが?だがそれでも俺はまだ彼女達の事を完全に受け入れきれていなかったんだ。だからまずはお互いの事をもっと良く知る必要があると思ったんだよ……だから「少し考えさせてくれ」とだけ言ってその場を後にしたんだが、その日の夜に再びモカからメッセージが届いたので開いてみるとそこにはこう書かれていたんだ……「先輩なら良いですよ〜」ってな……いや、良いのかよ!?まあでもこれで一歩前進した気がするぜ!
うん、ジト目で俺の肩を掴んでいる友希那とリサが怖いんですけど!?しかも二人とも目が据わってるし……あっ、ちょっと待って下さい!謝るから許して下さい!! ***「モカ、龍斗先輩とはどういう関係なの?」
そう聞いてくるのは私の親友であり同じバンドメンバーでもある美竹蘭だ。ちなみに今はバンド練習を終えて帰路に着いているところである。ちなみに他のメンバーは用事があるらしく先に帰ってしまったため現在は二人きりだ。なので遠慮なく聞くことが出来ると思った私は思い切って聞いてみることにしたんだ。
「龍斗先輩とって……ああ〜あの人の事か〜」
それを聞いた瞬間、モカちゃんが一瞬だけ表情が変わったように見えたんだけどすぐにいつもの笑顔に戻ったので気のせいだったのかな……?まあいっか!それよりも今はこっちの方が大事だしね!それにしてもまさかモカちゃんまで彼の事を好きになるとは思わなかったなぁ……だってあの龍斗先輩はもう友希那さんとリサさんと付き合ってるし……改めて考えると、二股してるって事になるけど、二人とも幸せそうだから考えない様にしよう。そんな事を考えているうちにいつの間にか龍斗先輩の家に着いてしまったようだ……残念だけど今日はこの辺でお別れかな?そう思ってモカに声をかけようとしたその時だった。突然彼女がこんな事を言い出したんだ……それは衝撃的な言葉だった。
「あの人の事好きだなんて一言も言ってないけど〜?」
その言葉を聞いた瞬間、私は思わず固まってしまった……何故なら彼女があまりにも真剣な表情をしていたからだ……だから冗談とかではなく本気で言っているという事がよく分かったんだ……だからこそ私も真剣に答えなければならないと思ったんだ。なので深呼吸をした後で改めて彼のことが好きだって事を告白すると今度は彼女の方から手を引かれる。
「だったら〜、ちゃんと蘭も告白しないとだよ〜」
そう言って微笑む彼女に私も同じ言葉を返すと私達は龍斗先輩の家に上がり込むことにしたのだった……そこで待っているであろう彼に会いに行く為にね?
***
「えっと……」
俺は困惑していた。いや、いきなりモカが蘭を連れてやってきたのだから当然の反応だろう。だが、それ以上に困惑している事が他にあったのだ……それはモカが俺に抱きついてきた挙句キスをしてきたのだ。それも普通のキスではなく舌を入れてくるような濃厚なものだったため驚いてしまったもののそれ以上に嬉しかったという気持ちの方が大きかったんだ……
「好きです、先輩」
そして彼女は微笑みながらそう言うと再びキスをしてきたのだが今度は触れるだけの軽いものではなく舌を絡め合うようなものだったのだ……それによりお互いの唾液を交換し合うという形になったのだがそれでも満足できなかったのかもう一度顔を近づけようとしてくる彼女に待ったをかけた俺は改めて彼女と向き合うことにした。後ろでジト目で見てくる友希那とリサの視線に耐えながら。「モカ、蘭も一緒か?」
そう問いかけると彼女は笑顔で頷いてきた……まあ良いけどさ……。
それからしばらく経った頃だろうか、ふとモカが何かを思い出したかのように声を上げたかと思えばそのまま俺の元へ駆け寄ってきて抱きついてきたのだ。いきなりの事に驚いていると彼女は耳元で囁いてきたんだ……それは衝撃的な言葉だった……
「先輩なら良いですよ〜」そう言って微笑む彼女に俺は思わずドキッとしたな……いや、良いのかよ!?……たださ、俺に好意を抱いてくれてるのは嬉しいんだけどさ別に告白とかしなくても良かったんじゃないか?そう思いながら、いい笑顔です俺の肩を掴む友希那とリサの恋人二人と、そんな俺達を見てニヤニヤしているモカに俺は思わずため息を吐いてしまうのだった。
***「龍斗先輩っていつもあんな事してるの?」
そう言ってきたのは蘭だった……ちなみに今は俺の部屋にいるんだが、何故彼女がここにいるのかというとそれは数分前に遡る事になる。友希那とリサよモカへの尋問が行われている間、俺は部屋に行く様に言われたのである。そんな訳で俺は自室の中で蘭と二人きりとなった訳だ。そして、しばらく沈黙が続いた後先に口を開いたのは蘭の方だった。
「ねぇ先輩」
そう言って彼女は俺に抱きついてきたんだ……しかも胸を押し付けるような形でな?突然の事に驚いていると今度は耳元で囁いてきたんだ……それは衝撃的な言葉だった……
「好きです、先輩」
その言葉を聞いた瞬間俺は固まってしまったよ……何故なら彼女の目が本気だったからだ……だから冗談とかではなく本気で言っているという事がよく分かったんだ……だからこそ俺も真剣に答えなければならないと思ったんだよ。なので深呼吸をした後で改めて彼女に向かって言うことにしたんだ……
「俺はもう友希那とリサと付き合ってるんだけど」
考えてみれば二股になるが、仲の良い幼馴染の俺達にはそれが自然だった。だから今更二人のどちらかを選ぶなんて出来ないと思っていたんだよ……しかし彼女は違ったようだ。
「知ってますよ」そう言って微笑む彼女の笑顔はとても綺麗だった……思わず見惚れてしまいそうになるほどにな?だが、それでも俺は自分の気持ちを伝えようと思ったんだ。だから深呼吸をした後で改めて彼女に向かって言うことにしたんだ……
「でもさ、蘭の気持ちには応えられないと思う……」
それを聞いた瞬間彼女の顔が悲しげに歪んだのが分かったんだが、それでも構わず続けたんだ。
「……だって俺には友希那とリサがいるからさ」
「でも、それなら三人も四人も、今更ですよね?」
「えっ?」
予想外の言葉に呆然としているといつの間にか蘭の顔が目の前にあったと思ったら次の瞬間にはキスをされていたんだ……それも触れるだけの軽いものではなく舌を絡め合うようなものだったんだ……それによりお互いの唾液を交換し合うという形になったのだがそれでも満足できなかったのか再び顔を近づけようとしてくる彼女に待ったをかけた俺は改めて彼女と向き合う事にした。すると彼女は妖艶な笑みを浮かべて言ってきたんだ……それは衝撃的な言葉だった。
「あたしとも付き合いませんか?先輩」
そう言って笑う彼女の笑顔はとても綺麗だった……思わず見惚れてしまいそうになるほどにな?だが、俺の肩を答える瞬間掴んできた幼馴染兼恋人の二人と、そんな俺達を見てニヤニヤしてるモカに俺は思わずため息を吐いたんだ……それは数秒前の出来事だった。
***「龍斗先輩っていつもあんな事してるの?」
そう言ってきたのは蘭だ……ちなみに今は俺の部屋にいて、何故か俺の膝の上に頭を乗せて寝転がっているんだが……一体どういう状況なのか俺にもよく分からないんだよな……まあでもとりあえず質問に答える事にしたんだけどその前に一つ言いたい事があるんだよ……それはさ、何でお前までいるんだよモカ!?
「え〜だって面白そうだし〜」
そう言ってニヤニヤしている彼女に思わずため息を吐くと、とりあえず蘭の方を向く事にしたんだ。まあこのまま放置しておくわけにもいかないしな……というわけで早速質問させてもらう事にしたんだがその前にまずは状況整理だ。まずここは俺の部屋であり俺の膝元では膝の上に頭を乗せて寝転がっているモカがいるのだが何故こうなったのか俺にも分からないんだよ……それに先程からずっと視線を感じるんだよな……それも二つも。その一つは言うまでもなくモカのものでもう一つは言わずもがな蘭のものだろうという事はすぐに分かったんだけどな?
そして、友希那とリサとの話し合い、主に蘭とモカの二人による物によって、俺の意思は無視されて蘭とモカが俺の恋人に加わる事となったのでした。
***
「相談が有ります」
そう言ってきたのは氷川紗夜。友希那とリサのバンドRoseliaのメンバーでギター担当だ。そんな彼女から相談を持ちかけられるとは思ってもいなかったので驚いてしまったが、とりあえず話を聞いてみることにしたんだ。
「実は最近あこと燐子の様子がおかしいんです……それも龍斗さんと一緒に居る時だけなんですけど」
そう言って首を傾げる彼女だったが俺には思い当たる節があったんだよな。おそらく彼女達は俺と友希那とリサの関係について疑問を持っているんだろうと思ったんだよ。まあそれに関しては俺も同じ気持ちなんだけどな?しかしそれを口に出す事はしなかったんだ。何故ならそんな事を言えば面倒な事になるのが目に見えていたからな……。
「まあ、それだけではなく、最近は何かに怯えていたり、急に学校のプールで……大胆な水着を着たりと、普段の白金さんからは想像できないことをしたんです」
そこまで聞いた俺は思わず頭を抱えたくなったな……何故ならその原因が俺にあるという事を理解していたからな。
(まさかとは思うが、友希那とリサの水着姿に見惚れていたからとかじゃないだろうな……?)
そうだとしたら非常に不味い事になるんだが……まあ今は置いておこう。それよりもまずは目の前の問題を解決する事の方が先決だからな。
「それで相談っていうのはそれだけなのか?」
俺が尋ねると彼女は小さく首を横に振った後再び話し始めたんだ。その内容はというと、俺に燐子の様子がおかしい理由を調べてほしいらしい。
「どうも、あの水着は誰かに脅されて着る事を強要された様子なんです」
そこまで聞いた俺は思わず固まってしまったんだ……何故なら彼女の口から出た言葉があまりにも衝撃的だったからだな。そして同時に嫌な予感を感じずにはいられなかったんだが、それでも聞かない訳にもいかないので覚悟を決めることにしたんだ……それが間違いだったんだけどな? ***「えーっと、それでですね……」
そう言ってきたのは上原ひまり。Afterglowというバンドグループで主にキーボードを担当している少女だ。そんな彼女から相談を受けた俺は思わず頭を抱えたくなってしまったんだ……何故ならその内容が俺の予想していた通りのものだったからだ。
「実は最近、蘭とモカが変なんです」
それを聞いた瞬間俺の脳裏に浮かんだのは二人の新しい恋人達の姿だったんだがそれを口に出す事はしなかったんだよな……だって下手に口にしようものなら間違いなく面倒な事になると思ったからな。
「……それで具体的にはどんな風に変なんだ?」俺が尋ねると彼女は真剣な表情で答えてくれたんだ。どうやら彼女曰く、最近の二人の様子は明らかにおかしいらしい。例えば、学校の授業をサボったり、夜中に出歩く事が多くなったりと、普段の二人からは考えられない行動ばかり取っているみたいだ。そして極め付けは数日前の出来事についてだ。その日もいつも通り三人で登校していた時の話だが突然蘭とモカがトイレに行きたいと言った為、近くの公園で待つことにしたらしいのだが……そこで見てしまったそうだ。二人の様子が明らかにおかしい事に気が付いたひまりは急いで彼女達の後を追ったそうだが間に合わず見失ってしまったのだという……
「それで結局どうなったんだ?」俺が尋ねるとひまりは首を横に振った後で言ったんだ。
「分からないんです……でも、あの二人が何か事件に巻き込まれてるんじゃないかって不安なんです……」そう言う彼女の表情は本当に心配しているようで見ていて痛々しかったよ。だから俺は思わず手を差し伸べてしまったんだ……それがまさかあんな事になるとはこの時の俺は予想もしていなかったんだけどな? ***
「それで相談ってのはそれだけなのか?」そう聞くと彼女は小さく頷いた後再び話し始めたんだ。その内容というのがこれまた衝撃的だったんだ……というのもそれは俺が予想していた事と全く同じ内容だったからだ。
紗夜が言うには燐子のスマホに毎日彼女に対する命令が送られてきているそうだ。その内容というのが酷いもので、
『明日、この公園で全裸になりなさい』とか
『明日は学校を休む事。命令です』などと言ったものだそうだ……それを聞いた俺は思わず頭を抱えたくなってしまったよ……手口が悪質だ。人を自殺に追い込むゲームによく似た手口だ。
「氷川、その命令があったのは」
「……今日です」
そう言って俯く彼女。その表情は悲しげであり苦しそうでもあった……恐らくだが、彼女も相当辛い思いをしてきたのだろう。だからこそ俺は彼女を安心させるために優しく頭を撫でてやったんだ……すると彼女は一瞬驚いたような顔をした後ですぐに笑顔になってくれたよ。それを見て安心した俺は彼女に言ったんだ「大丈夫だ、俺が必ず解決してやる」ってな。それを聞いた彼女は嬉しそうに微笑んでくれたよ……その笑顔がとても可愛らしく見えたのはここだけの話だ。そしてその後俺達は別れたんだが、その時ふと思い出した事があったんだよ。同じメールが蘭とモカにも送られているらしい事をつぐみから聞いている事。
俺はつぐみに連絡して二人に送られたメールの内容を調べる様に頼んだ。
あとは明日、だな。そう考えると俺は一度友希那とリサのいる自宅に戻る。そして二人に事情を説明した後で二人にも協力してもらう事にしたんだ。
まずは明日に備えて寝なければと思い自室に向かった俺だったが、そこで事件は起こった……
「龍斗先輩」
そう言って声をかけてきたのは蘭だ。しかも何故か俺の部屋の前に立っていたのだ。
「どうしたんだ?こんな時間に」
そう尋ねると彼女は少し恥ずかしそうにしながら答えてくれたよ……その内容を聞いて俺は思わず固まってしまったんだ。何故ならそれはあまりにも衝撃的だったからだよ……まさか彼女がそんな事を言うなんて思わなかったからな?しかしだからと言って無視する訳には行かなかった。何故なら彼女は本気で言っている事が分かったからだ。だから俺は覚悟を決めて彼女を受け入れる事にしたんだ……それが間違いだとも知らずにな? ***
翌日、俺は燐子の命令にあった公園に向かった。そこには恐怖に耐える様に自身の服のボタンをはずしている燐子の姿が見えた。彼女がボタンを外して上着を脱ぐ前に急いでその手を止める。「だ、ダメです!龍斗くん」
そう言って抵抗する燐子だったが俺は構わず続けたんだ。
「大丈夫だ燐子。俺が必ずお前を守ってやる」そう言うと彼女は安心したように微笑んだ後静かに頷いた後でゆっくりと服を脱ぎ始めたんだ。その姿を見た時、俺は思わず見惚れてしまいそうになったよ……それほどまでに美しかったからな?しかし今はそんな場合ではないと思い直し、すぐに行動に移ったんだ……まずは燐子の手を取りその場から連れ出したんだがその時にふと疑問を感じたんだよな?何故彼女がこんなメールに従ってしまったのか。そんな事を考えていると、燐子の手を引いて公園から出ようとする俺達の行手を阻む様に数人の男達が現れたんだ。
「へへっ、待ちな兄ちゃん」
そう言って下卑た笑いを浮かべる男達を見た瞬間俺は全てを察してしまったよ……要するにこいつらの目的は燐子の体だったってわけだ。それを理解した時俺の頭に血が上りそうになったが何とか堪える事に成功したんだ。そしてそのまま無言で立ち去ろうとしたんだが奴らはそれを許してはくれなかったんだ。
コイツらの中に脅迫している奴がいるかは分からないが、
「何のようだ?」
「お前が連れている女を置いていけ」それを聞いた俺は思わずため息を吐いてしまったよ……仕方ないので燐子だけでも逃す為に彼女から離れようとしたんだが、それを邪魔する様にして一人の男が立ち塞がったんだ。その男は身長が高く体格も良い男でいかにも喧嘩慣れしているような雰囲気を醸し出していた。そしてその男は俺にこう言ったんだ。
「よう兄ちゃん、その女は俺達の獲物だ。大人しく渡してくれりゃあ痛い目には合わせないぜ?」
悪いがこんな事態程度は最悪の可能性だったが、想定している。
「お断りだ!」
そう言って俺はその男の顎を蹴り上げ、踵落としを喰らわせる。
頭への衝撃を続け様に受けた男はその場に気絶する。恐らく一番強かったのだろう、他の男達が動揺している中、その中の一人を適当に蹴り飛ばして其処から包囲を抜け出す。そしてそのまま燐子の手を引きながら逃げる事に成功した。
追いかけてくる男達を他所に予め待機していたリサの乗っているタクシーに飛び乗り、そのまま自宅へと向かった。
自宅についた後、俺はすぐに自室へと向かいベッドに横になる事にした……しかし流石に疲れたな?そんな事を考えていると誰かが扉をノックする音が聞こえたので返事すると、部屋に入ってきたのは友希那だった。
「大丈夫かしら?」心配そうに聞いてくる彼女に大丈夫だと答えた後で昨日の事を説明しようとしたんだがその前に彼女が先に口を開いたんだ。
「龍斗」そう呼ぶ彼女の表情は真剣そのもので思わず息を呑んでしまうほどだったがそれも束の間の事で次の瞬間にはいつもの優しい笑みを浮かべていた。そしてそのまま俺に近づくとそっと抱きしめてくれたんだ……突然の事に驚いている俺を他所に彼女は耳元で囁くようにこう言った。
「無理をしないで、貴方は一人じゃないのよ」その言葉を聞いた瞬間俺の目からは自然と涙が溢れ出ていた。そんな俺の頭を撫でてくれる彼女の手がとても心地良くて暫くの間されるがままになっていたんだがやがて落ち着いた後改めて昨日の出来事について話す事にしたんだ。
まず最初に俺は燐子のメールの内容について話したんだ……それを聞いた友希那は少し考えた後で口を開いたんだ。
「恐らくだけど、誰かが彼女達を脅迫している。最初は簡単な命令を行わせて段々と過激な命令にしていく様に仕向けていると思うの」
なるほどな……確かにその可能性は高いかもしれない。しかし一体誰がそんな事をしているんだろう?それが最大の謎だな?もし犯人が見つかれば解決するかもしれないが、そう簡単にはいかないだろう。それに相手は燐子と蘭とモカを狙っているんだ、下手に動くと逆効果になりかねないしな?そう考えているうちに一つの疑問が浮かんだんだ。それは何故犯人は彼女達を狙ったのかという事だ。その理由が分からない以上迂闊には行動できないと思ったんだがそこでふとある事を思い出したんだよ……それは昨日の事だ。
昨日、公園で会った男達は俺達の事を見て逃げようとしたんだ……それを見逃す訳にも行かずに捕まえようと追いかけたら奴らの兄貴分らしい人物が出て来て俺に襲いかかってきたんだよな?確か名前は……「えっとたしか和也だったか?」俺がそう言うと友希那が驚いたような顔をしてこっちを見た。どうやら心当たりがあるらしいな? 俺は詳しく話を聞く事にしたんだが、どうやらその和也は以前バンドを組んでいた時にトラブルを起こしてしまい、それ以降ずっと行方知れずだったらしい。そして今日、俺の目の前にいるのはその和也の弟である和正という男らしい。
話を聞いた限りでは和也同様にかなりの問題児のようだが今は改心して真面目に働いているらしい……しかし何故そんな奴が今更になって現れたんだ?それに何故燐子達をターゲットにしたかだが……恐らくそれは復讐の為だろう。以前バンドを組んでいた時にトラブルを起こして解散に追い込まれた事への報復といったところだろうな?
「それで龍斗はどう考えているのかしら?」そう聞いてくる彼女に俺は正直に思った事を伝える事にした。「まず間違いなく、和也と和正は兄弟だからあの男達の背後に黒幕がいるんじゃないかと思っているんだが」それを聞いた友希那は少し考える素振りを見せた後でこう言ったんだ。
「……確かにそうかもしれないわね?でもそうなると厄介ね……下手に動く事が出来ないわ」そう言ってため息を吐く彼女に俺はある提案をする事にしたんだ。
それは俺と友希那の二人で燐子達を助けるというものだった。
俺一人でも十分だとは思うが万が一という事もあるしな?それに相手は複数人いる可能性が高い以上二人で行動した方が効率が良いだろうと考えたんだ。
「分かったわ」俺の提案に友希那は少し考える素振りを見せた後で了承してくれたんだ。
その後、俺達は早速行動に移す事にしたんだが……その前に一つだけ確認しておきたい事があるんだよな?それは燐子のメールについてだ。もし仮にあのメールを送った犯人が和也達だった場合、その目的は一体何なのかという事だが……恐らくは俺達への警告と牽制が狙いだと思うんだよ?つまり奴らにとって燐子はその為に狙いやすかったって事だろう。
……いや、間違い無くこう言う場合は燐子かあこちゃんを狙うだろうな。
紗夜は警戒心が強いし、友希那とリサは俺が一緒にいる事が多い。そして、態々あんな所に大勢の柄の悪い男達を集めたんだ、そこに混ざってお楽しみ、等と考えているなら燐子一択だろうな。
清楚な外見に反してかなりスタイルの良い燐子だ、何気にそう言う目で見てるファンも多い。……その手の内容のファンレターは俺が予め省いて渡してるので気付いてないだろうがな?まぁそれは良いとして、問題はどうやって燐子達を助けるかだな。
……よし、決めたぞ!俺は友希那にある提案をする事にしたんだ。それを聞いた彼女は驚いた顔をした後で少し呆れた様な表情をしたが最終的には納得してくれたようで了承してくれたよ……それから俺達は早速行動を開始したんだが……その前に一つ確認しておきたい事があったんだよな? それは和也と和正の事だ。あの二人は兄弟で間違いないと思うし恐らくは奴らの背後にいる黒幕も同一だと考えているが確証は無い。
「今回の事はリサにも内緒にしていてくれ」
心配をかけたくないのもあるが、万が一リサにまで被害が及んでしまうかも知れない。だから俺はそう提案したんだ……しかし友希那は少し考えた後で口を開いた。
「分かったわ」彼女はそう言って頷いてくれたので取り敢えず安心できたんだが、問題はこの後どうするかだよな?そんな事を考えているうちに突然友希那に腕を掴まれたかと思うとそのままベッドに押し倒されたと思ったらその上に馬乗りになってきたんだよ!突然の事で動揺していると目の前に彼女の顔があったかと思えば次の瞬間にはキスをされていたんだ……しかも舌を入れてくる濃厚なやつだ。最初は驚いたものの次第に気持ち良くなってきたのか抵抗する事なく受け入れてしまっていたんだ。そしてそのまま暫くの間貪るようなキスを続けた後ようやく解放されたんだがその時には既に息も絶え絶えになっていた……そんな俺を見て友希那は妖艶な笑みを浮かべていたんだが正直言って凄くエロかったんだよな?それを見ていた俺は思わず見惚れてしまいそうになったけど何とか堪える事に成功したんだぜ?それから息を整えた後で改めて本題に入る事にしたんだ。
「それでこれからどうするのかしら?」
「まずはあの二人を誘き出さないとな……」
そう言って考え込む俺に友希那は少し呆れたような顔をする。どうも、他人を使ってその中に潜り込んで美味しいところに混ざろうとした様子だったし。「もしかして何か策があるの?」
そう聞いてくる友希那に対して俺はニヤリと笑みを浮かべて答えたんだ。
「ああ、任せろ」
そう言って俺はある人物に連絡を取る事にしたんだ……それは勿論バンド仲間で友人の弦巻こころだ。事前に連絡しておいたんだがそれでも半信半疑といった感じだったな?だが俺の言葉を信じてくれたのか協力してくれる事になったんだよ!本当に感謝しかないぜ?それから俺と友希那は作戦を実行したんだが予想以上に上手くいって正直驚いたな?まさかあそこまで上手くいくとは思わなかったよ……その後俺達は予定通りに動き無事に和正と和也を捕まえる事に成功したんだ!
うん、例えるならば、ラノベ一冊分の事件だっただろう。
「龍斗、本当にありがとう!」嬉しそうにお礼を言う友希那に対して俺は笑顔で答えた。「気にするなってこれくらいどうって事無いしな?」それから俺は二人に手錠をかけるとその二人は弦巻家の黒服さんに任せた。こころも人気バンドの一つであるハロハピのリーダーだ、運が悪ければ被害に遭っていたという事で彼女に使える黒服さん達も怒っている様子だったので後の事は任せた。そして、俺は燐子達の元へと向かったんだ。「龍斗くん!」そう言って抱きついてくる燐子を優しく受け止めながら頭を撫でてやった後で友希那とリサに声を掛ける。
「二人共無事か?」そう聞くと二人は笑顔で答えてくれたので安心したよ……それから俺達は和也と和正を弦巻家の黒服さん達に引き渡す為に一緒に行く事になったんだがそこでふとある事を思い出したんだよな?それはあのメールの事だ……もしあれが本当に和也の仕業だとしたら何故そんな事をしたのかという事だった。
「なぁ友希那、あのメールだけどさ……」俺がそう言うと彼女は少し考える素振りを見せた後で口を開いたんだ。
「ええ、あれは間違いなく和也の仕業だと思うわ……でもその目的までは分からないけれどね」そう言って考え込む友希那だったがここでふとある事に気が付いたんだ!それは燐子の事についてだ、彼女は和也が逮捕された事によって以前のような生活を送れると思っていたようだが実際はそうではなかった。何故なら彼女が脅迫されていたという事実は今も尚続いているからだ。
「あ〜龍斗先輩だ〜」
そう言いながら抱きついてきた彼女を受け止めつつ頭を撫でると気持ち良さそうに目を細める様子はまるで猫みたいでとても可愛らしかった。そんな彼女を愛でていると横から不機嫌そうな声が聞こえてきたのでそちらを見るとそこには頬を膨らませた友希那の姿があった。どうやら嫉妬しているらしい……まあ、可愛いだけなんだけどな!そしてそんな俺達の様子を見たモカが不思議そうに首を傾げていたが、すぐにいつもの表情に戻ると今度は俺に抱きつき始めた。それを見た友希那はと言うと慌てて止めに入ったのだ。
「ちょっと待ちなさい!龍斗は私のものなんだから勝手に触らないで頂戴!」
そう言って俺から引き剥がそうとするのだが……逆にモカの方が強く抱きついてきたせいで中々離れようとしないようだった。その結果、バランスを崩した俺達はその場に倒れ込んでしまったのだった……幸いにも怪我は無かったものの、それでもかなり危なかったと思う。
その後、俺は二人を宥めつつ起き上がると二人に怪我がないかどうか確認した後で苦笑いしたリサが出してくれたお茶を飲んで一息ついていた。
「青葉、それで何しに来たんだ?」
別に用がなければ来るな、とは言わないがそれでも一応聞いてみる事にした。するとモカはいつも通りのマイペースな口調で答えたのだった……それは俺にとって予想外の答えだった。
「特に用事は無いですけど〜ただ龍斗先輩に会いに来ただけですよ〜」
そう言って微笑む彼女に思わずドキッとしてしまったが何とか平静を装っていると今度は友希那が口を開いたのだ。
「貴方、私達というものがありながら他の女に目移りするなんてどういうつもりかしら?これはお仕置きが必要みたいね」
そう言いながら迫ってくる彼女を宥めていると今度はリサまでもが参加してきたので、
「い、いや、別に俺は目移りなんてしてません」
と言うと友希那は疑わしそうな目を向けてきたものの一応納得してくれたようで引き下がってくれたのでホッと胸を撫で下ろしたのだった。
うん、別に後輩が遊びに来ることくらい普通のはずだ。偶々俺は親しい相手が異性が殆どなだけで。「そ、それより何か食べるか?」
そう言いながら台所へ向かうと後ろから三人がついてきた。どうやら手伝ってくれるらしいのでお言葉に甘えることにしたのだった。
そして三人で作った料理をテーブルの上に並べると俺達は席に着いたのだがそこでモカがこんな事を言い出したのだ。それはとんでもない爆弾発言だったのだ……彼女は言ったんだ「龍斗先輩〜あたしの事好きですか〜?」ってな……。
いやいやいやいや、待て待て待て待て!!確かに後輩として好きだけどもそういう感情は持ち合わせてないぞ!?というかリサの前で何言ってんだ!?向こうで友希那も驚いてるじゃねぇか!
「あ、ああ……好きだよ」
とりあえず無難にそう返すことにしたんだがそれでもモカは納得していないようだった。それどころか更に詰め寄ってきたので思わず仰け反ってしまう程だった。そしてそんな様子を見ていた友希那とリサが呆れた様子で止めに入ったおかげで何とか事なきを得たのだった……助かったぜ……。
そう思っていると友希那とリサが左右から逃さんとばかりに俺の肩を掴んできた。そして耳元で囁いてきたのだ。
「貴方は私のものなんだから他の女に目移りなんてしちゃダメよ?」
「そうよ〜ちゃんとあたしの事も構ってね〜」
そんな事を言いながら彼女達は妖艶な笑みを浮かべていたのだった……どうやらまだまだ俺の受難は続きそうだぜ……。
***モカとの修羅場(?)から数時間後、俺は自室にいた。というのも急にバイトが入ったとかで慌てて帰ってしまったからだ……まあ別に急ぎという訳では無いみたいだがそれでも待たせるわけにはいかないという事らしい。なので俺とリサは彼女を玄関まで見送った後リビングへと戻ったのだがそこで友希那に声をかけられたのだ。「ねぇ、龍斗」「ん?どうした?」
聞き返すと彼女は少し恥ずかしそうにしながらこう言ってきたんだ……それは衝撃的な言葉だった。
「私は貴方の事が好きよ」
そもそも、恋人同士なのだから当然だろう。だが、何故今それを言うのだろうか?そう思って首を傾げていると友希那はさらに言葉を続けた。それは衝撃的な言葉だった……
「私は貴方の事が好きよ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず固まってしまった……何故なら彼女があまりにも真剣な表情をしていたからだ……だから冗談とかではなく本気で言っているという事がよく分かったんだ……だからこそ俺も真剣に答えなければならないと思ったんだ。なので深呼吸をした後で改めて彼女に向き直ると口を開いたんだ。そして自分の思いを正直に伝えることにしたんだ。
すると彼女は嬉しそうな表情を浮かべると同時に抱きついてきたかと思うと、
「改めて告白させてもらったわ」
と言って微笑んだのだった……そんな彼女を見た俺は改めて思うことが出来たんだ。やっぱり彼女も一人の女性であり、そして一人の女性として俺の事を想ってくれているのだと。そう思うと胸の奥が熱くなるような感覚を覚えたんだ……それはとても心地良いものだった。だから俺も彼女を抱き締め返すことにしたんだ……するとそれに応えるように強く抱きしめ返されたことで余計に幸せな気分になったんだ……それからしばらくの間俺達はお互いの存在を確かめ合うかのように抱き合っていたんだけど、不意に友希那が声をかけてきたのでそちらを見ると彼女は顔を真っ赤に染め上げていた……どうやら恥ずかしがっているらしい……そんな姿もまた可愛らしく思えたんだ。
「龍斗、好きよ」
そう言って微笑む彼女に俺も同じ言葉を返すと今度は彼女の方からキスをしてきたんだ……それも触れるだけの軽いものではなく濃厚なディープキスだった為、驚いてしまったもののそれ以上に嬉しかったという気持ちの方が大きかったんだ……そしてそのまましばらくの間お互いの舌を求め合うような激しい口づけを交わしていたんだが、やがてどちらからともなく唇を離すと銀色の橋がかかったのを見て思わずドキッとしたな……だがそれでも満足できなかったのか再び顔を近づけようとすると、リサが間に割って入ってきたんだ。
「ちょっと友希那〜抜け駆け禁止だよ〜」そう言いながら頬を膨らませる彼女に苦笑しながら謝ると許してくれたようでホッとしたよ……ただ、その代わりにと言わんばかりに今度はキスをされてしまったんだ……それも触れるだけの軽いものではなく濃厚なものだったので驚いたもののそれ以上に嬉しかったという気持ちの方が大きかったんだ……それからしばらくの間お互いの舌を求め合うような激しい口づけを交わしていたんだが、やがてどちらからともなく唇を離すと銀色の橋がかかったのを見て思わずドキッとしたな……だがそれでも満足できなかったのか再び顔を寄せようとする。
当然ながら友希那もそれを阻止しようとしてきたが、その際にバランスを崩してしまったらしくそのまま倒れ込んでしまったのだ。その結果、俺が下敷きになる形になってしまったんだ……その拍子に胸が押し当てられたせいで変な気分になってしまいそうになったので慌てて起き上がると、リサに注意されてしまったのだった……
「もう、二人とも危ないじゃないか〜」そう言って頬を膨らませる彼女に謝りつつ改めて席に着くことになったんだがそこでふと思い出したことがあったのでそれを聞いてみることにしたんだ。それは先ほどモカに言われた事についてだ……というのも最近やたらと絡んでくるようになったからな……一体どういうつもりなんだろうか?正直言って迷惑この上ないんだが……そんな事を考えていると不意に声をかけられたのでそちらを見ると友希那が不思議そうな顔をしてこちらを見ていたんだ。
「どうしたの、龍斗?」
そう問いかけてきた彼女に何でもないと答えると再び食事を再開したのだった……それからしばらく経った頃だろうか、急にモカからメッセージが届いたんだ。その内容を確認するとどうやら話があるので二人で会えないかという内容だった為、了承する旨の返信を送った後待ち合わせ場所に向かう事にした。そして指定された場所に着くと既にモカの姿があった為、声をかけると彼女は嬉しそうな表情を浮かべながらこちらに駆け寄ってきたかと思うといきなり抱き着いてきたのだった。突然の事に驚いていると彼女は耳元で囁いてきたのだ……
「好きです、先輩」その瞬間、全身に電流が流れたかのような衝撃を受けた気がしたんだ……それと同時に顔が熱くなるのを感じたよ……まさか後輩から告白されるとは思ってもいなかったからな……だがそれでもすぐに返事をする事は出来なかったんだ。既に友希那とリサの二人と付き合ってる身の上だし。……もう、両者認めてるとは言え二股してる時点で今更かもしれないが?だがそれでも俺はまだ彼女達の事を完全に受け入れきれていなかったんだ。だからまずはお互いの事をもっと良く知る必要があると思ったんだよ……だから「少し考えさせてくれ」とだけ言ってその場を後にしたんだが、その日の夜に再びモカからメッセージが届いたので開いてみるとそこにはこう書かれていたんだ……「先輩なら良いですよ〜」ってな……いや、良いのかよ!?まあでもこれで一歩前進した気がするぜ!
うん、ジト目で俺の肩を掴んでいる友希那とリサが怖いんですけど!?しかも二人とも目が据わってるし……あっ、ちょっと待って下さい!謝るから許して下さい!! ***「モカ、龍斗先輩とはどういう関係なの?」
そう聞いてくるのは私の親友であり同じバンドメンバーでもある美竹蘭だ。ちなみに今はバンド練習を終えて帰路に着いているところである。ちなみに他のメンバーは用事があるらしく先に帰ってしまったため現在は二人きりだ。なので遠慮なく聞くことが出来ると思った私は思い切って聞いてみることにしたんだ。
「龍斗先輩とって……ああ〜あの人の事か〜」
それを聞いた瞬間、モカちゃんが一瞬だけ表情が変わったように見えたんだけどすぐにいつもの笑顔に戻ったので気のせいだったのかな……?まあいっか!それよりも今はこっちの方が大事だしね!それにしてもまさかモカちゃんまで彼の事を好きになるとは思わなかったなぁ……だってあの龍斗先輩はもう友希那さんとリサさんと付き合ってるし……改めて考えると、二股してるって事になるけど、二人とも幸せそうだから考えない様にしよう。そんな事を考えているうちにいつの間にか龍斗先輩の家に着いてしまったようだ……残念だけど今日はこの辺でお別れかな?そう思ってモカに声をかけようとしたその時だった。突然彼女がこんな事を言い出したんだ……それは衝撃的な言葉だった。
「あの人の事好きだなんて一言も言ってないけど〜?」
その言葉を聞いた瞬間、私は思わず固まってしまった……何故なら彼女があまりにも真剣な表情をしていたからだ……だから冗談とかではなく本気で言っているという事がよく分かったんだ……だからこそ私も真剣に答えなければならないと思ったんだ。なので深呼吸をした後で改めて彼のことが好きだって事を告白すると今度は彼女の方から手を引かれる。
「だったら〜、ちゃんと蘭も告白しないとだよ〜」
そう言って微笑む彼女に私も同じ言葉を返すと私達は龍斗先輩の家に上がり込むことにしたのだった……そこで待っているであろう彼に会いに行く為にね?
***
「えっと……」
俺は困惑していた。いや、いきなりモカが蘭を連れてやってきたのだから当然の反応だろう。だが、それ以上に困惑している事が他にあったのだ……それはモカが俺に抱きついてきた挙句キスをしてきたのだ。それも普通のキスではなく舌を入れてくるような濃厚なものだったため驚いてしまったもののそれ以上に嬉しかったという気持ちの方が大きかったんだ……
「好きです、先輩」
そして彼女は微笑みながらそう言うと再びキスをしてきたのだが今度は触れるだけの軽いものではなく舌を絡め合うようなものだったのだ……それによりお互いの唾液を交換し合うという形になったのだがそれでも満足できなかったのかもう一度顔を近づけようとしてくる彼女に待ったをかけた俺は改めて彼女と向き合うことにした。後ろでジト目で見てくる友希那とリサの視線に耐えながら。「モカ、蘭も一緒か?」
そう問いかけると彼女は笑顔で頷いてきた……まあ良いけどさ……。
それからしばらく経った頃だろうか、ふとモカが何かを思い出したかのように声を上げたかと思えばそのまま俺の元へ駆け寄ってきて抱きついてきたのだ。いきなりの事に驚いていると彼女は耳元で囁いてきたんだ……それは衝撃的な言葉だった……
「先輩なら良いですよ〜」そう言って微笑む彼女に俺は思わずドキッとしたな……いや、良いのかよ!?……たださ、俺に好意を抱いてくれてるのは嬉しいんだけどさ別に告白とかしなくても良かったんじゃないか?そう思いながら、いい笑顔です俺の肩を掴む友希那とリサの恋人二人と、そんな俺達を見てニヤニヤしているモカに俺は思わずため息を吐いてしまうのだった。
***「龍斗先輩っていつもあんな事してるの?」
そう言ってきたのは蘭だった……ちなみに今は俺の部屋にいるんだが、何故彼女がここにいるのかというとそれは数分前に遡る事になる。友希那とリサよモカへの尋問が行われている間、俺は部屋に行く様に言われたのである。そんな訳で俺は自室の中で蘭と二人きりとなった訳だ。そして、しばらく沈黙が続いた後先に口を開いたのは蘭の方だった。
「ねぇ先輩」
そう言って彼女は俺に抱きついてきたんだ……しかも胸を押し付けるような形でな?突然の事に驚いていると今度は耳元で囁いてきたんだ……それは衝撃的な言葉だった……
「好きです、先輩」
その言葉を聞いた瞬間俺は固まってしまったよ……何故なら彼女の目が本気だったからだ……だから冗談とかではなく本気で言っているという事がよく分かったんだ……だからこそ俺も真剣に答えなければならないと思ったんだよ。なので深呼吸をした後で改めて彼女に向かって言うことにしたんだ……
「俺はもう友希那とリサと付き合ってるんだけど」
考えてみれば二股になるが、仲の良い幼馴染の俺達にはそれが自然だった。だから今更二人のどちらかを選ぶなんて出来ないと思っていたんだよ……しかし彼女は違ったようだ。
「知ってますよ」そう言って微笑む彼女の笑顔はとても綺麗だった……思わず見惚れてしまいそうになるほどにな?だが、それでも俺は自分の気持ちを伝えようと思ったんだ。だから深呼吸をした後で改めて彼女に向かって言うことにしたんだ……
「でもさ、蘭の気持ちには応えられないと思う……」
それを聞いた瞬間彼女の顔が悲しげに歪んだのが分かったんだが、それでも構わず続けたんだ。
「……だって俺には友希那とリサがいるからさ」
「でも、それなら三人も四人も、今更ですよね?」
「えっ?」
予想外の言葉に呆然としているといつの間にか蘭の顔が目の前にあったと思ったら次の瞬間にはキスをされていたんだ……それも触れるだけの軽いものではなく舌を絡め合うようなものだったんだ……それによりお互いの唾液を交換し合うという形になったのだがそれでも満足できなかったのか再び顔を近づけようとしてくる彼女に待ったをかけた俺は改めて彼女と向き合う事にした。すると彼女は妖艶な笑みを浮かべて言ってきたんだ……それは衝撃的な言葉だった。
「あたしとも付き合いませんか?先輩」
そう言って笑う彼女の笑顔はとても綺麗だった……思わず見惚れてしまいそうになるほどにな?だが、俺の肩を答える瞬間掴んできた幼馴染兼恋人の二人と、そんな俺達を見てニヤニヤしてるモカに俺は思わずため息を吐いたんだ……それは数秒前の出来事だった。
***「龍斗先輩っていつもあんな事してるの?」
そう言ってきたのは蘭だ……ちなみに今は俺の部屋にいて、何故か俺の膝の上に頭を乗せて寝転がっているんだが……一体どういう状況なのか俺にもよく分からないんだよな……まあでもとりあえず質問に答える事にしたんだけどその前に一つ言いたい事があるんだよ……それはさ、何でお前までいるんだよモカ!?
「え〜だって面白そうだし〜」
そう言ってニヤニヤしている彼女に思わずため息を吐くと、とりあえず蘭の方を向く事にしたんだ。まあこのまま放置しておくわけにもいかないしな……というわけで早速質問させてもらう事にしたんだがその前にまずは状況整理だ。まずここは俺の部屋であり俺の膝元では膝の上に頭を乗せて寝転がっているモカがいるのだが何故こうなったのか俺にも分からないんだよ……それに先程からずっと視線を感じるんだよな……それも二つも。その一つは言うまでもなくモカのものでもう一つは言わずもがな蘭のものだろうという事はすぐに分かったんだけどな?
そして、友希那とリサとの話し合い、主に蘭とモカの二人による物によって、俺の意思は無視されて蘭とモカが俺の恋人に加わる事となったのでした。
***
「相談が有ります」
そう言ってきたのは氷川紗夜。友希那とリサのバンドRoseliaのメンバーでギター担当だ。そんな彼女から相談を持ちかけられるとは思ってもいなかったので驚いてしまったが、とりあえず話を聞いてみることにしたんだ。
「実は最近あこと燐子の様子がおかしいんです……それも龍斗さんと一緒に居る時だけなんですけど」
そう言って首を傾げる彼女だったが俺には思い当たる節があったんだよな。おそらく彼女達は俺と友希那とリサの関係について疑問を持っているんだろうと思ったんだよ。まあそれに関しては俺も同じ気持ちなんだけどな?しかしそれを口に出す事はしなかったんだ。何故ならそんな事を言えば面倒な事になるのが目に見えていたからな……。
「まあ、それだけではなく、最近は何かに怯えていたり、急に学校のプールで……大胆な水着を着たりと、普段の白金さんからは想像できないことをしたんです」
そこまで聞いた俺は思わず頭を抱えたくなったな……何故ならその原因が俺にあるという事を理解していたからな。
(まさかとは思うが、友希那とリサの水着姿に見惚れていたからとかじゃないだろうな……?)
そうだとしたら非常に不味い事になるんだが……まあ今は置いておこう。それよりもまずは目の前の問題を解決する事の方が先決だからな。
「それで相談っていうのはそれだけなのか?」
俺が尋ねると彼女は小さく首を横に振った後再び話し始めたんだ。その内容はというと、俺に燐子の様子がおかしい理由を調べてほしいらしい。
「どうも、あの水着は誰かに脅されて着る事を強要された様子なんです」
そこまで聞いた俺は思わず固まってしまったんだ……何故なら彼女の口から出た言葉があまりにも衝撃的だったからだな。そして同時に嫌な予感を感じずにはいられなかったんだが、それでも聞かない訳にもいかないので覚悟を決めることにしたんだ……それが間違いだったんだけどな? ***「えーっと、それでですね……」
そう言ってきたのは上原ひまり。Afterglowというバンドグループで主にキーボードを担当している少女だ。そんな彼女から相談を受けた俺は思わず頭を抱えたくなってしまったんだ……何故ならその内容が俺の予想していた通りのものだったからだ。
「実は最近、蘭とモカが変なんです」
それを聞いた瞬間俺の脳裏に浮かんだのは二人の新しい恋人達の姿だったんだがそれを口に出す事はしなかったんだよな……だって下手に口にしようものなら間違いなく面倒な事になると思ったからな。
「……それで具体的にはどんな風に変なんだ?」俺が尋ねると彼女は真剣な表情で答えてくれたんだ。どうやら彼女曰く、最近の二人の様子は明らかにおかしいらしい。例えば、学校の授業をサボったり、夜中に出歩く事が多くなったりと、普段の二人からは考えられない行動ばかり取っているみたいだ。そして極め付けは数日前の出来事についてだ。その日もいつも通り三人で登校していた時の話だが突然蘭とモカがトイレに行きたいと言った為、近くの公園で待つことにしたらしいのだが……そこで見てしまったそうだ。二人の様子が明らかにおかしい事に気が付いたひまりは急いで彼女達の後を追ったそうだが間に合わず見失ってしまったのだという……
「それで結局どうなったんだ?」俺が尋ねるとひまりは首を横に振った後で言ったんだ。
「分からないんです……でも、あの二人が何か事件に巻き込まれてるんじゃないかって不安なんです……」そう言う彼女の表情は本当に心配しているようで見ていて痛々しかったよ。だから俺は思わず手を差し伸べてしまったんだ……それがまさかあんな事になるとはこの時の俺は予想もしていなかったんだけどな? ***
「それで相談ってのはそれだけなのか?」そう聞くと彼女は小さく頷いた後再び話し始めたんだ。その内容というのがこれまた衝撃的だったんだ……というのもそれは俺が予想していた事と全く同じ内容だったからだ。
紗夜が言うには燐子のスマホに毎日彼女に対する命令が送られてきているそうだ。その内容というのが酷いもので、
『明日、この公園で全裸になりなさい』とか
『明日は学校を休む事。命令です』などと言ったものだそうだ……それを聞いた俺は思わず頭を抱えたくなってしまったよ……手口が悪質だ。人を自殺に追い込むゲームによく似た手口だ。
「氷川、その命令があったのは」
「……今日です」
そう言って俯く彼女。その表情は悲しげであり苦しそうでもあった……恐らくだが、彼女も相当辛い思いをしてきたのだろう。だからこそ俺は彼女を安心させるために優しく頭を撫でてやったんだ……すると彼女は一瞬驚いたような顔をした後ですぐに笑顔になってくれたよ。それを見て安心した俺は彼女に言ったんだ「大丈夫だ、俺が必ず解決してやる」ってな。それを聞いた彼女は嬉しそうに微笑んでくれたよ……その笑顔がとても可愛らしく見えたのはここだけの話だ。そしてその後俺達は別れたんだが、その時ふと思い出した事があったんだよ。同じメールが蘭とモカにも送られているらしい事をつぐみから聞いている事。
俺はつぐみに連絡して二人に送られたメールの内容を調べる様に頼んだ。
あとは明日、だな。そう考えると俺は一度友希那とリサのいる自宅に戻る。そして二人に事情を説明した後で二人にも協力してもらう事にしたんだ。
まずは明日に備えて寝なければと思い自室に向かった俺だったが、そこで事件は起こった……
「龍斗先輩」
そう言って声をかけてきたのは蘭だ。しかも何故か俺の部屋の前に立っていたのだ。
「どうしたんだ?こんな時間に」
そう尋ねると彼女は少し恥ずかしそうにしながら答えてくれたよ……その内容を聞いて俺は思わず固まってしまったんだ。何故ならそれはあまりにも衝撃的だったからだよ……まさか彼女がそんな事を言うなんて思わなかったからな?しかしだからと言って無視する訳には行かなかった。何故なら彼女は本気で言っている事が分かったからだ。だから俺は覚悟を決めて彼女を受け入れる事にしたんだ……それが間違いだとも知らずにな? ***
翌日、俺は燐子の命令にあった公園に向かった。そこには恐怖に耐える様に自身の服のボタンをはずしている燐子の姿が見えた。彼女がボタンを外して上着を脱ぐ前に急いでその手を止める。「だ、ダメです!龍斗くん」
そう言って抵抗する燐子だったが俺は構わず続けたんだ。
「大丈夫だ燐子。俺が必ずお前を守ってやる」そう言うと彼女は安心したように微笑んだ後静かに頷いた後でゆっくりと服を脱ぎ始めたんだ。その姿を見た時、俺は思わず見惚れてしまいそうになったよ……それほどまでに美しかったからな?しかし今はそんな場合ではないと思い直し、すぐに行動に移ったんだ……まずは燐子の手を取りその場から連れ出したんだがその時にふと疑問を感じたんだよな?何故彼女がこんなメールに従ってしまったのか。そんな事を考えていると、燐子の手を引いて公園から出ようとする俺達の行手を阻む様に数人の男達が現れたんだ。
「へへっ、待ちな兄ちゃん」
そう言って下卑た笑いを浮かべる男達を見た瞬間俺は全てを察してしまったよ……要するにこいつらの目的は燐子の体だったってわけだ。それを理解した時俺の頭に血が上りそうになったが何とか堪える事に成功したんだ。そしてそのまま無言で立ち去ろうとしたんだが奴らはそれを許してはくれなかったんだ。
コイツらの中に脅迫している奴がいるかは分からないが、
「何のようだ?」
「お前が連れている女を置いていけ」それを聞いた俺は思わずため息を吐いてしまったよ……仕方ないので燐子だけでも逃す為に彼女から離れようとしたんだが、それを邪魔する様にして一人の男が立ち塞がったんだ。その男は身長が高く体格も良い男でいかにも喧嘩慣れしているような雰囲気を醸し出していた。そしてその男は俺にこう言ったんだ。
「よう兄ちゃん、その女は俺達の獲物だ。大人しく渡してくれりゃあ痛い目には合わせないぜ?」
悪いがこんな事態程度は最悪の可能性だったが、想定している。
「お断りだ!」
そう言って俺はその男の顎を蹴り上げ、踵落としを喰らわせる。
頭への衝撃を続け様に受けた男はその場に気絶する。恐らく一番強かったのだろう、他の男達が動揺している中、その中の一人を適当に蹴り飛ばして其処から包囲を抜け出す。そしてそのまま燐子の手を引きながら逃げる事に成功した。
追いかけてくる男達を他所に予め待機していたリサの乗っているタクシーに飛び乗り、そのまま自宅へと向かった。
自宅についた後、俺はすぐに自室へと向かいベッドに横になる事にした……しかし流石に疲れたな?そんな事を考えていると誰かが扉をノックする音が聞こえたので返事すると、部屋に入ってきたのは友希那だった。
「大丈夫かしら?」心配そうに聞いてくる彼女に大丈夫だと答えた後で昨日の事を説明しようとしたんだがその前に彼女が先に口を開いたんだ。
「龍斗」そう呼ぶ彼女の表情は真剣そのもので思わず息を呑んでしまうほどだったがそれも束の間の事で次の瞬間にはいつもの優しい笑みを浮かべていた。そしてそのまま俺に近づくとそっと抱きしめてくれたんだ……突然の事に驚いている俺を他所に彼女は耳元で囁くようにこう言った。
「無理をしないで、貴方は一人じゃないのよ」その言葉を聞いた瞬間俺の目からは自然と涙が溢れ出ていた。そんな俺の頭を撫でてくれる彼女の手がとても心地良くて暫くの間されるがままになっていたんだがやがて落ち着いた後改めて昨日の出来事について話す事にしたんだ。
まず最初に俺は燐子のメールの内容について話したんだ……それを聞いた友希那は少し考えた後で口を開いたんだ。
「恐らくだけど、誰かが彼女達を脅迫している。最初は簡単な命令を行わせて段々と過激な命令にしていく様に仕向けていると思うの」
なるほどな……確かにその可能性は高いかもしれない。しかし一体誰がそんな事をしているんだろう?それが最大の謎だな?もし犯人が見つかれば解決するかもしれないが、そう簡単にはいかないだろう。それに相手は燐子と蘭とモカを狙っているんだ、下手に動くと逆効果になりかねないしな?そう考えているうちに一つの疑問が浮かんだんだ。それは何故犯人は彼女達を狙ったのかという事だ。その理由が分からない以上迂闊には行動できないと思ったんだがそこでふとある事を思い出したんだよ……それは昨日の事だ。
昨日、公園で会った男達は俺達の事を見て逃げようとしたんだ……それを見逃す訳にも行かずに捕まえようと追いかけたら奴らの兄貴分らしい人物が出て来て俺に襲いかかってきたんだよな?確か名前は……「えっとたしか和也だったか?」俺がそう言うと友希那が驚いたような顔をしてこっちを見た。どうやら心当たりがあるらしいな? 俺は詳しく話を聞く事にしたんだが、どうやらその和也は以前バンドを組んでいた時にトラブルを起こしてしまい、それ以降ずっと行方知れずだったらしい。そして今日、俺の目の前にいるのはその和也の弟である和正という男らしい。
話を聞いた限りでは和也同様にかなりの問題児のようだが今は改心して真面目に働いているらしい……しかし何故そんな奴が今更になって現れたんだ?それに何故燐子達をターゲットにしたかだが……恐らくそれは復讐の為だろう。以前バンドを組んでいた時にトラブルを起こして解散に追い込まれた事への報復といったところだろうな?
「それで龍斗はどう考えているのかしら?」そう聞いてくる彼女に俺は正直に思った事を伝える事にした。「まず間違いなく、和也と和正は兄弟だからあの男達の背後に黒幕がいるんじゃないかと思っているんだが」それを聞いた友希那は少し考える素振りを見せた後でこう言ったんだ。
「……確かにそうかもしれないわね?でもそうなると厄介ね……下手に動く事が出来ないわ」そう言ってため息を吐く彼女に俺はある提案をする事にしたんだ。
それは俺と友希那の二人で燐子達を助けるというものだった。
俺一人でも十分だとは思うが万が一という事もあるしな?それに相手は複数人いる可能性が高い以上二人で行動した方が効率が良いだろうと考えたんだ。
「分かったわ」俺の提案に友希那は少し考える素振りを見せた後で了承してくれたんだ。
その後、俺達は早速行動に移す事にしたんだが……その前に一つだけ確認しておきたい事があるんだよな?それは燐子のメールについてだ。もし仮にあのメールを送った犯人が和也達だった場合、その目的は一体何なのかという事だが……恐らくは俺達への警告と牽制が狙いだと思うんだよ?つまり奴らにとって燐子はその為に狙いやすかったって事だろう。
……いや、間違い無くこう言う場合は燐子かあこちゃんを狙うだろうな。
紗夜は警戒心が強いし、友希那とリサは俺が一緒にいる事が多い。そして、態々あんな所に大勢の柄の悪い男達を集めたんだ、そこに混ざってお楽しみ、等と考えているなら燐子一択だろうな。
清楚な外見に反してかなりスタイルの良い燐子だ、何気にそう言う目で見てるファンも多い。……その手の内容のファンレターは俺が予め省いて渡してるので気付いてないだろうがな?まぁそれは良いとして、問題はどうやって燐子達を助けるかだな。
……よし、決めたぞ!俺は友希那にある提案をする事にしたんだ。それを聞いた彼女は驚いた顔をした後で少し呆れた様な表情をしたが最終的には納得してくれたようで了承してくれたよ……それから俺達は早速行動を開始したんだが……その前に一つ確認しておきたい事があったんだよな? それは和也と和正の事だ。あの二人は兄弟で間違いないと思うし恐らくは奴らの背後にいる黒幕も同一だと考えているが確証は無い。
「今回の事はリサにも内緒にしていてくれ」
心配をかけたくないのもあるが、万が一リサにまで被害が及んでしまうかも知れない。だから俺はそう提案したんだ……しかし友希那は少し考えた後で口を開いた。
「分かったわ」彼女はそう言って頷いてくれたので取り敢えず安心できたんだが、問題はこの後どうするかだよな?そんな事を考えているうちに突然友希那に腕を掴まれたかと思うとそのままベッドに押し倒されたと思ったらその上に馬乗りになってきたんだよ!突然の事で動揺していると目の前に彼女の顔があったかと思えば次の瞬間にはキスをされていたんだ……しかも舌を入れてくる濃厚なやつだ。最初は驚いたものの次第に気持ち良くなってきたのか抵抗する事なく受け入れてしまっていたんだ。そしてそのまま暫くの間貪るようなキスを続けた後ようやく解放されたんだがその時には既に息も絶え絶えになっていた……そんな俺を見て友希那は妖艶な笑みを浮かべていたんだが正直言って凄くエロかったんだよな?それを見ていた俺は思わず見惚れてしまいそうになったけど何とか堪える事に成功したんだぜ?それから息を整えた後で改めて本題に入る事にしたんだ。
「それでこれからどうするのかしら?」
「まずはあの二人を誘き出さないとな……」
そう言って考え込む俺に友希那は少し呆れたような顔をする。どうも、他人を使ってその中に潜り込んで美味しいところに混ざろうとした様子だったし。「もしかして何か策があるの?」
そう聞いてくる友希那に対して俺はニヤリと笑みを浮かべて答えたんだ。
「ああ、任せろ」
そう言って俺はある人物に連絡を取る事にしたんだ……それは勿論バンド仲間で友人の弦巻こころだ。事前に連絡しておいたんだがそれでも半信半疑といった感じだったな?だが俺の言葉を信じてくれたのか協力してくれる事になったんだよ!本当に感謝しかないぜ?それから俺と友希那は作戦を実行したんだが予想以上に上手くいって正直驚いたな?まさかあそこまで上手くいくとは思わなかったよ……その後俺達は予定通りに動き無事に和正と和也を捕まえる事に成功したんだ!
うん、例えるならば、ラノベ一冊分の事件だっただろう。
「龍斗、本当にありがとう!」嬉しそうにお礼を言う友希那に対して俺は笑顔で答えた。「気にするなってこれくらいどうって事無いしな?」それから俺は二人に手錠をかけるとその二人は弦巻家の黒服さんに任せた。こころも人気バンドの一つであるハロハピのリーダーだ、運が悪ければ被害に遭っていたという事で彼女に使える黒服さん達も怒っている様子だったので後の事は任せた。そして、俺は燐子達の元へと向かったんだ。「龍斗くん!」そう言って抱きついてくる燐子を優しく受け止めながら頭を撫でてやった後で友希那とリサに声を掛ける。
「二人共無事か?」そう聞くと二人は笑顔で答えてくれたので安心したよ……それから俺達は和也と和正を弦巻家の黒服さん達に引き渡す為に一緒に行く事になったんだがそこでふとある事を思い出したんだよな?それはあのメールの事だ……もしあれが本当に和也の仕業だとしたら何故そんな事をしたのかという事だった。
「なぁ友希那、あのメールだけどさ……」俺がそう言うと彼女は少し考える素振りを見せた後で口を開いたんだ。
「ええ、あれは間違いなく和也の仕業だと思うわ……でもその目的までは分からないけれどね」そう言って考え込む友希那だったがここでふとある事に気が付いたんだ!それは燐子の事についてだ、彼女は和也が逮捕された事によって以前のような生活を送れると思っていたようだが実際はそうではなかった。何故なら彼女が脅迫されていたという事実は今も尚続いているからだ。
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