カブトの世界(ガタック編)
「…ぼくがキバの世界に行く事を予言していた奴が居た…か。」
新しい世界の鍵である写真を手に入れた時、それが現像されるまでの間、時間が有ったので、一度《S.E.E.S》のメンバーが住んでいる寮へと足を運んだ時、丁度勇宇は美鶴と会う事が出来た。
ある意味、彼女の立場は彼の疑問に対する答えを聞くのに一番適任だった。
勇宇の疑問とは彼らに自分(ディケイド)の事を教えた人間…恐らくはライオトルーパーや仮面ライダーカイザを送り込んできた者と同一人物であろう、その人間の事を。
本来、キバの世界の人間でない…存在して居ない筈の自分やディケイドの事を彼らが知っているのには、何か理由が有るはず。…それを教えた者が居る筈と推測した。
それを聞いてみた結果、美鶴が言うには、影時間の夜-これは奏夜しか知らない事だが、キバシャドウと初めて戦った夜-に寮のロビーに突然現れ、『この世界にディケイドと呼ばれる悪魔が現れ、キバを破壊する。』と告げて、灰色のオーロラの様な歪みと共に消えたそうだ。
始めは疑っていた美鶴達だったが、次に嘘だと思うなら、勇宇が初めてカイザと戦った場所に行って見ろ、そこに全てを破壊する悪魔『ディケイド』が存在していると。そして、その結果、順平と明彦の二人はディケイドと会ってしまったと言う訳だ。
勇宇は結果的に自分が、その言葉を肯定してしまっていたと言う事になる。
「…結局、ぼくを殺そうとしていた奴の事は、何も分からず仕舞いか。」
精々、黒いコートを来た全身を黒い衣服に包んだ男だったと言う事程度だ。ある種、全身が特徴だらけの男だったのだが、それ以外の事は何も分からない。
「…わかった事は、ぼくの予想が当たった程度の事か…だけど…。」
まだ、仮面ライダーG3と仮面ライダーイクサ…自分が危なくなった時に助けてくれた仮面ライダー達の存在…その事についてはまだ何も分かっていないのが現状なのだ。
考えられる事は、自分を悪魔と言っている人間とは別にもう一人…自分を手助けしてくれている者が居ると言う事くらいだろうか。そして、その人間の事を考えていると行き当たる者は一人だけ…。
「…情報が足りないから、確実な事は言えないし…それに味方なら下手に疑わなくてもいいか…。」
そう…紫月の存在へと行き当たってしまうのだ。
世界の破壊者、仮面ライダーディケイド。十の世界を巡り…その瞳は何を見る?
仮面ライダーディケイド
~終焉を破壊する者~
第七話
『蒼と赤/カブトの世界(ガタック編)』
深夜
《Cloock over》
双剣を構えた蒼い影が緑色の異形の怪物…サナギ体のワーム達の間を走り抜けた瞬間、電子音が響き次々と爆散して行く。
「…これで、任務完了か…。…まったく、明日は学校だって言うのに、嫌な連中だな…害虫(ワーム)共は。」
双剣『ガタックダブルカリバー』を両肩に収納すると、そのまま歩き出そうとした瞬間、
《One Two Three》
ガタックゼクターのスイッチを三回連続で押し、ゼクターホーンに振れ、ゼクターホーンを右から左へと送り、再び元の位置へと戻す。
「ライダーキック。」
《Rider Kick》
電子音が響くと同時にガタックの全身を雷の様なエネルギーが纏う。そして、そのエネルギーは右足へと集る。そして、
「はぁ!」
後から迫ってきた成虫のワームへと、蒼き戦士…『仮面ライダーガタック・ライダーフォーム』は上段回し蹴りを叩き込む。
呻き声を上げて爆散して行くワームを一瞥しつつ、ガタックがガタックエクステンダーに乗り込んだ瞬間、
「仮面ライダーガタック。」
「っ!? お前…何者だ?」
突然後から声を掛けられる。気配も感じさせずにそこに立つ者の存在…それに一瞬だけ驚いたが、ガタックは振り向きそう問いかけた。
「えーと…この世界のぼく達の立場って…。」
「…また、学生…? …今度は、この学校の生徒……。」
新しい制服と学生証を確認すると勇宇はテレビをつける。明日にはこの世界の仮面ライダーの存在に付いて調べて行くのだから、今の内に少しでもこの世界の情報を手に入れておきたい。そう考えたのだが…
『先日のワームの大量発生は市民の生活に大きな影響を及ぼす前にフリーのライダー『カブト』と『キックホッパー』により無事、沈静化されました。』
テレビからそんなニュースが流れてきた。
「え゛?」
「…これって…。」
思いっきりライダーの名前を告げてくれるテレビからの放送に思わず絶句してしまう勇宇と柴月だが、次の瞬間…もっと絶句してしまう事となるのだ。
「えーと、この世界の仮面ライダーは…この『仮面ライダーカブト』って事かな?」
「…じゃあ、この世界は…『カブトの世界』…?」
『カブト』の名前を聞いて未だに力が失われているカード『仮面ライダーカブト』のカードを取りだし、今度はこの世界なのかと考えて、それに視線を向ける二人だが…。
『先日のワーム対策でも大きな活躍を見せてくれたZECT所属のライダーのエース、『仮面ライダーガタック』こと、『荒谷 亨夜』さんですが…。』
マスクドフォーム、ライダーフォームの写真付きで紹介される聞き覚えの有る名前を言われて、今度はライドブッカーの中から新たに『仮面ライダーガタック』のカードを取り出す。
「えーと…この世界でぼくが力を取り戻す仮面ライダーって…もしかして…まさかとは思うけど…。」
「…カブトとガタック…両方とも、この世界に居る…。」
紫月の言葉に勇宇はテーブルの上に置かれた二枚のカードを見ながら、思わず考え込んでしまう。
最初の世界で『キバ』の力を取り戻した事で、一つの世界で取り戻せる力は一つだけと考えていた。だが、今、彼らの前に有るのは二枚のカード『仮面ライダーカブト』と『仮面ライダーガタック』の二枚なのだ…。
「…これって…一体どう言う事?」
「……分からない……。」
呆然と目の前に置かれた二枚のライドカードを眺めながら、そんな会話を交わす二人であった。
翌日の放課後…
「今の車のは、ZECTのマークか?」
勇宇は自分の前を通りすぎて行く大型車を一瞥すると、そこに書かれている昨日、テレビで見た『ZECT』と言うこの世界の仮面ライダーが所属している組織のマークを確認した。
(…早速、この世界の仮面ライダーに接触できそうだな。)
そう考えて、ポケットから携帯電話を取りだし柴月へ帰るのが遅くなると言う内容のメールを送る。
周囲に人が居る事からマシンディケイダーは呼び寄せる事は出来ない。…無人で疾走するバイクという光景なんて目立つ事この上ないだろうから。流石に、走って車を追いかけるのは多少無理があるが、大体向かって行った方向は確認できた。
「急ごう。」
ディケイドライバーの存在を確認しつつ勇宇は先程の大型車の走っていった方向へと向かって行く。
「なんだ、神代は兎も角、今日も矢車さんは…。」
「はい、荒谷副隊長。今回の作戦にも矢車隊長は不参加になります。」
ゼクトルーパー隊員の報告を聞きながら、亨夜は天井へと視線を向ける。本来、所属ではなく傭兵に近い形でZECTに参加している仮面ライダーサソードこと、『神代 剣』は兎も角として、ここ最近の活動に一切参加していないZECT所属のライダー仮面ライダーザビーこと、『矢車 想』の行動を疑問に思っていた。
「仕方ない。ワームはオレが殲滅する、お前達は周囲の避難を任せる。」
「「「「「「了解!」」」」」」
彼らが乗る車が停車し、数体のワームの前に足取りを揃えて、ゼクトルーパー達が降り、クワガタとZECTの文字が印刷されたジャケットを羽織った出雲学園の制服姿の亨夜が降りる。
「A班、B班は西をC班とD班は東を中心に避難誘導に当たれ!」
亨夜の指示を受けてゼクトルーパー達が行動を開始する。それを確認し、亨夜は己の相棒の名を呼ぶ。
「来い、ガタックゼクター!」
彼の元へと飛翔するガタックゼクターを受け止め、
「変身!!!」
《HEN-SHINN》
それをベルトへと指し込む。それと同時に重装甲の装甲…両肩の砲塔ガタックバルカンが出現し、『仮面ライダーガタック・マスクドフォーム』へと亨夜はその姿を変える。
「…夕飯までに帰らないと美由紀に悪いからな…さっさと駆除させてもらうぞ…害虫(ワーム)!」
近づいて来るサナギワーム達に次々とパンチと肘打ちやキックを打ち込みながら、距離が離れた所で一気に倒す為に、マスクドフォームの中で最も火力の高いガタックバルカンを撃ち、直撃したサナギワームを爆散させて行く。
「ちっ!」
目の前の光景を見て思わず舌打ちしてしまう。前に立っていた他の個体が巧い具合にガタックバルカンを防ぐ盾となった事で数体のサナギ体のワームが生き延びていてしまったのだ。先程の砲撃で全滅させるつもりだった亨夜としては、そう反応せずには居られなかった。
更に悪い事に残すワーム達の中の数体の外郭が砕け散り、軽やかな印象を持つ、人と昆虫を合成したような成体ワームが現れた。そして、次の瞬間、成体ワーム達の姿が掻き消える。
「がぁ!」
それ同時に四方から攻撃される様にガタックの体が吹き飛ばされ、左右へと弾かれ、上空へと吹き飛ばされ、そのまま地面へと叩きつけられる。
「ぐ…。」
ガタックは立ち上がりながら、ガタックゼクターのゼクターホーンにと触れる。そして、それを両脇に畳み込み、全身の装甲が浮かび上がり青いスパークが駆け巡る。
「キャストオフ!」
《CHAST OFF》
ガタックの全身を包んでいたマスクドフォームの装甲が一斉に飛散する。そして、頭部左右に倒れていた『ガタックホーン』が起立し、側頭部の定位置に収まり、電子音が響き渡る。
《Change StagBeetle》
両肩にマスクドフォーム時の火器とは違う二本の接近戦用の曲刀に似た武器を装備した細身の戦士《仮面ライダーガタック・ライダーフォーム》へと変身する。
そして、両肩のガタックダブルカリバーを構え、何時でもクロック・アップを行える体制へと入る。その瞬間、
『良かった。最初に会えた仮面ライダーがガタックで。』
「っ!?」
突然聞こえてきた第三者の声に一斉にその場に居た全員の視線がそちらの方へと集中する。そこには、にこやかに佇む勇宇の姿が有った。
「おい、お前! ここは危険だ、早く逃げろ!」(バカが…助けても一発くらい殴るぞ。)
ガタックは勇宇に向かって彼を助け様と動こうとするが、それを遮る様に成体ワーム達がガタックの行動を阻む。
「それは大丈夫。そっちのは拙いかも知れないけどね、クロック・アップが出来ない奴等なら、十分相手は出きる。」
自分に近づいて来るサナギワーム達を気にもせずにポケットの中から取り出したディケイドライバーを取りだし、それを装着する。そして、一枚のカードを取り出す。
「変身!」
-KAMENRAIDE! DECADE!―
ディケイドへと変身すると自分に近づいてきていたサナギワーム達にソードモードのライドブッカーを構えて、切りかかる。
「な!?」(…奴が…ディケイド…あの男の言っていた事は本当だったのか?)
ガタックがディケイドを見て驚きを露にしていると、目の前の成体ワーム達は力を溜めるような体制に入る。
「チィッ! 考えてるヒマは無いか?」
《Cloock up》
腰のスタータースイッチを押し、それと同時に成体ワーム達が加速状態へと入る。肉眼では捉えられないほどの加速した時間の中でガタックと成体ワーム達は戦闘に入った。
ガタックSIDE
「はぁ!」
双剣による剣舞を舞うガタックとそれを受ける成体ワーム達。反撃とばかりに爪を振るい、針を打ち出して反撃してくるのだが。
「どうした、その程度か? 渚の奴の方がまだ手応えがあるぞ!?」
仮面の奥で嘲笑する様な笑みを浮かべながら、ガタックは成体ワーム達の攻撃をガタックダブルカリバーで捌いて行く。
「破ァ!」
『×』の字を描く様に切り裂き、それによって怯んだ成体ワームに続け様にガタックダブルカリバーの連撃を見舞う。
「ぐぁ!」
助けに入った別の固体に攻撃を受け、弾かれるが直に体制を立て直す。
「…流石に、油断は禁物だな。」
油断していた自分を恥じる様にそう言いきり、成体ワーム達に向かいながら、ガタックゼクターのスイッチを押して行く。
《One Two Three》
ガタックゼクターのスイッチを三回連続で押し、ゼクターホーンに振れ、ゼクターホーンを右から左へと送り、再び元の位置へと戻す。
「ライダーキック。」
《Rider Kick》
電子音が響くと同時にガタックの全身を雷の様なエネルギーが纏う。そして、そのエネルギーは右足へと集る。
「ハァ!!!」
飛び蹴りの体制で撃ち込んだガタックの持つ必殺技『ライダーキック』が成体ワーム達を爆散させた。
《Cloock over》
戦闘の終了を告げるように加速した世界が終わりを継げる電子音が響くのだった。
SIDE OUT
ディケイドSIDE
(…こいつ等はワームか…。あの時はカブトに変身して倒せたけど…今はカブトの力は使えない。だったら、加速される前に倒すだけ。)「はぁ!!!」
そう考え、素早くサナギワームの中の一体に向かってソードモードのライドブッカーで斬り掛かる。
「はぁ!」
近づいて来るサナギワームにキックを放ち、素早くガンモードに切換えたライドブッカーでの零距離射撃を打ち込む。
それによって、自分とサナギワームとの距離が開いた所で、別のサナギワームに対してガンモードのライドブッカーを撃つ。
「悪いけど、決着を付けさせてもらうよ。」
-ATTACKRIDE! SLASH!―
取り囲んで一斉に攻撃を仕掛けてこようとしたサナギワーム達に対して、斬撃を強化するカードを使い、円を描く様にソードモードのライドブッカーを振り回し纏めて切り裂く。それによって、サナギワーム達は一斉に爆散して行く。
《Cloock over》
それと同時に何処からか電子音が響き、仮面ライダーガタックがその姿をあらわした。
SIDE OUT
ワーム達を倒した後、ディケイドとガタックは互いに向かい合う形で対峙する。
「初めまして、ぼくは…「お前の事は聞いている。」って、まさか?」
先ずは挨拶と友好的な態度で戦う意思がない事を示そうとした矢先に、ディケイドの言葉を遮って告げられるガタックの言葉に思わずそんな叫び声を上げてしまう、ディケイドだった。
「お前の事は聞いているぞ。世界を破壊する悪魔…なんだってな?」
「えーと、なんかそう言う事になっているみたいですけど、ぼくは…。」
「試させてもらうぞ、お前の力を!」
「って、またか!?」
そう叫びガタックダブルカリバーを構え斬りかかって来るガタック。思わず行き成りのガタックの態度にそんな声を上げてしまうディケイドだった。
「破ぁ!」
「ぐあ!」
ガタックの双剣の一本をソードモードのライドブッカーで受け止めるも、それを受け止めている間に出来た僅かな隙を逃さず、開いているもう一本のガタックダブルカリバーの斬撃を叩き込まれる。
「ちょっと、待て! ぼくには戦う気は無い!」
「問答無用だ!」
再度斬り掛かってくるガタックに対して、今度は受け止めると言う選択肢を取らずに後方に下がりながら、ガタックの剣を回避する。
「仕方ない。だったら、悪いけど、こっちも新しい力を試させてもらう!」
そう叫ぶと、ディケイドはライドブッカーの中から新しいカードを取り出す。それはキバの世界で手に入れたカードの一枚。
-KAMENRAIDE! KIVA!―
ディケイドライバーとライドブッカーを除いてディケイドの姿がディケイドの物から仮面ライダーキバの物へと変化して行く。
「変わっただと!?」
D(ディケイド)キバは全く別のライダーへと姿を変えたディケイドに対して、明らかに動揺しているガタックの斬撃を掻い潜り、ガタックの懐へと飛び込み打撃を放つ。
「グァ!」
D(ディケイド)キバの打撃を受け、そのまま壁へと叩きつけられる。
「剣には剣ってね。」
その隙を逃さずキバのガルルフォームの絵が掛かれたカードを取りだし、ライドブッカーへと挿入する。
―FORMRIDE KIVA! GARULU!―
ディケイドライバーの中核部分からガルルセイバーが現れ、D(ディケイド)キバがそれを手にし、左腕と胸部に鎖が巻かれると同時に、ガルルフォームへと姿を変える。D(ディケイド)キバGF(ガルルフォーム)はガルルセイバーを操り、ガタックと切り結ぶ。
(こいつ、戦い方が急に変わった?)
(彼もぼくが悪魔だって聞かされたのか? …そんなに妖しいのかな、ぼくって?)
一撃、ニ撃、三撃と切り結ばれていく、ガルルセイバーとガタックダブルカリバーの三つの刃。自覚は無いだろうが、ディケイドもガルルフォームへとなった事でキバの変身するガルルフォームに近い動きを見せているのだ。
互いに相手の剣を弾く様に力任せに剣を振るい、相手から距離を取る。
そして、ガタックはガタックダブルカリバーを交差させようとし、D(ディケイド)キバGFもライドブッカーの中からキバの紋章の描かれた黄色いカードを取り出す。
互いに必殺技を放つ体制が整った瞬間、D(ディケイド)キバGFとガタックの体が弾き飛ばされる。
「うわ!!!」
「くっ!!!」
《Cloock over》
同時に電子音が響き、カブトムシをイメージさせる赤い体を持つ一人の仮面ライダーがガタックとD(ディケイド)キバの間に立ち尽くしていた。それと同時にD(ディケイド)キバからディケイドへと戻る。
「…仮面ライダー…カブト?」
「っ!? 龍牙か、何のつもりだ?」
カブトはガタックへと視線を向け、呆れた様に溜息をつきながら
「やれやれ、お前はまたか? あの仮面ライダーと戦ったのも、ZECTの命令か?」
「いや、今回はオレだけの意思だ。世界を破壊する悪魔の力がどれほどの物かと思って試して見たかった。それだけだ。」
カブトの言葉にそう答えると『気が済んだ』とでも言う様な態度でガタックゼクターをベルトから外して、変身を解除する。
「だから、ぼくは悪魔じゃない!」
ガタックが変身を解除すると、そう叫びディケイドもディケイドライバーを外し、変身を解除した。
「…“世界を破壊する悪魔”か? 大して信じている訳でもないだろうに。」
「さあな。オレは単に…そいつが敵だった場合…確実に始末できる様に実力を見ておきたかった。それだけだ。」
「…組織の為か?」
「それ以外に何が有る?」
「お前…組織より大切な物は無いのか?」
「愚問だな。それを護る為に組織が必要なんだろう。」
カブトに対してそう言うと亨夜は勇宇とカブトに背中を向けて立ち去っていく。
「やれやれ、あいつは。っと、そっちの悪魔さんも早く立ち去った方がいいぞ。」
そう告げるとカブトはベルトのスタータースイッチを叩き、加速状態を利用して姿を消して行く。
「…あれがこの世界の仮面ライダー達…。」
カブト…龍牙と呼ばれていた仮面ライダーの姿には確証が有る。自分も変身して、自分の持っていたカードの中の一枚としてみていた。だが…間違いなく、自分の持っているもう一枚のカードに掛かれている絵柄もこの世界の仮面ライダー『ガタック』だった。
「…間違いない…この世界には、ぼくが力を手に入れる仮面ライダーは……二人いる。」
確信を持って勇宇はそう言い切った。
「ん? あんたは。」
ディケイドとガタックの戦いを止めた後、龍牙は帰り道の途中、一つの人影が現れた。
「龍牙くん…。君に…頼みが有る。」
「頼み? オレにか…矢車さん。」
龍牙の前に現れた男…『矢車 想』。だが、その腕にはザビーへの変身に必要なライダーブレスが存在していなかった。
「っ!? 矢車さんがZECTから追放された!?」
『そう言う事だ。ザビーと隊長の後任はそろそろそっちに着くはずだ。』
電話の向こうから聞こえてくる上司の言葉に思わず亨夜はそう叫んでしまう。
「その通りだ。」
「…あんたが…後任の…。」
後から聞こえた声に反応し亨夜は振り返る。
「ああ。オレが後任の隊長になる…。」
「ZECTの上層部にワームと繋がっている人間がいる?」
「ああ。その事を調査していたんだが、オレは組織を追放されてしまった。」
事情を知らない夕美にはお茶を出す様に頼んで席を外してもらっている間に交わされる龍牙と矢車の会話。
「…それで、その上層部にいる疑わしい人間は、あんたを追放して、自分の息の掛かった人間を公認の隊長として、送り込んだと言う訳か。」
「そう言う事になる。」
「だけど、それなら、それで…その人間から上へ辿り着く事も出来るんじゃないんですか?」
「そうなんだが、後任の人間の情報は何も出てこなかったんだ。分かっているのは…名前だけだ。」
「名前?」
「ああ。オレの後任の人間の名前は…。」
「「『天道 総司』だ。」」
「「っ!?」」
「兄さんが…ワームと…?」
呆然とした表情で龍牙はそう呟くのが限界だった。
「柴月…間違いない。この世界には、二人、仮面ライダーが居る。」
「…うん…。…勇宇が会ったって言う二人の仮面ライダーって、両方ともこのカードの…。」
紫月の言葉に勇宇はカブトのカードを指差す。
「後から出てきた方の仮面ライダーは間違い無くカブト…この仮面ライダーと同じ姿をしていた。」
正確には、カードの絵柄事態がカブトをモデルとした物なのだから、それは逆なのだろうが。
そして、勇宇は次のカード…ガタックの方を指差す。
「でも、ガタックの方もこのカードの仮面ライダーだった。」
他のカードとは別に『神鬼』と共にカードに飛び出してきたカード『ガタック』…。飽く迄可能性の問題だが、ガタックと神鬼のカードは…他のカードと同じ世界に同時に存在している。
「…大丈夫…勇宇の信じる通りに行動すればいいと思う…。…それに、この世界の終焉の欠片は…。」
「キバの世界の事を考えると、仮面ライダーの近くに存在している?」
勇宇の言葉を肯定するように柴月は微笑を浮かべる。それだけで勇宇には彼女の意思が否定ではなく、彼の言葉を肯定する物だと言う事が理解できた。
「…カブトとガタック…この世界の仮面ライダーか。」
新しい世界の鍵である写真を手に入れた時、それが現像されるまでの間、時間が有ったので、一度《S.E.E.S》のメンバーが住んでいる寮へと足を運んだ時、丁度勇宇は美鶴と会う事が出来た。
ある意味、彼女の立場は彼の疑問に対する答えを聞くのに一番適任だった。
勇宇の疑問とは彼らに自分(ディケイド)の事を教えた人間…恐らくはライオトルーパーや仮面ライダーカイザを送り込んできた者と同一人物であろう、その人間の事を。
本来、キバの世界の人間でない…存在して居ない筈の自分やディケイドの事を彼らが知っているのには、何か理由が有るはず。…それを教えた者が居る筈と推測した。
それを聞いてみた結果、美鶴が言うには、影時間の夜-これは奏夜しか知らない事だが、キバシャドウと初めて戦った夜-に寮のロビーに突然現れ、『この世界にディケイドと呼ばれる悪魔が現れ、キバを破壊する。』と告げて、灰色のオーロラの様な歪みと共に消えたそうだ。
始めは疑っていた美鶴達だったが、次に嘘だと思うなら、勇宇が初めてカイザと戦った場所に行って見ろ、そこに全てを破壊する悪魔『ディケイド』が存在していると。そして、その結果、順平と明彦の二人はディケイドと会ってしまったと言う訳だ。
勇宇は結果的に自分が、その言葉を肯定してしまっていたと言う事になる。
「…結局、ぼくを殺そうとしていた奴の事は、何も分からず仕舞いか。」
精々、黒いコートを来た全身を黒い衣服に包んだ男だったと言う事程度だ。ある種、全身が特徴だらけの男だったのだが、それ以外の事は何も分からない。
「…わかった事は、ぼくの予想が当たった程度の事か…だけど…。」
まだ、仮面ライダーG3と仮面ライダーイクサ…自分が危なくなった時に助けてくれた仮面ライダー達の存在…その事についてはまだ何も分かっていないのが現状なのだ。
考えられる事は、自分を悪魔と言っている人間とは別にもう一人…自分を手助けしてくれている者が居ると言う事くらいだろうか。そして、その人間の事を考えていると行き当たる者は一人だけ…。
「…情報が足りないから、確実な事は言えないし…それに味方なら下手に疑わなくてもいいか…。」
そう…紫月の存在へと行き当たってしまうのだ。
世界の破壊者、仮面ライダーディケイド。十の世界を巡り…その瞳は何を見る?
仮面ライダーディケイド
~終焉を破壊する者~
第七話
『蒼と赤/カブトの世界(ガタック編)』
深夜
《Cloock over》
双剣を構えた蒼い影が緑色の異形の怪物…サナギ体のワーム達の間を走り抜けた瞬間、電子音が響き次々と爆散して行く。
「…これで、任務完了か…。…まったく、明日は学校だって言うのに、嫌な連中だな…害虫(ワーム)共は。」
双剣『ガタックダブルカリバー』を両肩に収納すると、そのまま歩き出そうとした瞬間、
《One Two Three》
ガタックゼクターのスイッチを三回連続で押し、ゼクターホーンに振れ、ゼクターホーンを右から左へと送り、再び元の位置へと戻す。
「ライダーキック。」
《Rider Kick》
電子音が響くと同時にガタックの全身を雷の様なエネルギーが纏う。そして、そのエネルギーは右足へと集る。そして、
「はぁ!」
後から迫ってきた成虫のワームへと、蒼き戦士…『仮面ライダーガタック・ライダーフォーム』は上段回し蹴りを叩き込む。
呻き声を上げて爆散して行くワームを一瞥しつつ、ガタックがガタックエクステンダーに乗り込んだ瞬間、
「仮面ライダーガタック。」
「っ!? お前…何者だ?」
突然後から声を掛けられる。気配も感じさせずにそこに立つ者の存在…それに一瞬だけ驚いたが、ガタックは振り向きそう問いかけた。
「えーと…この世界のぼく達の立場って…。」
「…また、学生…? …今度は、この学校の生徒……。」
新しい制服と学生証を確認すると勇宇はテレビをつける。明日にはこの世界の仮面ライダーの存在に付いて調べて行くのだから、今の内に少しでもこの世界の情報を手に入れておきたい。そう考えたのだが…
『先日のワームの大量発生は市民の生活に大きな影響を及ぼす前にフリーのライダー『カブト』と『キックホッパー』により無事、沈静化されました。』
テレビからそんなニュースが流れてきた。
「え゛?」
「…これって…。」
思いっきりライダーの名前を告げてくれるテレビからの放送に思わず絶句してしまう勇宇と柴月だが、次の瞬間…もっと絶句してしまう事となるのだ。
「えーと、この世界の仮面ライダーは…この『仮面ライダーカブト』って事かな?」
「…じゃあ、この世界は…『カブトの世界』…?」
『カブト』の名前を聞いて未だに力が失われているカード『仮面ライダーカブト』のカードを取りだし、今度はこの世界なのかと考えて、それに視線を向ける二人だが…。
『先日のワーム対策でも大きな活躍を見せてくれたZECT所属のライダーのエース、『仮面ライダーガタック』こと、『荒谷 亨夜』さんですが…。』
マスクドフォーム、ライダーフォームの写真付きで紹介される聞き覚えの有る名前を言われて、今度はライドブッカーの中から新たに『仮面ライダーガタック』のカードを取り出す。
「えーと…この世界でぼくが力を取り戻す仮面ライダーって…もしかして…まさかとは思うけど…。」
「…カブトとガタック…両方とも、この世界に居る…。」
紫月の言葉に勇宇はテーブルの上に置かれた二枚のカードを見ながら、思わず考え込んでしまう。
最初の世界で『キバ』の力を取り戻した事で、一つの世界で取り戻せる力は一つだけと考えていた。だが、今、彼らの前に有るのは二枚のカード『仮面ライダーカブト』と『仮面ライダーガタック』の二枚なのだ…。
「…これって…一体どう言う事?」
「……分からない……。」
呆然と目の前に置かれた二枚のライドカードを眺めながら、そんな会話を交わす二人であった。
翌日の放課後…
「今の車のは、ZECTのマークか?」
勇宇は自分の前を通りすぎて行く大型車を一瞥すると、そこに書かれている昨日、テレビで見た『ZECT』と言うこの世界の仮面ライダーが所属している組織のマークを確認した。
(…早速、この世界の仮面ライダーに接触できそうだな。)
そう考えて、ポケットから携帯電話を取りだし柴月へ帰るのが遅くなると言う内容のメールを送る。
周囲に人が居る事からマシンディケイダーは呼び寄せる事は出来ない。…無人で疾走するバイクという光景なんて目立つ事この上ないだろうから。流石に、走って車を追いかけるのは多少無理があるが、大体向かって行った方向は確認できた。
「急ごう。」
ディケイドライバーの存在を確認しつつ勇宇は先程の大型車の走っていった方向へと向かって行く。
「なんだ、神代は兎も角、今日も矢車さんは…。」
「はい、荒谷副隊長。今回の作戦にも矢車隊長は不参加になります。」
ゼクトルーパー隊員の報告を聞きながら、亨夜は天井へと視線を向ける。本来、所属ではなく傭兵に近い形でZECTに参加している仮面ライダーサソードこと、『神代 剣』は兎も角として、ここ最近の活動に一切参加していないZECT所属のライダー仮面ライダーザビーこと、『矢車 想』の行動を疑問に思っていた。
「仕方ない。ワームはオレが殲滅する、お前達は周囲の避難を任せる。」
「「「「「「了解!」」」」」」
彼らが乗る車が停車し、数体のワームの前に足取りを揃えて、ゼクトルーパー達が降り、クワガタとZECTの文字が印刷されたジャケットを羽織った出雲学園の制服姿の亨夜が降りる。
「A班、B班は西をC班とD班は東を中心に避難誘導に当たれ!」
亨夜の指示を受けてゼクトルーパー達が行動を開始する。それを確認し、亨夜は己の相棒の名を呼ぶ。
「来い、ガタックゼクター!」
彼の元へと飛翔するガタックゼクターを受け止め、
「変身!!!」
《HEN-SHINN》
それをベルトへと指し込む。それと同時に重装甲の装甲…両肩の砲塔ガタックバルカンが出現し、『仮面ライダーガタック・マスクドフォーム』へと亨夜はその姿を変える。
「…夕飯までに帰らないと美由紀に悪いからな…さっさと駆除させてもらうぞ…害虫(ワーム)!」
近づいて来るサナギワーム達に次々とパンチと肘打ちやキックを打ち込みながら、距離が離れた所で一気に倒す為に、マスクドフォームの中で最も火力の高いガタックバルカンを撃ち、直撃したサナギワームを爆散させて行く。
「ちっ!」
目の前の光景を見て思わず舌打ちしてしまう。前に立っていた他の個体が巧い具合にガタックバルカンを防ぐ盾となった事で数体のサナギ体のワームが生き延びていてしまったのだ。先程の砲撃で全滅させるつもりだった亨夜としては、そう反応せずには居られなかった。
更に悪い事に残すワーム達の中の数体の外郭が砕け散り、軽やかな印象を持つ、人と昆虫を合成したような成体ワームが現れた。そして、次の瞬間、成体ワーム達の姿が掻き消える。
「がぁ!」
それ同時に四方から攻撃される様にガタックの体が吹き飛ばされ、左右へと弾かれ、上空へと吹き飛ばされ、そのまま地面へと叩きつけられる。
「ぐ…。」
ガタックは立ち上がりながら、ガタックゼクターのゼクターホーンにと触れる。そして、それを両脇に畳み込み、全身の装甲が浮かび上がり青いスパークが駆け巡る。
「キャストオフ!」
《CHAST OFF》
ガタックの全身を包んでいたマスクドフォームの装甲が一斉に飛散する。そして、頭部左右に倒れていた『ガタックホーン』が起立し、側頭部の定位置に収まり、電子音が響き渡る。
《Change StagBeetle》
両肩にマスクドフォーム時の火器とは違う二本の接近戦用の曲刀に似た武器を装備した細身の戦士《仮面ライダーガタック・ライダーフォーム》へと変身する。
そして、両肩のガタックダブルカリバーを構え、何時でもクロック・アップを行える体制へと入る。その瞬間、
『良かった。最初に会えた仮面ライダーがガタックで。』
「っ!?」
突然聞こえてきた第三者の声に一斉にその場に居た全員の視線がそちらの方へと集中する。そこには、にこやかに佇む勇宇の姿が有った。
「おい、お前! ここは危険だ、早く逃げろ!」(バカが…助けても一発くらい殴るぞ。)
ガタックは勇宇に向かって彼を助け様と動こうとするが、それを遮る様に成体ワーム達がガタックの行動を阻む。
「それは大丈夫。そっちのは拙いかも知れないけどね、クロック・アップが出来ない奴等なら、十分相手は出きる。」
自分に近づいて来るサナギワーム達を気にもせずにポケットの中から取り出したディケイドライバーを取りだし、それを装着する。そして、一枚のカードを取り出す。
「変身!」
-KAMENRAIDE! DECADE!―
ディケイドへと変身すると自分に近づいてきていたサナギワーム達にソードモードのライドブッカーを構えて、切りかかる。
「な!?」(…奴が…ディケイド…あの男の言っていた事は本当だったのか?)
ガタックがディケイドを見て驚きを露にしていると、目の前の成体ワーム達は力を溜めるような体制に入る。
「チィッ! 考えてるヒマは無いか?」
《Cloock up》
腰のスタータースイッチを押し、それと同時に成体ワーム達が加速状態へと入る。肉眼では捉えられないほどの加速した時間の中でガタックと成体ワーム達は戦闘に入った。
ガタックSIDE
「はぁ!」
双剣による剣舞を舞うガタックとそれを受ける成体ワーム達。反撃とばかりに爪を振るい、針を打ち出して反撃してくるのだが。
「どうした、その程度か? 渚の奴の方がまだ手応えがあるぞ!?」
仮面の奥で嘲笑する様な笑みを浮かべながら、ガタックは成体ワーム達の攻撃をガタックダブルカリバーで捌いて行く。
「破ァ!」
『×』の字を描く様に切り裂き、それによって怯んだ成体ワームに続け様にガタックダブルカリバーの連撃を見舞う。
「ぐぁ!」
助けに入った別の固体に攻撃を受け、弾かれるが直に体制を立て直す。
「…流石に、油断は禁物だな。」
油断していた自分を恥じる様にそう言いきり、成体ワーム達に向かいながら、ガタックゼクターのスイッチを押して行く。
《One Two Three》
ガタックゼクターのスイッチを三回連続で押し、ゼクターホーンに振れ、ゼクターホーンを右から左へと送り、再び元の位置へと戻す。
「ライダーキック。」
《Rider Kick》
電子音が響くと同時にガタックの全身を雷の様なエネルギーが纏う。そして、そのエネルギーは右足へと集る。
「ハァ!!!」
飛び蹴りの体制で撃ち込んだガタックの持つ必殺技『ライダーキック』が成体ワーム達を爆散させた。
《Cloock over》
戦闘の終了を告げるように加速した世界が終わりを継げる電子音が響くのだった。
SIDE OUT
ディケイドSIDE
(…こいつ等はワームか…。あの時はカブトに変身して倒せたけど…今はカブトの力は使えない。だったら、加速される前に倒すだけ。)「はぁ!!!」
そう考え、素早くサナギワームの中の一体に向かってソードモードのライドブッカーで斬り掛かる。
「はぁ!」
近づいて来るサナギワームにキックを放ち、素早くガンモードに切換えたライドブッカーでの零距離射撃を打ち込む。
それによって、自分とサナギワームとの距離が開いた所で、別のサナギワームに対してガンモードのライドブッカーを撃つ。
「悪いけど、決着を付けさせてもらうよ。」
-ATTACKRIDE! SLASH!―
取り囲んで一斉に攻撃を仕掛けてこようとしたサナギワーム達に対して、斬撃を強化するカードを使い、円を描く様にソードモードのライドブッカーを振り回し纏めて切り裂く。それによって、サナギワーム達は一斉に爆散して行く。
《Cloock over》
それと同時に何処からか電子音が響き、仮面ライダーガタックがその姿をあらわした。
SIDE OUT
ワーム達を倒した後、ディケイドとガタックは互いに向かい合う形で対峙する。
「初めまして、ぼくは…「お前の事は聞いている。」って、まさか?」
先ずは挨拶と友好的な態度で戦う意思がない事を示そうとした矢先に、ディケイドの言葉を遮って告げられるガタックの言葉に思わずそんな叫び声を上げてしまう、ディケイドだった。
「お前の事は聞いているぞ。世界を破壊する悪魔…なんだってな?」
「えーと、なんかそう言う事になっているみたいですけど、ぼくは…。」
「試させてもらうぞ、お前の力を!」
「って、またか!?」
そう叫びガタックダブルカリバーを構え斬りかかって来るガタック。思わず行き成りのガタックの態度にそんな声を上げてしまうディケイドだった。
「破ぁ!」
「ぐあ!」
ガタックの双剣の一本をソードモードのライドブッカーで受け止めるも、それを受け止めている間に出来た僅かな隙を逃さず、開いているもう一本のガタックダブルカリバーの斬撃を叩き込まれる。
「ちょっと、待て! ぼくには戦う気は無い!」
「問答無用だ!」
再度斬り掛かってくるガタックに対して、今度は受け止めると言う選択肢を取らずに後方に下がりながら、ガタックの剣を回避する。
「仕方ない。だったら、悪いけど、こっちも新しい力を試させてもらう!」
そう叫ぶと、ディケイドはライドブッカーの中から新しいカードを取り出す。それはキバの世界で手に入れたカードの一枚。
-KAMENRAIDE! KIVA!―
ディケイドライバーとライドブッカーを除いてディケイドの姿がディケイドの物から仮面ライダーキバの物へと変化して行く。
「変わっただと!?」
D(ディケイド)キバは全く別のライダーへと姿を変えたディケイドに対して、明らかに動揺しているガタックの斬撃を掻い潜り、ガタックの懐へと飛び込み打撃を放つ。
「グァ!」
D(ディケイド)キバの打撃を受け、そのまま壁へと叩きつけられる。
「剣には剣ってね。」
その隙を逃さずキバのガルルフォームの絵が掛かれたカードを取りだし、ライドブッカーへと挿入する。
―FORMRIDE KIVA! GARULU!―
ディケイドライバーの中核部分からガルルセイバーが現れ、D(ディケイド)キバがそれを手にし、左腕と胸部に鎖が巻かれると同時に、ガルルフォームへと姿を変える。D(ディケイド)キバGF(ガルルフォーム)はガルルセイバーを操り、ガタックと切り結ぶ。
(こいつ、戦い方が急に変わった?)
(彼もぼくが悪魔だって聞かされたのか? …そんなに妖しいのかな、ぼくって?)
一撃、ニ撃、三撃と切り結ばれていく、ガルルセイバーとガタックダブルカリバーの三つの刃。自覚は無いだろうが、ディケイドもガルルフォームへとなった事でキバの変身するガルルフォームに近い動きを見せているのだ。
互いに相手の剣を弾く様に力任せに剣を振るい、相手から距離を取る。
そして、ガタックはガタックダブルカリバーを交差させようとし、D(ディケイド)キバGFもライドブッカーの中からキバの紋章の描かれた黄色いカードを取り出す。
互いに必殺技を放つ体制が整った瞬間、D(ディケイド)キバGFとガタックの体が弾き飛ばされる。
「うわ!!!」
「くっ!!!」
《Cloock over》
同時に電子音が響き、カブトムシをイメージさせる赤い体を持つ一人の仮面ライダーがガタックとD(ディケイド)キバの間に立ち尽くしていた。それと同時にD(ディケイド)キバからディケイドへと戻る。
「…仮面ライダー…カブト?」
「っ!? 龍牙か、何のつもりだ?」
カブトはガタックへと視線を向け、呆れた様に溜息をつきながら
「やれやれ、お前はまたか? あの仮面ライダーと戦ったのも、ZECTの命令か?」
「いや、今回はオレだけの意思だ。世界を破壊する悪魔の力がどれほどの物かと思って試して見たかった。それだけだ。」
カブトの言葉にそう答えると『気が済んだ』とでも言う様な態度でガタックゼクターをベルトから外して、変身を解除する。
「だから、ぼくは悪魔じゃない!」
ガタックが変身を解除すると、そう叫びディケイドもディケイドライバーを外し、変身を解除した。
「…“世界を破壊する悪魔”か? 大して信じている訳でもないだろうに。」
「さあな。オレは単に…そいつが敵だった場合…確実に始末できる様に実力を見ておきたかった。それだけだ。」
「…組織の為か?」
「それ以外に何が有る?」
「お前…組織より大切な物は無いのか?」
「愚問だな。それを護る為に組織が必要なんだろう。」
カブトに対してそう言うと亨夜は勇宇とカブトに背中を向けて立ち去っていく。
「やれやれ、あいつは。っと、そっちの悪魔さんも早く立ち去った方がいいぞ。」
そう告げるとカブトはベルトのスタータースイッチを叩き、加速状態を利用して姿を消して行く。
「…あれがこの世界の仮面ライダー達…。」
カブト…龍牙と呼ばれていた仮面ライダーの姿には確証が有る。自分も変身して、自分の持っていたカードの中の一枚としてみていた。だが…間違いなく、自分の持っているもう一枚のカードに掛かれている絵柄もこの世界の仮面ライダー『ガタック』だった。
「…間違いない…この世界には、ぼくが力を手に入れる仮面ライダーは……二人いる。」
確信を持って勇宇はそう言い切った。
「ん? あんたは。」
ディケイドとガタックの戦いを止めた後、龍牙は帰り道の途中、一つの人影が現れた。
「龍牙くん…。君に…頼みが有る。」
「頼み? オレにか…矢車さん。」
龍牙の前に現れた男…『矢車 想』。だが、その腕にはザビーへの変身に必要なライダーブレスが存在していなかった。
「っ!? 矢車さんがZECTから追放された!?」
『そう言う事だ。ザビーと隊長の後任はそろそろそっちに着くはずだ。』
電話の向こうから聞こえてくる上司の言葉に思わず亨夜はそう叫んでしまう。
「その通りだ。」
「…あんたが…後任の…。」
後から聞こえた声に反応し亨夜は振り返る。
「ああ。オレが後任の隊長になる…。」
「ZECTの上層部にワームと繋がっている人間がいる?」
「ああ。その事を調査していたんだが、オレは組織を追放されてしまった。」
事情を知らない夕美にはお茶を出す様に頼んで席を外してもらっている間に交わされる龍牙と矢車の会話。
「…それで、その上層部にいる疑わしい人間は、あんたを追放して、自分の息の掛かった人間を公認の隊長として、送り込んだと言う訳か。」
「そう言う事になる。」
「だけど、それなら、それで…その人間から上へ辿り着く事も出来るんじゃないんですか?」
「そうなんだが、後任の人間の情報は何も出てこなかったんだ。分かっているのは…名前だけだ。」
「名前?」
「ああ。オレの後任の人間の名前は…。」
「「『天道 総司』だ。」」
「「っ!?」」
「兄さんが…ワームと…?」
呆然とした表情で龍牙はそう呟くのが限界だった。
「柴月…間違いない。この世界には、二人、仮面ライダーが居る。」
「…うん…。…勇宇が会ったって言う二人の仮面ライダーって、両方ともこのカードの…。」
紫月の言葉に勇宇はカブトのカードを指差す。
「後から出てきた方の仮面ライダーは間違い無くカブト…この仮面ライダーと同じ姿をしていた。」
正確には、カードの絵柄事態がカブトをモデルとした物なのだから、それは逆なのだろうが。
そして、勇宇は次のカード…ガタックの方を指差す。
「でも、ガタックの方もこのカードの仮面ライダーだった。」
他のカードとは別に『神鬼』と共にカードに飛び出してきたカード『ガタック』…。飽く迄可能性の問題だが、ガタックと神鬼のカードは…他のカードと同じ世界に同時に存在している。
「…大丈夫…勇宇の信じる通りに行動すればいいと思う…。…それに、この世界の終焉の欠片は…。」
「キバの世界の事を考えると、仮面ライダーの近くに存在している?」
勇宇の言葉を肯定するように柴月は微笑を浮かべる。それだけで勇宇には彼女の意思が否定ではなく、彼の言葉を肯定する物だと言う事が理解できた。
「…カブトとガタック…この世界の仮面ライダーか。」