キバの世界
(…『仮面ライダーイクサ』…この世界の仮面ライダーの一人…武装はイクサナックルとイクサカリバーの二つ…。)
己の頭の中に浮かんでくる目の前の相手、仮面ライダーイクサのデータで今必要な物を上げていく。
ボクサーを思わせる構えで放たれるジャブを避け、イクサナックルを装備した腕でのストレートをソードモードのライドブッカーで防ぎながら、イクサ(明彦)から距離を取る。
接近戦…それも相手の間合いでは自分との実力差はディケイドとイクサの能力の差でも完全には埋められないほどに有ると今の攻防から判断し、懐へと迫ってきて、渾身のストレートを放とうとしたイクサ(明彦)の頭を狙い、回し蹴りを放つ。
「おっと!」
それを察知したのか後へと下がりイクサ(明彦)はディケイドから大きく距離を取り、ディケイドの蹴りを避ける。だが、それこそがディケイドの狙いなのだ。
(…構えから見ると向こうの戦闘(バトル)スタイルはボクシング…。ぼくはまだ片手で数えた方がいい程度の戦闘経験しか無い。無理に…と言うよりも、無駄に戦う必要はない。)
片手にイクサナックルを装備し、ボクシングの構えを取るイクサ(明彦)から向こうの攻撃範囲に入らない様に距離を取りながら、ディケイドはライドブッカーをガンモードへと切換える。
「行くぞ!!!」
「悪いけど、お断りだ!」
そう叫びディケイドの懐へと踏み込んでくるイクサ(明彦)だが、素早く足元にガンモードのライドブッカーを乱射する。
「くっ!」
(やっぱり…。)
足元への攻撃により動きを止めたイクサ(明彦)から更に距離を取りガンモードのライドブッカーを撃つ。
イクサカリバーを使う様子も無く、利き腕にイクサナックルを付けたボクシングスタイルでの接近戦が相手の攻撃パターンと悟ると、ガンモードでのライドブッカーを撃ち、相手を近付けさせない。
「こいつ!」
「悪いけど…君の戦い方じゃ、イクサの力は引き出せない。」
「なんだと! バカにするな!」
「…事実を言ってるだけだけどね。」
逃げるにしても相手の目を盗まなければ逃げられないと判断し、最初に相手を挑発する。それによって引き出させるのは一つ…。
「だったら…コイツで…。」
(来た!)
イクサ(明彦)がベルトからナックルフエッスルを取り出した瞬間、ディケイドもまたライドブッカーからファイナルアタックライドのカードを取り出す。
《イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ》
―FAINAL ATTACKRAID DE・DE・DE・DECADE!―
イクサ(明彦)の持つイクサナックルへと全エネルギーが集中し、ディケイドの正面に半透明なカードが出現する。
「これで!!!」
「行くよ!!!」
イクサナックルを装備した腕を大きく振りかぶり、半透明のカードとその向こう側に存在するイクサ(明彦)を狙いガンモードのライドブッカーを向ける。
「食らえ、ブロウクン・ファング!!!」
「ディメンションショット!!!」
イクサナックルより放たれる衝撃波と、それに遅れて引かれる引き金。
ドカァァァァァァーン!!!
イクサ(明彦)とディケイドの中間…いや、ディケイドに近い位置で二人のライダーの放った必殺技が激突する。その衝撃と二つの必殺技が激突した際に発生した爆煙が一時的に視界を奪う。
(今だ!)
その隙を逃さず、ディケイドはライドブッカーからカードを抜き出して、それをベルトへと装填する。
―ATTACKRAID INVISIBLE!―
そんな電子音が響いた瞬間、ディケイドの姿は消え去っていた。
「おっしゃー! やったスね、流石スよ、真田先輩!」
「バカを言うな…。さっきの一撃…手応えは無かった。逃げられただけだ。」
姿を消したディケイドを見て跡形も無く吹き飛んだとでも思ったのだろう、そう言う順平に対してベルトを外し変身を解除した明彦はそう言い切った。
だが、本来…影時間の外では明彦も順平も唯の高校生に過ぎない。本来、《彼等》にペルソナの恩恵が与えられるのは、影時間と言う特殊な時間の中でだけなのだから。故にイクサに変身する事での身体能力の底上げが有ったとは言え、実際、必殺技の破壊力も含めて通常の時間の中では完全に能力を引き出せない。
事実、ゲーム本編でも、人知を超えた化け物(シャドウ)達を相手に即死級の破壊力を持った魔法や一撃を受けても、場合によっては十分に戦闘続行可能なペルソナ使い達が不良に殴られただけで倒れた事も有れば、スポーツのルールの上での試合とは言え負ける事も有る。
こう言っては何だが…通常の時間帯の中では、ペルソナによる身体能力・耐久力の底上げは無く、イクサ事態にも安全対策の為にリミッターが付けられている事からも考えて、総合的にスペック的にはペルソナの使えない通常の時間帯では、安全性は兎も角、初期のイクサにもスペック的に良い勝負だろう。
確実にディケイドを倒すには、やはり、影時間…ペルソナ使いとして、簡易型イクサの全力を使うしかないのだ。
「くそ!」
世界の破壊者、仮面ライダーディケイド。十の世界を巡り…その瞳は何を見る?
仮面ライダーディケイド
~終焉を破壊する者~
第四話
『VSイクサ/キバの世界』
「今のは…少し、危なかったかな…?」
実際、僅かに必殺技(ディメンションショット)を放つタイミングが遅れてしまえば、自分が危険であり、早ければ今度は明彦が危険であり、全ては、己の目的はライダーと戦う事ではないのだから、ここでこの世界のライダーを相手に倒してしまっては拙いと考えた結果の賭けだった。
そもそも、本来、別の世界の存在であるカイザやライオトルーパーと戦った事ははっきり言って例外である。特にキバの関係者と言う可能性の有る彼等と下手に戦っては彼等の持っている誤解が、この世界の仮面ライダー(キバ)にも飛び火してしまう危険性も有る。場合によっては完璧に敵対関係になってしまう事を考えるとそうは行かない。
実際、接近戦でこそ自分が不利だったが、ここで倒してしまう事は簡単に出来た。だが、自分の目的は倒す事ではなく、逃げる事が目的である限り、あれ以上戦っても無駄にしかならないと考えて逃げる事を決めた。
(…仮面ライダーイクサの量産試作型…本来の能力を発揮するには特殊な条件下でのみ可能か…。)
自身の中に現れた本来のイクサの情報と自分が戦った簡易型イクサの情報から、そう判断する。特殊な条件下と言う点はまだ解らないが、問題は…。
「…次に会う時は…今回の様には行かないだろうし…本気に勝ちに行くしかないか…。…ん?」
向こうの次に戦う時は万全の体制で挑んでくるだろうと考えるが、幸いにも向こうには此方の手札は殆ど明かしていない。精々は強力な大技(FAINAL ATTACK RIDE)と、小技(INVISIBLE)程度しか知られていないのは本当に幸いだろう。
そう考えて最悪の場合の覚悟を決めた時、携帯電話の着信に気が付いた。表示されている番号と名前は…『社 紫月』だった。
「もしもし。」
『…勇宇…遅い…。』
「…えーと…先ずは御免。ちょっとぼくの方にも色々と有ってね。こっちの事情は後で話すけど…そっちは?」
『…うん…。…勇宇、探していた人が見つかった…多分、住んでいる所も…。』
「ありがとう、紫月。助かったよ。うん、ぼくも今からそっちに行って合流…。」
『…でも…向こうは私達に会う気が無いみたい…。』
電話の向こうから聞こえてきた言葉に思わず絶句してしまう。
(紫月さん…行動力有り過ぎですよ。)「えーと…紫月…。」
『…私は連絡はしたけど、勇宇が気付かなかった…。…それで、会って見ようと思ったけど…全然会ってくれなかった…。』
電話の向こう側から聞こえた紫月の言葉に勇宇は少しだけ考え込む。それだけでは判断し辛いが、直接会えないのは問題だが…。
「…仕方ないか…。紫月、ぼくもそっちに行くから、そこで待ってて。」
『…解った…。』
電話を切るとメールを確認する。そこには、紫月から送られてきた彼女の現在地への道筋がメールとして送られてきていた。
(…ここって何処だろう?)
どうでも良いのだが、灰色の空間の歪みに何処かに飛ばされた後、イクサコンビ(仮称)との戦闘から急いで人気の無い場所に逃げたのだから、自分の現在地の確認など出来様筈も無かった。
数十分後…
「…本当に遅い…。」
「本当にごめんなさい。」
『私、不機嫌です』と言う表情でそう言ってくる紫月に対して思わず謝ってしまう勇宇だった。
「それで、ここが?」
「…うん…。…あの時の人はここに入っていったのは間違い無い…。」
そう言って勇宇はボロボロになった洋館へと視線を向ける。紫月が言うには、人気は有るのだが、何回かノックしてみても、相手は何の反応も示してくれなかったらしい。
「…くれ…ない…『紅(くれない)』か…。仕方ないか…紫月、出なおそうか。」
「…うん…。」
「おい、奏夜、行った様だぜ。って、おい!」
窓から勇宇達の様子を覗っていたキバットが奏夜へと声を掛けるが、奏夜から反応が返って来ない事に驚いて振り向くが、奏夜は…。
「……すぅ…すぅ……。」
眠っていた。
「って、なんだ、寝てるだけか。まったく、無理しやがって、最近碌に寝てないんだろう。」
そう言って毛布を持ってきて奏夜へと掛ける。
シルフィー達四魔騎士が万全ならば、誰かを呼んでベッドへと運んで貰う所だったが、彼等のダメージを考えると、まともに動けるのはキバットだけなのだから。
「…これからどうするの、勇宇…?」
「どうする? って、言われてもね。」
どうすると言われても、今自分が出切る事は限られてくる。何故かは解らないが、この世界の仮面ライダーであるイクサには現在進行形で一方的にだが、敵対関係に有り、キバには接触できない。
ならば行動できるとすれば…。
「…ファンガイアが関わっているらしい、十二時を境に起こる失踪事件…それを調べて見るか。」
他にするべき事が有るとすれば、それはこの世界に存在するであろう、『終焉(ディターン)の欠片』の探索しかなく、それには、この世界で起きているであろう異変を追い掛ける事でそれに辿り着く可能性は高い。
「……うん……。…ディターンの欠片が関係しているとしたら…その事件は、この世界の終焉の始まりなのかもしれない…。」
巧く行けば、事件を追いかけている内に、この世界の仮面ライダーであるキバにも接触できるかもしれないのだ。
「早速、今夜から出かけてみよう。」
「…うん…。」
「そうか…“奴”の言葉通り、世界の破壊者(ディケイド)が現れたのか。」
明彦からの話しを聞いた美鶴は少しだけ考え込む。
「ああ。どうやら、“あの男”の言葉通り、これを使ったとしても、影時間の中で戦うしか無さそうだ。」
美鶴の言葉にそう答えると、明彦はイクサナックルをテーブルの上へと置く。
「へっ、どうせ、真田先輩の強さにビビって逃げただけですって。」
「ディケイドが現れたって…まさか…本当に。」
「へへへ、今度はオレが一発で決めてやるって!」
「…紅だけでなく、今はアイギスも、山岸も戦えない…。私が何処まで出きるか分からないが、サポートは私が行う。」
「ああ、奴の狙いが紅なのなら…オレ達が戦うしかないな。」
すっかり、何者かに吹き込まれたディケイドが敵と言う事で意思が固まっちゃっているS.E.E.Sの面々である。
「あの、天田くんは?」
「天田にはコロマルの散歩に行ってもらっている。今回のディケイドとの戦いは、紅も山岸も居ない戦いだ…ディケイドとの戦いには彼等は外れてもらう。私達だけでディケイドを倒す。」
美鶴の言葉にその場に居る面々は重々しく頷くのだった。
深夜零時影時間
「やっぱり…。」
外の景色を眺めながら、勇宇はそう呟く。深夜零時を境に【世界】が変わった様に感じてしまう。
空も、大地も、月も、空気さえも、世界を構成する全てが、ここが【別の世界】とさえ感じさせる。だが、ここは間違い無く【キバの世界】で有る事は理解できる。
【影時間】…勇宇達は知らない事だが、この時間を知る者達はこの時間をそう呼んでいる。シャドウと呼ばれる異形の怪物達が我が物顔で闊歩し、人が棺型のオプジェへと変わり、全ての機械が動きを止める、知覚出来ない時間帯である。
この時間を認知できる者はシャドウによってこの時間の中に引き込まれた者達か、ペルソナ使いと呼ばれる者達のみ。…ただし、ここに二人だけの例外が存在している。勇宇と紫月である。彼等はペルソナ使いではなく、シャドウに呼ばれたのでもなく、この時間を知覚し活動できるのだ。
「昨日の夜も、時計が動き出してから元に戻った。」
「……じゃあ……。」
「この世界の事はよく分からないけど、この世界の異変を調べて見るよ。間違い無く、この時間は《おかしい》。」
勇宇の言葉に同意する様に紫月が頷くと、勇宇はディケイドライバーを取り出し装着し、ディケイドのカメンライドカードを取り出す。
―KAMENRAIDE!―
「変身!」
―DECADE!―
仮面ライダーディケイドへと変身すると、勇宇は紫月の方へと視線を向ける。
「紫月、悪いけど、今回は君は留守番しててね。」
「分かった。」
彼女にも戦うだけの力を持っている事は聞いている。だが、それでも彼の心情的には、彼女には戦わせたく無いというのが本音なのだ。それを理解しているのか、紫月も彼の言葉に従う。
「行ってらっしゃい。」
「うん、行って来ます。」
紫月に見送られながら、家を出ていく勇宇(ディケイド)。そのままマンシディケイダーに乗り、それを走らせる。
「ぐぁあ!!!」
交差する赤と灰…そして、次の瞬間、赤いキバがアスファルトの大地へと叩きつけられる。
「………。」
灰色のキバ(キバシャドウ)はそんなキバを一瞥し、影時間の空を舞う様に跳躍し、消えていく。
「くっ、待て!」
「おい、無茶するな、奏夜!」
「分かってる。でも、あいつは危険だ…早く、倒さないと!」
キバットに止められながらも、キバは倒れているマシンキバーを起し、それに騎乗すると紅の鉄馬とその主は灰色のキバ(キバシャドウ)を追い、跳び去った方向へと疾走する。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
灰色のキバ(キバシャドウ)の眼前で半透明の牙が突き刺さった男が、徐々に透明になっていく。ライフエナジーを捕食していく姿、ファンガイアについての知識が有る者ならば、理解できる瞬間である。
そして、透明になった男が力無く倒れた瞬間、灰色のキバ(キバシャドウ)はそれを踏み砕く様に前へと進んでいく。
そして、灰色のキバ(キバシャドウ)が眼前に有る棺へと腕を振り上げた瞬間、半透明の牙が突き刺さり、棺が砕け散る。先程の男と同様に次の犠牲者も徐々に透明になっていく。だが、灰色のキバ(キバシャドウ)は次の犠牲者が完全に透明になる前に飲み飽きたジュースを捨てる様に片腕を一振りし、犠牲者を砕く。
「これが…真相か?」
響いてくる声に反応して灰色のキバ(キバシャドウ)は後方へと視線を向ける。灰色のキバ(キバシャドウ)と対峙する様にキバシャドウの視線の先に立つのは、左右非対称のアーマーを持った赤い仮面ライダー…仮面ライダーディケイド。
「何でこんな事をした? 答えろ…。」
彼の中に有る仮面ライダーの記憶の中に有る…彼が初めてディケイドへと変身した時に『最初に知った9人の仮面ライダー』の一人と似た姿。
「答えろ……仮面ライダーキバァ!!!」
―ATTACKRIDE SLASH!―
そう叫びながら、ディケイドは流れるよな動作で、ライドブッカーをソードモードへと切換え、それと同時に素早くカードを装填、その効果を得て強化された斬撃をキバシャドウへと振り下ろす。
「………。」
だが、キバシャドウは『SLASH』のカードにより強化された斬撃を片手で受け止めていた。
「ぐはぁ!」
ソードモードのライドブッカーを受け止めたまま、開いた片手でディケイドの腹へとパンチを打ち込み、ライドブッカーごと、ディケイドを投げ捨てる。
「このぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
「…………。」
無言のまま、続けざまに振り下ろされるディケイドの剣を簡単に受け流しながら、途切れた一瞬を逃さずキバシャドウのカウンターとして打ち込まれた拳がディケイドへと突き刺さる。
「こいつ!!!」
―ATTACKRAID BLAST!―
ディケイドは次のカードを装填した瞬間し、キバシャドウへと狙いをつけ引き金を引く。ガンモードのライドブッカーより放たれる強化された銃弾が一斉にキバシャドウへと直撃していく。
「なんで、この世界を護る仮面ライダーが、こんな事を!!!」
銃撃を止めてディケイドはソードモードへと切換え、キバシャドウとの距離を一気に詰めて、その刃を振り下ろす。
「答えろ、仮面ライダーキバァ!!!」
防御の体制も取らなかったキバシャドウをディケイドの刃が切り裂いた。
「これで終わりだァ!!!」
トドメとなるべき、黄色い『ファイナルアタックライド』のカードを引きぬこうとした瞬間、
「止めろォ!!!」
「なに!?」
キバシャドウよりライドブッカーを引き抜きながら、ディケイドは跳び込んできた白い影をから距離を取る。その隙を逃さず、キバシャドウはその場を去っていく。
「イオ!!!」
「ヘルメス!!!」
「って、嘘!!!」
続いてディケイドへと襲いかかるのは火炎と疾風。後に下がりながらそれの効果範囲から逃れると、最初に現れた白い影…仮面ライダーイクサ(明彦) と並ぶように弓を構えたゆかりと大剣を構えた順平が立つ。
「やはり、”あの男”の言う通り、お前の狙いは紅の様だったな。」
「それに…最近の行方不明事件の犯人も…あんただったのね。」
後方に居るイクサリオンに乗った美鶴の声が響き、キバシャドウの行った惨劇の跡を一瞥して、ディケイドを睨みつけながらゆかりが言いきる。
「答えてもらうぞ、行方不明になった人達をどうした!?」
(…あの男…?)「ふざけるな! あれをやったのは、ぼくじゃない、キバだ!!!」
「嘘をつくな、紅はそんな事をする奴じゃない!」
前線メンバー二人…順平とイクサ(明彦) がそれぞれの武器を構えながら、ディケイドへと向かっていく。
「真田先輩、ゆかりっち、そんな事はコイツを倒した後で聞けば言いだけだろう!!! ヘルメス!!!」
順平の叫び声と共に米神に押しつけられた銃…召喚器の引き金を引き、現れた彼のペルソナ…『ヘルメス』が現れ、火炎魔法(アギラオ) を撃ち出す。
「この!!!」
撃ち出された炎を避けながら、ディケイドはガンモードのライドブッカーを撃ち出そうとするが、
「今度は昼間の様にはいかないぞ!!! カエサル!!!」
弾けるような音と同時に撃ち出された人影から打ち出された雷撃がディケイドへと撃ち出される。
「っ!?」
最初の二人もそうだった様に目の前の居るイクサもまた同じ様な力が使えると予想していた為回避できたが、はっきり言って昼間とは立場が逆転している。遠距離での雷の魔法と、攻撃とボクシングという接近戦での戦闘方法と…四対一と数の上でも不利、
「そこ! イオ!!!」
「くっ!」
―ATTACKRIDE SLASH!―
続いてゆかりが撃ち出した風の刃をライドカードで強化した斬撃で相殺する。
しかも、此方の動きを読んでいるかのような的確な攻撃とチームワーク…油断していると、自分は簡単に負けてしまう。
「おぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
風の刃を防いだ直後のディケイドにイクサナックルを付けたストレートが叩きつけられる。
「おっしゃー! 行け、ヘルメス!!!」
追い討ちとしてディケイドへと向かって順平の撃ち出したヘルメスが“突撃”して行く。
「そうは…行くか!!!」
―ATTACKRIDE ILLUSION!―
素早く、ライドブッカーから新たに引きぬいたカードをベルトへと装填し、ディケイドは八人の分身を作り出す。
一瞬、目標を見失ったヘルメスの“突撃”を避けてディケイド達は順平達との距離を詰めていく。
「うそでしょ!」
「あんなの有りかよ!」
「落ち着け、分身した所で、どうせ実体は一つだ…美鶴『バカな…全てに実体が有るだと。』なに!?」
分身の実体が一つだけという判断で美鶴の索敵能力で実体を見つけ出して攻撃すればいいと考えていたイクサ(明彦) の言葉が美鶴から告げられた言葉によって驚愕へと変わる。
「チッ!」
イクサ(明彦) はならば、纏めて吹き飛ばそうとナックルフエッスルを取り出す。また、それを見てディケイドも新たにカードを取り出す。
《イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ》
―FAINAL ATTACKRAID DE・DE・DE・DECADE!―
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」
イクサ(明彦) がアスファルトの大地が砕けんばかりの力で踏み込み、全エネルギーを集中させたイクサナックルを構え、ディケイドへとストレートを放つ。
ディケイドもまた上空からイクサ(明彦) へと向けて伸ばされたレールの様に展開する半透明のカードを跳び蹴りの体制で潜り抜けていく。
「ディメンションキック!!!」
「ブロウクン・ファング!!!」
それが、昼間とは比べものにならない…二人のライダーの持つ《全力》での必殺技が激突した瞬間で有った。
「ダメだ…奴を見失ったみたいだ。」
マシンキバーを停車させ、キバはそう呟く。
「ん? あれって、シルフィーちゃんじゃないか?」
キバットの言葉を受けてキバは視線を向ける。すると、前方からヨロヨロとした足取りで壁に体を預けながら、奏夜の方へと歩いてくるシルフィーの姿があった。
「シルフィー姉さん!」
「おい、どうしたんだよ、シルフィーちゃん!?」
「…奏夜様…キバットバット様…。」
マシンキバーから降りたキバとキバットが彼女へと駆け寄ると、それを見た瞬間、安心したのか彼等の方へと崩れ落ちる。彼女の体が叩きつけられる前にキバは彼女を受け止める。
「シルフィー姉さん! どうしてここに?」
「…奏夜様…申し訳ありません……。…“奴”が…キャッスルドランに…次狼やタツロット様が…。」
「シルフィー姉さん!」
「大丈夫だ、奏夜! 気絶しただけだ!」
意識を失ったシルフィーに慌てて呼びかけるキバをキバットが落ち着かせる。そして、前方から近づいて来る気配を感じ取る。
「なに!? 嘘だろう!?」
「…あの姿は…なんだ?」
気絶したシルフィーをマシンキバーに乗せ、キバとキバットが近づいて来る影を一瞥し、思わず言葉を失ってしまう。
近づいて来る気配の持ち主は間違い無くキバシャドウの物…だが、対峙しただけで分かるほどの元々持っていた唯でさえ強大で有った力はつい先程逃がした時以上に強大な物へと変わっている。
一瞥すると、姿も大きく変わっていた。…胸はドッガフォーム…両肩がそれぞれガルルフォーム、バッシャーフォームと同様の物に…そして、それ以外の部分がキバフォームならば、以前にも自分が変身した事の有る『ドガバキフォーム』なのだが…それ以外の部分は王の風格を持つ金色の鎧…エンペラーフォームの物へと変わっていた。
そう、それはまるでドガバキフォームとエンペラーフォームの特徴を持った姿『ドガバキエンペラーフォーム』とでも言うべき姿へと…。
必殺技同士の激突の末に弾き飛ばされるとディケイドと同様に弾き飛ばされながら、変身が解除されるイクサ(明彦) 。
「へっ、よっしゃー! 次はオレだぜ!」
《レ・デ・ィ・ー》
飛ばされたイクサナックルを受け止めた順平がイクサへと変身する。
「変身!!!」
《フ・ィ・ス・ト・オ・ン》
再度現れるイクサ…今度はイクサカリバーを武器に…ある種隙だらけな構えで掛かってくる。
(…どうする…このままだと、こっちが不利だ…?)
変身こそ解除されていないが、ディケイドのダメージは大きく…先程のイクサよりも弱そうに見えても不利な事には変わりない。そんな時だった…
―KAMENRIDE IXA!―
ディケイドを護る様に聞きなれた電子音と共に…もう一人のイクサが現れたのは…。
セーブモードからバーストモードへと変形すると同時にイクサはイクサ(順平) へとガンモードのイクサカリバーを向け、宣言する。
「その命、神に返しなさい!」
(……いや、返しちゃ拙いでしょう…命を!!!)
助ける様に現れたイクサに対して思わずそんなツッコミを入れるディケイドで有った。
己の頭の中に浮かんでくる目の前の相手、仮面ライダーイクサのデータで今必要な物を上げていく。
ボクサーを思わせる構えで放たれるジャブを避け、イクサナックルを装備した腕でのストレートをソードモードのライドブッカーで防ぎながら、イクサ(明彦)から距離を取る。
接近戦…それも相手の間合いでは自分との実力差はディケイドとイクサの能力の差でも完全には埋められないほどに有ると今の攻防から判断し、懐へと迫ってきて、渾身のストレートを放とうとしたイクサ(明彦)の頭を狙い、回し蹴りを放つ。
「おっと!」
それを察知したのか後へと下がりイクサ(明彦)はディケイドから大きく距離を取り、ディケイドの蹴りを避ける。だが、それこそがディケイドの狙いなのだ。
(…構えから見ると向こうの戦闘(バトル)スタイルはボクシング…。ぼくはまだ片手で数えた方がいい程度の戦闘経験しか無い。無理に…と言うよりも、無駄に戦う必要はない。)
片手にイクサナックルを装備し、ボクシングの構えを取るイクサ(明彦)から向こうの攻撃範囲に入らない様に距離を取りながら、ディケイドはライドブッカーをガンモードへと切換える。
「行くぞ!!!」
「悪いけど、お断りだ!」
そう叫びディケイドの懐へと踏み込んでくるイクサ(明彦)だが、素早く足元にガンモードのライドブッカーを乱射する。
「くっ!」
(やっぱり…。)
足元への攻撃により動きを止めたイクサ(明彦)から更に距離を取りガンモードのライドブッカーを撃つ。
イクサカリバーを使う様子も無く、利き腕にイクサナックルを付けたボクシングスタイルでの接近戦が相手の攻撃パターンと悟ると、ガンモードでのライドブッカーを撃ち、相手を近付けさせない。
「こいつ!」
「悪いけど…君の戦い方じゃ、イクサの力は引き出せない。」
「なんだと! バカにするな!」
「…事実を言ってるだけだけどね。」
逃げるにしても相手の目を盗まなければ逃げられないと判断し、最初に相手を挑発する。それによって引き出させるのは一つ…。
「だったら…コイツで…。」
(来た!)
イクサ(明彦)がベルトからナックルフエッスルを取り出した瞬間、ディケイドもまたライドブッカーからファイナルアタックライドのカードを取り出す。
《イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ》
―FAINAL ATTACKRAID DE・DE・DE・DECADE!―
イクサ(明彦)の持つイクサナックルへと全エネルギーが集中し、ディケイドの正面に半透明なカードが出現する。
「これで!!!」
「行くよ!!!」
イクサナックルを装備した腕を大きく振りかぶり、半透明のカードとその向こう側に存在するイクサ(明彦)を狙いガンモードのライドブッカーを向ける。
「食らえ、ブロウクン・ファング!!!」
「ディメンションショット!!!」
イクサナックルより放たれる衝撃波と、それに遅れて引かれる引き金。
ドカァァァァァァーン!!!
イクサ(明彦)とディケイドの中間…いや、ディケイドに近い位置で二人のライダーの放った必殺技が激突する。その衝撃と二つの必殺技が激突した際に発生した爆煙が一時的に視界を奪う。
(今だ!)
その隙を逃さず、ディケイドはライドブッカーからカードを抜き出して、それをベルトへと装填する。
―ATTACKRAID INVISIBLE!―
そんな電子音が響いた瞬間、ディケイドの姿は消え去っていた。
「おっしゃー! やったスね、流石スよ、真田先輩!」
「バカを言うな…。さっきの一撃…手応えは無かった。逃げられただけだ。」
姿を消したディケイドを見て跡形も無く吹き飛んだとでも思ったのだろう、そう言う順平に対してベルトを外し変身を解除した明彦はそう言い切った。
だが、本来…影時間の外では明彦も順平も唯の高校生に過ぎない。本来、《彼等》にペルソナの恩恵が与えられるのは、影時間と言う特殊な時間の中でだけなのだから。故にイクサに変身する事での身体能力の底上げが有ったとは言え、実際、必殺技の破壊力も含めて通常の時間の中では完全に能力を引き出せない。
事実、ゲーム本編でも、人知を超えた化け物(シャドウ)達を相手に即死級の破壊力を持った魔法や一撃を受けても、場合によっては十分に戦闘続行可能なペルソナ使い達が不良に殴られただけで倒れた事も有れば、スポーツのルールの上での試合とは言え負ける事も有る。
こう言っては何だが…通常の時間帯の中では、ペルソナによる身体能力・耐久力の底上げは無く、イクサ事態にも安全対策の為にリミッターが付けられている事からも考えて、総合的にスペック的にはペルソナの使えない通常の時間帯では、安全性は兎も角、初期のイクサにもスペック的に良い勝負だろう。
確実にディケイドを倒すには、やはり、影時間…ペルソナ使いとして、簡易型イクサの全力を使うしかないのだ。
「くそ!」
世界の破壊者、仮面ライダーディケイド。十の世界を巡り…その瞳は何を見る?
仮面ライダーディケイド
~終焉を破壊する者~
第四話
『VSイクサ/キバの世界』
「今のは…少し、危なかったかな…?」
実際、僅かに必殺技(ディメンションショット)を放つタイミングが遅れてしまえば、自分が危険であり、早ければ今度は明彦が危険であり、全ては、己の目的はライダーと戦う事ではないのだから、ここでこの世界のライダーを相手に倒してしまっては拙いと考えた結果の賭けだった。
そもそも、本来、別の世界の存在であるカイザやライオトルーパーと戦った事ははっきり言って例外である。特にキバの関係者と言う可能性の有る彼等と下手に戦っては彼等の持っている誤解が、この世界の仮面ライダー(キバ)にも飛び火してしまう危険性も有る。場合によっては完璧に敵対関係になってしまう事を考えるとそうは行かない。
実際、接近戦でこそ自分が不利だったが、ここで倒してしまう事は簡単に出来た。だが、自分の目的は倒す事ではなく、逃げる事が目的である限り、あれ以上戦っても無駄にしかならないと考えて逃げる事を決めた。
(…仮面ライダーイクサの量産試作型…本来の能力を発揮するには特殊な条件下でのみ可能か…。)
自身の中に現れた本来のイクサの情報と自分が戦った簡易型イクサの情報から、そう判断する。特殊な条件下と言う点はまだ解らないが、問題は…。
「…次に会う時は…今回の様には行かないだろうし…本気に勝ちに行くしかないか…。…ん?」
向こうの次に戦う時は万全の体制で挑んでくるだろうと考えるが、幸いにも向こうには此方の手札は殆ど明かしていない。精々は強力な大技(FAINAL ATTACK RIDE)と、小技(INVISIBLE)程度しか知られていないのは本当に幸いだろう。
そう考えて最悪の場合の覚悟を決めた時、携帯電話の着信に気が付いた。表示されている番号と名前は…『社 紫月』だった。
「もしもし。」
『…勇宇…遅い…。』
「…えーと…先ずは御免。ちょっとぼくの方にも色々と有ってね。こっちの事情は後で話すけど…そっちは?」
『…うん…。…勇宇、探していた人が見つかった…多分、住んでいる所も…。』
「ありがとう、紫月。助かったよ。うん、ぼくも今からそっちに行って合流…。」
『…でも…向こうは私達に会う気が無いみたい…。』
電話の向こうから聞こえてきた言葉に思わず絶句してしまう。
(紫月さん…行動力有り過ぎですよ。)「えーと…紫月…。」
『…私は連絡はしたけど、勇宇が気付かなかった…。…それで、会って見ようと思ったけど…全然会ってくれなかった…。』
電話の向こう側から聞こえた紫月の言葉に勇宇は少しだけ考え込む。それだけでは判断し辛いが、直接会えないのは問題だが…。
「…仕方ないか…。紫月、ぼくもそっちに行くから、そこで待ってて。」
『…解った…。』
電話を切るとメールを確認する。そこには、紫月から送られてきた彼女の現在地への道筋がメールとして送られてきていた。
(…ここって何処だろう?)
どうでも良いのだが、灰色の空間の歪みに何処かに飛ばされた後、イクサコンビ(仮称)との戦闘から急いで人気の無い場所に逃げたのだから、自分の現在地の確認など出来様筈も無かった。
数十分後…
「…本当に遅い…。」
「本当にごめんなさい。」
『私、不機嫌です』と言う表情でそう言ってくる紫月に対して思わず謝ってしまう勇宇だった。
「それで、ここが?」
「…うん…。…あの時の人はここに入っていったのは間違い無い…。」
そう言って勇宇はボロボロになった洋館へと視線を向ける。紫月が言うには、人気は有るのだが、何回かノックしてみても、相手は何の反応も示してくれなかったらしい。
「…くれ…ない…『紅(くれない)』か…。仕方ないか…紫月、出なおそうか。」
「…うん…。」
「おい、奏夜、行った様だぜ。って、おい!」
窓から勇宇達の様子を覗っていたキバットが奏夜へと声を掛けるが、奏夜から反応が返って来ない事に驚いて振り向くが、奏夜は…。
「……すぅ…すぅ……。」
眠っていた。
「って、なんだ、寝てるだけか。まったく、無理しやがって、最近碌に寝てないんだろう。」
そう言って毛布を持ってきて奏夜へと掛ける。
シルフィー達四魔騎士が万全ならば、誰かを呼んでベッドへと運んで貰う所だったが、彼等のダメージを考えると、まともに動けるのはキバットだけなのだから。
「…これからどうするの、勇宇…?」
「どうする? って、言われてもね。」
どうすると言われても、今自分が出切る事は限られてくる。何故かは解らないが、この世界の仮面ライダーであるイクサには現在進行形で一方的にだが、敵対関係に有り、キバには接触できない。
ならば行動できるとすれば…。
「…ファンガイアが関わっているらしい、十二時を境に起こる失踪事件…それを調べて見るか。」
他にするべき事が有るとすれば、それはこの世界に存在するであろう、『終焉(ディターン)の欠片』の探索しかなく、それには、この世界で起きているであろう異変を追い掛ける事でそれに辿り着く可能性は高い。
「……うん……。…ディターンの欠片が関係しているとしたら…その事件は、この世界の終焉の始まりなのかもしれない…。」
巧く行けば、事件を追いかけている内に、この世界の仮面ライダーであるキバにも接触できるかもしれないのだ。
「早速、今夜から出かけてみよう。」
「…うん…。」
「そうか…“奴”の言葉通り、世界の破壊者(ディケイド)が現れたのか。」
明彦からの話しを聞いた美鶴は少しだけ考え込む。
「ああ。どうやら、“あの男”の言葉通り、これを使ったとしても、影時間の中で戦うしか無さそうだ。」
美鶴の言葉にそう答えると、明彦はイクサナックルをテーブルの上へと置く。
「へっ、どうせ、真田先輩の強さにビビって逃げただけですって。」
「ディケイドが現れたって…まさか…本当に。」
「へへへ、今度はオレが一発で決めてやるって!」
「…紅だけでなく、今はアイギスも、山岸も戦えない…。私が何処まで出きるか分からないが、サポートは私が行う。」
「ああ、奴の狙いが紅なのなら…オレ達が戦うしかないな。」
すっかり、何者かに吹き込まれたディケイドが敵と言う事で意思が固まっちゃっているS.E.E.Sの面々である。
「あの、天田くんは?」
「天田にはコロマルの散歩に行ってもらっている。今回のディケイドとの戦いは、紅も山岸も居ない戦いだ…ディケイドとの戦いには彼等は外れてもらう。私達だけでディケイドを倒す。」
美鶴の言葉にその場に居る面々は重々しく頷くのだった。
深夜零時影時間
「やっぱり…。」
外の景色を眺めながら、勇宇はそう呟く。深夜零時を境に【世界】が変わった様に感じてしまう。
空も、大地も、月も、空気さえも、世界を構成する全てが、ここが【別の世界】とさえ感じさせる。だが、ここは間違い無く【キバの世界】で有る事は理解できる。
【影時間】…勇宇達は知らない事だが、この時間を知る者達はこの時間をそう呼んでいる。シャドウと呼ばれる異形の怪物達が我が物顔で闊歩し、人が棺型のオプジェへと変わり、全ての機械が動きを止める、知覚出来ない時間帯である。
この時間を認知できる者はシャドウによってこの時間の中に引き込まれた者達か、ペルソナ使いと呼ばれる者達のみ。…ただし、ここに二人だけの例外が存在している。勇宇と紫月である。彼等はペルソナ使いではなく、シャドウに呼ばれたのでもなく、この時間を知覚し活動できるのだ。
「昨日の夜も、時計が動き出してから元に戻った。」
「……じゃあ……。」
「この世界の事はよく分からないけど、この世界の異変を調べて見るよ。間違い無く、この時間は《おかしい》。」
勇宇の言葉に同意する様に紫月が頷くと、勇宇はディケイドライバーを取り出し装着し、ディケイドのカメンライドカードを取り出す。
―KAMENRAIDE!―
「変身!」
―DECADE!―
仮面ライダーディケイドへと変身すると、勇宇は紫月の方へと視線を向ける。
「紫月、悪いけど、今回は君は留守番しててね。」
「分かった。」
彼女にも戦うだけの力を持っている事は聞いている。だが、それでも彼の心情的には、彼女には戦わせたく無いというのが本音なのだ。それを理解しているのか、紫月も彼の言葉に従う。
「行ってらっしゃい。」
「うん、行って来ます。」
紫月に見送られながら、家を出ていく勇宇(ディケイド)。そのままマンシディケイダーに乗り、それを走らせる。
「ぐぁあ!!!」
交差する赤と灰…そして、次の瞬間、赤いキバがアスファルトの大地へと叩きつけられる。
「………。」
灰色のキバ(キバシャドウ)はそんなキバを一瞥し、影時間の空を舞う様に跳躍し、消えていく。
「くっ、待て!」
「おい、無茶するな、奏夜!」
「分かってる。でも、あいつは危険だ…早く、倒さないと!」
キバットに止められながらも、キバは倒れているマシンキバーを起し、それに騎乗すると紅の鉄馬とその主は灰色のキバ(キバシャドウ)を追い、跳び去った方向へと疾走する。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
灰色のキバ(キバシャドウ)の眼前で半透明の牙が突き刺さった男が、徐々に透明になっていく。ライフエナジーを捕食していく姿、ファンガイアについての知識が有る者ならば、理解できる瞬間である。
そして、透明になった男が力無く倒れた瞬間、灰色のキバ(キバシャドウ)はそれを踏み砕く様に前へと進んでいく。
そして、灰色のキバ(キバシャドウ)が眼前に有る棺へと腕を振り上げた瞬間、半透明の牙が突き刺さり、棺が砕け散る。先程の男と同様に次の犠牲者も徐々に透明になっていく。だが、灰色のキバ(キバシャドウ)は次の犠牲者が完全に透明になる前に飲み飽きたジュースを捨てる様に片腕を一振りし、犠牲者を砕く。
「これが…真相か?」
響いてくる声に反応して灰色のキバ(キバシャドウ)は後方へと視線を向ける。灰色のキバ(キバシャドウ)と対峙する様にキバシャドウの視線の先に立つのは、左右非対称のアーマーを持った赤い仮面ライダー…仮面ライダーディケイド。
「何でこんな事をした? 答えろ…。」
彼の中に有る仮面ライダーの記憶の中に有る…彼が初めてディケイドへと変身した時に『最初に知った9人の仮面ライダー』の一人と似た姿。
「答えろ……仮面ライダーキバァ!!!」
―ATTACKRIDE SLASH!―
そう叫びながら、ディケイドは流れるよな動作で、ライドブッカーをソードモードへと切換え、それと同時に素早くカードを装填、その効果を得て強化された斬撃をキバシャドウへと振り下ろす。
「………。」
だが、キバシャドウは『SLASH』のカードにより強化された斬撃を片手で受け止めていた。
「ぐはぁ!」
ソードモードのライドブッカーを受け止めたまま、開いた片手でディケイドの腹へとパンチを打ち込み、ライドブッカーごと、ディケイドを投げ捨てる。
「このぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
「…………。」
無言のまま、続けざまに振り下ろされるディケイドの剣を簡単に受け流しながら、途切れた一瞬を逃さずキバシャドウのカウンターとして打ち込まれた拳がディケイドへと突き刺さる。
「こいつ!!!」
―ATTACKRAID BLAST!―
ディケイドは次のカードを装填した瞬間し、キバシャドウへと狙いをつけ引き金を引く。ガンモードのライドブッカーより放たれる強化された銃弾が一斉にキバシャドウへと直撃していく。
「なんで、この世界を護る仮面ライダーが、こんな事を!!!」
銃撃を止めてディケイドはソードモードへと切換え、キバシャドウとの距離を一気に詰めて、その刃を振り下ろす。
「答えろ、仮面ライダーキバァ!!!」
防御の体制も取らなかったキバシャドウをディケイドの刃が切り裂いた。
「これで終わりだァ!!!」
トドメとなるべき、黄色い『ファイナルアタックライド』のカードを引きぬこうとした瞬間、
「止めろォ!!!」
「なに!?」
キバシャドウよりライドブッカーを引き抜きながら、ディケイドは跳び込んできた白い影をから距離を取る。その隙を逃さず、キバシャドウはその場を去っていく。
「イオ!!!」
「ヘルメス!!!」
「って、嘘!!!」
続いてディケイドへと襲いかかるのは火炎と疾風。後に下がりながらそれの効果範囲から逃れると、最初に現れた白い影…仮面ライダーイクサ(明彦) と並ぶように弓を構えたゆかりと大剣を構えた順平が立つ。
「やはり、”あの男”の言う通り、お前の狙いは紅の様だったな。」
「それに…最近の行方不明事件の犯人も…あんただったのね。」
後方に居るイクサリオンに乗った美鶴の声が響き、キバシャドウの行った惨劇の跡を一瞥して、ディケイドを睨みつけながらゆかりが言いきる。
「答えてもらうぞ、行方不明になった人達をどうした!?」
(…あの男…?)「ふざけるな! あれをやったのは、ぼくじゃない、キバだ!!!」
「嘘をつくな、紅はそんな事をする奴じゃない!」
前線メンバー二人…順平とイクサ(明彦) がそれぞれの武器を構えながら、ディケイドへと向かっていく。
「真田先輩、ゆかりっち、そんな事はコイツを倒した後で聞けば言いだけだろう!!! ヘルメス!!!」
順平の叫び声と共に米神に押しつけられた銃…召喚器の引き金を引き、現れた彼のペルソナ…『ヘルメス』が現れ、火炎魔法(アギラオ) を撃ち出す。
「この!!!」
撃ち出された炎を避けながら、ディケイドはガンモードのライドブッカーを撃ち出そうとするが、
「今度は昼間の様にはいかないぞ!!! カエサル!!!」
弾けるような音と同時に撃ち出された人影から打ち出された雷撃がディケイドへと撃ち出される。
「っ!?」
最初の二人もそうだった様に目の前の居るイクサもまた同じ様な力が使えると予想していた為回避できたが、はっきり言って昼間とは立場が逆転している。遠距離での雷の魔法と、攻撃とボクシングという接近戦での戦闘方法と…四対一と数の上でも不利、
「そこ! イオ!!!」
「くっ!」
―ATTACKRIDE SLASH!―
続いてゆかりが撃ち出した風の刃をライドカードで強化した斬撃で相殺する。
しかも、此方の動きを読んでいるかのような的確な攻撃とチームワーク…油断していると、自分は簡単に負けてしまう。
「おぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
風の刃を防いだ直後のディケイドにイクサナックルを付けたストレートが叩きつけられる。
「おっしゃー! 行け、ヘルメス!!!」
追い討ちとしてディケイドへと向かって順平の撃ち出したヘルメスが“突撃”して行く。
「そうは…行くか!!!」
―ATTACKRIDE ILLUSION!―
素早く、ライドブッカーから新たに引きぬいたカードをベルトへと装填し、ディケイドは八人の分身を作り出す。
一瞬、目標を見失ったヘルメスの“突撃”を避けてディケイド達は順平達との距離を詰めていく。
「うそでしょ!」
「あんなの有りかよ!」
「落ち着け、分身した所で、どうせ実体は一つだ…美鶴『バカな…全てに実体が有るだと。』なに!?」
分身の実体が一つだけという判断で美鶴の索敵能力で実体を見つけ出して攻撃すればいいと考えていたイクサ(明彦) の言葉が美鶴から告げられた言葉によって驚愕へと変わる。
「チッ!」
イクサ(明彦) はならば、纏めて吹き飛ばそうとナックルフエッスルを取り出す。また、それを見てディケイドも新たにカードを取り出す。
《イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ》
―FAINAL ATTACKRAID DE・DE・DE・DECADE!―
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」
イクサ(明彦) がアスファルトの大地が砕けんばかりの力で踏み込み、全エネルギーを集中させたイクサナックルを構え、ディケイドへとストレートを放つ。
ディケイドもまた上空からイクサ(明彦) へと向けて伸ばされたレールの様に展開する半透明のカードを跳び蹴りの体制で潜り抜けていく。
「ディメンションキック!!!」
「ブロウクン・ファング!!!」
それが、昼間とは比べものにならない…二人のライダーの持つ《全力》での必殺技が激突した瞬間で有った。
「ダメだ…奴を見失ったみたいだ。」
マシンキバーを停車させ、キバはそう呟く。
「ん? あれって、シルフィーちゃんじゃないか?」
キバットの言葉を受けてキバは視線を向ける。すると、前方からヨロヨロとした足取りで壁に体を預けながら、奏夜の方へと歩いてくるシルフィーの姿があった。
「シルフィー姉さん!」
「おい、どうしたんだよ、シルフィーちゃん!?」
「…奏夜様…キバットバット様…。」
マシンキバーから降りたキバとキバットが彼女へと駆け寄ると、それを見た瞬間、安心したのか彼等の方へと崩れ落ちる。彼女の体が叩きつけられる前にキバは彼女を受け止める。
「シルフィー姉さん! どうしてここに?」
「…奏夜様…申し訳ありません……。…“奴”が…キャッスルドランに…次狼やタツロット様が…。」
「シルフィー姉さん!」
「大丈夫だ、奏夜! 気絶しただけだ!」
意識を失ったシルフィーに慌てて呼びかけるキバをキバットが落ち着かせる。そして、前方から近づいて来る気配を感じ取る。
「なに!? 嘘だろう!?」
「…あの姿は…なんだ?」
気絶したシルフィーをマシンキバーに乗せ、キバとキバットが近づいて来る影を一瞥し、思わず言葉を失ってしまう。
近づいて来る気配の持ち主は間違い無くキバシャドウの物…だが、対峙しただけで分かるほどの元々持っていた唯でさえ強大で有った力はつい先程逃がした時以上に強大な物へと変わっている。
一瞥すると、姿も大きく変わっていた。…胸はドッガフォーム…両肩がそれぞれガルルフォーム、バッシャーフォームと同様の物に…そして、それ以外の部分がキバフォームならば、以前にも自分が変身した事の有る『ドガバキフォーム』なのだが…それ以外の部分は王の風格を持つ金色の鎧…エンペラーフォームの物へと変わっていた。
そう、それはまるでドガバキフォームとエンペラーフォームの特徴を持った姿『ドガバキエンペラーフォーム』とでも言うべき姿へと…。
必殺技同士の激突の末に弾き飛ばされるとディケイドと同様に弾き飛ばされながら、変身が解除されるイクサ(明彦) 。
「へっ、よっしゃー! 次はオレだぜ!」
《レ・デ・ィ・ー》
飛ばされたイクサナックルを受け止めた順平がイクサへと変身する。
「変身!!!」
《フ・ィ・ス・ト・オ・ン》
再度現れるイクサ…今度はイクサカリバーを武器に…ある種隙だらけな構えで掛かってくる。
(…どうする…このままだと、こっちが不利だ…?)
変身こそ解除されていないが、ディケイドのダメージは大きく…先程のイクサよりも弱そうに見えても不利な事には変わりない。そんな時だった…
―KAMENRIDE IXA!―
ディケイドを護る様に聞きなれた電子音と共に…もう一人のイクサが現れたのは…。
セーブモードからバーストモードへと変形すると同時にイクサはイクサ(順平) へとガンモードのイクサカリバーを向け、宣言する。
「その命、神に返しなさい!」
(……いや、返しちゃ拙いでしょう…命を!!!)
助ける様に現れたイクサに対して思わずそんなツッコミを入れるディケイドで有った。