キバの世界

「…あの、紅くん、見つかりましたか?」



彼女…『岳羽 ゆかり』が目の前の相手『桐条 美鶴』へとそう問いかける。美鶴はゆかりの問いかけに否定的な答えを出す様に首を横に振る。



「いや、伊織や明彦も探してくれている様だが、まだ、彼は見つからない。」



数日前から彼等の前から…寮からも姿を消した大切な仲間…いや、中心となって彼等を引っ張ってくれていたリーダーで会った少年『紅 奏夜』が数日前のあの一件以来有った者はいない。



「そう…ですか。」



「…彼の仲間を傷付けてしまった私達には…もう…彼を『仲間』と呼ぶ資格はないのかもしれないな。」



「それに風花も部屋に閉じこもったきりで…。ホント、彼が居なくなってから…バラバラですね…私達。」



「そうだな。だが…それでも、私は彼に有って一言謝りたい…。彼には返しきれない恩が有ると言うのに。」



「私も同じです。…私も…私達は紅君には助けられてばかりでしたから。」






ラウンジで映し出されるテレビでは数日前から続く失踪事件の報道がなされていた。深夜零時を境に衣服を残して消え去ってしまう人々…多くの人々が消える原因不明の連続失踪事件。












深夜零時…影時間



「不気味な月と空だね。」



「…うん…なんだか…いやな感じ。」



窓から見える夜空を眺めながら勇宇はそう呟き、紫月が彼の言葉に同意する。空に浮かぶ不気味な月と緑色の空…そして、窓からは見えないが…外に並ぶのは不気味な棺桶のオプジェ。この世の物とは思えない悪夢の如き風景が広がっていた。



「この世界のライダーに接触するにしても、もう遅いみたいだし…って、あれ?」



勇宇が時計へと視線を向けた瞬間、思わずそんな声を上げてしまう。時計は深夜零時を指したまま停止していたのだ。変だと思いながら携帯電話を取り出してディスプレイを表示させたが、何も映し出されなかった。



「これは…?」



今度はテレビの電源を入れてみたが、電源が入らない。電灯を付けてみようとしてもそれも付かなかった。



「…何だか、機械が動かないみたい…。」



「っ!? 機械が動かない!? まさか!」



紫月の言葉にディケイドライバーを取り出してそれを装着する。そして、ディケイドのカードを取りだし、



「変身!」







―KAMENRAIDE DECADE―





問題なくディケイドへと変身する勇宇、すぐにディケイドライバーを外して変身を解除する。



「良かった。ディケイドには変身できるみたいだ。」



「…うん、ホントに良かった…。」



思わず安堵の表情を浮かべてしまう二人だが、それでも疑問は残る。何故ディケイドライバー以外の機械が動かないのかと言う疑問が…。










世界の破壊者、仮面ライダーディケイド。十の世界を巡り…その瞳は何を見る?




仮面ライダーディケイド
~終焉を破壊する者~
第三話
『孤独なる王/キバの世界』






「…はぁ…はぁ…。」



路地裏に隠れながら血が流れる右腕の傷痕を押さえながら、一人の少年…『紅 奏夜』は呼吸を整えながら外の様子を覗う。彼の真上を舞う機械的な蝙蝠が彼へと心配そうに声を掛けた。



「おい、大丈夫かよ、奏夜?」



「うん、大丈夫…。」



「…本当にキャッスルドランの中じゃなくて、あそこで良いのか?」



「…うん…シルフィー姉さんや、次狼さん達もまだ治って無いし…。父さんや兄さんと暮らした場所…ぼくは覚えてないけど…あそこくらいしか、他に行く場所って思いつかないしさ。それに…影時間に起こっているあの事件…どうしても、あれはぼくが解決する必要が有る。」



そう呟き奏夜が思い出すのは先日目撃した影時間の中に現れた『敵』の存在。灰色のキバの姿をしたシャドウとでも言うべきだろう相手と戦い、手も足も出ずに敗れた相手の存在を。



なにより、奏夜が警戒している点はエンペラーフォームにならなかったとは言え、キバとなった自分を圧倒した戦闘能力ではなく、『精神を食らう』通常のシャドウとは違い、かつてのファンガイア達と同じく『ライフエナジーを食らう』と言う一点なのだ。



(…疲れたな…あそこに着いたら、直に休もう。)



全身の疲労と右腕の痛みに耐えながら立ち上がると、そのまま目的地へと向かって歩き出していく。















翌日…



「…ん…。…勇宇、おはよう…。」



「うん、おはよう、紫月。朝御飯出来てるよ。」



「…うん…。…頂きます…。」



二人が食事の席に着くと勇宇はテレビを着ける。ニュース番組をBGMに食事を続けている二人だったが、あるニュースに話題が移ると口を開く。



「…『連続失踪事件』…夜十二時を境に、衣服を残して人が消えているって言う事件だけど…。」



「……うん…『ファンガイア』が原因だと思う…。」



彼女の脳裏に思い出されるのは世界の崩壊の際に見たファンガイアにライフエナジーを吸収された人々の末路。それと同じ現象がこの世界にも起こっているのだ。



「…だったら、ここは……『キバの世界』…。」



「そうだね。この世界に居る、この世界の仮面ライダー…『キバ』を探してみるか。」



『今日は日曜日だしね。』と付け加えて立ち上がり、家の外に出ると彼の服装が変わっていく。



「これって…制服?」



「…勇宇、どうしたの…?」



勇宇を追いかけて家の外に出た紫月の服装も別の形へと変わっていく。



「…『月光舘学園一年A組』…『門矢 勇宇』…これがこの世界の立場みたいだね。」



「…うん…私も同じ学校の同じクラスみたい。」



ポケットの中に入っていた学生証によれば、『月光舘学園一年』…それがこの世界における二人に与えられた役割なのだろう。



「…一度着替えてから、出かけ様か。」



「……うん……。」












この世界の仮面ライダーを探す為に動き出した二人だったが、それには大きな問題があったのだ。



………そう、それは『どうやってライダーを探すのか?』である。このキバの世界では、表立ってライダー達が存在している様子は無く、どう行動すれば良いのか解らない状況だったのだ。



結局、ライダーの事を調べると言う目的は早々に放棄して、この辺の地理を覚える事を目的として、昼頃まで動き回った。早々に諦めていた事だが、この世界の仮面ライダーの情報についての収穫は、まったくと言って良いほど無かったのだから、精神的な疲労は大きい。



「結局、何にも収穫は無かったね。」



「……うん……覚悟はしてたけど、ここまで何も無いのは…ちょっと…。」



昼食にと入った駅前のハンバーガーショップでそんな会話を交わしている。他にもラーメン屋等の店も多かったのだが、結局の所、この店にした。



「これじゃあ、あの事件の方から調べて見た方がいいのかな?」



ファンガイアが事件に関わっているのだったら、当然ながら、事件について調べていけばこの世界の仮面ライダーにも出会えると考えた結果である。



「……それの方がいいかもしれない……。」



「そうだね。」



妙に湿っているハンバーガーを食べながら、紫月はそう呟く。何も見えない前途を考えると気分は暗くなってしまう。






「「はぁ…。」」






思わず溜息を付いてしまう二人で有った。そんな時、ハンバーガーショップの窓の外の風景として、勇宇の視界の中に一人の人物が入ってくる。



「…今のって…まさか…。」



普通なら気にも止めない事だったが、その人物には確かに見覚えが有る。そう、自分達をこの世界へと旅立たせた者の一人。…最後の瞬間、『仮面ライダーキバ』へと姿を変えたあの人物。



「どうしたの?」



「…紫月、覚えてる? ぼく達が旅立った時の事。」



「…うん…。」



「あの時見た人が今そこを歩いてた。」



勇宇のその言葉に紫月は勇宇へと視線を向ける。



「…なんで…あの人が…。」



「兎に角、一度会って見た方がいいと思う。」



勇宇のその言葉に二人は目を見合わせたまま頷き合う。今、二人が行動すべき事は決まった。



「紫月、手分けしてあの人を探そう。見つかったらメールで連絡、見つからなかったら三時間後にここで。」



「…うん…。」



二人はハンバーガーショップを出ると二手に分かれて、『紅 奏夜』の探索を始めたのだった。




(…流石に簡単には見つからないか…。)



紫月と解れて周囲を見まわしながら、先程見かけた人物…『奏夜』を探す勇宇だったが、当然ながら、彼の姿は簡単には見つからなかった。







「ディケイド。」





「っ!? 誰だ!?」



突然後から聞こえてきた自分を呼ぶ声に驚いて声を荒げてしまうが、後には誰の姿も見えない。



「何だったんだろう?」







「ディケイド。貴様は世界を破壊する。」





再び同じ声が後から聞こえてくる。それを不信に思いながら、後を振り向いた時、



「うわぁ!!!」



突然現れた灰色の歪みに飲み込まれていく。



「ここは…?」



歪みが消えた瞬間、勇宇が居た場所…其処は何処かの路地裏の様な場所に居た。



周囲を見回して場所を確認した時、勇宇の後から何かが近づいて来る。その何かが発しているのは、確かな殺気。それに気がついた勇宇が振り向くと、其処には黄色のラインが入った黒い鎧を纏い、紫の瞳を光らせる仮面ライダーが居た。



「…仮面ライダー…? あれは…『仮面ライダーカイザ』。」



「気安く呼ばないで貰いたいな。まあいい、貴様が破壊者か? そのベルト、貰うぞ!」



G3の時の様に勇宇の頭の中にその仮面ライダーの名前が浮かんでくる。知らないはずなのに、勇宇はその仮面ライダーの名前を…知っていたのだ。



黒い仮面ライダー…仮面ライダーカイザは手に持っていた『X』を象った様な剣『カイザブレイガン』を振るい、勇宇へと襲い掛かる。



「また他の世界の仮面ライダーが!? くっ!」



カイザの攻撃をかわしながら、ディケイドライバーを取り出して、それをベルトとして装着し、ディケイドのカードを取り出す。



「変身!!!」







―KAMENRAIDE DECADE!―





ディケイドライバーにカードを装填し、ディケイドへと変身すると素早く、ライドブッカーをソードモードへと変えてカイザのカイザブレイガンを受け止める。



「何でぼくを…。」



「邪魔なんだよ…俺の前に立ち塞がる奴は…うっ!!!」



突然、カイザの動きが止まりカイザブレイガンへと込められていた力も弱くなる。



「せい!」



「ぐは!!!」



その隙を逃さずディケイドはカイザを蹴り飛ばし、カイザから距離を取る。



「ぐぅ…あいつの事を思い出したら…急に胃が…。」



「え、えーと…大丈夫ですか?」



急に胃の辺りを押さえながらヨロヨロとした足取りで立つカイザに対して、呆れ半分でそう聞いてしまう。



「うるさい!!!」



そんなディケイドに対して胃を押さえながらカイザブレイガンから銃弾を乱射する。



「って、心配してあげたのに、酷ッ!」



「誰もそんな事は頼んでない!!!」



「大体、胃が悪いなら、こんな所で戦ってないで医者行け!!!」



「あいつのお蔭ですっかり常連だよ!!! 大体、行ったら今度はあいつが原因のストレスで悪化しかしないだろう!!!」



「あいつって誰!? しかも、ストレス性!?」



「俺に聞くなァ!!!」



会話だけだとどう見てもギャグにしか見えないが、カイザブレイガンから撃ち出されるフォントブラッドの弾丸を避けながら、ディケイドはライドブッカーをガンモードへと変形させて、射ち合いを始める。



どうでも良いが、主にカイザの名誉の為に、戦闘中も片手で胃を押さえているのは見ない事としよう。



「あいつを八つ裂きにする為にここで死ね!!!」



「って、八つ当たり!?」



カイザブレイガンを振り上げて襲いかかってくるカイザ。その刃をソードモードへと切り替えたライドブッカーで受け止め、切り結ぶ。



「あいつへの怒りを思い知れ!!!」



「うわ! …よっぽど嫌いなんだな…その人の事が…。」



叫び声を上げながら振り上げたカイザブレイガンによってディケイドが弾き飛ばされてしまう。妙に感心しながら、そう呟くが、黙って倒される訳には行かないディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出す。







―ATTACKRIDE ILLUSION!―





電子音が響くと同時にディケイドが一人から二人、三人、四人と次々と増えていき、最終的には八人まで増えていった。



「な、なんだと!?」



「「「「「「「「さあ、どれが本物かな?」」」」」」」」



分身したディケイド達は一斉に…それもそれぞれ違う戦い方でカイザへと襲いかかる。全ての攻撃は幻などではなく、全てが実態となって確実にカイザへとダメージを与えていく。



「バ、バカな、全部実態が有るだと!?」



腹へと叩きつけられた肘打ちがカイザの体を吹き飛ばし、壁へと叩きつけると八人のディケイドは一人へと戻っていく。



「ぐ…うぐぅ…。」



再び胃を押さえて苦しみ出すカイザを眺めながら、内心では『悪い事しちゃったかな~?』等と考えながらも、新たにライドブッカーから『FAINAL ATTACKRIDE』のカードを取り出す。



「えーと、トドメ刺しちゃっていいのかな、これ?」



ディケイドがちょっと迷っている瞬間、カイザとディケイドの間を灰色の歪みが隔て、その歪みと共にカイザの姿は消えていく。



「今日はここまでだ。」



「いや、その格好で言っても格好悪いだけなんですけど。」



「うるさい!!!」



そんな捨て台詞を残して胃を押さえながらカイザは消えていった。







―ディケイド! 仮面ライダー達と戦う悪魔よ!!! やはり、お前は悪魔だ。―





突然の先程の声が聞こえてくる。何処から聞こえてくるのかと考えて周囲を見まわすが、やはり、そこには誰も居ない。



「…いや、さっき、胃を悪くしている人のお腹を思いっきり殴っちゃったのは悪かったけどさ。悪魔は無いと思う。」



ライドブッカーを開き、結局使う事の無かった『FAINAL ATTACKRIDE』のカードをライドブッカーの中へと収める。






『真田先輩、きっと、あいつスよ!』



『ああ! あいつが破壊者か。』






「ん?」



今度は二人の少年…『伊織 順平』と『真田 明彦』がディケイドの所まで走ってくる。そして、明彦がディケイドを睨みつけながら、



「おい! お前が破壊者(ディケイド)なのか?」



「え・・えーと…そうだけど…。」



「そうか、こいつが…。」



怒りを込めた視線でディケイドを睨みつけながら順平が前に出ようとするが、それを明彦が押し止める。



「先ずはオレから行かせてもらうぞ。」



明彦はナックルらしき物を取り出してベルトを腰に巻きつける。左手の掌にそれを押しつけ、そして、あの『言葉』を口にする。







《レ・デ・ィ・ー》





「変身!」







《フ・ィ・ス・ト・オ・ン》





ベルトより現れた十字架が白い人型の騎士を作り上げてそれが明彦の体と重なっていく。そして、十字架を象った頭部が開き、その中から赤い瞳が現れる。それの名は人が作り上げた科学の聖騎士………………の量産試作機『仮面ライダーイクサ簡易型』へとその姿を変える。



「行くぞ!!!」



「またか!? まったく、次から次へと!?」(このまま戦うのは拙いな…巧く退くか。)















「…ここは…?」



勇宇と別れた後、紫月はボロボロになった古い洋館の前に居た。



「っ!?」



誰かが近づいて来る気配を感じて、紫月は慌ててその場に隠れる。



「当面の食料は確保できたね。」



「ああ、あとは…あいつを見つけ出して倒すだけだな~。」



人目を気にしながら、メタリックな蝙蝠、キバットバット三世を連れて彼、『紅 奏夜』は洋館の中に入っていく。



「…見つけた…あの人が…この世界の仮面ライダー…キバ。」
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