序章

世界の破壊者、仮面ライダーディケイド。十の世界を巡り…その瞳は何を見る?


仮面ライダーディケイド
~終焉を破壊する者~
第一話
『旅立ち/???の世界』








「…勇宇…考え込まないで直感で決めればいいと思う…。」



「そ、そう?」



「うん。…この三つの世界の何処かに終焉の大元が『有る』はずだから、勇宇ならそれを無意識に引き寄せるはず。」



勇宇は紫月からのその言葉に何処か引っかかる物を感じてしまう。



「でも、間違えたら…世界は…。」



「…迷ってても同じ事。大丈夫、破壊者であるディケイド…勇宇なら、引き寄せられるはずだから。」



「……紫月…『終焉の大元と欠片』…それについて知っている事を…何でぼくが選ばれたのかも…全部聞かせて貰える?」



そう告げると、紫月の言葉に従い一枚の写真を手に撮りそれを写真立ての中に収め、それをテーブルの上へと置く。



その瞬間、窓の外の風景が光に包まれて景色がまったく別の物に変わっていく。



「!?」



その光に思わず目を覆う。そして、光が消えていった瞬間、覆っていた手を下ろしていく。



「…………一体、何が?」



「見て。」



紫月が窓の外を指刺す。彼女に促されてそちらへと視線を向けると、そこの景色は…平和な日常その物の風景…窓の外に見える景色は写真立てに入っている写真と同じ巨大な樹が映し出されていた。



ライドブッカーを取り出し、その中から唯一色を失っていないディケイドのカードを取り出す。



(…感じる…。何かが…有る。)



服装も何時の間にか私服になっていた。そして、ポケットの中に異物感を感じて“それ”を取り出して視線を向けてみると、そこには。



「…ぼくの学生証? 『麻帆良学園高等部』…の一年? 麻帆良学園!?」



「うん、これが私達のこの世界での立場。…私達はこの世界だと、この学校の生徒と言う事になる…。…どうしたの、勇宇?」



妙に引き攣った表情を浮かべながら、学生証の表と裏と、中身を眺めていた勇宇に対してそんな疑問を向けるが…。



「…う、うん…。その前に…君が知っている事を聞かせてくれる…。」



「うん。でも…。」



紫月が視線を向けると、テーブルの上に残されていた二枚の写真が色彩を失っていき、真っ白い何も写っていない写真へと変わっていく。



「…絵が消えた?」



「…これが、もう後戻りは出来ないと言う事だと思う…。」



「この世界に終焉の大元が無いと、この時点で全部終わりか…。」



「うん。…それで、終焉の事だけど…私の知っている事はそう多くない…。…私が知っているのは、終焉を破壊できるのはディケイドに選ばれた勇宇だけと言う事と、終焉の『名前』だけ。」



「…名前?」



「終焉の大元…それは終焉者『ディターン』…この世界の何処かにディターンが有るはず。」



「ディターン…それが終焉の名前。」



紫月の言葉を反芻しながら、彼女の言葉を思い出していくと…彼女の言葉に妙に引っかかる物を感じてしまう。



「ここに『有る』って…『居る』じゃなくて?」



「…分からない…。…ただ、この世界で終焉が始まっていないのは、まだディターンは『誕生』していないと言う事だと思うから…。」



「そう…なんだ。」



紫月の言葉通りならば、現時点で終焉の大元であるディターンを見つけ出せば簡単に破壊できると言う事なのだが、それははっきり言って簡単な事ではない。



「…ただ、ディケイドが今は全ての力を失っていると言うのに対して、ディターンは誕生した瞬間、全ての力を取り戻してしまう…。だから、少しでも速く完全にディケイドの力を取り戻して、ディターンの力の『欠片』を集めて封印するしかない…。それは勇宇のライドブッカーの中に収める事でディターンの力は封印できる。」



彼女の言葉に従ってライドブッカーを取り出す。そのに収められているのは殆どが色彩を失ったライダーカードだけ。その中から取り出している一枚だけ色彩を失っていないディケイドのカードに視線を向ける。



「この中に…か。でも力の欠片も…ディケイドと同じ『カード』って事になるよね?」



「…うん…多分、そうだと思う。」



「纏めて見ると、ディケイドの力を取り戻して、ディターンの欠片を回収する。…それがぼく達の旅の目的になるって訳だね?」



「うん。でも、それにはこの世界に有る『鍵』を手に入れる必要があるんだけど…。」



「他の世界に移動する写真立てに収めるべき、仮面ライダー達の世界の写真を撮る事…だね?」



勇宇の言葉に肯定の意を込めて紫月は無言のまま首を縦に振る。勇宇はそれを見てライドブッカーの中から一枚一枚、ディケイド以外の仮面ライダーカードを取り出してテーブルの上に並んでいく。



「…『クウガ』…『アギト』…『龍騎』…『ファイズ』…『ブレイド』…『響鬼』…『カブト』…『電王』…『キバ』…『神鬼』…『ガタック』…。」



十一枚のカードを並べ終わると異変が始まる前に撮影したデジカメの画像を表示させる。



それには今までの写真とは違って、ピンボケにならず『暗い緑色の空と禍々しさの増した月に異形の塔、そして、空を舞う城にドラゴンの手足の生えた画像』が写し出されていた。



「!? 勇宇…この写真って、何処で…?」



「異変が始まる前、あの人達の中の一人に始めてあった時に、偶然シャッターを押したんだと思う。多分、これがぼく達が最初に向かうべきライダーの世界だと思う。」



勇宇から見せられた写真に驚いて紫月は彼にそう質問する。それに返すのは勇宇からの冷静な答え。



二人の間に流れる沈黙…“翔”の言葉を信じるのなら、これが最初に向かう最初に向かうべきライダーの世界への鍵である事に間違いは無い。



「…紫月、もう一つ…聞かせて貰うよ。どうしてぼくがディケイドに選ばれのかを?」



「…私にも、詳しい事は分からないの…。…ただ、私が知っているのは、勇宇が『ディケイドに選ばれる条件を満たした』から…。…でも、その条件が何なのかは…私も知らない…。」



「そうなんだ…。」



そう呟いて紫月の方へと視線を向ける。腰まで届くかと思われる綺麗な黒い髪と黒曜石の様な彼女の瞳を覗きこむ。



基本的に無表情とも思える彼女だが、実は感情豊かだと言う事を勇宇はよく知っている。特に嘘を言っているとしたら、必ずと言って良いほど表情に表れるという事を…。其処から考えても、間違い無く、彼女は本当の事しか言っていない事が分かる。



(…ディケイドに選ばれる条件…何の事なんだろう?)「紫月、『誕生していない』って言う事は、ディケイドの様に変身する人間が決まっていないって事なのかな?」



「…そうだと思う…。…だから、私達がここでするべき事は…『ディターン』へと変身する為の道具を見つけ出して…。」



「…ぼくの…ディケイドの力で破壊する事。」



「うん。…それで……勇宇…この世界の事知ってるの?」



紫月の言葉に勇宇は明後日の方へと視線を向ける。



「……えーと、この『麻帆良学園』って言うのは、『魔法先生ネギま!』って言う漫画の舞台で…。」



自分の持つ『魔法先生ネギま!』と言う漫画の情報を一つ一つ伝えていく。



もっとも、内容はよく覚えておらず、余り詳しくは伝えられないのだが、それでも大まかな流れ程度なら説明できる。主に『どれくらいの時期に何が起こるのか』という程度レベルだが。



「…勇宇…でもそうなるとディターンはもしかしたら…。」



「魔法使い達の住むもう一つの世界に有る可能性も考えた方が良い。でも、そうだとしたら、二つの世界なんて…最悪だね。はっきり言って探す範囲が広すぎる。」



「うん。だったら、ここが偶然似た名前の学校である事を祈るだけ…『魔法使い』の『子供先生』なんて居る訳ないし。」



「そうだね。この学園が『関東魔法教会』の中核なんて事はないよね。」



そう言って『ハハハッ』と乾いた笑いを浮かべる勇宇と紫月の二人…内心、『異世界という事はそう言う可能性(漫画の世界)もありかな?』なんて思っている二人で合った。



「…でも、もしそうだったら、どうするの…?」



「それは…暫く接触は持たない方が良いと思う。下手にディケイドの力を知られるのは危険だろうし、調べようとするかもしれない。」



それだけではなく、今、彼の考えている最悪の事態は。



「…それに…悪用しようとする人間も出るかもしれないし、それがディターンを誕生させる事になるのかもしれない。」



ディケイドの悪用の危険性、後天的にディターンが生み出される危険性の二つだ。それを考えると、接触は控えるべきと考える。そして、何よりも勇宇が心配している事は唯一つ…



「何より…行き成り、『世界の終焉が近いですから、その原因を探すのを手伝ってください。形は全然分かりません、名前は『ディターン』です。』なんて、ディケイドを持って行っても簡単に信じる訳もないし…最悪、ディケイドライバーを取り上げられるか、向こうに良いように使われて、ディターンの探索なんて出来ないかもしれない。下手をしたら、他のライダーの世界を旅するのにも不都合になるかもしれない。」



そもそも、自分達が体験した世界の終わり等と言う物を口で説明するのは難しいと言う事だ。実際、自分達の世界の様に一目で理解できる所まで事態が進行してしまっていたら、それは既に手遅れだ。そうなってしまってからでは遅い。



そして、最後に心の中で『考えられる限り、まだ良い方の可能性かもしれない。』と付け加えておく。



だが、そうなってしまったら、間違いなく待っているのはディターン復活からディケイドの敗北へと繋がる最悪の展開(バッドエンド)…故に今は…少なくとも今現在はディケイドの力を完全な形に戻す事が重要と考える。



「…うん、私は勇宇を信じる…。」



「ありがとう。今日はこの写真の現像を頼んだ方がいいか…。」



はっきり言って、写真館でもない一般の家屋に写真を現像できる部屋等付いている訳がない。



「…あと…少しくらいは準備して行った方が良いと思う…。」



「そうだね、現像にも時間は掛かるだろうし。あとは…この世界が本当に『魔法先生ネギま!』の世界なのかも調べた方が良いと思う。」



「…うん…。…でも、調べてたら私達も…。」



「…別に詳しく調べる必要はないと思うよ。杖を持っている子供の先生が居たら、八割ほど間違いないと思うから。」



そう…様は詳しく調べる必要はない。ある意味、一目で解るような証拠が大手を振って存在しているのだから。



ある程度、行動目標を決めるとその為の活動を開始する二人だった。ただどうでも良いが…



「…ねえ…勇宇…今日、平日…。…学校…。」



「……あ……;」



時間と日日を確認して見ると思いっきり、平日の午後ニ時を過ぎていた。元の世界での時間経過は此方でもある程度、換算されるのだろう。



そして、此方の世界では異変は一切起こっておらず、尚且つ、本来の世界では、今日は登校途中で化け物(怪人)達から逃げながら、街を走り回りディケイドに変身して戦っていた。



そう、それらに掛かった時間を計算した結果、結果的に思いっきり平日に学校を無断欠席してしまう事となってしまった二人だった。



「ど、どうしよう!!!」



「…大変…!!!」



思いっきり大慌てで叫ぶ二人だった。その後、紫月と勇宇のお腹がなった事で、まだ昼食を食べていない事に気が付き、今日はサボる事として開き直ってゆっくりと昼食にした二人だった。













さて、その日は写真店に写真の現像を頼みに行って、一緒に小さなアルバムを購入してその日は終わるのだが…。翌日、登校した時には、思いっきり教師に無断欠席の事を聞かれて注意されるのだった。



なお、余談だが、基本的に社家では家事は勇宇と紫月の当番制で行っている。写真の現像を頼みに行った帰りに今日の夕食の食事当番である紫月に頼まれた買い物をした帰り道、勇宇はここがどう言う世界なのか、はっきりと解る事態に陥っていた。



「はぁ。何でこうなったんだろう? やっぱり、あそこで近道しようとしたのが間違いだったのかなぁ?」





「「「「キシャァァァァァ!!!」」」」





頭痛を押さえるように額に指を当てて溜息を付く勇宇。周囲を無数の怪物達に囲まれているその状況も…彼にはある可能性を肯定するものでしかなく、恐怖心など与える物ではない。



(…ここが『ネギま!』の世界である事はこれで確定だね。)



そう、明らかに元々の世界で襲われた『怪人』達とは毛色も、強さも違う怪物達を一瞥しつつ、冷静にデイケイドライバーを取り出し、ベルトのように巻きつけ、ライドブッカーから取り出した『ディケイドのカード』を挿入口にカードをセットする。





-KAMENRAIDE-





「変身!」





-DECADE!-





勇宇の姿をディケイドのスーツが包み、周囲にベルトにある九つの紋章が浮かび上がり、九つの虚像が現れる。虚像がカードになり、ディケイドの頭部に突き刺さって行くと、灰色の色彩が赤に変わり、変身は完了する。



「理解できないだろうけど…覚えておけ、ぼくは…通りすがりの仮面ライダーだ!」



己を鼓舞する様に勇宇…否、『仮面ライダーディケイド』はそう宣言する。元の世界で戦った怪人達と比べると明らかに最高でもワンランクは下の印象を与える。だが、最初に変身した時の力は感じられない今のディケイドではどうかと言う不安はある。



だが…己を鼓舞する為に『仮面ライダー』…その名を叫んだ瞬間、彼の心の中にあった微かな不安感と恐怖心の全てが払拭された。



ディケイドは腰のライドブッカーを外し、ソードモードにすると怪物達の中に切り込んでいく。



「はぁ!!!」



ディケイドの能力を確かめるような、回避を優先した相手からの攻撃を避けながらのカウンターの斬撃が次々と怪物達へと決まっていく。それによって致命傷になった者は少ないらしく、まだ敵の数は殆ど減っていない。



次にディケイドはライドブッカーをソードモードからガンモードへと変えて、弾丸を撃ち出す。



十分今の状態でも戦える敵に対して、ディケイドの今の時点での能力を確かめるべくそんな形での戦闘(チュートリアル)を繰り返していくのだ。



(…流石に誰かに見られている可能性までは否定できないけど…其処まで考えていたら切りがない。遅かれ、速かれ、解る事だろうし、それよりも、今の内に能力はある程度確かめておいた方が良い。)



そう考えながら、ディケイドは敵を引き離すようにライドブッカーのガンモードを撃ち出す。



そして、敵が離れた瞬間を逃さず、ライドブッカーを開き、その中から一枚のカードを取り出す。それにはソードモードのライドブッカーを構えたディケイドの姿が写っていた。





―ATTACKRIDE SLASH!―





そのカードをディケイドライバーに装填し、再びライドブッカーをソードモードへと変え、その強化された斬撃を振るいながら、ディケイドは縦横無尽に怪物達の中を掛けぬけていく。



そして、再びライドブッカーを開き、その中から一枚のカードを取り出す。今度はガンモードのライドブッカーを構えたディケイドのカード。それをディケイドライバーへと装填する。





―ATTACKRAID BLAST!―





幻影のようにガンモードのライドブッカーの銃口が増え、単純計算で三倍にも増えたディケイドの銃撃が怪物達を吹き飛ばしていく。



「これで…終わりだ!」



最後の一体…一番大型のリーダー格と思われる怪物だけになった時、ディケイドが取り出したのは今までとは違う『仮面ライダーディケイド』を示すの紋章が書かれた黄色いカード。それをディケイドライバーへと装填する。







―FAINAL ATTACKRAID DE・DE・DE・DECADE!―






装填した物と同じカードの様な物がディケイドの前に無数に現れる。



「はあぁ!」



半透明のカードを潜り抜ける様にディケイドは飛び蹴りを放つ。カードを潜り抜ける度に加速し、その破壊力を増していく。それがディケイドの基本形態の持つ『必殺技』の一つ…その名も、



「『ディメンションキック』!!!」





ドゴォン!!!





ディケイドの必殺技『ディメンションキック』が直撃し、最後の怪物が爆散する。



それを堪忍するとディケイドはディケイドライバーを外し、変身を解除する。



「ふぅ。」



ここが自分達の予想通りの世界である事には驚いたが、ディケイドの姿での戦い方は確りと学ぶ事が出来た事と、この世界が『ネギま!』の世界で間違いない事を確認できたのは幸運だったと考える。だが、



(急いでここを離れた方がいいな…誰かに見られるのは拙い。)



誰かが来た場合、自分や明らかにこの世界では異質な存在である『ディケイド』の事を知られても拙い。そう考えて、勇宇は急いでその場を離れていったのだった。
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