カブトの世界(ガタック編)

「ガタックとカブトは失敗したか。」



廃墟の中、黒衣の青年がそう呟く。



「ええ、キバの世界に続いてカブトの世界、両方とも失敗しちゃったみたいですね。」



ニコニコと笑いながらそう告げる青年の隣に立つ、小鳥を肩に乗せた彼らよりも若干年下に見える一房だけが赤く染まった銀髪の青年が口を開く。



「なんだ、中間報告に集まると言うのに集まったのは、まだ三人だけか?」



「来ない者は仕方ない。集まっているオレ達だけで中間報告を行おう。幸い、ディケイド対策に動くメンバーの大半は揃っている事だしな。」



黒衣の青年の言葉に二人は頷く事で肯定の意思を示す。



「オレの担当の龍騎の世界での根回しは終わっている。次はブレイドの世界だな。それに…ディケイドへのプレゼント(刺客)にはその為に最高の仮面ライダーを用意した。あとは奴がパーティーの会場に来るのを待つだけだ。」



銀髪の青年は、最後に冷たい笑みを浮かべながら、『準備が無駄に終わる事を期待しているがな。』と付け加えた。



「ぼくの担当の世界は、一つは準備が終わっています。あと二つ残っていますけど、一つは贈り物(刺客)の準備だけで十分でしょうね。」



「分かった。それで、他の奴等はどうした?」



「他の世界で順調に準備中ですね。でも、ぼく達が直接戦うのはまだダメなんですか? 完全では無い今のディケイドなら、簡単に始末する事も出来ますよ。」



彼の言葉に黒衣の青年は頷き、



「今はその時じゃない。全ては終焉の時…ディターンの誕生…オレ達の野望…その為に必要な過程だ。…そして、オレ達が手出しできない『ネガの世界』についてもな。」



「…なるほど、ネガの世界…『あれ』の事か…。兎も角、中間報告は終わった。オレは仕事に戻る。」



そう告げた銀髪の青年は姿を消す。



「それでは、ぼくもこれで失礼します。」



笑顔の青年も姿を消し、後には黒衣の青年だけが残された。



「ディケイド…お前の地獄はここからが本当の始まりだ。クックックッ…フハハハハハッ!!!」



「馬鹿笑いしてないで、真面目に仕事に行って下さいよ。」



何故か戻ってきた笑顔の青年にそう突っ込まれる黒衣の青年であった。







世界の破壊者、仮面ライダーディケイド。十の世界を巡り…その瞳は何を見る?






仮面ライダーディケイド
~終焉を破壊する者~
第八話
『暗躍する者達/カブトの世界(ガタック編)』









僅かに時は戻り、勇宇が家に戻った時、



「ただいま~って、柴月…今日は連絡したんだけど…。」



「…勇宇、遅い…。」



自宅に帰った勇宇は例によって不機嫌オーラ全開の柴月に睨まれつつ、そう言いきられたのだった。



何処か何時も以上に不機嫌さ全開の彼女に謝りつつ、前回のラストに交わされた会話…カブトとガタック…二人の仮面ライダーと出会った事を説明する勇宇、



「……また、誰かが、仮面ライダーに勇宇を倒させようとしてる……?」



「うん。キバの世界の時の奏夜さんの仲間のイクサに、ファイズ世界の存在だったはずなのに、別の世界に現われた『ライオトルーパー』と『仮面ライダーカイザ』の様にね。」



そして、『今回は、ガタック…ぼくが力を得る相手(仮面ライダー)の中の一人だった。』と付け加えておく。



キバの世界で出会った人達と同じように、ガタックやカブトも自分の事を…ディケイドの事を『悪魔』と呼んでいた。もっとも、ガタックはディケイドの力を確かめる意味での戦いで、カブトは最初から敵意の欠片も無かったが。恐らく二人のライダー達も、キバの世界で聞いた『黒衣の青年』と接触したのだろうと言うのは、簡単に想像できる。



キバの世界では、話に出てきた『黒衣の青年』はキバである奏夜に直接接触するのではなく(接触できなかったと言う可能性もあるが)、S.E.E.Sの面々に接触していたと言うのに、今回はガタックと…まだカブトとの会話を交わした時に得られた情報から想像した範囲でしかないが、恐らくはカブトにも直接接触していたはずなのだ。



「…それで、どうするの…?」



「うん。もう一度、カブトとガタックに会ってみようと思う。…この世界でぼくがすべき事は未だ分かっていないしね。」



「…うん…。」



「…とは言っても、ガタックの方は素顔と学校の制服だけ…カブトの方は『龍牙』って言う名前だけだし…。」



『しかも、ガタックの方の制服に至ってはぼく達の学校のとは、デザインが全然違うし。』と付け加えておく。



『どうやって探すべきか』と考えてしまうが、そうとしか考えられない状況で有った。ワームと戦っている所に向かえば会えるのだが、悪い事にディケイドとキバの力しかない現状ではワームのクロック・アップに対する対抗策は限られて来る。



だが、その心配ははっきり言って無用の物だったと付け加えておく。何故なら…









翌日の放課後…



「ん? お前は昨日の悪魔さん(ディケイド)か?」



学校の玄関で行き成り龍牙にそう声を掛けられたのだった。



「…え、えーと…どちら様ですか? って言うか、ディケイドッテナンノコトデスカ?」



「…勇宇、台詞棒読み…。」



「え、えーと、ドウシテソノコトヲシッテラッシャルンデショウカ?」



「…いや、行き成りこんな風に声をかけたオレも悪いとは思うが…色んな意味で面白い奴だな。」(…こいつが世界を破壊する悪魔なんて、とてもじゃないが思えないな…。)



「…勇宇、落ち着いて…。…まずは、深呼吸…。」



柴月に言われて深呼吸を繰り返し落ち着くと勇宇は龍牙の方へと向き直る。



「え、えーと…どうしてぼくの事をディケイドって…まさか…。貴方が…。」



勇宇の言葉に龍牙は空…否、天を指差す。



「…自己紹介が遅れたな…オレは天の道を行く龍…『天道 龍牙』だ。」



((…変わった人(だな)…。))



その龍牙の特徴的な自己紹介に対して二人は内心そう思っていた。



「それで、お前達は。」



「あ、えーと…ぼくは『門矢 勇宇』で…。」



「…『社 柴月』…。」



「よろしくな、門矢。」



差し出された龍牙の右手に一瞬だけ躊躇するが直に握り返す。勇宇の後ろで柴月はそんな龍牙を警戒する様に睨みながら、勇宇の後ろに立ち彼の服を握るのだった。



「…随分と警戒されているな。」



「ま、まあ…悪い子じゃないんですけど…。それで…貴方が…。」



「…オレが、今のカブトだ。」



そう名乗った後龍牙はなにかを警戒する様に周囲を見廻し、



「…門矢…初対面の相手にこう言うのもなんだが…お前に頼みたい事が有る。それで…場所を変えた方がいいな…。」



「……はい……。」



龍牙にそう言われると、勇宇と柴月の二人は近くに有る公園へと足を運んで行く。そして、周囲を見廻して他に人気がない事を確認すると、龍牙はゆっくりと口を開く。



「…実は、オレと同じゼクターの資格者に『矢車』と言う人が居て、【ザビー】の資格者だったんだ…。」



「…だった?」



「……過去形……?」



「ああ。ZECTの中に有る不穏な動き、上層部の一部がワームと手を組んでいると言う情報を掴んでそれについての調査を行って居たんだが…。その事がZECT側にばれて、昨日、ザビーの資格者としての立場と部隊の指揮権を奪われたそうなんだ。」



色々と語られるZECTの内部事情。何故、そんな事を自分達に話すのかと言う疑問が勇宇達二人の中に浮かんでくる。



「それでお前達に頼みたい事と言うのは…お前達に協力を頼みたいんだ。」



「あの、ぼくのディケイドは今は未だクロック・アップには対抗できなくて、成体のワームには手も足も出ないんですけど…ぼくが協力した所で足手まといになるだけじゃ…。」



「…心配するな…。クロック・アップが出来様が出来なかろうが、矢車さんからの情報が正しかったら、この先クロック・アップはワームに独占されてしまう。」



「それってどう言う…。っ!?」



「話しの途中だって言うのに…お客さんか?」



そう言って勇宇と龍牙が振り返った先には成体のワームに率いられた数体のサナギ態のワームが存在していた。



「柴月、隠れてて。」



「…わかった…。」



紫月の方へと振り向き言った言葉に頷いて、柴月はその場を離れて行く。



「行くぞ!」



「OK!」



空高く振り上げられた龍牙の手の中にカブトゼクターが収まり、勇宇がディケイドライバーをベルト状態へと変えて腰に巻きつける。



「「変身!!!」」



叫んだ瞬間、腰のベルトにカブトゼクターを刺し込み、勇宇が取り出したカードをベルトへと刺し込む。







《HEN-SHINN》
-KAMENRAIDE! DECADE-


龍牙の体をマスクドフォームのカブトの装甲が、勇宇の体をディケイドのスーツが包み込む。






「キャスト・オフ!」



《CHAST OFF》






カブトの全身を包んでいたマスクドフォームの装甲が一斉に飛散する。そして、頭部左右に倒れていた『カブトホーン』が起立し、側頭部の定位置に収まり、電子音が響き渡る。






《Change Beetle》






マスクドフォームから軽やかなライダーフォームへと変化し、龍牙はワーム達へと視線を向ける。



「成体になったら助けるが、奴等を相手に対抗策を考えた方がいい。」



「分かりました。」



力を溜めている体制の成体ワームを睨みながら、カブトはディケイドへとそう告げるとベルトの腰に有るスタータースイッチを叩く。






《Cloock up》






同時に加速状態へと入るカブトと成体ワーム、それと同時にディケイドへと向かってくるサナギワーム達に対してソードモードのライドブッカーを構えて向かって行く。














カブトSIDE



「はぁ!」



カブトは逆手に持ったカブトクナイガンでのカウンターで成体ワームの体に次々と傷を着けて行く。



(…こいつら…妙にタイミングが良かったな…。…やっぱり、矢車さんが言っていたZECTの上層部と接触したワームに関係が有るのか?)



戦いながら警戒を浮かべ、そんな事を考えながらカブトクナイガンで切りつけて行く。



(考えるのは後か…。)



《One Two Three》



カブトゼクターのスイッチを順番に押していき、ゼクターホーンに振れ、ゼクターホーンを右から左へと送り、再び元の位置へと戻す。






「ライダー…キック。」
《Rider Kick》






カブトホーンから全身を流れたエネルギーが右足へと集中する。



「ハッ!」



己へと向かってくる成体ワームを迎え撃つように上段回し蹴りを打ち込み、その体を爆散させる。









ディケイドSIDE




-ATTACKRIDE! SLASH!―


前回戦った時の様に前回の戦いの時にサナギワーム達を倒したカードを使い、【V】の字を描く様に強化された斬撃で切りつける。



(先ずは一体…。)



その隙を逃さずニ体、三体とライドブッカーのソードモードによる斬撃で次々と切り裂いていく。最後の一体へと切り掛かろうとした時、サナギワームの体表が砕け散り、サナギ態から成体へと変化する。



「っ!? しまった!」



次の瞬間成体ワームの姿が消え、ディケイドの振り下ろしてたライドブッカーが地面を叩いた。次の瞬間、ディケイドの体が吹き飛ばされる。



「うわぁ!!!」



次に2度目、3度目の衝撃が次々とディケイドを襲って行く。そして、四度目の衝撃にディケイドの体が地面を転がった時、ワームのクロックアップが停止し、姿をあらわす。



(…相手は視認出来ない速度での高速移動…正面からは不利…だったら。)



そう判断し、ディケイドは森の中に入りそれを追い掛ける様に成体ワームも森の中に入っていく。



「…軌道を見せてもらうだけだ!」



足元には散った剥き出しの土の地面と木の葉が有り、それだけでは不充分と判断し、ワームの姿を確認した瞬間、ライドブッカーの中から一枚のカードを取りだし周囲の木々に手加減したパンチを打ち込み、木の葉を降らせる。それと同時にワームの姿が消える。







―FAINAL ATTACKRAID DE・DE・DE・DECADE!―





舞い散る木の葉と地面の土と木の葉がワームの動きをディケイドへと伝える。



「悪いけど…後ばかりだと、不意打ちも見え見えだよ!!!」



ディケイドが振り向いた瞬間に出現した黄色いカードのの幻影に激突したワームが動きを止める。それと同時に、ディケイドが向けたガンモードのライドブッカーの引き金を引く。



「ディメンション・ショット!!!」



ディケイドの撃ち出した弾丸が黄色いカードの郡を潜りながら、ディケイドの必殺技『ディメンションショット』がワームの体を粉砕する。



「…はぁ…やっぱり、クロック・アップは厄介だね。」



呼吸を整えながら他のワームが居ない事を確認して、ディケイドは森の中から出て行く。









SIDE OUT



「邪魔が入ったが、話を元に戻そう。」



先ほどの場所で勇宇、柴月、龍牙の三人が合流するとそう言って龍牙が会話を再開させる。その言葉に二人は頷く事で返事を返した。



「…本来はワームに対する対クロックアップシステム…【クロック・ダウンシステム】をZECTで開発されている。そのシステムが完成すれば、ワームとライダー双方のクロック・アップが失われるはずだった…。」



「だった?」



「…どう言う意味…?」



「…残念ながら、クロックダウンシステムは完全な失敗作だ。このシステムで封印できるクロックアップは、ライダーだけだ。当然、そんな百害有って一利無しな物は即破壊され、データだけが研究の為に残された。だけど…矢車さんの話しでは…ワームと接触した上層部によって持ち出された。」



「「!?」」



「矢車さんは…オレの仲間のライダーと一緒にワームの事を調べてもらっている。オレはそのデータを追ってデータを完全に抹消しなければならない…。オレ達、ライダーからクロック・アップが奪われる前に…な。…協力してもらえないか?」



次に続けられた龍牙の言葉に勇宇達は【YES】と答えるのだった。












亨夜SIDE



「…すっかり遅くなったな…。」



ZECTからの帰り道、亨夜はガタック専用の蒼いバイク『ガタックエクステンダー』を押しながら、丁度出雲学園の前を通りかかる。



「ん? や、七海ちゃん。」



「あっ、亨夜先輩。」



友人の少女…『水瀬 七海』の姿を見つけた亨夜は彼女に声をかけた。



「今帰りなんだ。部活も大変だね。」



「はい。先輩も今お帰りですか?」



ライダーの時の…ZECTの時の彼からは想像できない柔らかな表情と態度で交わされる会話。



「良かったら、途中まで送っていこうか? バイクなら直だし。」



「いえ、大丈夫です。それより、早く帰ってあげて下さい。美由紀ちゃん、何時も帰りが遅いって、怒ってましたよ。」



「あっ、あははは…最近、忙しくてさ。」



「はい。昨日も大活躍だったんですよね。」



ライダーとして戦う様になってから何処か離れている様にも感じた日常…そんな日常を作り上げる大切な一欠片である少女との会話が終わり、それぞれの帰り道に戻っていく。









『これが、約束のデータだ。』



『クロック・ダウンシステムのデータ…。間違いは無いようだな?』



『ああ、それがあれば君達ワームに対して、ライダーは無力化される。』



『…世界は我等の…そこにいるのは誰だ!?』



そんな会話を交わしていた二人の人物の内一人が振り返るが、それを目撃していた人影は逃げ出して行った。



「拙いぞ、今の話が聞かれていたら…。」



「その心配は無さそうだ。」



そこに落ちていた生徒手帳を拾い上げ、男は冷酷な笑みを浮かべる。



「…“ワーム”言う事など誰も信用はしない…。」



「ふふふ…なるほどな。」



男に差し出された生徒手帳に視線を向け、もう一人の男は笑いを浮かべた。






その生徒手帳に書かれていた名前…それは『水瀬 七海』だった…。
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