一章『怪盗と、アナザーライダーと、ナイトローグ』

武器は兎も角、ビルドの強化アイテムであるスパークリングとフルフルラビットタンクフルボトルは必要な成分を入手する方法がないため、事実上四季には作り出せない代物で有る。
パンドラパネルが必須なジーニアスボトルなどその最たる物だ。
つまり、

「制御出来ない強力な力は危険でしか無いからな」

手に入れたばかりのハザードトリガーは、現状、それを制御する方法が無いと言うわけで使わない事を決めた。
だが、せっかく手に入れたのだからと、ハザードトリガーを倉庫の一角に置き、念の為にいつでも扱えるようになってしておく。
次に専用の変身用のボトルは無いとは言え、現状最大の問題のエボルドライバーとエボルトリガーだが……

「このまま二度と見ないことを祈ろう」

変身用のボトルは通常のフルボトルで代用できるが、そう言って問答無用で金庫の中に押し込む。
変な物、主にエボルトとかその他のブラッド族の意思が宿ってても困るので問答無用での封印処置だ。

見つかったら問題はあるが、剣と弓に関してはいつでも使えるように倉庫内に置かれているのでそれは良いとして、

自分のビルドドライバーの隣に置かれたハザードトリガーについては、このままお蔵入りにするには強力なカードなのでいつでも使えるようにしておいた。

当面はチームではVSチェンジャーを、個人ではビルドドライバーで戦うつもりだが、使える手札はあって困る事は無い。
……流石に使えても宇宙戦艦は簡単に使う気は無いが。いくら何でも、宇宙戦艦持ち出すのは普通にオーバーキル過ぎる。当然ながら巨大なMSサイズのアメイジングストライクフリーダムの方は使えるかもしれないが。

そして、其れが目出度いかどうかは疑問だがイッセーが原作通り悪魔に転生したので、多少前倒しに物語が進んでいく程度で世界の流れは安全に進んでいくことだろう。
……超常的な力を扱うテロ組織なんて物が存在している時点で、其れが安全かどうかは別として。

(さて、エクスカリバーの一件までは全部イッセー達オカ研に丸投げで良いか)

レイナーレの一件はアーシア・アルジェントという少女の今後に関わる為あまり干渉する気は無く、|フェニックス家の三男《ライザー・フェニックス》との婚約については悪魔の貴族のお家騒動には完全に無関係なのだから、下手に首を突っ込まなければ巻き込まれる事は無いだろう。
精々することと言えば、後者の時に実験を兼ねて使い捨てのスクラッシュドライバーを貸す程度。飽くまで予定ではあるが、当面はその程度の動きだけの予定だ。
万が一の場合、街全体が危険に晒されるエクスカリバーの一件には関わらないと言う選択肢はない。

「まあ、オレ達と言う異物がある以上は本来の流れ通りには行かない、か」

四季達がルパンレンジャーとしてレイナーレの行動の邪魔をした事でイッセーが殺されず、その場で事情を聞いて本人の合意の上で悪魔に転生した事は良い例だ。
初恋の相手が碌でもない悪女で、その初めての彼女に殺されると言う最悪の初恋をしなかった事で物語が原作と言う流れよりも良い流れに乗れれば、この世界に紛れ込んだ異物である自分の価値も有るのではと思いたい。

「ん? よく考えたら、あの変態が女関係にトラウマ抱かないことで……。早まったか、オレ?」

一瞬変な方向に思考が向かってしまう。女関係にトラウマと言うほどではないにせよ、最悪の初恋がある程度今後イッセーの犯す性犯罪の抑止になっていたのではと思ってしまう。
外見は悪く無いだろうし、多少変態行為が収まれば、女子からの評価も上がりそうな物だが。

「ひ、否定できないのが辛い」

実はイッセーの成長、と言うほどではないにしろ、其れなりに大事なフラグを善意でへし折ってしまったような不安が集ってしまうのだった。

「ま、まあ、それはそれとして……」

詩乃と雫の二人と別行動して倉庫に一人で居るのには訳もある。
思考の中に浮かんだ不安を振り払うように、その訳とも言うべきそれへと視線を向ける。

いつの間にか倉庫の片隅に出来た小部屋に存在していた小型の装置だが、起動していないそれの機能はシンフォギアXDに出て来る完全聖遺物ギャラルフォルンと近い性質、機能を持って居るのが分かった。

(異世界への移動装置は良いとして、行ける世界が)



・ソードアートオンライン
・魔法科高校の劣等生



自分と関わった二人の存在している、若しくは存在していたであろう世界の名前だけがリストに浮かんでいる。
そして、それを送った張本人であろうものからのメッセージ。

(それぞれの世界でBADENDを迎えた選定事象で命を落とした彼女達本人の転生したのが今の二人、か)

詩乃の方はその原因には、すぐに見当がつくが、実は雫の方は中々想像が出来ない。
ガチャから出て来るのは本来の世界での選定事象となる終わりを迎えた世界で死んだ者達の転生した者。だが同時にそこには元の世界に幾つかの未練を残している。
この装置は未練を残した世界に於いて残された未練を解決するための品物らしい。

(彼女たちの生きた世界を救う為の、ヒーローの出張サービスって所か?)

BADENDを迎えた世界を少しは良い方向に持って行くためのヒーローの出張サービス。ヒーロー……仮面ライダーとスーパー戦隊に変身できるのだからそれでも間違いはないだろうが。
持って行けるかは別として、向こうでの拠点と考えるとナデシコCの存在はありがたいのかもしれない。

「まあ、直ぐに何か起こるって訳でも無さそうだし、暫くは保留か」

関係者がいないと起動できないかもしれないが、それはそれ。正式にそれが起動しない以上は考えても仕方ないだろう。

ハザードレベル上昇のスキルについては完全に放置だ。自分のハザードレベルがいくつかは分からないが、ビルドドライバーは問題なく使えるのだから、今の所は問題無いだろう。……ハザードトリガーを使う時には不安だが、フルフルラビットタンクフルボトルが無いのなら、危険なのは大して変わらないだろう。

当面の目的であるレイナーレ一味への対処として影で動くとしても、全面的に放置するにしても、イッセーの成長フラグを潰すのは今後のことを考えるとどうかと思い、暫くは裏方として動こうと考える。

そう考えをまとめ、この時点で町一つなら制圧できそうな代物が多々有る武器庫を閉めて部屋の中から立ち去っていく。









四季が手に入れたエボルドライバーセットの扱いに頭を悩ませていた頃、イッセーが契約で向かった先の家ではぐれエクソシストと遭遇したと言う事件が起こっていた事を追記しておく。










「えーと、これは?」

イッセーがはぐれエクソシストと遭遇していた夜、四季は詩乃がテーブルの上に置いた3枚のチケットに視線を落としていた。

「ええ、買い物に行ったら貰ったんだけど」

詩乃曰く、買い物に行ったら福引をやっていて、丁度一回分出来たのでやってみたら、その景品として貰ったそうだ。

ちょうど三人分の食事券、かなり高級なレストランの物だ。だが、問題はその店が有る地名で有る。



『米花町』



とあった。一年の間に何度も殺人事件が起こるとネタにされている名探偵コナンの舞台で有る。
考えてみれば自分達がいる世界はハイスクールD×Dの世界とは思っていたし、実際にその通りに起こっているが、他の世界の要素が混ざっていないとは限らない。

「まあ良いか」

人間相手なら問題無いだろうと考えてスルーする。やろうと思えば銃弾を素手で掴むことも出来るのだし。
ビルの爆破は春の風物詩、犯罪が横行し人が死に、ほぼ数日で殺人事件の犯人を逮捕できる警察の最精鋭部隊がいる日本の犯罪都市(ギャグ的なイメージで)、米花町。

怪物がいないだけで下手な仮面ライダーの舞台並みの危険地帯である。
場合によっては風都と危険度は良い勝負だ。……ドーパントが居ないだけの差で。

風都よりはマシだが、米花町にある高級レストランの食事券、どう見ても殺人事件の招待状にしか見えない。
風都タワーのイベントに行って蟹のドーパントと戦う二人の仮面ライダーに加勢する方がまだ安全かもしれない。
まあ食事券に期限は書いてないので、すぐに行かなければ安全だろう。

「今回の事件が終わったら三人で行こうか」

「ええ」

「うん」

まあ、それはそれで嫌な予感もするが、事件に巻き込まれたら、最悪ルパンレンジャーなり仮面ライダービルドなりに変身して問答無用でボコボコにして犯人を捕まえれば良い。
そんな事を考えていた。そう、全力全開の力技である。




まあ、この判断が後に一騒動の原因となるのだが、この時の三人には知る由もなかった。

***

入手したアイテムとスキルの分配が行われた後、四季たちにとっては何事も無く数日が過ぎた。

その間にイッセー達にはイッセーが契約者の所に向かった際にはぐれエクソシストに遭遇したり、アーシアと再会したり、アーシアが悪魔に転生したりとそれなりに濃厚な日々を過ごしていた様子だった。

なお、自分の邪魔をして散々コケにしてくれた三人組、四季達の変身したルパンレンジャーに一矢報いる事なく、|赤龍帝の籠手《ブーステッド・ギア》が覚醒したイッセーに吹き飛ばされ、リアスの滅びの魔力によって消滅させられた最後は無念であった様子だ。

そんな平和な日々が続く中、四季は妙な噂が気になっていた。


『正体不明のコウモリ男』


と言う噂だ。
夜な夜な町を飛び回るコウモリのような翼を着けた男がいる。近くでその顔を見た時、暗くてよく見えなかったが顔が羽根を広げた蝙蝠の様に黄色く輝いていたと言う噂だ。
最近流れ始めた噂だが、妙にその特徴が一つの、自分の持つ力と関わりのあるヴィランをイメージさせる。それは、


『ナイトローグ』


だ。トランスチームガンもバットロストボトルも無いので、ナイトローグだったとしても自分の所からの流出ではない事は確かだったが、妙に引っかかるものを覚えた。

(仮面ライダービルドはこの世界には、本物も特撮も存在していないはずなのに)

と言う疑問だった。そんな疑問も抱くのも当然だろう。
バットフルボトルは手持ちにも存在しているが、飽くまでそれはベストマッチ用のフルボトルで、成分は同じなのでトランスチームガンで使えば変身することも可能だろう。
だが、それだけだ。手元にあるフルボトルの有無は確認済みであるし、肝心の変身アイテムであるトランスチームガンは存在していないし、作った覚えもない。
故に、この世界にはナイトローグが四季と関係なく誕生する事などあり得ない筈なのだ。

そんな訳で、今の段階では単にナイトローグに似ているだけのコスプレした悪魔という可能性もあるので、今はまだ放置しておく事を決めた。

もうすぐ調べるには丁度良い、グレモリー眷属が町を離れる時期が来てくれているのだから。
ナイトローグ(仮)の調査はその時期に合わせて行おうと考える。最悪の場合には危険な賭けだが、非常手段のハザードトリガーもある。























それから数日後、イッセー達オカ研メンバーが学園を休み始めた。
こっそりとイッセーにつけておいた蜘蛛型の監視メカでオカ研の情報は仕入れていたので四季の予想通り、原作通りに事態は動いてくれていると言って良いだろう。

なお、実は蜘蛛型監視メカに着いては意外と簡単に作ることが出来た。流石は天才物理学者の能力、と言ったところだろう。武器製造だけでなく自力でガジェットを作れると言うのは有り難かった。一定時間の録画、録音を行なった後に帰ってくる簡単なものだが、逆に気付かれ難いだろう。

会話の内容によれば、オカ研の部室にリアスの婚約者の『ライザー・フェニックス』が現れ、リアスの兄の女王が持ってきた両家からの提案により、リアスの婚約解消を賭けたレーディングゲームの開催が10日後決まったのだが、

「ねえ、悪魔の流行って何年も続くの?」

「普通に人間並みとは思うけど、怠惰も悪魔の性質らしいからな」

「じゃあ、その分流行も長続きするのかも」

リアスの大学卒業まで結婚しないと言うのに、何年も前から式場やドレスを選んでどうするのかと思う三人であった。

特に結婚式に於いて主役となる女性である詩乃と雫にしてみれば、そんなに早くドレスを決めても結婚式をあげる頃には既に時代遅れになっていると言う意見だ。

「まあ、今も貴族制が続いていて、悪魔の駒の問題点の改善や、それに対する最低限の法改正もしない連中だ、人間の1日が連中の一年なんだろ」

四季のその一言で納得する二人だった。











リアスの婚約解消を賭けたレーディングゲームの開催が決まった翌日。猶予期間の十日間の間、グレモリー家所有の人間界の山の中で特訓が行なわれる事となった。

非公式とは言え多くの魔王を始め貴族が観戦する中でのデビュー戦。
しかも、相手は高い勝率を持ち間違い無く未経験者のデビュー戦には相応しくないカードだ。
練習試合でも無く、リアスの結婚を賭けた試合だが、同時に勝利した場合に得る物は大きい。
格上の相手に対して騎士と戦車の二つも無く、僧侶の眷属も新たに入ったアーシア以外のもう一人は封印されていると言うハンデ戦。不利に不利を重ねた悪条件による試合だが、勝利できたのならリアスの夢への大きな第一歩となる。

それだけではない。魔王や貴族達からの賞賛と大きな評価と期待。まだ下級の彼女の眷属達の昇級の機会に、それに伴うそれぞれの望みを叶える機会を掴む可能性を得られる。

己のためだけで無く、眷属達の願いや望みのためにも負けられないと告げるリアス。特に、上級悪魔になり、自分の眷属を持つ事でハーレム王になると言う夢を持つイッセーは、

「って事は、このゲームに勝てば部長の結婚が無くなるだけじゃ無くて、オレが長年夢見た『ハーレム王』になるって言う願いにも近づけるんですね!?」

「ええ、その通りよイッセー。眷属の願いが叶うのは主人である私も望んでる事なの」

神を殺す可能性を秘めた力を持つイッセー。彼が今回のゲームにおける切り札となり得る存在だ。
神器は持つ者の想いによって力を発揮する。イッセーが強く勝利を望むのならば、レイナーレの時のように大きな力を発揮する事が出来るかもしれない。
神を殺す|滅神具《ロンギヌス》の一角は数で負けているリアス達にとって最強の切り札となる。だからこそ、より強く勝利を望むであろう言葉を告げる。

「もし、貴方が今回のゲームで功績を残せたら……貴方のお願いを何でも叶えてあげるわ」

「な、なんでも? なんでもっすか!? い、よっしゃぁあっ! だったら尚のこと、あんなイケすかねえ金髪ホスト野郎に、部長を渡すわけにはいかねぇ!!! リアス部長、オレ、やって見せます! 今回のレーディングゲーム、部長の為に必ず勝って見せます!!!」

隣で可愛く膨れてるアーシアを他所にリアスからの発破に一人やる気を燃え上がらせていた。
リアス自身も勝てたとしたら一番活躍するのはイッセーだと思っているので彼の活躍を心から期待している。

(オレが勝ったら詩乃ちゃんや雫ちゃんも眷属に加えて貰って、オレが眷属を持てるようになったらアーシアと一緒に交換して貰えば……)

自分が眷属を持てるようになればハーレムに加わって貰いたいと思ってた二人が同僚になった時の事を妄想している様子のイッセー。

(それだけじゃない、先輩悪魔として、手取り足取り、あんな事とかそんな事とかも出来るかも……。よっしゃ! あのホスト野郎だけじゃねえ! 四季の野郎にも絶対に負けられねえぜ!!)

その時のことを妄想しながらイッセーがグヘヘと笑っていた時、二人は寒気を感じていた。




















さて、グレモリー眷属の居ない駒王町ではもう一つの事件が起こって居た。

「がっ!」

「君達の百害しかない夢では無く、僕等の為にその命を使ってもらいましょうか」

廃墟に倒れる、この町にいるもう一人の魔王の妹であるソーナ・シトリーの兵士『匙 元士郎』の胸を踏みつける、噂の蝙蝠の怪人ナイトローグ。
蝙蝠の仮面の奥で怒りとも憎悪とも取れる感情を抱きながら冷酷に言葉を告げる。

「精々僕等の手駒として僕等の望む未来の為に活躍してください」


『リュウガ』


禍々しい声がナイトローグの取り出した時計のようなものが響くと、ナイトローグはそれを匙へと向けて落とす。

彼の中に消えて行ったそれはゆっくりと彼を変える。

「君は今日から、紛い物の仮面ライダー……リュウガです」

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

アナザーライダーリュウガへと。








***








ライザーとのレーティングゲームに向けて、山籠りに行ったイッセー達の特訓については放置する一方で、四季はナイトローグ(仮)に対する調査で動き回って居た。

現在は町の管理はソーナ・シトリーが行なっているそうなので気をつける事には変わりないが、それでも以前よりは動きやすくなっている。

(それにしても、何でナイトローグなんだ?)

そんな疑問が沸く。トランスチームガンの他にもネビュラスチームガンが存在し、二つのスチームガンにはナイトローグの他にもブラッドスタークにブロスシリーズとカイザーシリーズが存在している。
元々トランスチームガンがネビュラスチームガンを元に開発されたものと考えれば、パワーアップの余地のあるカイザーやその発展系のブロスの方を選択することも出来たはずだ。
単純に技術的に其処まで行ってないだけかも知れないが、それでも……。

(まあ、コウモリ男を捕まえてから聞けば良いか)

己の中の疑問にそう決着をつけ、意識をナイトローグを探す方へと向ける。
















「ちわー、契約に参りましたー」

とある廃墟に契約のチラシから呼び出されたのは、ソーナの眷属である『匙 元士郎』。
呼び出された場所の不気味さに身震いするも、自分を呼んだであろう契約者に声を掛ける。

「た、助けて!」

そんな彼の言葉に答えるように一人の青年が助けを求めながら、廃墟の中から飛び出してくる。

「ちょっ、一体何があったんですか!?」

「わ、分からない、友達と一緒に肝試しに来て……」

己とそれ程変わらないであろう年齢の青年が言うには、友人達と一緒に肝試しに廃墟に来て、その余興に契約のチラシを使って悪魔を呼び出そうとしたらしい。だが、その最中に怪人が現れて彼らを襲ったそうだ。

「分かりました、あなたはここに居てください」

そう言って青年をその場に残し、カメレオンのオモチャを思わせる自身の神器を出現させ廃墟の中に入り込む。

町に入り込んだはぐれ悪魔かと考え、自分一人では拙いかと主人であるソーナにも連絡を入れ、応援を頼んだ時、ゆっくりと廃墟の中の光景を視界に入れる。

「あれ?」

廃墟の中には誰も居なかった。襲われたと言う人達も、現れたと言う怪物も、だ。

思わず惚けてしまいそうになりながらも周囲を注意しながら廃墟の中に入るが、拍子抜けするほど何も無い。
思わず先ほど自分に助けを求めた青年の方を向いて、すっかり警戒を解いた様子で問いかける。

「あの、だれも居ませんけど」

「そんな事はない」

匙の問いに青年はボトルの様なものを振りながら取り出した銃にそれを装填する。


『バット!』


「その怪物なら、ここに居るのだからね」

青年は眼鏡を上げながら引き金を引く。

「蒸血」


『ミストマッチ!』
『バット・バッ・バット… ファイヤー!』


青年は、その姿を異形のダークヒーローへと変える。

「な、何なんだよ、あんたは!?」

「初めまして、匙元士郎君。ぼくは、ナイトローグ。そう名乗っておきましょう。今は、ね」

青年……否、ナイトローグの言葉に疑問を抱く事なく目の前の相手の放つ威圧感に声も出なくなってしまう。

「ふっ!」

「がっ!」

一瞬で距離を詰めたナイトローグの拳が匙の下腹部に突き刺さり、焼けた鉄を飲まされた様な痛みと嘔吐感に言葉を失う。

「この程度ですか」

黄色く輝くバイザーを通して膝をつく匙を見下ろしながら、ナイトローグは呆れた様に呟く。
先ほどまでは明らかに荒事、喧嘩とさえ無縁そうな青年だったとは思えないほどの拳。

(こ、この、野郎……。見てろ……)

油断して居るであろうナイトローグの死角から自身の神器である『|黒い龍脈《アブソーション・ライン》』を伸ばす。
相手に巻きつけ力を奪う己の神器の力なら油断して居る相手になら通用するはずと、反撃の機会を伺う匙だが。

「がぁ!」

それよりも先に、ナイトローグは彼の神器ごと手を踏み砕く様に匙の手に足を踏み下ろし踏み躙る。

「油断して居ると思いましたか? 君の|神器《セイクリッド・ギア》は|黒い龍脈《アブソーション・ライン》。通常のロープとしても扱え、最大の特徴は相手を拘束し力を奪うテクニックタイプの神器。現状では、ぼくに突き刺して血液でも奪えば貧血で戦闘不能にする事も出来る、使い方によっては、格上相手にも通用する危険な武器」

神器ごと踏みにじる足に力を込めて更に言葉を続けていく。

「ある意味においては、バカ正直に正面からしか戦えない、脳筋な二天龍の神器よりも強力と言えるでしょうね」

スラスラと自分の持って居る神器の事を、自分には思いつかなかった応用的な使い方も交えて話して行くナイトローグに、匙は得体の知れない不気味さを覚える。

「成長すれば赤龍帝と白龍皇の能力の一部の合わせ技の様な使い方も出来るでしょうね。今の時点ではできない事ですが」

そこまで話すと思い切り匙の腹を蹴り上げて地面に倒すと、そのまま動かない様に胸の部分を踏みつけて動きを止める。

手際の良い痛めつけ方に咳込む匙を一瞥すると、

「な、何なんだよ、お前は?」

「聞けば何でも答えてくれるとでも? ぼくは君の母親では有りませんよ。まあ、特別に答えて上げましょう」

彼の言葉にそう答えた後、『知られた所で困る事は有りませんし』と呟き、一呼吸起き、

「|禍の団《カオス・ブリゲート》、改変派の一人、ナイトローグ。それ以上でも以下でも有りませんよ。今は、ね」

そう言うと何処からか時計の様なものを取り出し、それを匙へと向ける。

「本当に、君と君の主人の夢は害しかない」

「て、テメェ!」

突然のナイトローグの呟きに匙が激昂するが当のナイトローグは言葉を続けていく。

「だから、そんな百害しかない夢では無く、この先君が無駄に削る事になる命を、ぼく達のために使ってもらいましょう」

そう呟いたナイトローグは手の中にある時計の様なもののスイッチを押す。



『リュウガ』



禍々しい声が時計から響くとナイトローグはそれを匙へと向かって落とす。
匙へと向かって落とされたそれは彼の中へと消えて行く。

「がぁ! ああああああああああああああああああああああああああああぁ!」

全身が何かに作り変えられる不快感に絶叫を上げる匙。

「オ、オレに何をした!?」

「喜びなさい。今日から君はただの転生悪魔ではなく、紛い物の、仮面ライダーリュウガです」

匙の言葉を無視して嘲笑する様な口調でそう告げると、蹴り飛ばす様に匙の体を遠ざける。

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

絶叫と共に立ち上がった匙はその姿を黒い龍の意匠を持った怪人《アナザーライダーリュウガ》へとその姿を変えていた。

「まあ、所詮は紛い物、本物はおろか|原典《オリジナル》のアナザーリュウガ以下の性能しかないでしょうが、仮面ライダーリュウガも仮面ライダー龍騎もいないこの世界なら、その程度でも十分でしょうね」

(オ、オレに何をしやがった!?)

自由に動かせない怪物へと変わった体、その中で唯一自由になる意識の中でナイトローグへと絶叫する。

「さて、アナザーリュウガ、君にはぼくの手駒として動いてもらいます。彼らでも君は止められないと思いますが」

ナイトローグが言葉を続けようとした瞬間、シルクハットの様なマークが描かれた一枚の真っ赤なカードが投げつけられる。

「っ!?」

「そこまでだ!」

次の瞬間、ナイトローグの目の前でカードが爆発し赤い煙幕がナイトローグの視界を奪う。次の瞬間、赤い怪盗衣装に身を包んだ四季がナイトローグの前に現れる。

「まさか、本当にナイトローグがいるなんてな。しかも、ナイトローグがアナザーライダーまで作るなんて、予想外すぎるだろう」

内心で、そこはスマッシュにしとけと言うツッコミを入れながら正体隠蔽用の仮面の奥からナイトローグとアナザーリュウガ を睨みつける。

「此れは此れは、中々に奇術めいたアイテムを開発した様子ですね。それにしても、お早いお着きですね、快盗さん。それとも、仮面ライダービルドと、お呼びした方が宜しいですか?」

「好きに呼べ。そんな事より、なんでお前はナイトローグの力を使って、アナザーライダーを作れる?」

目の前にいる相手は自分の同類なのかと言う疑問が沸く。だが、

「いえ、ぼくは貴方の同類では有りませんよ」

そんな四季の考えを読んだ様に、ナイトローグは四季の問いに返答してみせる。
だとしたら、余計に疑問は深まる。何故ナイトローグの力を使えるのか? 何故アナザーライダーを作り出せるのか? と。

「さて、ビルドのシステムを考えると万が一のことが有りますからね。アナザーリュウガ !」

ナイトローグが指示を出すとアナザーリュウガは廃工場の中の鏡へと走り出す。

「っ!? 待て!」

「そうはさせませんよ」

その行動の意味を理解していた四季はビルドドライバーを装着して、アナザーリュウガを止めようとするが、それを妨害するため、ナイトローグは四季の足元へと向けてトランスチームガンを撃つ。

「っ!?」

ナイトローグの思惑通り、足元への銃撃に四季は思わず足を止めてしまう。

「まずい!」

その一瞬の隙にナイトローグの指示に従ったアナザーリュウガは鏡へと飛び込む。いや、鏡を介して己のホームグラウンドであるミラーワールドへと姿を消していった。

「安心してください、彼もアナザーリュウガである内はミラーモンスターと同様にミラーワールドで無制限での活動は可能です」

何も安心できはしないが、匙が変身したアナザーリュウガも、ミラーワールドの性質で消滅することはないと告げるナイトローグ。

「さて、ぼくも貴方と敵対する理由はないので、この辺で退かせて貰いたいのですが」

「させると思うか?」

両手にラビットとタンクのフルボトルを持ってビルドに変身しようとする四季だが、ナイトローグはそんな彼に構わず言葉を続ける。

「ああ、実は彼は先ほどぼくが彼を誘き寄せる為の嘘で、彼ははぐれ悪魔がいると推測して、主人達に応援を頼んだ様子ですよ」

そう告げながら『くっくく』と笑いながら、

「中々、自分の実力や能力を、冷静に判断できているとは思いませんか? 先ずは、味方からの応援を要請すると言う判断は」

「それで、ソーナ・シトリーとその眷属が来るから、悪魔側に接触したくないオレにとって、お前と戦ったら損だとでも言いたいのか?」

「そう言うことです。それに長々と話していたおかげで、既に時間切れの様子です」

ナイトローグと四季が言葉を交わしている間にシトリーの魔法陣が現れる。

「どうしますか?」

「良いだろう。次に会った時は容赦しない」

「貴方の賢明な判断に感謝します、天地四季さん」

名前まで知っている時点で本当に、ナイトローグは何者なのかと疑問に思う。
間違いなく原典のナイトローグとは別の何者か。それだけは先ほどの接触で分かったが、情報はそれだけだ。

四季に背を向けて無防備に立ち去っていくナイトローグを一瞥すると、蜘蛛型監視メカを一つ魔法陣の近くに投げて四季もまた廃工場を後にする。

「匙!」

ソーナの声と共に、ナイトローグと四季の二人が去った後の廃工場にソーナとその眷属達が現れるが、そこには争った形跡は有ったものの誰の姿も無かった。
匙の無事は確認されないもののはぐれ悪魔が存在した形跡もない為、しばらくの間匙は行方不明とされる事になる。

これが四季とナイトローグ達との初会合だった。
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