第三章『動き出す闇』

「「「「はぁ……」」」」

四季達の駒王学園内での活動拠点である軽音部の部室。
その場で四季達四人が揃って溜息を吐く。見事に三勢力から目をつけられていると言う現実は分かっていたが、改めて見ると鬱陶しいものがある。

「それでどうするのよ、四季?」

「どうしたも何も……先ず、こっちの技術を渡すなんてのは論外だな」

実際、あのフルボトルもそれが目的で渡された可能性もある。若しくは悪魔側の研究では限界があるので、別口のアプローチの方法として、此方を利用しようと考えたか。
どちらにしても、現在はクローズマグマナックルの設計も終わっているので、後は作るだけなのだが、それが有るので制作には当たらないのが現状だ。そう考えると悪魔側の思惑は大当たりしてしまっている、と言えるだろう。

四季としては新規に作る気は無いがシンフォギアの事も、クリスのイチイバルの整備の為に材料さえ揃えば新造できる程度には理解している。

道具の利点は簡単に扱えて、代わりはいくらでもある事だが、強力な代わりに簡単に扱えず扱える者も限られ、基本ワンオフなのかライダーシステムとシンフォギア。渡した所で新造できるとは思えないが警戒はしておくべきだろう。

そもそも、魔王達ならまだしも、それより立場が低いはずなのに実権を握っている無駄にプライドの高い老人達の存在も面倒極まりない。

聖剣計画と言う悪い前例を鑑みれば天界に渡すなど論外である。一歩間違えてこちらの世界でメタルビルドモドキの量産などされてしまったら、本当に仮面ライダービルドの世界に行って桐生戦兎に土下座で謝りたい。
更に天界にシンフォギア等もっと拙い。最悪の場合は立花響の様な聖遺物を移植された人間が大量に生まれる危険もある。

堕天使は技術者気質な分アザゼルとは気が合いそうだが、ワキが甘い点を考えると傘下に入るのは考えた方がいい。そこから技術が流れたら拙いのだし。

「当面、聖書勢力との距離感は現状のままって言うのが今後の活動方針だけど、異論は?」

四季の言葉に全員から無言の返事が返ってくる。それが肯定の意思で有ることは間違いない。

内心、授業参観の序でに公務の下見をするなと言いたくなるが、カモフラージュの面から見れば、極秘に動くためならば、それも十分に納得できる。
……特に魔王の中でも|妹命《シスコン》と名高いサーゼクスとセラフォルーならば公務ほっぽり出して妹の授業参観に参加したとしても、誰もが、テロリストさえ納得するレベルだろう。

笑えない話だが、今回の動きを考えると極秘裏に三大勢力の和平交渉を行うならば、この二人の立ち位置の内政と外交の担当という事も合わせて良い人材だろう。

(そこまで考えての行動なのか?)

迷惑な話ではあるが、中立の人間界を会談の場に選ぶのも間違いでは無い。……と言うよりも、和平会談に天界や冥界と言う敵地に呼び出されて出向く馬鹿は居ない。側から見ればどう考えても呼んだ側が上の立場に見える。
冥界は堕天使と悪魔の領地であり、天界は天使の領地、どちらにしても中立の土地ではない。悪魔と堕天使ならば冥界の中立地帯を選ぶ事もできるが、天使の関わってくると矢張り最適な場所は人間界以外にはない。

そんな訳で四季の意見としては私情を抜きにしても、租借地だろうが人間界を選ぶのは、中立地帯を選ぶと言う意味でも間違ってない。

「別に和平については勝手に話し合ってくれって感じだから、オレ達は不干渉って行きたいところだけどな……」

「目は付けられてるわね、私達」

詩乃の言葉は全員同意見なのだろう、四人揃って溜息を吐く。

現状、全員が全員三大勢力に目を付けられてしまっている。
四人の純粋な戦闘力だけで無く、雫の癒しの力にクリスのシンフォギアと狙われる理由は事欠かない。現状優秀なだけの弓使いの詩乃、戦士としても優秀な技術者の四季はやや落ちると言う所か?
四季の黄竜の器の力が知られて居ないのは幸いと言っていいだろう。

だが、単独でコカビエルと戦えるだけの戦力を持った者達がフリーで居るのだ。三大勢力としては無視出来る訳がない。

「実際、和平の後は何処の勢力がオレ達を取り込むかを話し合いそうだけどな」

「それもありえそうだな」

四季の言葉に同意するのはクリス。後ろ楯が無いと言うのが四季達の弱点とも言える。

特にテロ組織の存在も考えれば、四季達の戦力がテロ組織に渡る前に自分達の味方に取り込みたいと考えるのも頷けるだろう。……納得する気は無いが。

「まあ、和平も問題なく結ばれるだろうし、それはそれで問題だな」

どう考えても天使も悪魔も堕天使も、互いの敵対勢力に対して憎悪は残って居るのだ。憎悪の残る戦争を知る世代すら生きて居る現状で和平は無い。
特に天使の派閥はエクソシストという形で対悪魔・堕天使の兵隊を生産して居るのに、今更『これからは仲良くするから悪魔を討っちゃいけません』と言われて、『はい、分かりました』とは行かないだろう。
今まで仲間を殺されたりした者達、家族を悪魔や堕天使に殺されてエクソシストとなった者達。そんな者達はほぼ間違いなくそんな命令出されたら離反してテロリストに合流するだろう。
主に天使側をピックアップしたが、堕天使や悪魔にも和平など納得出来ないという者達も居る。そして、そう言う者達の行き着く先はテロリストだ。現政権を潰して自分達がトップに立った後は再び戦争を、と言ったところだとは思うが、寧ろ一つの目的のためにそこまで仲良くできるのならば、和平に賛同しても良いだろうとも思う。

これから禍の団との戦いになって行くだろうが、聖書勢力としては、当然ながらフリーの高い戦闘力の集団を取り込もうとするだろう。

「それを考えるとオレ達も後ろ盾が欲しいな」

「同感だな」

「そうよね」

「うん」

四季の言葉に全員が同意する。そろそろ何処かの勢力の後ろ楯が必要な時期が近づいてきて居る。
この世界には拳武館もS.O.N.Gも四葉家も無いのだから。

「何より連中の指揮下に組み込まれるのは御免だしな」

対禍の団で共闘するにしても最低限独立勢力としての立場だけは確保しておきたい。

主にコカビエル戦の後だと言うのに危機感の薄いグレモリー眷属とかの指揮下に入れられるのは御免だ。まだソーナ会長達の方が信頼出来る。

ギャスパーの特訓は良いが、少なくとも街が一つ消えるような戦いがあったと言うのに、イッセーが自分を鍛えて居る様子がないのには四季とクリスは呆れて居る。

原作と言う形でこの世界の事を見て居た頃は単に省略されて居たと言う見解も出来たが、導く者がいないとは言え白龍皇と言う自分の何歩も先を歩いて居るライバルを前にしても自分もいずれ戦うべき運命にある相手に追いつこうと言う努力の痕跡が見えない。
運動部の延長の程度の特訓では、禁手に至るのには年単位が掛かれば良い方だろう。
禁手に至る為に乗り越えるべき最初の壁にさえたどり着けないのではないかと。
……そう考えるとアザゼルの考えたドラゴン相手の命掛けの鬼ごっこは精神面での効果は高かったのだろうか。

「どう見ます、クリス先輩?」

「いや、あれじゃダメだろう」

神器と似た面のあるシンフォギアの奏者で命賭けの戦いを前提とした訓練の経験があるクリスからのダメ出しを聞いて改めて思う。
『なるべく早く後ろ盾を得よう』
と。

そうなると現状、早々に接触出来る後ろ盾になりそうな勢力の心当たりは一つ。

「向こうから話し合いたいって言って来てくれたんだ。向こうの鑑定評価額を見せて貰うか」

呼び出されてしまったが今回ばかりは相手が違う。

「日本神話のトップからのオファーなら、な」

聖書勢力への監査官として日本神話の代行として四季達を雇いたいと言う依頼だ。

現状、悪魔側の租借地となっている駒王町には日本神話からの監視役となる者が駒王学園の教師として在籍しているが、それはソーナ達しか知らない。
グレモリー眷属には監視役とソーナの話し合いで知らさない事となった。主に朱乃が原因で、だ。

日本神話の下位組織としての役割を持った退魔の一族に母親を殺された事でその上位に当たる日本神話も嫌悪しているそうだ。
さっさと父親が奥さんを堕天使領にでも呼ぶなりすれば良かったとしか言えないのだが、それは向こうにも準備が有ったのだろう。娘さんが生まれるまで掛かったのは問題だが、そこは責める気は無い。組織の幹部が他所の勢力の両家の娘を、など手間の一つや二つはかかるのは分かる。

そんな訳で、プライドやら友人である眷属の女王が嫌っている事から反発が有るであろう事からリアスには伝えなかったそうだ。

実際に監視役も相応の実力者だが、問題の多すぎるリアス達の行動に対する監視役となって欲しいとのこと。
なお、職務の期間は飽くまでリアス・グレモリーが駒王町にいる間のみなので夏休み等で冥界に帰っている間は此方も休みとなる。

主にフェニックス家との婚約破棄の為のゲームの特訓のために職務放棄して十日間合宿したり、とか。

また、それとは別口で駒王に入り込むはぐれ悪魔退治も日本神話からの依頼という形で行う事が出来る。

そして、極論を述べてしまうと、日本神話としても悪魔に取られた土地を取る返す口実が欲しいそうだ。

「そんな訳で聖書側からの干渉を防ぐ為にも、条件次第なら今回の会談終了までは受けても良いと思ってる」

全ては相手とあってからだが、向こうからの招待を受けたのだから、受けないと言う選択肢は無い。

(まったく、悩むのは詩乃の事だけで十分だって言うのに)

剪定事象の中で一度死んだ身の上だが、詩乃の好感度は転生前の自分が植え付けた物。
四季自身彼女の事は好きだが、それを考えると仲間と言うラインからどうしても一歩前に踏み出せない。
自分は本当の彼女の意思では好きになって貰っていないのだ。転生前の自分も裏切られない為の保険のつもりだったのだろうが、そんな洗脳の様な形で植え付けられた好意等、今の四季としては悩みの種でしか無い。




















三大勢力の会談の当日。結界を張られた駒王学園を中心に、三つの勢力の者たちがその上空に集まっていた。

コウモリの翼を生やした悪魔、
純白の翼を持つ天使、
漆黒の翼の堕天使、

と三勢力の軍勢が完全武装の元睨み合っていた。
まさに一触即発と言った空気の中、会談が始まろうとしていた。

「失礼します」

白龍皇のヴァーリを護衛として連れた堕天使の総督アザゼル。
護衛なのか女性の天使を連れた天使の長ミカエル。
妹であるソーナを後ろに従えた魔王セラフォルー・レヴィアタンと己の眷属の女王であるグレイフィアを従えた魔王サーゼクス・ルシファー。
そんな各々の組織のトップが揃う部屋の中へ、リアスはそう言って入ってくる。
…………普通一組織のトップが四人も揃った場に、うち二人は自分の所の組織のトップなのに彼等より後から入って来るのはどうかと思うが、それぞれの護衛が一人だけと言う点から、今回の一件の証言者とはいえ、悪魔側だけ大人数になるのを避ける為、事前にそのタイミングで入る様に言われたのかも知れない。

「私の妹とその眷属達だ。先日のコカビエルの襲撃で彼女達が活躍してくれた」

「活躍、ねえ? まあ、いいや。悪かったな、コカビエルが迷惑をかけた」

悪びれた様子の無いアザゼルの謝罪にムッとするが流石に空気を読んだのだろう、サーゼクスに椅子に座る様に促される。

「それで、本当の功労者達は結局来てくれなかったか」

「ええ、私としても改めて話をして見たかったのですが、残念です」

「此方からも参加を促したんだけどね」

コカビエルを連れ帰ったのはヴァーリなのだ、リアス達の活躍(笑)は殆ど利敵行為に終わったのは当然知っている。
本当に活躍した四季達の姿が無いことに残念そうに告げるミカエル。

「あと、今回の会談が他の神話体系を害するモンじゃ無いと言う事を証明するために、日本神話から立会人としてこの地の監査官が参加する事になった」

アザゼルの口から出た日本神話と言う単語に朱乃は嫌悪を浮かべるが他の者達は事前に聞いていたのだろう、他のトップ三人は頷く事で同意する。

「おーい、入って来てくれ」


『失礼します』


アザゼルの言葉に促されて扉が開いて入ってきた四人の人影を見た、事前にそれを知っていたアザゼルと初対面であるセラフォルー以外の者達が驚愕を浮かべる。

「先程紹介に預かった日本神話の監査官の代行、天地四季です」

悪戯を成功させたとでも言う態度で笑うアザゼルと優雅と言える態度で一礼する四季。その後ろには詩乃、雫、クリスの三人が立っていた。

***

「天地、お前、日本神話って!?」

「つい先日、日本神話からスカウトが来たんでな。取り敢えず、お試しで半年ほど雇われる事になった。今回の会談の立会人は、最初のお仕事だな」

イッセーの言葉にそう返して、三勢力の代表に向き直り、

「先程アザゼル総督よりご紹介に預かりました、日本神話の監査官代行の天地四季です。本来なら監査官の方が参加するべきですが、皆様に面識がある私が、今回の立会人の役を任されました」

そう言って一礼すると椅子に座る様促される。

「…………君がこう言う形での参加になったのは驚いたが、これはこれで都合が良いかも知れない。確認しておくが」

一度知っていたであろうアザゼルに視線を向け、そこでサーゼクスは一度言葉を止めて参加者を見渡し、

「ここにいる者達は最重要禁則事項である『神の不在』を認知している。それを前提として話を進める」

誰も反論は出ない。全員がそれを認識しているのだから当然だ。
そう言う意味では立会人として外部の者の参加が『神の不在』を知る四季達なのは都合が良かった。
租借地とは言え他神話の勢力下で聖書勢力のトップが軍勢を引き連れて集まっていれば戦争を警戒されるのも当然だが、神の不在を知られる訳にも行かないのだから立会人も入れる訳には行かなかった。

特に予め話を通しておいたアザゼルにとっては日本神話からのクレームと共に立会人の参加を求められた時、それが彼等であったのは幸いだった。

朱乃が日本神話所属と言う所で憎悪の篭った目で見てくるがそれはスルーして立会人の仕事を全うする事にする。

そうして、三大勢力の会談は始まった。

「と言う様に我々天使は」
「そうだな、このままでは確実に滅びの道を」
「ま、オレらは特にこだわる必要も無いけどな」

和気藹々とは行かないがトップ自身は全員がこれ以上の戦争の継続を望んでいないのだから、会談は順調に進んで行く。

「さて、リアス。そろそろ先日の事件について話してもらおうかな」

「はい、ルシファー様」

サーゼクスに促されて先日のコカビエルの一件について話される。
コカビエル襲撃の一件だけでなく、ダークゴーストと名乗るフードの……声から少女と思われる者が姿を変えた者、ソーサラーを名乗るヴァーリを一撃で返り討ちにした四季と同じベルトを使っていた者の事と合わせて。
同時にソーナが匙がアナザーライダーに変えられた事件の事も説明する。

コカビエルやフリード、バルパーの使っていた怪物に姿を変える道具と言うのは匙が使われた物と同じなのでは無いかと言う推測と共に。

「以上です」

「コカビエルのことに何か言う前に、同じベルトを使っていた奴の事や時計みたいな物について意見を聞かせてもらえるか?」

「ええ」

それについては事前にアザゼルと打ち合わせ済みだった。

「ソーサラーの使っていたベルトはオレのウィザードライバーの前のモデル。古い設計図を元にオレが改良した物がオレのドライバーです。旧型の資料なら書き写した物をアザゼル総督に渡してあります」

事前に白い魔法使いドライバーの設計図は堕天使側に渡しているが、ファントムも無く魔法石の指輪もないのならあまり意味の無い物なので渡した所であまり困りはしない。
何よりビーストドライバーを比較対象に上げれば人造神器に似た部分もある。

「書き写した物? その資料のコピーでは無いのですか?」

「残念ながら、元の資料は破損が多かったので。オレがウィザードライバーの改造元になった試作タイプを元に書き加えなきゃ分からない部分が多く、そんな物のコピーを渡すのはどうかと思ったので」

ミカエルの言葉に四季はそう返すと納得した様子だ。
元々そんな資料など無いが破損個所が多いと言って誤魔化しておく。

「ああ、オレもその資料は確認している。そうなるとあの資料のブラックボックスの部分は」

「そこはオレが解析できなかった部分になりますね。改修には影響しないコア部分だったので放置してますけど」

「なるほど、その部分に何かを宿しているわけか」

四季の言葉に技術者の目になったアザゼルは楽しそうに答える。

「オレとしてはあの資料だけでどんな対価を支払って良いくらいだ。へへ、フィーネに、フエキにユーブロン。オレも負けてられねえな」

人造神器の強化案を何パターンも考えているのだろう。自分よりも優れた技術を前にやる気になっている様子だ。
……フィーネを純粋な人間と言っていいのかは疑問だし、ユーブロンは宇宙人だが。

内心、人造神器との差が少ないとは言え渡したのはマズかったかと思うが、それは精々本来の進化を早めた程度だと思っておこう。

「ああ、武装型の|神器《セイクリッド・ギア》は本来は禁手状態が通常運用されるのでは無いかってフエキって奴の推測とかもな。お前さんの推測でもあるんだろ?」

「そうなりますね。オレ自身の推測で補完した部分も有りますから」

ウィザードライバーの事は納得したのだろう。現物を分析して見たいとも思っているだろうが、既に原型から離れた四季の専用タイプと考えている様子でそれは諦めている。同時に技術者としては原型の方が研究資料としても価値は高い。

「それじゃあ、あの時計見たいなものに付いて推測も聞かせて貰えるか? お前さんも二つも同じ物を持ってる様子だしな」

「さあ、それに付いては何も。ただ、危険な怪物に変わるものと、安全な物があって、後者の安全な物を敵が求めている。その程度ですね」

正確にはアナザーライドウォッチを何らかの方法でライドウォッチに変化させていると言うのが正解だが、それを教える必要はないので誤魔化しておく。
恐らく先日のソーサラーが手に入れたインフィニティスタイルのウォッチ。あれが目的なのだろうが……。

「では、コカビエルの事件について堕天使総督の意見を聞きたい」

「先日の事件は我が堕天使中枢組織『|神の子を見張る者《グレゴリ》』の幹部コカビエルが単独で起こしたものだ」

組織だっての行動ではない事はフリードとバルパーと合わせて僅か三人での行動の時点で説明できる。聖剣の因子に適合できなかった者達を入れても組織と言う単位では少な過ぎる。
組織としての行動ならばもっと部下が居てもおかしくは無いはずだ。

「奴の処理は『白龍皇』が龍の魔術師とその仲間達の協力の元に行った。その後は大人しいもんだ。組織の決定に従って大人しく『|地獄の最下層《コキュートス》』で永久冷凍刑に処されて、もう出てくる事はない」

出てくる可能性があればそれはソーサラーが動いた時だろうと四季は考えている。
今のソーサラーの手には無限の魔法使いの力があるのだから、地獄の底の底にも鼻歌交じりで散歩できるだろう。

「その辺りの説明は提出した資料に全部書いてあっただろう? それが全部だ」

「説明としては最低な部類ですが、あなた個人が我々と事を起こしたくないと言う事に関しては?」

アザゼルの言葉にそう切り返すミカエル。その辺は三大勢力間のことなのだが、此方を害する事が無いか聞き耳を立てる。

まあ、その辺はコカビエルの言葉通りの神器マニアであって、戦争には興味ない様子だ。

そんな中でサーゼクスは一つの問いを投げる。『ここ数十年何故神器の所有者を掻き集めているのか』と。

確かに単なるマニアの収集癖では説明は付かないだろう。力を発動させてしまって居場所がなくなった神器使いを集めているのも単なるアザゼルの個人的な趣味を兼ねたボランティアと考えても不自然だ。

「アザゼル、ここ数十年……何故|神器《セイクリッド・ギア》の所有者をかき集めている?」

「最初は人間達を集めて戦力増強を図り、天界か我々に戦争を仕掛けるのではないかとも予想していたのだけど」

サーゼクスの言葉にセラフォルーが続く、

「そう、いつまで経っても貴方は戦争を仕掛けてこなかった。白い龍を手に入れたと聞いた時には強い警戒心を抱いたものです」

基本神を殺せる可能性を持つ|滅神具《ロンギヌス》だが、大半は力を付ける前に殺されるか、赤と白の龍はライバル対決の果てに死亡している。
そんな物の所有者が正しく成長できる環境さえ整って仕舞えば、それはまさに脅威以外の何者でもないだろう。

そんな者を敵対勢力が持っていながら、その勢力は何もしてこなかった。困惑するのも無理はないだろう。

「|神器《セイクリッド・ギア》研究のためさ。なんなら一部研究資料もお前達に送ろうか?」

アザゼルは純粋に趣味の研究の為だと答える。隠す必要もなければ隠す気も無いのだろう、加えてウィザードライバーの資料で自身の作成した代物の改良案も湯水の様に浮かんでいる今となっては、長年の研究の資料の一部を渡しても良いとさえ言った。

(才能も環境も負けてるよな、兵藤)

ふと、四季はアザゼルの答えを聴きながら、その白龍皇のライバルである赤龍帝のことを考える。
早い時期に目覚めてまだ手探りだっただろうが神器の研究家であったアザゼルの元で最善に近い鍛え方をされたヴァーリと運動部程度の鍛え方しかしていないイッセー。どう考えても完全にイッセーが負けている。

「研究してるからって戦争なんざ仕掛けねえよ。今更戦に興味ないからな」

今更戦争をしたところで勝手も負けても堕天使の被害は大きくなる。それどころか、他の神話に漁夫の利を奪われる危険まである。
二度目の聖書勢力の内乱など、どの陣営にも不利益しか生まない。トップにいるからこそよく分かっているのだろう。

「俺は今の世界に十分満足している。部下に『人間界の政治にまで手を出すな』と強く言い渡しているぐらいだぜ? 宗教にも介入するつもりはねぇし、悪魔の業界にも影響を及ぼすつもりもねえ」

アザゼルの言葉に他の出席者は納得している様子は無かった。

「……ったく、オレの信用は三竦みの中で最低かよ?」

「それはそうだ」

「そうですね」

「その通りね☆」

アザゼルの言葉にサーゼクス、ミカエル、セラフォルーと揃って同意するのには思わず笑いそうになってしまう。

「なあ、あのオッさん、そんなに信用ないのか?」

「そうだな……例えるなら英雄狂……ドクターウェルくらいの信用と言えば想像できるかな?」

クリスの問いかけに彼女に判りやすい比較対象を挙げて答えた瞬間、二人の脳裏に英雄狂の姿が浮かぶ。

「そりゃ、無理だな」

「だろ?」

四季とクリスの間で他の陣営からのアザゼルの信用度の比較対象がとんでもない人物になった事も知らずにアザゼルは単刀直入に、この会談の最大の目的を切り出す。

「これ以上こそこそ研究するのも性に合わねえか。分かったよ」

事前に四季達がアザゼルに日本神話の監査官代行の旨を告げた際に聞かされていた最大の目的だ。

「和平を結ぼうぜ。お前らも元々そのつもりなんだろう?」

悪魔も天使も堕天使もトップはそれを望んでいる。それは間違いない。














先日、

「和平ね。そっちもそれを望んでたか」

「おっ、他の奴から聞かされてたか、サーゼクスか? それともミカエルか?」

アザゼルから今回の会談に於ける目的を聞かされた四季の言葉にアザゼルはそうとうが、立場上情報を堕天使にだけ教えるわけにはいかないので無言で答える。

「まあ、他の奴らもそれが目的ってのは大体分かってたからな」

「まあ、聞いた話だと下手に白黒つけたらそれが聖書勢力全滅のラストページの数行前だろうからな」

「おいおい、言ってくれるな」

言外に他の神話から恨みを買っていると言う四季の言葉に、アザゼルも自覚はあるのだろう苦笑しながら言葉を返す。

「それで、第三者の意見も聞いときたい。お前は和平をどう思う?」

「難しいだろうな」

アザゼルから渡されたゲームのコントローラーを手に取りキャラクターを選択しながら答える。

「そりゃそうだろうな」

四季の言葉に同意するのはクリスだ。三大勢力の和平が難しいと言うのは分かっているのだろう。

「いい事なんじゃないの?」

「いや、トップは良くても下はそうでもないからな」

詩乃の疑問に答えながら四季はゲームをプレーする。

「教会だとエクソシストか」

主に悪魔は敵だ、悪魔を滅することが主の教えだと洗脳教育を受けたエクソシスト達。
そんな彼らに和平が成立したからこれからは悪魔を殺してはいけませんと言っても、間違っているのは天界にいる天使達だと言うだろう事は容易に想像できる。

天使などではなく奴等も主に背く堕天使だと。そして、そんな奴等が天界に居座っているのは神を幽閉していると神の死を知らないエクソシスト達は考えるだろう。
結果、大半は洗脳された正義に従いはぐれになる。

「そういう事ね」

教会を例にあげた事で詩乃も和平が難しい理由を理解した。

「そんなはぐれエクソシストが悪魔を殺せば和平は終わり、戦争勃発だな」

四季の操作するキャラがアザゼルのキャラを吹き飛ばす。

「段階が早すぎる。先ずは休戦に持ち込んで洗脳教育の緩和や好戦派の意見を抑えてからの方が良いんじゃないのか?」

「そうだろうな。けどな、急ぐ必要があるんだよ」

「急ぐ必要か」

その理由は大体想像できる。コカビエルからも聞かされたのだろう、禍の団の事を。
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