第三章『動き出す闇』

さて、その日、四季はコカビエル戦の前に桐生と約束したカラオケに行こうとしていた。
まあ、この時点で詩乃と雫の二人には声はかけてあるので問題はなかったが、一人だけ問題は有った。
……クリスである。コカビエル戦の直前に呼び出した彼女にはこの事をまだ知らなかった。事情を知らない以上、一人だけ置いていく事も出来ないので、彼女も誘ったのだった。
……早いうちに出逢った方が良さそうだし。

そう、彼女はまだ知らなかった……イッセーの変態仲間の二人にまでエンカウントすると言う事を。

















「うおおおおおお! 天地の奴を誘って良かったぁ! 本っ当に、良かったぁぁぁぁあ!」

「ロリ巨乳の美少女来たぁー!」

「だろお!」

クリスを見た瞬間歓喜の絶叫を上げる坊主とメガネの二人。

歓喜の涙を流す三人組の視線から流れるように四季の後ろに隠れるクリス。完全に目が訴えている。……変態は一人だけじゃ無いのか、と。

「あー、うん。三人いたんだよな、変態は」

「どんなってんだよ、お前らの学校」

「まともな生徒もちゃんと居るから安心してくれ」

この町にはちょっと普通じゃ無いが良い人も普通に居る。ご近所の『ミルたん』とか。
魔法少女のコスプレをした魔法少女になりたいと言う謎の超人。野太い声で『みょ』と語尾をつけて話す本名不詳の人。
クリス曰く、彼女の知るOTONAに匹敵する戦闘力を有して居ることが一目で分かったそうだ。

(普通に良い人なんだけどな)

何だかんだで世話になった事もあり、変身と言う名の早着替え用具を送った事もある。

まあ、その後は桐生やオカ研の二年生組のアーシアと木場、一年の子猫と合流してのカラオケだったが、普通に盛り上がった。食事に夢中な子猫を含めて。
…………極一部を除いて。


先日の聖剣事件で精神的に打ちのめされた木場は暗い雰囲気と空虚さを纏っていたりする。
表向きには楽しそうにして居るが、見るものが見れば空虚さを纏っているのが分かるだろう。

なお、アーシアが聖書を暗唱しようとした時だけは食事に夢中な子猫も空虚さ纏っていた木場もイッセーと共に必死に止めていた。悪魔に聖書はダメージ案件なのだから当然だが。

なお、イッセーは前日のコカビエルの事件で和解した匙のことも誘ったのだが、匙は会長から罰として異性交遊を禁止されていてこれないそうだった。

(そう言えばもうすぐプール開きか。休日はプールが好き放題使えるって言ってたな……。部長と朱乃さんは水着を披露してくれるらしいし! 是非クリスちゃんの水着姿も拝みたいな~。あー、早く来い、オレの暑い夏!!!)

心の中でそう叫び声を上げるイッセーだったが、この翌日に学園中に木場との同性愛説が流れる事を知らなかった。











その数日後。流石に此方から催促するのはどうかと思って向こうから話を切り出すまで黙っていたが、リアスからの誓約書の事についての話は未だになかったりする。

四季自身、コカビエル戦後に入手したガチャチケットの事も気になったのでそちらを優先していたのもあるが。

(今回は二枚も入手できたか)

十連ガチャチケ二枚。まだ引いていないが大きな収穫と言っていいだろう。相変わらずガチャには何らかのピックアップは無いが、いい加減ビルドの強化用にスパークリングフルボトルは出て欲しいと思っている四季としてはコカビエル戦は良い収穫があったと言える。

そんな事を考えながら、砂糖を切らしていた事に気が付いて買い物に出ていた四季が帰り道を歩いていると、一人の男に声をかけられる。

「よお、ちょっと良いか?」

「?」

その男を視界に入れたその瞬間、一気に警戒心が跳ね上がる。上手く隠してはいるが、微かに感じられる堕天使特有の気配。四季の知る知識の中にある人物の外見的特徴と一致するその外見。

「まあ、そう警戒するなって、別にオレはお前と遣り合おうなんて思っちゃいないぜ」

護身用に持ってきていたオニキスのデッキを握りながら目の前の相手の言葉に返す。

「こんな所で堕天使のボスに声を掛けられて、警戒するなって言う方が無理は有ると思いますがね」

「ほう、気付いてたか? 赤龍帝なんてこっちが名乗るまで全然気づかなかったてのに」

「そりゃ、それだけ力を持った相手に気付かない方が無警戒なんじゃないんですかね」

「随分と辛辣だな。まあいいや、改めて自己紹介と行こうか」

楽しげに笑いながら男は十枚五対の漆黒翼を背中に広げ、

「アザゼル。堕天使共の|頭《かしら》をやっている。宜しくな、龍の魔術師の天地四季」

「……その龍の魔術師ってなんだよ?」

そんな妙な二つ名を名乗った覚えはないし、根本的に四季は魔術師では無く拳士なのだ。

「そりゃ、お前が体からドラゴンの頭を生やすなんて魔法使ってたら……」

「あっ、うん。なんでそんな風に呼ばれているのか、よーく分かった」

要するに龍の魔術師と言うのはウィザードの姿で戦った時のことなのだろう。
序でに他にも翼を生やしたり、尻尾を生やしたり、爪を生やしたり、全乗せしたりも出来る。

「それに、オレとしても一つ聞きたいことがある事だしな」

「聞きたいこと?」

「……コカビエルに力を渡した奴が持ってった時計のような物、お前はそいつの事を知ってるな?」

「っ!?」

アザゼルの言葉に驚愕が浮かびそうになるが直ぐにそれを表情から消す事に成功する。

「さあ、あれが何なのかはオレは知らない」

それは嘘でも有るが本当でも有る。
仮面ライダージオウの世界では最強フォームのウォッチなど登場しなかったのだから。
飽く迄それは推測から出した答えしか持っていないが、間違い無くそれは正解だろう。

「オレとしては、禍の団なんて名乗った連中が使ったインフィニティなんてとんでもない単語が飛び出した道具の事は知りたかったんだが、残念だ」

(気付かれたか?)

口では残念と言っているがアザゼルも四季が知らないと言うのは嘘だと見破っているのだろう、残念と言う意思は感じられない。

(表情に出すな、感情を読まれるな)

少なくとも一組織のトップとの会話なんてこれが初めてなのだ。何処から情報を読まれるか分からない。

「まあ、そう簡単に教えてくれねえか」

だが、そこで引き下がったのはアザゼルの方だった。

「組織の頭って言うのを抜きにしてお前とは仲良くしたいと思ってるんだよ、同じ技術者としてな」

そう言ってアザゼルは笑みを浮かべる。

「神器とは違う異質な技術。お前の仲間の一人が使ってたって言う装備とお前が使ってたって言う装備は全く毛色が違う。お前のベルトはお前が作ったって聞きはしたけどな」

「……そうだな。クリス先輩の装備の開発者は……フィーネ。そう言う名前らしい」

取り敢えず、アザゼルの興味の矛先を分散させる為にシンフォギアの一期のラスボスの名前を出しておく。
開発者なのは間違いないのだし、彼女の事もユーブロンや桐生戦兎と共にこの世界に名を轟かせておく事に決めた。

「フィーネ。“終わり”ってのは偽名にしても随分と物騒な名前だな」

「さあ、天才の考える事は案外同じ天才にも理解出来ない事だろうしな」

「そりゃ違いねえ」

『くっくっくっ』と楽しげに笑う四季の言葉に楽しげに笑うアザゼル。

また会おうぜと言って立ち去っていくアザゼルの背中を見送りながら大きく息を吐く。

「はあ、なるべく会いたくないな」

この先のことを考えると、叶わぬ願いと知りながらそう呟く四季だった。

念のために詩乃達にもアザゼルがこの町にいる事と自分に接触したことを告げておいたのだが、

「なあ、この町、一応悪魔側の領地扱いなんだろ?」

「日本神話からの租借地なんだろうけど、そうなるよな」

「三度も敵対してる連中に入り込まれるって、舐められてるんじゃねえか?」

「「「同感」」」

クリスの言葉に同意する三人であった。
どう考えても圧倒的に格上のコカビエルとアザゼルの場合は兎も角、レイナーレの件は完全に中級~下級の堕天使にも舐められている可能性だって有る。














翌日、オカルト研究部

「冗談じゃないわ!」

流石にそろそろ誓約書の方を貰おうと痺れを切らした四季が詩乃を連れてオカ研の部室に入るとリアスがそんな叫びをあげていた。

なお、クリスと雫の二人は新しく貰った軽音部の部室で待って貰っている。

「……何があったんだ?」

「堕天使の総督がイッセー先輩の契約相手として接触していたそうです」

「なるほど、あの総督さん、オレのところだけじゃ無かったのか」

「天地先輩にも接触したんですか」

近くにいた子猫に尋ねるとそんな返事が返ってきた。

四季が子猫とそんな会話を交わしていると、キラキラとした顔で『僕がイッセー君を守るからね』と言う言葉で始まった木場による妙にホモっぽい発言にイッセーがドン引きしている姿が視界に入った。

「しかし、どうしたものかしら……。あちらの動きがわからない以上こちらも動き辛いわ」

「グレモリー先輩、立て続けに敵対組織の幹部に入り込まれて悩んでいるのは分かるけど、いい加減にオレ達との誓約書の方をもらいたいんですけど」

「えっ、えーと……」

四季の言葉に目が泳いでいるリアス。



「アザゼルは昔からああ言う男だよ、リアス」



そんな時、第三者の声が響く。怪盗姿の時には一度会った事のある者の声だ。

「お、お兄様!?」

そこには自身の|女王《クィーン》のグレイフィアを連れたサーゼクスの姿があった。

「アザゼルはコカビエルのような事はしないよ。今回のみたいな悪戯はするだろうけどね。しかし、総督殿は予定より早い来日だな」

彼の姿を見て慌てて頭を下げるグレモリー眷属の一同。イッセーからはお前も頭を下げろよ、と言う視線を向けられるが、そもそも悪魔の下についた覚えは無いのだ、頭を下げる理由はない。

「今日はプライベートだ、楽にしてくれ」

「お、お兄様はどうしてここに?」

「何を言っているんだ?」

そう言ってサーゼクスは胸ポケットから一枚の紙を取り出す。

「授業参観が近いのだろう? 私も参加しようと思っていてね。是非妹が勉学に励む姿を真近で見たいものだ」

そう言ってリアスに渡したのは学校から渡された授業参観のプリント。

「グ、グレイフィアね? お兄様に伝えたのは!?」

その言葉にグレイフィアはグレモリー眷属のスケジュールを任されている彼女の元へ学園からの報告も届くと答える。更に彼女はサーゼクスの女王、王であるサーゼクスへ報告は当然のことだろう。

「安心しなさい、父上もちゃんと起こしになられる」

要するに、魔王ではなくリアスの兄として授業参観に参加しに来たと言う事だろう。
リアスの言う通り、魔王が仕事を放り出すのはどうかと思うが、授業参観に来る為に有給休暇を使うのもよく聞く話でもある。
魔王がそれで良いのかとも思うが、過程と悪魔の問題なので、そこは追求はしない。

「いや、これは仕事でもあるんだが、その前にリアス、天地四季くんとの契約だが、彼との契約は君の権限では、魔王の立場として認める事はできない」

「うぅ……」

この状況も予想していたので魔王に連絡が行く前に契約を結びたかった。コカビエルのお陰で知られてしまった様子だ。

「悪魔全体が彼らへの干渉を禁止するような契約は君の権限では結ばせる訳にはいかない」

「賭けとは言え既に成立してるんですけど、魔王様。そっちが負けたからって慌てて負けをごまかしてるギャンブラーみたいな事は言わないですよね」

「勿論だ。不干渉の契約はリアス達だけをする物に変えて貰いたい。勿論だがそれに関する対価も支払う」

「っ!?」

そう言ってサーゼクスが差し出すのは以前四季が回収し損ねたドラゴンゼリーが変異を起こしたフルボトル。

「サーゼクス様、それは!?」

それを見て真っ先に反応するのはイッセーだった。

「ああ。あの時の小瓶のような物だ。君がコカビエルの時に使ったベルト。それを作れる技術を持つ君なら、この小瓶も有効に活用できるんじゃないかな?」

『何処まで気付いている?』そんな疑問が湧くが、悪魔側にネビュラガスの技術を残しておくと危険性も考えると早めに回収しておくのも悪くない。

そもそも、使う事になるか分からないがシンフォギアのデータから改造した対ノイズ用ビルドドライバーは目の前のボトルを使ったクローズマグマナックル用と一緒に製作したのだ、早めに回収するに越したことはない。

「なるほど、未知の技術には興味もあるので賭けの内容の変更の為の対価として受け取りましょう」

「そう言ってくれるとありがたいよ。契約の内容は妹とその眷属に影響する範囲で留めてもらえれば、契約の証人になろう」

魔王として、リアスの兄としての両方の立場で、と告げるとグレイフィアが既にサインのある契約の用紙を用意していた。あとは変更した契約の内容を四季が書けばこの場で契約を結ぶと言ったところだろう。

(どうするべきか)

サーゼクスの言葉は間違ってはいない。
次期当主とは言っても所詮は次期、次の一貴族家の当主の候補でしかない。そんなリアスの権限では悪魔側全体に影響する様な制約など結ばせる訳にはいかないだろう。
それを分かった上で四季は魔王の妹の名を利用出来そうな契約を持ち出したのだが。

飽く迄影響を与えられるのはリアスとその眷属、最高でもグレモリー家のみ。
四人の魔王はそれぞれが軍事、技術、外交と分野を担当しているが目の前のサーゼクスの担当は政治。下を掌握できていないだろうが、四季を相手に利益を得る事は出来るという自信があるのだろうか。

(さて、どうする?)

そう考えるとフルボトルも既にデータを取り終わっていて、こちらの研究データを得る為に渡した可能性もある。

兎も角、悩んでいても仕方ないので最低限の条件を上げる。


『悪魔側として非常時以外での接触禁止』
『悪魔側のとしてだけでなく常時、兵藤一誠の軽音部女子への接触禁止』


先ず思いつくのはその辺だろう。特にイッセーに付いては好みに刺さってしまうクリスへの接触禁止位はしておかなければ、クリスの精神衛生上拙いだろう。

もう一つ条件を付ける前に一度手を止めると、

「ところで、本来コカビエルの一件が起こる前に結ぶはずだった契約が此処まで伸びた事について、其方の見解を聞いておきたいんですが」

「確かに、緊急事態とはいえ少し伸ばしすぎていたかもしれないね。それについてのお詫びも後で支払おう」

サーゼクスの言葉を聞いて最後に一文を記載するとそれを立会人であるサーゼクス側に渡す。サーゼクスもまたその内容を確認してリアスへと渡してサインをする様に促す。

最後にリアスのサインした書面がサーゼクスへと返され、それが四季の元にフルボトルと共に戻ってくる。
内容を書き換えられた様子も無く、妙な仕掛けも無い。序でに紙の品質も確認したが単なる上質な紙で燃えやすい様な細工もされている様子もない。

「君がどうそれを活用してくれるのか、楽しみにしているよ」

そんな言葉を添えられて。

(迂闊に使えなくなったな、クローズマグマナックル)

元々ビルドドライバーの拡張アイテムは製作可能なものもいくつかあり、クローズマグマナックルもその一つだ。予備のビルドドライバーを整備する時のためにイチイバルを分析して得たデータによる対ノイズ用の機能も試験的に持たせてみたのだが、サーゼクスの言葉で迂闊に使えなくなってしまった。

(あまり早く使っても関係を疑われるからな)

(大丈夫なの?)

(その辺は時期を見て上手くやる)

小声で話しかけてくる詩乃の言葉に四季はそう返す。手持ちのカードは減るが早めの回収は望ましいのだ。

「それと、前提条件としてその契約書が破壊されたら契約は破棄になると言う一文も書いてあるが、それは確認してあるかな?」

「それは最初に確認させて貰った」

そう言ってタクティカルベストの四次元ポケットの中に仕舞う。契約書が無くなれば契約破棄につながると言うのもよく聞く話なのだから、その辺の警戒はしっかりとしていた。

「あと、これだけは言っておきましょうか」

「何かな?」

「|悪魔側《そちら》やその同盟組織が手を出して来た場合、相応の対処はさせてもらいますよ」

流石に立場上、悪魔やその同盟組織が手を出した際に返り討ちにしても良いなどとは引き出せないだろうが、一応は予防線を張っておく。

「それは構わないよ。僕としても君達とは仲良くしていきたいからね」

予防線の方は正式な契約ではないが、それは拍子抜けするほど簡単に了承された。

「君達は君の思っているよりも多くの勢力に注目されている。良くも悪くもね。特に日本神話やアースガルズは君に強く興味を持っている事を覚えておいたほうがいい。特に、日本神話からは先日のコカビエルの一件に眼を瞑る代わりに君との接点を求めて来た」

「ええ、軽音部の顧問に日本神話の関係者が来た時点で日本神話からは興味の対象になってるとは思ってましたけど」

日本神話の場合はお膝元にこれだけ力を持っている者が集まっているのだから当然ではあるし、北欧神話についても魔人学園では《黄龍の器》とは縁があるのだから興味を持たれても仕方ないだろう。

「それだけの力と技術力を持ち、同じ様に力を持った者が君の元に何人も集まっている。君は一体何者なんだい?」

「単なる、ちょっと大きな力を持った、人間の一高校生でしか無いですね」

最後に『今は』と付け加えておく。
ぶっちゃけ、格でいうなら五回も世界を救った者達の一人であるクリスの方が上なのだし。

「ところで、お兄様。まさか本当に授業参観の為にお越しになられたのですか!? 魔王がいち悪魔を特別視してはいけませんわ!」

「いやいや、これは仕事でもあるんだよ、リアス。実は悪魔・天使・堕天使の三竦みの会談をこの学園で行おうと思っていてね。会場の下見に来たんだよ」

『|駒王学園《ここ》でっ!』

サーゼクスの言葉にグレモリー眷属が驚愕の声を上げる。

「ここを会談の会場にするというのは本当ですか、お兄さま!?」

「ああ。この学園とは何かしら縁がある様だ」

魔王の妹二人と赤龍帝とデュランダル使いと聖魔剣使いが所属して白龍皇とコカビエルが襲来して来た。
偶然では片付けられないと言っているが、それは完全に単なる偶然だろうと四季は切り捨てている。

単に赤龍帝のいる町の学園にリアス・グレモリーが入学した。その程度だと。リアスが居るからコカビエルが襲来し、それを回収に白龍皇が現れた。
それだけだ。

「それでは身内同士の話の邪魔にならない様にオレ達はこれで失礼させていただきます」

そう言って四季は詩乃を伴ってオカ研を後にする。

「サーゼクス様! あいつにアレを渡すなんて!?」

「それなら心配は要らないよ」

イッセーの言葉にそう答え、サーゼクスは新しいフルボトルを取り出してテーブルの上に置く。それはクローズマグマフルボトルと違い、通常のフルボトルと同じ物だ。

「装置の方は完全に壊れてしまったが、エネルギーのコアとなる小瓶の様なもの、その複製には偶然だが成功したんだ」

ドラゴンの顔が書かれたボトル。だが、色はドラゴンフルボトルのものとは違いロストボトルのそれだ。

四季がそれを見ていたらこう言っていただろう、『ドラゴンロストボトル』と。

「アジュカでもこれを核としたシステムをゼロからの開発には手間取るだろうが、未知の技術を見て張り切って開発しているから期待してもらっても良い」

そう告げた。


















軽音部の部室。そこでクリスと雫の二人と合流した後、四季はオカ研の部室でのサーゼクスを交えた契約の事と三大勢力の会談のことを二人にも話していた。

「何でこんな所でそんな会談やるんだよ」

「やる場所については同感だけど、会談の場所に人間界を選ぶのは正しい判断だとは思うな」

悪魔や堕天使のいる冥界では天使にとっての敵地であり、天界では逆に悪魔と堕天使にとっての敵地である。そのどちらでやる事は不可能だろう。
一応悪魔側の租借地とは言え聖書勢力に於ける三つの陣営にとって中立の位置にある人間界を会談の場所に選ぶのは間違いない。

「まあ、ここが唸りとか特異点とか言ってるけど、唸りなんて関係ないし、特異点でも無い。単なる偶然で片付けられる事ばかりだ」

コカビエルは魔王の妹二人の居る場所を選んだだけ、堕天使側の白龍皇はそのコカビエルの確保に来た。ある意味当然の結果だ。
コカビエルも白龍皇も此処に魔王の妹が居たから来ただけだ。
リアスがイッセーの居る町の学園に入学した偶然が有れば赤龍帝とも結びつく程度だ。

「特異点でも無ければ龍穴も無い。可能性としてはドラゴンの性質が呼んだ偶然って所だな」

そう、加速度的に増しているのは赤龍帝の存在に加えて黄龍の器である四季の存在もあるだろう。

「それで私達はどうするの?」

「態々向こうが不参加の理由をくれたんだ。呼ばれても不参加を決め込もう」

最後に『今のところは』と付け加える。
今の四季達はフリーの傭兵の様なもの、三大勢力の下位組織でも無いのだから、命令に従う義理もない。

「あっ、そうだ。お兄さんが来る前にゼノヴィアさんが生徒会の連絡を持ってきたんだけど……」

次の休日のプール掃除への参加の連絡だった。
元々実績の無い部活動が生徒会の手伝いをする事になるらしい(主に今まではオカ研だけだったが今回は出来たばかりの軽音部もそれに当て嵌まる)。
今回のプール掃除はオカ研との合同で行うそうだ。

「……イッセーの目に女が映らなくなる水中メガネでも作るか」

「「お願い」」
「頼む」

重い沈黙の後、四季のそんな言葉に全員がそう返すのだった。
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