第二章『聖剣! 二つのエクスカリバー』

「消えたか。だが良い、余興は終わりだ」

そう言いながら五体の漆黒の翼を広げながらコカビエルはその手の中に握っていたアナザーライドウォッチよスイッチを押す。



『ワイズマン……』



「そもそもオレは一人でやれる。面白い力も手に入った事だしな」

アナザーワイズマンの姿に変わるコカビエルだが、背中からは5対の翼が生え白いローブの部分が黒く染まっている。

だが異変はそれだけではない。アナザーワイズマンの体に罅が入り蛹が成虫へと変わるようにその姿を変える。



『|白い魔法使い《ワイズマン》』



ウィザード世界の仮面ライダーで有りながら、仮面ライダーの名を与えられていない存在、『白い魔法使い』へと。
いや、それは背中の黒い5対の翼や黒く染まったローブと言う姿からダークワイズマンとでも呼ぶべき個体だろうか?

そんなダークワイズマンは先ほど吹き飛ばしたイッセーへと視線を向け、

「限界まで高めた赤龍帝の力を誰かに譲渡しろ」

「く、くそ、それだけ余裕ってことかよ。舐めやがって……」

「舐めているのはお前達の方だ。オレを倒されると思っているのか? で、誰が相手だ?」

淡々とイッセー達へと告げるダークワイズマン。

「くっ……イッセー、私に譲渡を!」

「は、はい!」

『Transfer!!』

名乗り出たリアスの手に触れダークワイズマンの言葉通り力を倍加させた力を譲渡する。

「フハハハハハ! 良いぞ! もう少しで魔王クラスの魔力だぞ! お前も兄に負けず劣らずの才に恵まれているようだな!」

「消し飛べェェェェ!!!」

イッセーの譲渡によって大きく強化されたリアスの力に楽しげに笑うダークワイズマン。
リアスは譲渡された力によって強化された滅びの魔力をそんなダークワイズマンへと向けて放つ。


『ディフェンド、ナウ』


放たれた滅びの魔力をダークワイズマンは己の前に出現した魔法陣の壁で阻み、何処からか白い魔法使いの専用武器の笛と剣が一体化したような武器『ハーメルンケイン』を取り出し、滅びの魔力を切り裂き霧散させる。

「魔王に匹敵するだけの魔力を無傷でしのげるとは、今ならば魔王にさえ勝てるかも知れんな」

新たに手に入れた己の力に満足げに呟くダークワイズマンの真後ろに朱乃が、

「ほう、お前はバラキエルの」

「私をあの者と一緒にするな!」

後ろから朱乃の放つ雷をハーメルンケインを一凪し打ち消す。

「悪魔に堕ちるとはなバラキエルの娘。まったく、バラキエルもさぞ嘆いていることだろう。だが、お前だけはバラキエルの為にも加減してやらんといかんな」

リアスと朱乃の攻撃をかすり傷一つ負う事なく防いだダークワイズマンはそんなリアス達を嘲笑う様にそんな事を告げていた。

「そんな……! あの魔力でも倒さないなんて……」

そんなダークワイズマンの姿に驚愕するリアス。

「まったく、愉快な眷属ばかり持っているなリアス・グレモリーよ。お前もサーゼクスに負けず劣らずのゲテモノ好きの様だ!」

「兄の、我らが魔王への暴言は許さない! 何より私の下僕への侮辱は万死に値するわ!」

ダークワイズマンの言葉に激昂するリアス。






「同時に仕掛けるぞ」

「ああ」

ゼノヴィアの言葉にそう返し四季は詩乃とクリスへと

「援護は頼む」

「ええ」

「任せな」

四季の言葉に答え詩乃は火炎の矢を放ち、クリスは大型化したボウガン型のアームドギアから放った大型の矢が無数の鏃に分裂する技『GIGA ZEPPELIN』を放つ。

「ムッ」

詩乃の炎の矢はハーメルンケインで切り払うものの上空から降り注ぐ無数の鏃は防ぎ切れないと判断したのかディフェンドの魔法で防ぐ。

同時に仕掛けたゼノヴィアのデュランダルをハーメルンケインで受け止めるも、

「天槍!」

「ぐはっ!」

ゼノヴィアと時間差をつけて放ったオリハルコンを着けた四季の一撃は無防備に受ける事となってしまった。

「まさかただの人間の一撃が一番効くとはな……しかし!」

ハーメルンケインを振るい受け止めていたデュランダルごとゼノヴィアを吹き飛ばすアナザーワイズマン。

「っ!? 円空……破」

円を描くような軌道で振るった拳から遠心力をつけた発勁を放ちゼノヴィアへの追撃を防ぐ四季。

「そこ!」

僅かにダークワイズマンの体勢が崩れた瞬間、子猫が殴りかかる。小柄な少女だが|戦車《ルーク》の駒の転生悪魔である彼女の力はグレモリー眷属でもトップクラスだが、

「ッ!!?」

頬に突き刺さるように叩き付けられた拳に微動だにせず片手に作り出した光の剣を脇腹に突き刺す。

「危ない!」

そのままダークワイズマンは子猫の体を真っ二つに切り裂こうとする前に四季は子猫の体を抱えて距離を取る。
刺された光の剣は抜けてそこから出血も始まったが、悪魔に対して毒となる光の剣が刺さり続けているよりも良いだろう。

「雫、頼む!」

「うん」

子猫を雫に預けると改めてダークワイズマンを睨み付ける。

「ぐっ! 面白い! そのくらいでなければオレは倒せん! リアス・グレモリーよ! 今ここで対峙しているのはお前達悪魔の長年の宿敵だぞ!? これを好機と見なければお前の程度が知れると言うものだ!!!」

背中の翼を広げて上空に飛びながらそう高らかと宣言するダークワイズマン。

「オレを滅ぼしてみろ! 魔王の妹!!! 『|赤い龍《ヴェルシュ・ドラゴン》』の飼い主! 紅髪の|滅殺姫《ルイン・プリンセス》よ!!!」

高らかと宣言されるリアスへのあからさまな徴発。
そう、コカビエルは長年の悪魔の宿敵、戦争狂であっても歴戦の勇士なのだ。本来ならば魔王やその眷属が動くレベルの相手。
残念ながらはぐれ悪魔程度の相手としかマトモな戦闘経験の無いリアスには手に負える相手では無い。

「四季、何か手はある?」

「一応、手持ちには切り札が一つ。エクスカリバーも二本あるしな。合計三つって所かな?」

詩乃の言葉に四季はそう返す。まだエクスカリバーは普通の剣としてしか使っていない。

「私はあんな相手に通用しそうな技は無いから、サポートに回るしか無いわね」

「流石に仮面ライダー相手に生身で太刀打ち出来るかって聞かれたら、『出来るかぁー!』って答えたい」

少なくとも打撃と勁技の奥義を叩き込んでいるのにダメージを与える程度で済まされているのは流石に凹む心境の四季だった。

「だったら、四季に任せるしかねぇか。アタシの場合は」

「先輩。それを使う、なんて言ってたら今から危険覚悟でカードデッキを拾いに行くところだ」

「わかってるよ」

四季たちの共通点は元の世界で一度死んだ身の上。だからこそ、二度目の死など絶対にゴメンなのだ。それが己でも仲間でも。

「まだ隠しておきたかったけど、仕方ないか」


『ドライバーオン、プリーズ』


四季の腰に出現する新しい変身ベルト『ウィザードライバー』。

「さあ、最後の希望の出番だ」


『シャバドゥビタッチヘンシ~ン! シャバドゥビタッチヘンシ~ン!』


ドライバーを起動させ指に着けるのは変身用のフレイムウィザードリング。そして、

「変身!」

その叫びと共にウィザードライバーにリングを翳す。


『フレイム! プリーズ! ヒーヒーヒーヒーヒー!』


魔法陣をくぐり抜けながら四季はその姿を宝石のような仮面の姿を。最後の希望たる魔法使い『仮面ライダーウィザード フレイムスタイル』へと姿を変える。

ダークワイズマンの原型たる白い魔法使いがウィザードの0号に当たる存在とするならば奇しくもダークワイズマンと同じ姿が並んだと言うことになる。

「さあ……ショータイムだ!」

ウィザードへと変身した四季は上空に浮かぶダークワイズマンへと指差しながらそう宣言する。

「クックックッ! ハーッハハハ! ショータイムだと? 面白い見せてもらおうか」

ウィザードへと変身した四季を見下ろしながらダークワイズマンは笑いながらそう告げる。

「ああ、存分に堪能してくれよ」


『コネクト、プリーズ』


魔法陣の中からウィザーソードガンを取り出しダークワイズマンへと切り掛かる。それをハーメルンケインで受け止めるダークワイズマン。

一瞬力を緩めてハーメルンケインを受け流すと回し蹴りを放つ。

「チッ!」

回し蹴りを後ろに下がり回避するダークワイズマンだが、ウィザードは大きく回転するようにキックを放ちながら追撃を加える。

「鬱陶しい!」

「それは、どうも!」

追撃の最中にガンモードに切り替えたウィザーソードガンの引き金を引く。

「なっ!? グオ!」

単なる剣と油断していたダークワイズマンに直撃するが、流石にさほど大きなダメージにはなっていない様子だ。

だが、一瞬動きが止まる。それだけで今は十分。

軽くステップを踏むように横に避けるとダークワイズマンへと詩乃の放った矢が直撃する。
仮面の奥で表情を歪めると詩乃へと光の槍を作り出し投げつけようとするが、割って入ったウィザードのソードモードのウィザーソードガンによって砕かれる。

「グッ!? 鬱陶しい!!!」

ハーメルンケインを振るいウィザードを力任せに吹き飛ばすとそのまま背中の翼を広げ上空に飛ぼうとするが、

「なっ!?」

上空に浮かび上がった瞬間、クリスの放ったマイクロミサイルが一斉に直撃する。

「グワァァァァァァァァァァ!!!」

上空からクリスに撃ち落とされたダークワイズマンが片膝をつきながら校庭に着地する。


『ビッグ、プリーズ』


「なにっ!?」

その隙に新たなウィザードリングを使用し目の前に出現した魔法陣に向かってパンチを放つと、巨大化したウィザードの拳がダークワイズマンを殴り飛ばす。

「オマケだ」


『エクステンド、プリーズ』


続いて発動させたウィザードリングの効果を受けて真上へと跳び上がりキックを放つと、ゴムの様に伸びたキックがダークワイズマンを蹴り飛ばす。

「貴様ら、さっきから」

「仮にも歴戦の勇士を相手にしてるんだ、こっちは数の利と手数の多さを活かさせて貰ってるよ」

とは言え、例の魔法陣の制限時間も有り、何時迄も数の利と手数の多さを活かした戦い方が通用するとは思えない。
飽くまで短期決戦を狙うしかないのだ。

「そらよ、追加だ!」

更にウィザードが後ろに下がった瞬間、クリスがマイクロミサイルを撃ち込む。

「同じ手が通用すると思うな」

ダークワイズマンはそれを背中の5対の翼で防ぐ。

「同じじゃない!」


『コピー、プリーズ』


コピーの魔法で増やしたウィザーソードガンをダークワイズマンへと投げつけるがダークワイズマンはそれをハーメルンケインで切り払う。

「はっ!」

同時に斬りかかったウィザードがウィザーソードガンでハーメルンケインを押さえつけ、同時にその場にしゃがみ込むとウィザードの背後からゼノヴィアがデュランダルを振るう。

ダークワイズマンの頭を狙った一閃だったが、ダークワイズマンの回避が間に合った事で微かに仮面に傷を付ける程度で終わる。

「くっ、浅かったか?」

「いや、悪くない!」

「がっ!」

必殺の一撃のつもりでの一撃を避けられた事を悔しがるゼノヴィアだったが、ウィザードはサマーソルトキックの要領で縦に一回転してダークワイズマンの顎を蹴り上げる。

「やってくれたな」

ウィザードとゼノヴィアを睨みつけるとダークワイズマンもまたウィザードリングを発動させる。

「ならば、オレも使わせて貰うぞ!」


『デュープ、ナーウ』


魔法陣が足元に現れると同時にダークワイズマンの周りに無数の光の剣が現れる。

「フフフ……なるほど、中々便利な力だ」

己の使った魔法の成果に満足気に呟くとハーメルンケインを振り上げる。

「ヤベェ、お前ら下がれ!」

「急いで!」

敵の狙いを理解したクリスと詩乃の言葉に従ってゼノヴィアを連れてダークワイズマンから急いで距離をとる。

「やれ」

それを合図にした訳でも無いだろうが、ダークワイズマンがハーメルンケインを|指揮棒《タクト》の様に振るうと無数の光の槍がウィザードとゼノヴィアへと襲い掛かる。

「不味い!」

ダークワイズマンに背中を向けていたウィザードには見えなかったが、二人に襲い掛かる光の剣の大半をクリスが、クリスが撃ち漏らした光の剣を詩乃が撃ち落とす瞬間をゼノヴィアは見ていた。

「今のは危なかったわね」

「ああ、二人とも今のは本当に助かった」

流石にあの数の光の槍の飽和攻撃など捌ききれはしない。
ダークワイズマン本人が分身してこなかったのは幸運だが、それでも二人の援護がなければ避けきれなかっただろう。

「ククク……面白かったぞ。なるほど、ショータイムと言うだけはあるな」

大量の光の剣による攻撃の後、ダークワイズマンは追撃するでもなくウィザードを挑発する様にそう告げる。
戦争狂のコカビエルにとっては四季達の必死の戦いも楽しみでしか無いのだろう。

「|戦争狂《ウォーマニア》が」

「しかし、お前達はよく戦っているよ。拠り所とする偉大なる主を失っていても」

そんな吐き捨てるように呟くウィザード達を一瞥しながら感心した様子でダークワイズマンはそう言った。

「……どういう事だ?」

真っ先にダークワイズマンの言葉に反応したのはゼノヴィアだった。

「フッハハハハハ!!! お前達下々まで真相は語られていなかったな! 褒美だ、教えてやるよ」

そこまで言い切った後ダークワイズマンは静かに、だがはっきりと言い切る。

「神は死んだ。先の三つ巴の戦争で魔王だけでなく神も死んでいたのさ」

その言葉にその場にいるもの達の……正確にはウィザード達以外の表情が凍りつく。
ダークワイズマンの変身者であるコカビエルは先の三つ巴の戦争の当事者である。
だからこそ、敵ではあってもその言葉の持つ説得力は確固たるものだ。

「人間の信仰心や対価に依存しなければならぬほど疲弊した三大勢力……それを人間に知られるのは都合が悪い。この真相を知っているのは各勢力トップの一部だけだ。先ほどバルパーは気付いた様だがな」

そう、そして三大勢力を構成する堕天使の幹部であるコカビエルはそれを知る一部に属する者。





「……神はいない……じゃあ、ぼくの……ぼくの同志の命は……」

更に絶望の底に沈んでいく木場。




「ウソだ……」

コカビエルの言葉を受け入れられずに呆然と呟くゼノヴィア。

「もう大きな戦争など故意に企てない限り起きないだろう。それだけ、どの勢力も先の戦争で泣きを見た。アザゼルの野郎も『二度目の戦争はない』と宣言する始末だ!」

悪魔は王を失い、天使は神を失った。そして、その過程でも多くの天使や悪魔、堕天使が犠牲になったであろう事は簡単に想像できる。
その果てでの神と魔王の死。もはや、その爪痕は勢力単位では戦う気力すら湧かないという事だろう。

だが、唯一被害が少ない勢力がある。

「堪え難い! 我ら堕天使が勝利すれば人間などに頼る必要も無いと言うのに!!!」

そう、魔王や神と言った王を持たないが故に精神的支柱は残ったままだ。勝てるかは別としても僅かながら優位であったであろう事は間違いない。

「主は……死んでいる? では、私達に与えられる愛は?」

顔を真っ青にして震える声でアーシアが呟く。

「そうだ! 神の守護、愛がなくて当然なのだ! 神はすでにいないのだからな!」

そして、神の死によって聖魔のバランスが崩れている事。その証拠として木場の作り出した聖魔剣を示す。
突きつけられた真実に崩れ落ちるアーシア。心など既に折れている木場にさえその言葉は重くのしかかっている。

「戦争だ! お前達の首を土産に我ら堕天使が最強だとルシファーやミカエルに見せつけてやる! この力があれば、もはやミカエルなど、ルシファーなど敵では無い!!!」

高らかと宣言するダークワイズマン。聖書に記されるビッグネームと戦えるほどの存在を敵に回していると言う事実にその場にいる者たちの心も折れかける。


そう、



「「「「ふざけるな(ふざけないで)!」」」」




四人を別にしてだ。

「黙って聞いてりゃ、それがお前が戦争したい理由か! 安い、安さが爆発しすぎてる!」

「戦争がしたいなら勝手にやって! そんな理由で私達を巻き込まないで!」

「死んだ仲間達のためって言うならまだ納得出来るが、お前の理由はくだらない事この上ない! そんだけ戦争したいなら、一人で勝手に悪魔なり天使なりにでも特攻したらどうだ!?」

クリス、詩乃、四季の言葉が響き、雫も頷いている。
既に四季の持つ原作知識からコカビエルの目的は聞いていた。だが、改めて本人の口から聞いた瞬間四人は確信する。こいつはここで叩き潰すべき相手。
そう決断した四季は新たなウィザードリングを取り出す。

「もう、出し惜しみは無しだ。もう一段階、ギアを上げていこうか」


『フレイム・ドラゴン! ボー ボー ボーボーボー!』


魔法陣をくぐるウィザードの姿が真紅に染まる。それは怒りを象徴している様な真紅の姿。
『仮面ライダーウィザード フレイムドラゴン』。

そして、四季達の他にもう一人怒りを露わにする者もいる。

「ふざけんな……。てめえの勝手な言い分で戦争起こされてオレの計画邪魔されちゃ困るんだよ! オレはハーレム王になるんだ!」

四季達に続いて欲望全開の怒りを露わにするイッセー。

「くくく……それが望みか、赤龍帝? ならばオレと来い。すぐになれるぞ? 幾らでも美女を見繕ってやろう」

ダークワイズマンの言葉に怒りで力を高められていた物が霧散する。

「……」

顔を伏して力の完全に消えた籠手を下ろす。

「…………」

何かを考えながらモジモジとしている。

「………………。そ、そんな甘い言葉で騙されるものかよ!」

「いや、その間は何だ!?」

ウィザードからのツッコミがイッセーに入るのだった。

「覚えとけコカビエル! オレはエロと熱血で生きる赤龍帝の宿主! リアス・グレモリー眷属の|兵士《ポーン》、兵藤一誠だ!!!」

(それで良いのか、|赤い龍《ヴェルシュ・ドラゴン》!?)

四季からのツッコミをスルーして、その後のリアスとイッセーのやり取りにてやる気になってコカビエルへと宣戦布告するイッセーに対する四季のツッコミであった。

「ならば、もう少し楽しませて貰おうか」


『デュープ、ナーウ』


持ち直した精神を叩き潰す様に使われる新たなリング。
再び使うデュープのリングだが、今回は違う。光の剣を大量に作り出した先ほどとは違い、ダークワイズマン自体が二人に増えた。

「う、うそでしょう……」

一人でも強敵だったコカビエルが二人に増えた。その事実は持ち直した空気を再び絶望に叩き付けるには十分すぎる事実だった。

「やっぱり使ってきたか」

そのリングの存在を知っていたウィザード|FD《フレイムドラゴン》達だけは動揺を見せていなかったが、それでも厄介な力であることは変わりない。

本体と完全に独立した同等の戦闘力を持った分身を生み出すのが、オリジナルの白い魔法使いのデュープの魔法なのだ。

「そ、そんなモン、ただの虚仮威しだろう、幾ら何でも……」

「いや、あれは本体と同等の力の分身を増やすリングだ」

二人になったダークワイズマンを虚仮威しだと言おうとするイッセーの言葉を遮ってウィザードFDはその事を教える。

「そう言う事だ。しかし、これは良いな、これならば魔王を同時に相手に戦えそうだな」

己の隣に作り出した分身の力を理解してダークワイズマンは満足気にそう呟く。



『ふふふ、確かに面白いな』



ダークワイズマンとイッセー達グレモリー眷属の間に何かが降ってくる。

「なんだ? あれは、まるで……」

纏った時にはクローズDの上からだったが、クローズDに重なった部分に降ってきた者の纏っていた鎧は似ていた。

背中に翼を持ったドラゴンを模した白き鎧。その姿は、

「『|赤龍帝の鎧《ブーステッドギア・スカイル・メイル》』にソックリだ……」

イッセーの呟きが響く。

「……『|白き龍《バニシング・ドラゴン》』。赤に惹かれたか、『白龍皇』よ、邪魔立ては……」

白い鎧……否、白龍皇の拳をハーメルンケインで受け止めながら、

「無用だ!」

一瞬拳とハーメルンケインが離れるとダークワイズマンと白龍皇の姿が交差する。

ダークワイズマンの後方に立つ白龍皇の手には毟り取られたダークワイズマンの羽根が握られていた。

「まるで薄汚いカラスの羽だ。アザゼルの羽はもっと深い常闇の様だったぞ」

「そうか、だが、お前の鎧は少し地味じゃないか?」

手の中の羽が零れ落ちながら告げる白龍皇の言葉にダークワイズマンはそう呟きながら、

「赤も少し入った方が良い色合いになるんじゃないのか?」

「ぐっ!」

白龍皇の肩の鎧の一部が切り裂かれそこから鮮血が飛ぶ。
ハーメルンケインには魔力による守りを無力化する力があり、オリジナルの白い魔法使いが使った際にはウィザードのインフィニティースタイルの装甲さえも切り裂いてしまう。

コカビエル自身の力に白い魔法使いの力が加わったダークワイズマンならば、禁手の鎧も切り裂く事も容易いと言う事だろう。

「なるほど、その姿はハッタリではない様だな」

「やれ」

ダークワイズマンの言葉に従い白龍皇に仕掛けるのはデュープのリングで生み出した分身の方だった。

「さて、お前の相手はオレが直々にしてやろう」

ウィザードFDと向かい合いながらダークワイズマンはそう告げる。

「それはどうも。でも、お前なら本体の方が向こうの相手をするって思ってたけどな」

「ふん、面倒だが、この力を渡された時の奴との約定でな。お前が現れた場合はオレの手で始末しろとな」

ナイトローグとの約定。その約定を守りたくなるほどダークワイズマンの力は強力なものと言うことだろう。

(ナイトローグの狙いは予想できるけど、コカビエルの中にあるウォッチを破壊するにはウィザードの力しかない今は、好都合だ)

敵の狙いは龍騎ライドウォッチを手に入れた時に仮設程度だが見えていた。だが、四季には戦わないと言う選択肢は無い。

切りかかってくるダークワイズマンのハーメルンケインをウィザーソードガンで受け止めると蹴り飛ばすことで距離を取り、



『エクスプロージョン、ナーウ』
『エクスプロージョン、プリーズ』



互いに距離を開けたウィザードとダークワイズマンが同じ魔法を使い、その中央で爆発が起こり互いの姿を爆煙が隠す。

「死ね!」

爆煙を切り裂いてダークワイズマンの投げつけた光の剣がウィザードFDのいるであろう場所へと投げつけられる。

「なっ!?」

だが、その光の剣は虚しく誰もいない地面に突き刺さるだけに終わっていた。

「何処に消えた!?」

ダークワイズマンは姿の消えたウィザードFDを探すが何処にもその姿は見えない。



『ドリル、プリーズ』



「此処だ!」

ダークワイズマンの後ろから地面を掘って現れたウィザードFDの振り下ろしたウィザーソードガンをダークワイズマンは翼で受け止める。
だが、ウィザードはウィザーソードガンを起点にダークワイズマンの頭を狙って回し蹴りを放つ。

「ぐっ!」



『エキサイト、プリーズ』



その一撃によって一瞬ダークワイズマンの動きが鈍った瞬間を逃さず、新たな魔法を使い全身をマッチョ化させて殴り飛ばす。

(なるほど、ウィザードの場合は気を魔力の代用に出来るのが強みか)

黄龍の器の力で外部から取り込んだ気を魔力の代用にしているため、今の四季は半無制限にウィザードリングの力を使えるのは強みでしか無い。



『コピー、プリーズ』
『ハイスピード、プリーズ』



ウィザーソードガンをコピーして二刀流になると、音声データのみ存在していた原点未登場のリングを使う。

「さあ、着いてこれるか!?」

その瞬間、ダークワイズマンの視界からウィザードFDの姿が掻き消える。

「なに!?」

視認できないほどのスピードを武器にしての連続攻撃によってダークワイズマンをほぼ一方的に攻撃することが可能になった訳だが、

(消耗が早くて回復が間に合わない。制限時間付きだな、これは)

他のライダーならばある意味において高速での戦闘を可能とするフォームは最強フォームにも匹敵する強力な力を持つが同時にそれには制限時間もある。

それ故に敵に視認されることすら許さないハイスピードのリングも魔力の消費が大きく、長時間の使用は不可能なリングになってしまっている。

実際そのリングの存在には驚いたものの、アナザーカブトの様な高速で動き回る敵に対する対策には最適と考えていた為、そのリングの存在を知った段階から能力については調べていたが、実践で使うのはこれが初めてだ。

だが、予想以上に切り札となり得るリングでもある。

「ぐ! がっ! こ、この……鬱陶しい!!!」

高速で動き回るウィザードFDの攻撃に晒され続け苛立ちを覚えたダークワイズマンは上空に飛び上がると新たなリングを使う。



『エクスプロージョン、ナーウ』
『エクスプロージョン、ナーウ』



連続して上空からのエクスプロージョンの魔法による爆撃、同時に光の剣も地上に向かって投げつける。

「っ!?」



『ディフェンド、プリーズ』



ディフェンドの魔法で作り出した炎の壁でダークワイズマンの魔法と光の剣による爆撃を防ぐウィザードFD。

「がっ!」

遂にエクスプロージョンの魔法で炎の壁が粉砕され、ウィザードFDの体が吹き飛ばされる。

そんなウィザードFDに対してトドメを刺そうとダークワイズマンは特大の光の槍を作り出す。

「たかが人間が! 貴様などさっさと始末して……」

「良いのか、オレだけに注意していて? ……動かない的なんて、当ててくださいって言ってるようなモンだぜ」

「何を……はっ!?」

その言葉の意味に気が付いたダークワイズマンだが、もう遅かった。

ウィザードFDが囮となってダークワイズマンの意識を己に向けて二人への注意を晒す事が先ほどまでの目的。

「行って」

ー『奥義・九龍烈火』ー

詩乃が放つのは九頭の火龍の力を最大限に発揮した奥義。ダークワイズマンを焼き尽くさんとその姿を飲み込む。

「ぐおおおおおおおおおおお!!!」

ウィザードFDへのトドメに気を取られていた為、無防備のまま炎に飲み込まれながら絶叫を上げる。

「外さねえ!」

ー『RED HOT BLAZE』ー

続いてアームドギアが変形したスナイパーライフルでの一点集中型の狙撃を行うのはクリス。
ハーメルンケインを持った片腕を狙いダークワイズマンから武器とリングを奪う。

「ぐっ! 小娘共がぁ!!!」



『チョーイイネー! スペシャル! サイコー!』



新たに響くのは今までとは違うウィザードライバーの発動音。その音に反応してそちらへと視線を向けたダークワイズマンの視界に映ったのは魔法陣を背に体にウィザードラゴンの頭を出現させたウィザードFDの姿だった。

「受けてみろ、炎を纏う、ドラゴンの息吹を!」

胸部に出現したウィザードラゴンの頭から放つ火炎放射『ドラゴンブレス』に飲み込まれ地面に落ちるダークワイズマン。
同時に白龍皇と戦っていた分身のダークワイズマンと激突する。

見ればハーメルンケインによるダメージを負っているが白龍皇が僅かに優勢だった様子だ。

着地すると素早く地面に突き刺していた二本のエクスカリバーを手に取り、

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流」

気を魔力の代用にし、二本のエクスカリバーへと魔力を流すと、エクスカリバー(fate)を真上に投げ、

「|十三拘束解放《シール・サーティーン》、|円卓議決開始《ディシジョン・スタート》! 」

《特例承認》
《ベディヴィエール、ガレス、ランスロット、モードレッド、ギャラハッド――》

「これは、世界を救う戦い」
《アーサー》

先ほど真上に投げたエクスカリバーを受け止めウィザードFDは二本のエクスカリバーを上段に構える。

「|連撃、約束されし勝利の剣《ダブル・エクスカリバー》!!!」

両手で真上に振り上げた二本の聖剣を同時に振り下ろす。
二つの宝具、二つのエクスカリバーの真名解放。それが四季の考えていた切り札だ。
なお、プロトの方のエクスカリバーは三対一でも、相手が精霊でも、隣にいるのが人類悪でも、パンを買ってくる為のおつかいのついでの戦闘でも使える仕様であった。

まあ、この場でコカビエルの好きにさせていたら人間界も巻き込んでのシスコン魔王二人が先頭に立って行われそうな聖書勢力の内乱に人間界も巻き込まれる危険があるので、そう言った意味では世界を救う戦いというのは間違いではないかも知れないし、隣に立つ仲間の一人は五度に渡って世界を救った戦姫で、それを振るう為に世界を救った英雄の仮面ライダーウィザードの力を借りている。

多少威力は下がっていても、此処でコカビエルを殺してしまっても不味い可能性があるので、返ってそれは好都合。

二振りの聖剣から放たれる極光を前に、聖剣への憎しみを抱いていた木場も、聖剣使いであったゼノヴィアも、神の死のショックのあったアーシアも、悪魔であるイッセーやリアス、朱乃も、子猫も、白龍皇も、その美しき輝きに、真の最高峰の聖剣の輝きに心を奪われる。

二つの聖剣の光の奔流に飲み込まれながら分身のダークワイズマンは消え去り、ライドウォッチが排出されたコカビエルは意識を失った。

勝利を確信して変身を解除すると四季は駆け寄ってきた詩乃、雫、クリスの三人とハイタッチを交わす。
12/12ページ
スキ