第二章『聖剣! 二つのエクスカリバー』

「ハハハ! 無駄話は終わったかい!? もう限界、テメェを切り刻んで気分を落ち着かせて貰いますよ!」

「そんな辛うじて切り結べる程度の、鈍で出来るのか?」

アナザーブレイブの言葉にそう返しながら木場のいるグレモリー眷属達の方へと視線を向ける。

(あれだけ挑発しても魔法の効果には影響は無いか)

先程の言葉は本心でも有ったが、最大の狙いは、外れてしまったが変身者の意思が乱れる事でアナザーワイズマンのバインドの魔法の効果が弱くなる事を期待してのことだ。

そもそも戦力的には四季一人よりも高くなるであろう詩乃、雫、クリスの三人にアナザーワイズマンを任せたのはアナザーワイズマンを倒す事でアナザーワイズマンの木場を拘束しているバインドの魔法の効果が消えてくれる事を狙っての事だ。

(後々鬱陶しくなるだろうから、エクスカリバーと木場を戦わせてやろうと思ったけど、これじゃあ、無理そうだな)

ここでアナザーブレイブを相手に勝ったとしたら、またこの後の木場の視線が鬱陶しい事になるだろう。
後々『真のエクスカリバーを超えられれば同志達の未練はエクスカリバーを超えたって事になる』とか言われて付け狙われても迷惑なのだし。

だが、肝心の木場が未だにアナザーワイズマンの拘束を解けていない。
リアスの滅びの魔力ならば拘束を破壊することもできるだろうが、微量ではヤスリで削る程度の効果だろう。全力など木場諸共消しとばしてしまいそうだ。

(本当に面倒だな)

エクスカリバーでアナザーブレイブの振るう統合聖剣を受け止めながらそんなことを思う。

後の面倒事を考えるとアナザーワイズマンが倒されて拘束の解けた木場にアナザーブレイブを押し付け、その隙にオニキスに変身して魔方陣を消すためにコカビエルを狙う。それが理想なのだが……















木場は砕かれた破片となった因子の結晶の中の同志達の残留思念達と会話をしていた。

『僕らは一人ではダメだったけど』
『みんなが集まれば大丈夫』
『聖剣を受け入れるんだ』
『怖くなんてない』
『例え神が見ていなくても』
『僕達の心はいつだって』


『一つだ』


彼らからの言葉とともに彼は至る。

「な、何が起きたの!?」

「き、木場ッ!?」

『……あー、相棒、あの『|騎士《ナイト》』は至った』

突然の木場の異変に驚愕を露わにするグレモリー眷属の面々。そんな中、妙に達観した様なドライグの声が籠手から響く。

『|神器《セイクリッド・ギア》は所有者の想いを糧に進化しながら強くなっていく。だが、それとは別の領域がある。想いや願いがこの世界に漂う『流れ』に逆らうほどの劇的な転じ方をした時、|神器《セイクリッド・ギア》は至る』

そこまで言った後、ドライグは内心で『この相棒、あんな理由でそこに至る寸前まで行ったんだよな』と泣きたくなっていた。

『それこそが、|禁手《バランス・ブレイカー》だ。…………そう、それこそがバランス・ブレイカーなんだよなぁ……こう言うのが!』

最後の所だけ妙に実感のこもった言葉で啜り泣きさえ聞こえてきていた。
そう、至る寸前で止まったとはいえおっぱいを見てそこに至りそうになったイッセーには絶対にその事は伝えまいと心に誓う。
だが、ドライグは知らない。今後、泣きたくなる方法で至ってしまう事と邪竜からもドラゴンの恥と思われる異名を持ってしまう未来が待っている事を。

「僕は剣になる! 同志達よ一緒に越えよう、あの時果たせなかった想いを、願いを、今こそっ!」

聖剣を越える。それこそが木場が願い、木場が至った力の極地。

「仲間たちの剣となる! 今こそ僕の想いに応えてくれ!」

木場はその力を発動させる。

「|禁手《バランス・ブレイカー》! 『|双覇の聖魔剣《ソード・オブ・ビトレイヤー》』!!!」

木場の前に彼の想いに応えた力の結晶が現れる。聖と魔の二つの力を内包した剣が。



トス…………



……アナザーワイズマンに拘束されて両手が使えない木場の前に。

『あれ?』

グレモリー眷属全員から呆気にとられた声が漏れる。
そもそも木場の神器は身体能力の強化ではなく武器の創造。序でに彼はパワータイプのではなくスピード特化の剣士だ。禁手に至ったとは言ってもアナザーワイズマンのバインドの魔法の拘束を自力で解くことは出来ない。
幾ら神器が想いに応えて進化してくれても、どんな強力な剣を作り上げても、拘束を抜け出さなければそれを扱えず意味はない。

「…………」

拘束されたままの木場が禁手に至った結果、作り出した剣は目の前に突き刺さる形に終わったのだった。

暫くの沈黙の後、必死に拘束する光の鎖から解放されようと必死に踠くが、木場を拘束する鎖は壊れる様子は無い。

「誓ったんだ! 僕は! 仲間達の剣になるって!」

「おっ、その悪魔くん、イイモン作ったじゃん! ちょっと借りちゃうよ、永久にってね!」

しかも、必死に拘束から逃れようとする木場の前で、四季のエクスカリバーと剣戟を繰り返していた時、偶々それを見つけた敵側であるアナザーブレイブに、木場の目の前の地面に突き刺さった聖魔剣を抜いて勝手に使われる始末であった。

「ハハハ! どうよ、聖剣と魔剣の二刀流!」

「ふっ!」

四季の一閃を統合聖剣で防ぐアナザーブレイブだが、四季の持つエクスカリバーとのぶつかり合いは確実に統合聖剣の刀身を削っていた。

「ヒャッハァ! 伸びろぉ!」

四季から距離を取ったアナザーブレイブの統合聖剣の刀身が伸びて四季に襲い掛かる。

「なるほど、|擬態《ミミック》の能力か?」

蛇腹剣の様に襲い掛かる統合聖剣の刃をエクスカリバーで斬り払いながらアナザーブレイブとの距離を詰めようとするが、

(考えたな、まともに受け止めたらダメージを受けるのは、自分の剣だけって判断してのこの形状変化か)

四季の剣とぶつかった瞬間簡単に弾かれる事で衝撃を逃している。それによってダメージを最小限に抑えているのだろう。

「これはオマケだぁ!」

四季へと襲い掛かる剣速が更に増す。変化の能力に加わったのは|天閃《ラピッドリィ》の能力だ。

「早い! だけど……早すぎるお陰で、逆に避けやすい!」

四季は蛇の様な動きで高速で襲い掛かるアナザーブレイブの剣を避けながらアナザーブレイブとの距離を詰める。

「なんでさぁ! 何で当たらねぇぇぇぇえ!」

「スピードが早い分、伸びた刀身の動きが単調になってくれたんでな。寧ろ、レイピアかランスの形に変えて突きを主体にされた方が天閃の力は厄介だ」

「うるせぇ!」

早くなったとしても、逆に長くなった刀身のコントロールがし難くなったぶんだけ回避は容易くなった。

「他の能力に合わせて聖剣を最適な形に変化させるって言うのが、統合状態の|擬態《ミミック》の最適な使い方じゃ無いのか?」

「大きなお世話なんだよ! こいつでどうだ!」

今度は刀身が消える。だが、四季は敢えて動きを止めて、

「消えた所で、お前の殺気はよく見える」

三つの能力を同時に使ったフリードの剣をその場で立ち止まりながら切り払う。

「幻覚の能力を上乗せした所で、その殺気を隠せないなら意味はない」

「だったら悪魔くんの剣は如何ですかねぇ!」

天閃の能力で動きを止めた四季へと高速で襲い掛かるアナザーブレイブ。

そんなアナザーブレイブに対して新たに武器庫の中からもう一本のエクスカリバー(プロト)を取り出し、

「はぁ!」

アナザーブレイブの振り下ろした聖魔剣を四季のエクスカリバー(プロト)が断ち切る。

「何ですか、その剣は!? ここに来て悪魔くんの剣程度じゃ相手にならない新武器って有りなんですかぁ!?」

「心配するな。こっちもエクスカリバーだ。正真正銘の、本物のな」

アナザーブレイブの絶叫に笑みを浮かべてそう返す。

「言っただろ? 異世界のエクスカリバーだって。エクスカリバーが存在する世界が一つだけなわけが無いだろう?」

「何そのチョー展開!?」

断ち切られた聖魔剣を投げ捨て統合聖剣で襲い掛かるが、刀身を踏み付けて動きを止める。

「そのままにしておけよ!」

「ああ。逃がさない」

四季が統合聖剣の動きを止めた瞬間、ゼノヴィアの振り下ろした破壊の聖剣の斬撃をアナザーブレイブは統合聖剣の形状を変える事により剣を手放す事なく回避する。

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシオス、そして聖母マリアよ!」

ゼノヴィアが片手をかざした瞬間彼女の前に現れた魔法陣の中から剣の柄があわれる。

「我が声に耳を傾けてくれ!」

ゼノヴィアの叫びと共に魔法陣の中から引き抜かれたのは一振りの巨大な大剣。

「この刃に宿りしセイントの皆において我は開放する、デュランダル!」

「二本のマジモンエクスカリバーに、デュランダルってそんなのありか!? そんなのチョー展開が過ぎるでしょう!?」

ゼノヴィアのデュランダルの一撃を防ぐも、統合聖剣にはヒビが入りそのまま後方へと吹き飛ばされる。

「アヴァロンは無いけどこっちは標準装備なのはありがたいな。風よ!」

地面に突き刺したfate版エクスカリバーを加速機に使い、アナザーブレイブとの距離を一気に詰める。

その瞬間、アナザーワイズマンと戦っていたクリスと詩乃の二人と視線が合い、頷きあう。

そして、そのままプロト版エクスカリバーの一閃によって統合聖剣を完全にトドメを刺し、核の部分を回収しつつアナザーブレイブの頭を狙った回し蹴りで後方へと吹き飛ばす。




















物語は僅かに遡る。ゼノヴィアがデュランダルを取り出した頃、アナザーワイズマンと戦っていた詩乃、クリス、雫の三人は、

「おお! 異世界のエクスカリバー! まさか二本も有ったとは!?」

四季の取り出した2本目のエクスカリバーの存在にアナザーワイズマンは歓喜の叫びをあげる。

「おいおい、完全聖遺物の大安売りでもやってるのかよ、この世界は? しかも、一つはデュランダルって……」

彼女の使っているイチイバルのカケラとエクスカリバーを比較して調べた所、間違いなくエクスカリバーも彼女の世界の聖遺物と近いものである事が判明した。
しかも、彼女の世界においてエクスカリバーは兎も角デュランダルはクリスとは縁のある品なだけに色々と複雑な心境なのだろう。

「あんまり気にしない方がいいと思うわよ」

「分かってるよ」

詩乃の言葉にそう返しながら、クリスはクロスボウ型のアームドギアをガトリング砲へと変化させて放つ技『BILLION MAIDEN』を放つ。


『ディフェンス……ナウ……』


アナザーワイズマンはそれを魔力の盾を作り出して防ぐ。同時に詩乃も気を矢の形に変えた矢を放つが、それも魔力の盾の前に阻まれてしまう。

「チッ! 小娘共が! 私はあのエクスカリバーを見ていたいというのに邪魔をするな」


『エクスプロージョン……ナウ……』


アナザーワイズマンの放つ爆発魔法が二人を襲うが詩乃とクリスはアナザーワイズマンがバックル部分に手をかざした瞬間に回避したので無傷で済む。

(四季のお陰で攻撃方法は分かってるけど……)

事前にアナザーワイズマンの魔法については四季から説明は受けていた。アナザーワイズマンは元の白い魔法使いがウィザードと同タイプのライダーなだけに対策も取り易い。

だが、防御魔法の壁に隠れられると詩乃の攻撃力では簡単には突破できない。

元々変身者のバルパーは研究者で有って戦士では無いのだ。動き回って戦う可能性は低いと推測もしていたが、足を止めての拘束、防御、爆発の三種類の魔法を主に使ってきている。

また、アナザーとはいえ|ワイズマン《賢者》の名は伊達では無いのだろう、複数の魔法を同時に自在に操っている。

「雪音先輩、作戦はあれで行くわ」

「あれか? なら、あたしの役割は」

詩乃の言葉に笑みを浮かべながら答えるクリス。そして、四門のガトリングを同時にアナザーワイズマンへと掃射、敵の注意を己へと引きつけ、その隙に詩乃はアナザーワイズマンから距離を取る。

「準備良し」

「あとは私次第ね」

その隙に雫と合流した詩乃は攻撃力を高める補助の術による支援を受け、姿勢を正し精神を統一し、特殊な呼吸法を行う。

「っ!」

彼女の技に必要なのは主に気による視力の強化。それによって強化された視界に捉え、狙うはアナザーワイズマンの防御魔法の中心点。

「疾風っ!」

彼女が放つは『疾風射ち』。疾風の如き高速の一矢。気を込められた矢は鋼鉄さえも穿つ。




「チッ! 小娘め、無駄だと言うことがまだ分からんのか!?」

クリスからの攻撃を鬱陶しく思ったのか吹き飛ばそうと爆発魔法を使おうとした瞬間、アナザーワイズマンの防御魔法に詩乃矢が突き刺さる。

「ふん、この程度では……」

半ばまで突き刺さった詩乃の放った矢だったが、貫通する事なく魔法陣に留まっていた。だが、

「何っ!?」

魔法陣の中心に突き刺さった矢を中心にヒビが広がっていき、最後にはそのまま砕け散る。

「し、しまった!?」

慌てて防御魔法を貼り直そうとするが先程はクリスへの攻撃のためのエクスプロージョンのリングを着けていた為、一瞬だけだが隙ができる。

そして、もう一人の戦力、四季達の中で最高の戦力を持つ彼女が、その隙を逃すわけがない。

「吹っ飛びやがれ」



『MEGA DETH PARTY』



ギアの腰のリアアーマーを展開、そこからミサイルを一斉掃射する。

「う……うわぁああああ!」

小柄だが抜群のスタイルの少女が纏っていたアーマーに収納されていた事が信じられない量のミサイルの一斉掃射を受けて吹き飛ばされるアナザーワイズマン。

「やったわね、先輩」

「ああ」

そう言ってハイタッチを交わす詩乃とクリス。

















「ヒデブ!」

「ぐわっ!」

吹き飛ばされたアナザーワイズマンとアナザーブレイブがぶつかり、そのまま揃ってもみ合いながら地面に倒れこんでしまう。

「き、貴様、フリード! 四本統合した聖剣を使っておきながら破れたと言うのか!?」

「いやいや、マジモンエクスカリバー相手にパチモンカリバーじゃ勝てないでしょうが!?」

「う、うむ。それはそうだが……」

罵り合いながらのアナザーライダー二体を取り囲むように四季、詩乃、クリス、雫の四人とゼノヴィアが合流する。

「詩乃、雫、打ち合わせ通りに」

「ええ」

「うん」

「ああ、動けない間はあたしに任せとけ」

三人のでは無く四季は詩乃と雫、それぞれと気を共鳴させ増幅して行く。詩乃も雫もそれぞれ二人と気を共鳴させ増幅させる。

「彼等は何をする気なんだ?」

「まあ、見てりゃ分かるって。かなり派手な奴だからな」

互いに力を共鳴させ増幅させ有っている三人に疑問を感じるゼノヴィアに対してクリスはそう返す。

「行くよ、二人とも」

「うん、私の力、四季に預ける」

「ええ。黄泉を照らす火之迦具土の炎よ。燃える花となり、我が道を照らせ」

「私たちも」

「ええ」

詩乃の中には桜井小蒔の技と比良坂の力が、雫の中には美里葵の術がある。四季のそれと合わせたそれぞれの力の存在でその三つの技の発動条件は満たしている。


『破邪顕正ッ、黄龍菩薩陣ッ!!』
『楼桜友花方陣!!!』
『黄泉迷将方陣!!!』


「ギャー!」
「ぐわぁー!」

三条の光の柱がアナザーブレイブとアナザーワイズマンを飲み込み、二人の体からアナザーウォッチが排出され、そのまま地面に倒れる。






同時に木場を拘束していた光の鎖も消え去り木場は解放されるが、すでに全ては終わっていた。
復讐の対象だったはずの教会のエクスカリバーも四季の本物のエクスカリバーの前に砕かれ、同士の想いを束ねた聖魔剣も本物のエクスカリバーには勝てなかった。

「僕は……同志達の想いは……」

解放されたがすでに木場は立ち上がる事が出来ないほど打ちのめされてしまっていた。
木場の想いは挑む事も許されず、届かなかった。

技の衝撃で二つのウォッチは吹き飛ばされた為、回収は出来ないが手元に無い以上、すぐに再変身というわけには行かないだろう。

「さて、後はお前だけだ……コカビエル!」

空中に浮かぶ玉座に座するコカビエルを睨みつけながら四季はそう宣言しオニキスのカードデッキを取り出す。

「KAMEN……」

近くにあった鏡面にカードデッキを向けVバックルを出現させた瞬間、

「天地、お前ぇ!」

突然真横からイッセーが殴りかかってくる。突然の事に対応が遅れた四季はそのまま殴り飛ばされ、カードデッキを手放してしまう。

「四季!」

「大丈夫!?」

「テメェ、何しやがる!」

殴り飛ばされた四季に駆け寄る三人。

「天地、お前よくも邪魔しやがって! あれは、あれは木場がやらなきゃダメだったんだ!」

「バルパーに捕まってた剣士の復帰を待つ余裕なんてあると思うのか? そんな事より、さっさとカードデッキを返せ」

既にあの時点でバルパーに拘束されていた木場は戦う事は出来なかった。復讐を果たすだけの力が無かったそれだけだと切り捨てる。

「五月蝿え!」

そんな四季に更に激昂するイッセーの手には先程殴り飛ばされてしまった時に四季が手放したカードデッキが握られていた。













復讐も果たせず、同志達の思いを束ねたはずの聖魔剣も本物の|聖剣《エクスカリバー》には勝てなかった。そんな事実が木場の精神を押しつぶす。

(何だったんだ……僕の……同志達の命は……)

バルパーからは無駄な時間と切り捨てられた。
そんなバルパーの力の前に木場は復讐の奴へと刃を振るう権利さえ与えられなかった。
|禁手《バランス・ブレイカー》に至った神器で作り出した聖魔剣もフリードに奪われ、四季の持つ本物のエクスカリバーに容易く折られてしまった。
無意味、無価値。バルパーの言葉が正しいのだと、四季の手によって肯定されてしまった。そんな考えさえ過ってしまう。

打ちのめされた心では、立ち上がれない、戦えない。立ち直れたとしてもこの戦いの間は復帰は無理だろう。

目の前で崩れ落ちる木場の姿、砕け散った統合聖剣の光景にイッセーは呆然としていた。
聖剣を壊せれば木場は自分達のところに戻ってきてくれると思っていた。聖剣を破壊すれば元に戻ると思っていた。

だが、木場が破壊する筈だった聖剣は四季の手で破壊された。バルパーとフリードが変わった匙が変えられたって言う化け物に似た化け物二体も四季達に倒された。

木場はバルパーが変わった化け物に拘束されて吹き飛ばされて、ただそれを見ていることしかできなかった。

木場が破壊しなきゃダメだった聖剣を破壊した四季に対しての怒りが湧いてくる。自分でも気付かないうちに体が勝手に動いてしまった。

「天地、お前ぇ!」

気が付いたらイッセーはそう叫んで四季を殴り飛ばしていた。コカビエルに意識を向けていた為に無警戒だったイッセーの拳は四季の頬に当たりそのまま彼を殴り飛ばす。

その瞬間四季が握っていたカードデッキは四季の手から離れ真上へと飛んで行く。

イッセーの後ろに落ちそうだった、四季の手から放り出されたカードデッキは何かに弾かれるようにして軌道を変えてイッセーの頭に当たり、そのまま彼の手の中へと収まる。

「四季!」

「大丈夫!?」

「テメェ、何しやがる!」

殴り飛ばされた四季に駆け寄る三人。木場の大切な敵討ちを邪魔したくせに美少女三人に心配される四季の姿に更に怒りを覚えてしまう。

「天地、お前よくも邪魔しやがって! あれは、あれは木場がやらなきゃダメだったんだ!」

「バルパーに捕まってた剣士の復帰を待つ余裕なんてあると思うのか? そんな事より、時間が無いんだ、さっさとカードデッキを返せ」

(あれは木場にとって大事な事だったんだ! それを、そんな事だって!)

「五月蝿え! 木場の事を何も知らないくせに! あれは木場にとってどれだけ大事な事だと思ってるんだよ!?」

「さあな。少なくとも、時間制限付きで更にコカビエルまで残ってるんだ。長々と前座相手にお前の所の剣士の復帰を待ってる余裕はない」

まあ、これが時間制限が無かったり、20分以内に魔王が来ると言うなら待っていても良かったが、時間がない以上は木場一人の敵討ちとこの街の住人全員の命では後者の方が重要だ。

そもそも、木場が拘束だけで済んでいたのもバルパーによっての興味の対象外だったからである可能性もある。
拘束されて一度吹き飛ばされはしたがその後は眼中に無かったからこそ放置されていたのだ。

「恨み言なら後で聞いてやるから、さっさとカードデッキを返せ、今はお前と話してる時間も惜しい!」

「え!?」

改めて四季からそう言われて手の中にあるカードデッキの存在に初めて気が付いた様子でイッセーはそれに視線を向ける。

「……気付いて、無かったのか?」

頭に血が上って思わず手の中に飛び込んできたカードデッキを握ってしまったが、今まで存在を忘れていたのだろう。

(そうだ! これが有ればコカビエルにだって勝てるんじゃ無いか?)

ふとそんな考えがイッセーの中に浮かんで来る。抗い難い力への誘惑。
そんな誘惑がイッセーにカードデッキを使わせてしまう。

四季は自分以外にカードデッキは使えないと言っていた。だが、『あんな奴の言ったことなんて信用出来ない』と考える。

「だったら、オレがこれを使ってコカビエルをブッ倒せば! 変身!」

目の前に鏡面が無いところにカードデッキを向けてそう叫ぶが、当然何も起こらない。


『…………』


その場にいた全員に沈黙が流れる。

「な、なあ、あいつ何やってんだ?」

「ああ。あれって、鏡面に向けないと使えないんだ」

困惑した様子で問いかけて来るクリスにそう返す四季。
それを聞いていたイッセーも慌て鏡面を探して再度カードデッキをそちらへと向ける。

「こ、今度こそ」

「ええ、イッセー! 貴方ならやれるわ!」

「イッセー君、信じてますわよ!」

リアスと朱乃の声援を受けてイッセーは鏡面へとカードデッキを向けて……

「うおおおお! 変っ身!」

しかし、何も起こらなかった。再度の沈黙が周囲に流れる。

「いや、だから……DNA登録されているから、オレ以外変身出来ないって言っただろうが」

いい加減諦めてカードデッキを返せと思いつつ、そう呟く四季。何時かのオカ研の部室でのやり取りでの四季の言葉が正しかった事が証明された訳だ。

「茶番は終わったか?」

そう言ってイッセーの足元へと光の槍を投げ付け、投げた槍の衝撃でイッセーを吹き飛ばすコカビエル。
その手の中にあったカードデッキはそのまま遠くに投げ出されてしまう。
多少苛立ちの様なものが感じられるのは気のせいでは無いだろう。

「そこの騎士が至った時には聖魔剣等と言う物を作り出して多少は楽しめるかと思ったが、とんだ期待外れだったな。だが、真のエクスカリバー二振りにデュランダル。確かに輝きが違うな」

「聖魔剣? 聖魔剣だと……? 反発し合う二つの要素が混じり合うなんて事は有り得ない……」

ヨロヨロとした様子で立ち上がるバルパー。その他にはアナザーワイズマンのウォッチが握られていた。
再度アナザーワイズマンになろうとした所でコカビエルの言葉を聞いたのだろう。

「……そうか! 分かったぞ! 聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明がつく」

その表情に驚愕の二文字を貼り付けながら、バルパーは己の辿り着いた推論を口にしようとする。

「つまり、魔王だけでなく、神もっ!?」

その答えを言い切ることなく背中から投擲された光の槍に串刺しにされてバルパーは絶命する。

「バルパー、お前は優秀だったよ」

その犯人であるコカビエルの手の中にアナザーワイズマンのウォッチが舞い込んで行く。

「この力の事も存分に教えてくれて感謝するぞ」

そして、倒れているフリードへと視線を向け、

「何時まで寝たフリをしてしている気だ? バルパーが立ち上がれたのだ、お前が動かない訳がないだろう?」

「てへ? 気付かれちゃってました。油断してるトコを後ろから、グサーって行こうと思ってたんですがね、そこの巨乳ちゃんが警戒してたみたいで」

ケラケラと笑いながらフリードは立ち上がる。

「しかし、オレ様大ピンチ! 目覚めてくれ、スペッシャルゥな、隠された力とかナンカ!」



『助けてあげても良いよ~』


『っ!?』

そんな時に第三者の声がその場に響く。

全員の視線がその場に向かうと校庭に有った木の枝の上に全身を包むフードで顔を隠した少女がいた。

そのまま木の上から音も無く飛び降りた少女の手には先程までフリードの使っていたアナザーブレイブのライドウォッチが有った。

そして、彼女は手の中にあるアナザーブレイブのライドウォッチのスイッチを押す。


『トゥルーブレイブ……』


彼女がスイッチを押すとライドウォッチに書かれていた青い異形の騎士の絵が砕け、薄汚れた白い鎧の異形の騎士の絵と変わる。

「貴様、奴の仲間か?」

「あ~、ナイトローグの事~? そうだよ~。私はね~」


『アーイ! バッチリミナー!』


「変〜身~」

『カイガン! ダークライダー! 闇の力! 悪い奴ら!』



その姿を白い仮面のフードを被った戦士へと変える。

「私はね~。仮面ライダーダークゴーストって言うんだよ~。ダークゴーストって呼んで~」

そう言ってダークゴーストは一瞬でフリードの元へと移動すると、

「じゃあ、この人はまだ使い道があるから貰ってくね~」

「え!? オレどうなるの!?」

ダークゴーストとフリードの足元に現れた魔法陣の中に飲み込まれて行くフリードとダークゴースト。

「じゃあ、頑張ってね~」

何故かその言葉をコカビエルでは無く四季の方へと告げて。
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