第二章『聖剣! 二つのエクスカリバー』
蜘蛛型の監視メカからの映像が四季のビルドフォンの画面に映し出される。
其処には兵藤家にて予想通りコカビエルからの宣戦布告が行われていた。
「予想通りの戦争狂か」
聞こえてくる会話の内容によれば、アザゼルとシェムハザを始めとした他の堕天使の組織の幹部達は戦争に否定的であり、|神器《セイクリッド・ギア》の研究に没頭しているそうだ。
(……そう言えば、グレモリーの女王の父親って堕天使の幹部のバラキエルだったな……。あのままライザーと婚約してたらバラキエルも好戦派に合流してたりして)
自分の派閥に幹部がもう一人加われば、好戦派も勢いよくなるだろう。そもそも、コカビエル自体好戦派とは言え相応の人望も有りそうなのだし。
そんな事を思ってしまうが、事前に防がれた事なので今更考えたところで意味はないと切り捨てる。
「まあ、予想通り今夜には動いたか」
返り討ちにしたイリナを宣戦布告の手土産にリアス達に対して宣戦布告を行っていた。
此処で予想外なのはゼノヴィアだけでなく木場も逃げきれていた事だ。
(あれが紛い物だったって分かって、余計に頭に血が上ったと思ったけど、予想外だったな)
イリナの持っていた|擬態《ミミック》も奪われたが、どれも四季の持つ二本のエクスカリバー(fate)には及ばない品物だ。それについては問題ない。
問題があるとすれば、リアスとソーナ、二人揃って|身内である魔王《サーゼクスとセラフォルー》に連絡しなかったという事には二人揃ってその正気を疑うレベルだ。
そもそも、ライザーとその眷属にすら試合で勝てないリアス達の『あとは私達がなんとかする』と言う言葉は何処からそんな自信が湧いてくるのか疑問に思う。イッセーの手にはスクラッシュドライバーも無ければ、彼の|神器《セイクリッド・ギア》は禁手にも至らないのに。
だが、その辺はちゃんと実力差を理解していた朱乃がサーゼクスには連絡済みだった様子だ。その点の冷静さは評価しよう。
対コカビエルに対応できる者の到着までの時間稼ぎを自分達がすると言うのならば文句は無い。
それに加えてコカビエルの力を理解しているドライグが居るなら、イッセーの体の大半を対価に魔王到着までの時間稼ぎはしてくれるだろう。
「さて、準備はいいか? 此処からは正真正銘の命賭けの死闘だ。今からでも不参加でも良い。その場合は安全のためにこの街からなるべく遠く離れて貰うけど……」
不参加を決めた者はナデシコCを使って避難してもらう予定だと四季は自分の目の前に立つ三人の少女に問いかけるが、誰からも逃げると言う選択は出てこない。
「敵の目的は聖書勢力内の内乱の再開とその決着。戦争がしたいなら無関係な人間を巻き込むなって言いたい。奴の身勝手な欲望の為にこの街に住む人たちを犠牲にさせない為にも、オレ達は負けられない」
コカビエルの目的は悪魔側への宣戦布告。リアスとソーナの首と序でにその眷属の首はその為の道具。
流石に自分の陣営である堕天使内の内乱までは望んでいないであろうから、敵とは言えバラキエルの娘である朱乃だけは最低でも生かして連れ帰る程度には手加減するだろうが、リアスとソーナの首を取り、この街を吹き飛ばす事が本来の目的のための宣戦布告と言える。
「オレから言えるのは一つだけだ。全員生きてこの場に戻ろう」
今回は怪盗の正体を隠す為にVSチェンジャーは使えない。状況的に今は素顔での活動をすべきだ。
手甲オリハルコンを着け、オニキスのデッキとどちらでも使用していなかったウィザードライバーを四季は手に取る。
彼女達も各々の武装の確認を終えて、いつでも動ける状態だ。
頷き合い四季達は学園へと向かう。
「当然ながら、結界はあるか」
「で、これはどうするのよ?」
学園の前、ソーナ達シトリー眷属が張っている結界を前に詩乃の言葉が響く。
詩乃の問い掛けには方法も考えてあるのだろうと言う信頼も困っている。
流石にその結界がどこまでコカビエル相手に耐えられるかは疑問だが、コカビエルの力を学園内で留める目的で貼られたそれを進入するために破る訳には行かず、その結界があっては四季達も学園の敷地内には入れない。
「生徒会長達を探して問答している時間もないし、これだけ近いなら問題ないな」
結界を張っている生徒会長を見つけても中に入れてくれるとは限らない以上は、余計な時間を取られる前に他の手段を取るべきだろう。
そう言って四季が取り出すのはウィザードライバーとウィザードリング。
「結界内にテレポートする。中に入ったらすぐに接敵するはずだから、油断するな」
《テレポート、プリーズ》
四季達四人の足元に魔法陣が現れて彼らの姿を飲み込んで行き、次の瞬間その姿は消えていた。
結界内、駒王学園の校庭では木場を欠いたリアス達グレモリー眷属はコカビエルのペットのケルベロスと戦っていた。
ケルベロス。地獄の番犬として有名なギリシャ神話における冥府神ハーデスの元にある神獣。
四季の調査によれば、悪魔や堕天使の住む冥界に住むケルベロスと同じ特徴を持った上位の魔獣の様だ。
流石に本物のケルベロスなんて連れて来たら、ギリシャ神話にケンカを売る行為だろう。……聖書勢力全体としてはすでに手遅れかもしれないが……。
朱乃が攻撃を防ぎ、その隙をついてリアスと子猫がケルベロスを攻撃してイッセーが譲渡するための倍加の時間を稼ぐと言う作戦なのだろう。
そんな中で二匹目のケルベロスが後衛のアーシアとイッセーの背後に現れる。
「もう一匹いるのかよ!? アーシア!」
それに気がついた時、彼らの耳には戦場には似合わない歌声が響く。
~~♪
突然響く歌声に呆気にとられるその場にいる者達を他所に曲調が変わる。
《BGM:魔弓・イチイバル》
「キャウン!」
歌声共に何かがケルベロスを吹き飛ばす。
「な、なんだ、今の?」
歌声共にさらされた攻撃にケルベロスが吹き飛ばされた事に驚愕するイッセーだが、
「へっ、こんだけデカけりゃ、外しようがねえな」
「あら、それでも狙いどころはあるわよ」
「ギャウン!」
続けて聞こえるのは二人の少女の会話と、炎を纏った矢を三つの頭のうちの一つの眼球に受けて悲鳴をあげるケルベロス。
「今の声は詩乃ちゃん? もう一人は……」
「八雲っ!」
イッセーが自分たちを助けた声の主に気がついた時、動きを止めたケルベロスの三つの頭の中の中央の頭に四季の気を纏った拳が叩きつけられる。その脳天への一撃により意識が刈り取られる。
そして、左右の首へと
「火社っ!」
右の首は巫炎の、
「深雪!」
左の首へは雪蓮掌の八雲と同等の上位技を放ち、右の首を炎に包み焼き尽くし、左の首を凍結させ砕く。
三つの首の意識が途絶えたケルベロスが倒れた事で、頭の上から降りて背中を向ける四季。
「グルゥ……」
だが、打撃による衝撃だけだった中央の首は生き残っていた様子でヨロヨロとした動きで立ち上がる。
「トドメは任せた」
「ああ、任された」
一矢報いようとでも言うのか、最後の力を振り絞って自身に背中を向けている四季に襲いかかろうとした瞬間、新たに現れた影がケルベロスの首を切り落とす。
「遅くなった。加勢にきたぞ」
切り落とされたケルベロスの首の上に立つのはゼノヴィアだった。
「スゲェ……って、なんか一人増えてないか?」
詩乃と雫以外にも人影が一人増えている事に疑問を抱くイッセー。
「ああ、コカビエルなんて大物を相手にする訳だから、知り合いに助っ人に来てもらったんだ」
知り合いを助っ人に頼んだ。今はその程度の説明で十分だろう。
「彼女は『雪音クリス』。オレ達の知り合い「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」……って、おい」
クリスを紹介した瞬間、イッセーが急に雄叫びをあげる。
「お、おい、こいつ、どうしたんだよ!?」
「あ、ああ。困った事に正常なんだろうな、変態の」
クリスの姿を視界に捉えた瞬間絶叫をあげるイッセーに対して困惑するクリスと平常運転なんだろうなと思う四季。そして、
「でかぁい! 説明不要! 部長や朱乃さんにも匹敵する見事なおっぱい! しかも、小柄な分余計に際立ってる! 見事なロリ巨乳!」
「ひぃ!!! お、おい、本当にこれが普通なのか!?」
「いや、寧ろ予想通りの反応としか」
鼻血と歓喜の涙を流しながら絶叫するイッセーに、イッセーの舐め回すような視線に怯えて四季の後ろに隠れるクリスと、予想通りすぎる反応にドン引きな四季の構図であった。
『あれ、今一瞬至りそうになっちゃったけど、気のせいだよな、絶対』
人知れず|禁手《バランス・ブレイク》に至りそうになった事に気がついたドライグがいたとか。
精神世界の中で|相棒《ドライグ》が現実逃避している事など露知らず、物凄く情けない理由で禁手になる一歩手前まで至っちゃったイッセーに対して完全に涙目のクリス。脳内保存と言わんばかりの視線に晒されているのだから当然だろう。
流石にイッセーレベルの変態に遭遇するのは初めてなのだろう、自分を呼び出すのに迷っていた理由を心底理解した。
「お、お、お、おい、もしかしてあたしを呼び出すのに迷ってたのって?」
「こいつが原因。付け加えるなら性癖にどストライク」
「ヒィッ」
そう、心底、身をもって理解してしまっていた。鼻の下を伸ばして胸部をガン見してくるイッセーの視線から逃れるべく四季の後ろに隠れている。
「クリスちゃんって言うんだ、オレは兵藤一誠、宜しくな」
「よ、宜しくしたくねえ!」
爽やかさ笑顔を浮かべて挨拶してくるが鼻血流しながらでは台無しである。
「変……兵藤、一つ良いか?」
「なんだよ?」
四季の言葉に、お前には用は無い寧ろよく見たいから退けと言わんばかりの態度で答えるイッセー。
「彼女は一つ上だぞ」
「ええ!? って事は部長や朱乃さんとタメ!? 年上のロリ巨乳ってのも……」
何か妄想の中にトリップしている様子のイッセーから距離を取りながら、後衛の詩乃と雫と合流する四季とクリス。
「おっと、こっちも溜まったぜ」
二人が離れた時、鼻血を抑えながら倍加が限界まで終わったのだろう。何故か色素が落ちているように見える|赤龍帝の籠手《ブーステッド・ギア》を持って、
「部長! 朱乃さん! 譲渡いけます!」
そう二人を呼ぶ。……鼻血を抑えながら。リアスと朱乃の二人に倍加させた力を譲渡すると、その力の大きさを感じ取ったのか逃げ出すもう一匹のケルベロス。
そんな中、ゼノヴィアと同じく駆け付けた木場の|魔剣創造《ソード・バース》によって足止めされたケルベロスが、イッセーの譲渡によって強化された朱乃の雷によって焼き尽くされる。
リアスもまた譲渡によって強化された全力の滅びの魔力をコカビエルへと放つが、等のコカビエルはそれを片手で弾く。
そんな中、
「あっ、完成だ」
興味無さげなバルパーの声が響くが、その視線が四季を捉えた瞬間狂喜の感情が浮かぶ。
「おお、来たか、真なるエクスカリバーよ! 今、四本の聖剣が一つとなり術式は完成した!」
四季の姿を、いや、正確には彼がこの場で使うであろうエクスカリバーに対して歓喜の感情を浮かべながら心からの歓迎の言葉を告げ、完成した聖剣をゴミでも投げるような態度でフリードに投げ渡す。
「あと二十分もしないうちにこの街は崩壊するだろう」
『なっ!?』
バルパーの言葉にグレモリー眷属だけでは無く四季達にも驚愕が浮かぶ。タイムリミットは20分。
どこぞの光の巨人の活動時間よりは遥かに長いが、短すぎる時間だ。
「術式を解除したくばコカビエルを倒すほかない。更に」
「ホイホイ」
そう言ってバルパーとフリードが取り出すのはアナザーライドウォッチ。
『ブレイブ……』
『ワイズマン……』
バルパーとフリードの姿がアナザーワイズマンとアナザーブレイブへと変わる。
「ワシらも邪魔させてもらうぞ」
笑みでも浮かべているかのような口調で告げるアナザーワイズマン。
その目的は一つ、間近で四季の持つ異世界のエクスカリバーの力をその目で見る事なのだろう。
「タイムリミットは二十分か。長々と戦う趣味は無いけどな」
「時間制限なんて聞かされると、ちょっと焦るわね」
「へっ、そんだけ有りゃ十分だろ」
「うん」
三大勢力の戦争を生き抜いた|歴戦の勇士《コカビエル》と倒し難さではライダー怪人の中でもトップクラスのアナザーライダーが二体。その事実に僅かながらも焦りが見える四季。目の前の相手……コカビエルに僅かに気圧されている詩乃と雫。
焦りや気圧されているのが僅かで済んでいるのはこの場に置いて一人、コカビエル相手に気圧されている様子のないクリスの存在故だろう。
彼女だけはこの場に於いて……唯一コカビエル以上の強敵と何度も戦った経験があるのだ。今更強敵とは言えコカビエル相手に気圧される通りはない。
「さあ、小僧! 貴様の持つ真のエクスカリバーの力を見せてみろ!」
やたらとテンション高く宣言するアナザーワイズマン。そんなハイテンションなアナザーワイズマンの姿にコカビエルもちょっとドン引きである。
「……フリード」
「はいな、ボス」
「最後の余興だ。四本の力を得た聖剣で戦ってみせろ」
「そうだ! その四本統合の聖剣ならばエクスカリバーと打ち合っても簡単に折れる事は無い! さあ、存分に真のエクスカリバーの力を見せろ!」
コカビエルドン引きのハイテンションで叫ぶアナザーワイズマン。
「ヘイヘイ、まーったく、オレのボスは人使いが荒くてさぁ。でもでも、ちょー素敵仕様になった聖剣を使ってでマジモンエクスカリバーにリベンジマッチできるなんて、光栄の極み、みたいな?」
ケラケラと笑う様子でアナザーブレイブは四本統合された聖剣を振り回しながら四季へと聖剣を向け。
「さあ、リベンジマッチと行きましょうかねぇ!?」
そう宣言する。
***
「……一つ聞きたいんだが、何故バルパーは君に対して真のエクスカリバーと言っているんだ?」
「ああ、それか? 異世界の、と言う注釈は付くけど」
武器の中から型月世界仕様のエクスカリバーを取り出し、
「正真正銘の本物のエクスカリバーを借り受けてるからな」
『っ!?』
四季がエクスカリバーを構えながらそう告げた瞬間、イッセーと木場、子猫以外の全員に驚愕が浮かぶ。
リアスと朱乃もイッセーから話は聞いていたが、実物を前にしては気圧されてしまう。
「ま、まさか……本物のエクスカリバー、だと?」
呆然と呟くゼノヴィア。
質量的には優っているが、自分の手の中にある|破壊の聖剣《エクスカリバー・デストラクション》とは比べ物にならない存在感を持った四季の持つ聖剣。
それだけでも真のエクスカリバーとは信じられなくとも、理解してしまう。その剣は聖剣としての格が違うと。
「エクス……カリバー……」
憎悪の困った視線で四季の持つ聖剣エクスカリバーを睨みつけるのは木場だ。
「同志の仇は僕が討つ!」
四季に砕かれる前に、そう考えたのか、そう叫び真っ先にアナザーブレイブへと向かっていこうとした木場だったが、
『バインド……ナウ……』
「ぐぁっ!」
光の鎖に全身を巻かれ、受け身もとれずにそのまま顔面から地面に倒れこんでしまう。
「黙れ、転生悪魔の小僧」
『エクスプロージョン……ナウ……』
「木場ぁ!」
続いて襲われた爆発に吹き飛ばされてイッセー達の元へと吹き飛ばされる。
「これから始まるのはエクスカリバーの名を与えられた聖剣に対して真のエクスカリバーの力を見せる戦いだ! 貴様の様な聖剣ですら無いナマクラを量産することしかできぬ者が入って良い戦いでは無い!」
狂気の困った叫び。それに同調する様にアナザーブレイブも、
「そう言う事っすよ悪魔くん。そんなに首チョンパして欲しかったら、エクスカリバーとのリベンジマッチ終わったらしてあげるから、邪魔しないでちょうだいよ」
ケラケラと笑いながら興味ないと告げるアナザーブレイブ。
「巫山戯るな! バルパー・ガリレイ! 僕は聖剣計画の生き残りだ!」
「……聖剣計画? ああ、懐かしい計画だな。ああ、全く、真のエクスカリバーに出会えた今となっては無意味な事をしていたと思うよ」
何かを懐かしむ様にシミジミと呟くアナザーワイズマン。
「紛い物と紛い物すら扱えん出来損ないどもに、ワシの貴重な時間を長々と割いたと思うとな」
「巫山戯るなぁ!」
激昂する木場だが、アナザーワイズマンはそんな木場へと興味を向ける事はなく、彼を拘束する魔力の鎖も解ける事はなかった。
「巫山戯るな、バルパー・ガリレイ。ぼくはあなたに殺された身だ、悪魔に転生して生きながらえている」
怒りに震えながら、木場はアナザーワイズマンへと問う。
それだけは聞かなければならない、死んだ同志達のためにも知らなければならない。
「何故、あんな事をした?」
「ん? ああ、肝心の聖剣が偽物である事を除いては一応は成功していたよ、あの計画は」
どうでも良いとばかりに投げやりな返事をして何処からか取り出した結晶のような物を足元に投げ捨て、踏み砕く。
「自分では使えないからこそ使える者に憧れた。そこの小僧の様にな」
四季を見るアナザーワイズマンの宝石を模した異形の仮面の奥には恍惚という表情が浮かんでいる事だろう。
「成功? 僕達を失敗作と断じて処分したじゃないか!!」
「聖剣を扱うには何らかの因子が必要であることに私は気が付いたのだよ。被験者はほぼ全員にその因子を確認できたものの聖剣を扱える数値に満たなかった」
呆れた様にため息を吐くアナザーワイズマン。そんな相手の表情に、
「……なるほどな。今回送られてきた、安全に作られた聖剣使い二人。なるほど、聖剣計画の成果は、天界側にとってお前を始末しない程度の功績にはなっていた、と言うわけか?」
「ほう、気がついた様だな、流石は真の聖剣の使い手だ」
四季の呟きに感心した様に応えるアナザーワイズマン。そして、四季の推測を採点する様に黙ることで続きを促す。
「一人分の因子で無理なら必要な分を足せばいい。お前は見つけ出したと言うことか? 『因子を抽出して集める方法』を」
四季にしてみればビルドドライバーやスクラッシュドライバーが使用可能になるハザードレベルのことを知っているからこその発想だ。
だが、そのレベルを一つあげるのにもビルド本編に於いてエボルトも苦労していた。短時間で楽に強化できる方法があるのならまずはその方法を模索するだろう。
それが推測の切っ掛けだったが、
「くくく……ハハハハハハハハハハ! 正解だ、満点をくれてやろう! 私の至った結論そのものだ!」
「なるほど読めてきたぞ、聖剣使いが祝福を受ける時体に入れられるのは……」
「他者から抜き取られた聖剣使いの因子を物質化した物だろうな」
四季の答えに狂笑しながら肯定するアナザーワイズマン。更にゼノヴィアの言葉から多くの犠牲の上になりたった研究のデータが今の聖剣使いの量産に繋がっているということが明らかになった。
それが天界側がバルパーを生かして追放した理由。バルパーの出した功績、と言う事だろう。
「その通りだ。先ほど砕いたのが、その聖剣計画で結晶化させた聖なる因子だ」
「っ!?」
アナザーワイズマンの言葉に木場の表情がこわばる。
「私の理論によって聖剣使いの研究は飛躍的に向上した。だが教会は研究資料だけを残し、私だけを異端として追放した」
医薬品の研究でも人体実験のデータは大きな発展をもたらす。非人道的な手段を持って行えば発展の速度は大きく違うだろう。
四季の中にある桐生戦兎のそれはバルパーの言葉の意味を理解し、同時に怒りに変える。
「貴殿を見るに私の研究は誰かに受け継がれていると様だな……。ミカエルめ、私を断罪しておいて……」
そう、研究は今も続いている。ゼノヴィアとイリナの存在こそがその証拠なのだ。
誇りのはずの聖剣使いの称号が、その真実は教会の罪そのもの。ゼノヴィアの心境としては穏やかではいられないだろう。
「……同志達を殺して因子を抜いたのか?」
「そうだ。3つほど使って、もう不要になった残った一つは先ほど砕いたがね」
「ヒャッハハハ! オレ以外の連中は因子に対応できず全員死んじまったがな!」
アナザーワイズマンの言葉を笑いながら補足するアナザーブレイブ。
「テメェ……」
「お前の身勝手な欲望のために、どれだけの命を弄んだ……?」
バルパーの言葉に怒りを露わにするクリスと四季。
「そんなモノ、もう全てどうでもいい事だ。当初の目的であった愚かな天使と信徒どもに私の研究を見せつける事も、今となってはもうどうでもいい」
不気味なほど穏やかな口調でアナザーワイズマンは言葉を続ける。
その心の中には既に新たな野望がうごめいていた。
「貴様だよ、真のエクスカリバーの使い手よ! お前の中にあるであろう聖なる因子を抜き取れば、私自身がなれるのだ! 憧れていた、聖剣の……エクスカリバーの使い手に!」
そう、アナザーワイズマンの……バルパーの目的は四季と出会った事で既に変わっていた。
真のエクスカリバーが目の前にある。自分が研究してきた聖剣など歯牙にもかけない完全な、本物の聖剣が。
伝説のアーサー王から四季に貸し与えられたと語られたそれも、自分に届けられるために渡された様にしか見えていない。否、既にそう思い込んでいる。
彼の頭の中にはエクスカリバー持った使い手となった己の姿しか無いだろう。
「バルパアアアアアアアアアアァー!」
バルパーの言葉に激昂する木場だがアーシアの治療も終わらず先ほどの爆発の傷は癒えておらず、全身に巻きつく光の鎖の拘束によって立つことさえままなら無い。
「ふん」
そんな木場を嘲笑う様にアナザーワイズマンは踏み砕いた結晶のカケラを木場の元に蹴り飛ばす。
「欲しければくれてやろう。それがお前の仲間の成れの果てだ。クズには似合いの末路だろう?」
ガンッ!
その瞬間、四季のエクスカリバーとアナザーブレイブの統合聖剣がぶつかり合った。
「おっと! 先ずはオレの相手してくれませんかね!?」
「詩乃、クリス先輩! バルパーを頼む!」
「ああ!」
「ええ!」
二人に指示を出すと切り結んでいたアナザーブレイブの体を蹴り飛ばし距離を取る。
「雫、二人の補助を頼んだ」
「うん」
四季の事はアナザーブレイブが離してはくれないだろう。だからこそ、アナザーワイズマンは詩乃達三人に任せるしか無い。
エクスカリバー(偽)に因縁がある木場が動けるのなら木場の望み通り丸投げして詩乃達と一緒にアナザーワイズマンを倒せばいい事だが動けない以上はそうもいかない。
「バルパー・ガリレイ。お前は聖剣の伝記を読んだ事が有るのか?」
「ん? ああ、聖剣の伝記に幼少の頃から心躍らせたものだよ」
「だとしたらとんだ笑い話だな」
「何?」
アナザーワイズマンの言葉に嘲笑を浮かべる。
「オレから因子を奪った所でお前が本物のエクスカリバーを使えるわけがないだろう」
そもそも、転生特典でガチャの中の型月世界のエクスカリバーを使っているだけなのだから聖なる因子なんて持っているのかも怪しい。
黄龍の器(陽)である事は確かな様だが……
「アーサー王の物語において、カリバーンは騎士道に反する行為をした主人に対する抗議の様に折れたと書かれている物もある」
「小僧、何が言いたい?」
震えながら告げられるアナザーワイズマンにエクスカリバーを突き付け、
「例えオレから因子とエクスカリバーを奪ったとしても、お前の様な外道に使われるくらいなら、エクスカリバーは自ら折れる事を望むはずだ!」
「っ!?」
「お前の心躍らせた伝記の中の悪役の様に、せめてエクスカリバーで斬られることを誇りに思え!」
四季の言葉に怒りに震えているアナザーワイズマン。
因子があったとしても、お前には使えないと言われたのだ。その怒りは推して知るべしだろう。
「小僧……言わせておけばぁ! フリード、あの小僧を殺せぇ!」
怒りに満ちたアナザーワイズマンの絶叫が響き渡る。
其処には兵藤家にて予想通りコカビエルからの宣戦布告が行われていた。
「予想通りの戦争狂か」
聞こえてくる会話の内容によれば、アザゼルとシェムハザを始めとした他の堕天使の組織の幹部達は戦争に否定的であり、|神器《セイクリッド・ギア》の研究に没頭しているそうだ。
(……そう言えば、グレモリーの女王の父親って堕天使の幹部のバラキエルだったな……。あのままライザーと婚約してたらバラキエルも好戦派に合流してたりして)
自分の派閥に幹部がもう一人加われば、好戦派も勢いよくなるだろう。そもそも、コカビエル自体好戦派とは言え相応の人望も有りそうなのだし。
そんな事を思ってしまうが、事前に防がれた事なので今更考えたところで意味はないと切り捨てる。
「まあ、予想通り今夜には動いたか」
返り討ちにしたイリナを宣戦布告の手土産にリアス達に対して宣戦布告を行っていた。
此処で予想外なのはゼノヴィアだけでなく木場も逃げきれていた事だ。
(あれが紛い物だったって分かって、余計に頭に血が上ったと思ったけど、予想外だったな)
イリナの持っていた|擬態《ミミック》も奪われたが、どれも四季の持つ二本のエクスカリバー(fate)には及ばない品物だ。それについては問題ない。
問題があるとすれば、リアスとソーナ、二人揃って|身内である魔王《サーゼクスとセラフォルー》に連絡しなかったという事には二人揃ってその正気を疑うレベルだ。
そもそも、ライザーとその眷属にすら試合で勝てないリアス達の『あとは私達がなんとかする』と言う言葉は何処からそんな自信が湧いてくるのか疑問に思う。イッセーの手にはスクラッシュドライバーも無ければ、彼の|神器《セイクリッド・ギア》は禁手にも至らないのに。
だが、その辺はちゃんと実力差を理解していた朱乃がサーゼクスには連絡済みだった様子だ。その点の冷静さは評価しよう。
対コカビエルに対応できる者の到着までの時間稼ぎを自分達がすると言うのならば文句は無い。
それに加えてコカビエルの力を理解しているドライグが居るなら、イッセーの体の大半を対価に魔王到着までの時間稼ぎはしてくれるだろう。
「さて、準備はいいか? 此処からは正真正銘の命賭けの死闘だ。今からでも不参加でも良い。その場合は安全のためにこの街からなるべく遠く離れて貰うけど……」
不参加を決めた者はナデシコCを使って避難してもらう予定だと四季は自分の目の前に立つ三人の少女に問いかけるが、誰からも逃げると言う選択は出てこない。
「敵の目的は聖書勢力内の内乱の再開とその決着。戦争がしたいなら無関係な人間を巻き込むなって言いたい。奴の身勝手な欲望の為にこの街に住む人たちを犠牲にさせない為にも、オレ達は負けられない」
コカビエルの目的は悪魔側への宣戦布告。リアスとソーナの首と序でにその眷属の首はその為の道具。
流石に自分の陣営である堕天使内の内乱までは望んでいないであろうから、敵とは言えバラキエルの娘である朱乃だけは最低でも生かして連れ帰る程度には手加減するだろうが、リアスとソーナの首を取り、この街を吹き飛ばす事が本来の目的のための宣戦布告と言える。
「オレから言えるのは一つだけだ。全員生きてこの場に戻ろう」
今回は怪盗の正体を隠す為にVSチェンジャーは使えない。状況的に今は素顔での活動をすべきだ。
手甲オリハルコンを着け、オニキスのデッキとどちらでも使用していなかったウィザードライバーを四季は手に取る。
彼女達も各々の武装の確認を終えて、いつでも動ける状態だ。
頷き合い四季達は学園へと向かう。
「当然ながら、結界はあるか」
「で、これはどうするのよ?」
学園の前、ソーナ達シトリー眷属が張っている結界を前に詩乃の言葉が響く。
詩乃の問い掛けには方法も考えてあるのだろうと言う信頼も困っている。
流石にその結界がどこまでコカビエル相手に耐えられるかは疑問だが、コカビエルの力を学園内で留める目的で貼られたそれを進入するために破る訳には行かず、その結界があっては四季達も学園の敷地内には入れない。
「生徒会長達を探して問答している時間もないし、これだけ近いなら問題ないな」
結界を張っている生徒会長を見つけても中に入れてくれるとは限らない以上は、余計な時間を取られる前に他の手段を取るべきだろう。
そう言って四季が取り出すのはウィザードライバーとウィザードリング。
「結界内にテレポートする。中に入ったらすぐに接敵するはずだから、油断するな」
《テレポート、プリーズ》
四季達四人の足元に魔法陣が現れて彼らの姿を飲み込んで行き、次の瞬間その姿は消えていた。
結界内、駒王学園の校庭では木場を欠いたリアス達グレモリー眷属はコカビエルのペットのケルベロスと戦っていた。
ケルベロス。地獄の番犬として有名なギリシャ神話における冥府神ハーデスの元にある神獣。
四季の調査によれば、悪魔や堕天使の住む冥界に住むケルベロスと同じ特徴を持った上位の魔獣の様だ。
流石に本物のケルベロスなんて連れて来たら、ギリシャ神話にケンカを売る行為だろう。……聖書勢力全体としてはすでに手遅れかもしれないが……。
朱乃が攻撃を防ぎ、その隙をついてリアスと子猫がケルベロスを攻撃してイッセーが譲渡するための倍加の時間を稼ぐと言う作戦なのだろう。
そんな中で二匹目のケルベロスが後衛のアーシアとイッセーの背後に現れる。
「もう一匹いるのかよ!? アーシア!」
それに気がついた時、彼らの耳には戦場には似合わない歌声が響く。
~~♪
突然響く歌声に呆気にとられるその場にいる者達を他所に曲調が変わる。
《BGM:魔弓・イチイバル》
「キャウン!」
歌声共に何かがケルベロスを吹き飛ばす。
「な、なんだ、今の?」
歌声共にさらされた攻撃にケルベロスが吹き飛ばされた事に驚愕するイッセーだが、
「へっ、こんだけデカけりゃ、外しようがねえな」
「あら、それでも狙いどころはあるわよ」
「ギャウン!」
続けて聞こえるのは二人の少女の会話と、炎を纏った矢を三つの頭のうちの一つの眼球に受けて悲鳴をあげるケルベロス。
「今の声は詩乃ちゃん? もう一人は……」
「八雲っ!」
イッセーが自分たちを助けた声の主に気がついた時、動きを止めたケルベロスの三つの頭の中の中央の頭に四季の気を纏った拳が叩きつけられる。その脳天への一撃により意識が刈り取られる。
そして、左右の首へと
「火社っ!」
右の首は巫炎の、
「深雪!」
左の首へは雪蓮掌の八雲と同等の上位技を放ち、右の首を炎に包み焼き尽くし、左の首を凍結させ砕く。
三つの首の意識が途絶えたケルベロスが倒れた事で、頭の上から降りて背中を向ける四季。
「グルゥ……」
だが、打撃による衝撃だけだった中央の首は生き残っていた様子でヨロヨロとした動きで立ち上がる。
「トドメは任せた」
「ああ、任された」
一矢報いようとでも言うのか、最後の力を振り絞って自身に背中を向けている四季に襲いかかろうとした瞬間、新たに現れた影がケルベロスの首を切り落とす。
「遅くなった。加勢にきたぞ」
切り落とされたケルベロスの首の上に立つのはゼノヴィアだった。
「スゲェ……って、なんか一人増えてないか?」
詩乃と雫以外にも人影が一人増えている事に疑問を抱くイッセー。
「ああ、コカビエルなんて大物を相手にする訳だから、知り合いに助っ人に来てもらったんだ」
知り合いを助っ人に頼んだ。今はその程度の説明で十分だろう。
「彼女は『雪音クリス』。オレ達の知り合い「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」……って、おい」
クリスを紹介した瞬間、イッセーが急に雄叫びをあげる。
「お、おい、こいつ、どうしたんだよ!?」
「あ、ああ。困った事に正常なんだろうな、変態の」
クリスの姿を視界に捉えた瞬間絶叫をあげるイッセーに対して困惑するクリスと平常運転なんだろうなと思う四季。そして、
「でかぁい! 説明不要! 部長や朱乃さんにも匹敵する見事なおっぱい! しかも、小柄な分余計に際立ってる! 見事なロリ巨乳!」
「ひぃ!!! お、おい、本当にこれが普通なのか!?」
「いや、寧ろ予想通りの反応としか」
鼻血と歓喜の涙を流しながら絶叫するイッセーに、イッセーの舐め回すような視線に怯えて四季の後ろに隠れるクリスと、予想通りすぎる反応にドン引きな四季の構図であった。
『あれ、今一瞬至りそうになっちゃったけど、気のせいだよな、絶対』
人知れず|禁手《バランス・ブレイク》に至りそうになった事に気がついたドライグがいたとか。
精神世界の中で|相棒《ドライグ》が現実逃避している事など露知らず、物凄く情けない理由で禁手になる一歩手前まで至っちゃったイッセーに対して完全に涙目のクリス。脳内保存と言わんばかりの視線に晒されているのだから当然だろう。
流石にイッセーレベルの変態に遭遇するのは初めてなのだろう、自分を呼び出すのに迷っていた理由を心底理解した。
「お、お、お、おい、もしかしてあたしを呼び出すのに迷ってたのって?」
「こいつが原因。付け加えるなら性癖にどストライク」
「ヒィッ」
そう、心底、身をもって理解してしまっていた。鼻の下を伸ばして胸部をガン見してくるイッセーの視線から逃れるべく四季の後ろに隠れている。
「クリスちゃんって言うんだ、オレは兵藤一誠、宜しくな」
「よ、宜しくしたくねえ!」
爽やかさ笑顔を浮かべて挨拶してくるが鼻血流しながらでは台無しである。
「変……兵藤、一つ良いか?」
「なんだよ?」
四季の言葉に、お前には用は無い寧ろよく見たいから退けと言わんばかりの態度で答えるイッセー。
「彼女は一つ上だぞ」
「ええ!? って事は部長や朱乃さんとタメ!? 年上のロリ巨乳ってのも……」
何か妄想の中にトリップしている様子のイッセーから距離を取りながら、後衛の詩乃と雫と合流する四季とクリス。
「おっと、こっちも溜まったぜ」
二人が離れた時、鼻血を抑えながら倍加が限界まで終わったのだろう。何故か色素が落ちているように見える|赤龍帝の籠手《ブーステッド・ギア》を持って、
「部長! 朱乃さん! 譲渡いけます!」
そう二人を呼ぶ。……鼻血を抑えながら。リアスと朱乃の二人に倍加させた力を譲渡すると、その力の大きさを感じ取ったのか逃げ出すもう一匹のケルベロス。
そんな中、ゼノヴィアと同じく駆け付けた木場の|魔剣創造《ソード・バース》によって足止めされたケルベロスが、イッセーの譲渡によって強化された朱乃の雷によって焼き尽くされる。
リアスもまた譲渡によって強化された全力の滅びの魔力をコカビエルへと放つが、等のコカビエルはそれを片手で弾く。
そんな中、
「あっ、完成だ」
興味無さげなバルパーの声が響くが、その視線が四季を捉えた瞬間狂喜の感情が浮かぶ。
「おお、来たか、真なるエクスカリバーよ! 今、四本の聖剣が一つとなり術式は完成した!」
四季の姿を、いや、正確には彼がこの場で使うであろうエクスカリバーに対して歓喜の感情を浮かべながら心からの歓迎の言葉を告げ、完成した聖剣をゴミでも投げるような態度でフリードに投げ渡す。
「あと二十分もしないうちにこの街は崩壊するだろう」
『なっ!?』
バルパーの言葉にグレモリー眷属だけでは無く四季達にも驚愕が浮かぶ。タイムリミットは20分。
どこぞの光の巨人の活動時間よりは遥かに長いが、短すぎる時間だ。
「術式を解除したくばコカビエルを倒すほかない。更に」
「ホイホイ」
そう言ってバルパーとフリードが取り出すのはアナザーライドウォッチ。
『ブレイブ……』
『ワイズマン……』
バルパーとフリードの姿がアナザーワイズマンとアナザーブレイブへと変わる。
「ワシらも邪魔させてもらうぞ」
笑みでも浮かべているかのような口調で告げるアナザーワイズマン。
その目的は一つ、間近で四季の持つ異世界のエクスカリバーの力をその目で見る事なのだろう。
「タイムリミットは二十分か。長々と戦う趣味は無いけどな」
「時間制限なんて聞かされると、ちょっと焦るわね」
「へっ、そんだけ有りゃ十分だろ」
「うん」
三大勢力の戦争を生き抜いた|歴戦の勇士《コカビエル》と倒し難さではライダー怪人の中でもトップクラスのアナザーライダーが二体。その事実に僅かながらも焦りが見える四季。目の前の相手……コカビエルに僅かに気圧されている詩乃と雫。
焦りや気圧されているのが僅かで済んでいるのはこの場に置いて一人、コカビエル相手に気圧されている様子のないクリスの存在故だろう。
彼女だけはこの場に於いて……唯一コカビエル以上の強敵と何度も戦った経験があるのだ。今更強敵とは言えコカビエル相手に気圧される通りはない。
「さあ、小僧! 貴様の持つ真のエクスカリバーの力を見せてみろ!」
やたらとテンション高く宣言するアナザーワイズマン。そんなハイテンションなアナザーワイズマンの姿にコカビエルもちょっとドン引きである。
「……フリード」
「はいな、ボス」
「最後の余興だ。四本の力を得た聖剣で戦ってみせろ」
「そうだ! その四本統合の聖剣ならばエクスカリバーと打ち合っても簡単に折れる事は無い! さあ、存分に真のエクスカリバーの力を見せろ!」
コカビエルドン引きのハイテンションで叫ぶアナザーワイズマン。
「ヘイヘイ、まーったく、オレのボスは人使いが荒くてさぁ。でもでも、ちょー素敵仕様になった聖剣を使ってでマジモンエクスカリバーにリベンジマッチできるなんて、光栄の極み、みたいな?」
ケラケラと笑う様子でアナザーブレイブは四本統合された聖剣を振り回しながら四季へと聖剣を向け。
「さあ、リベンジマッチと行きましょうかねぇ!?」
そう宣言する。
***
「……一つ聞きたいんだが、何故バルパーは君に対して真のエクスカリバーと言っているんだ?」
「ああ、それか? 異世界の、と言う注釈は付くけど」
武器の中から型月世界仕様のエクスカリバーを取り出し、
「正真正銘の本物のエクスカリバーを借り受けてるからな」
『っ!?』
四季がエクスカリバーを構えながらそう告げた瞬間、イッセーと木場、子猫以外の全員に驚愕が浮かぶ。
リアスと朱乃もイッセーから話は聞いていたが、実物を前にしては気圧されてしまう。
「ま、まさか……本物のエクスカリバー、だと?」
呆然と呟くゼノヴィア。
質量的には優っているが、自分の手の中にある|破壊の聖剣《エクスカリバー・デストラクション》とは比べ物にならない存在感を持った四季の持つ聖剣。
それだけでも真のエクスカリバーとは信じられなくとも、理解してしまう。その剣は聖剣としての格が違うと。
「エクス……カリバー……」
憎悪の困った視線で四季の持つ聖剣エクスカリバーを睨みつけるのは木場だ。
「同志の仇は僕が討つ!」
四季に砕かれる前に、そう考えたのか、そう叫び真っ先にアナザーブレイブへと向かっていこうとした木場だったが、
『バインド……ナウ……』
「ぐぁっ!」
光の鎖に全身を巻かれ、受け身もとれずにそのまま顔面から地面に倒れこんでしまう。
「黙れ、転生悪魔の小僧」
『エクスプロージョン……ナウ……』
「木場ぁ!」
続いて襲われた爆発に吹き飛ばされてイッセー達の元へと吹き飛ばされる。
「これから始まるのはエクスカリバーの名を与えられた聖剣に対して真のエクスカリバーの力を見せる戦いだ! 貴様の様な聖剣ですら無いナマクラを量産することしかできぬ者が入って良い戦いでは無い!」
狂気の困った叫び。それに同調する様にアナザーブレイブも、
「そう言う事っすよ悪魔くん。そんなに首チョンパして欲しかったら、エクスカリバーとのリベンジマッチ終わったらしてあげるから、邪魔しないでちょうだいよ」
ケラケラと笑いながら興味ないと告げるアナザーブレイブ。
「巫山戯るな! バルパー・ガリレイ! 僕は聖剣計画の生き残りだ!」
「……聖剣計画? ああ、懐かしい計画だな。ああ、全く、真のエクスカリバーに出会えた今となっては無意味な事をしていたと思うよ」
何かを懐かしむ様にシミジミと呟くアナザーワイズマン。
「紛い物と紛い物すら扱えん出来損ないどもに、ワシの貴重な時間を長々と割いたと思うとな」
「巫山戯るなぁ!」
激昂する木場だが、アナザーワイズマンはそんな木場へと興味を向ける事はなく、彼を拘束する魔力の鎖も解ける事はなかった。
「巫山戯るな、バルパー・ガリレイ。ぼくはあなたに殺された身だ、悪魔に転生して生きながらえている」
怒りに震えながら、木場はアナザーワイズマンへと問う。
それだけは聞かなければならない、死んだ同志達のためにも知らなければならない。
「何故、あんな事をした?」
「ん? ああ、肝心の聖剣が偽物である事を除いては一応は成功していたよ、あの計画は」
どうでも良いとばかりに投げやりな返事をして何処からか取り出した結晶のような物を足元に投げ捨て、踏み砕く。
「自分では使えないからこそ使える者に憧れた。そこの小僧の様にな」
四季を見るアナザーワイズマンの宝石を模した異形の仮面の奥には恍惚という表情が浮かんでいる事だろう。
「成功? 僕達を失敗作と断じて処分したじゃないか!!」
「聖剣を扱うには何らかの因子が必要であることに私は気が付いたのだよ。被験者はほぼ全員にその因子を確認できたものの聖剣を扱える数値に満たなかった」
呆れた様にため息を吐くアナザーワイズマン。そんな相手の表情に、
「……なるほどな。今回送られてきた、安全に作られた聖剣使い二人。なるほど、聖剣計画の成果は、天界側にとってお前を始末しない程度の功績にはなっていた、と言うわけか?」
「ほう、気がついた様だな、流石は真の聖剣の使い手だ」
四季の呟きに感心した様に応えるアナザーワイズマン。そして、四季の推測を採点する様に黙ることで続きを促す。
「一人分の因子で無理なら必要な分を足せばいい。お前は見つけ出したと言うことか? 『因子を抽出して集める方法』を」
四季にしてみればビルドドライバーやスクラッシュドライバーが使用可能になるハザードレベルのことを知っているからこその発想だ。
だが、そのレベルを一つあげるのにもビルド本編に於いてエボルトも苦労していた。短時間で楽に強化できる方法があるのならまずはその方法を模索するだろう。
それが推測の切っ掛けだったが、
「くくく……ハハハハハハハハハハ! 正解だ、満点をくれてやろう! 私の至った結論そのものだ!」
「なるほど読めてきたぞ、聖剣使いが祝福を受ける時体に入れられるのは……」
「他者から抜き取られた聖剣使いの因子を物質化した物だろうな」
四季の答えに狂笑しながら肯定するアナザーワイズマン。更にゼノヴィアの言葉から多くの犠牲の上になりたった研究のデータが今の聖剣使いの量産に繋がっているということが明らかになった。
それが天界側がバルパーを生かして追放した理由。バルパーの出した功績、と言う事だろう。
「その通りだ。先ほど砕いたのが、その聖剣計画で結晶化させた聖なる因子だ」
「っ!?」
アナザーワイズマンの言葉に木場の表情がこわばる。
「私の理論によって聖剣使いの研究は飛躍的に向上した。だが教会は研究資料だけを残し、私だけを異端として追放した」
医薬品の研究でも人体実験のデータは大きな発展をもたらす。非人道的な手段を持って行えば発展の速度は大きく違うだろう。
四季の中にある桐生戦兎のそれはバルパーの言葉の意味を理解し、同時に怒りに変える。
「貴殿を見るに私の研究は誰かに受け継がれていると様だな……。ミカエルめ、私を断罪しておいて……」
そう、研究は今も続いている。ゼノヴィアとイリナの存在こそがその証拠なのだ。
誇りのはずの聖剣使いの称号が、その真実は教会の罪そのもの。ゼノヴィアの心境としては穏やかではいられないだろう。
「……同志達を殺して因子を抜いたのか?」
「そうだ。3つほど使って、もう不要になった残った一つは先ほど砕いたがね」
「ヒャッハハハ! オレ以外の連中は因子に対応できず全員死んじまったがな!」
アナザーワイズマンの言葉を笑いながら補足するアナザーブレイブ。
「テメェ……」
「お前の身勝手な欲望のために、どれだけの命を弄んだ……?」
バルパーの言葉に怒りを露わにするクリスと四季。
「そんなモノ、もう全てどうでもいい事だ。当初の目的であった愚かな天使と信徒どもに私の研究を見せつける事も、今となってはもうどうでもいい」
不気味なほど穏やかな口調でアナザーワイズマンは言葉を続ける。
その心の中には既に新たな野望がうごめいていた。
「貴様だよ、真のエクスカリバーの使い手よ! お前の中にあるであろう聖なる因子を抜き取れば、私自身がなれるのだ! 憧れていた、聖剣の……エクスカリバーの使い手に!」
そう、アナザーワイズマンの……バルパーの目的は四季と出会った事で既に変わっていた。
真のエクスカリバーが目の前にある。自分が研究してきた聖剣など歯牙にもかけない完全な、本物の聖剣が。
伝説のアーサー王から四季に貸し与えられたと語られたそれも、自分に届けられるために渡された様にしか見えていない。否、既にそう思い込んでいる。
彼の頭の中にはエクスカリバー持った使い手となった己の姿しか無いだろう。
「バルパアアアアアアアアアアァー!」
バルパーの言葉に激昂する木場だがアーシアの治療も終わらず先ほどの爆発の傷は癒えておらず、全身に巻きつく光の鎖の拘束によって立つことさえままなら無い。
「ふん」
そんな木場を嘲笑う様にアナザーワイズマンは踏み砕いた結晶のカケラを木場の元に蹴り飛ばす。
「欲しければくれてやろう。それがお前の仲間の成れの果てだ。クズには似合いの末路だろう?」
ガンッ!
その瞬間、四季のエクスカリバーとアナザーブレイブの統合聖剣がぶつかり合った。
「おっと! 先ずはオレの相手してくれませんかね!?」
「詩乃、クリス先輩! バルパーを頼む!」
「ああ!」
「ええ!」
二人に指示を出すと切り結んでいたアナザーブレイブの体を蹴り飛ばし距離を取る。
「雫、二人の補助を頼んだ」
「うん」
四季の事はアナザーブレイブが離してはくれないだろう。だからこそ、アナザーワイズマンは詩乃達三人に任せるしか無い。
エクスカリバー(偽)に因縁がある木場が動けるのなら木場の望み通り丸投げして詩乃達と一緒にアナザーワイズマンを倒せばいい事だが動けない以上はそうもいかない。
「バルパー・ガリレイ。お前は聖剣の伝記を読んだ事が有るのか?」
「ん? ああ、聖剣の伝記に幼少の頃から心躍らせたものだよ」
「だとしたらとんだ笑い話だな」
「何?」
アナザーワイズマンの言葉に嘲笑を浮かべる。
「オレから因子を奪った所でお前が本物のエクスカリバーを使えるわけがないだろう」
そもそも、転生特典でガチャの中の型月世界のエクスカリバーを使っているだけなのだから聖なる因子なんて持っているのかも怪しい。
黄龍の器(陽)である事は確かな様だが……
「アーサー王の物語において、カリバーンは騎士道に反する行為をした主人に対する抗議の様に折れたと書かれている物もある」
「小僧、何が言いたい?」
震えながら告げられるアナザーワイズマンにエクスカリバーを突き付け、
「例えオレから因子とエクスカリバーを奪ったとしても、お前の様な外道に使われるくらいなら、エクスカリバーは自ら折れる事を望むはずだ!」
「っ!?」
「お前の心躍らせた伝記の中の悪役の様に、せめてエクスカリバーで斬られることを誇りに思え!」
四季の言葉に怒りに震えているアナザーワイズマン。
因子があったとしても、お前には使えないと言われたのだ。その怒りは推して知るべしだろう。
「小僧……言わせておけばぁ! フリード、あの小僧を殺せぇ!」
怒りに満ちたアナザーワイズマンの絶叫が響き渡る。