第二章『聖剣! 二つのエクスカリバー』

まだ雨の降る中、暗い目をした木場は傘も刺さずに雨に濡れながら、一人歩いていた。

(聖剣エクスカリバーへの復讐を忘れたことなどなかった。ちょっと学園の空気に呆けてただけだ)

それはほんの僅かなキッカケで彼の中に蘇った……いや、再燃した復讐心、

(仲間も、生活も、名前も……主人であるリアス・グレモリーに貰った)

以前の人生を忘れて新しい人生を送ってもらいたいと言うリアスの願いでもあったのだろう。
それは確かに木場にとって幸せな物だった。

(これ以上の幸せを願うのは悪い事だ。想いを果たすまで、同志達の分を生きていて良いなどと思ったこと、っ!?)

どっさに感じた殺気に反応し、自身の神器から魔剣を創り出し、殺気が向けられた方へと振るう。

交差するのは二つの刃。襲撃者の刃を受け止めながら木場は襲撃者を一瞥する。

切りかかってきたのは白髮の同年代と思われる少年。互いに距離を取り狂気に満ちた笑みを浮かべる。

「やっほ、お久だね」

「『フリード・セルゼン』……まだこの街に潜伏していたのか」

「ありゃ? 御機嫌斜め? 俺っちは君との再会劇に涙ナミダでございますよ! しかも、こーんなスペシャルな武器とすんごーい、力まで貰っちゃって、もう! 超々ごっ機嫌でございます! って感じなのよ!」

「……その剣は!?」

フリードと呼んだ男の持っている剣に驚愕と同時に憎悪が宿る。その剣は、

「お前さんの魔剣とこの力を使った俺様のエクスカリバー、ちょーっと、どっちが上か試させてくれないかね? お礼は殺して返すからさぁ!」

聖剣エクスカリバー。木場にとって憎悪の対象である剣だ。
しかも、それに注意が向いているが故に気付いて居ない。フリードの片手に握られている時計のような物の存在に。

「そんじゃ、行くよー! 行くよー! 行っちゃうよー! へーんしん、とお!」


『ブレイブ……』


同時にそんな音が響くと、フリードは起動させたアナザーライドウォッチを己の中に埋め込む。
フリードだった男はエクスカリバーを片手に持ち、片手は剣が収められた盾と一体化している青い騎士を思わせる怪物へと姿を変えていた。
その名はアナザーライダーブレイブ。エグゼイドの世界に存在する仮面ライダーブレイブを歪め、誕生したアナザーライダーだ。























その頃四季達は、

「行って……火龍っ!」

「守護をっ」

「八雲っ!」

眼前の巨大な異形の怪物に詩乃の放った炎を纏った矢が突き刺さり、雫の防御術を受けた四季が攻撃を掻い潜りながら強烈な一撃を放つ。

現在進行形で旧校舎の中で修行中の三人であるが、今回は単純に修行だけでなく、新たな手札の実験でもある。
先ほどの攻撃で弱った異形に対して四季と雫は、

「行くぞ、雫」

「うん。私の力、四季に預ける」

そんな言葉を交わし、互いの気を共鳴させ、循環、そして増幅させる。
今は三人しかいないが相性によって二人以上の力を増幅させて放つ一種の合体必殺技である方陣技。
今使うのは、黄竜の器である四季と菩薩眼の力を持つ雫による方陣技。

「「破邪顕正っ、黄龍菩薩陣!!!」」

その実戦での試し撃ちも兼ねていた。
二人の光の柱の中に昇る黄竜に飲み込まれ、異形はその姿を消す。

「凄い技ね」

目の前のそれを見た詩乃の呟きが溢れる。二人の方陣技は対象になった異形を跡形も無く消し去り、その威力は十分である事を物語っていた。

「対コカビエル用のカードには丁度いいかな、これは?」

方陣技の破壊力では、比較的下位に入る技だが、それでも十分に強力な破壊力を秘めている。
現在、仮面ライダーへの変身を除けば一番強力な手札なのだ。

「流石にウィザードの太陽蹴りは、な」

ファントムの方のフェニックスに対する仮面ライダーウィザードの決め技である。再生と強化を繰り返す不死のファントムに対して太陽に蹴り飛ばす事で文字通り、不死のファントムに、無限の死と再生を贈ったわけだ。

コカビエル相手にそこまでする必要があるかは分からないが、太陽に蹴り飛ばせば大抵の敵は倒すことはできるだろう。
だが、付け加えるなら今のところウィザードの力は暫く切り札として隠しておきたいのだ。…………余計なトラブルさえ起こらなければ。

「それは……流石に、ちょっとやり過ぎじゃない?」

「オレも今そう思った」

まあ、考えてみるとそこまで確実に抹殺する必要が有るかと問われたら、やり過ぎでしかない。

取り敢えず、叩きのめして引き取りに来た白龍皇に引き渡せばコカビエルの一件は解決なのだから、態々太陽に放り込んでまで確実に始末しなくてもいいだろう。下手したらオニキスでも十分である可能性だってある。

だが、事件の規模としてはこの一件は一気に大きくなってしまうのも事実だ。

「だけど、今回ばかりは万が一の可能性も回避したいからな」

そもそも、自分達だけでなくアナザーライダーにナイトローグというイレギュラーまで居るのだから、何処でズレが生じるかは分からないのだ。

旧校舎地下での戦利品を拾い集めつつ、一度休憩のために地上部分に戻りながらそんな事を思う四季だった。













真神学園旧校舎。
其処が四季のダイオラマ球の中にある二つの建物の一つで、東京魔人学園剣風帖における主人公達の特訓場所である。

その中のミーティングルームとして利用している教室の一室。
どうやって此処に電気が通っているかは分からないが、本棚、冷蔵庫、ソファー、エアコンまで置かれた其処は一種のリビングルームとなっていた其処に特訓を終えた四季達三人の姿は有った。
本棚には各々の持ち込んだ雑誌や漫画本が詰め込まれている。学校の教室の面影は残っているが、完全にリビングルームだ。

「調理施設とか有れば良いんだけどな」

「電子レンジで冷凍食品とかを解凍するしか出来ないわね」

「あとは、お菓子くらい」

時間の流れが違うとは言え最低一日はここにいる必要があるので、ちゃんとした食事を用意する必要がある時は、もう一つの施設である龍泉寺に行くしか無い。そっちにはしっかりとした台所もある宿泊施設がある。

「取り敢えず、オレの知識が正しければ、この先に起こるのは木場に関係してくる」

前回のフェニックス家との御家騒動とは違い、今回の事件は失敗してしまったら街一つが消えて無くなってしまうという、大規模な被害が起こる。
その為に可能な限り情報は共有して置こうと判断した訳だ。
なお、この場所を選んだのはナデシコと並んで、間違っても誰かに聞かれる心配がないからである。

「敵は、先ずはぐれエクソシストのフリード。こいつはコカビエルが奪った聖剣を持っている」

「剣士なら私達が相手するのは不利ね」

「ああ。コカビエルを除いて唯一の戦闘要員だからこいつを倒せばあとはコカビエルだけだ。二人目は研究者のバルパー」

聖剣計画の首謀者でありこれから起こる事件の首謀者の一人としてその名を挙げる。
飽く迄原作ではコカビエルに始末されたので戦闘描写がなかった事から戦闘力は分からない。
だが、研究者が弱いなどと言う考えは持たないほうが吉だ。
|主役ライダーの色違いに変身する神《仮面ライダーゲンム》とか、
|レモン公爵なマッドドクターな戦極《仮面ライダーデューク》とか、
仮面ライダービルドの葛城親子とか、
他にも仮面ライダー世界には強い科学者は多い。
しかも、上げたのは仮面ライダーに変身できる連中に限定しているが、怪人まで入れたらキリが無い程に強い科学者は多い。

「そして、最後に敵の首魁のコカビエル」

バルパーは一応コカビエルに不意を突かれたとは言え始末されたから、強かったとしてもコカビエルよりは辛うじて下に位置しているだろう。
未知数としか言えないバルパーの実力はさておき、事前の情報で要警戒なのはやはり堕天使の幹部のコカビエルだろう。

「神話に名を刻む堕天使勢力の幹部の一人、好戦派の代表と言うこともあって、強敵であることは間違いない」

原作では白龍皇の鎧を纏ったヴァーリに倒されていたが、イッセー達の戦う相手とは下級から中級の堕天使からフェニックス家の三男と、戦った相手としてはその前の敵と比べて爆発的に敵のレベルが上がってるとしか思えない。
現にイッセーの|禁手《バランスブレイク》が無いとは言え、全く手も足も出なかった相手だ。

だが、問題はそれだけでは無い。

「それに、問題は他にもあるでしょう?」

「ああ。ナイトローグの動きだよな」

詩乃の言葉にそう同意する。リアス・グレモリーとライザー・フェニックスとの婚約解消を賭けたレーティングゲームの特訓の最中に動いていた奴が今回は暗躍していないとは考え辛い。

寧ろ、奴が何らかの目的を持って動いているのなら、今回はグレモリー眷属もターゲットに入っている可能性さえある。

「上手く、コカビエル一味と共倒れにでもなってくれれば楽なんだけどな……」

「そう上手くは行かないわよね……」

「うん」

四季の言葉に同意する二人。実は既にナイトローグはコカビエル一味と接触しているのだが、そんなことを知るよしもない三人だった。



***




旧校舎地下

「こんな物か?」

仮面ライダーウィザードへの変身を解除すると、次は以前アナザーリュウガを倒した時に回収した龍騎ライドウォッチを取り出す。

「……アナザーライドウォチじゃ無いから、アナザーライダーになる事はないだろうけど……」

これを使えば、何か敵の狙いが分かるかも、そんな考えと共に龍騎ライドウォッチの起動スイッチを押す。


『龍騎!』


ライドウォッチを起動させた時、自身に何かの変化はない。だが、確かに変化は起こっていた。

















放課後、四季達三人は何故かまたもオカルト研究部に連れてこられていた。いい加減、約束を果たして欲しいところだが、何やら『非常事態で大事な事』らしい。

「で?」

今にも斬りかからんばかりの憎悪のこもった表情を浮かべている木場。彼の視線の先にはテーブルを挟んで座っているリアスと朱乃のグレモリー眷属のトップの二人と、ロープ姿の今回のゲストの二人である青髪の少女とツインテールの少女の二人。

「何でオレ達は呼ばれたんだ?」

青髪の少女は『ゼノヴィア』、ツインテールの少女は『紫藤 イリナ』と言うらしい。
聞いた話によれば教会の関係者らしく、今回は悪魔側との交渉の為に此処に来たらしい。

「それは私も気になっていた」

ゼノヴィアと名乗った青髪の少女が四季の言葉に同意する。こんな場所に無関係な第三者がいれば当然な話だ。

「ええ、彼等は私達三大勢力に属していない裏の関係者よ。今回は中立の立場の立会人として此処に来てもらったわ」

悪魔と天界の下位組織の教会との交渉の場、その立会人に中立な立場の第三者の参加を望むのは当然だろう。
特に、今回の一件では堕天使サイドが敵側な以上、三大勢力の外から立会人を選ぶ必要があり、駒王学園にいるどこの勢力にも属していないフリーの異能者として四季達に立会人として白羽の矢が立った訳だ。

勝手に決められた四季達としては納得出来ないところもあるが、その辺の事情を知らない側は、それを聞いて納得したとばかりにイッセーの幼馴染らしいイリナが口を開く。

「先日、教会に保管、管理されていた聖剣エクスカリバー三本が奪われました」

彼女は真剣な表情でそう話を切り出した。

(相手が堕天使の幹部なら教会からの強奪も可能か)

聖剣の管理体制にもよるが、相手がコカビエルなら、奪われた事を責めるのは酷と言う物だろう。だが、次の言葉は四季の予想を外れていた。

「しかも、そのうちの二本は奪われた事に気付かれない様な鮮やかな手口で盗み出されていたことから、此方では少なくとも奪った犯人は2組と推測されています」

(盗み出した? 力技じゃなくて、か?)

「えっ? 伝説の聖剣のエクスカリバーって、そんな何本もあるのか?」

聖剣エクスカリバー。ある意味日本でも有名な聖剣。アーサー王の伝説は知らなくても、ゲームなどの知識くらその名前だけは知っていると言う者も多いだろう。

「イッセーくん、真のエクスカリバーは大昔の戦争で折れたの」

「折れた? チョー有名な剣なのにか?」

「いや、元々エクスカリバーは折れたカリバーンと言う聖剣を打ち直したと言う説もある。既に一度折れた以上、もう一度折れても不思議はないだろ?」

イッセーへと説明するイリナの言葉に続いて四季がそう補足する。
二天龍、特にドライグとエクスカリバーは縁があるだけに『勉強不足だな』と言う意思を込めた言葉だったが、当のイッセー本人もそう受け取ったのだろう、ムッとした表情を浮かべている。
そこまで言うと「更に」と前置きして、

「しかも、そのカリバーンが折れた状況が騎士道に反する行いをした使い手への、聖剣から抗議の様なものと言う説だってある」

『|聖剣《エクスカリバー》が折れたのは聖剣からの抗議、天界はよほど酷い使い方をした』と言う四季の言葉の意味も理解できたのだろう、イリナとゼノヴィアの二人もイッセーと同様にムッとした表情を浮かべていた。

「ついでに言うと本来ならばどの説でも最終的にエクスカリバーはアーサー王の名で部下の、円卓の騎士の手で湖の乙女に返還されている。その伝説が正しいとすれば、キリスト教の教会がエクスカリバーを管理しているのには疑問が湧く。まあ、それでも、管理している時点で考えられる可能性は三つ」

今から言うのは聖剣を憎悪している木場や教会関係者に対する特大の爆弾だが、後から真偽の程を確かめる気はないので単なる推理として聞いて貰おうと、挙げた握り拳から指を3つ伸ばす。

「1つは返還されたエクスカリバーを天界側が強盗、強奪した可能性。2つはアーサー王の子孫や縁者を経て湖の乙女から借り受けた物を未だ返還していないだけ。最後に3つ目は自らの剣をエクスカリバーと呼んでいたリチャード1世の持っていたそれなりの力の有った無銘の聖剣」

要するに四季のあげた可能性は……教会にあるエクスカリバーは盗品であるか、エクスカリバー(偽)で有るかの三択。

「「「っ!?」」」

その仮説に木場とイリナとゼノヴィアの三人の表情が変化する。
それでも、イリナとゼノヴィアは3つ目の可能性で納得したのだろう。リチャード1世の使っていたそれなりの力を持った無銘の聖剣ならば天界の手にある事も納得出来る。
だが、木場としては3つ目の選択肢は決して受け入れられる物ではない。それを受け入れてしまったら、自分や自分の仲間達はエクスカリバーどころか、単なる無銘の聖剣の犠牲になったと言うことになるのだから。

エクスカリバーどころか無銘の聖剣すら扱えなかったのが己や己の仲間達。そんな物が事実だとしたら、それは木場にとって、絶対に認められるものではない。

「……彼のあげた可能性は兎も角、今のエクスカリバーはこんな姿さ」

まだ四季の仮説に納得は行かないのだろうが、そう言ってゼノヴィアが巻き付けていた布を取り除いて背負っていたエクスカリバーの姿を見せる。
……それによって憎悪の対象であるエクスカリバーの姿を直視した木場の憎悪の視線が更に強くなる。

「折れたエクスカリバーの破片を集め、錬金術によって新たに七本が作られた。……私が持っているのがその一つ、『|破壊の聖剣《エクスカリバー・デストラクション》』。これはカトリックが管理している」

そう言って彼女が再び聖剣を布で覆うとイリナが腕に巻きつけていた糸のような物が彼女の手の中で日本刀のような形にかわる。

「私の方は、『|擬態の聖剣《エクスカリバー・ミミック》』……の日本刀形態」

そして、今度は日本刀形態から再び糸状に変わり、ハートマークを作ってみせる。

「こんな風に形を自由に変えられるの。すごく便利なんだから」

「確かに便利そうだな」

「そうね、確かに便利ね」

「でしょでしょ」

何処か自慢気に言うイリナの言葉に同意する四季と詩乃。自分の聖剣が褒められたのが嬉しいのか、当のイリナもうれしそうだ。
まあ、四季は四季で『防具や手甲にもなりそうで便利だな』とか、詩乃は詩乃で『防具や弓に出来て便利かも』と思っているので、二人とも剣と言うよりも聖剣のオーラを持った扱い易い武具としてみている。
まあ、何処ぞの小説では日本刀の技術で作った銃や全身鎧すらも刀と言い張っているのだから、形状を変化させた剣を聖剣と扱っても問題は無いだろう。

刀剣程ではないが詩乃の弓矢も普段から持ち歩くのは手間なのだ。四季が側にいないと手持ち武器がVSチェンジャーしか使えない上に、VSチェンジャーはルパンレンジャーとしての活動用なので、事実上詩乃は四季の近くに居ないと戦えない事になる。
弓道部にでも入部して弓を持ち歩くべきかと一度は考えて見た事もある。

「なるほど、そうなると盗まれたのは、残りの聖剣の中から考えて、『|天閃《ラピッドリィ》』、『|夢幻《ナイトメア》』、『|透明《トランスペアレンシー》』の三振りあたりか?」

「「なっ!?」」

「ん?」
 
何気なく呟いた四季の一言に二人が驚愕の声を上げる。

「いや、どうせどれを狙っても奪う手間は変わらないだろうから、狙うなら戦闘に使えるものを優先的に狙うと思っただけだけど……」

「そうじゃなくて、どうしてエクスカリバーの名前まで知ってるのか、それを知りたいんだと思う」

四季の言葉に雫が訂正の言葉を入れる。

「ああ、そっちか。オレ達にもそれなりの情報網がある。それだけだ」

正確には原作知識と言う名の情報源だが、そこまで説明する義理もなければ必要性もないのでそう言っておく。

「……それで、貴女達の要件は?」

今にも2人に斬りかからん様子の木場を真後ろにしてさっさと話を進めようとリアスがそう言葉を続ける。
……先ほどの四季の言葉を聞いて木場の殺気が倍加した気がするがそれは間違いではないだろう。

当然だ。自分やその仲間達はエクスカリバー処か、ただそう呼ばれていただけの無銘の剣の為に犠牲になった。そんな可能性さえも浮かび上がったのだから。
納得は出来ていない。だが、それがエクスカリバーだったなら、まだ良い。それなのに、此処に来て……自分達は、そう呼ばれているだけの無名の剣の犠牲になった。
そんなのは、無駄死にに等しいだろう。

「七本のエクスカリバーはカトリック、プロテスタント、正教会が各二本ずつ保有し、残りの一本は三つ巴の戦争の折に行方不明になっていた。」

(一本だけ行方不明って?)

(ああ、確か行方不明の聖剣は『支配の聖剣』だったか。それが行方不明になってるんだ)

詩乃の問いにそう答える。
まあ、各宗派のパワーバランスを考えると一本だけ行方不明なのは返って丁度良かったのかもしれないが。
パワーバランス的に何処かの宗派が一本だけ多く所有するのは問題だろう。
深読みまでしてしまえば、その行方不明の一振りがアーサー王の子孫に、借りたエクスカリバーを修復したとして、返却された可能性もある。

(どっちにしてもちょっと便利な特殊機能を追加して頑張って作り直したナマクラにしか見えないよな、二本の本物のエクスカリバーを見た後だと)

(そうよね)

(うん、あの二本に比べると)

聞こえないように注意しながらそんな言葉を交わす四季と詩乃と雫の三人。
比較対象は型月世界の聖剣エクスカリバーと言うのも相手が悪すぎるだろう。

「そのうち各宗派から一本ずつが奪われ、この地に持ち込まれたって話さ」

「まったく無用心ね……誰がそんな事を?」

「奪ったのは堕天使組織『|神の子を見張る者《グリゴリ》』の幹部、『コカビエル』だよ」

「堕天使の組織に!? それもコカビエルなんて、聖書にも記された者の名が出るとはね……」
 
(知識通りか……)
 
(そうね、勝てる?)
 
(勝てるさ、オレ達なら……って言いたいけど、不安はあるな。やっぱり使うか、ガチャチケ)

知識通りだが、問題がないわけはない。敵は堕天使の幹部、前大戦の生き残りだ。オニキスやウィザードの力だけで、本当に届くのかと言う不安はあるのだ。
 
「私達の依頼……いや、注文とは。私達とグレゴリのエクスカリバー争奪の戦いに一切悪魔が介入しない事。つまり、今回の事件に関わるな、と言いに来た」

「悪いけど、それは無理な注文だな」

「な、なんだと!?」

なるべく話しに入らない様にしていたが四季は此処で口を出す。

「流石にこの街に入り込んでいる以上、何を仕出かすか判らない。が、予想は出来る。……特にコカビエルはグレゴリの中でも過激派の筆頭、そっちが失敗……いや、行動が僅かに後手に廻っただけでも最低で…、この街にいる魔王の妹二人とその眷属の命、最悪は街そのものを危険に晒す事になる」

「四季」

「お前……」

四季が自分達の心配をしてくれていると思って感動を覚えるリアス達だったが……

「過激派の考えなんて、大抵戦争の再開だろ。要するに、ここに来たのは聖剣を使って魔王の妹二人を殺害、その首を魔王に送りつけて宣戦布告して堕天使と悪魔の戦争、そしてそれに聖剣を持ち出した事で、天界まで巻き込んでの第二次大戦の勃発」

教会組の二人へと視線を向け、

「そっちが関わるなと注文しているのは敵の最優先ターゲットだ。関わってるんだよ、もう既に、この街の悪魔はコカビエルが来た時点で全員今回の事件には、な」

更に笑みを浮かべて、

「悪魔にだって好戦派はいるだろう。天界の関係者が余計な要求をしたから、魔王様の妹君達は犠牲になってしまった! 聖剣を奪われて余計な要求をした天界も敵だ! なんて、叫んで悪魔側の好戦派にも戦争再開の理由を与える」

そもそも、原作に於ける今回の一件自体がコカビエルが主犯だが、実は裏で悪魔と天使の好戦派が協力していたのでは、なんて深読みさえできるのだから。

「その要求は万が一の場合、悪魔側からの天界への宣戦布告の理由になる可能性がある。主の名に殉じると言うのを美談と捉えるのは止めないが、結果的に失敗は新たな大戦へ直結している。それを分かっているのか?」

四季はゼノヴィアへとそう問いかける。
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