第二章『聖剣! 二つのエクスカリバー』

「悪魔は人間と契約を結んでいる」

「急にどうしたの、四季?」

夕食後、ガチャで当てたラグーラビットの味を堪能した後で調べごとをして居た四季の呟きに詩乃がそんな言葉を返す。

なお、ラグーラビットはSAOのゲームの中でしか食べられない食材なだけに、かなり美味かったと言うのが感想で有る。

「いや、最近ナイトローグや、その仲間らしい連中の動きを調べてたら、どうも悪魔の……それも上位の貴族の連中と契約してる権力者を狙って動いてる様子なんだ」

ナイトローグの他にもブラッドスタークが居ても困るので敵の動きを探っていた。
その結果、明らかになった貴族の悪魔と契約した権力者を狙っての行動、それは悪魔側の人間界での動きを妨害するかの様な行動だ。
同時に相応の対価を得る為に、悪魔と契約した者達も相応の権力や財力のある権力者に関係している組織や施設。それらの施設への襲撃。

流石に先手を打たれたら、アナザーライダーと戦うのは厄介なのでナイトローグやその仲間と思われる者の動きの断片らしきものがないか調べて分かった結果だ。
手持ちのライダー以外のアナザーライダーは倒しにくいのだし。

色々と疑問が湧いて来るナイトローグ達の勢力だが、当面は情報収集しながら早いうちに対処する程度しかないのが現状だ。

「ナイトローグの目的が分からない以上は」

「せめて心構えくらいはしておいた方が良いって言う訳ね」

アナザーライダーはウォッチの破壊以外では強制的に変身を解除させたのち、ウォッチを回収するくらいしか四季には対処法がない。
まあ、それでも、手持ちのライダーシステムから考えてウィザード、龍騎、ビルドの三系統ライダーのアナザーライダーは難しい法則を考えずに倒せるのはアドバンテージだが。
……それでも、ビルドになる場合は一度怪盗に変装しなければならないが。

「息抜きは今のうちにしておくか」

つい最近アナザーライダーを倒したばかりで向こうも直ぐには動かないだろう。そう考えて今のうちに、出来る時に息抜きをしておこうと考える。

その息抜きで行く場所が、安全の保証は|魔王《オーマジオウ》さえ匙を投げる危険地帯米花町なのが問題だが。
風都並に危険な街、寧ろ、その辺の通行人が犯罪者の可能性がある東都よりも、ガイアメモリの影響がある人間がある程度分かる風都の方が安全な可能性さえある。

以前入手した米花町にあるレストランの招待券を、球技大会前の今週中に使おうとは思ったのだが、心底|場所《そこ》が不安な四季であった。





















四季がイッセーを盛大にボコった翌日、木場から契約の書類については球技大会まで待って欲しいとのリアスからの伝言を受けたのだった。

四季としても明確に契約の証拠が残るのは都合はいいので多少遅れても構わない。
特に、町が危険にさらされる聖剣事件の発生に前後するだろうが、最悪授業参観の時期までに貰えれば問題ない。

そんな考えで週末を迎えたのだが……

念には念を、と更に時間をずらして。土曜日の夕食に三人で米花町のレストランに行ったのだが、

「被害者は……」

レストランの中に女子高生らしき娘とその父親に眼鏡の小学生くらいの少年の三人連れを見つけた時点で事件が起こるであろう事は半ば予想していたとはいえ、思いっきり事件に巻き込まれてしまった。

厨房の奥の方で何かが倒れる様な音と従業員の一人の悲鳴が響き、それに気がついた少年『江戸川コナン』と男性『毛利小五郎』が被害者を発見した事で事件が発覚し、国内最大の事件発生率の町に相応しい、大半の事件を(探偵のお陰とはいえ)二十四時間以内に解決している警察の最精鋭チームな目暮警部御一行が到着。
そして、毎回の事ながら事件にエンカウントした毛利探偵と「またか」と、呆れた様子で会話している姿を視界の端に捉えながらこう思った。


『あんたの力でも無理なのか、魔王様!?』


と。|魔王《オーマジオウ》でさえ匙を投げる事件発生率の町、下手したら風都の方が安全かもしれない町、それが米花町である。何処からか『すまん』と言う威厳溢れる謝罪の声が聞こえた気がしたのは、気のせいだと思いたい。

(そう言えば……駅で降りる時に他の乗客に必死に呼び止められたり、赤ん坊が泣き出したりしてたよな)

「ところで、なんで私達こんな状況なのに冷静でいられるのかしら?」

「多分、魔人学園の能力の副作用なんだと思う」

詩乃が自分の精神状態に対する疑問を呟くと、推測混じりだがその理由となりそうな可能性を上げる。

東京魔人学園の主人公とその仲間たち。時に花見の最中に日本刀を持って暴れ回る男に立ち向かい、時に街のど真ん中で、突然首無し死体が出来上がっても、それを行った相手への怒りは感じても恐怖する事なく普通に行動でき、時にこんなもの有ったと栄光の手を普通に拾える、強靭なメンタルの高校生達である。
その強靱なメンタルが能力と共に得られたのなら殺人事件の現場で冷静なのにも納得である。

「それはちょっといらない」

雫の呟きに同感だと頷く二人。

だが、巻き込まれた以上はと、耳に気を集中させ警察の会話に意識を向ける。
会話によれば殺されたのはこの店のチーフ・シェフ。別室になっている奥の厨房でスープを作っていた際に何者かに襲われたとある。

(なるほど、店の味のベースになるスープはオーナーシェフか、信用があって任されるチーフシェフが調理するのは当然。他店のスパイに味を盗まれない為に別室での調理も納得だな)

スープは店の味のベースとなる。また、日本料理に主に使われる予め加工された鰹節や昆布などの材料と違い材料の品質を確認した上で店側で加工する必要さえある。
技術も含めて最も信頼の置ける者に調理を任せるのは当然だ。

それは良い。四季が気になっていたのはそこでは無い。

(奥に人って居たか?)

そこだ。半ば癖になりつつある気を使って周囲の気配を探る手順。四季自身それは悪い癖だとは思っているが、奇襲に会う危険性を少しでも減らすために旧校舎での修行の中で自然と身に付いたものだ。
そんな四季でさえ奥に人の気配は感じなかった。感じられた気配の数は店の従業員と四季たちが入店した時に居た客の人数分だけだ。

被害者のチーフ・シェフが気配を絶った上にその場の気配と同化するほどの武術の達人ならば話は別だが…………そんな達人が料理人やってる状況が分からないし、そんな達人が簡単に死ぬとは思えない。

探偵物に超常の力や超科学を持ち込むのは反則とは言うが、四季は今回そんな反則的な手段で探偵役よりも先に、事件発生よりも先に被害者は亡くなってしまって居たと言う事実に辿り着いてしまう。

(全面的に事件解決は名探偵に丸投げしたい所だけど……)

現場を動き回っている小学生のコナンを常識的な大人として止めている毛利探偵だけではなく今回は、

「邪魔したらダメ」

「すみません」

意外と運動神経の良い雫の手によっても止められて保護者の『毛利蘭』に引き渡されて居たりする。本人は奥の調理室に行きたい様子だが、悉く妨害されて居たりする。
その為に証拠集めもできずに推理も進んで居ない様子だ。

基本後衛のヒーラータイプの雫だが、運動神経は悪く無いどころか寧ろ良い方だ。

「さっきから黙ってるけど、どうしたの?」

「いや、結局スープと前菜だけしか食べられなかったから、解放されたら何処かに寄って帰ろうか、なんて思ってな」

そんな四季の返答に詩乃は訝しげな表情を浮かべるが、四季がそう言う時は考えている事を自分達以外に聞かれたく無いと言う事なのだろうと考えてそれ以上追求しないことにする。その程度のことはわかる程度には四季の事は信頼しているのだ。

そんな詩乃に心の中で感謝しつつ意識を推測から外す。
コナンが事件について調べれない状況で無事に事件解決に導かれるのか分からないが、そこはなんとかして貰おう。世の中には安楽椅子探偵なんてジャンルも存在するのだし。

「今回の事件は事故で片付きそうなで、もう帰ってもらっても構いませんよ」

事情聴取が終わり、留められていた他のお客に目暮警部がそう告げていた。
警察側は不審に思いながらも事故の線で捜査を進めるのだろう。
後ろに有った高い棚の上にある食材を取ろうとした際に足を滑らせて調理中の鍋に頭を打ち付けその中身を頭から浴びた。聴覚を強化して聞いた話では一応は状況も説明出来るそうだ。

「いや、他殺だろう」

当面此方に来る気は無いので後日名探偵が犯人を捕まえてくれればそれで良かったが、思わずそう呟いてしまう。

「そ、それはどう言うことかな、天地くん!?」

呟きが聞こえていたのか警察陣の視線が一斉に四季に向いてしまった。

(しまった、声に出てたか)

流石に気配とかそんなあやふやな物で行き着いたとは言えない。どう誤魔化すかと考えると、

「さあ、それを調べるのはあなた方の仕事でしょう?」

思わず声に出てしまったことに表向きは動揺を見せずに対応する。そもそも、論理等、一切関係ない所で気がついたのだから説明のしようがない。

適当にごまかしつつ視線を動かしていると視界の端にコナンの動きを捉える。ちょうど四季の近くのテーブルクロスに姿を隠して腕時計のような何かを向けていた。

一瞬それが光ると同時に…………無意識の内に針のような何かを受け止めていた。

(え……ええー!)

何かの絶叫のようなものが聞こえた気がしたが完全に無意識での行動なので許して欲しい。

(いや、何時もの探偵役が居るんだからそっちを選んでくれ)

内心彼の叫びにそう思って居るが、受け止めてしまった物は仕方ない。四季を選んだのも先ほどの呟きから事件の真相に気がついたと思って探偵役に選んだのだろう。

(あっ!?)

指弾の要領で本来の探偵役に|針《バトン》を渡そうと思った瞬間、力加減を間違えて折ってしまった。

「……」

やっちゃった事にどうしようかと思いながら、折ってしまった麻酔針を証拠隠滅とばかりに床に投げ捨てる。

「どうしたの、顔色が急に悪くなってるけど」

「あ、ああ、ちょっとな」

「表情も引きつってる」

「い、色々とな」

詩乃と雫が顔色が悪くなって表情が引きつって居る四季を心配して聞いて来るが本当の事など言える訳がないのでそう答えて置く。

名探偵の推理の邪魔をしてしまったなど言える訳がない。
視界の端には探偵役を作る事に失敗したコナンが小五郎の推理を誘導して居るのが見えるが、本当にこの事件は解決してくれるのか不安になってしまう。

「詩乃、雫、ちょっと手伝ってくれ」

「「?」」

疑問を浮かべる二人に耳打ちして簡単に現状を説明。
二人の協力の元さり気なく三人で思考を誘導する手伝いをする羽目になってしまった。





内心、問答無用に現行犯で殴り飛ばして解決できる分強盗にでも遭った方が楽だったと思ってしまう四季であった。
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