第二章『聖剣! 二つのエクスカリバー』

「君はこれから、紛い物の仮面ライダーシザースです」


『シザース……』


「あぁぁぁあ!」

目の前でアナザーシザースに変貌させた男を見下ろしながらナイトローグは溜息を吐く。

「ふう。手駒のアナザーライダーの確保も大変ですね」

いくつかのブランクライドウォッチを取り出し、同じ異形の顔が浮かんだライドウォッチへと変化させる。


『『『メイジ……』』』


アナザーメイジウォッチに変えた複数のライドウォッチを仕舞うとナイトローグはアナザーシザースを連れて姿を消す。

「こう言う作業には向いていないとはいえ。聖剣を盗りに行っている彼が羨ましいですね」















無造作に持った鞘に納められた剣を持ちながらその仮面の戦士は二本目の剣を手に取る。教会が所有する聖剣……エクスカリバーの内の二本だ。

「これで良し」

彼、『仮面ライダールパン』は二本の聖剣を見事盗み出すことに成功し、教会を後にする。
あらゆるセキュリティを嘲笑い盗み出す様はまさに怪盗といった所だろう。

残りも盗み出しても良かったが、飽くまで任されていたのはそのうちの二本のみ。
予告状も出せず、盗み出した成果として己の名を名乗れないのは不満だが、今はその時では無いと任された役目に専念する。

「それでは……adieu」

誰に対して言ったのか定かでは無いが仮面ライダールパンは其処から姿を消して行った。











ソードブリンガーを振り回しながら何処かの研究所のような場所で暴れまわるのは、仮面ライダーマルス。

「もう逃げられんぞ」

その研究所の所有者らしい男が怯えながら尻餅をついている。

『人間兵器』、人間を薬品により強化して強力な兵士を作り出すことを目的とした違法な研究施設。目の前の男はこの研究施設の代表で有り、主任研究者でもある。
だが、それも表向きのものでしかない。その研究施設は楽に強力な眷属を得たい悪魔の貴族が自身と契約した権力者を利用してスポンサーとして運営されていた。
死んだ所で成功例は悪魔に転生させればそれなりに使える兵士となる、と。使い捨てであっても駒は戻るので新しい兵士に使い直せば良い、そんな考えの元に作られた研究施設だが、目の前の黄金の騎士の手によってその日壊滅した。

「さて、今度はお前の命をオレ達のために使って貰おうか」


『デューク……』


「ぎゃあぁぁぁ!」

絶叫を上げながら男はアナザーライダーデュークに姿を変える。

「序でだ」


『スイカ!』


マルスは自身のベルトのロックシードをスイカに入れ替える。スイカアームズの力を利用して破壊し尽くし、マルスはその姿を消した。











ナイトローグ達がそんな暗躍する中、駒王では……

「すみません、朝田さんと北山さんはいますか?」

先日の反省からか、イッセーに変わって同じ一年生である小猫が二人を呼びに来た。

流石にソーナからイッセーの今までの行動について注意されてから判断を改めたのだろう。
今までの行動の全ては悪魔への転生前の行動であり、リアスには主人としての監督責任はないが、それでも今後は主人として見ておくようにとのことだ。

そんな訳で同じ一年の小猫が使いを任された訳で、二人の姿を確認して二人の前へと向かって行く。

「えっと……」

「お二人にリアス部長が用が有るそうですから、一緒に来てもらえませんか?」

「「あの変態に近づきたくないから、嫌」」

ほぼ声を揃えて告げられる拒否の言葉。小猫も小猫でやっぱりと顔に書いてある。

何のつもりかは分からないが、昨日イッセーが来たと言うことはリアスからの使いなのだろうと言うことは推測済みだった。

そもそも、一週間ちょっと程度で運動部の合宿の延長レベルの特訓でレーディングゲームでプロに勝てると考えてる時点で四季達の中でリアスの評価は低かったりする。
四季も外付けのガチャで力を貰った身の上ではあるが、それでも訓練場所には恵まれているのだ。それは、


『ダイオラマ球(in旧校舎&龍泉寺)』


があるためだ。外の一時間を中での1日にする機能のあるダイオラマ球に、東京魔人学園シリーズの二大訓練場所が付属したネギまに出て来る便利アイテムである。しかも、ダイオラマ球の中での活動中は老化しないと言う女性陣に配慮された高性能タイプと付属の説明書に書いてあった。

休憩所として旧校舎の教室の一つの設備を整えたり(何処から電力が入って来ているか不明だが)、寺とは言えそのまま使える休憩所があったりして、下準備を終えてから毎日実戦訓練として潜っている。
結果、現在では旧校舎と龍泉寺の内3部屋は四季達のナデシコCに続くプライベート空間に、一番大きな一部屋はミーティングルームになっている。

そんな四季達の特訓事情はさておき、二人の返答にやっぱりと思っても、小猫としてはそこで『はい、そうですか』とは行かないのだ。

「二人とも、迎えに……」

小猫、詩乃、雫の三人がそれぞれの事情でどうするかと思っていた時、ちょうど四季が入ってくる。小猫はちょうど良いとばかりに四季にも来て貰おうと思った訳だ。
イッセーが反対していたからリアスも彼は呼ばなかっただけで元々彼にも目は付けていた。呼んだとしても文句があるのはイッセーだけだろう。

「すみません、天地先輩にもリアス部長が用があるそうなので来て頂けませんか?」

そう告げられた小猫の言葉にどうすると言う視線を二人へと向けると、四季に任せると言う意思のこもった視線を返してくる。

イッセーや木場相手ならバッサリと断っても良い、場合によっては武力行使で黙らせても良いが、流石に小猫のような小柄な少女にお願いされると断り辛い。

「仕方ない、何度も来られても困るからな」

これは本音である。何度も来られても困るので小猫の頼みを聞いてオカ研に行く事を了承する。

「四季、良いの?」

「何度も来られても困るからな」

詩乃の言葉にそう返す四季。毎回来られては動き辛くなるのは避けたいのだし。

そんな四季の意見には二人も同意して小猫の先導の元にオカ研に向かうことになった。











オカ研の部室にある旧校舎。何度も利用しているダイオラマ球の中に設置されている旧校舎も似たようなものだが、掃除が行き届いていて誰にも利用されていないと言うのが不思議なほどに綺麗になっている。

(リアス・グレモリーが人間界での拠点に利用するから掃除も整備もしてあるって所か)

その点に関しては特に思う事はない。一応旧校舎と名のつく建物は似たような物を自分達も利用しているのだし、いずれは解体される建物なのだ、それまでの間利用するのも、自分の金や、自分の実家の金で改装したのなら文句は無い。

「部長、連れて来ました」

「入って良いわ」

オカ研の部室前に着くと子猫は軽くノックをして部室の中にいるリアスとそんな会話を交わしてドアを開ける。

「おお、一年の詩乃ちゃんに雫ちゃん!?  ……って天地まで何でいるんだよ?」

入った瞬間、二人に視線を向けた後四季の姿を見て不満そうな顔を浮かべるイッセーを無視してその部屋の主人であるリアスへと視線を向ける。

「こちらの呼び出しに応じてくれてありがとう、朝田さんに北山さん。それに、貴方も来てくれて嬉しいわ、天地四季くん」

リアスは微笑みながら次の言葉を告げる。

「私達、オカルト研究部はあなた達を歓迎するわ。悪魔としてね」

微笑みを浮かべながら告げられた言葉に警戒心を抱きながら促されるままにソファーに座る。

「粗茶です」

「どうも」

話をする前に朱乃が三人の前にカップに入ったお茶を出す。それに手を付けずに四季は目の前にいるリアスへと視線を向ける。

「それで、ご用件は何でしょうか、グレモリーのお嬢様? まさか仲良くお茶をする為に呼んだ訳じゃ無いでしょう」

「ええ、単刀直入に聞くわ。貴方達、『セント』と言う人物の名前に心当たりはある?」

「セント?」

何の事だと疑問を浮かべる中、聞き間違いに気が付く。

(そう言えば、ドライバーに刻んでおいたな、開発者の名前として)

葛城巧の名前では無く桐生戦兎の名前を刻んでおいたのだが、イッセーに渡したスクラッシュドライバーのその部分が残っていたのだろうと考える。

それが、この世界には存在しない仮面ライダーシリーズの中の登場人物の名前だなどと、知る術も無いだろう。

「知らない名前ですね」

「あら? 貴方が黒い騎士に変身するのに使った道具、あれの開発者の名前じゃ無いのかしら? あの黒い騎士と似た物を確認しているのよ」

リアスが語っているのはクローズドライグの事だろう。オニキスもクローズも共にドラゴンモチーフの仮面ライダーだ。特徴は似ているので同一の開発者と疑うのも無理はない。だが、

「残念ながら、オレのカードデッキ……ああ、これの呼び名ですけど、これを開発したのはユーブロンと言う人物です」

嘘は言っていない。四季の持っているオニキスのデッキはユーブロンの開発した物で間違い無い。

「っ!? そう、それで……そのユーブロンと言う人とはどこで出会ったの?」

残念ながら知りたがっていた情報とは違うかもしれない、そんな事実に表情を歪めるが、直ぐに表情を引き締め直す。
セントとユーブロン、別の名前を使っている同一人物と言う可能性もあるし、違ったとしてもその人物に接触して四季がカードデッキと呼んだ変身の道具を自分達も入手できればそれで良いのだから。

「オレが貰ったのは最初に生徒会の人達を助けた後ですね。鏡の中から現れた、異星人の科学者を名乗ったユーブロンさんから、ね」

THE大嘘。鏡の中、アナザーリュウガやオニキスだけしか移動手段がない場所にいるのだから接触も難しいと考える他ないだろうから、嘘だと知る方法は無いだろう。

(私達の分は諦めるしかないわね。でも)「そ、そうなの」

カードデッキの開発者のユーブロンと名乗った者が、異星人と名乗ったと言うのはツッコミどころだが、それよりも優先するのは勧誘と交渉だと考え直す。
……悪魔も天使も居るのだし、宇宙人がいても不思議では無いだろうし、いない事の証明などその場にいる誰にもできない。

「改めて、天地くん、そのカードデッキかしら? それを譲ってもらいたいの、赤龍帝の神器を宿したイッセーがそれを使えればもっと強くなれるはずなのよ」

「はあ?」

「金銭でも、願いでも、それに見合う対価は支払うわ。それと、朝田さんと北山さん、貴女達に私の眷属になって貰いたいのよ」

悪魔である以上欲しいと思ったものはどんな手を使っても手に入れたい。
そして、ライザーの時にイッセーが使った力はリアスも魅了された。それと似た強力な力が目の前にある。
悪魔という者の象徴的な色の一つである黒い色に、ドラゴンと言うモチーフ。イッセーが身に付ければ赤龍帝の籠手と合わせて、漆黒の鎧に赤の籠手、紅の殲滅姫と呼ばれた自分に仕える為に用意されたのではと思いたくなる程の取り合わせだとリアスは思う。

「残念ながらお断りだ。詐欺を働く気はないんでね」

「詐欺? どう言う意味かしら?」

「何でも、カードデッキには悪用防止の為に最初の使用者のDNA情報が登録され、それ以降は同じDNA情報を持つ者にしか使えない。つまり、売ったところでそっちは使えない道具に対価を支払っただけに終わる。だから、詐欺を働く気はないって言った訳だ」

使えないものを売るのは詐欺だと考える上に、大事な手札の一つを売るわけにはいかない。
開発者のユーブロンならば、DNA登録を書き換えることはできるだろうが、リアス達は四季の言葉に本当かどうか疑問に思う。

「そんなのやってみなきゃ分かんねえだろ!? オレだって使えるかもしれないのに!?」

「イッセーの言う通りよ! 試しても居ないのにわからないわ! それに、そうだとしてもアジュカ様なら解析することも……」

四季の言葉にイッセーが噛み付く。それに同調してリアスも技術担当の魔王ならば解析し、使用者情報を書き換えることも、量産する事も出来るだろうと叫ぶ。

「どっちにしても譲る気は無い。何より……アンタが支払うって言った対価、魔王のお兄さんなら兎も角、単なる次期当主ってだけのアンタに支払って貰えるとは思えないんでな」

「っ!?」

家を継いだわけでは無いのに払えるのかと言う言葉。その言葉に一度言葉を失ってしまうリアスだが、

「それなら此方が対価を支払ってからそれを渡して貰うと言う形にしても良いわ」

「そっちが支払えたとしても売る気はない」

「そう……。それで、貴女達の返事は…」

目の前の力は魅力的過ぎたが断られた以上は、もう一つ魅力的な力を持った彼女達への勧誘の方へと意識を切り替える。

「私は断るわ」

「私も嫌」

リアスの問いに返す形で詩乃と雫からの断りの言葉が響く。

***

「こ、これは……」

リアスの結婚式での赤い怪盗姿の四季の行動の映像は一部の貴族の間には流れていた。
まあ、逃走に宇宙戦艦を持ち出すなどと言うかなり派手な行動をしたので注目されるのは当然だが。

だが、彼女『シーグヴァイラ・アガレス』は四季の逃走に使ったナデシコCに目を輝かせていた。

「あれは……間違いなく宇宙戦艦!? では、あの中にはダンガムが有るはず!?」

妙なマニアの直感がナデシコの中にあるアメイジングストライクフリーダムの存在に気付いていた。…………親とセットで。

後にアメストフリを見た瞬間、「攻撃自由の改修機!? しかも、攻撃と同じ換装機能が……」とマニアックなマシンガントークを親子セットで魔王少女が聞かされることになるのだが、それはまだ未来の話。

「欲しい。いえ、せめて一度だけでも乗せてもらいたいですわ!」

「ああ、どんな対価を払ってでも……乗せてもらいたい!」

親子揃って怪盗に出会ったら土下座してでもナデシコに乗せて貰いたいと考えている辺りマニアの執念が渦を巻いていた。
輝かせた目を血走らせてナデシコの映像を見ているマニア二人の姿にアメストフリを見せたらどうなることかと、妙に未来への不安を募らせる光景である。

この親子、ナデシコCに乗る為に全財産を差し出さないか心配でもある。























「あら、悪魔になれば永遠に近い命や若さも手に入るわよ」

「いや、眷属悪魔の現状考えたら、場合によってはデメリットにしかならないだろ」

四季は、即座に断られた二人に対して悪魔に転生するメリットを示そうとするリアスの言葉にそう呟く。

「どう言う意味かしら?」

「いや、永遠に近い命が手に入るって言っても、相手に支えなきゃならないなら、永遠に近い命の対価は永遠に近い人生って事だろ?」

イッセーに視線を向けながら、この場合は嫌ってる相手と永遠に近い人生同僚をする羽目になると言う事だと思うが、敢えてそこは指摘しない。

別に悪魔が契約で人を騙すのは良い。寧ろそれが悪魔としては正しい姿だろう。契約を守りながら契約を利用して相手を騙すのは騙される側が悪いが、契約を破るのは単なる外道だ。

序でに領地を分けてもらえても領地の経営と言うのも面倒なものがあるのだ。

「そんな事はないわ! それに私は彼女達と話してるの、口を挟まないでちょうだい」

「私としてもそんなメリットには興味ないわ」

「私も興味ない」

四季に対して口を挟むなと叫ぶリアスだったが二人からの返事はまたしても拒絶の言葉。
お前が余計な事を言うからと言うような視線で四季を睨んで来るが、そんな視線を向けられている四季はリアスからの怒気を受け流している。

この世界についての知識を持つ四季の邪魔をしないように関係のないところでは口を出さなかった二人だが、二人としてはそれで良かった事に安堵していた。

「そう言う訳で、オレ達としてはアンタの交渉も勧誘も受ける理由はない」

「私としてはあなたのそれが本当にイッセーには使えないかも、確かめたかったのだけど」

リアスの視線は四季の持つカードデッキへと向かう。

「身内贔屓の評価も程々にした方がいい良いんじゃないのか、お嬢さま? アンタじゃオレ達には交渉する価値すらないしな」

そんなリアスの視線に気付いたのかは分からないが、四季は冷たく言い捨ててカードデッキを仕舞うと、

「試しに貸してやる理由もないし、売る気もないし、要件がそれで終わりならオレ達はこれで帰らせて貰おうか」

「テメェ!」

そう言って立ち上がった瞬間、殴りかかってきたイッセーの腕を受け止める。

「何のつもりだ?」

「五月蝿え! 黙って聞いてりゃ、部長を悪く言いやがって!」

「こっちの評価を言ったまでだ」

「巫山戯んな、部長ほど王に相応しい人は居ないんだよ!」

イッセーの叫びにそっちの部下なんだから何とかしてくれと言う視線をリアスへと向けるが、

「そうね、身内贔屓かどうか試して貰いましょうか」

「おい」

四季の思いとは逆にイッセーを煽ってくれるリアス。

「はい!!! 任せてください、部長! こいつだけはぶん殴らないと気が済まないんです!」

「ええ、頼んだわよ、イッセー」

「だから、何でそうなる?」

そもそも受けるとは言ってないのだ。此処でイッセーと戦うことに対するメリットも無い。

「あら、自信がないの?」

「無いのは自信じゃ無くて、こいつを殴り飛ばすメリットだ」

挑発する様に言ってくるリアスの言葉に呆れたような表情を浮かべながらそう返す。
これから先はまだわからないが、今のイッセーを半殺しにする自信は普通にあるが、態々半殺しにする理由もメリットも無い。

「それなら、貴方がイッセーに勝ったら望む対価を支払うわ。ただし、貴方が負けたらそのカードデッキを貰いましょうか?」

要するに負けたら好きな対価を支払うからオニキスの力を賭けてイッセーと戦え、と言う事だろう。

(折角オレ以外には使えないって忠告してやったのに)

最悪はカードデッキを取られた所でルパンレンジャーになって盗み出せば良いのだが、それでも面倒な物は面倒だ。

「そうか……なら、そっちが負けたら、悪魔勢力はオレ達に関わるな、だ」

明らかにリアスの権限を超えた事を対価に要求する。

「四季、それって悪魔勢力に対する対価になってない?」

「こう言っておけば後で何かしてきても、魔王の妹の名前を出して返り討ちにできる」

そんな対価を出した事に疑問を持った詩乃の問いに四季にはそう答える。
力を知られた以上は悪魔側からの接触がこれから出てくるかもしれない。それに対する対策の一つとして、リアスの名前を出した上で返り討ちにした場合の責任を彼女、延いてはその兄である魔王に押し付けるための伏線である。

「分かったわ」

そんな四季の考えに気付いていないのか、それとも気が付いていても、イッセーが負ける訳がないとでも思っているのかは分からないが、四季の条件を飲んだ。

「悪魔は自分の欲望に正直であるべきだと思ってるのよ。だから、欲しいと思った物はどんな手を使っても手に入れるわ」

「残念ながら、欲望に忠実な奴ほど破滅するぞ」

「忠告痛み入るわ。でも、私はどこまでも悪魔なのよ」

だからイッセーの言葉に乗る形で賭けに持ち込み手に入れる、と。
良い機会だから雫の力も自分の目で確認したいと言うのもあり得そうだ。

実際、リアスは四季からカードデッキを取り上げた上で、二人とは再度交渉すれば良いとも考えていた。
特に雫、最低でも強力な回復手段を持った彼女を眷属に出来れば、アーシアの存在と合わせて二人の回復役が居ればゲームにおける継戦能力は大きく上がるのだ。そういう意味では一番欲しい人材だろう。



















結界が張られた校庭で対峙する四季とイッセーの二人。周囲で観戦する形でお互いの仲間が二人の様子を眺めている。

互いに禁手やライダーへの変身は無し。飽く迄生身での一対一での模擬戦だ。

「行くぜ! 昨日のお返しにぶっ飛ばしてやる!」

「……」

自分の神器である|赤龍帝の籠手《ブーステッド・ギア》を出現させるイッセーと、イッセーの言葉に応える事なく懐から取り出すような仕草で武器庫の端末からオリハルコンを取り出して身に付けている四季。

「って、天地! その籠手はどこから取り出したんだよ!?」

「見てただろ、取り出す所」

ポケットの中から取り出すところは見ていたが、明らかに懐に入っていたサイズの装備では無いだろう。

「大体片手だけでもお前だって付けてるだろ」

「うっ」

イッセーの言葉にそう告げて両手に装備したオリハルコンに僅かに気を流す。初めて使う武器なので多少扱いは慎重に行うが、

(うまく行ったな)

微かな雷気を纏う両手の手甲。輝きから行って普通に存在する金属では無いことには見るものが見れば気付くだろう。
オリハルコンの材料となった金属の特性なのか、この手甲は気を流すことによって雷気を纏う事ができる。実際やって見ないことにはできるかは分からなかったが、問題無いようだ。

「さあ、始めようか」

「へっ! 高々人間に何が出来る、こっちは悪魔だぜ! フェニックスにだって勝てたんだからな!」

ライザーに比べれば大したことはない、此処でカッコ良く四季をぶちのめして詩乃ちゃんと雫ちゃんを自分のものにしてやる、そんな考えを浮かべながらイッセーは殴りかかる。

それに合わせるように拳を放つ四季。|赤龍帝の籠手《ブーステッド・ギア》とオリハルコンを纏った拳のぶつかり合いが、ゴングとなった。
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