第1章
夢小説設定
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「有希子!
「工藤先生、お邪魔していますよ」
「うわっ! もう着いていたのか! は、速いな」
ウィスキートリオさん達と出会った夜から半年とちょっとが過ぎ、私は日本に飛んで活動を開始していた。
とは言え、警備体制の確立されたこの国では【表向きの顔】というものが不可欠。
ということで、“黒の組織”のとある人物の口利きで藤峰有希子こと工藤有希子を介し、工藤優作付きの秘書
正直、日本などという名前に二言三言申したいところではあるが、今回の偽装戸籍は以前の取引で色々あった時にFBIに作成してもらったものを使っているので、名前のセンスが云々等と言えばすぐ撃ち殺されそうだ。
「日本君!あぁ、そ、それ書き上げた原稿だよ。週間Beikaの佐々木さんが取りに来たらまわしてくれ」
無精髭もそのままに万年筆を手にして動揺する男性。
彼こそが世界的ミステリー作家、工藤優作である……といっても、今のこの姿で信じる人物はなかなか少ないだろう。
私は机上に散らばった原稿用紙を集めてトントン、と角を揃え、封筒に入れた。
「分かりました、お預かりします。それから、伸ばしに伸ばしきった東都出版に出す短編の最終原稿と英フォニックス社の祝辞披露文は……?」
笑顔で凄みをきかせると、工藤先生はハハハ…と苦笑いを浮かべた。
「今!今やってるから!ね! 16時までには上げるよ。君は有希子とお茶でもしていてくれ。ゆ有希子ぉー!有希子!」
肩に手を置かれて説得されたかと思えば、くるりと方向を変えられて、入口に向かって背中を押される。
「はいはい、なぁに?そんなに大声で叫ばなくても聞こえてるわよ優ちゃん」
ひょっこりと有希子さんが顔を出した。
「有希子、日本君にお茶でもご馳走して差し上げなさい」
私を部屋の外まで追いやると、バタン!と勢いよく書斎の戸を閉められてしまった。
仕方なく、綺麗な広い居間で有希子さんと2人、これまたお洒落なカップで紅茶をいただきながら、原稿の仕上がりを待つ。いつもの日常だ。
「はぁ。全くもう、優作ったらいっつもこうなんだから。ごめんねぇ、霞ちゃん。大変でしょう?」
「確かに仕事は大変ですけど、世界的な大作家の工藤優作先生の秘書になれたっていうだけで物凄く光栄なことですから」
憧れの有希子さんにもお会いできましたしね、とはにかんだように笑ってみせた。
この仕事は私にとって隠れ蓑に過ぎないが、色々と美味しい所もある。
工藤先生は私の本業は知らないだろうけど、その本業の案件が急に入ったとしても、大所帯な会社ではないので比較的休みやすい。
それに世界的に有名なミステリー作家とあって推理力は段違いらしく、優作氏の元には日々様々な警察組織から難解事件の推理依頼が来る。それが情報屋としてはなかなかおいしい。
有希子さんから愚痴と惚気を聞かされていると、玄関の開く音がして、「ただいま~」と男の子の声が居間に聞こえてきた。
「あら新ちゃん!おかえりなさーい!」
パタパタと廊下を走っていく有希子さん。
「日本さん、どうも」
「新一くん、おかえりなさい。お邪魔してます」
学ラン姿の少年が、先程の有希子さんの様に廊下から居間にひょっこりと顔を出している。
さすが女優の息子、顔面偏差値がとても高い。
「今日も部活?」
「いや、今日は図書館で友達と勉強会でした」
新一くんは居間にはいってきて、私と反対側のソファーに埋まり、ふぁ~と欠伸をした。
「あぁそろそろ期末テストの頃か。頑張ってね、って新一くんなら余裕か」
「そういえば、」
前傾姿勢になって脚の上に肘を置きこちらを見つめる新一くん。
「どうかした?」
「日本さんの昔話って聞いたことないなぁ、と思って」
向けられる、疑いの目。
「私の話なんて君みたいなすごい子が聞いたところでたいして面白くもないよ」
「そうですか?」
少し彼の目が細められた。
組んだ手で隠されて口元は見えないが、心做しか少し微笑んでいる。彼は聡いから既に私の情報か何かを掴んでいるのかもしれない。
「そういうものですよ。人の過去なんて知ってどうなるものでもないでしょ?」
「…ま、そういう事にしておきますか。
そう言い残して、新一くんは明るく笑いながら部屋を出ていった。