第2章
夢小説設定
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「飲みニケーション」に与するつもりは無いけれど、あの飲み会以降、実際に私たちの関係は少しだけ変化したように思えた。
これが変わったという明確なものはないけれど、以前の腹の探り合いのようなどこかギスギスした空気感が若干緩んだような気がする。
(それが私たちの“ビジネス”にとって良いことであるのかは、定かではないけども。)
今日などは、なんと、スコッチに料理を教わる事になっている。
暇を持て余した大の大人達、しかも、普段は殺しや諜報活動をやる人間たちが、料理教室ごっこ。我ながら意味がわからない。
「先生、今日は何を作るんですか?」
少しふざけてスコッチに尋ねた。気分は某ューピー某分クッキングだ。
「肉じゃがでーす。まずは材料をご紹介します」
彼は案の定、楽しげに乗っかってきた。
「ジャガイモと、にんじんと______」
午前中に入っていた任務が先方の都合でドタキャンになったバーボンが、アシスタント役さながらにスコッチが言った食材を冷蔵庫から順番に取り出してスコッチにパスしていく。
「材料は以上でーす。まずはこれ大きめの乱切りにしていくんだけど……包丁持ったことある?」
おずおずと包丁を差し出すスコッチ。
「私のこと何だと思ってるんですか。凄腕情報屋、魅惑のアドラーですよ」
「ははは、だよね。ごめんごめん」
「料理用の包丁なんて持ったことある訳ないでしょ」
「そっち!?」
スコッチがケラケラ笑い、バーボンは私の寒い言い回しに呆れたようなため息をついた。
「アハハ、OK、やろう。まず右手で包丁を持って、こっちは指を切らないように猫の手」
「猫の手、可愛い表現ですね」
まな板に向かうと、優しく手を取りながら教えてくれるスコッチ。
「乱切りはこんな風に、回転させながら斜めに面を大きく取って切っていく切り方のこと。味がしみやすくなるから、煮物とかに使う切り方だね」
「ほうほう。なるほど」
教えられた通り、人参をトン、トン、と調子良く切っていく。
「本当に経験無いんですか?」
「トーストは作れますよ。あと目玉焼きも。いざとなれば野うさぎとかさばいたりもできますし」
今度こそ本当に呆れた顔をするバーボン。
「だってこれまで生きてきて、料理が必要になる機会なんてありませんでしたから。包丁よりAR-15のほうが生きるのに役に立つじゃないですか」
「……何というか、君が可哀想になってきた」
そう言ってスコッチが眉尻を下げてこちらを見た。
「可哀想なアドラーちゃんは乱切りが終わりましたが、次はどうすればいいですか?先生」
そんな風におちゃらけながら作業は進んだ。
「後は落とし蓋して、15分ちょっと煮込んで、最後に煮詰めたらおしまい」
「おぉー」
甘い煙がことこと湧く鍋を見ながら、棒読みでパチパチと数回手を叩く。
「家庭料理はなかなか外で食べられないので、なんかワクワクしちゃいます」
「意外と簡単だっただろ?一回覚えちゃえばすぐ作れるし。確かバーボンに初めて教えたのも肉じゃがだったよな」
「そうでしたかね?」
バーボンがとぼける。
警察学校時代に色々仕込まれたのだろうか?
制服姿の2人が並んで料理しているところを想像して少し微笑ましくなった。
「つゆ、味見してみる?」
「したいです!」
思ったより前のめりな返事になってしまい、クスクスとスコッチが笑った。
お玉を使って鍋の端から少し汁を掬い、小さな皿にとって渡してくれる。
「いただきまーす」
熱い小皿を受け取り、ふうふうと息を吹きかけてよく冷ます。
お皿から指に伝わる熱といい、湯気といい、いかにもアツアツだ
「そんなに冷まします?」
バーボンが苦笑するようにそう言った。
「やけどしたら嫌じゃないですか」
そろそろいけるかな?
ちょっと口をつけて啜ってみる
「っっ……!!あっっっち!!」
唇と舌先がじんじんする
「アドラー、もしかして―――猫舌?」
スコッチが驚いたような面白がるような、よくわからない表情をした。バーボンに関しては、小馬鹿にしたムカつく顔でこちらを見ている。
「……私の弱点を知られてしまった以上、生かしておくわけにはいきませんね」
小皿を置いてふざけて手刀を構えると、2人が同時に笑い出した。
「いいじゃん猫舌、可愛い可愛い」
「天下の情報屋の弱点が猫舌とは、恐れ入りました」
「はぁ〜、アドラーも本当にハタチの女の子なんだな」
「完全に馬鹿にしてますね」
笑いすぎる2人に膨れ面をした。
「ごめんごめん、笑いすぎた」
「馬鹿になんてしてませんよ、師匠」
バーボンはまだ馬鹿にしてる感じがするな
まだ笑いの余韻の中にいる2人を横目に、少し冷めたであろう小皿をとってまた少し息を吹きかけて、恐る恐る一口啜る。
「あ、おいし」
甘辛いつゆが、ヒリヒリ痛む口内に染み渡った。
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