第2章
夢小説設定
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その夜は珍しく全員が家にそろっていた。
近頃寒くなってきたという世間話から発展し、誰が提案したか、初めて湯船に湯を張ることに。
女の特権にあやかり一番風呂をもらった。
日本の良いところのひとつは、大体の風呂場に湯船が備え付けられているところだなぁ
カリフォルニアやらフロリダの安ホテルを転々としてた時、一部屋も設置されてる所見たことないし、シャワーを使う時間すら制限されてたりしたっけ
好きな時にたっぷりの湯に浸かれる贅沢を、今後はもっと頻繁に味わっていかねば……
そんな小さな決意を感じるくらいには安らぎを得た。ビバ、風呂。
そして、お風呂あがりには、やっぱりお酒。
冷蔵庫に放置されている缶ビールと散々迷い、結局その辺のバーボンウイスキーを勝手に拝借した。
一杯目はちょっと濃いめなハイボールをセレクト。氷を積んだグラスにウイスキーとソーダを入れ、軽く撹拌して、一気に半分くらいを飲み干した。
「かぁ〜!最高〜!」
「うわ、アドラー、めちゃくちゃ美味そうに飲むな〜。オレも風呂上がったらビール飲も」
カウンターの隣の席で頬杖をつきながら目を細めて笑っているスコッチ。
「最高の相性ですね、風呂とハイボール」
「それ、4、50くらいのおじさんが言うやつじゃん」
「4、50のおじさんは世界の真理に勘づいてるという事かぁ」
「どういうことだよ、それ」
そんな談笑をしながらあっという間にもう半分も飲んでしまった。
2杯目からはロックでちびりちびりとやりながら、読み損ねた今日の朝刊を捲る。
「出たぞ。次ライだろ」
バーボンが脱衣所から出てきて、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出す。
「後詰まってるからちゃっちゃと入れ」
バーボンが無機質にそう言うと、ちっ、と舌打ちの音がしてライが廊下に消えていった。
その後ろ姿をしっかり睨みつけた後、音を立てて水を飲んでいる。
「あなたはお風呂上りにビールじゃないんですね」
ミネラルウォーターなんてスーパーモデルのルーティーンみたい、と新聞をたたんで脇へ置き、頬杖をついて彼を眺める。
「ビールなんてそんなオヤジくさい。そうしませんよ」
そう言って肩をすくめた。
「でも風呂上がりのアルコールってめちゃくちゃ美味いよな〜」
「あなたの同僚は大分オジン臭くなっているみたいですよバーボン」
「まぁ、美味しいのはたしかですよ。でも、お風呂で血行がよくなったところにアルコールを摂取すると酔いも回りやすいですし、睡眠の質を下げますからあまり体にいい習慣とは言えないので」
バーボンの理屈っぽいセリフを聞き流しながら、グラスを傾けてちみりと酒を口に含む。
「2人も今年25歳ならもうアラサーですよね。もうそろそろおじさんの類じゃないですか?」
「僕たちの年齢を知っている事についてはもうとやかく追求しませんけど、晩酌にウィスキーロックのあなたにはオジサンなんて言われたくありませんね」
しっかりしっぺ返しを食った。
「そういえばアドラーって今いくつなの?あ、そういうの秘密か」
マズった、という顔をするスコッチ。
「別に完璧な秘密主義って訳じゃないので隠してないですよ。必要ないし聞かれないだけで。いまは、うーん、21歳くらいです」
「ええっ、21?!」
椅子から転げ落ちそうなくらい驚くスコッチと、少し疑うような表情のバーボン。
「え、そんな驚くほど老けて見えます?」
「いや、そういうことじゃないよ……いままで歳なんか気にして君を見たことなかったけど、いざ聞いてみたら刺激が強くてさ」
「まぁ、本当にその歳かは疑わしいですけど。本当だとしたらとんでもない人生を送ってきたんでしょうね」
「言っても信じないと思いますけど、ドーピングなし、詐称なしですよ」
あの薬飲むほど若さに執着してないし、そんなに生きたいとも思わないし。
「そんなに若いのにホントすごいな。人間離れしてる」
情報屋ってだけで並外れてるのに、と、腕を組んで空中を見ている。
「そう言いますけど、ライはともかく私たちは結局のところ3、4歳の差ですよ。そんな変わらないじゃないですか」
「まあ年齢的にはね……いやでも一般的にはまだ大学生の君と社会人何年目の僕らが同じ屋根の下生活してるって世間的なインパクトがやばいな」
「何をいまさら。」
斜め上から低い声が降ってきた。
目線を上げると、上裸のライが雑にまとめた長い髪から水を滴らせている。
「こいつが何歳だろうと関係あるか。所詮は腕と顔だろ」
鼻で笑いながらそう言うと、後ろから被さるように私の手からウィスキーグラスを取り、私の頭の横で一気に煽る。
「はいはい、どうも」
褒めてるんだか何なんだか。
ライの手から奪い戻したグラスにまたバーボンを並々注いだ。
「おいライ、その無駄に長い髪をちゃんと乾かしてから出てこい。床が濡れるだろうが」
冷たく言い放つバーボン。
めんどくさい火種を感知したのか、スコッチが無言でバスタオルをライに投げてから風呂場に消えていった。
受け取ったタオルを広げて髪を拭いたひとは、酒のグラスを用意している。
別に何歳に見られようと構わないけど、このひねくれ男と風呂上がりの飲み物が同じなのはなんか嫌だな……と思ってしまった
ライの言う通り、この世界を生きる為に必要なのは見た目と能力。自分の好みや、まして自分らしさなんてものは二の次どころか無い方がいいとされている。
同じ年頃の女の子は一体どうやって生きてるのだろう
そんなことをふと思ってしまった。