第2章
夢小説設定
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同居生活開始から1ヶ月近く経つ頃になると、それぞれの生活リズムが大体分かってくるようになった。
毎朝5時きっかりから隣の部屋で動く音が聞こえてきて、30分くらいするとドアの開く音と階段を降りる足音がする。
そのうち、また30分後に別の部屋のドアが開いて、人が下へ降りていく音がする。
あの公安警察2人は朝から飽きもせずよくやるなぁ……なんて思いながら、7時位には私も大きなカーテンを開け、最近買った窓際のデスクに座りPCを起動。
1時間弱くらい情報収集やら仕事をして、ようやく下へ。
洗濯機に服を放り込んでスタートさせてから、洗面台に行く。
髪を梳いて軽くまとめ、顔を洗って軽く化粧をする。
準備が終わる頃、トレーニング終わりのバーボンとスコッチがいつもより少し早めに洗面所に入ってきた。
「おはようございます」
「おはよ、アドラー」
「おはようございます、バーボン、スコッチ。今朝はどっちが勝ったんですか?」
「今日もバーボンだよ。ここ数日はずっと汗臭いまま待たされてるなオレ」
この人たちはトレーニング後のシャワーの順番をかけて毎朝勝負しているらしい。
「今日で5連勝、早くシャワーを使いたかったら勝つことだな」
「くそ、明日は見てろよ〜!」
バーボンがTシャツを脱ぎ上裸になるのを横目に、化粧品を洗面台脇の棚にしまって洗面所を出た。
そのまま一度玄関を出て、3束の分厚い朝刊をポストから取り、また戻る。
リビングの時計を見やると、もう9時になろうとしていた。
朝刊をカウンターの上に放っておき、キッチンでケトルに半分ほど水を入れて火にかける。
沸くのを待つ間に収納からオートミールを取り出、水と一緒に皿に入れてレンジで温めた。
適当なマグにティーバッグを入れ、沸いた湯を注いでいると、上の階から扉が開閉する音がした。程なくしてズボンだけを履き上半身裸のライが階段を降りて来る。
「おはようございます。こんな季節にソレで寒くないんですか?」
「気になるなら一晩お前も試してみろ」
「いやです」
フと軽く笑い、彼も洗面所に消えていった。
レンジから熱々のオートミールを取り出し、紅茶に牛乳を入れた。
牛乳の紙パックを冷蔵庫にしまうと同時に、洗濯が終わった電子メロディ話が聞こえてくる。
ライの後を追う形で私もランドリールームに向かった。
途中、開けっぱなしの洗面所を覗くと、いつものように大の男3人が対して広くもない部屋で渋滞していた。
これからシャワーに入ろうとしているのだろうスコッチが服を脱いでいる隣で、バーボンがボクサーパンツ姿で髪を乾かしている。
洗面所の前では歯ブラシを手に持っているライがチューブを取ろうとしていた。
「まったく、こんな時間に起きてきて、たるんでるんじゃないか?」
バーボンがドライヤーを止めてライに食ってかかる。
1週間前、とうとうライに対する敬語をやめたバーボン。
この2人、こんなに反りが合わないのによく共同生活できるなぁと、この数日で500回は思ったと思う。
「俺が何時に起きようとお前には関係ないだろう」
「この忙しい時間に洗面台を占領するじゃないか。邪魔なのでさっさと退いてくれ。いつもこの時間に僕たちがここ使うのは、お前もいい加減知ってるだろ、もっと早く起」
「朝からキャンキャンうるさいな。スコッチ、そのパピーを少し黙らせろ」
説教の途中でそう言って歯ブラシを咥えるライ。
彼の一言でバーボンはさらにヒートアップ
言い合う二人越しにふとスコッチと目が合い、お互いに目線で「困ったものだ」と会話した。
洗濯物を乾燥機に移し、一部の下着などを吊り干ししてリビングに戻った。
カウンターで少し冷めたオートミールを口に運びながら、経済紙を読む。
「昨日の経済界はなにか動きがありましたか?」
声の主はいつの間にか髪を乾かし終えたバーボンだった。
濃色のズボンを穿きシャツの前をとめながら歩いて来る。
「いえ、特には。そう毎日問題があったら私は分身でもしないとやっていけませんよ」
私の答えに軽く笑いながら、庫内から昨晩の残りであろう煮物らしきものを出して電子レンジに入れた。
「昨日は何だったんですか?」
「肉じゃがです」
「肉じゃがかぁ。ひと口ください」
「ええ」
一緒に暮らし始めてからこの人に対する偏見も少し消えた。
本人曰く料理は初心者らしいが、スコッチに教わったと思われるレシピはパパッと作ってしまうのだ。しかもこれが、美味い。
家で食べる夕ご飯の割合としては、買ってきた夕飯で済ませるのが4割、スコッチが4割、バーボンが2割くらい。
スコッチとバーボンのどちらかが夜に仕事が入っていない時は、実は少し期待していたりする。
水場の支度を終えたらしきライが二階に戻っていき、続いてスコッチがタオルで頭を拭きながらやってきた。
「いつも食ってるけど、その沼みたいなやつは何?」
「オートミールですよ。食べたことないですか?」
「ない。それ味するの?」
「塩ふってるので塩味がします。食べますか?」
「いや、いいよ」
眉を寄せ、見るからに嫌そうな顔をした。
「どうぞ。熱いので気をつけて」
「どうも」
小鉢に盛られた煮物と箸が目の前に置かれた。
「今日は午後から長距離狙撃訓練でしたよね?」
箸で芋を軽く崩しながら問う。
「はい。14時から新宿で」
「よし、じゃ、それまでに仕事終わらせなきゃ」
わ、おいしい肉じゃがだ……
これはスコッチの作った味がする
いつものニット帽を被ったライが降りてきて、キッチンでバーボンと並んでインスタントコーヒーの瓶を手に取った。
「アドラー、さっき奴から連絡があった。明後日の取引を今日の夜にしたいとな。一応、返事は保留にしてあるが」
「ああ、はい。いいですよ、暇だし。いつもの店で」
14時に新宿で訓練、20時には六本木か。着替えに戻ってくる時間あるかな……
頭の中で軽く計算して、大きめの芋を口の中に入れた。
ライの濃いコーヒーの匂いがキッチン中を包み込む。
誰かが家にいる生活。飽きないし、引っ越しはなかなかナイスな選択だったのかもしれないな。
なんだか今日も忙しくなりそうだ。