第2章
夢小説設定
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ドン
チャリ
鉄扉の向こうから聞こえてくるライフルの低い銃声と、薬莢が落ちる軽い音。
ドアを開けると、M4を抱えた3人が同じタイミングで振り返った。
「お久しぶりです。あ、どうぞ練習を続けてください」
3人の後方にある朽ちかけた机に腰掛け、久々の3人の背中を見る。最初に口を開いたのは、あまり久々ではない男だった。
「組織に介入しないんじゃなかったんですか?」
的から目を離さずこちらに質問するバーボン。
「介入はしません。今回のこれは、仕事としてお偉いさんからのオファーを受けたまでです」
「仕事として、か。じゃあ、夜伽の技も俺たちに仕込むのか?“仕事として”」
薄笑うライがこちらを振り向いた。
「えぇ、お望みなら」
「フ、そいつは楽しみだな」
そう言うと的に向き直り、放った一発は的紙のど真ん中を仕留めた。
全く、この人はいつもこうだ。体格はしっかりしてるくせに、発言が男子中高生のソレとなんら変わらない。
「組織は貴方たちに技術を教えることを期待してますが、正直なところ、特に目立ったものは持ち合わせてないので、何を教えたらいいのかさっぱり」
「そもそも貴女のようなか細い腕で銃なんて握れるんですか?」
ドン、カラン
バン、チャリ
言葉と共にバーボンが一発放ち、こちらもど真ん中を射抜いた。
続いて終始無言のスコッチも撃つ。結果は言わずもがな。
「女を道具にしてるとはいえ、女だからなめられるのは気分が悪いですね」
奥の壁に掛かっているアサルトライフルを取り一度射撃台の上に静置する。
一呼吸置いて一気に弾をこめ、装填して発砲。3回繰り返した。
「おわ……」
薬莢が落ちる音が響き終わらぬうちに、スコッチが感嘆を漏らすのが聞こえた。
「M4は小銃より反動が小さい。指南書通りの肩や頬をしっかりつけ握り込む狙撃姿勢でなくても、体幹がブレなければ片手で撃っても問題ないくらいです。脇を軽く開けて少し柔らかく持った方が扱い易いと思います。よ、バーボン?」
なめた発言の仕返しに、しっかりと先ほどのフォームを指摘すると、バーボンは少し悔しそうな表情をしてまた的に向かった。
しかしさすが、吸収が早い。銃身もさっきより下がっているし、無駄な力がこもっていない良いフォームになっている
ドン、カランカラン
弾はブレずにしっかり的な中心を捉えた。
教えるというのがこういう事を言うのなら、私は案外得意なのかもしれない。
たった1時間ちょっとの狙撃訓練で驚くほど実戦向きの完成されたフォームになった。
負けず嫌いの金髪はメキメキ上達したし、スコッチも1言えば10理解して100行動に移せる容量の良さ、ライは元々銃の化身なんじゃないかと言うほどのセンスの良さを持っている。
「なんで組織が俺らのお守り役に君をつけたのか、今日やっとわかったよ」
スコッチが銃をクロスで拭きながら言った。
「腕は確かなようですね。確かに、貴女から教わることも多そうな気がしてきました」
さっきまでのまけん気丸出しの彼と似つかない、急に吐く従順なセリフに思わず吹き出しそうになる。
「バーボン、それ本気なんですか?」
「ええ。天下一と謳われる情報屋から技術を教わる機会なんてそうそう無いでしょうから、学べる事は学んでおこうと思ったんですよ」
嘘くさいがあながち嘘でもなさそうな感じだ。
手入れした銃を組み立てる3人の姿を、腕を組み眺める。
「俺らはあんたから狙撃の他に何を教わるんだ?」
「さっきも言いましたけど、さっぱりわからないんですよ。何すればいいんだろう……ロシア語は喋れますか?」
「ロシア語?簡単な会話は分かるけど」
「僕もちょっとした会話ぐらいなら」
「……」
「そうですか、今回の調査対象ではロシア語できなきゃ困るので各々やってもらうとして。もうあとは実戦かなぁ。3人一気には無理なので今度ひとりひとり組みましょうか」
専売特許の情報屋の全てを教えるわけにもいかないし、要はこの人らが使い物になればいいという事なんだろうしな。
「随分頼れる教官だな」
銃の準備を終えたらしいライがやっと口を開いたかと思えば、皮肉。
「帰る」
「あ、待てライ、鍵」
スコッチがポケットから鍵を取り出して投げた
銃を棚に戻そうとしていたライは、振り向きざまにキャッチしてポケットに手ごと突っ込む
「鍵?」
「組織が用意した家の鍵ですよ。ピッキングが効かないので3つ合鍵を作ってもらっているところで」
いつのまにか隣に来ていたバーボンが説明してくれた。
それってつまりFBIと警察庁と警視庁みんなで仲良く同居してるって事?
なにそれ、めちゃくちゃ面白い字面だな
「へえ、野郎三人で同じセーフハウスに住んでるんですね」
「まあ広い作りだからいいものの、正直このメンツで暮らすのはもう大変、組織からの命令じゃなければ3日もたず解散だったな」
とくにこいつらがね、とスコッチが顎で2人の方を指しながら笑った。
「なんか楽しそうですね。私もここ2週間くらいホテル住まいで飽きてきたし、そこに住もうかな」
面白そう。同じ屋根の下に性格が全然違う大の男が3人もいて、しかも全員NOC。
きっと暇つぶしになっていい
銃を場所に戻したライが私の向こうにある扉に向かって歩き始めた。と思ったら、
「男だらけの家に住みたいなんて、最近ジンとご無沙汰で欲求不満か、アドラー。いやただのビッチか?」
そう言って、私の下腹部から腰を右手で軽く撫でながら通り過ぎていった。
「おいライ!」
意外にもちゃんと注意するスコッチ。
私を敵に回さない配慮だろうか
「昔からあんな感じで別に気にしてないから大丈夫ですよ」
そう言ってライを一瞥する。頭の中がそれでいっぱいなんだろうな
「ライには可愛い彼女がいるじゃないですか。彼女の同居にそんなに過剰に反応して、欲求不満なのはあなたの方では?」
あぁ、こっちもこっちで、ライを貶めることで頭がいっぱいの男がいた。
「ガールフレンドとセックスフレンドは別物だろ」
おどけて少し肩をすくめたライが重い鉄扉を開けた。
「明美とかいう女の子に言いますよそれ」
「あの女は信じないさ、諸星大に陶酔してるからな」
赤井が部屋を出るとバンと大きな音を立てて扉が閉まった。
明美さん、つくづく可哀想な子だな。
「さて、欲求不満女は上の連中に早速同居の事掛け合ってきますね」
「え、本気なのか?!」
「ええ」
眉間に皺が寄っているスコッチとバーボンを置いて私も部屋を出た。
これは組織に介入では無いよね、そう自分に言い聞かせながら階段を登った。