第1章
夢小説設定
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食べ終わったお皿をシンクに片し、食後に軽めのコーヒーをいれ直して2人で飲みながら、新一くんの反撃質問大会が進んでいた。
「年齢は?」
「20代前半?」
「身長は」
「157㎝、体重は秘密」
「出身大学」
「海外の大学だから知らないと思うよ」
「出身地」
「日本、かな?」
「以前の職場」
「OLかもね」
「本名は」
「日本(名前)、またの名を魅惑の…」
ギロリと睨みつけられる。
「そっちから言ってきたのに、ひとつも真面目に答えねぇじゃねぇか!」
「そう?」
今すごい大ヒントを言おうとしていたのに、という言葉をコーヒーと共に飲み下した。
「…クソ、全然わからねぇ」
新一くんはそう呟いたかと思うと、突然ガサゴソと自らの鞄の中を探り出した。
「元々あんたに見せる気は無かったし、それも時期尚早かもしれねぇが、これは俺が今まであんたを探ってきた情報をまとめたやつだ」
机上に出されたのは、厚さ1㎝以上あるだろう紙の束。
表紙には、大きな題字で『日本(名前)の調査』とある。
「見ていいの?」
横を向いて座る彼にそう問いかけるが、何も返事は返ってこない。
無言を了解と判断してレポートを持ち上げてめくった。
そこには、私の矛盾点や懐疑的な点が証拠や推理と共に細かく綴られていた。
指紋、掌紋、声紋が無いこと、スキルを隠していること、急遽休みになった日に決まって出かけていること、その他何ページにもわたって書かれている。
「すごいなぁ」
思わず呟いてしまった。
私について文章でこんなに突き詰めてきたのは彼が初めてだ。
ただ少し頭の良い子供だと思ってたけど、彼はもう一人前の探偵だ
「今日こうやって家にまで来て、一緒に飯食って、何か情報を掴めるかと思ったけど、むしろ尚更分からなくなった」
コーヒーカップをソーサーに置き、こちらに向き直って真剣な顔で新一くんは言った。
「なぁ日本さん…アンタ一体何者なんだ?」
しばらくの沈黙。
「今は教えられない」
いろいろ言葉を迷った挙句、この言葉を選んだ。
きっと今後彼は自分で、私が何者かを突き止めるはず。
それに、いま水面下で蠢き始めている黒い渦に、まだ幼く可愛い彼を巻き込むわけにはいかない。それこそ“時期尚早”だ。
少し釘を刺しておく必要があるだろうか
「これ以上の詮索は身を滅ぼすことになるわ」
張り詰めた空気の中、仕事用の殺気を出して冷たく言い放つ。
それを見て、にやりと片方の口角をあげた。
「例えそうなったとしても、俺はあんたの正体をあばいてやるさ」
脅しのつもりが、煽ってしまったようだ
正義感か好奇心かは判らないが、やっぱり彼は新鮮で可愛くて面白い男の子だった
「それは…何の為?」
「もちろん、1番は、俺自身のためだよ。でも…」
「でも?」
まるで私の心を見透かすような澄んだ瞳。
「…いや、何でもねぇ。」
言葉を濁し、新一くんはコーヒーカップに口をつけた。
「お節介なひと。その歳でこんな調子じゃ、これからの人生大変そうね」
すっかり殺気を消して砕けた調子でそう言うと、
「あんたにだけは言われたかねーよ」
あちらからも冗談めかした言葉が返ってきた。
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_ 「そういえば新一くん学校は?」
あの緊張した話し合いの後、朝飯の礼にと洗い物をしてくれている新一くんの背中にそう問いかけた
「今日は日曜だからねぇよ。部活も今日は休みだし」
「あ、そっか、きょう日曜か」
私は、昨日から着ていたタイトなワンピースが、朝食をやたら食べてしまったせいで苦しくなり、新一くんの後ろで躍起になっていた。
……駄目だ。これ1人で着られるけど、1人では脱げないやつだ。
「洗い物してる途中申し訳ないんだけど、新一くん、これ背中のファスナー降ろしてくれる?」
新一くんの隣へ行き、背中を向けてそう言うと、
「っ!ば、バーロー!ふ、服くらい一人で脱げよ!」
中学生男児らしく、激しく動揺していた
それでもお願いすると、
「ったく、一人で脱げない服買うなよ」と言うぼやきと共に水が止まった。
しばらくして温かい手が左肩に乗せられると、ジジジと背中から緩まる感覚がした
「はいよ」
「ありがとう!ストーカーも家に入れるもんだね~!」
振り返ってお礼を言うと、また茹で蛸のように真っ赤になっていた
「ばっ、!はやく着替えてこいよ!!」
「はいはい」
ジンやバーボンはこんな反応絶対にしてくれない。
ついからかいたくなってしまう
オフィスカジュアルな服装に着替えたところで、2人で台所に並び、新一くんがお皿を拭いて、私が食器棚にそれをしまった。
「なぁ、父さんと母さんがロスに移るって話聞いてるか」
最後のお皿を渡されるのと同時に、突然問われた。
「え、ロサンゼルスに?一家で?」
「いや、俺は残る。」
「そうなの?全く聞いてないな。いつ?」
「ひと月かふた月後らしい。母さんの急き癖でビザはもう取っちまったらしいけど、中身はまだ何も決まってねーみたいだぜ」
「へぇ。なんで急にまた」
食器棚を閉じ、新一くんから受け取った布巾を洗濯機に放る。
「その話も聞きたいし、一緒に工藤邸まで行こう」
「おう」
再び2人で玄関を出る頃には、新一くんが家に入ってから2時間が過ぎる頃だった。
「新一くん一人で日本で暮らすこと、よくご両親が許可したね。また何でそんな決断を?」
気持ちの良い天気の中、2人工藤家への道をややゆっくりとしたペースで歩む。
「まぁ、この時期に高校を変えるのも面倒だし、海外は住むには不便なことも多いからな。 でも一番の理由は、探偵がやりたいからさ」
「そんな事言って、本当は蘭ちゃんと離れたく無いのが1番の理由なんじゃないの?」
「ばっ、そ、んなわけ!!お、俺はほんとに日本で探偵活動をだな…」
図星のようだ。
動揺しながら反論している。
青春ってこういうのを言うんだろうなぁ
少し早足になって前を歩く新一くんの背中を追いかけた。