いのちのはなし



…誰かの声が聞こえる






「あなた、どうして中古品なんて買ってきたのよ!」

『…あぁ、僕の新しい『御主人様』かな?』

大きな箱の前で何やら討論をしている男と女
箱の中の『物』は暗い中、耳を澄ませてその会話を聞いていました

「…なあお前、そうは言っても新品は高すぎて手が出ないよ、こいつは一昔前の旧式だけどちゃんと動くから問題ない」

「でも…この中古、髪の色は抜け落ちてるし顔に傷があるし、それに見てよこの左手!機械部分がむき出しじゃない!」

「いいじゃないかそれぐらい、お陰で安く譲ってもらえたんだ。家庭内の作業をするにはなんら支障はでないさ」

「そうかも知れないけど…」

「なあお前、こいつは色々な家を渡り歩いてるから大抵のことはいちいち作業内容をインプットさせないでも出来る。いいじゃないか…TVで見た新型はどんどん人間に近づいて薄気味悪いったらありゃしないよ、この左手を見ればアンドロイドっだって一目で分かるだろう?」

「う~ん……」

箱の前で女が黙る、男は女の様子をうかがっているようだった

『…早く僕を起こしてくれないかなぁ』

箱の中の『物』は目覚めを今か今かと心待ちにしていた、心なんて無いはずなのに

「…うん、まあいいわ、それよりも早く起動してみましょう」

「よし、待ってろ」

女が納得した声を男に掛ける、男が待ってましたと言わんばかりに箱を開け、中に入っていた『物』の首筋にあったスイッチを押した
すると、中に入っていた『物』がゆっくりと目を開けた
中に入っていた『物』は初めて男と女の顔を見た
女の顔は聞こえてきた声の想像と違って、とても優しそうな顔をしていた
男の顔は女のへの応対の想像通り気弱そうな顔をしていた、しかし中々芯のある目をしていた
目が合うと、男が箱の中の『物』に声を掛ける

「やあ、気分はどうだい?」

「気分…?とても良いです」

「そうかい、そいつは良かった」

『物』の返事を聞いて男はにこりと笑った、その顔は『優しい』と言う言葉がぴったりと当てはまるといった笑顔であった
それからすぐに真面目そうな顔になり、『物』に自己紹介を始めた

「さて、僕が今日から君の御主人……になるのかな?」

「はい、よろしくお願いします御主人様」

『物』が男を『御主人様』と呼んだのを見て側にいた女がクスッと吹き出した
真面目そうな顔はすぐに崩れ、慌てたように男が女を紹介した

「あ~、それからっ…彼女が僕の奥さん…」

「初めまして、よろしくお願いします奥様」

『物』が丁寧なお辞儀を女に向けた、『奥様』と呼ばれた女は恥ずかしそうに顔を赤らめた、それを見た男はクスッと吹き出した
女が男に鋭い目つきを向けた、男は慌てたように『物』に向かって話しかけた

「えぇっと…そうだ、君に名前はあるのかい?」

「はい、僕の名前は……」

『物』が名前を言おうとしたその時-



「パパ、ママ、誰か来ているの?」



部屋の扉が開き、小さな女の子が顔を覗かせた
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