足りない絵の具

リナリーが教団の廊下を歩いていると、向こうから神田が歩いてくるのが見えた。
挨拶をしようと思ったリナリーであったが、ついつい神田が持っている袋に目を奪われてしまった

「神田、何持ってるの?」

「…これか?」

面倒臭そうに、自分の持っている袋をリナリーに見せる神田
リナリーが中を覗くと、中にはスケッチブックや絵の具、筆といった絵画の道具一式が入っていた

「…どうしたの、これ?」

「…おっさんがくれたんだ」

そう言って面倒臭そうに絵画道具一式について説明を始める神田
それはいつも通り修練をしていた神田の元にティエドールが来た事から始まった……


『……フッ!』

いつも通り一心不乱に六幻を振るう神田と…修練場の片隅でその姿を見ているティエドール

『……ハッ!』

『ふむ…』

六幻を振るう神田を見てティエドールが何かに気付く

『あ~神田君、ちょっといいかな?』

『あ、何だよおっさん?修練の邪魔すんなよ…』

『修練…ね、神田君…今君は何で六幻を振っていたんだね?』

『…そんなもん己を鍛える為に決まってんだろ』

ティエドールの言葉にぶっきらぼうに言葉を返す神田であったが、神田の言葉を聞いたティエドールは少し難しい顔を見せる

『…ただ刀を振るだけでは強くなれないよ、その刀を振る相手を強くイメージしたまえ』

『…何?』

ティエドールの言葉に神田の眉がピクリと上がる

『私には今君が一人で刀を振っているだけにしか見えなかった、技の反復練習ならそれを使う場面をイメージし、今までその技を使った相手をイメージしなさい』

『…………』

ティエドール言葉に何か思う所があったのか、黙ってしまった神田、その姿にティエドールが面白そうに言葉を吐く

『まぁ…君はいつも己の感性をだけで闘っているからねぇ?イメージトレーニングなんて苦手かもしれん』

『な、何だと!?』

『そこで、だ…君の感性を更に豊かにするいい物をあげよう』

そう言って何やらごそごそと自分の荷物袋を漁るティエドール
そして取り出したのは…
……


「『君も絵を描いてみなさい、芸術は心を豊かにしてくれるからね』……だとよ」

つまらなそうに言葉を吐く神田とは逆に、神田の言葉を聞いたリナリーは興味津々と言ったような顔で神田に言葉を掛ける

「それで?何を描くの?」

普段芸術などに関心のない神田が一体何を描くのかとワクワクとした気持ちで聞いたリナリーであったが、神田から返ってきた言葉は素っ気ない言葉であった

「あ?何で俺が絵を描くんだよ?」

「…へ?」

「絵なんて俺には合ってねぇ、第一何を描きゃあいいんだよ?」

「それは…描きたいものを描けばいいだけじゃない」

「…俺に描きたい物なんてねぇよ」

面倒くさそうに絵の具を見ている神田、折角の元帥の気持ちも弟子には一切伝わらないようであった…
自分に興味のないことには一切関心を示さない神田を心配したリナリーはどうにかして神田に絵を描かせてみたくなった

「えと…それじゃあ自分が大切にしている物でも描いてみたら?」

「大切な物……?」

リナリーの言葉に神田が反応を見せる
その僅かな反応が消えないようにリナリーは更に声を掛ける

「そうよ、それなら描いてみてもいいんじゃない?」

「大切な物……」

リナリーの言葉を聞いた神田は顎に手を置いて少し、考える仕草を見せる
神田の仕草を見たリナリーは「興味が湧いたかしら?」と次の行動を待っていたが、次の予想だもしない神田の行動に驚いてしまう

ぐいっ

「え…?」

突然、、神田がリナリーの手を引いて歩き始めた
突然の行動にリナリーは慌てるが神田はそんな事を気にもとめない

「ちょ、ちょっと神田!どうしたの?」

「あ?お前が大切な物描けって言ったんだろ?協力しろよ?」

「へ!?」

「…だからお前を描く事にした、モデルぐらいしろよ」

「!」
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