K×M短編集
「…………」
先程から、何者かがずっと自分の後をついてくる。
意味もなく教団を歩き回り階段の上り下りを繰り返してみたが一向に気配が消えない。
ついてきている人物に心当たりを付けた神田は進路を中庭へと取った…
中庭までやって来た神田は中央に置かれているベンチに腰を降ろし、軽く辺りを見回した。
すると先程から自分をつけていた人物が物陰から自分の方をちらちらと伺っている姿が見えた。
自分に用があるのかと思って人がいない場所を選んだつもりだったのにいつまで経っても肝心の人物は自分の元へとやってくる様子はなかった。
「……おい!俺に用があるんじゃないのか!」
しびれを切らせた神田が人影に向かって大声を出す。すると先程から自分の方を伺っていた人物が怯えた様子で神田の元へとやってきたのだった。
「あ、あの…神田君」
「…なんだ?」
怯えた様子でミランダは、背中に隠していた包みを神田に差し出した。
包みを受け取った神田は不思議に思いながら中身を確認する。するといびつな形の黒っぽい塊が数個目に入った。
「あ、あの…私今まで誰かにチョコレートなんて作った事無くて、初めて作ったから味の保証なんて出来ないんだけど……」
怯えていたかと思えば、今は真っ赤になって神田に渡した物体の説明をしている。
ミランダの説明を聞いて初めて『これはチョコレートだったのか』という事に気付く。そして同時に今日が何の日であるかも思い出した。
先程の包みをもう一度開けてみれば、確かにほんのりとしたカカオの匂いが鼻をくすぐった。
神田はミランダの目の前で包みの中の黒い物体を一つ手に取るとそれを口の中に放り込んだ。
粉っぽい、香料が多すぎる、固さにムラがある、砂糖が足りない…一つ口に含んだだけでそんな感想が喉から湧き上がってくる。
「ど、どうかしら…?」
「正直に言ってやる、不味い」
神田の容赦ない一言にミランダは涙目になる。
『ごごごごごめんなさい』と、走ってその場から去ろうとしたミランダの背中に声が掛けられる。
「…おい!」
「! ななな、何かしら…?」
ビクリと身体を震わせて、神田の方を見れば神田はミランダの方を見てはいない。
しかし確かに今自分を呼び止めたのは神田で間違いはないのだ。
ビクビクと神田の言葉を待っていたミランダは小さな声だが、確かにこんな言葉を聞いたのだ
「…来年はもっと美味い物を食わせろ、いいな」
神田の言葉を聞いたミランダは恥ずかしそうに『わかりました』と呟いてからその場を去った。
一人残された神田は『今まで誰かにチョコレートなんて作った事の無い』女の『初めて作った』チョコレートを口に運ぶ。
苦い甘さと共に、神田の心にじんわりと幸せが満ちていくのであった。
『バレンタインの事』
end
先程から、何者かがずっと自分の後をついてくる。
意味もなく教団を歩き回り階段の上り下りを繰り返してみたが一向に気配が消えない。
ついてきている人物に心当たりを付けた神田は進路を中庭へと取った…
中庭までやって来た神田は中央に置かれているベンチに腰を降ろし、軽く辺りを見回した。
すると先程から自分をつけていた人物が物陰から自分の方をちらちらと伺っている姿が見えた。
自分に用があるのかと思って人がいない場所を選んだつもりだったのにいつまで経っても肝心の人物は自分の元へとやってくる様子はなかった。
「……おい!俺に用があるんじゃないのか!」
しびれを切らせた神田が人影に向かって大声を出す。すると先程から自分の方を伺っていた人物が怯えた様子で神田の元へとやってきたのだった。
「あ、あの…神田君」
「…なんだ?」
怯えた様子でミランダは、背中に隠していた包みを神田に差し出した。
包みを受け取った神田は不思議に思いながら中身を確認する。するといびつな形の黒っぽい塊が数個目に入った。
「あ、あの…私今まで誰かにチョコレートなんて作った事無くて、初めて作ったから味の保証なんて出来ないんだけど……」
怯えていたかと思えば、今は真っ赤になって神田に渡した物体の説明をしている。
ミランダの説明を聞いて初めて『これはチョコレートだったのか』という事に気付く。そして同時に今日が何の日であるかも思い出した。
先程の包みをもう一度開けてみれば、確かにほんのりとしたカカオの匂いが鼻をくすぐった。
神田はミランダの目の前で包みの中の黒い物体を一つ手に取るとそれを口の中に放り込んだ。
粉っぽい、香料が多すぎる、固さにムラがある、砂糖が足りない…一つ口に含んだだけでそんな感想が喉から湧き上がってくる。
「ど、どうかしら…?」
「正直に言ってやる、不味い」
神田の容赦ない一言にミランダは涙目になる。
『ごごごごごめんなさい』と、走ってその場から去ろうとしたミランダの背中に声が掛けられる。
「…おい!」
「! ななな、何かしら…?」
ビクリと身体を震わせて、神田の方を見れば神田はミランダの方を見てはいない。
しかし確かに今自分を呼び止めたのは神田で間違いはないのだ。
ビクビクと神田の言葉を待っていたミランダは小さな声だが、確かにこんな言葉を聞いたのだ
「…来年はもっと美味い物を食わせろ、いいな」
神田の言葉を聞いたミランダは恥ずかしそうに『わかりました』と呟いてからその場を去った。
一人残された神田は『今まで誰かにチョコレートなんて作った事の無い』女の『初めて作った』チョコレートを口に運ぶ。
苦い甘さと共に、神田の心にじんわりと幸せが満ちていくのであった。
『バレンタインの事』
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