K×M短編集



「まだまだ寒いわね…」

そう言って、吐く息は白くゆっくりと空に溶けて行く
冬も終わりに近づいているが、まだまだ寒い日が続く
任務先の市街地を歩くミランダと…

「…そうか?俺はこれぐらいなら平気だ」

ミランダの背後からそんな言葉が聞こえてくる
声が聞こえた方に振り返ると、コートのポケットに手を入れながら白い息を吐き、鼻の先を真っ赤にした神田が立っていた
その姿を見たミランダの口からクスリと笑みが溢れる、何故この少年はいつも強気でいるのか、変なところで負けず嫌いなのだろうか
神田の強がりもここまで来るとミランダには可愛く映ってしまう
そんな神田にミランダは悪戯をしかける

「ふふふっ…だったらポケットから手を出したら?」

「…あ、お前!」

ポケットに入れていた神田の手を無理矢理引きずり出したミランダ…、ポケットに入れられていた神田の手を握ると…

「…神田君、手が凄く冷たいわよ」

「…だから何だよ?」

自分が掴んだ手の冷たさに驚くミランダであったが、神田は一体何に対抗しているのか…決して寒さを認めようとはしなかった
ミランダはそんな神田の手をぎゅっと握りながらふと何かを思い出したように呟いた

「そう言えばラビ君が言ってたんだけど…手が冷たい人って心が温かい人らしいわ」

「…何だそれ」

ミランダの言葉を聞いた神田は訳が分からないといった顔をしている
そんな神田にミランダは微笑んだ



「それって神田君によく当てはまってると思うの」

「っ!な、何言ってんだ!」

ミランダの言葉を聞いた神田の顔に少し赤みが増す

「どうして?よく当てはまってると思うわ?」

「っ!」

微笑みを絶やさないミランダを見て言葉を無くしてしまう神田であったが、自分の手を握っているミランダの手に何かを気付く

「…お前の手は温かいな」

「? そうかしら」

「ふん、だったらお前は心が冷たいのかもな」

「なっ…!」

そう言ってミランダの手を振りほどき、さっさと歩いて行ってしまおうとした神田であったが、数歩歩いたところでミランダが付いてきていないことに気付く
不思議に思って後ろを振り返った神田が見たモノは…

「おい、行くぞ……?」

「………」

振り返った神田が見たモノは…自分の手をじっと見つめて暗い顔をしているミランダであった
自分の言った一言にまさかそこまでショックを受けるとは思っても見なかった神田は慌ててミランダの前まで歩いて行く

「おい!さっきのは冗談だ!」

「ええ、解ってるわ…」

解ってる、そう言ったミランダの顔は少し寂しそうであった
その顔を見た神田は、ミランダの手を掴み歩き出した

「か、神田君?」

自分の手を握りながらぐいぐいと自分を引っ張る神田にミランダは戸惑ってしまうが、振り返らずに神田がミランダに声を掛ける

「っ…これで」

「へ…?」

「お前に俺の手の冷たさを分けてやる、有り難く思え!」

「っ…神田君……」

神田の言葉はミランダの心に響いた、ミランダは自分の手を握っている人物の手の温度を感じ
やはりラビの言っていたことは当たっていると心に思ったのだった…

END
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