K×L短編集



「はい、兄さん」

「リナリー、ありがとう」

今日も今日とて
リナリーは兄を含む科学班にご自慢のコーヒーを振る舞っている
そしてそれを傍らで見ている男が一人…


「珈琲…ね…」

科学室に広まる香ばしい香りを嗅いだ神田がポツリと呟く
椅子に座ってリナリーを見ていると、リナリーは鼻唄を歌いながらカップにコーヒーを注ぎ、廃人一歩手前の科学班員にそれを手渡している
リナリーに一言お礼を言いコーヒーを受け取った班員はコーヒーを一口飲むと先程までの廃人の顔から、病人ぐらいまで表情が回復した(それは回復というのだろうか?)
その光景をただボンヤリと眺めていた神田の元にコーヒーを配り終えたリナリーがやってくる


「神田、待った?」

「…いや」

「それじゃあ行きましょうか?」

「……なあ」

「?、何?」

「…俺にもコーヒーを一杯くれ」

「…え?」

突然の神田の一言にリナリーは耳を疑った、普段は温かい飲み物といえば緑茶しか飲まない男の口から『コーヒー』という単語が出てきたからだ

「と、突然どうしたの?」

「見ていたら飲んでみたくなった…駄目か?」

この神田のお願いに…

「すぐ煎れるから!」

と言ってリナリーは踵を返してコーヒーを煎れに行った
科学室内にある簡易な給湯場でテキパキとコーヒーを作っているリナリーの姿を眺めている神田、そして数分後…

「はいっ!」

と、神田の前に笑顔でコーヒーのカップを差し出すリナリー、気のせいか差し出されたカップは科学班に配っていたものより高級感がある気がした

「ん…」

神田にカップを手渡すとリナリーはじっと神田を見つめている
その瞳の色は少し緊張の色を含んでいた
きっと、神田からの感想を待っているのだろう

「………」

そして無言でコーヒーを一口飲む神田…



「…っちぃ!!」

「あ!大丈夫神田!?」

さすが煎れたてのコーヒー…
口の中に含んだ瞬間にその高熱に神田は驚くが、コーヒーの感想を待っているリナリーの為に気を取り直して二口目を口に含んだ

「………」

口に入れてコーヒーを味わった神田の顔が少々曇る、砂糖もミルクも無いブラックコーヒーの味は少々神田にはお気に召さなかった様だ…が

「ど、どうかな…?」

と、自分の煎れたコーヒーの味の感想を心配そうに見ているリナリーの顔が目の前にあって…


「…美味いぞ」

と、少々感想を歪曲させて口に出した

「本当!?」

神田の口から出た言葉を聞いた瞬間にリナリーの顔がぱぁっと明るくなった

「良かった…ねぇ神田?」

「…ん?」

自分が頼んだのだからせめてこのコーヒーは飲み干そうと、ゆっくりとコーヒーを啜っている神田にリナリーが満面の笑みを浮かべながらこう言った






「これからは毎日私がコーヒーを煎れてあげるね♪」

「なっ…!?」

突然のリナリーの提案に神田の口が止まる…

(ちっ、大変な事になったな…別に飲めない事はないが毎日飲むとなったら…な)

自分の言った言葉から出たリナリーの言葉に神田は少々困ってしまったが、目の前で最上級の笑顔で自分の煎れたコーヒーを飲む姿を見ているリナリーの顔を見て…


(まぁ…この顔が見れるとなったら安いもんか……)

と、そんな事を思いながらリナリーのコーヒーを啜ったのだ


END
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